説明

分析方法及びそのキット

本発明は、対称ジメチル化アルギニンを含有し、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者由来の血清に存在する抗体の免疫学的決定基を構成し、前記抗体との反応に対してメチル化が必要条件であるペプチドに関する。本発明はまた、SLE診断及びSLEとMCTDとの鑑別のための前記ペプチドの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対称ジメチル化アルギニンを含有し、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者由来の血清に存在する抗体の免疫学的決定基を構成し、前記抗体との反応に対してメチル化が必要条件であるペプチドに関する。本発明はまた、SLEの診断及びSLEと混合性結合組織病(MCTD)との鑑別のための前記ペプチドの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
全身性リウマチ性疾患の特徴は、一定の細胞内標的に対する循環性の自己抗体が生じることである(von Muhlen及びTan、1995にまとめられている。)。それらの自己抗体のうち最初に同定されたものは、抗−Smであり、これは、全身性エリテマトーデス(SLE)と密接に関連している(Tan及びKunkel、1996)。従って、抗−Sm抗体は、この疾患に対するAmerican College of Rheumatology分類基準の1つに含まれている(Tanら、1982)。Sm−複合体抗DNAを標的とする自己抗体とは別に、抗−PCNA、抗−U1−RNP、抗−ヌクレオソーム、抗−ヒストン、抗−Ro/SS−A、抗−La/SS−B、抗−リボソームRNP及び抗−リン脂質抗体が、SLEに罹患している患者において見られることが多い(von Muhlen及びTan、1995)。
【0003】
抗−Sm反応性は、平均でSLE患者の5%から30%で見られるが、特異的頻度は、検出系及びSLE集団の人種構成により様々となろう(Abuafら、1990;Jaekelら、2001)。Sm−抗原は、核の前駆体m−RNAのスプライシングを触媒するスプライソソーム複合体の一部である(Seraphin、1995;Lernerら、1980)。その複合体そのものが、少なくとも9個の、分子量が9kDaから25kDaの範囲にある様々なポリペプチドを含有する[B(B1、28kDa)、B’(B2、29kDa)、N(B3、29.5kDa)、D1(16kDa)、D2(16.5kDa)、D3(18kDa)、E(12kDa)、F(11kDa)及びG(9kDa)](Hoch、1994)。それらのコアタンパク質は全て、抗Sm免疫反応の標的として働き得るが、最も頻度が高いのは、B及びDポリペプチドであり、従ってこれらは主要な抗原とみなされている(Hoch、1994;Brahmsら、1997;Ouら、1997)。しかし、MCTD患者において自己抗体の標的となることが多いSmBB’及びU1特異的RNPsは交差反応性エピトープを共有しているため、SmDが最も特異的なSm−抗原とみなされる(van Verooijら、1991;Hochら、1999)。SmDファミリーの中で、SmD1/D3パターンは、SmD1に対する顕著な免疫反応性によるSmD1/D2/D3認識よりも少なくとも4倍よく見られる(Hochら、1999)。エピトープマッピング研究において、直線状及び立体エピトープがいくつかSmB及びDタンパク質にマッピングされている(Rokeachら、1992;Hirakataら、1993)。SmD1及びBB’において、主要な反応は、主にC−末端伸長において見られる(Rokeachら、1992;Hirakataら、1993;Rokeach及びHoch、1992)。SmBB’のC−末端伸長内で3回起こるエピトープ、PPPGMRPPは、U1特異的抗原等のスプライソソーム自己抗原及びHIV−1のp24 gag等のレトロウイルスタンパク質の他のプロリンリッチな構造と交差反応することが示された(De Keyserら、1992)。追跡研究及び免疫付与試験から、このモチーフが常に、BB’分子内の、及びSmD−ポリペプチドに対するエピトープスプレッディング(epitope spreading)の開始点として作用する、初期の検出可能なSmBB’エピトープであることが明らかになった(Arbuckle、1999;Greidinger及びHoffman、2001)。最近の研究で、全分子に分布する、SmD2における5個の直線状エピトープ及びSmD3における4個の直線状エピトープが同定された(McClainら、2002)。これらのエピトープは全て、同じ基本的特性を有し、それらを抗原にならしめるタンパク質表面で露出される(McClainら、2002)。