分泌組換えタンパク質を濃縮する方法及び組成物
分泌組換えタンパク質の濃縮調製物を得ることに関係する方法及び組成物を記述する。このタンパク質は、キチン結合ドメイン(CBD)との融合タンパク質の形態で発現される。融合タンパク質は、キチンの存在下で濃縮することができる。改変LAC4プロモーターを含むシャトルベクター、キチナーゼ陰性宿主細胞、非変性条件下でキチンから溶出可能なCBD、及び組換えタンパク質の回収を容易にするために磁化されていてもよい滅菌キチンも記述する。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)のβ−1,4−連結非分岐ポリマーであるキチンは、セルロースに次いで地球上で2番目に豊富なポリマーである。キチンは、昆虫の外骨格(Merzendorfer, H., et al., J. Exptl. Biol. 206:4393−4412(2003)、無脊椎動物甲殻類の殻及び真菌細胞壁(Chitin and Chitinases, ed. P. Jolles and R.A.A. Muzzarelli, pub. Birkhauser Verlag: Basel, Switzerland(1999)中のRiccardo, A., et al. “Native, industrial and fossil chitins”)の主成分である。キチナーゼは、キチンのβ−1,4−グリコシド結合を加水分解し、原核生物、真核生物及びウイルス中に存在する。酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、キチナーゼは、効率的細胞分離において形態学的役割を果たしている(Kuranda, M., et al. J. Biol. Chem. 266: 19758−19767(1991))。また、植物は、キチン含有病原体に対する防御としてキチナーゼを発現する。実際、トランスジェニック植物におけるキチナーゼ遺伝子の異種発現は、ある種の植物病原体に対する耐性を高めることが判明した(Carstens, M., et al. Trans. Res. 12:497−508(2003); Itoh, Y., et al. Biosci. Biotechnol. Biochem. 67:847−855(2003); Kim, J. et al. Trans. Res. 12:475−484(2003))。キチナーゼは、アミノ酸配列の類似性に基づいてグリコシル加水分解酵素のファミリー18又はファミリー19に属する(Henrissat, B., et al. Biochem. J. 293:781−788(1993))。キチナーゼ触媒ドメイン配列のファミリー間の相違は、生成物のアノマー配置の保持(ファミリー18)又は反転(ファミリー19)をもたらす異なるキチン加水分解機序を反映している(Chitin and Chitinases, ed. P. Jolles and R.A.A. Muzzarelli, pub. Birkhauser Verlag: Basel, Switzerland(1999)中のRobertus, J.D., et al. “The structure and action of chitinases”)。
【0002】
大部分のキチナーゼは、互いに独立に機能する別個の触媒ドメインと非触媒ドメインとを含むモジュールドメイン構造を有する。O−グリコシル化Ser/Thrに富む領域は、これら2個のドメインをしばしば分離して、タンパク質分解の防止に役立ち、又はキチナーゼの分泌を助けることができる(Arakane, Y.,Q. et al. Insect Biochem. Mol. Biol. 33:631−48(2003))。非触媒キチン結合ドメイン(CBD。ChBDとも称される。)は、タンパク質配列類似性に基づく3つの構造クラス(タイプ1、2又は3)の1つに属する(Chitin and Chitinases, ed. P. Jolles and R.A.A. Muzzarelli, pub. Birkhauser Verlag: Basel, Switzerland(1999)中のHenrissat, B. “Classification of chitinases modules”)。個々のキチナーゼに応じて、CBDの存在は、触媒ドメインによるキチン加水分解を促進(Kuranda, M., et al. J. Biol. Chem. 266: 19758−19767(1991))又は阻害(Hashimoto, M., et al. J. Bacteriol. 182:3045−3054(2000))する。
【0003】
CBDはサイズが小さく(約5−7kDa)、キチンに対して基質結合特異性及び高結合力を有することから、キチン表面へのタンパク質の固定用親和性タグとして利用されている(Bernard, M.P., et al. Anal. Biochem. 327:278−283(2004); Ferrandon, S., et al. Biochim. Biophys. Acta. 1621: 31−40(2003))。例えば、B.サーキュランス(B.circulans)キチナーゼA1タイプ3 CBDは、細菌中で発現された融合タンパク質のキチンビーズ上の固定化に使用され、インテインによって媒介されるタンパク質スプライシング(Ferrandon, S., et al. Biochim. Biophys. Acta. 1621: 31−40(2003))及びキチン被覆マイクロタイター皿(Bernard, M. P., et al. Anal. Biochem. 327:278−283(2004))の基盤をなしている。真核生物タンパク質発現系は、細菌系では不可能な生物学的プロセス(例えばタンパク質グリコシル化、シャペロンによって媒介されるタンパク質折りたたみなど)が可能であるので、CBD標識タンパク質を真核細胞から分泌させることが望ましい。しかし、多数の真核細胞、特に真菌は、キチン結合部位についてCBD標識タンパク質と競合することによって、キチン固定化処理中にCBD標識タンパク質と同時に精製されることによって、また、標的キチン被覆表面を劣化させることによって、CBD標識タンパク質のキチンへの固定化を複雑にする内因性キチナーゼを分泌する。
【0004】
宿主細胞から周囲の培地に分泌されたタンパク質は実質的に希釈されるので、多量に精製することになり、費用がかかり、厄介である。分泌された培地からタンパク質を分離する費用を削減し、分離を容易にすることが望ましい。
【0005】
多量の培地からタンパク質を精製するには様々な手法がある。これらの手法は、精製に要する費用、効率及び時間が様々である。例えば、分泌培養物中のタンパク質は、沈殿によって収集することができる。この手法は、硫酸アンモニウム、アセトン、トリクロロ酢酸などの多量の沈殿剤の添加と、それに続く遠心分離又はろ過が必要である。これらの沈殿剤の多くは有毒又は揮発性であり、全ての沈殿剤でタンパク質収集にかなりの追加費用がかかる。さらに、沈殿によって、タンパク質機能がかなり失われる恐れがある。
【0006】
別の手法は、陰イオン/陽イオン交換樹脂、疎水的相互作用樹脂、サイズ排除ゲルなどの様々な樹脂を用いたクロマトグラフィーである。クロマトグラフィーによってタンパク質を収集するには、使用した培地全てを樹脂に低流量(典型的には、1−10ml/min)で通過させる必要がある。これは、多量の培地を処理しなければならない場合には、きわめて時間がかかる恐れがある。例えば、使用培地100リットルを流量5ml/minで樹脂に通すには333時間の処理時間がかかる。さらに、これらのタイプのクロマトグラフィー樹脂は、標的タンパク質のみを選択的に精製せず、多段階精製プロセスにおいて他の方法と併用しなければならないことが多い。
【0007】
タンパク質構造中に組み込まれたペプチド配列と特異的に結合するアフィニティークロマトグラフィー樹脂は、標的タンパク質を選択的に精製することができるのでしばしば使用される。典型的な戦略において、ペプチド配列(例えば、ペプチド抗体エピトープ又はヘキサヒスチジン配列)を操作して所望のタンパク質配列に入れる。これらの標識と一緒に発現されるタンパク質は、対応する樹脂(例えば、固定化抗体を有する樹脂又はヘキサヒスチジン結合用ニッケル樹脂)と特異的に相互作用する。これらの方法は、少量から高度に精製されたタンパク質を生成することが多いが、大量プロセスでの実用性においてはその費用及び性能面で限界がある。例えば、抗体親和性樹脂はきわめて高価である。ニッケル樹脂は、ヒスチジン残基配列を偶然に含む望ましくないタンパク質と一緒に精製される恐れがある。
【0008】
ビーズを含めて、磁性担体を使用する磁性技術は、培養物からタンパク質を精製するのに使用されてきた(Safarik et al. Biomagnetic Research and Technology 2:7(2004))。この手法の問題は、個々の分泌タンパク質に結合するように各磁気ビーズ試薬をカスタマイズする必要があることである。これは、親和性リガンドをビーズに付着させる複雑な化学反応を必要とし得る。これも効率及び費用の面で障害になっている。
【0009】
分泌タンパク質と基質との天然の親和性を利用する場合もある。例えば、リゾチームはキチンとの結合親和性を有する。その結果、ニワトリ卵白酵素をキチンに曝すと、それを精製することができる(Safarik et al. Journal of Biochemical and Biophysical Methods 27:327−330(1993))。
【発明の開示】
【0010】
本発明の一実施形態においては、分泌組換えタンパク質の濃縮調製物を得る方法を提供する。この方法は、(a)CBDと標的タンパク質とを含む融合タンパク質をコードするDNAを含むベクターを用いて宿主発現細胞を形質転換すること、(b)融合タンパク質を、宿主発現細胞中に発現させ、該宿主発現細胞から分泌させること、及び(c)分泌組換えタンパク質の濃縮調製物が得られるように非変性条件下で所望の緩衝剤体積中に溶出可能である分泌された融合タンパク質をCBDによってキチン調製物に結合させること、の各段階を含む。
【0011】
本発明の別の実施形態においては、分泌組換えタンパク質の濃縮調製物を得る方法を提供する。この方法は、(a)シャトルベクターを用意すること(該シャトルベクターは(i)E.コリ(E. coli)中のプラスミドであり及び酵母発現細胞のゲノム中に組み込まれており、および(ii)CBDと標的タンパク質とを含む融合タンパク質をコードするDNAを含む。)、(b)酵母宿主発現細胞中に融合タンパク質を発現させるシャトルベクターを用いてキチナーゼ欠乏宿主発現細胞を形質転換し、該キチナーゼ欠乏宿主発現細胞から融合タンパク質を分泌させること、及び(c)分泌タンパク質の濃縮調製物が得られるように、分泌融合タンパク質をCBDによってキチン調製物に結合させることの各段階を含む。
【0012】
両方の実施形態は、シャトルベクターを用いて例示される。シャトルベクターは、ある実施形態においては、クローン化することができるが、E.コリ中では発現されず、宿主発現細胞中で発現させることができる。シャトルベクターのこのタイプの例は、改変LAC4プロモーターを含むシャトルベクターであり、さらにpKLAC1によって例示される。
【0013】
両方の実施形態は、キチナーゼが欠乏した宿主発現細胞を用いても例示される。宿主発現系は、酵母細胞、例えば、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、ヤロウィア(Yarrowia)、ピキア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)及びサッカロミセス(Saccharomyces)種から選択される単一酵母種とすることができる。酵母細胞がクルイベロミセス種である場合には、酵母細胞はクルイベロミセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)変種フラギリス(fragilis)又はラクチス(lactis)から選択することができる。
【0014】
上記実施形態の例においては、キチンは、培養中に、又は培養の最後に、培地中の酵母細胞に添加することができる。さらに培養する場合には、キチンは無菌にすべきである。キチンは、被膜、コロイド、ビーズ、カラム、マトリックス、シート又は膜とすることができる。キチンがビーズである場合には、ビーズは多孔質でも非多孔質でもよい。キチンビーズを磁化することもできる。
【0015】
融合タンパク質は、磁力をかけることによって、磁化されたキチンに結合すると回収することができる。結合条件とは異なる非変性条件下で融合タンパク質がキチンから遊離し得るように、キチンに対する融合タンパク質の結合が可逆的であってもよい。
【0016】
本発明の一実施形態においては、クルイベロミセス細胞調製物は、分泌キチナーゼを発現するキチナーゼ遺伝子中の変異の結果であるキチナーゼネガティブ表現型を特徴とし、野生型クルイベロミセス細胞と類似の細胞密度にまで増殖可能である。細胞密度とは、培養48時間における細胞の乾燥重量を指す(Colussi et al. Applied and Environmental Microbiology 71:2862−2869(2005))。
【0017】
好ましくは、クルイベロミセス細胞調製物は、組換え融合タンパク質を発現し、分泌することができる。発現は、LAC4プロモーター又はその改変体によって調節することができ、例えば、クルイベロミセス中でタンパク質を発現するが、E.コリ中ではタンパク質を実質的に発現しない、改変LAC4プロモーターを有するシャトルベクターを用いて調節することができる。シャトルベクターの例はpKLAC1である。
【0018】
上記クルイベロミセス細胞調製物は、クルイベロミセスの増殖及び維持の少なくとも一方が可能である培地を含むことができる。培地は滅菌キチンを含むこともできる。滅菌キチンは、培地中に配置された磁石に、又は培地を含む容器と接触している磁石に、結合可能である磁気ビーズの形とすることができる。
【0019】
