分析対象物を検出するための試薬及び方法ならびに分析対象物を検出するための試薬を含む装置
【課題】環境干渉因子及び放射滅菌処理に対して改善された安定性を示す、フラビンタンパク質及びキノンタンパク質ベースのバイオセンサ試薬を提供する。
【解決手段】(a)フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素、及び(b)フェノチアジン、フェノキサジン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物を含む、分析対象物を検出するための試薬。
【解決手段】(a)フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素、及び(b)フェノチアジン、フェノキサジン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物を含む、分析対象物を検出するための試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析対象物の計測のための試薬、方法及び装置に関し、より具体的には、血液中のグルコースの計測のための試薬、方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体内のある種の分析対象物の濃度のモニタは、健康危機の早期検出を可能にし、治療手段の導入の必要性を特定する。もっとも一般的にモニタされる分析対象物の1種は、その血中濃度が糖尿病患者にとってインスリンの適切な投与量を決定する際に重要であるグルコースである。血液中のグルコース濃度をモニタするために、電気化学的バイオセンサの使用をはじめとする多様な方法が開発されている。電気化学的バイオセンサは、対象の分析対象物を伴う酵素触媒化学反応に基づく。グルコースモニタの場合、該当する化学反応は、グルコースのグルコノラクトンへの酸化である。この酸化は多様な酵素によって触媒され、そのような酵素には、結合した補酵素、たとえばニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(リン酸)(NAD(P))を含有するものもあれば、結合した補因子、たとえばフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)又はピロロキノリンキノン(PQQ)を含有するものもある。
【0003】
バイオセンサ用途では、グルコースの酸化の過程で生成された酸化還元等価物が電極の表面に運ばれ、それによって電気信号が発生する。そして、この電気信号の大きさをグルコースの濃度と相関させる。酵素中の化学反応の場から電極の表面への酸化還元等価物の移動は、電子移動媒介物の使用によって達成される。
【0004】
バイオセンサにおける電子移動媒介物の使用に伴う重要な問題は、温度や湿度のような一般的な環境条件に暴露されたときのこれらの化合物の不安定性である。結果として、グルコースバイオセンサにおける使用に適した媒介物の数は非常に限られる。
【0005】
電子移動媒介物として酵素ジヒドロニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、NADPH及びそれらの類似体との使用に適したフェノチアジン及びフェノキサジン化合物の族が報告されている(例えば、特許文献1参照)。補因子ベースの酵素、たとえばFAD−グルコースオキシダーゼ及びPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼは、NADベースの酵素に対し、より少ない費用、より高い酵素活性、安定性の増大及び解離しやすい補因子ではなく結合した補因子であることをはじめとするいくつかの利点を有する。
【0006】
FAD−グルコースオキシダーゼ及びPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼとで以前に使用されていた電子移動媒介物は、キノン、フェンジンメトスルフェート、ジクロロフェノールインドフェノール及びフェリシアン化物を含む。残念ながら、これらの化合物は、上記の環境作用因子に対して非常に感受性であり、安定性の低いバイオセンサ試薬をもたらすことがわかっている。したがって、一般的に遭遇される環境作用因子に曝露されたときでも良好な安定性を示し、フラビンタンパク質及びキノンタンパク質ベースの系で使用することができる媒介物が必要である。
【0007】
上記の環境作用因子に対して安定であるバイオセンサ試薬の必要性に加えて、ランセット滅菌処理で一般に使用される放射線条件に対して安定であるバイオセンサ試薬を提供することが望ましいであろう。そのような放射線滅菌処理に対して安定である試薬は、ランセットとバイオセンサとが組み合わされる非常に簡便なユニットに組み込むことができるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,520,786号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、環境干渉因子及び放射滅菌処理に対して改善された安定性を示す、フラビンタンパク質及びキノンタンパク質ベースのバイオセンサ試薬で使用するための電子移動媒介物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の範囲は、請求の範囲によってのみ定義され、課題を解決するための手段における記述によっていかなる程度にも限定されない。まずはじめに、本明細書に記載する好ましい実施態様は、電子移動媒介物及び酵素バイオセンサの前述の安定性問題を解消することに関する。
【0011】
簡潔に述べるならば、本発明の組成物態様は、(a)フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素;並びに(b)フェノチアジン、フェノキサジン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物とを含む、分析対象物を検出するための試薬に関する。
【0012】
本発明の第一の装置態様は、(a)表面を有する作用電極、及び(b)作用電極に結合された第二の電極を含む電気化学的センサに関する。作用電極の表面は、フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素、並びにフェノチアジン、フェノキサジン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物、を含む試薬の溶液又は混合物でコーティングされている。
【0013】
本発明の第二の装置態様は、(a)ランセット、及び(b)ランセットに接続されたサンプリング室とを含む、分析対象物を計測するための装置に関する。サンプリング室は、(a)PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ、FAD−グルコースオキシダーゼ及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素、並びに(b)フェノチアジン、フェノキサジン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物、を含む試薬を含む。
【0014】
本発明の第一の方法態様は、分析対象物を計測するための滅菌済み装置を製造する方法であって、(a)本発明の装置を用意する工程、及び(b)装置を電子ビーム又はγ放射線で照射する工程、を含む方法に関する。
【0015】
本発明の第二の方法態様は、化学反応を受ける分析対象物を検出する方法であって、(a)電極面を用意する工程、(b)フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素との化学反応を触媒する工程、(c)化学反応によって酸化還元等価物を生成する工程、並びに(d)フェノチアジン、フェノキサジン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物を使用して酸化還元等価物を電極表面に移動させる工程、を含む方法に関する。
【0016】
本明細書で論じる好ましい実施態様は、他のフラビンタンパク質及びキノンタンパク質ベースのバイオセンサ試薬に対し、バイオセンサ試薬安定性の改善、媒介物の電子移動能力の増強、最適な電極作用のために媒介物を調整する能力、媒介物の酸素感受性の低下、媒介物の熱安定性の増大、周囲湿度に対する媒介物の安定性の増大、媒介物の酸化還元電位の低下、血液中の干渉因子に対する感受性の低下及び放射線滅菌処理条件に対するバイオセンサ試薬の安定化をはじめとする一以上の利点を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の特徴を具現化する、分析対象物を計測するための装置の概略図である。
【図2】本発明にしたがって使用するための統合型ランセット/バイオセンサ装置の斜視図である。
【図3】増大するレベルの放射線に曝露された3種のバイオセンサ試薬処方に関するバックグラウンド電流のグラフである。
【図4】グルコースに曝露されたときの放射線滅菌バイオセンサ試薬の電流レスポンスのグラフである。
【図5】PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサに関する増大する時間間隔における電流対グルコース濃度のグラフである。