SmD3における説明したB−細胞エピトープの1つ(エピトープ4;aa 104−126)は、最終的に交差反応を導くSmD1タンパク質由来の抗原領域と密接なホモロジーを示した(McClainら、2002)。診断目的に対して、診断に使用できる感度及び特異性、それぞれ36%から70%の範囲及び91.7%から97.2%の範囲、を有するELISAシステムを開発するために、SmD1のC−末端伸長に相当する合成ペプチドが用いられた(Riemekastenら、1998;Jaekelら、2001)。最近、ポリペプチドD1、D3及びBB’が、SmD1のC−末端内で主要な自己エピトープを構成する対称ジメチルアルギニン(sDMA)を含有することが示された(Brahmsら、2000;Brahmsら、2001)。これらの研究のうちの1つにおいて、sDMAを含有するSmD1の合成ペプチド(aa 95−119)が、以前のデータとの矛盾を示す非修飾ペプチドと比較して、免疫反応が顕著に高いことが明らかとなった(Riemekastenら、1998;Brahmsら、2000)。
【0004】
国際特許WO第99/11667号において、メチル化アルギニンを含有し、SLE患者由来の血清中又はエプスタインバーウイルス(Epstein−Barr virus(EBV))に存在する抗体の抗原決定基を構成し、前記抗体と反応するためにそのメチル化が必要条件であるペプチドを調製するための方法が記載されている。しかし、これらのペプチドは概括的に説明されており、ペプチド配列と自己免疫疾患診断能との間の関係は何ら開示されていない。
【0005】
本発明の要約
ここで、発明者らは、発明者らの請求する、ある一定の位置に対称ジメチル化アルギニンを含有するペプチドがSLEの診断に不可欠であることを見出し、驚くべきことに、SLE患者の鑑別及びSLEとMCTDとを鑑別するための特異性及び信頼性が高い診断免疫アッセイにこのペプチドを使用することができることを示した。本ペプチドの多量体もまた、同じ目的に対して使用できる。請求するペプチドを含有するキットは、SLEの診断ならびにSLEとMCTDとの鑑別に使用することができる。本発明の長所は、MCTD試料群から偽陽性試料を拾い上げないことである。
【0006】
本発明の目的は、抗−Sm抗体を検出するための分析方法を提供することである。
【0007】
本発明により、驚くべきことに、SmD3配列内のあるアルギニン残基の対称ジメチル化がその抗原性に重要であることが分かった。
【0008】
従って、ある局面において、本発明は、抗体と反応することができる、対称なジメチル化アルギニン(sDMA)を含む15個から16個のアミノ酸を含有するペプチド(S33)を提供するが、前記ペプチドと前記抗体との反応に前記ジメチル化が不可欠であり、前記抗体は全身性エリテマトーデス(SLE)の患者由来の血清中に存在する。
【0009】
第2の局面において、本S33ペプチドは、アミノ酸配列、
AARGsDMA GRGMGRGNIFを含有する。
【0010】
第3の局面において、本対称ジメチル化アルギニンは、SmD3のポリペプチド配列における112番の位置にある。
【0011】
第4の局面において、本S33ペプチドは、構造、
【0012】
【化4】

を有する対称ジメチル化アルギニンを含有する。
【0013】
第5の局面において、本発明は、SLEのインビトロ診断に本S33ペプチドを使用するための方法である。
【0014】
第6の局面において、本発明は、SLEと混合性結合組織病(MCTD)との鑑別のために本S33ペプチドを使用するための方法である。
【0015】
第7の局面において、本発明は、dsDNA陰性SLE患者における疾患活性のインビトロ監視に本S33ペプチドを使用するためのキットであるが、ここで疾患活性とは、新規ミモトープペプチドに対する抗体の力価とその疾患活性との間の相関関係として定義される。
【0016】
第8の局面において、本発明は、治療効果又は疾患活性を監視するために反復試験により前記抗体力価を追跡するための方法である。
【0017】
第9の局面において、本発明は、本S33ペプチドを複数含有する多量体ペプチドである。
【0018】
本発明の詳細な説明
【実施例1】
【0019】
血清サンプル
血清(n=628)は、全身性エリテマトーデス(SLE;n=176)、関節リウマチ(RA、n=86)、シェーグレン症候群(SS、n=24);混合性結合組織病(MCTD、n=26)、強皮症(Ssc、n=26)及び多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM、n=13)の患者から回収した。各疾患に対するACR基準(Tanら、1982;Arnettら、1988)により全患者を分類した。さらにそのアッセイ特異性を評価するために、発明者らは、C型肝炎(HCV;n=30)、サイトメガロウイルス(CMV;n=22)及びエプスタインバーウイルス(EBV;n=25)を含む感染症患者(n=77)、由来の血清群、ならびに192名の健常血液提供者由来の血清群を分析した。使用するまで全血清を−80℃で保存した。エピトープマッピングのために、抗−Sm抗体を含有する5つの血清のパネルを使用した。ネガティブコントロールとして、抗−Sm以外の他の抗体特異性を有する自己免疫血清を選択した。