タンパク質を産生する宿主細胞からタンパク質が培地中に分泌された後、タンパク質を濃縮する方法を本明細書に記載する。本方法は、キチンに対するCBDの結合親和性を利用し、キチナーゼを分泌しない細胞を使用することによって促進することができる。キチナーゼ陰性細胞は遺伝子改変の結果として作製することができ、又は天然に存在し得る。これらのキチナーゼ欠乏改変細胞は、野生型細胞と類似の密度に、野生型細胞に匹敵する収率で増殖し得ることが望ましい。宿主細胞は、比較的多量の標的タンパク質が宿主細胞によって産生培地中に分泌されるように、適切なプロモーターの下でCBDを発現するDNAと融合した標的遺伝子をコードするベクターで形質転換することができる。キチン基質は、産生培地中に、又は標的タンパク質を混合物から抜き出す別個の反応器中に、存在することができる。CBD融合タンパク質が結合すると、分泌組換えタンパク質がキチン表面に濃縮される。タンパク質は、幾つかの手法のいずれかを用いてさらに濃縮することができる。例えば、一実施形態においては、キチンを磁化し、磁場を産生培地にかけ、磁性表面に隣接するキチンビーズを濃縮する。他の実施形態は、遠心分離によるキチンビーズの沈殿を含む。次いで、標的タンパク質を濃縮キチン基質から回収することができる。
【0020】
「濃縮」という用語は、手順を実行した後の重量と体積の比が手順前よりも大きいことを指す。
【0021】
キチナーゼ発現をノックアウトする宿主細胞の改変
組換えCBD標識タンパク質の分泌に好ましい宿主細胞環境は、(i)CBDを含む分泌融合タンパク質の調製物を汚染するキチン結合タンパク質もキチン分解活性も生じない環境、(ii)培養において高細胞密度を得ることができる環境及び(iii)組換えタンパク質を効率的に分泌することができる環境である。キチナーゼを分泌しない宿主細胞の利点としては、(i)キチン結合部位に対するCBD標識タンパク質と内因性キチナーゼとの競合の排除、(ii)内因性キチナーゼによる、キチンに固定された融合タンパク質の汚染リスクの排除、(iii)内因性キチナーゼによる標的キチンマトリックスの分解の排除などが挙げられる。
【0022】
適切な宿主細胞としては、様々な昆虫細胞培養物の産生系、哺乳動物細胞系、酵母産生系統、細菌細胞などが挙げられる。
【0023】
製造目的でタンパク質を分泌する細胞の例としては、E.コリ、サルモネラ(Salmonella)種、バチルス(Bacillus)種、ストレプトミセス(Streptomyces)種など)、植物細胞(例えば、シロイヌナズナ種、イチイ種、ニチニチソウ種、タバコ種、イネ種、ダイズ、アルファルファ、トマトなど)、真菌細胞(例えば、クルイベロミセス(Kluyveromyces)種、サッカロミセス種、ピキア種、ハンゼヌラ種、ヤロウィア種、ニューロスポラ(Neurospora)種、アスペルギルス(Aspergillus)種、ペニシリウム(Penicillium)種、カンジダ(Candida)種、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)種、クリプトコッカス(Cryptococcus)種、コプリナス(Coprinus)種、ウスチラゴ(Ustilago)種、マグナポルテ(Magnaporth)種、トリコデルマ(Trichoderma)種など)、昆虫細胞(例えば、Sf9細胞、Sfl2細胞、イラクサギンウワバ細胞、ショウジョウバエ種など)又は哺乳動物細胞(例えば、一次細胞系、HeLa細胞、NSO細胞、BHK細胞、HEK−293細胞、PER−C6細胞など)が挙げられる。これらの細胞は、マイクロリットル体積からリットル体積の培養で増殖させることができる。
【0024】
ここでは、クルイベロミセス種を用いて、CBDと融合した分泌タンパク質を混合物から迅速かつ容易に分離することができる方法を説明する。本発明の実施形態によるクルイベロミセス属の酵母としては、van der Walt in The Yeasts, ed. N.J.W. Kregervan Rij: Elsevier, New York, NY, p.224(1987)に規定されている酵母などが挙げられ、K.マルキシアヌス変種ラクチス(K.ラクチス)、K.マルキシアヌス変種マルキシアヌス(K.フラギリス)、K.マルキシアヌス変種ドロソフィラルム(drosophilarum)(K.ドロソフィラルム)、K.ワルチ(waltii)、当分野でクルイベロミセスに分類される他の系統などが挙げられる。
【0025】
1種類以上のキチナーゼを天然に分泌する宿主細胞においては、キチナーゼ欠失変異体は遺伝子改変によって作製することができる。遺伝子改変とは、標的遺伝子中の1個以上の塩基の抑制、置換、欠失又は付加のいずれかを指す。かかる改変は、インビトロで(単離DNA上で)又は生体内原位置で、例えば、遺伝子工学技術によって、或いは宿主細胞を放射(X線、ガンマ線、紫外線など)又はDNAの塩基の様々な官能基と反応可能な化学薬品及び例えばアルキル化剤:エチルメタンスルホナート(EMS)、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、N−ニトロキノリン1−オキシド(NQO)、ビアルキル化剤、挿入剤などの変異誘発物質に暴露することによって、得ることができる。また、標的遺伝子の発現は、キチナーゼをコードする領域の一部及び/又は転写プロモーター領域の全部若しくは一部を改変することによって抑制することができる。
【0026】
遺伝子改変は、遺伝子破壊によって得ることもできる。キチナーゼの遺伝子破壊の例を実施例1でクルイベロミセス ラクチスについて示す。実施例に記載の方法は、あらゆるクルイベロミセス種に広範に適用することができる。
【0027】
実施例1では、KlCts1pをコードするキチナーゼ遺伝子を、K.ラクチスキラープラスミドを好ましくは欠く工業用K.ラクチス系統(GG799)において破壊した。破壊は、キチナーゼ遺伝子の一部、例えば、G418耐性カセットなどの選択マーカー遺伝子を有する天然のK.ラクチスキチナーゼ遺伝子の最初の168個のアミノ酸を置換することによって起こった。
【0028】
K.ラクチスGG799 Δcts1細胞は、野生型細胞と同じ高細胞密度を培養で得ることができ(実施例2)、検出可能なキチンに結合する又はキチンを分解する活性を有するタンパク質を産生せず(図3A)、組換えタンパク質を豊富に分泌することができた(図6)。この系統は、組換えCBD標識タンパク質の産生用宿主として十分適していることが判明した。
【0029】
産生目的のためには、キチナーゼ陰性変異体宿主細胞は、検出可能なキチンに結合する又はキチンを分解する活性を有する分泌タンパク質が欠乏しているにもかかわらず、野生型細胞と類似の高細胞密度を培養で実現することが望ましく、これらの細胞は組換えタンパク質を豊富に分泌できることが望ましい。従って、キチナーゼ陰性宿主細胞は、直接的に、又は産業上の有用性を有するリンカーペプチド若しくは連結化学基を介して、CBDと連結された精製組換えタンパク質を効率的に製造する発酵に使用することができる。
【0030】
高レベルのタンパク質を酵母中で発現させ、分泌させるためのベクターの設計及び使用
様々な酵母用発現ベクターの例は、クルイベロミセスについては、Muller et al. Yeast 14: 1267−1283(1998)並びに米国特許第4,859,596号、同5,217,891号、同5,876,988号、同6,051,431号、同6,265,186号、同6,548,285号、同5,679,544号及び米国特許出願第11/102,475号に記載されている。
【0031】
発現ベクターは外来性とすることができる。例えば、YEp24は、サッカロミセス セレビシエ中での遺伝子過剰発現に使用されるエピソームシャトルベクターである(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)。サッカロミセス セレビシエ用エピソームシャトルベクターの他の例はpRS413、pRS414、pRS415及びpRS416である。クルイベロミセス中の自己複製ベクターとしては、pKD1(Falcone et al., Plasmids 15:248(1986); Chen et al., Nucl. Acids Res. 14:4471(1986))、pEW1(Chen et al., J. General Microbiol. 138:337(1992))などが挙げられる。完全なpKD1ベクターに加えて、pKD1複製開始点とシス作用性安定部位(stability locus)(CSL)とを含むより小さなベクターが構築され、K.ラクチス中での異種タンパク質発現に使用された(Hsieh, et al. Appl. Microbiol. Biotechnol. 4:411−416(1998))。他のエピソームベクターもK.ラクチス中で複製される。動原体(cen)と自己複製配列(ars)の両方を有するプラスミドは、K.ラクチス中での真菌cDNAの発現クローニングに使用された(van der Vlug−Bergmans, et al. Biotechnology Techniques 13:87−92(1999))。さらに、K.ラクチスARS配列(KARS)を含むベクターは、真菌α−ガラクトシダーゼ(Bergkamp, et al. Curr Genet. 21:365−70(1992))及び植物α−アミラーゼ(Strasser et al. Eur. J. Biochem. 184:699−706(1989))の発現に使用された。
【0032】
他のベクターも宿主ゲノムに組み込むことができる。例えば、クルイベロミセスのゲノムに組み込まれたプラスミドについては米国特許第6,602,682号、同6,265,186号及び米国特許出願第11/102,475号。
【0033】
ベクターは、(i)強力な酵母プロモーター、(ii)(培地中へのタンパク質の分泌が所望の場合)分泌リーダー配列をコードするDNA、(iii)発現されるタンパク質をコードする遺伝子、(iv)転写ターミネーター配列及び(v)酵母選択マーカー遺伝子の少なくとも1つを含むべきである。これらの配列成分は、典型的には、E.コリ中のプラスミドベクター中で組み立てられ、次いで酵母細胞に移されてタンパク質を産生する。このタイプのベクターはシャトルベクターと呼ばれる。
【0034】
シャトルベクターは、宿主細胞を形質転換する前にE.コリ中で調製することができるので好ましいが、本発明の実施形態はシャトルベクターに限定されない。
【0035】
例えば、酵母ゲノムに組み込むことができるDNA断片を、PCR又はヘリカーゼ依存性増幅(Helicase−Dependent Amplication)(HDA)によって構築し、酵母細胞に直接導入することができる。或いは、発現ベクターは、E.コリ以外の細菌中で、又は直接酵母細胞中で、クローニング段階によって組み立てることができる。
【0036】
クルイベロミセス中での、より一般的には酵母中でのタンパク質の過剰発現には、酵母宿主に導入すると目的遺伝子の高レベル転写をもたらすのに適切な配列を有するDNA断片を含むシャトルベクターの構築が必要である。例えば、PLAC4は、pKD1系ベクター、2ミクロン含有ベクター、動原体性ベクターなどの組み込みプラスミド又はエピソームプラスミド上に存在すると、酵母中でのタンパク質発現の強力なプロモーターとして機能し得る。(培地中へのタンパク質の分泌が所望の場合)分泌リーダー配列としては、S.セレビシエα−MFプレプロ分泌リーダーペプチドなどを挙げることができる。他の原核生物又は真核生物の分泌シグナルペプチド(例えばクルイベロミセスα−接合因子プレプロ分泌シグナルペプチド、クルイベロミセスキラー毒素シグナルペプチド)又は合成分泌シグナルペプチドを使用することもできる。或いは、分泌リーダーは、所望のタンパク質の細胞発現を得るために、ベクターから全く取り除くことができる。
【0037】
シャトルベクターは、発現のために酵母細胞に導入する前に、細菌中のクローン遺伝子を増殖させることができる。しかし、野生型PLAC4を利用する酵母発現系は、E.コリなどの細菌宿主細胞中でPLAC4の制御下にある遺伝子からタンパク質の偶然の発現による悪影響を受ける恐れがある。このプロモーター活性は、翻訳産物が細菌に有害である遺伝子のクローニング効率を低下させ得る。
【0038】
これだけに限定されないが、K.ラクチスによって例示されるクルイベロミセス種中で強力なプロモーターとして機能する能力を実質的に保持した、変異プリブナウボックス様配列を有するPLAC4変異体を、部位特異的変異誘発によって作製することができる。これらの変異プロモーターは、野生型PLAC4中の未変異プリブナウボックス様配列と実質的に同様に、又はそれ以上に機能する。
【0039】
本明細書では「変異」という用語は、野生型DNA配列中の1個以上のヌクレオチドの置換、欠失又は付加のいずれかを含むものとする。
【0040】
本発明の一実施形態においては、真菌発現宿主は酵母クルイベロミセス種であり、細菌宿主はE.コリであり、および一連のPLAC4変異体は、(a)プロモーターの−198から−212領域、例えば位置−201、−203、−204、−207、−209及び−210は、K.ラクチス中で強力なプロモーターとして機能するプロモーターの能力を実質的に妨害しないことを特徴とし、(b)プロモーターの−133から−146領域、例えば位置−139、−140、−141、−142及び−144は、強力なプロモーター活性を実質的に妨害しないことを特徴とし、又は(c)−198から−212及び−133から−146の領域を組み込むことができることを特徴とし、(d)K.ラクチスPLAC4の−1から−283領域を置換する、S.セレビシエ(Sc)PGKプロモーターの283bp(−1から−283)からなるハイブリッドプロモーターが作製されたことを特徴とする。これらの置換は、米国特許出願第11/102,475号に詳述されている。
【0041】
転写ターミネーター配列の例はTTLAC4である。
【0042】
酵母選択マーカー遺伝子は、例えば、抗生物質(例えば、G418、ハイグロマイシンBなど)に対する耐性を付与する遺伝子、株の栄養要求性を補う遺伝子(例えば、ura3、trp1、his3、lys2など)又はアセトアミダーゼ(amdS)遺伝子とすることができる。形質転換酵母細胞中でのアセトアミダーゼの発現によって、単純な窒素源を欠くがアセトアミドを含む培地上で増殖することが可能になる。アセトアミダーゼは、アセトアミドをアンモニアに分解する。アンモニアは窒素源として細胞が利用することができる。この選択方法の利点は、pKLAC1系発現ベクターの複数の直列組込みを取り込んだ細胞の形質転換体数が増加し、単一の組込みよりも多量の組換えタンパク質が産生されることである(図5)。
【0043】
PLAC4の変異体を含む上記ベクターは、E.コリ/クルイベロミセス組込みシャトルベクター、例えば、pGBN1及びpKLAC1中に挿入される(米国特許出願第11/102,475号)。pGBN1及びpKLAC1はそれぞれコンピテントな宿主細胞の形質転換後にクルイベロミセスゲノム中に組み込まれ、続いてタンパク質の発現をもたらす。
【0044】