【図6】〔FAD〕−グルコースオキシダーゼ/フェノチアジンバイオセンサに関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【図7】熱応力及び湿度応力にさらされたPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサ試薬に関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【図8】異なるレベルの放射線に曝露されたある種のPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサ処方に関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【図9】異なるレベルの放射線に曝露されたもう一種のPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサ処方に関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【図10】異なるレベルの放射線に曝露された別の種のPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサ処方に関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【図11】異なるレベルの放射線に曝露されたさらに別の種のPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサ処方に関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【図12】異なるレベルの放射線に曝露されたさらに別の種のPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサ処方に関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書を通じて、以下の定義を理解しなければならない。「分析対象物」とは、対象の濃度を有する一又は複数の種をいう。「フラビンタンパク質」とは、フラビン補因子を含有する酵素をいう。「キノンタンパク質」とは、PQQ又は類似の補因子を含有する酵素をいう。「酸化還元等価物」とは、分析対象物を伴う電気化学的反応で生成される一又は複数の帯電種(たとえば電子)をいう。「電子ビーム照射」とは、高密度の電子流に曝露する処理をいう。「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」、「アリール」、「ヘテロアリール」、「環式」、「複素環式」、「ハロ」、「ハロアルキル」、「カルボキシ」、「カルボキシアルキル」、「アルコキシカルボニル」、「アリールオキシカルボニル」、「芳香族ケト」、「脂肪族ケト」、「アルコキシ」、「アリールオキシ」、「ニトロ」、「ジアルキルアミノ」、「アミノアルキル」、「スルホ」、「ジヒドロキシホウ素」などは、分岐鎖状であっても非分岐鎖状であってもよく、そのものが一以上の置換基で置換されていてもよい、当該技術で周知の置換基をいう。「バイオセンサ試薬」とは、分析対象物の反応を触媒する酵素、並びにフェノチアジン及び/又はフェノキサジン媒介物との組み合わせをいう。「生負荷(bioburden)」とは、照射の直前に測定された、製品上で生存しうる微生物の集団をいう。
【0019】
分析対象物を検出するための本発明のバイオセンサ試薬は、(1)フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素、並びに(2)フェノチアジン、フェノキサジン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物、を含む。
【0020】
本発明にしたがってモニタされる分析対象物の種類は、その分析対象物が、フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素によって触媒される化学反応を受ける限り、限定されない。好ましい分析対象物は、グルコース、乳酸塩、D−アミノ酸、アスコルビン酸塩、アルコール、コレステロール、コリン及びアセチルコリンを含むが、これらに限定されない。
【0021】
本発明のフラビンタンパク質は、FAD−グルコースオキシダーゼ(EC番号1.1.3.4)、フラビン−ヘキソースオキシダーゼ(EC番号1.1.3.5)及びFAD−グルコースデヒドロゲナーゼ(EC番号1.1.99.10)を含む。これらのフラビンタンパク質に関する情報については、Adriaan Joseph Jan Olsthoornの「Structural and Mechanistic Aspects of Soluble Quinoprotein Glucose Dehydrogenase from Acinetobacter calcoaceticus」(博士論文、オランダDelft University of Technology 1999)を参照されたい。本発明にしたがって使用するためのさらなるオキシダーゼ酵素は、乳酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ(たとえばメタノールオキシダーゼ)、D−アミノ酸オキシダーゼ、コリンオキシダーゼ及びそれらのFAD誘導体を含むが、これらに限定されない。本発明にしたがって使用するのに好ましいフラビンタンパク質は、FAD−グルコースオキシダーゼである。
【0022】
本発明のキノンタンパク質は、膜結合可溶性PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ(EC番号1.1.99.17)を含むが、これに限定されない。PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼに関する情報は、上記で引用したOlsthoornの参考文献に見ることができる。本発明にしたがって使用するためのさらなるキノンタンパク質酵素は、乳酸デヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、メチルアミンデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ(たとえばメタノールデヒドロゲナーゼ)及びそれらのPQQ誘導体を含むが、これらに限定されない。本発明にしたがって使用するのに好ましいキノンタンパク質は、PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼである。
【0023】
本発明の媒介物は、式
【0024】
【化1】
【0025】
を有するフェノチアジン及び式
【0026】
【化2】
【0027】
を有するフェノキサジンを含む。式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は、同一又は異なり、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、環式、複素環式、ハロ、ハロアルキル、カルボキシ、カルボキシアルキル、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、芳香族ケト、脂肪族ケト、アルコキシ、アリールオキシ、ニトロ、ジアルキルアミノ、アミノアルキル、スルホ、ジヒドロキシホウ素及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0028】
本発明の媒介物は、K3Fe(CN)6の単一電子移動運搬能力とは対照的に、二つの酸化還元等価物を運ぶ能力を有し、したがって、一般に2個の電子の移動を伴う、FAD及びキノンタンパク質酸化/還元法における使用に十分に適している。そのうえ、本発明の媒介物の電位は、芳香環上の置換基を変えることにより、特定のサンプルマトリックスに最適な電位(すなわち、干渉因子からの信号への影響が最小限になる電位)に調整することができる。電子供与性置換基(たとえばアルキル、アルコキシ、アミン、ヒドロキシなど)は、酸化還元電位を低下させる結果を招き、電子求引性置換基(たとえばカルボン酸、エステル、アルデヒド、ケトン、ニトリル、ニトロ、スルホン酸、トリフルオロメチルなど)は、酸化還元電位を上昇させる結果を招く。血液又は血漿のサンプルの場合、理想的な電位は通常、Ag/AgCl基準に対して約−200〜約100mVの範囲にある。
【0029】
芳香環上の置換基は、媒介物の酸化還元電位を調整するその用途に加えて、媒介物の溶解度を高めるために使用することもできる。たとえば、水素結合の能力を有する置換基の導入は、媒介物を、そのような置換基を欠く媒介物よりも水溶性にすると予想することができる。加えて、これらの置換基は、媒介物を支持体(たとえば電極表面又は電極表面に適用するのに適した化学的マトリックス、たとえばポリマー主鎖)に固定化するための官能基として働くことができる。
【0030】
好ましくは、本発明のバイオセンサ試薬で使用される媒介物は、3−(4′−クロロフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−ジエチルアミノフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−エチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−トリフルオロメチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−メトキシカルボニルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−ニトロフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−メトキシフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、7−アセチル−3−(4′−メトキシカルボニルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、7−トリフルオロメチル−3−(4′−メトキシカルボニルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−ω−カルボキシ−n−ブチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−アミノメチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−(2″−(5″−(p−アミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾイル)フェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−β−アミノエチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、6−(4′−エチルフェニル)アミノ−3−(4′−エチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、6−(4′−〔2−(2−エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシフェニル)アミノ−3−(4′−〔2−(2−エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシフェニルイミノ−3H−フェノチアジン、3−(4′−〔2−(2−エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシフェニルイミノ−3H−フェノチアジン、3−(4′−フェニルイミノ)−3H−フェノチアジンボロン酸、(3−(3′,5′−ジカルボキシフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−カルボキシフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(3′,5′−ジカルボキシフェニルイミノ)−3H−フェノキサジン、3−(3′,5′−フェニルイミノ)−3H−フェノチアジンジスルホン酸及び3−(3−フェニルイミノ)−3H−フェノチアジンスルホン酸を含む。