【0020】
無作為に選択したSLE患者血清の血清学的特性
ヒストン、dsDNA及びSm−複合体に対する自己抗体について、定量的Varelisa(R)(Pharmacia Diagnostics,Freiburg,Germany)を用いて、自己免疫患者の血清を全て試験した。予想外の結果を示したSLE血清及び試料もまた、半定量的ANA−Split ELISA resarch Kit(Pharmacia,Freiburg,Germany)にいおて測定した。後者のアッセイには、自己抗原 U1−68kDa、U1−A、U1−C、SmBB’、SmD、Ro−52、Ro−60及びLaが含まれる。ELISAは全て、使用説明書に従って行った。
【実施例2】
【0021】
固定化オリゴペプチドを用いたエピトープマッピング
SmD1の公表されている配列、P13641(Rokeachら、1988)及びSmD3、P43331、(Lehmeierら、1994)を使用して、Gausepohl及びBehn(2002)により述べられたプロトコールに従い、ピペッティングロボットを用いて重複15マーペプチドを合成した。オフセットを2アミノ酸にして、両ポリペプチドのC−末端伸長を合成した(13アミノ酸重複)。天然アルギニン、sDMA又は非対称ジメチルアルギニン(asDMA)をそれぞれの位置に有する3種類の変異体として各アルギニン含有ペプチドを合成した。後に、天然アルギニン及びsDMAの一定の組み合わせを用いてSmD3の高反応性ペプチドを合成した。ペプチド合成完了後、ブロッキング緩衝液(BB)中で室温(RT)にてメンブレンを一晩インキュベーションすることにより非特異的結合部位をブロックした。1回の洗浄段階後、BB中で1:100に希釈した血清試料とともに、RTにて2時間、膜をインキュベーションした。洗浄段階を3回行い、非結合抗体を除去した。検出のために、ペルオキシダーゼ共役ヤギ抗ヒトIgG抗体をBB中で1:5000に希釈し、75分間インキュベーションを行った(RT)。洗浄段階を3回行い過剰な二次抗体を除去した。最後に、高感度化学発光(ECL)検出系を使用して、結合した抗体を視覚化した。アッセイ条件はネガティブ血清が反応性を示さない条件を用いた。
【実施例3】
【0022】
S33−ペプチドELISA
ELISA−プレートの調製
凍結乾燥させたS33ペプチドを使用して、10μg/μlの保存溶液を調製し、使用するまで分注したものを−20℃において保存した。各ウェルの最終体積が120μlとなるようにして、被覆用緩衝液中で本ペプチド2.5μg/mlを用いてELISAプレートに対する本ペプチドの結合を行った。被覆手順は15℃にて20時間行った。非特異的結合部位をブロッキング溶液でブロックした。そのブロッキング溶液を捨てた後、固相を37℃にて2時間乾燥させ、密封した。
【0023】
本アッセイは、Varelisa(R)システム(Pharmacia Diagnostics, Freiburg)の一般プロトコールに従い行った。供血者の反応性は、0.4U/mlから11.5U/mlの範囲であり、その結果、平均値が2.2U/ml及びSDが1.2U/mlであることが明らかになった。カットオフは、ROC−解析後に技術的に13U/mlに設定した。PPVs及びNPVsは、異なるカットオフ値で計算した。
【0024】
精度と再現性
不正確さの測定(アッセイ間及びアッセイ内の変動)は、それぞれ4回及び6回繰り返して行った。抗−Sm血清に適切な抗−S33ペプチドELISAの精度を評価するために、1日の間に5回の独立した試験において(アッセイ間)、又は1回の試験において(アッセイ内)、低値試料(L);中間値試料(M)及び高値試料(H)をアッセイした。試験内精度を調べるために、1つの固相においてL、M及びHを6回反復測定した。ANOVA解析を用いて精度データを計算した。
【0025】
直線性
最高濃度の標準試料(S6)の、及び精度解析における高値試料(H)の希釈物(1:1;2:3;1:2;1:4;1:8;1:16;1:32)を試験することにより、直線性を解析した。各希釈点に対して、予想値に対する測定反応値の比を計算し、この比率から1を差し引いた。
【実施例4】
【0026】
相関研究
様々な製造者の市販の抗−Sm抗体テスト(Sm test A−Sm Test D)を使用して、無作為に選択したSLE血清(n=50)及び様々な対照(n=100)を試験し、抗−S33ELISAテストの所見とその結果を比較した。
【実施例5】
【0027】
SLE患者の追跡研究