米国特許出願第11/102,475号は、酵母、より具体的にはK.ラクチスによって例示されるクルイベロミセス用の変異体PLAC4を含むシャトルベクターを記載しており、米国特許第4,859,596号、同5,217,891号、同5,876,988号、同6,051,431号、同6,265,186号、同6,548,285号、同5,679,544号に記載のベクターよりも改善されている。この改善は、改変LAC4の酵母中での発現の有用性に起因し、また、E.コリ中でタンパク質を発現し得ず、従って細菌クローニング宿主細胞における毒性から生じる諸問題が回避されることに起因する。
【0045】
宿主細胞中へのDNAベクターの導入
DNAを宿主細胞中に導入する方法は、真核生物及び原核細胞に対して十分確立されている(Miller, J.F. Methods Enzymol. 235:375−385(1994); Hanahan, D. et al., Methods Enzymol. 204:63−113(1991))。酵母では、DNAを細胞に導入する標準方法としては、遺伝的交雑、原形質体融合、リチウムを用いた形質転換、エレクトロポレーション、接合又は文献、例えば、Wang et al. Crit Rev Biotechnol. 21(3): 177−218(2001), Schenborn et al. Methods Mol Biol. 130: 155−164(2000), Schenborn et al. Methods Mol Biol. 130: 147−153(2000)に記載の任意の他の技術などが挙げられる。クルイベロミセス酵母の形質転換に関しては、確立された技術は、Ito et al.(J. Bacteriol. 153: 163(1983)), Durrens et al.(Curr. Genet 18:7(1990)), Karube et al.(FEBS Letters 182:90(1985))及び特許出願EP 361 991号に記載されている。
【0046】
溶出性を含めたCBDの諸性質
キチナーゼの成分としてのCBDは、多数の異なる出所、例えば、真菌、細菌、植物及び昆虫から得ることができる。本発明ではキチナーゼに由来するあらゆるCBDを使用することができるが、キチナーゼ触媒活性から分離されたCBDが好ましい。結合を可能にする諸条件とは異なる非変性条件下でキチンから解離可能であるCBDも好ましい。全てのCBDが非変性条件下でキチンから解離可能であるとは限らない。例えば、米国特許第6,897,285号、米国特許公報第2005−0196804号及び同2005−0196841号に記載の通り、B.サーキュランスCBDはキチンと堅固に結合するが、変異をタンパク質に導入しない限り可逆的ではない。これに対し、クルイベロミセス種は、キチンと堅固に結合するが、NaOHなど条件を変えると可逆的に解離することができる(実施例5及び6参照)。
【0047】
クルイベロミセスは、親アルカリ性又は耐アルカリ性タンパク質の可逆的な固定化又は精製を可能にする有効な親和性タグであることが本明細書で例証された、多量に発現され、分泌されるエンドキチナーゼ(KCBD)を産生する。KCBDは、触媒ドメインの非存在下でキチンに結合することができ(例えば図4D参照)、図4D及び6Bに示すように、クルイベロミセス中で異種発現されるタンパク質上の親和性タグとして機能することができ、約5mMから500mMの範囲のNaOHでキチンから解離することができる。これに対して、B.サーキュランス由来のCBD(BcCBD)はこれらが不可能である。
【0048】
CBDに結合するキチンの諸特性
合成又は天然のキチンはCBD融合タンパク質との結合に使用することができる。合成キチンの例は、アセチル化キトサン、重合N−アセチルグルコサミン単糖、多糖若しくはオリゴ糖又は重合グルコサミン単糖、オリゴ糖若しくは多糖である。グルコサミンは続いて化学的にアセチル化される。
【0049】
天然キチンの例は、カニの甲羅、昆虫の外骨格又は真菌の細胞壁に由来するキチンや当分野で公知の出所に由来するキチンである。
【0050】
キチンは、図7に示すように基体上に固定されていてもよい。基体の例は、プラスチックなどのポリマーである。或いは、キチンは集合して、例えば、懸濁液、コロイド、ビーズ、カラム、マトリックス、シート又は膜を形成することができる。キチンは、発酵中に発酵培地に添加するように滅菌することができ、発酵プロセスの最後に融合タンパク質と結合する、滅菌されていない形態で使用することができる。
【0051】
CBDと融合した分泌タンパク質をキチン被覆磁気ビーズを用いて濃縮する一般に適用可能な手法
分泌CBD融合タンパク質に結合するキチン基質は、標的タンパク質を培地から容易に取り出せるように磁化されていてもよい。磁化されたキチンは、キチンを磁性材料と組み合せることによって作製することができる。磁性材料は、鉄のやすり屑などの分散片とすることができる。好ましい実施形態においては、磁化キチンは、ビーズの形態であるが、不活性であってもよい追加の材料への被膜として使用することもできる。好ましい実施形態においては、磁化された材料は磁化キチンであるが、(a)標的タンパク質に結合することができ、又は標的タンパク質との融合体として発現させることができる特性及び(b)磁化することができる材料に結合することができる特性を有する他の磁性材料も使用することができる。
【0052】
一実施形態においては、磁化キチンビーズ(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)を用いて分泌CBD融合タンパク質を結合させる。ビーズのサイズは重要ではないが、直径200nm未満のサイズから形成されるビーズは、滅菌フィルターを通過し、磁力がかけられるまで培地中でコロイドを形成する利点を有する(例えば5,160,726参照)。より大きなビーズを使用することもできる。キチンビーズは中実(例えば、New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)又は多孔質(例えば、JP 62151430)とすることができる。さらに、ビーズは、様々な手段、例えば、鉄のやすり屑をビーズ全体に分散させることによって、又は(鉄にキチンを被覆することによって)鉄の核を有するビーズを形成することによって磁化することができる(例えば5,262,176参照)。本発明で使用する磁化キチンは好ましい実施形態においてはビーズの形態であるが、キチン表面の他の形状及びサイズを排除するものではない。
【0053】
磁気キチンビーズは、細胞培養物の増殖中若しくは増殖後に、又は増殖細胞を培養物から除去した後に、増殖培地に添加することもできる(図9B)。従って、磁化キチンビーズは、その結合特性をさほど変化させずに滅菌できることが本発明では示された。キチンビーズを細胞増殖中に培地に添加するときには、ビーズを滅菌することが好ましい。
【0054】
典型的には、キチンビーズに対するCBD標識タンパク質の最大結合量(図9B、段階4a及び4b)は4℃で1時間以内に生じるが、他の温度及び時間枠も可能である。磁気キチンビーズに固定されたタンパク質を磁場中で収集し(図9B、段階5a及び5b)、細胞、汚染タンパク質及び増殖培地をビーズから洗い流す(図9B、段階6)。次いで、キチンビーズ−タンパク質複合体を磁場から遊離させ(図1B、段階7)、収集したタンパク質は、キチン磁気ビーズ上に無期限に固定することができ(図9B、段階8b)、又は溶出可能なCBDを親和性タグとして用いた場合にはキチンから解離させることができる(図9B、段階8a)。
【0055】
従って、磁化キチンビーズを発酵容器中の培地に添加することによって、標的タンパク質を回収するきわめて効率的な一段階プロセスを実現することができる。細胞は、磁化キチンビーズを含む培地中で増殖し、その結果、分泌CBD標識タンパク質は、培養中にビーズに結合し、発酵容器外部の、又は所望の通りに、発酵容器内部の磁石から磁力をかける簡単な段階によって培地から直接収集することができる(図9−11参照)。この手法は、磁化キチンビーズを滅菌する必要がある。発酵開始時又は発酵中に添加したサイズ50−70μmの滅菌キチンビーズからの収率は、ビーズを発酵終了時に添加した時に得られるタンパク質の収率と類似していることがここに示された(図8)。
【0056】
分泌タンパク質を大きな体積から濃縮する本手法の説得力のある特徴はその普遍性である。本方法は、追加のタンパク質と融合したときにキチンに結合するキチン結合ドメインの能力を利用する。追加のタンパク質の機能は、CBDの存在によって損なわれない。
【0057】
融合タンパク質を分泌する細胞が、キチンに結合するタンパク質をそのままでは確実に産生しないことによって、競合的結合及び汚染が回避される。CBDは、キチンとかなりの結合力で結合する。所望のタンパク質CBD融合タンパク質は、制御条件下で結合が消滅して融合タンパク質を遊離することができるようにCBDを変異させることによって(米国特許第6,897,286号)、或いはインテイン切断システム又はプロテアーゼ切断を用いてタンパク質をCBD−キチン複合体から遊離させることによって(国際公開第2004/053460号、米国特許第5,643,758号)、キチンビーズから回収することができる。さらに、タンパク質分解性切断部位がCBDと所望のタンパク質との間に存在する場合には、CBDタグをプロテアーゼ(例えばエンテロキナーゼ、genenase、フューリン、第X因子など)による消化によって所望のタンパク質から遊離させることができる。
【0058】
CBD−キチン相互作用の堅牢な性質のために、CBD標識タンパク質は、いかなる形態の磁化キチンにでも、例えばビーズにでも、迅速に固定化することができる。
【0059】
磁化キチンがビーズ形態である場合には、結合CBD標識タンパク質を含むキチンビーズを磁場中で数秒で収集することができる。必要に応じて、(溶出可能なCBDを使用した場合)溶出緩衝剤中でインキュベートすることによって、CBD標識タンパク質を磁化基質から解離することができる。この方法の利点としては、速度の改善、高い費用効果、簡易性などが挙げられる。
【0060】
一般的な試験管(例えば、96ウェルマイクロタイター皿、微量遠心管、15mlファルコンチューブ、50mlファルコンチューブ、250mlナルゲンビンなど)に適合した磁気分離装置を使用して、CBD標識タンパク質を数マイクロリットルから数リットルの培地から収集する(図3−6)。手順は、CBD標識タンパク質をより多量の培地から収集できるように容易に拡大することができる。好ましい実施形態においては、磁石は希土類金属(例えばネオジム、サマリウム コバルトなど)で構成されるが、他のタイプの磁石(例えばフェライト、セラミックス、電磁石など)を使用することもできる。
【0061】
発現系の使用
混合物からの標的タンパク質の産生及び分離は、医薬品として、食物として、又は産業用に使用するタンパク質では必要である。発酵を主体とする製造が現在行われているタンパク質又は望ましいタンパク質の一覧は膨大である。少数の例としては、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、アミダーゼ、グリコシダーゼ、キシラナーゼ、ラッカーゼ、リグニナーゼ キモシンなど、又はこれらの断片若しくは誘導体、血液製剤(血清アルブミン、アルファ−又はベータ−グロビン、凝固因子及び例えば第VIII因子、第IX因子、フォンウィルブランド因子、フィブロネクチン、アルファ−1抗トリプシンなど、又はこれらの断片若しくは誘導体など)、インスリン及びその変異体、インターロイキンなどのリンホカイン、インターフェロン、コロニー刺激因子(G−CSF、GM−CSF、M−CSFなど)、TNFなど、又はこれらの断片若しくは誘導体、増殖因子(成長ホルモン、エリスロポイエチン、FGF、EGF、PDGF、TGFなど、又はこれらの断片若しくは誘導体など)、アポリポタンパク質及びその分子変異体、ワクチン製造用抗原性ポリペプチド(肝炎、サイトメガロウイルス、エプスタインバーウイルス、ヘルペスウイルスなど)、単鎖抗体(ScFv)、或いは特に安定化部分に融合した生物活性部分を含む融合体などのポリペプチド融合体が挙げられる。
【0062】
上記及び下記全ての参考文献並びに米国仮出願第60/616,420号及び同60/690,470号を参照により本明細書に組み入れる。
実施例
【実施例1】
【0063】
以下の実施例用の材料及び方法
酵母株、培養条件及び形質転換条件
K.ラクチス株及びS.セレビシエ株(表1)をYPD培地(1%酵母エキス、2%ペプトン及び2%グルコース)又はYPGal培地(1%酵母エキス、2%ペプトン及び2%ガラクトース)中で30℃で常法に従って培養した。
【0064】
【表1】
【0065】
K.ラクチス及びS.セレビシエの形質転換をエレクトロポレーションによって実施した。K.ラクチスの形質転換体を、200mg/ml G418を含むYPD寒天上で増殖させることによって選択した。一方、S.セレビシエ形質転換体を、系統の栄養要求性を補うのに必要な適切な補助剤を含むSD培地(0.67%酵母窒素ベース、2%グルコース)又はSGal培地(0.67%酵母窒素ベース、2%ガラクトース)上で増殖させることによって得た。
【0066】
分泌K.ラクチスキチン結合タンパク質の検出及び単離
ウエスタンブロット法によって、バチルスサーキュランスキチナーゼA1(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)由来のキチン結合ドメインに対するポリクローナル抗キチン結合ドメイン抗体(α−CBD)と交差反応する分泌K.ラクチスタンパク質を検出した。
【0067】
(a)48−96時間増殖後に使用培地をK.ラクチスGG799培養物から4000xgで10分間の遠心分離によって単離した。
【0068】
遠心分離後、使用培地中のタンパク質を4−20%Tris−グリシンポリアクリルアミドゲル(Daiichi Pharmaceutical Corp.、Montvale、NJ)上のSDS−PAGEによって分離し、Protranニトロセルロース膜(Schleicher & Schuell Bioscience、Keene、NH)に移した。0.05%Tween 20を含むリン酸緩衝食塩水(PBS−T)及び5%脱脂乳(w/v)で4℃で膜を終夜ブロックし、α−CBDポリクローナル抗体(5%脱脂乳を含むPBS−Tで1:2000希釈)、続いて西洋ワサビペルオキシダーゼ複合化抗ウサギ二次抗体(Kirkegaard & Perry Laboratories、Gaithersburg、MD)、5%脱脂乳を含むPBS−Tで1:2000希釈)でプローブした。タンパク質−抗体複合体をLumiGlo(商標)検出試薬(Cell Signaling Technologies、Beverly、MA)によって可視化した。