【0031】
より好ましくは、本発明にしたがって使用される媒介物は、
【0032】
【化3】
【0033】
及び
【0034】
【化4】
【0035】
からなる群から選択される。
【0036】
フェリシアン化物に比べて、フェノチアジン媒介物、特に媒介物Iは、酸素分解に対して感受性が低く、より熱安定性であり、周囲湿度に対してより安定性である。加えて、媒介物Iは、フェリシアン化物よりも低い酸化還元電位で作用する。たとえば、媒介物IのE0は、Ag/AgCl参照電極に対して約0mVであるが、フェリシアン化物のE0は、Ag/AgCl参照電極に対して約250mVである。フェノチアジン媒介物のより低い酸化還元電位は、電気化学的干渉の量が最小限になる、Ag/AgCl参照電極に対して0mV付近の領域がある点で有利である。したがって、これらの媒介物を使用することにより、血液中の化学的干渉因子からの影響を最小限にすることができる。
【0037】
本発明の特徴を具現化する試薬を、米国特許第5,120,420号及び第5,798,031号明細書に記載の装置をはじめとする多様なバイオセンサ装置に組み込むことができる。これら両明細書の内容全体を引用例として本明細書に含めるが、本出願と矛盾する開示又は定義がある場合、本明細書の開示又は定義が優先するものとする。
【0038】
図面を参照すると、図1は、本発明の典型的な電気化学的センサを示す。電気化学的センサ2は、電極パターン(6及び8)を上に印刷された(通常はスクリーン印刷技術によって)絶縁ベース4と、本発明の特徴を具現化する試薬を含有する試薬層10とで構成されている。二つの電極印刷部6、8が、電気化学的測定に必要な作用電極及び参照電極を提供する。以下さらに詳細に記載するように、ランセット要素12を電気化学的センサに組み込む(たとえば層1と層2との間に挿入する)ことができる。図1に示す3つの層は、材料の実体に依存して、接着剤(たとえば感圧性接着剤、ホットメルトなど)又は音波溶接によって接合することができる。
【0039】
PQQ−グルコースヒドロゲナーゼ及び特定のフェノチアジン媒介物を含むバイオセンサ試薬が放射線滅菌に対して高い安定性を示すことがわかった。本発明の放射線安定性バイオセンサ試薬の好ましい用途は、統合型ランセット/バイオセンサ装置の開発である。このような統合型装置の例が図2に示され、米国特許第5,801,057号明細書に記載されている。この明細書の内容全体を引用例として本明細書に含めるが、本出願と矛盾する開示又は定義がある場合、本明細書の開示又は定義が優先するものとする。
【0040】
図2に示すように、統合型ランセット/バイオセンサ装置14は、サンプリング室18に接続された、細く穿孔された針16を有する。サンプリング室18は、少なくとも一つの採光窓20と、サンプリング室18が血液又は他の流体で満ちるとき空気を排気することができる通気口22とを有する。好ましくは、サンプリング室18は、PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ並びにフェノチアジン及び/又はフェノキサジン媒介物を含むバイオセンサ試薬を含む。好ましくは、媒介物はフェノチアジンである。より好ましくは、媒介物は、上記媒介物I又は媒介物IIによって表される構造を有する。ひとたびサンプリング室18がバイオセンサ試薬で充填されると、装置14全体を放射線滅菌で処理することができる。好ましくは、滅菌法は電子ビーム照射又はγ線照射を含む。
【0041】
Association for the Advancement of Medical Instrumentation文書ANSI/AAMI/ISO11137−1994に記されているように、皮膚を穿刺し、血液と接触する製品は、滅菌後に製品上に微生物が生存する確率100万分の1に相当する10-6の無菌保証レベル(SAL)を有しなければならない。10-6SALを達成するために必要な滅菌線量は、サンプルの生負荷に依存する。たとえば、1,021の生負荷を有するサンプルは、10-6SALを達成するために24.9kGyの滅菌線量を要する。
【0042】
以下に記す例では、滅菌方法として電子ビーム照射を使用した。電子ビームに付されたバイオセンサ試薬は電子からエネルギーを吸収する。物質の単位質量あたり吸収されるエネルギーが吸収線量と呼ばれ、このエネルギーの吸収、すなわち線量の印加こそが、微生物の生殖細胞及びDNA鎖を破壊し、それにより、製品を無菌にするものである。バイオセンサ試薬の生負荷が未知であったため、25、50及び100kGyの電子ビーム線量を使用した。
【0043】
図3は、増大するレベルの放射線に曝露された3種のバイオセンサ試薬処方、すなわち(1)NAD−グルコースデヒドロゲナーゼと媒介物I、(2)PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼとフェリシアン化物、及び(3)PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼと媒介物Iに関して観察されたバックグラウンド電流のグラフを示す。PQQ処方は、照射に対してきわめて良好な耐性を示した。対照的に、NAD処方は、滅菌条件に対して不十分な耐性を示し、グルコース信号の有意量を構成するバックグラウンド信号を生じさせた。処方(2)は放射線処理に対して良好な耐性を示したが、抽出された酵素の活性は、処方(3)から抽出された酵素の対応する活性よりも低かった。図4は、これらの放射線滅菌済みセンサを600mg/dLグルコースに曝露した場合の電流レスポンスのグラフを示す。
【0044】
本発明の特徴を具現化する装置を製造する方法及び当該装置を分析対象物のモニタに使用する方法は、前記記載と以下の代表的手順とを合わせて考慮すると、当業者には十分に明らかになる。本明細書に例示する好ましい実施態様の多くの変形が当業者には自明であり、請求の範囲及びその等価の範囲に該当することが理解されよう。
【0045】
たとえば、本発明の電気化学的センサに使用される作用電極は種々異なることができ、その場合、適切な電極は、炭素電極、白金電極、パラジウム電極、金電極などを含むが、これらに限定されない。同様に、参照電極もまた種々異なることができ、その場合、適切な電極は、銀−塩化銀電極、カロメル電極、飽和カロメル電極などを含むが、これらに限定されない。あるいはまた、非水性電気化学的実験で一般に使用されるタイプの準参照電極(すなわち、その電位が参照される特定の酸化還元種を有しない電極)、たとえば大面積白金電極を本発明にしたがって使用することもできる。同様に、本発明にしたがって使用されるすべての電極の表面積は異なる。好ましくは、作用電極は、約0.6mm×1.2mmの面積を有する。
【0046】
さらには、使用される緩衝溶液の組成及びpH並びにバイオセンサ試薬の成分の酵素活性及び濃度は大きく異なる。適切な緩衝溶液は、HEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N′−2−エタンスルホン酸)、MOPS(3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸)、TES(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸)、2−(〔2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル〕アミノ)エタンスルホン酸、PIPES(ピペラジン−N,N′−ビス(2−エタンスルホン酸))、1,4−ピペラジンジエタンスルホン酸、ACES(N−(カルバモイルメチル)−2−アミノエタンスルホン酸)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸、BES(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸)及びダルベッコ緩衝液(0.008Mリン酸ナトリウム、0.002Mリン酸カリウム、0.14M塩化ナトリウム、0.01M塩化カリウム、pH7.4)を含むが、これらに限定されない。
【0047】
本発明の特徴を具現化する試薬及び装置を製造する方法並びに当該試薬及び装置を分析対象物のモニタに使用する方法は、先の記載と以下の代表的手順とを合わせて考慮すると、当業者には十分に明らかになる。
【0048】
以下に記載する例は本発明のバイオセンサ試薬のインビトロ適用に関するが、フェノキサジン及び/又はフェノチアジン媒介物を(たとえば芳香環の一以上の置換基における化学反応により)化学的に固定化し、固定化した媒介物を、患者に皮下移植することができる装置に組み込むことにより、当該試薬をインビボ分析対象物モニタに適合させることもできることが考えられる。
【実施例】
【0049】
バイオセンサの製造及びグルコース線量レスポンス
液状試薬を、100mMリン酸ナトリウムpH7.4中、20単位/μlピロロキノリンキノン−グルコースデヒドロゲナーゼ(PQQ−GDH)及び24mM媒介物Iになるように調製した。試薬の第一の成分を、媒介物を100mMホスフェートpH7.4に溶解し、pHを調節して7.4に戻し、溶液をWhatman0.45ミクロンPTFEシリンジフィルタに通ってろ過することによって製造した。凍結乾燥させたPQQ−GDH(Toyobo製品番号GLD-321)を20単位/μlの活性まで加えることにより、試薬を完成させた。
【0050】