男性のSLE患者を臨床的及び血清学的に18ヶ月の期間にわたり観察した(6例の血清試料;図3参照。)。Pharmacia Diagnosticsのそれぞれのテストキットを使用して、RNP/Sm複合体、Sm抗原、単離U1−RNP複合体、ヒストン、dsDNA及びS33ペプチドに対する抗体について、本患者を試験した。
【0028】
結果
SmD1及びD3のC−末端伸長のエピトープ精細マッピング
SmD1及びSmD3の抗原性に対するアルギニン−ジメチル化の影響を評価し、両ポリペプチドにおける関連エピトープをマッピングするために、SmD1(P13641)及びSmD3(P43331)のC−末端領域を含むペプチドアレイ(15マー、2オフセット)を用いて、抗−Sm血清のパネルを試験した。
【0029】
その結果、アルギニン残基のジメチル化が、C−末端 SmD1及びD3ポリペプチドに対する抗−Sm抗体の結合に顕著に影響を与えることが示される(図1参照)。抗SmD血清は全て(#36、#37、#31、#84、#Sm)、対称形態のジメチルアルギニン(sDMA)を含有するSmD1ペプチドに対する結合性が上昇していることが明らかになった。特に、グリシン及びDMAリピートからなるペプチドのみが、それらの抗体に対して強い反応性を示した(ペプチド番号9、10)。とは言え、DMAを含有するSmD1ポリペプチドは、抗−セントロメア抗体(ACA;#serum CEN(centromer))の標的でもあるので、抗−Sm抗体にとってむしろ非特異的な基質である。興味深いことに、それらのACAは、非対称形のDMAを含有するペプチドにも結合した。
【0030】
SmD3由来のペプチドとの結合実験から同様の結果が示された。sDMA含有SmD3ペプチドのみが、抗−Sm抗体と反応したことから、アルギニン残基の対称的メチル化が重要であることが確認される(図1b参照)。SmD1と比較して、対照血清(例えばCEN)では、SmD3由来ペプチドに対する抗体結合は見られないが、これは高い特異性を反映するものである。ある特定のペプチド(第77番、108AAsdRGsdRGsdRGMGsdRGNIF122)が、5種類の抗−Sm血清のうち3種類により強く認識された。108AARGRGRGMGRGNIF122のアルギニン残基が連続的にsDMAに置換された突然変異分析を用いて、発明者らは、1個のジメチル化アルギニン残基を112番の位置に有するミモトープペプチドが5種類の抗−Sm血清全て(#36、#37、#31、#84、#Sm)に対して免疫反応性を示すが対照(例えばCEN;図1c参照)には示さないことを明らかにすることができた。従って、sDMAを1個のみ、SmD3の決められた位置(アミノ酸112)に導入することにより、特異性を失うことなく、このペプチド(108AARGsdRGRGMGRGNIF122;S33)の感度を増強することができた。この候補ペプチドをその後、可溶性抗原として合成し、ELISAにおける基質として使用した。
【0031】
SLE患者群の免疫血清学的性質
発明者らのSLE患者コホートが典型的なSLE血清パネルを示すか否かを評価するために、約100検体のSLE試料を無作為に選択し、U1−68kD、U1−A、U1−C、SmBB’、SmD、Ro−52/SS−A、Ro−60/SS−A、La/SS−B、ヒストンdsDNA及びβ2−糖タンパク質反応性(Split ANA−Profil research assay,Pharmacia Diagnostics,Freiburg,Germany)について試験した。様々な自己抗体の保有率は、先行研究と十分一致していた(Jaekelら、2001)。従って、それらの自己抗体プロファイルに関して、本SLEコホートは、典型的なSLE集団であると思われる。このSLEパネルの測定結果を表1にまとめる。
【0032】
表1.SLE患者における臨床的に意義のある自己抗体特異性の保有率(%)(n=101)
【0033】
【表1】

【0034】
抗−S33ペプチド ELISA
SPOTアッセイにおいて最高の感度及び特異性を示した15個のアミノ酸可容性ペプチド(108AARGsdRGRGMGRGNIF122)を、技術的な理由でC−末端にCysを追加することにより合成した。このペプチドをその後、Varelisa(R)テスト(Pharmacia,Freiburg,Germany)の一般プロトコールに基づきELISAシステムを開発するために使用した。
【0035】
アッセイの性能特性
アッセイの性能特性の精密度を評価するために、再現性及び直線性を分析した。3種類の試料のアッセイ内及びアッセイ間の変動(CV%)は、それぞれ、1.82%から6.52%及び2.27%から7.42%の範囲であることが分かった。2つの試料の連続希釈物から、5回の連続希釈の範囲で直線性が示された(>20% 偏差)。カットオフの定義のために、SLE及び対照血清を用いて受信者動作特性(ROC)解析を行った。アッセイ内及びアッセイ間変動(a.)、直線性(b.)、ROC−解析、PPV、NPV及び効率(c.)を含む新規の抗−S33試験のアッセイ性能特性を図2(a−c)にまとめる。