【0069】
(b)キチンに結合した分泌タンパク質を単離するために、K.ラクチスGG799細胞をYPD培地20ml中で96時間増殖させた。細胞を培養物から遠心分離によって除去し、使用培地を、水洗したキチンビーズ(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)1mlを含む新しい管に移し、静かに回転させながら室温で1時間インキュベートした。キチンビーズを遠心分離によって収集し、水10mlで洗浄した。タンパク質が結合したキチンビーズ約50μlを取り出し、タンパク質ローディングバッファー中で2分間煮沸して結合タンパク質を溶出させ、その後、溶出したタンパク質をSDS−PAGEによって分離し、α−CBDポリクローナル抗体を用いたウエスタン分析又はアミノ末端タンパク質配列決定に供した。
【0070】
K.ラクチスキチナーゼ由来のキチン結合ドメイン(KlCts1p CBD)のキチン結合特性の分析
K.ラクチスGG799使用培地20mlから得られたKlCts1pを、上述したようにキチンビーズ1mlに結合させた。KlCts1p結合ビーズを水10mlで洗浄し、水1.5mlに再懸濁させた。100μl一定分量のKlCts1p結合ビーズを個々の使い捨てカラム(Bio−Rad Laboratories、Hercules、CA)に分配することによってミニカラムを調製した。1ml体積(約10ベッド体積)の以下の各緩衝剤を別個のミニカラムに通過させた:50mMクエン酸Na pH3.0、50mMクエン酸Na pH5.0、100mMグリシン−NaOH pH10.0、非緩衝20mM NaOH pH12.3、5M NaCl及び8M尿素。次いで、各カラムを水2mlで洗浄し、その後ビーズを水200μlに再懸濁させ、微量遠心管に移し、短時間の遠心分離によって収集した。依然としてキチンに結合しているタンパク質を、ビーズを3×SDS−PAGEローディングバッファー(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)50ml中で5分間煮沸することによって溶出させた。溶出したタンパク質を、上述したように、SDS−PAGEによって分離し、ウエスタン分析によって検出した。
【0071】
様々な濃度のNaOH(0−40mM)を用いたKlCts1p溶出プロファイルを同様に実施した。キチンに結合したKlCts1pの一定分量(100μl)を上述したように調製し、1.5ml微量遠心管に挿入したマイクロフィルターカップ(Millipore、Billerica、MA)に分配してスピンカラムを作製した。流出物(flow−through)を15,800xgで1分間の微量遠心によって収集し、廃棄した。次いで、ビーズをNaOH 100μlに各所望の濃度(0−40mM)で再懸濁させ、溶出物を15,800xgで1分間の遠心分離によって収集した。各溶出物のキチナーゼ活性を以下に示すように測定した。
【0072】
K.ラクチスキチナーゼ遺伝子(KlCTS1)の破壊
PCRに基づく方法を用いて、一方の末端にKlCTS1 DNAの80−82bpを有する、ADH2プロモーター−G418耐性遺伝子カセットからなる線状DNA破壊断片を構築した。この断片は、KlCTS1部位に組み込まれると、KlCts1pの最初の168個のアミノ酸をコードするDNAをG418耐性カセットで置換する。ADH−G418配列とハイブリッドを形成するDNA(下線なし。)を含み、KlCTS1 DNA配列からなる末端(下線あり。)を有するプライマー、
【化1】
を使用して、ADH2−G418含有ベクターpGBN2からの破壊DNA断片をTaq DNAポリメラーゼを用いて増幅した。増幅産物を用いて、K.ラクチスGG799細胞を形質転換し、200mg/ml G418を含むYPD寒天上でコロニーを選択した。KlCTS1特異的順方向プライマー5’−GGGCACAACAATGGCAGG−3’(配列番号3)(組込み部位の上流用)及びG418特異的逆方向プライマー5’−GCCTCTCCACCCAAGCGGC−3’(配列番号4)を用いた細胞全体のPCRによって、破壊DNA断片をKlCTS1部位に正確に組み込んだ細胞からの約600bpの診断用DNA断片を増幅した。このようにして試験した20個の形質転換体のうち、2個のDcts1 K.ラクチス系統を特定し、さらに分析した。
【0073】
S.セレビシエ中でのKlCTS1の異種発現
S.セレビシエ中でKlCTS1を発現させるために、
【化2】
を用いて遺伝子をPCR増幅し、pMW20(31)のBamH I−Sph I部位にクローン化して、KlCTS1の発現をガラクトース誘導性/グルコース抑制性S.セレビシエGAL10プロモーターの制御下に置いた。この発現構築体をS.セレビシエΔcts1系統RG6947に形質転換によって導入した。KlCtsp1の産生を誘導するために、スターターカルチャー2mlを、20mg/mlウラシルを含むSD培地中で30℃で終夜増殖させ、その後、各培養物1mlを用いてYPD培養物20ml及びYPGal培養物20mlを接種した。各培養物を振とうしながら30℃で終夜増殖させた後、使用培地のキチナーゼ産生及び顕微鏡法による細胞形態学の分析を行った。
【0074】
キチナーゼ活性測定
1−4GlcNAc残基のキチンオリゴ糖及び4−メチルウンベリフェロン(4−MU)で各々誘導体化した4−メチルウンベリフェリルN−アセチル−β−D−キトトリオシド(4MU−GlcNAc)、4−メチルウンベリフェリルN,N’−ジアセチル−β−D−キトテトラオシド(4MU−GlcNAc2)、4−メチルウンベリフェリルN,N’,N”−トリアセチル−β−D−キトトリオシド(4MU−GlcNAc3)又は4−メチルウンベリフェリルN,N’,N”,N’”−テトラアセチル−β−D−キトテトラオシド(4MU−GlcNAc4)(Sigma−Aldrich Corp.、St. Louis、MO and EMD Biosciences、San Diego、CA)を基質として用いた。Genios蛍光マイクロタイタープレートリーダー(Tecan、San Jose、CA)及び340nm/465nm励起/発光フィルターを用いて37℃で4−MUの遊離を測定することによってキチナーゼ活性を求めた。96ウェル黒色マイクロタイタープレートの各ウェル中の反応混合物は100mlであり、50mM基質、1×McIlvaine緩衝剤(異なる実験におけるpH4−7)及び試料5−10mlを含んだ。初期遊離速度を記録し、酵素単位を遊離4−MU pmol/minとして計算した。蛍光単位から変換するために、4−MU(Sigma−Aldrich Corp.、St. Louis、MO)の検量線を反応条件下で用意した。
【0075】
顕微鏡法
細胞約1−2 OD600単位を収集し、2.5%(v/v)グルタルアルデヒド1mlを用いて氷上で1時間固定した。細胞を水で2回洗浄し、封入剤(20mM Tris−HCl pH8.0、0.5%N−プロピルガラート、80%グリセリン)約100mlに再懸濁させた。隔壁染色実験においては、Calcofluor white(Sigma−Aldrich Corp.、St. Louis、MO)を封入剤に最終濃度100mg/mlで添加した。light phase Normaski imaging又は蛍光DAPIフィルター設定を用いたZeiss Axiovert 200M顕微鏡によって細胞を検査した。
【0076】
細胞のキチン測定
細胞をKOHで抽出し、アルカリ不溶性材料中のキチンをキチナーゼによってGlcNAcに加水分解し、既報(Bulik, D.A., et al. Eukaryot. Cell 2:886−900(2003))のmicro Morgan−Elsonアッセイによって定量した。
【実施例2】
【0077】
K.ラクチスキチナーゼ(KlCts1p)の特定及び生化学的特性決定
B.サーキュランスChi1Aキチン結合ドメイン(α−CBD)に対して産生されるポリクローナル抗体をK.ラクチスGG799使用培地のウエスタンブロット分析に使用して、交差反応性キチン結合ドメインを含む未変性分泌K.ラクチスタンパク質を特定した(図1)。
【0078】
非濃縮K.ラクチスGG799使用培地(96時間増殖)10ml中の分泌タンパク質を4−20%ポリアクリルアミドTris−グリシンSDSゲルを用いて分離し、B.サーキュランスキチナーゼA1キチン結合ドメインに対して産生されたポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット法によってキチン結合ドメインの有無についてスクリーニングした(レーン1)。分泌タンパク質をキチンビーズに結合させ、2分間煮沸することによってSDS−PAGEローディングバッファー中に直接溶出させ、SDS−PAGEを用いて分離した(レーン2)。
【0079】
これらのタンパク質のいずれかがキチンに結合し得るかどうかを試験するために、使用培地をキチンビーズと混合し、室温で1時間回転させた。キチンビーズを水で洗浄し、煮沸することによって結合タンパク質をSDS−PAGEローディングバッファーに直接溶出させた。ウエスタンブロット法によれば、85kDa a−CBD交差反応性タンパク質のみがキチンに結合することができた(図1、レーン2)。このようにしてキチンビーズから直接精製したタンパク質をN末端タンパク質配列決定に供した。その結果、成熟タンパク質の最初の20個のアミノ末端アミノ酸(FDINAKDNVAVYWGQASAAT)(配列番号7)が確認された。配列データベースをプローブするクエリーとしてこのアミノ酸配列を用いたtBLASTn検索によって、問い合わせ配列に正確に一致する翻訳配列であって、S.セレビシエ細胞外キチナーゼCts1p(ScCts1p)と有意な相同性を有する翻訳配列を含む、部分的に配列決定されたK.ラクチス遺伝子を特定した。
【0080】
KlCTS1のクローニングと配列解析
この研究の開始時には、K.ラクチスゲノムの配列はまだ報告されていなかった。従って、サザンブロット法とアンカーPCRの組合せを用いて、tBLASTnアルゴリズムを用いたデータベース検索によって最初に特定した(上記)部分KlCTS1配列の残部をクローン化した。KlCts1p配列は、最近報告されたK.ラクチスゲノム配列中のK.ラクチスORF KLLA0C04730gの翻訳産物と同一であった(Dujon B., et al. Nature 430:35−44(2004))。
【0081】
KlCTS1は、SDS−PAGEで測定して85kDaの分子量を有する551個のアミノ酸を含むタンパク質をコードする。KlCTS1pはS.セレビシエCts1pキチナーゼと53%同一及び82%類似であり、シグナルペプチド、触媒ドメイン、Ser/Thrに富むドメイン及びキチン結合ドメインからなる類似のモジュラードメイン構造を有する(図2A)。Signal Pソフトウエア(Nielson et al. Protein Eng. 10: 1−6(1997))によって、A19の後で開裂するシグナルペプチドの存在が予測された(図2A)。これは、F20で始まる、精製分泌KlCts1pから決定されるアミノ末端タンパク質配列と一致する。予測されたKlCts1p触媒ドメインと他のキチナーゼの触媒ドメインとのアミノ酸相同性によれば、KlCts1pはキチナーゼファミリー18に属する(図2B)。さらに、SMARTドメイン予測ソフトウエア(Letunic, I., et al. Nucl. Acids Res. 30: 242−244(2002)及びSchultz, J., et al. PNAS 95: 5857−5864(1998))によって、6個の保存システイン残基を含むC末端タイプ2キチン結合ドメインの存在が示された(図2C)。
【0082】
KlCts1pとS.セレビシエキチナーゼ(ScCts1p)の触媒作用特性を比較した。S.セレビシエCts1pは、酸性のpHが最適であるので(Kuranda、M., et al. J. Biol. Chem. 266: 19758−19767(1991))、KlCts1pの基質優先度を規定するために最初にpH4.5を選択した。図3Bに示すように、両方の酵母から得られたキチナーゼは4MU−GlcNAc3と4MU−GlcNAc4の両方の基質を加水分解した。しかし、K.ラクチスキチナーゼは、4MU−GlcNAc3よりも4MU−GlcNAc4を優先する程度がScCts1pとは異なる。K.ラクチス系統GG799の結果と類似した結果が系統CBS2359及びCBS683から分泌されたキチナーゼに対しても得られた。さらに、KlCts1pは、pH4.5で最大活性を示し、ScCts1pよりも約0.5pH単位だけよりアルカリ性であった(図3C)。
【0083】
KlCts1p CBD−キチン親和性分析
KlCts1pとキチンビーズの会合をある条件範囲下で調べた。図4Aによれば、KlCts1pのキチンとの会合は5M NaCl中並びにpH3、pH5及びpH10の緩衝剤中で安定である。タンパク質を通常は変性させる条件である8M尿素中では、キチンに結合したKlCts1pの約60%しかキチンビーズから解離しなかった。しかし、pH12.3の20mM NaOH中では完全に解離した。キチンに結合したKlCts1pの溶出プロファイルによれば、(空隙容量を含めて)最初の2つの画分では等量のタンパク質が溶出し、KlCts1p−キチン会合が20mM NaOH中ですぐに不安定になることが示唆された(図4B)。驚くべきことに、このようにして溶出したKlCts1pはキチン分解活性を保持していた(図4C)。実際に、キチン結合前と20mM NaOHでの溶出後のキチナーゼ活性の測定によれば、キチナーゼ活性はほぼ100%回復した。
【0084】
KlCts1p CBDが、i)KlCts1p触媒ドメインとは独立して、ii)異種発現されたタンパク質に対する親和性タグとして、機能し得るかどうかを判定するために、KlCts1pのアミノ酸470−551由来のCBD(KlCBD)とのC末端融合を含むヒト血清アルブミン(HSA)をK.ラクチスから分泌させた。比較のために、HSAを同様にB.サーキュランスキチナーゼA1タイプ3CBD(BcCBD)にも融合させ、K.ラクチスから分泌させた。CBD融合タンパク質を実施例1に記載のようにキチンビーズに結合させ、20mM NaOHの存在下でそのキチン親和性を求めた。図4Dによれば、HSA−KlCBD融合タンパク質は20mM NaOH中でキチンビーズから完全に解離したのに対して、HSA−BcCBD融合タンパク質は20mM NaOHで徹底して洗浄してもキチンに結合したままであった。これらの結果は、KlCBDがKlCts1p触媒ドメインとは独立して機能し、20mM NaOH中でのキチンからの解離は固有の特性であることを示している。また、これらのデータは、KlCBDを親アルカリ性若しくは耐アルカリ性タンパク質の精製又は可逆的なキチン固定化に対する溶出可能な親和性タグとして使用することができる可能性を提示している。