この薬品処方を、Conductive Technologies社による3パススクリーン印刷法を使用して製造しておいた電極に被着させた。この工程で、まず銀/塩化銀(DuPont 5870インク)リード及び参照電極をポリカーボネートベース材料上に印刷した。DuPont 7102Tカーボングラファイト作用電極の第二のパスをこの上に印刷した。Norcote RDMSK4954-A2誘電体の最後のパスによって作用電極面積を0.00113cm2になるよう画定した。
【0051】
Asymtek Automove(登録商標)402ディスペンシングシステムの使用によって薬品を作用電極に被着させた。このシステムは、試薬で満たした1.5mlのEppendorfバイアルに62mlのステンレススチールピンを浸漬することによって転写を実施するようにプログラムされていた。ポリカーボネートふた材料をセンサにラミネートして、試験溶液約3μlを保持することができる毛管区域を作用電極及び参照電極上に形成した。サンプル量を画定する毛管区域は、はじめに、コイニング又はスタンピング法によってポリカーボネートふた材料に形成しておいた。
【0052】
図5に示すように、0〜600mg/dLの濃度範囲のグルコースを含有する緩衝した(100mMホスフェート、100mM塩化ナトリウム、pH7.4)サンプルを用いて、グルコース線量−レスポンス曲線を生成することによって薬品の反応性を分析した。100nAにセットされた起動レベルで150mV電位を印加するようにプログラムされたポテンシオスタットを使用して、5、10、15及び20秒で電流を記録するようにプログラムされたタイミングで、各グルコース濃度で発生した電流を計測した。起動レベルとは、超えられると計時及び記録が開始されるしきいレベルをいう。
【0053】
20単位グルコースオキシダーゼ/センサ及び6mM媒介物Iで処方されたセンサを上記のように電極センサに被着させた。図6に示す線量レスポンスプロットを得た。
【0054】
電気化学的バイオセンサの製造及び熱/湿度安定性
スクリーン印刷法を使用して電気化学的バイオセンサを構築した。センサは、炭素作用電極及び銀/塩化銀参照電極で構成した。100mMリン酸緩衝液(pH7.4)中に12mM媒介物Iを含有する、酵素PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ(10単位/μl)の溶液(150〜800nl)を作用電極の表面に被着させ、室温で5分間乾したのち、乾燥させた。電極を、センサへのサンプル溶液の接種を可能にする小さな毛管間隙を有するフォーマットとして組み立てた。
【0055】
次の試験では、試験前にセンサを以下の環境条件、すなわち1)50℃で2、4及び8週間、及び2)相対湿度40%の室温に付した。センサを150mVの電位でAg/AgCl参照電極に対して平衡させ、得られた電流を計測した。この媒介物/酵素の組み合わせは、図7に示すように、熱応力及び湿度応力に対して非常に安定であった。
【0056】
バイオセンサの滅菌及び放射線安定性データ
5種のバイオセンサ試薬処方(表1)を調製し、Titan Scan Technologies(カリフォルニア州サンディエゴ)でSureBeam(登録商標)滅菌技術を使用して電子ビーム照射に付した。処方Iは25kGy、50kGy及び100kGyで照射したが、処方II〜Vそれぞれは25kGyのみで照射した。表1の右寄り二列の見出し中、CMCはカルボキシメチルセルロースを意味し、PEOはポリエチレンオキシドを意味する。
【0057】
【表1】
【0058】
図8〜12は、照射の前後の5種の処方それぞれのグルコース線量レスポンス曲線を示す。照射前のグルコースレスポンスと照射後のグルコースレスポンスとがほとんどオーバーラップしていることによって明らかに示されるように、5種の処方の安定性は高かった。
【0059】
表2は、照射の前後で5種の処方に対して実施された酵素検定の結果を示す。すべての場合で照射後でも酵素活性は高いままであった。
【0060】
【表2】
【0061】
前記詳細な説明及び実施例は、説明及び例示のために提供したものであり、請求の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書で例示する好ましい実施態様の多くの変形が当業者に自明であり、請求の範囲及びその等価の範囲に該当する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析対象物の計測のための試薬、方法及び装置に関し、より具体的には、血液中のグルコースの計測のための試薬、方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体内のある種の分析対象物の濃度のモニタは、健康危機の早期検出を可能にし、治療手段の導入の必要性を特定する。もっとも一般的にモニタされる分析対象物の1種は、その血中濃度が糖尿病患者にとってインスリンの適切な投与量を決定する際に重要であるグルコースである。血液中のグルコース濃度をモニタするために、電気化学的バイオセンサの使用をはじめとする多様な方法が開発されている。電気化学的バイオセンサは、対象の分析対象物を伴う酵素触媒化学反応に基づく。グルコースモニタの場合、該当する化学反応は、グルコースのグルコノラクトンへの酸化である。この酸化は多様な酵素によって触媒され、そのような酵素には、結合した補酵素、たとえばニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(リン酸)(NAD(P))を含有するものもあれば、結合した補因子、たとえばフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)又はピロロキノリンキノン(PQQ)を含有するものもある。
【0003】
バイオセンサ用途では、グルコースの酸化の過程で生成された酸化還元等価物が電極の表面に運ばれ、それによって電気信号が発生する。そして、この電気信号の大きさをグルコースの濃度と相関させる。酵素中の化学反応の場から電極の表面への酸化還元等価物の移動は、電子移動媒介物の使用によって達成される。
【0004】
バイオセンサにおける電子移動媒介物の使用に伴う重要な問題は、温度や湿度のような一般的な環境条件に暴露されたときのこれらの化合物の不安定性である。結果として、グルコースバイオセンサにおける使用に適した媒介物の数は非常に限られる。
【0005】
電子移動媒介物として酵素ジヒドロニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、NADPH及びそれらの類似体との使用に適したフェノチアジン及びフェノキサジン化合物の族が報告されている(例えば、特許文献1参照)。補因子ベースの酵素、たとえばFAD−グルコースオキシダーゼ及びPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼは、NADベースの酵素に対し、より少ない費用、より高い酵素活性、安定性の増大及び解離しやすい補因子ではなく結合した補因子であることをはじめとするいくつかの利点を有する。
【0006】
FAD−グルコースオキシダーゼ及びPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼとで以前に使用されていた電子移動媒介物は、キノン、フェンジンメトスルフェート、ジクロロフェノールインドフェノール及びフェリシアン化物を含む。残念ながら、これらの化合物は、上記の環境作用因子に対して非常に感受性であり、安定性の低いバイオセンサ試薬をもたらすことがわかっている。したがって、一般的に遭遇される環境作用因子に曝露されたときでも良好な安定性を示し、フラビンタンパク質及びキノンタンパク質ベースの系で使用することができる媒介物が必要である。
【0007】
上記の環境作用因子に対して安定であるバイオセンサ試薬の必要性に加えて、ランセット滅菌処理で一般に使用される放射線条件に対して安定であるバイオセンサ試薬を提供することが望ましいであろう。そのような放射線滅菌処理に対して安定である試薬は、ランセットとバイオセンサとが組み合わされる非常に簡便なユニットに組み込むことができるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,520,786号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、環境干渉因子及び放射滅菌処理に対して改善された安定性を示す、フラビンタンパク質及びキノンタンパク質ベースのバイオセンサ試薬で使用するための電子移動媒介物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の範囲は、請求の範囲によってのみ定義され、課題を解決するための手段における記述によっていかなる程度にも限定されない。まずはじめに、本明細書に記載する好ましい実施態様は、電子移動媒介物及び酵素バイオセンサの前述の安定性問題を解消することに関する。
【0011】
簡潔に述べるならば、本発明の組成物態様は、(a)フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素;並びに(b)フェノチアジン、フェノキサジン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物とを含む、分析対象物を検出するための試薬に関する。
【0012】
本発明の第一の装置態様は、(a)表面を有する作用電極、及び(b)作用電極に結合された第二の電極を含む電気化学的センサに関する。作用電極の表面は、フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素、並びにフェノチアジン、フェノキサジン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物、を含む試薬の溶液又は混合物でコーティングされている。
【0013】
本発明の第二の装置態様は、(a)ランセット、及び(b)ランセットに接続されたサンプリング室とを含む、分析対象物を計測するための装置に関する。サンプリング室は、(a)PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ、FAD−グルコースオキシダーゼ及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素、並びに(b)フェノチアジン、フェノキサジン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物、を含む試薬を含む。