【0036】
この新規テストの診断適合率を評価するために、13U/mlの技術的カットオフを使用して、特異性を高くして感度を中程度にした。176名のSLE患者、181名のSLE以外の診断を受けた自己免疫疾患患者、77名の感染症患者及び192名のヒト健常供血者から得た血清を、この新規ELISAシステムで分析した。28名のSLE患者(15.9%)において、平均値 43U/ml(SD=160.2U/ml)、最高で952U/mlまで反応性が著しく上昇し、抗−S33抗体に対して陽性であると分析された。関連疾患の患者では、この新規ELISAシステムにおいて反応性が著しく低いことが分かった(平均 3.36U/ml)。RA群でただ1名の患者のみ、陽性と分析された(24.6U/ml)。SSc(n=26)、PM/DM(n=13)、MCTD(n=126)又は感染症(n=77)患者を含め、残りの対照は、このS33ペプチドに対する反応性を示さなかった。健常供血者と比較しても(平均 2.21U/ml;最高値 11.5U/ml)、感染症患者由来の試料は反応性が低い(平均 0.67U/ml;最高値 3.3U/ml)ことが分かった。感染症患者血清の最高値は、EBV群で見られた。この結果を表2にまとめる。
【0037】
表2.SLE及び様々な対照血清に対するS33を使用したELISAの結果
【0038】
【表2】

【0039】
要約すると、SLE群(n=176)のうち15試料及び対照のうち1血清のみ(n=449、0.2%)が陽性と分析され、その結果、診断特異性は99.8%、感度は15.9%となった。PPV及びNPV、ならびに診断効率は、計算の結果、それぞれ
96.6%、75.3%及び76.3%となった(図2c参照)。これらのデータから、抗−S33抗体がSLE患者由来の血清にのみ存在すると思われる。
【0040】
抗−S33ペプチド反応性とは別に、偽陽性ra試料は、u1−rnps−68kDa(比率 4.5)、u1−c(比率9.4)及びヒストン(133.8u/ml)に対する抗体のタイターが高い(表3参照)。elisaにより測定した場合、抗−smbb’及び抗−smdタイターは、対照と比較して上昇していたが、依然としてカットオフ値以下であった(表3参照)。
【0041】
表3.新規S33ペプチドアッセイにおける偽陽性RA患者の自己抗体プロファイル
【0042】
【表3】

【0043】
他の自己抗体に対する相関
抗−S33抗体と他の自己抗体種との間に存在しうる相関関係について、約100例の無作為選択血清のSLEパネルを用いて統計学的評価を行った。U1−68kDa(p=0.0335)、U1−A(p<0.0001)、U1−C(p<0.0001)、SmBB’(p<0.0001)、SmD(p<0.0001)、dsDNA(p<0.0001)及びヒストン(p<0.0001)と有意な相関があったが、Ro−52(p=0.2192)、Ro−60(p=0.2212)及びLa(p=0.8785)とは有意な相関がなかった(表4参照)。
【0044】
表4.SLEにおける抗−S33陽性結果と他のAab種との間の関連
【0045】
【表4】

【0046】
Sm複合体に対する反応性に着目すると、無作為選択したSLE患者(n=101)のうち5例が精製SmD抗原と反応したが、S33ペプチドとは反応しなかった。残りの11例のSmD陽性血清(68.8%)も、この新規抗−S33ペプチドELISAにおいて陽性であると分析された。興味深いことに、抗−S33陽性試料のうち、4名の患者(#89、#92、#20627、#9811)の全てが抗−SmD陰性で、それぞれ15.4、21.3、41.3及び13.9ユニットの抗−S33ペプチド反応性を示した。
【0047】
様々な製造元の市販の抗−Sm抗体テストとの相関を評価するために、SLE患者群由来の50検体の無作為選択SLE血清及び100検体の対照を、様々な製造元の抗−Sm抗体テストを用いて試験した。この抗−S33抗体テストにおいて50検体のSLE血清のうち6検体(12%)が陽性となったが対照では陽性になったものはなく(0%)、その結果、12%の感度及び100%の特異性となった。一方、様々な製造元の抗−Smアッセイ、SmテストA、B及びCでは、わずか5検体のSLE試料(10%)しか陽性とならず、対照群の患者では、6検体(SmテストA、C)から12検体(SmテストD)が陽性となった。偽陽性となった結果のほとんどがMCTD患者の群で見られた(表5参照)。
【0048】
表5.様々な製造元のテストにおける対照血清(主にMCTD)の反応性
【0049】
【表5】

【0050】
SLE患者の追跡研究