【0085】
KlCTS1の破壊
K.ラクチスにおけるKlCts1pのインビボでの機能を調べるために、KlCTS1対立遺伝子を分裂させて半数体細胞とした。PCRを用いた方法によって、「材料及び方法」に記載のように、カナマイシン選択マーカーカセットを含むDNA破壊断片を構築した。この断片を用いてK.ラクチス細胞を形質転換してG418耐性にした。形質転換体を、KlCTS1部位に破壊DNA断片が組み込まれた形質転換体について細胞全体のPCRによってスクリーニングした。試験した20個のコロニーのうち、2個は破壊DNA断片が正確に組み込まれ(データ示さず)、KlCTS1がK.ラクチスの生存に必須ではないことが示された。さらに、使用培地においてKlCts1p(図5A)及びキチン分解活性(図3A)が存在しないことによって示されるように、K.ラクチスDcts1細胞はキチナーゼを分泌しない。
【0086】
K.ラクチス野生型(GG799)及びΔcts1細胞の増殖及び細胞形態学を検討した。YPD培地では、Δcts1系統は、緩やかに凝集した細胞の小さなクラスターとして成長し、短時間の超音波処理によって容易に分散して単細胞になった。キチン結合色素Calcofluor whiteで染色した細胞の蛍光顕微鏡法によれば、Δcts1細胞は隔壁を介して連結されており(図5B、右パネル)、Δcts1細胞が細胞質分裂中に隔壁のキチンを分解できないことを示唆している。類似の表現型はS.セレビシエΔcts1細胞でも認められた(Kuranda, M., et al. J. Biol. Chem. 266: 19758−19767(1991))。従って、KlCTS1が正常な細胞分離をS.セレビシエΔcts1細胞に回復させることができるかどうかを試験した。KlCTS1をS.セレビシエ発現ベクター中のGAL10ガラクトース誘導性プロモーターの制御下に置いた。KlCTS1を発現するS.セレビシエDcts1細胞は、ガラクトース含有培地中でKlCts1pを分泌し(図6A)、細胞凝集体を形成しない(図6B)。要約すると、これらのデータは、KlCTS1とScCts1が、細胞分離に、おそらくは隔壁のキチンの分解を促進することによって、関与する機能上等価なタンパク質をコードすることを示唆している。
【0087】
K.ラクチスキチナーゼ欠失変異体の特性決定
Δcts1細胞が高い培養密度まで増殖し得るかどうかを調べた。K.ラクチスΔcts1細胞に付随する凝集表現型は、600nmにおける吸光度(OD600)による細胞密度の測定値を野生型細胞の65%未満にした。しかし、48時間増殖させた野生型及びΔcts1細胞の培養物はほぼ同一乾燥重量の細胞を産生した。さらに、細胞の全キチンは2つの系統間では有意差がなかった。細胞のキチンをKOHで抽出し、キチナーゼによって加水分解すると、系統GG799はGlcNAc 21.8±1.9nmol/mg乾燥細胞を生成し、Δcts1系統はGlcNAc 20.8±1.0nmol/mg乾燥細胞を生成した。従って、その穏和な成長表現型にもかかわらず、Δcts1細胞は、培養によって野生型細胞と同じ細胞密度を依然として得ることができ、この系統(strain background)がCBD標識タンパク質の商業生産に適切であることが示唆された。
【実施例3】
【0088】
pGBN2−HSA−KlCBDの調製
KlCts1pのCBDとヒト血清アルブミン(HSA)との融合体を作製するために、
【化3】
を使用して、KlCts1pのC末端の81個のアミノ酸をコードするDNA断片をDeep Vent(商標)DNAポリメラーゼ(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)を用いて増幅した。KlCts1p−CBD断片をK.ラクチス組み込み発現プラスミドpGBN2(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)のBgl II−Not I部位にクローン化してpGBN2−KlCBDを作製した。HSAを
【化4】
を用いて増幅し、pGBN2−KlCBDのXho I−Bgl II部位にクローン化した。生成した発現構築体は、K.ラクチスゲノムに組み込むと、(pGBN2中に存在する)S.セレビシエa−接合因子プレプロ分泌リーダー、HSA及びKlCBDからなる単一のポリペプチドを産生する。
【0089】
B.サーキュランス(B.circulans)キチナーゼA1に由来するカルボキシ末端タイプ3CBD(BcCBD)を含むHSAを産生する対照の構築体を同様に組み立てた。
【化5】
を使用して、pTYBl(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)から得られるBcCBDをPCR増幅した。増幅産物をpGBN2のBgl II−Not I部位にクローン化してpGBN2−BcCBDを作製した。HSAを、上述したように、増幅し、pGBN2−BcCBDのXho I−Bgl II部位にクローン化した。
【実施例4】
【0090】
K.ラクチスΔcts1細胞中でのHSA−CBDの産生及び分泌
ベクターpGBN2−HSA−KlCBD(5μg)を、SacIIを用いて直線化し、K.ラクチスΔcts1細胞をエレクトロポレーションによる形質転換に用いた。形質転換体を、5mMアセトアミドを含む酵母炭素ベース寒天培地(Difco(商標)、Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)上で30℃で4日間増殖させて選択した。個々の形質転換体を使用してYPD(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコース)2mlの培養を開始し、30℃で終夜増殖させた。終夜培養物の1:100希釈を使用してYPGal(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%ガラクトース)培養物2mlに接種した。培養物を振とうしながら30℃で48時間インキュベートした。培養物1mlを15,800×gで2分間微量遠心して細胞を除去することによって、使用培地を調製した。細胞を除去した使用培地の20ml一定分量を新しい管に移し、3×タンパク質ローディングバッファー10mlと混合し、95℃で10分間加熱した。20ml一定分量を10−20%Tris−グリシンポリアクリルアミドゲル上で分離させ、分泌HSA−KlCBD融合タンパク質をクーマシー染色によって検出した。
【実施例5】
【0091】
キチンビーズを用いたHSA−KlCBDの精製
融合タンパク質をキチンに固定することによって分泌HSA−KlCBDを単離するために、組み込みHSA−KlCBD発現断片を含むK.ラクチスDcts1細胞(上記)をYPD培地20ml中で96時間増殖させた。細胞を培養物から遠心分離によって除去し、使用培地を、水洗したキチンビーズ(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)1mlを含む新しい管に移し、静かに回転させながら室温で1時間インキュベートした。遠心分離によってキチンビーズを収集し、水10mlで洗浄し、水1mlに再懸濁させた。タンパク質が結合したキチンビーズ約50mlをSDS試料緩衝剤中で2分間煮沸することによって、固定されたHSA−KlCBDを溶出させ、続いて2分間微量遠心してキチンビーズを除去した。上清中の溶出したHSA−KlCBDを、SDS−PAGEとクーマシー染色によって、又はa−CBD若しくはa−HSA抗体を用いたウエスタン分析によって、可視化した。さらに、20mM NaOH 5mlをカラム全体に通すことによって、HSA−KlCBDをキチンビーズから溶出させることができる。このようにして生成したHSAは、キチンに偶然に結合する、又はキチンを分解する内因性K.ラクチスタンパク質を含まない。
【実施例6】
【0092】
磁化キチンビーズを用いたHSA−KlCBDの濃縮
CBD標識ヒト血清アルブミン(HSA−CBD)を用いて、培養増殖の様々な段階におけるCBD標識タンパク質と磁気キチンビーズとの会合を実証した(図8参照)。K.ラクチス系統GG799 Δcts1PCKl3の4個のYPGal(1%酵母エキス、2%ペプトン及び2%ガラクトース)培養物25mlに、30℃で24時間増殖させた2mlスターターカルチャーの100mlを接種した。
【0093】
培養物1:接種前に、20分間の高圧蒸気殺菌によって滅菌した沈降(settled)キチン磁気ビーズ1mlを培地中に添加した。次いで、培養物を約300r.p.m.で振とうしながら30℃で72時間インキュベートした。
【0094】
培養物2:増殖24時間目に、無菌磁気キチンビーズ1mlを培地に添加した。培養物を約300r.p.m.で振とうしながら30℃でさらに48時間(合計72時間)インキュベートした。
【0095】
培養物3:72時間後、キチン磁気ビーズ1mlを第3培養物に添加し、続いて室温で1時間静かに振とうした。
【0096】
培養物4:第4培養物から5000r.p.m.で5分間の遠心分離によって細胞を除去し、細胞を除去した使用培地に磁気キチンビーズ1mlを添加し、続いて室温で1時間静かに振とうした。
【0097】
各培養物を標準50mlの蓋付き試験管にデカントした。試験管を50ml磁気装置(図9)に30秒間挿入し、続いて上清をデカントすることによって磁気ビーズを収集した。次いで、試験管を磁場から取り出し、磁気キチン粒子のペレットを水40mlで洗浄し、磁場中で再度単離した。この洗浄プロセスを合計3回繰り返した後、ビーズを4本のねじ蓋付き微量遠心管に移した。結合したHSA−CBDを溶出させるために、各遠心管のビーズをジチオスレイトールを含む3×タンパク質ローディングバッファー(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)250ml中に懸濁させ、98℃で5分間加熱した。各試料5ml中の溶出タンパク質を10−20%SDS−PAGEゲルによって分離し、クーマシー染色によって可視化した(図8)。溶出したHSA−CBDが各試料で観察され、磁気キチンビーズが培養物の増殖中又は増殖後にCBD標識タンパク質を首尾よく捕捉したことが示された。各培養物において捕捉したHSA−CBDの収率は4mg/Lと推定された。
【実施例7】
【0098】
分泌GluC−CBDタンパク質を濃縮するための磁化キチンビーズの使用
磁化ビーズがCBD融合タンパク質を培地から濃縮できるかどうかを試験するために、融合タンパク質(GluC−CBD。GluCはスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のエンドプロテインをコードするDNAで形質転換されたバチルス・サーキュランスの終夜培養物20mlを125mlフラスコ中で増殖させた。GluCをコードするDNAを、B.サーキュランスCBDを含むプラスミドpGNB5に挿入した。コンピテント細胞の形質転換を標準技術(Harwood and Cutting, Molecular Biological Methods, ed. John Wiley & Sons Ltd., New York, NY, pp.33−35, 67, 1990)によって実施した。比較のために、4個の培養物を増殖させた。1個はGluCエンドプロテアーゼを発現するプラスミドを含み、3個は融合タンパク質(GluC−CBD)用プラスミドを含む。全ての実験で、5%ビーズ体積を培養物に添加した。対照として、非特異的結合を調べるために、GluC構築体を含む培養物を磁気ビーズの存在下で終夜増殖させた(図12、レーン2)。磁気ビーズを3個のGluC−CBD培養物に異なる時間で添加して、インキュベーション時間が結合能力をもたらすかどうかを検討した。培養物1を増殖サイクル全体にわたってビーズの存在下で振とうしながら37℃で終夜増殖させた(図12、レーン3)。培養物2の場合、37℃で16時間増殖させた後に磁気ビーズを添加し、振とうしながら37℃で1時間インキュベートした(図12、レーン4)。培養物3を振とうしながら37℃で終夜増殖させ、細胞を遠心分離(10,000rpm 10分間)によって除去した。磁気ビーズを上清に添加し、振とうしながら室温で1時間インキュベートした(図12、レーン5)。いずれの場合においても、ビーズを磁気分離ラック(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)を用いて収集し、LBブロス10mlで3回、次いで1M NaClで2回洗浄した。ビーズを1M NaCl 1mlに懸濁させ、1.5mlエッペンドルフ管に移し、10,000rpmで1分間遠心分離して液体を除去した。ビーズを、DTTを含む3×SDS試料緩衝剤100mlに懸濁させ、5分間煮沸してタンパク質を除去した。10,000rpmで2分間遠心分離してビーズを緩衝剤から分離した。試料を10−20%トリシンゲル上で分析し、ウエスタンブロットによってPVDF膜に移し、クーマシーブルーで染色した。溶出したタンパク質のアイデンティティをN末端配列決定によって確認した。その結果、分泌GluC−CBD融合タンパク質は、磁気キチンビーズに結合した主要なタンパク質であり、SDS試料緩衝剤中で煮沸することによって効率的に溶出できることが示された。また、ビーズは実験中の任意の時点でその効率を変えずに添加できることも示された。
【実施例8】
【0099】
ルシフェラーゼの産生及びキチンビーズからのその溶出
野生型K.ラクチスCBDをコードする遺伝子をベクターpKLAC1のNotI/StuI制限酵素切断部位にクローン化してベクターpKLAC1−KlCBDを作製した。次いで、Gaussiaルシフェラーゼ(GLuc)をコードする遺伝子をベクターpKLAC1−KlCBDのXhoI/NotI制限酵素切断部位にクローン化して、ベクター由来の分泌シグナルとのN末端融合体及びKlCBD遺伝子とのC末端融合体を作製した。この構築体を直線化し、K.ラクチスコンピテント細胞に形質転換した。GLuc−KlCDBを分泌するK.ラクチス細胞から得られた使用培地1リットルをベッド体積20mlのキチンビーズと室温で1時間混合した。キチンビーズをカラムに注ぎ、続いて10カラム体積(200ml)の水で洗浄した。結合タンパク質を20mM NaOHで溶出させた。溶出画分4mlを1M Tris−Cl pH7.5 1mlを含む管に収集して、カラムから流出した溶離剤を中和した。各溶出画分の1/40希釈物25マイクロリットルのルシフェラーゼ活性を評価し、RLU(相対光単位(light unit))で表した。図13によれば、活性なGLucが画分2から10で溶出し、最高活性は画分3、4及び5であった。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】ウエスタンブロットを示す図である。K.ラクチスによって使用培地中に分泌された、おおよその質量が>200、85及び50kDaである3種類のタンパク質が、B.サーキュランスChi1Aキチン結合ドメイン(α−CBD)に対して産生されたポリクローナル抗体と交差反応している(レーン1)。85kDaタンパク質はキチンビーズに結合し、K.ラクチスキチナーゼに対応する(レーン2)。