【0014】
本発明の第一の方法態様は、分析対象物を計測するための滅菌済み装置を製造する方法であって、(a)本発明の装置を用意する工程、及び(b)装置を電子ビーム又はγ放射線で照射する工程、を含む方法に関する。
【0015】
本発明の第二の方法態様は、化学反応を受ける分析対象物を検出する方法であって、(a)電極面を用意する工程、(b)フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素との化学反応を触媒する工程、(c)化学反応によって酸化還元等価物を生成する工程、並びに(d)フェノチアジン、フェノキサジン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物を使用して酸化還元等価物を電極表面に移動させる工程、を含む方法に関する。
【0016】
本明細書で論じる好ましい実施態様は、他のフラビンタンパク質及びキノンタンパク質ベースのバイオセンサ試薬に対し、バイオセンサ試薬安定性の改善、媒介物の電子移動能力の増強、最適な電極作用のために媒介物を調整する能力、媒介物の酸素感受性の低下、媒介物の熱安定性の増大、周囲湿度に対する媒介物の安定性の増大、媒介物の酸化還元電位の低下、血液中の干渉因子に対する感受性の低下及び放射線滅菌処理条件に対するバイオセンサ試薬の安定化をはじめとする一以上の利点を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の特徴を具現化する、分析対象物を計測するための装置の概略図である。
【図2】本発明にしたがって使用するための統合型ランセット/バイオセンサ装置の斜視図である。
【図3】増大するレベルの放射線に曝露された3種のバイオセンサ試薬処方に関するバックグラウンド電流のグラフである。
【図4】グルコースに曝露されたときの放射線滅菌バイオセンサ試薬の電流レスポンスのグラフである。
【図5】PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサに関する増大する時間間隔における電流対グルコース濃度のグラフである。
【図6】〔FAD〕−グルコースオキシダーゼ/フェノチアジンバイオセンサに関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【図7】熱応力及び湿度応力にさらされたPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサ試薬に関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【図8】異なるレベルの放射線に曝露されたある種のPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサ処方に関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【図9】異なるレベルの放射線に曝露されたもう一種のPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサ処方に関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【図10】異なるレベルの放射線に曝露された別の種のPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサ処方に関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【図11】異なるレベルの放射線に曝露されたさらに別の種のPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサ処方に関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【図12】異なるレベルの放射線に曝露されたさらに別の種のPQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ/フェノチアジンバイオセンサ処方に関する電流対グルコース濃度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書を通じて、以下の定義を理解しなければならない。「分析対象物」とは、対象の濃度を有する一又は複数の種をいう。「フラビンタンパク質」とは、フラビン補因子を含有する酵素をいう。「キノンタンパク質」とは、PQQ又は類似の補因子を含有する酵素をいう。「酸化還元等価物」とは、分析対象物を伴う電気化学的反応で生成される一又は複数の帯電種(たとえば電子)をいう。「電子ビーム照射」とは、高密度の電子流に曝露する処理をいう。「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」、「アリール」、「ヘテロアリール」、「環式」、「複素環式」、「ハロ」、「ハロアルキル」、「カルボキシ」、「カルボキシアルキル」、「アルコキシカルボニル」、「アリールオキシカルボニル」、「芳香族ケト」、「脂肪族ケト」、「アルコキシ」、「アリールオキシ」、「ニトロ」、「ジアルキルアミノ」、「アミノアルキル」、「スルホ」、「ジヒドロキシホウ素」などは、分岐鎖状であっても非分岐鎖状であってもよく、そのものが一以上の置換基で置換されていてもよい、当該技術で周知の置換基をいう。「バイオセンサ試薬」とは、分析対象物の反応を触媒する酵素、並びにフェノチアジン及び/又はフェノキサジン媒介物との組み合わせをいう。「生負荷(bioburden)」とは、照射の直前に測定された、製品上で生存しうる微生物の集団をいう。
【0019】
分析対象物を検出するための本発明のバイオセンサ試薬は、(1)フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素、並びに(2)フェノチアジン、フェノキサジン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物、を含む。
【0020】
本発明にしたがってモニタされる分析対象物の種類は、その分析対象物が、フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素によって触媒される化学反応を受ける限り、限定されない。好ましい分析対象物は、グルコース、乳酸塩、D−アミノ酸、アスコルビン酸塩、アルコール、コレステロール、コリン及びアセチルコリンを含むが、これらに限定されない。
【0021】
本発明のフラビンタンパク質は、FAD−グルコースオキシダーゼ(EC番号1.1.3.4)、フラビン−ヘキソースオキシダーゼ(EC番号1.1.3.5)及びFAD−グルコースデヒドロゲナーゼ(EC番号1.1.99.10)を含む。これらのフラビンタンパク質に関する情報については、Adriaan Joseph Jan Olsthoornの「Structural and Mechanistic Aspects of Soluble Quinoprotein Glucose Dehydrogenase from Acinetobacter calcoaceticus」(博士論文、オランダDelft University of Technology 1999)を参照されたい。本発明にしたがって使用するためのさらなるオキシダーゼ酵素は、乳酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ(たとえばメタノールオキシダーゼ)、D−アミノ酸オキシダーゼ、コリンオキシダーゼ及びそれらのFAD誘導体を含むが、これらに限定されない。本発明にしたがって使用するのに好ましいフラビンタンパク質は、FAD−グルコースオキシダーゼである。
【0022】
本発明のキノンタンパク質は、膜結合可溶性PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ(EC番号1.1.99.17)を含むが、これに限定されない。PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼに関する情報は、上記で引用したOlsthoornの参考文献に見ることができる。本発明にしたがって使用するためのさらなるキノンタンパク質酵素は、乳酸デヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、メチルアミンデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ(たとえばメタノールデヒドロゲナーゼ)及びそれらのPQQ誘導体を含むが、これらに限定されない。本発明にしたがって使用するのに好ましいキノンタンパク質は、PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼである。
【0023】
本発明の媒介物は、式
【0024】
【化1】
【0025】
を有するフェノチアジン及び式
【0026】
【化2】
【0027】
を有するフェノキサジンを含む。式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は、同一又は異なり、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、環式、複素環式、ハロ、ハロアルキル、カルボキシ、カルボキシアルキル、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、芳香族ケト、脂肪族ケト、アルコキシ、アリールオキシ、ニトロ、ジアルキルアミノ、アミノアルキル、スルホ、ジヒドロキシホウ素及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0028】
本発明の媒介物は、K3Fe(CN)6の単一電子移動運搬能力とは対照的に、二つの酸化還元等価物を運ぶ能力を有し、したがって、一般に2個の電子の移動を伴う、FAD及びキノンタンパク質酸化/還元法における使用に十分に適している。そのうえ、本発明の媒介物の電位は、芳香環上の置換基を変えることにより、特定のサンプルマトリックスに最適な電位(すなわち、干渉因子からの信号への影響が最小限になる電位)に調整することができる。電子供与性置換基(たとえばアルキル、アルコキシ、アミン、ヒドロキシなど)は、酸化還元電位を低下させる結果を招き、電子求引性置換基(たとえばカルボン酸、エステル、アルデヒド、ケトン、ニトリル、ニトロ、スルホン酸、トリフルオロメチルなど)は、酸化還元電位を上昇させる結果を招く。血液又は血漿のサンプルの場合、理想的な電位は通常、Ag/AgCl基準に対して約−200〜約100mVの範囲にある。