男性SLE患者を臨床的及び血清学的に18ヶ月の期間にわたり観察した(6検体の血清試料;図3参照)。追跡研究の最初に、この患者はRNP/Sm複合体(比率18)、Sm抗原(比率 6)、新規Sm抗原(337.5U/ml)に対して強い免疫反応を示し、単離U1−RNP複合体(比率 2)ならびにヒストン(59.5U/ml)に対して中程度の反応を示した。dsDNAに対する反応性は見られなかった(19.1U/ml;カットオフ値 55U/ml)。その時点で、医療記録によると、疾患の非活動フェーズであると報告されていた。後に、新規Sm抗原に対する抗体に対する抗体力価が顕著に上昇し、1999年8月に採取した3番目の血清試料においてピークに到達した。一方、抗−RNP/Smタイターは、2番目と4番目の血液試料との間で上昇が観察され、5番目の試料においてさらに強い上昇が見られた。その時点で、新規Sm抗原(S33)に対するタイターは、以前よりも低下しており、疾患の状態は、医療記録によると非活動として報告されていた。その患者の観察期間中に抗−dsDNA及び抗−ヒストンタイターにおいては顕著な変化が観察されなかった。
【0051】
示した実施例において、Sm抗原 D1及びD3に対して、抗−Sm免疫反応を分析したが、これらはSLE特異的ポリペプチドと考えられる(van Venroojiら、1991;Hochら、1999)。固定化ペプチドを用いて、両自己抗原においてアルギニン残基の対称ジメチル化が主要なB細胞エピトープの形成に重要な役割を果たすことが示された。この観察は、Brahmsら(2000)の結果とよく一致しており、従って、Riemekasten及び共同研究者ら(1998)の知見とは矛盾していた。興味深いことに、先行研究に加えて、既に述べたように、ペプチドに関して、SmD3ペプチドはSmD1由来のものよりも特異性が高いことが分かった。
【0052】
McClain及び共同研究者ら(2002)は、SmD3の4個の抗原性領域について述べているが、そのうち抗原領域4は、104−126の領域を包含している。この発明において、ピン上で合成したペプチドを分析に供したが、アルギニンの修飾型は用いなかった。本発明において、この領域内の反応性は、天然アルギニンをsDMAに置換した場合にのみ見られる。これらの矛盾する結果は、異なる血清、方法の使用及び/又はペプチドの長さが様々であることにより説明できるであろう。5種類の血清のうち3種類が、この実施例のペプチド、108AAsdRGsdRGsdRGMGsdRGNIF122を特異的に認識した。
【0053】
興味深いことに、決められた位置(aa 112)で1個のアルギニンのみをジメチル化することにより、特異性を失うことなく、この特定のミモトープペプチドの感度をさらに向上させることができる。このデータに基づき、候補ペプチド(108AARGsdRGRGMGRGNIF122)を使用してELISAシステムを開発した。この新規抗−Smアッセイ(抗−S33)は、ループスに対して14.9%の感度及び99.7%の特異性を示し、その結果、陽性的中率(PPV;93.7%)及び陰性的中率(NPV;80.2%)が高くなり、したがって高い診断効率(80.7%)が得られたことが示された。したがって、相関研究により明らかになったように、このテストにより、全身性エリテマトーデス診断、特にSLEとMCTDとの鑑別に対する新たな機会が得られる。
【0054】
同定されたSm−エピトープの生化学的特性に着目すると、pIがSm複合体の抗原性の予想因子とみなすことができることが分かる。U1−RNP−A、SmB’及びD1において、抗原性領域の平均pIは、10.4(非抗原性領域は6.0)であり、SmD2及びD3では、pIが9.0を超えていた(McClainら、2002)。これらの独創的な知見は、S33ペプチドのpIが高値(>12.88)であることとよく一致する。塩基性の性質であることが単純にこれらの領域の表面露出、つまり抗体へ接触の可能性を上昇させているだけであるか否かについて、さらに調べる必要がある。
【0055】
EBV、EBVA及び抗−SmD抗体
SmD1におけるエピトープマッピング研究により、エプスタインバーウイルス核抗原1(EBNA−1)の相同配列 35−58と交差反応するエピトープモチーフ(aa95−119)が同定された(Sabbatiniら、1993;Sabbatiniら、1993;Marchiniら、1994)。さらに最近の研究により、このエピトープがグリシンアルギニンリピート(RGRGRGMGR)を含有するSmD3の相同領域とも交差反応することが示された(McClainら、2002)。さらに、GPRR(SmD1のaa 114−119)が共通の交差反応性自己エピトープモチーフを表し、それはEBNA−1においてだけでなく、CENP−A、B、C、SmBB’、SmD1及びRo−52(これらはごく一部である。)を含む様々な自己抗原においても存在することが明らかになった(Mahlerら、2001)。したがって、感染性単核球症又はSLE関連疾患の患者は、SmD1又はSmD3のC−末端伸長を用いたELISAにおいて偽陽性となる可能性がある。さらに、あるいくつかの研究から、ループス様状態の進行におけるEBVの影響が示唆される(Jamesら、1997)。したがって、EBV陽性血清を対照として使用することは、特異性及び信頼性が高い抗−SmD免疫アッセイに向けての重要な発見であると考えられる。提示された25例のEBV疾患対照の中で偽陽性の試料が見られなかったことから、抗−S33−absアッセイが高い特異性を有するという示唆が裏付けられる。残念ながら、Riemekasten及び共同研究者ら(1998)は、それらのテストの評価にこの患者群を含めていなかった。