【図2A】図2(A)は、シグナルペプチド(縞)、触媒ドメイン(灰色)、Ser/Thrに富むドメイン(白色)及びキチン結合ドメイン(黒色)を有する複数ドメインKlCts1pキチナーゼを示す図である。シグナルペプチドの開裂はA19の後で起こる。
【図2B】図2(B)は、KlCts1pがグリコシル加水分解酵素のファミリー18に属することを示す図である。KlCts1pの予測触媒作用部位は、アミノ酸150−158の間にある。9個の位置の各々に対する代替アミノ酸を括弧内に示す。(「X」は任意のアミノ酸である。)
【図2C】図2(C)は、KlCts1pがタイプ2キチン結合ドメインを含むことを示す図である。KlCts1p CBDを、SMART(Simple Modular Architecture Research Tool)ソフトウエア(Letunic, I, et al. Nucl. Acids Res. 30:242−244(2002); Schultz, J., et al. PNAS 95:5857−5864(1998))によって予測されたタイプ2CBDコンセンサス配列(配列番号14)と並列させた。KlCts1p CBD(配列番号15)と、真菌(クラドスポリウム・フルバム(配列番号16);種特異的誘発物A4前駆体)、細菌(ラルストニア・ソラナセアルム(Ralsonia solanacearum)(配列番号17);Q8XZL0)、線虫(シノラブディス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)(配列番号18);推定エンドキチナーゼ)、哺乳動物(ホモ・サピエンス(配列番号19);キチナーゼ)及び昆虫(キイロショウジョウバエ(配列番号20);推定キチナーゼ3)由来の予測タイプ2CBDを含むタンパク質例とのアラインメントを示す。保存システイン残基を太字で示す。
【図3A】K.ラクチスの欠失変異体は、キチナーゼ活性によって測定してKlCts1pを分泌しないことを示す。図3(A)は、YPD培地中で30℃で22、44及び68時間の細胞増殖後に測定したキチナーゼ活性を示す図である。活性を、50mM 4MU−GlcNAc3からのpH4.5及び37℃における遊離速度4−MU/min(相対蛍光単位、RFU/min)として評価した。
【図3B】K.ラクチスの欠失変異体は、キチナーゼ活性によって測定してKlCts1pを分泌しないことを示す。図3(B)は、ウエスタンブロットでは欠失変異体に対応する試料から分泌キチナーゼを検出できなかった(レーン1)のに対して、野生型ではキチナーゼを容易に検出した(レーン2)ことを示す図である。
【図4A】図4(A)は、α−CBD抗体を用いたウエスタンブロット上のK.ラクチス由来の分泌キチナーゼ(KLCts1p)の存在を示す図である。このアッセイは、分泌キチナーゼをキチンカラムに結合させ、次いで様々なpHの緩衝剤で溶出させる、又は2分間沸騰させる必要があった。
【図4B】図4(B)は、キチンからのキチナーゼ(KLCts1p)の溶出が20mM NaOHを用いてほぼ即座に起こることを示す図である。キチンに結合したKlCts1pを、5つの連続した20mM NaOH 1ml画分(E0−E4、ここでE0はカラム空隙容量である。)として溶出させ、SDS−PAGEによって分離し、α−CBDウエスタンブロット法によって検出した。
【図4C】図4(c)は、20mM NaOHによって溶出したKlCts1pがキチン分解活性を保持することを示すグラフである。キチンに結合したKlCts1pを、様々な濃度のNaOHを用いてキチンミニカラムから溶出させた。溶出物のキチナーゼ活性を、50mM 4MU−GlcNAc3からのpH4.5及び37℃における遊離速度4−MU/minを測定することによって評価した。
【図4D】図4(D)は、未変性KlCBDが溶出可能な親和性タグとして単独で、又は融合タンパク質の一部として機能し得ることを示す図である。CBDはK.ラクチスから得られ、融合タンパク質(ヒト血清アルブミン(HSA)−KlCBD)はキチナーゼ欠乏K.ラクチス変異体(K.ラクチスΔcts1細胞)中で発現され、キチンビーズからの溶出条件は20mM NaOHである。これに対し、B.サーキュランス(B.circulans)(HSA−BcCBD)由来のCBDの融合タンパク質は、20mM NaOHによってキチンビーズから同様に溶出させることができない。対照(B−PB)は、キチンビーズを煮沸することによって溶出された融合タンパク質である。
【図5】pGBN16(pKLAC1)発現ベクターを示す図である。所望の遺伝子は、ベクター中に存在する接合因子アルファプレプロ分泌リーダー配列として同じ翻訳の読み枠中にクローン化される。特有の制限酵素切断部位を含むポリリンカーは、所望の遺伝子のクローニングを可能にするために存在する。
【図6A】K.ラクチスΔcts1細胞由来の組換えタンパク質の分泌を示す。図6(A)は、Δcts1 K.ラクチス細胞由来のマルトース結合タンパク質(MBP)の分泌を示す図である。収率は、野生型細胞由来のものと同等、又はそれ以上に良好である。
【図6B】K.ラクチスΔcts1細胞由来の組換えタンパク質の分泌を示す。図6(B)は、Δcts1 K.ラクチス細胞由来のHSA−KlCBD融合タンパク質の分泌、及び20mM NaOHによるキチンからの融合タンパク質の溶出を示す図である。
【図7】K.ラクチス細胞由来のCBD標識タンパク質の分泌を概説する流れ図である。
【図8】培養増殖の様々な時点において増殖培地に添加した磁気キチンビーズを用いて培養物から単離したCBD標識ヒト血清アルブミン(HSA−CBD)のSDS−PAGE分離を示す図である。レーン1は分子量マーカーである。レーン2は、培地成分としてK.ラクチス培養物に72時間添加した加圧滅菌キチン磁気ビーズから得たHSA−KlCBDである。レーン3は、K.ラクチス培養物に48時間添加した加圧滅菌キチン磁気ビーズから得たHSA−KlCBDである。レーン4は、収集の1時間前にK.ラクチス培養物に添加したキチン磁気ビーズから得たHSA−KlCBDである。レーン5は、細胞培養上清に添加した磁気キチンビーズから得たHSA−KlCBDである。
【図9A】図9A及び9Bは、キチン磁気ビーズを用いて、希薄溶液からタンパク質を精製する方法を示す図である。 図9A 段階1:磁気キチンビーズを滅菌する(例えば、高圧蒸気殺菌、紫外線、照射、化学処理など)。 段階2:滅菌キチンビーズを培地に添加した後、増殖培地に細胞を接種する。細胞培養物の増殖中に、細胞は、キチン結合ドメイン(黒円)で標識されたタンパク質(白丸)を分泌する。 段階3:分泌されたCBD標識タンパク質を増殖培地中の磁気キチンビーズに固定させる。 段階4:培養物増殖中のある時点において、結合CBD標識タンパク質を含む磁気キチンビーズを、磁場にかけて固定することによって細胞及び増殖培地から分離する。 段階5:ビーズを所望の緩衝剤又は培地で洗浄する。 段階6:キチンビーズ−タンパク質複合体を磁場から遊離させる。 段階7a:キチンから解離させることができるCBDを融合タンパク質の構築に使用した場合には、精製CBD融合タンパク質を磁気キチンビーズから溶出させる。段階7b:所望の用途に応じて、収集したタンパク質をキチン磁気ビーズ上に無期限に固定したままにする。
【図9B】図9A及び9Bは、キチン磁気ビーズを用いて、希薄溶液からタンパク質を精製する方法を示す図である。 図9B 段階1:磁気キチンビーズを含まない培地に細胞を接種する。 段階2:増殖細胞は、キチン結合ドメイン(黒円)で標識されたタンパク質(白丸)を分泌する。 段階3:培養物から細胞を除去することができる(例えば、遠心分離、ろ過、凝集、重力による細胞の沈降など)。 段階4a:培養物の増殖中の任意の時点において、無菌磁気キチンビーズを培養物に直接添加することができる。 段階4b:細胞を除去した使用培地に添加された磁気キチンビーズ。 段階5a及び5b:CBD標識タンパク質を、磁場にかけてビーズを固定することによって細胞及び/又は増殖培地から分離する。 段階6:ビーズを所望の緩衝剤又は培地で洗浄する。 段階7:キチンビーズ−タンパク質複合体を磁場から遊離させる。 段階8a:キチンから解離させることができるCBDを融合タンパク質の構築に使用した場合には、精製タンパク質を磁気キチンビーズから溶出させる。 段階8b:所望の用途に応じて、収集したタンパク質をキチン磁気ビーズ上に無期限に固定したままにする。
【図10A】図10(a)は、マイクロタイター皿中の調製物から磁気ビーズを分離するのに適切な磁性ラックを示す図である。
【図10B】図10(b)は、微量遠心管中の調製物から磁気ビーズを分離するのに適切な磁性ラックを示す図である。
【図10C】図10(c)は、標準50ml試験管中の調製物から磁気ビーズを分離するのに適切な磁性ラックを示す図である。
【図10D】図10(d)は、標準250ml遠心分離ボトル中の調製物から磁気ビーズを分離するのに適切な磁性ラックを示す図である。
【図11A】図11(a)は、増殖容器又は発酵槽中の調製物から磁気ビーズを分離するのに適切な、水中に投入可能な電磁石プローブを示す図である。 段階1及び2:磁気ビーズ(灰色)に固定されたタンパク質を含む増殖容器又は発酵槽に電磁石プローブ(暗灰色)を沈める。 段階3:電磁石をオンにすると、磁気ビーズがその表面に固定される。 段階4:電磁石(オン)を増殖容器又は発酵槽から取り出し、それによって磁気ビーズを単離する。
【図11B】図11(b)は、発酵槽又は増殖容器の流出物から磁気ビーズを単離するのに適切な磁気装置を示す図である。 段階1:培地、細胞及び磁気ビーズ(灰色)に結合したタンパク質を含む発酵槽又は容器からの流出物は、発酵槽から磁気単離装置中に、又は磁気単離装置を通って、流出する。 段階2:電磁石又は着脱可能な永久磁石からなる磁気単離装置によって、残留流出物から磁気ビーズを分離する。 段階3:残余の流出物は、磁気分離装置を通過する。
【図12】磁化キチンビーズを始めに、細胞培養中に、又は培養上清を収集した後に添加するかどうかにかかわらず、バチルス・サーキュランス由来の分泌GluC−CBD融合タンパク質を得ることができることを示す図である。ゲルは、SDS試料緩衝剤中で煮沸することによって磁化キチンビーズから溶出後に得られたGluC−CBD量を示している。 レーン1:対照−非染色標準(Mark 12−Invitrogen、Carlsbad、CA); レーン2:対照−GluCタンパク質; レーン3:GluC−CBDで形質転換されたB.サーキュランス細胞の終夜インキュベーション。磁化キチンビーズをインキュベーション開始時に培地に添加した; レーン4:GluC−CBDで形質転換されたB.サーキュランス細胞の終夜インキュベーション。磁化キチンビーズを培地収集の1時間前に培地に添加した; レーン5:GluC−CBDで形質転換されたB.サーキュランス細胞の終夜インキュベーション。培地を収集し、遠心分離した後に、磁化キチンビーズを上清に添加した。
【図13】キチンカラムからの一連の画分中で得られたルシフェラーゼの量によって、ルシフェラーゼ−CBDが非変性条件下で画分2から10として溶出し、画分3、4及び5で最も高活性であることを示したヒストグラムである。
【背景技術】
【0001】
N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)のβ−1,4−連結非分岐ポリマーであるキチンは、セルロースに次いで地球上で2番目に豊富なポリマーである。キチンは、昆虫の外骨格(Merzendorfer, H., et al., J. Exptl. Biol. 206:4393−4412(2003)、無脊椎動物甲殻類の殻及び真菌細胞壁(Chitin and Chitinases, ed. P. Jolles and R.A.A. Muzzarelli, pub. Birkhauser Verlag: Basel, Switzerland(1999)中のRiccardo, A., et al. “Native, industrial and fossil chitins”)の主成分である。キチナーゼは、キチンのβ−1,4−グリコシド結合を加水分解し、原核生物、真核生物及びウイルス中に存在する。酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、キチナーゼは、効率的細胞分離において形態学的役割を果たしている(Kuranda, M., et al. J. Biol. Chem. 266: 19758−19767(1991))。また、植物は、キチン含有病原体に対する防御としてキチナーゼを発現する。実際、トランスジェニック植物におけるキチナーゼ遺伝子の異種発現は、ある種の植物病原体に対する耐性を高めることが判明した(Carstens, M., et al. Trans. Res. 12:497−508(2003); Itoh, Y., et al. Biosci. Biotechnol. Biochem. 67:847−855(2003); Kim, J. et al. Trans. Res. 12:475−484(2003))。キチナーゼは、アミノ酸配列の類似性に基づいてグリコシル加水分解酵素のファミリー18又はファミリー19に属する(Henrissat, B., et al. Biochem. J. 293:781−788(1993))。キチナーゼ触媒ドメイン配列のファミリー間の相違は、生成物のアノマー配置の保持(ファミリー18)又は反転(ファミリー19)をもたらす異なるキチン加水分解機序を反映している(Chitin and Chitinases, ed. P. Jolles and R.A.A. Muzzarelli, pub. Birkhauser Verlag: Basel, Switzerland(1999)中のRobertus, J.D., et al. “The structure and action of chitinases”)。
【0002】