【0029】
芳香環上の置換基は、媒介物の酸化還元電位を調整するその用途に加えて、媒介物の溶解度を高めるために使用することもできる。たとえば、水素結合の能力を有する置換基の導入は、媒介物を、そのような置換基を欠く媒介物よりも水溶性にすると予想することができる。加えて、これらの置換基は、媒介物を支持体(たとえば電極表面又は電極表面に適用するのに適した化学的マトリックス、たとえばポリマー主鎖)に固定化するための官能基として働くことができる。
【0030】
好ましくは、本発明のバイオセンサ試薬で使用される媒介物は、3−(4′−クロロフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−ジエチルアミノフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−エチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−トリフルオロメチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−メトキシカルボニルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−ニトロフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−メトキシフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、7−アセチル−3−(4′−メトキシカルボニルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、7−トリフルオロメチル−3−(4′−メトキシカルボニルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−ω−カルボキシ−n−ブチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−アミノメチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−(2″−(5″−(p−アミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾイル)フェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−β−アミノエチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、6−(4′−エチルフェニル)アミノ−3−(4′−エチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、6−(4′−〔2−(2−エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシフェニル)アミノ−3−(4′−〔2−(2−エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシフェニルイミノ−3H−フェノチアジン、3−(4′−〔2−(2−エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシフェニルイミノ−3H−フェノチアジン、3−(4′−フェニルイミノ)−3H−フェノチアジンボロン酸、(3−(3′,5′−ジカルボキシフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−カルボキシフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(3′,5′−ジカルボキシフェニルイミノ)−3H−フェノキサジン、3−(3′,5′−フェニルイミノ)−3H−フェノチアジンジスルホン酸及び3−(3−フェニルイミノ)−3H−フェノチアジンスルホン酸を含む。
【0031】
より好ましくは、本発明にしたがって使用される媒介物は、
【0032】
【化3】
【0033】
及び
【0034】
【化4】
【0035】
からなる群から選択される。
【0036】
フェリシアン化物に比べて、フェノチアジン媒介物、特に媒介物Iは、酸素分解に対して感受性が低く、より熱安定性であり、周囲湿度に対してより安定性である。加えて、媒介物Iは、フェリシアン化物よりも低い酸化還元電位で作用する。たとえば、媒介物IのE0は、Ag/AgCl参照電極に対して約0mVであるが、フェリシアン化物のE0は、Ag/AgCl参照電極に対して約250mVである。フェノチアジン媒介物のより低い酸化還元電位は、電気化学的干渉の量が最小限になる、Ag/AgCl参照電極に対して0mV付近の領域がある点で有利である。したがって、これらの媒介物を使用することにより、血液中の化学的干渉因子からの影響を最小限にすることができる。
【0037】
本発明の特徴を具現化する試薬を、米国特許第5,120,420号及び第5,798,031号明細書に記載の装置をはじめとする多様なバイオセンサ装置に組み込むことができる。これら両明細書の内容全体を引用例として本明細書に含めるが、本出願と矛盾する開示又は定義がある場合、本明細書の開示又は定義が優先するものとする。
【0038】
図面を参照すると、図1は、本発明の典型的な電気化学的センサを示す。電気化学的センサ2は、電極パターン(6及び8)を上に印刷された(通常はスクリーン印刷技術によって)絶縁ベース4と、本発明の特徴を具現化する試薬を含有する試薬層10とで構成されている。二つの電極印刷部6、8が、電気化学的測定に必要な作用電極及び参照電極を提供する。以下さらに詳細に記載するように、ランセット要素12を電気化学的センサに組み込む(たとえば層1と層2との間に挿入する)ことができる。図1に示す3つの層は、材料の実体に依存して、接着剤(たとえば感圧性接着剤、ホットメルトなど)又は音波溶接によって接合することができる。
【0039】
PQQ−グルコースヒドロゲナーゼ及び特定のフェノチアジン媒介物を含むバイオセンサ試薬が放射線滅菌に対して高い安定性を示すことがわかった。本発明の放射線安定性バイオセンサ試薬の好ましい用途は、統合型ランセット/バイオセンサ装置の開発である。このような統合型装置の例が図2に示され、米国特許第5,801,057号明細書に記載されている。この明細書の内容全体を引用例として本明細書に含めるが、本出願と矛盾する開示又は定義がある場合、本明細書の開示又は定義が優先するものとする。
【0040】
図2に示すように、統合型ランセット/バイオセンサ装置14は、サンプリング室18に接続された、細く穿孔された針16を有する。サンプリング室18は、少なくとも一つの採光窓20と、サンプリング室18が血液又は他の流体で満ちるとき空気を排気することができる通気口22とを有する。好ましくは、サンプリング室18は、PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ並びにフェノチアジン及び/又はフェノキサジン媒介物を含むバイオセンサ試薬を含む。好ましくは、媒介物はフェノチアジンである。より好ましくは、媒介物は、上記媒介物I又は媒介物IIによって表される構造を有する。ひとたびサンプリング室18がバイオセンサ試薬で充填されると、装置14全体を放射線滅菌で処理することができる。好ましくは、滅菌法は電子ビーム照射又はγ線照射を含む。
【0041】
Association for the Advancement of Medical Instrumentation文書ANSI/AAMI/ISO11137−1994に記されているように、皮膚を穿刺し、血液と接触する製品は、滅菌後に製品上に微生物が生存する確率100万分の1に相当する10-6の無菌保証レベル(SAL)を有しなければならない。10-6SALを達成するために必要な滅菌線量は、サンプルの生負荷に依存する。たとえば、1,021の生負荷を有するサンプルは、10-6SALを達成するために24.9kGyの滅菌線量を要する。
【0042】
以下に記す例では、滅菌方法として電子ビーム照射を使用した。電子ビームに付されたバイオセンサ試薬は電子からエネルギーを吸収する。物質の単位質量あたり吸収されるエネルギーが吸収線量と呼ばれ、このエネルギーの吸収、すなわち線量の印加こそが、微生物の生殖細胞及びDNA鎖を破壊し、それにより、製品を無菌にするものである。バイオセンサ試薬の生負荷が未知であったため、25、50及び100kGyの電子ビーム線量を使用した。
【0043】
図3は、増大するレベルの放射線に曝露された3種のバイオセンサ試薬処方、すなわち(1)NAD−グルコースデヒドロゲナーゼと媒介物I、(2)PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼとフェリシアン化物、及び(3)PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼと媒介物Iに関して観察されたバックグラウンド電流のグラフを示す。PQQ処方は、照射に対してきわめて良好な耐性を示した。対照的に、NAD処方は、滅菌条件に対して不十分な耐性を示し、グルコース信号の有意量を構成するバックグラウンド信号を生じさせた。処方(2)は放射線処理に対して良好な耐性を示したが、抽出された酵素の活性は、処方(3)から抽出された酵素の対応する活性よりも低かった。図4は、これらの放射線滅菌済みセンサを600mg/dLグルコースに曝露した場合の電流レスポンスのグラフを示す。
【0044】
本発明の特徴を具現化する装置を製造する方法及び当該装置を分析対象物のモニタに使用する方法は、前記記載と以下の代表的手順とを合わせて考慮すると、当業者には十分に明らかになる。本明細書に例示する好ましい実施態様の多くの変形が当業者には自明であり、請求の範囲及びその等価の範囲に該当することが理解されよう。
【0045】