【0056】
他の自己抗体種に対する相関
DNAとSm抗原との間で重複する反応性があることを報告している文献がある(Bloomら、1993;Reichlinら、1994;Zhangら、1995)。これらの研究においては全長SmDが使用されているが、一方、本発明においては抗−dsDNA及び抗−S33反応性の相関もあった(p<0.0001)。DNAの他に、本発明では、U1−68(p<0.0001)、U1−A(p<0.0001)、U1−C(p<0.0001)、SmBB’(p<0.0001)、Sm(p<0.0001)及びSmD(p<0.0001)に対する抗−S33の正相関も示されたが、ヒストン(p=0.0259)、La(p=0.8747)、Ro−52(p=0.4034)及びRo−60(p=0.0143)に対する相関関係は示されなかった。観察された関連性が、交差反応性により生じるのか、又は同時に生じることが多い異なる自己抗体種により生じるのか否かについては依然として分かっていない。この問題をさらに明らかにするために、さらなる研究に取り組む必要がある。
【0057】
RiemekastenとBrahms
RiemekastenらとBrahmsらの結果が明らかに矛盾することは、SmD1のC−末端伸長に様々なエピトープが存在することにより説明することが可能であろう。ペプチドaa 83−119(Riemekastenら、1989)は立体エピトープを形成し得るが、一方で、第二の研究で使用された短いペプチドは、直線状の、sDMA依存性結合部位を含有する(Brahmsら、2000)。さらに、SmD183−119ペプチドと比較して、全長SmD1に対する反応性が低下している(Riemekastenら、1998)ことから、このペプチドエピトープが隠れた構造を示すことが示唆される。この観察により、どのエピトープがインビトロで「見られ」、どのエピトープがSLEの発症機序において中心的役割を果たすのか、という疑問が浮上する。最近の研究において、キャリアタンパク質と融合させたSmD183−119の注射により、ループス傾向のマウスの発病過程を加速することが可能であることが明らかとなった(Riemekastenら、2001)。
【0058】
「ループス」症候群
関節リウマチ(RA)及び全身性エリテマトーデス(SLE)は、自己免疫病因の関連疾患である。両疾患とも、一定の構造に対する自己反応性抗体の出現を伴う。いくつかの研究において、RAとループスとの間の重複する症候群が報告されており、従って、「ループス」症候群と呼ばれることがある(Miyachi及びTan,1979;Panushら、1988;Brandら、1992)。本実施例において、RA群内で、抗−S33反応性(24.6U/ml)を示す患者が見出された。この結果が偽陽性の試験結果を反映するか否か、又は本S33ペプチドに対する自己抗体がループス様状態の前駆体となるか否かについては未だ明らかではなく、取り組むべき問題である。
【表6】




【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1a】SmD1及びSmD3のエピトープ分析。SmD1(a)及びSmD3(b)のC−末端伸長をペプチドアレイとして合成し(15マー、aaカットオフ)、患者の血清を用いて調べた。免疫活性ペプチド番号77をミモトープ変異体(c)としてさらに試験した。
【図1b】SmD1及びSmD3のエピトープ分析。SmD1(a)及びSmD3(b)のC−末端伸長をペプチドアレイとして合成し(15マー、aaカットオフ)、患者の血清を用いて調べた。免疫活性ペプチド番号77をミモトープ変異体(c)としてさらに試験した。
【図1c】SmD1及びSmD3のエピトープ分析。SmD1(a)及びSmD3(b)のC−末端伸長をペプチドアレイとして合成し(15マー、aaカットオフ)、患者の血清を用いて調べた。免疫活性ペプチド番号77をミモトープ変異体(c)としてさらに試験した。
【図2a】新規抗−S33アッセイのアッセイ性能特性。アッセイ内及びアッセイ間の変動a.)、直線性(b.)及び、陽性的中率(PPV)、陰性的中率(NPV)及び様々なカットオフにおける効率(c.)を含む、受信者動作特性 ROC−分析。
【図2b】新規抗−S33アッセイのアッセイ性能特性。アッセイ内及びアッセイ間の変動a.)、直線性(b.)及び、陽性的中率(PPV)、陰性的中率(NPV)及び様々なカットオフにおける効率(c.)を含む、受信者動作特性 ROC−分析。