大部分のキチナーゼは、互いに独立に機能する別個の触媒ドメインと非触媒ドメインとを含むモジュールドメイン構造を有する。O−グリコシル化Ser/Thrに富む領域は、これら2個のドメインをしばしば分離して、タンパク質分解の防止に役立ち、又はキチナーゼの分泌を助けることができる(Arakane, Y.,Q. et al. Insect Biochem. Mol. Biol. 33:631−48(2003))。非触媒キチン結合ドメイン(CBD。ChBDとも称される。)は、タンパク質配列類似性に基づく3つの構造クラス(タイプ1、2又は3)の1つに属する(Chitin and Chitinases, ed. P. Jolles and R.A.A. Muzzarelli, pub. Birkhauser Verlag: Basel, Switzerland(1999)中のHenrissat, B. “Classification of chitinases modules”)。個々のキチナーゼに応じて、CBDの存在は、触媒ドメインによるキチン加水分解を促進(Kuranda, M., et al. J. Biol. Chem. 266: 19758−19767(1991))又は阻害(Hashimoto, M., et al. J. Bacteriol. 182:3045−3054(2000))する。
【0003】
CBDはサイズが小さく(約5−7kDa)、キチンに対して基質結合特異性及び高結合力を有することから、キチン表面へのタンパク質の固定用親和性タグとして利用されている(Bernard, M.P., et al. Anal. Biochem. 327:278−283(2004); Ferrandon, S., et al. Biochim. Biophys. Acta. 1621: 31−40(2003))。例えば、B.サーキュランス(B.circulans)キチナーゼA1タイプ3 CBDは、細菌中で発現された融合タンパク質のキチンビーズ上の固定化に使用され、インテインによって媒介されるタンパク質スプライシング(Ferrandon, S., et al. Biochim. Biophys. Acta. 1621: 31−40(2003))及びキチン被覆マイクロタイター皿(Bernard, M. P., et al. Anal. Biochem. 327:278−283(2004))の基盤をなしている。真核生物タンパク質発現系は、細菌系では不可能な生物学的プロセス(例えばタンパク質グリコシル化、シャペロンによって媒介されるタンパク質折りたたみなど)が可能であるので、CBD標識タンパク質を真核細胞から分泌させることが望ましい。しかし、多数の真核細胞、特に真菌は、キチン結合部位についてCBD標識タンパク質と競合することによって、キチン固定化処理中にCBD標識タンパク質と同時に精製されることによって、また、標的キチン被覆表面を劣化させることによって、CBD標識タンパク質のキチンへの固定化を複雑にする内因性キチナーゼを分泌する。
【0004】
宿主細胞から周囲の培地に分泌されたタンパク質は実質的に希釈されるので、多量に精製することになり、費用がかかり、厄介である。分泌された培地からタンパク質を分離する費用を削減し、分離を容易にすることが望ましい。
【0005】
多量の培地からタンパク質を精製するには様々な手法がある。これらの手法は、精製に要する費用、効率及び時間が様々である。例えば、分泌培養物中のタンパク質は、沈殿によって収集することができる。この手法は、硫酸アンモニウム、アセトン、トリクロロ酢酸などの多量の沈殿剤の添加と、それに続く遠心分離又はろ過が必要である。これらの沈殿剤の多くは有毒又は揮発性であり、全ての沈殿剤でタンパク質収集にかなりの追加費用がかかる。さらに、沈殿によって、タンパク質機能がかなり失われる恐れがある。
【0006】
別の手法は、陰イオン/陽イオン交換樹脂、疎水的相互作用樹脂、サイズ排除ゲルなどの様々な樹脂を用いたクロマトグラフィーである。クロマトグラフィーによってタンパク質を収集するには、使用した培地全てを樹脂に低流量(典型的には、1−10ml/min)で通過させる必要がある。これは、多量の培地を処理しなければならない場合には、きわめて時間がかかる恐れがある。例えば、使用培地100リットルを流量5ml/minで樹脂に通すには333時間の処理時間がかかる。さらに、これらのタイプのクロマトグラフィー樹脂は、標的タンパク質のみを選択的に精製せず、多段階精製プロセスにおいて他の方法と併用しなければならないことが多い。
【0007】
タンパク質構造中に組み込まれたペプチド配列と特異的に結合するアフィニティークロマトグラフィー樹脂は、標的タンパク質を選択的に精製することができるのでしばしば使用される。典型的な戦略において、ペプチド配列(例えば、ペプチド抗体エピトープ又はヘキサヒスチジン配列)を操作して所望のタンパク質配列に入れる。これらの標識と一緒に発現されるタンパク質は、対応する樹脂(例えば、固定化抗体を有する樹脂又はヘキサヒスチジン結合用ニッケル樹脂)と特異的に相互作用する。これらの方法は、少量から高度に精製されたタンパク質を生成することが多いが、大量プロセスでの実用性においてはその費用及び性能面で限界がある。例えば、抗体親和性樹脂はきわめて高価である。ニッケル樹脂は、ヒスチジン残基配列を偶然に含む望ましくないタンパク質と一緒に精製される恐れがある。
【0008】
ビーズを含めて、磁性担体を使用する磁性技術は、培養物からタンパク質を精製するのに使用されてきた(Safarik et al. Biomagnetic Research and Technology 2:7(2004))。この手法の問題は、個々の分泌タンパク質に結合するように各磁気ビーズ試薬をカスタマイズする必要があることである。これは、親和性リガンドをビーズに付着させる複雑な化学反応を必要とし得る。これも効率及び費用の面で障害になっている。
【0009】
分泌タンパク質と基質との天然の親和性を利用する場合もある。例えば、リゾチームはキチンとの結合親和性を有する。その結果、ニワトリ卵白酵素をキチンに曝すと、それを精製することができる(Safarik et al. Journal of Biochemical and Biophysical Methods 27:327−330(1993))。
【発明の開示】
【0010】
本発明の一実施形態においては、分泌組換えタンパク質の濃縮調製物を得る方法を提供する。この方法は、(a)CBDと標的タンパク質とを含む融合タンパク質をコードするDNAを含むベクターを用いて宿主発現細胞を形質転換すること、(b)融合タンパク質を、宿主発現細胞中に発現させ、該宿主発現細胞から分泌させること、及び(c)分泌組換えタンパク質の濃縮調製物が得られるように非変性条件下で所望の緩衝剤体積中に溶出可能である分泌された融合タンパク質をCBDによってキチン調製物に結合させること、の各段階を含む。
【0011】
本発明の別の実施形態においては、分泌組換えタンパク質の濃縮調製物を得る方法を提供する。この方法は、(a)シャトルベクターを用意すること(該シャトルベクターは(i)E.コリ(E. coli)中のプラスミドであり及び酵母発現細胞のゲノム中に組み込まれており、および(ii)CBDと標的タンパク質とを含む融合タンパク質をコードするDNAを含む。)、(b)酵母宿主発現細胞中に融合タンパク質を発現させるシャトルベクターを用いてキチナーゼ欠乏宿主発現細胞を形質転換し、該キチナーゼ欠乏宿主発現細胞から融合タンパク質を分泌させること、及び(c)分泌タンパク質の濃縮調製物が得られるように、分泌融合タンパク質をCBDによってキチン調製物に結合させることの各段階を含む。
【0012】
両方の実施形態は、シャトルベクターを用いて例示される。シャトルベクターは、ある実施形態においては、クローン化することができるが、E.コリ中では発現されず、宿主発現細胞中で発現させることができる。シャトルベクターのこのタイプの例は、改変LAC4プロモーターを含むシャトルベクターであり、さらにpKLAC1によって例示される。
【0013】
両方の実施形態は、キチナーゼが欠乏した宿主発現細胞を用いても例示される。宿主発現系は、酵母細胞、例えば、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、ヤロウィア(Yarrowia)、ピキア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)及びサッカロミセス(Saccharomyces)種から選択される単一酵母種とすることができる。酵母細胞がクルイベロミセス種である場合には、酵母細胞はクルイベロミセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)変種フラギリス(fragilis)又はラクチス(lactis)から選択することができる。
【0014】
上記実施形態の例においては、キチンは、培養中に、又は培養の最後に、培地中の酵母細胞に添加することができる。さらに培養する場合には、キチンは無菌にすべきである。キチンは、被膜、コロイド、ビーズ、カラム、マトリックス、シート又は膜とすることができる。キチンがビーズである場合には、ビーズは多孔質でも非多孔質でもよい。キチンビーズを磁化することもできる。
【0015】
融合タンパク質は、磁力をかけることによって、磁化されたキチンに結合すると回収することができる。結合条件とは異なる非変性条件下で融合タンパク質がキチンから遊離し得るように、キチンに対する融合タンパク質の結合が可逆的であってもよい。
【0016】
本発明の一実施形態においては、クルイベロミセス細胞調製物は、分泌キチナーゼを発現するキチナーゼ遺伝子中の変異の結果であるキチナーゼネガティブ表現型を特徴とし、野生型クルイベロミセス細胞と類似の細胞密度にまで増殖可能である。細胞密度とは、培養48時間における細胞の乾燥重量を指す(Colussi et al. Applied and Environmental Microbiology 71:2862−2869(2005))。
【0017】
好ましくは、クルイベロミセス細胞調製物は、組換え融合タンパク質を発現し、分泌することができる。発現は、LAC4プロモーター又はその改変体によって調節することができ、例えば、クルイベロミセス中でタンパク質を発現するが、E.コリ中ではタンパク質を実質的に発現しない、改変LAC4プロモーターを有するシャトルベクターを用いて調節することができる。シャトルベクターの例はpKLAC1である。
【0018】
上記クルイベロミセス細胞調製物は、クルイベロミセスの増殖及び維持の少なくとも一方が可能である培地を含むことができる。培地は滅菌キチンを含むこともできる。滅菌キチンは、培地中に配置された磁石に、又は培地を含む容器と接触している磁石に、結合可能である磁気ビーズの形とすることができる。
【0019】
タンパク質を産生する宿主細胞からタンパク質が培地中に分泌された後、タンパク質を濃縮する方法を本明細書に記載する。本方法は、キチンに対するCBDの結合親和性を利用し、キチナーゼを分泌しない細胞を使用することによって促進することができる。キチナーゼ陰性細胞は遺伝子改変の結果として作製することができ、又は天然に存在し得る。これらのキチナーゼ欠乏改変細胞は、野生型細胞と類似の密度に、野生型細胞に匹敵する収率で増殖し得ることが望ましい。宿主細胞は、比較的多量の標的タンパク質が宿主細胞によって産生培地中に分泌されるように、適切なプロモーターの下でCBDを発現するDNAと融合した標的遺伝子をコードするベクターで形質転換することができる。キチン基質は、産生培地中に、又は標的タンパク質を混合物から抜き出す別個の反応器中に、存在することができる。CBD融合タンパク質が結合すると、分泌組換えタンパク質がキチン表面に濃縮される。タンパク質は、幾つかの手法のいずれかを用いてさらに濃縮することができる。例えば、一実施形態においては、キチンを磁化し、磁場を産生培地にかけ、磁性表面に隣接するキチンビーズを濃縮する。他の実施形態は、遠心分離によるキチンビーズの沈殿を含む。次いで、標的タンパク質を濃縮キチン基質から回収することができる。
【0020】
「濃縮」という用語は、手順を実行した後の重量と体積の比が手順前よりも大きいことを指す。
【0021】
キチナーゼ発現をノックアウトする宿主細胞の改変
組換えCBD標識タンパク質の分泌に好ましい宿主細胞環境は、(i)CBDを含む分泌融合タンパク質の調製物を汚染するキチン結合タンパク質もキチン分解活性も生じない環境、(ii)培養において高細胞密度を得ることができる環境及び(iii)組換えタンパク質を効率的に分泌することができる環境である。キチナーゼを分泌しない宿主細胞の利点としては、(i)キチン結合部位に対するCBD標識タンパク質と内因性キチナーゼとの競合の排除、(ii)内因性キチナーゼによる、キチンに固定された融合タンパク質の汚染リスクの排除、(iii)内因性キチナーゼによる標的キチンマトリックスの分解の排除などが挙げられる。
【0022】
適切な宿主細胞としては、様々な昆虫細胞培養物の産生系、哺乳動物細胞系、酵母産生系統、細菌細胞などが挙げられる。
【0023】
製造目的でタンパク質を分泌する細胞の例としては、E.コリ、サルモネラ(Salmonella)種、バチルス(Bacillus)種、ストレプトミセス(Streptomyces)種など)、植物細胞(例えば、シロイヌナズナ種、イチイ種、ニチニチソウ種、タバコ種、イネ種、ダイズ、アルファルファ、トマトなど)、真菌細胞(例えば、クルイベロミセス(Kluyveromyces)種、サッカロミセス種、ピキア種、ハンゼヌラ種、ヤロウィア種、ニューロスポラ(Neurospora)種、アスペルギルス(Aspergillus)種、ペニシリウム(Penicillium)種、カンジダ(Candida)種、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)種、クリプトコッカス(Cryptococcus)種、コプリナス(Coprinus)種、ウスチラゴ(Ustilago)種、マグナポルテ(Magnaporth)種、トリコデルマ(Trichoderma)種など)、昆虫細胞(例えば、Sf9細胞、Sfl2細胞、イラクサギンウワバ細胞、ショウジョウバエ種など)又は哺乳動物細胞(例えば、一次細胞系、HeLa細胞、NSO細胞、BHK細胞、HEK−293細胞、PER−C6細胞など)が挙げられる。これらの細胞は、マイクロリットル体積からリットル体積の培養で増殖させることができる。
【0024】