たとえば、本発明の電気化学的センサに使用される作用電極は種々異なることができ、その場合、適切な電極は、炭素電極、白金電極、パラジウム電極、金電極などを含むが、これらに限定されない。同様に、参照電極もまた種々異なることができ、その場合、適切な電極は、銀−塩化銀電極、カロメル電極、飽和カロメル電極などを含むが、これらに限定されない。あるいはまた、非水性電気化学的実験で一般に使用されるタイプの準参照電極(すなわち、その電位が参照される特定の酸化還元種を有しない電極)、たとえば大面積白金電極を本発明にしたがって使用することもできる。同様に、本発明にしたがって使用されるすべての電極の表面積は異なる。好ましくは、作用電極は、約0.6mm×1.2mmの面積を有する。
【0046】
さらには、使用される緩衝溶液の組成及びpH並びにバイオセンサ試薬の成分の酵素活性及び濃度は大きく異なる。適切な緩衝溶液は、HEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N′−2−エタンスルホン酸)、MOPS(3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸)、TES(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸)、2−(〔2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル〕アミノ)エタンスルホン酸、PIPES(ピペラジン−N,N′−ビス(2−エタンスルホン酸))、1,4−ピペラジンジエタンスルホン酸、ACES(N−(カルバモイルメチル)−2−アミノエタンスルホン酸)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸、BES(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸)及びダルベッコ緩衝液(0.008Mリン酸ナトリウム、0.002Mリン酸カリウム、0.14M塩化ナトリウム、0.01M塩化カリウム、pH7.4)を含むが、これらに限定されない。
【0047】
本発明の特徴を具現化する試薬及び装置を製造する方法並びに当該試薬及び装置を分析対象物のモニタに使用する方法は、先の記載と以下の代表的手順とを合わせて考慮すると、当業者には十分に明らかになる。
【0048】
以下に記載する例は本発明のバイオセンサ試薬のインビトロ適用に関するが、フェノキサジン及び/又はフェノチアジン媒介物を(たとえば芳香環の一以上の置換基における化学反応により)化学的に固定化し、固定化した媒介物を、患者に皮下移植することができる装置に組み込むことにより、当該試薬をインビボ分析対象物モニタに適合させることもできることが考えられる。
【実施例】
【0049】
バイオセンサの製造及びグルコース線量レスポンス
液状試薬を、100mMリン酸ナトリウムpH7.4中、20単位/μlピロロキノリンキノン−グルコースデヒドロゲナーゼ(PQQ−GDH)及び24mM媒介物Iになるように調製した。試薬の第一の成分を、媒介物を100mMホスフェートpH7.4に溶解し、pHを調節して7.4に戻し、溶液をWhatman0.45ミクロンPTFEシリンジフィルタに通ってろ過することによって製造した。凍結乾燥させたPQQ−GDH(Toyobo製品番号GLD-321)を20単位/μlの活性まで加えることにより、試薬を完成させた。
【0050】
この薬品処方を、Conductive Technologies社による3パススクリーン印刷法を使用して製造しておいた電極に被着させた。この工程で、まず銀/塩化銀(DuPont 5870インク)リード及び参照電極をポリカーボネートベース材料上に印刷した。DuPont 7102Tカーボングラファイト作用電極の第二のパスをこの上に印刷した。Norcote RDMSK4954-A2誘電体の最後のパスによって作用電極面積を0.00113cm2になるよう画定した。
【0051】
Asymtek Automove(登録商標)402ディスペンシングシステムの使用によって薬品を作用電極に被着させた。このシステムは、試薬で満たした1.5mlのEppendorfバイアルに62mlのステンレススチールピンを浸漬することによって転写を実施するようにプログラムされていた。ポリカーボネートふた材料をセンサにラミネートして、試験溶液約3μlを保持することができる毛管区域を作用電極及び参照電極上に形成した。サンプル量を画定する毛管区域は、はじめに、コイニング又はスタンピング法によってポリカーボネートふた材料に形成しておいた。
【0052】
図5に示すように、0〜600mg/dLの濃度範囲のグルコースを含有する緩衝した(100mMホスフェート、100mM塩化ナトリウム、pH7.4)サンプルを用いて、グルコース線量−レスポンス曲線を生成することによって薬品の反応性を分析した。100nAにセットされた起動レベルで150mV電位を印加するようにプログラムされたポテンシオスタットを使用して、5、10、15及び20秒で電流を記録するようにプログラムされたタイミングで、各グルコース濃度で発生した電流を計測した。起動レベルとは、超えられると計時及び記録が開始されるしきいレベルをいう。
【0053】
20単位グルコースオキシダーゼ/センサ及び6mM媒介物Iで処方されたセンサを上記のように電極センサに被着させた。図6に示す線量レスポンスプロットを得た。
【0054】
電気化学的バイオセンサの製造及び熱/湿度安定性
スクリーン印刷法を使用して電気化学的バイオセンサを構築した。センサは、炭素作用電極及び銀/塩化銀参照電極で構成した。100mMリン酸緩衝液(pH7.4)中に12mM媒介物Iを含有する、酵素PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ(10単位/μl)の溶液(150〜800nl)を作用電極の表面に被着させ、室温で5分間乾したのち、乾燥させた。電極を、センサへのサンプル溶液の接種を可能にする小さな毛管間隙を有するフォーマットとして組み立てた。
【0055】
次の試験では、試験前にセンサを以下の環境条件、すなわち1)50℃で2、4及び8週間、及び2)相対湿度40%の室温に付した。センサを150mVの電位でAg/AgCl参照電極に対して平衡させ、得られた電流を計測した。この媒介物/酵素の組み合わせは、図7に示すように、熱応力及び湿度応力に対して非常に安定であった。
【0056】
バイオセンサの滅菌及び放射線安定性データ
5種のバイオセンサ試薬処方(表1)を調製し、Titan Scan Technologies(カリフォルニア州サンディエゴ)でSureBeam(登録商標)滅菌技術を使用して電子ビーム照射に付した。処方Iは25kGy、50kGy及び100kGyで照射したが、処方II〜Vそれぞれは25kGyのみで照射した。表1の右寄り二列の見出し中、CMCはカルボキシメチルセルロースを意味し、PEOはポリエチレンオキシドを意味する。
【0057】
【表1】
【0058】
図8〜12は、照射の前後の5種の処方それぞれのグルコース線量レスポンス曲線を示す。照射前のグルコースレスポンスと照射後のグルコースレスポンスとがほとんどオーバーラップしていることによって明らかに示されるように、5種の処方の安定性は高かった。
【0059】
表2は、照射の前後で5種の処方に対して実施された酵素検定の結果を示す。すべての場合で照射後でも酵素活性は高いままであった。
【0060】
【表2】
【0061】
前記詳細な説明及び実施例は、説明及び例示のために提供したものであり、請求の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書で例示する好ましい実施態様の多くの変形が当業者に自明であり、請求の範囲及びその等価の範囲に該当する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有する第一の電極、及び前記第一の電極に結合された第二の電極を含み、
前記第一の電極の表面が、
フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素、並びに
二つの酸化還元等価物を運ぶ能力を有する一以上の媒介物
を含む試薬を含む、電気化学的センサ。
【請求項2】
一以上の媒介物が、下記式:
【化5】
及びそれらの組み合わせ
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は、同一又は異なり、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、環式、複素環式、ハロ、ハロアルキル、カルボキシ、カルボキシアルキル、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、芳香族ケト、脂肪族ケト、アルコキシ、アリールオキシ、ニトロ、ジアルキルアミノ、アミノアルキル、スルホ、ジヒドロキシホウ素及びそれらの組み合わせからなる群から選択される)
から選択される、請求項1記載の電気化学的センサ。
【請求項3】
前記媒介物が、下記:
【化6】
(式中、R1及びR4が、スルホである)である、請求項2記載の電気化学的センサ。
【請求項4】
前記媒介物が、下記:
【化7】
(式中、R2及びR4が、カルボキシである)である、請求項2記載の電気化学的センサ。
【請求項5】