【図2c】新規抗−S33アッセイのアッセイ性能特性。アッセイ内及びアッセイ間の変動a.)、直線性(b.)及び、陽性的中率(PPV)、陰性的中率(NPV)及び様々なカットオフにおける効率(c.)を含む、受信者動作特性 ROC−分析。
【図3】男性SLE患者を18ヶ月の期間にわたり、臨床的及び血清学的に観察した。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
全身性エリテマトーデス(SLE)の患者由来の血清中に存在する抗体と反応することができる、対称ジメチル化アルギニン(sDMA)を含む15個から16個のアミノ酸を含有するペプチド(S33)。
【請求項2】
アミノ酸配列
AARGsdRGRGMGRGNIF
を含む、請求項1に記載のS33ペプチド。
【請求項3】
前記ジメチル化アルギニンが、SmD3のポリペプチド配列において112番の位置にある、請求項1及び2に記載のペプチド。
【請求項4】
前記対称ジメチル化アルギニンの構造が、
【化1】

である、請求項1から3のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項5】
全身性エリテマトーデス(SLE)患者の診断のための、全身性エリテマトーデス(SLE)患者由来の血清中に存在する抗体と反応することができる、対称ジメチル化アルギニン(SDMA)を含む15個から16個のアミノ酸を含有するペプチド(S33)の使用。
【請求項6】
SLE患者と混合性結合組織病(MCTD)患者とを見分ける鑑別診断のための、請求項5に記載のペプチド(S33)の使用。
【請求項7】
前記診断が、SLEのインビトロ診断である、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
前記ペプチドが、dsDNA陰性SLE患者の疾患活性のインビトロ監視のために使用される、請求項5に記載の使用。
【請求項9】
前記ペプチドが、SLEとMCTDとの鑑別のために使用される、請求項5に記載の使用。
【請求項10】
前記ペプチドが、アミノ酸配列
AARGsdRGRGMGRGNIF
を含む、請求項5から9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
前記ジメチル化アルギニンが、SmD3のポリペプチド配列において112番目の位置にある、請求項5から10のいずれかに記載のペプチドの使用。
【請求項12】
請求項1に記載のペプチドを含有する、多量体ペプチドの使用。
【請求項13】
前記対称ジメチル化アルギニンの構造が、
【化2】

である、請求項5から12のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
アミノ酸のうち1個が対称ジメチル化アルギニン(sDMA)であり、全身性エリテマトーデス(SLE)患者由来の血清中に存在する抗体と反応することができる、15個から16個のアミノ酸のペプチド(S33)を含む、前記抗体の検出のためのキット。
【請求項15】
前記ペプチドが、SLEのインビトロ診断のために使用される、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
SLEと混合性結合組織病(MCTD)とを区別するための鑑別診断に前記ペプチドが使用される、請求項14に記載のキット。
【請求項17】
前記ペプチドが、アミノ酸配列
AARGsdRGRGMGRGNIF
を含む、請求項14から16のいずれかに記載のキット。
【請求項18】
前記ジメチル化アルギニンが、SmD3のポリペプチド配列において112番の位置にある、請求項14から17のいずれかに記載のペプチドの使用のためのキット。
【請求項19】
前記対称ジメチル化アルギニンの構造が、
【化3】

である、請求項14から18のいずれかに記載のキット。
【請求項20】
治療効果又は疾患活性を監視するために、前記抗体の力価を追跡するための反復試験を行うことを含む、疾患活性を監視するための方法。

【図3】
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【公表番号】特表2007−528840(P2007−528840A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508002(P2006−508002)
【出願日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【国際出願番号】PCT/SE2004/000526
【国際公開番号】WO2004/087745
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(502043547)フアデイア・アー・ベー (2)
【Fターム(参考)】