一以上の媒介物が、3−(4′−クロロフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−ジエチルアミノフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−エチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−トリフルオロメチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−メトキシカルボニルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−ニトロフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−メトキシフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、7−アセチル−3−(4′−メトキシカルボニルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、7−トリフルオロメチル−3−(4′−メトキシカルボニルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−ω−カルボキシ−n−ブチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−アミノメチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−(2″−(5″−(p−アミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾイル)フェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−β−アミノエチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、6−(4′−エチルフェニル)アミノ−3−(4′−エチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、6−(4′−〔2−(2−エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシフェニル)アミノ−3−(4′−〔2−(2−エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシフェニルイミノ−3H−フェノチアジン、3−(4′−〔2−(2−エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシフェニルイミノ−3H−フェノチアジン、3−(4′−フェニルイミノ)−3H−フェノチアジンボロン酸、(3−(3′,5′−ジカルボキシフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−カルボキシフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(3′,5′−ジカルボキシフェニルイミノ)−3H−フェノキサジン、3−(3′,5′−フェニルイミノ)−3H−フェノチアジンジスルホン酸、3−(3−フェニルイミノ)−3H−フェノチアジンスルホン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1記載の電気化学的センサ。
【請求項6】
前記フラビンタンパク質が、FAD−グルコースオキシダーゼ、フラビン−ヘキソースオキシダーゼ、FAD−グルコースデヒドロゲナーゼ、[FAD]−乳酸オキシダーゼ、[FAD]−コレステロールオキシダーゼ、[FAD]−アルコールオキシダーゼ、[FAD]−D−アミノ酸オキシダーゼ、[FAD]−コリンオキシダーゼ及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1記載の電気化学的センサ。
【請求項7】
前記酵素が、FAD−グルコースオキシダーゼ、PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1記載の電気化学的センサ。
【請求項8】
カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるポリマーをさらに含む、請求項1記載の電気化学的センサ。
【請求項9】
前記媒介物が
【化8】
を含む、請求項1記載の電気化学的センサ。
【請求項10】
前記第二の電極が銀/塩化銀参照電極である、請求項1記載の電気化学的センサ。
【請求項1】
表面を有する第一の電極、及び前記第一の電極に結合された第二の電極を含み、
前記第一の電極の表面が、
フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素、並びに
二つの酸化還元等価物を運ぶ能力を有する一以上の媒介物
を含む試薬を含む、電気化学的センサ。
【請求項2】
一以上の媒介物が、下記式:
【化5】
及びそれらの組み合わせ
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は、同一又は異なり、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、環式、複素環式、ハロ、ハロアルキル、カルボキシ、カルボキシアルキル、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、芳香族ケト、脂肪族ケト、アルコキシ、アリールオキシ、ニトロ、ジアルキルアミノ、アミノアルキル、スルホ、ジヒドロキシホウ素及びそれらの組み合わせからなる群から選択される)
から選択される、請求項1記載の電気化学的センサ。
【請求項3】
前記媒介物が、下記:
【化6】
(式中、R1及びR4が、スルホである)である、請求項2記載の電気化学的センサ。
【請求項4】
前記媒介物が、下記:
【化7】
(式中、R2及びR4が、カルボキシである)である、請求項2記載の電気化学的センサ。
【請求項5】
一以上の媒介物が、3−(4′−クロロフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−ジエチルアミノフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−エチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−トリフルオロメチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−メトキシカルボニルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−ニトロフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−メトキシフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、7−アセチル−3−(4′−メトキシカルボニルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、7−トリフルオロメチル−3−(4′−メトキシカルボニルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−ω−カルボキシ−n−ブチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−アミノメチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−(2″−(5″−(p−アミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾイル)フェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−β−アミノエチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、6−(4′−エチルフェニル)アミノ−3−(4′−エチルフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、6−(4′−〔2−(2−エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシフェニル)アミノ−3−(4′−〔2−(2−エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシフェニルイミノ−3H−フェノチアジン、3−(4′−〔2−(2−エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシフェニルイミノ−3H−フェノチアジン、3−(4′−フェニルイミノ)−3H−フェノチアジンボロン酸、(3−(3′,5′−ジカルボキシフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(4′−カルボキシフェニルイミノ)−3H−フェノチアジン、3−(3′,5′−ジカルボキシフェニルイミノ)−3H−フェノキサジン、3−(3′,5′−フェニルイミノ)−3H−フェノチアジンジスルホン酸、3−(3−フェニルイミノ)−3H−フェノチアジンスルホン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1記載の電気化学的センサ。
【請求項6】
前記フラビンタンパク質が、FAD−グルコースオキシダーゼ、フラビン−ヘキソースオキシダーゼ、FAD−グルコースデヒドロゲナーゼ、[FAD]−乳酸オキシダーゼ、[FAD]−コレステロールオキシダーゼ、[FAD]−アルコールオキシダーゼ、[FAD]−D−アミノ酸オキシダーゼ、[FAD]−コリンオキシダーゼ及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1記載の電気化学的センサ。
【請求項7】
前記酵素が、FAD−グルコースオキシダーゼ、PQQ−グルコースデヒドロゲナーゼ及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1記載の電気化学的センサ。
【請求項8】
カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるポリマーをさらに含む、請求項1記載の電気化学的センサ。
【請求項9】
前記媒介物が
【化8】
を含む、請求項1記載の電気化学的センサ。
【請求項10】
前記第二の電極が銀/塩化銀参照電極である、請求項1記載の電気化学的センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−154955(P2012−154955A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−118392(P2012−118392)
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【分割の表示】特願2008−283415(P2008−283415)の分割
【原出願日】平成14年9月12日(2002.9.12)
【出願人】(391007079)バイエルコーポレーション (12)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【分割の表示】特願2008−283415(P2008−283415)の分割
【原出願日】平成14年9月12日(2002.9.12)
【出願人】(391007079)バイエルコーポレーション (12)
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