ここでは、クルイベロミセス種を用いて、CBDと融合した分泌タンパク質を混合物から迅速かつ容易に分離することができる方法を説明する。本発明の実施形態によるクルイベロミセス属の酵母としては、van der Walt in The Yeasts, ed. N.J.W. Kregervan Rij: Elsevier, New York, NY, p.224(1987)に規定されている酵母などが挙げられ、K.マルキシアヌス変種ラクチス(K.ラクチス)、K.マルキシアヌス変種マルキシアヌス(K.フラギリス)、K.マルキシアヌス変種ドロソフィラルム(drosophilarum)(K.ドロソフィラルム)、K.ワルチ(waltii)、当分野でクルイベロミセスに分類される他の系統などが挙げられる。
【0025】
1種類以上のキチナーゼを天然に分泌する宿主細胞においては、キチナーゼ欠失変異体は遺伝子改変によって作製することができる。遺伝子改変とは、標的遺伝子中の1個以上の塩基の抑制、置換、欠失又は付加のいずれかを指す。かかる改変は、インビトロで(単離DNA上で)又は生体内原位置で、例えば、遺伝子工学技術によって、或いは宿主細胞を放射(X線、ガンマ線、紫外線など)又はDNAの塩基の様々な官能基と反応可能な化学薬品及び例えばアルキル化剤:エチルメタンスルホナート(EMS)、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、N−ニトロキノリン1−オキシド(NQO)、ビアルキル化剤、挿入剤などの変異誘発物質に暴露することによって、得ることができる。また、標的遺伝子の発現は、キチナーゼをコードする領域の一部及び/又は転写プロモーター領域の全部若しくは一部を改変することによって抑制することができる。
【0026】
遺伝子改変は、遺伝子破壊によって得ることもできる。キチナーゼの遺伝子破壊の例を実施例1でクルイベロミセス ラクチスについて示す。実施例に記載の方法は、あらゆるクルイベロミセス種に広範に適用することができる。
【0027】
実施例1では、KlCts1pをコードするキチナーゼ遺伝子を、K.ラクチスキラープラスミドを好ましくは欠く工業用K.ラクチス系統(GG799)において破壊した。破壊は、キチナーゼ遺伝子の一部、例えば、G418耐性カセットなどの選択マーカー遺伝子を有する天然のK.ラクチスキチナーゼ遺伝子の最初の168個のアミノ酸を置換することによって起こった。
【0028】
K.ラクチスGG799 Δcts1細胞は、野生型細胞と同じ高細胞密度を培養で得ることができ(実施例2)、検出可能なキチンに結合する又はキチンを分解する活性を有するタンパク質を産生せず(図3A)、組換えタンパク質を豊富に分泌することができた(図6)。この系統は、組換えCBD標識タンパク質の産生用宿主として十分適していることが判明した。
【0029】
産生目的のためには、キチナーゼ陰性変異体宿主細胞は、検出可能なキチンに結合する又はキチンを分解する活性を有する分泌タンパク質が欠乏しているにもかかわらず、野生型細胞と類似の高細胞密度を培養で実現することが望ましく、これらの細胞は組換えタンパク質を豊富に分泌できることが望ましい。従って、キチナーゼ陰性宿主細胞は、直接的に、又は産業上の有用性を有するリンカーペプチド若しくは連結化学基を介して、CBDと連結された精製組換えタンパク質を効率的に製造する発酵に使用することができる。
【0030】
高レベルのタンパク質を酵母中で発現させ、分泌させるためのベクターの設計及び使用
様々な酵母用発現ベクターの例は、クルイベロミセスについては、Muller et al. Yeast 14: 1267−1283(1998)並びに米国特許第4,859,596号、同5,217,891号、同5,876,988号、同6,051,431号、同6,265,186号、同6,548,285号、同5,679,544号及び米国特許出願第11/102,475号に記載されている。
【0031】
発現ベクターは外来性とすることができる。例えば、YEp24は、サッカロミセス セレビシエ中での遺伝子過剰発現に使用されるエピソームシャトルベクターである(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)。サッカロミセス セレビシエ用エピソームシャトルベクターの他の例はpRS413、pRS414、pRS415及びpRS416である。クルイベロミセス中の自己複製ベクターとしては、pKD1(Falcone et al., Plasmids 15:248(1986); Chen et al., Nucl. Acids Res. 14:4471(1986))、pEW1(Chen et al., J. General Microbiol. 138:337(1992))などが挙げられる。完全なpKD1ベクターに加えて、pKD1複製開始点とシス作用性安定部位(stability locus)(CSL)とを含むより小さなベクターが構築され、K.ラクチス中での異種タンパク質発現に使用された(Hsieh, et al. Appl. Microbiol. Biotechnol. 4:411−416(1998))。他のエピソームベクターもK.ラクチス中で複製される。動原体(cen)と自己複製配列(ars)の両方を有するプラスミドは、K.ラクチス中での真菌cDNAの発現クローニングに使用された(van der Vlug−Bergmans, et al. Biotechnology Techniques 13:87−92(1999))。さらに、K.ラクチスARS配列(KARS)を含むベクターは、真菌α−ガラクトシダーゼ(Bergkamp, et al. Curr Genet. 21:365−70(1992))及び植物α−アミラーゼ(Strasser et al. Eur. J. Biochem. 184:699−706(1989))の発現に使用された。
【0032】
他のベクターも宿主ゲノムに組み込むことができる。例えば、クルイベロミセスのゲノムに組み込まれたプラスミドについては米国特許第6,602,682号、同6,265,186号及び米国特許出願第11/102,475号。
【0033】
ベクターは、(i)強力な酵母プロモーター、(ii)(培地中へのタンパク質の分泌が所望の場合)分泌リーダー配列をコードするDNA、(iii)発現されるタンパク質をコードする遺伝子、(iv)転写ターミネーター配列及び(v)酵母選択マーカー遺伝子の少なくとも1つを含むべきである。これらの配列成分は、典型的には、E.コリ中のプラスミドベクター中で組み立てられ、次いで酵母細胞に移されてタンパク質を産生する。このタイプのベクターはシャトルベクターと呼ばれる。
【0034】
シャトルベクターは、宿主細胞を形質転換する前にE.コリ中で調製することができるので好ましいが、本発明の実施形態はシャトルベクターに限定されない。
【0035】
例えば、酵母ゲノムに組み込むことができるDNA断片を、PCR又はヘリカーゼ依存性増幅(Helicase−Dependent Amplication)(HDA)によって構築し、酵母細胞に直接導入することができる。或いは、発現ベクターは、E.コリ以外の細菌中で、又は直接酵母細胞中で、クローニング段階によって組み立てることができる。
【0036】
クルイベロミセス中での、より一般的には酵母中でのタンパク質の過剰発現には、酵母宿主に導入すると目的遺伝子の高レベル転写をもたらすのに適切な配列を有するDNA断片を含むシャトルベクターの構築が必要である。例えば、PLAC4は、pKD1系ベクター、2ミクロン含有ベクター、動原体性ベクターなどの組み込みプラスミド又はエピソームプラスミド上に存在すると、酵母中でのタンパク質発現の強力なプロモーターとして機能し得る。(培地中へのタンパク質の分泌が所望の場合)分泌リーダー配列としては、S.セレビシエα−MFプレプロ分泌リーダーペプチドなどを挙げることができる。他の原核生物又は真核生物の分泌シグナルペプチド(例えばクルイベロミセスα−接合因子プレプロ分泌シグナルペプチド、クルイベロミセスキラー毒素シグナルペプチド)又は合成分泌シグナルペプチドを使用することもできる。或いは、分泌リーダーは、所望のタンパク質の細胞発現を得るために、ベクターから全く取り除くことができる。
【0037】
シャトルベクターは、発現のために酵母細胞に導入する前に、細菌中のクローン遺伝子を増殖させることができる。しかし、野生型PLAC4を利用する酵母発現系は、E.コリなどの細菌宿主細胞中でPLAC4の制御下にある遺伝子からタンパク質の偶然の発現による悪影響を受ける恐れがある。このプロモーター活性は、翻訳産物が細菌に有害である遺伝子のクローニング効率を低下させ得る。
【0038】
これだけに限定されないが、K.ラクチスによって例示されるクルイベロミセス種中で強力なプロモーターとして機能する能力を実質的に保持した、変異プリブナウボックス様配列を有するPLAC4変異体を、部位特異的変異誘発によって作製することができる。これらの変異プロモーターは、野生型PLAC4中の未変異プリブナウボックス様配列と実質的に同様に、又はそれ以上に機能する。
【0039】
本明細書では「変異」という用語は、野生型DNA配列中の1個以上のヌクレオチドの置換、欠失又は付加のいずれかを含むものとする。
【0040】
本発明の一実施形態においては、真菌発現宿主は酵母クルイベロミセス種であり、細菌宿主はE.コリであり、および一連のPLAC4変異体は、(a)プロモーターの−198から−212領域、例えば位置−201、−203、−204、−207、−209及び−210は、K.ラクチス中で強力なプロモーターとして機能するプロモーターの能力を実質的に妨害しないことを特徴とし、(b)プロモーターの−133から−146領域、例えば位置−139、−140、−141、−142及び−144は、強力なプロモーター活性を実質的に妨害しないことを特徴とし、又は(c)−198から−212及び−133から−146の領域を組み込むことができることを特徴とし、(d)K.ラクチスPLAC4の−1から−283領域を置換する、S.セレビシエ(Sc)PGKプロモーターの283bp(−1から−283)からなるハイブリッドプロモーターが作製されたことを特徴とする。これらの置換は、米国特許出願第11/102,475号に詳述されている。
【0041】
転写ターミネーター配列の例はTTLAC4である。
【0042】
酵母選択マーカー遺伝子は、例えば、抗生物質(例えば、G418、ハイグロマイシンBなど)に対する耐性を付与する遺伝子、株の栄養要求性を補う遺伝子(例えば、ura3、trp1、his3、lys2など)又はアセトアミダーゼ(amdS)遺伝子とすることができる。形質転換酵母細胞中でのアセトアミダーゼの発現によって、単純な窒素源を欠くがアセトアミドを含む培地上で増殖することが可能になる。アセトアミダーゼは、アセトアミドをアンモニアに分解する。アンモニアは窒素源として細胞が利用することができる。この選択方法の利点は、pKLAC1系発現ベクターの複数の直列組込みを取り込んだ細胞の形質転換体数が増加し、単一の組込みよりも多量の組換えタンパク質が産生されることである(図5)。
【0043】
PLAC4の変異体を含む上記ベクターは、E.コリ/クルイベロミセス組込みシャトルベクター、例えば、pGBN1及びpKLAC1中に挿入される(米国特許出願第11/102,475号)。pGBN1及びpKLAC1はそれぞれコンピテントな宿主細胞の形質転換後にクルイベロミセスゲノム中に組み込まれ、続いてタンパク質の発現をもたらす。
【0044】
米国特許出願第11/102,475号は、酵母、より具体的にはK.ラクチスによって例示されるクルイベロミセス用の変異体PLAC4を含むシャトルベクターを記載しており、米国特許第4,859,596号、同5,217,891号、同5,876,988号、同6,051,431号、同6,265,186号、同6,548,285号、同5,679,544号に記載のベクターよりも改善されている。この改善は、改変LAC4の酵母中での発現の有用性に起因し、また、E.コリ中でタンパク質を発現し得ず、従って細菌クローニング宿主細胞における毒性から生じる諸問題が回避されることに起因する。
【0045】
宿主細胞中へのDNAベクターの導入
DNAを宿主細胞中に導入する方法は、真核生物及び原核細胞に対して十分確立されている(Miller, J.F. Methods Enzymol. 235:375−385(1994); Hanahan, D. et al., Methods Enzymol. 204:63−113(1991))。酵母では、DNAを細胞に導入する標準方法としては、遺伝的交雑、原形質体融合、リチウムを用いた形質転換、エレクトロポレーション、接合又は文献、例えば、Wang et al. Crit Rev Biotechnol. 21(3): 177−218(2001), Schenborn et al. Methods Mol Biol. 130: 155−164(2000), Schenborn et al. Methods Mol Biol. 130: 147−153(2000)に記載の任意の他の技術などが挙げられる。クルイベロミセス酵母の形質転換に関しては、確立された技術は、Ito et al.(J. Bacteriol. 153: 163(1983)), Durrens et al.(Curr. Genet 18:7(1990)), Karube et al.(FEBS Letters 182:90(1985))及び特許出願EP 361 991号に記載されている。
【0046】
溶出性を含めたCBDの諸性質
キチナーゼの成分としてのCBDは、多数の異なる出所、例えば、真菌、細菌、植物及び昆虫から得ることができる。本発明ではキチナーゼに由来するあらゆるCBDを使用することができるが、キチナーゼ触媒活性から分離されたCBDが好ましい。結合を可能にする諸条件とは異なる非変性条件下でキチンから解離可能であるCBDも好ましい。全てのCBDが非変性条件下でキチンから解離可能であるとは限らない。例えば、米国特許第6,897,285号、米国特許公報第2005−0196804号及び同2005−0196841号に記載の通り、B.サーキュランスCBDはキチンと堅固に結合するが、変異をタンパク質に導入しない限り可逆的ではない。これに対し、クルイベロミセス種は、キチンと堅固に結合するが、NaOHなど条件を変えると可逆的に解離することができる(実施例5及び6参照)。
【0047】
クルイベロミセスは、親アルカリ性又は耐アルカリ性タンパク質の可逆的な固定化又は精製を可能にする有効な親和性タグであることが本明細書で例証された、多量に発現され、分泌されるエンドキチナーゼ(KCBD)を産生する。KCBDは、触媒ドメインの非存在下でキチンに結合することができ(例えば図4D参照)、図4D及び6Bに示すように、クルイベロミセス中で異種発現されるタンパク質上の親和性タグとして機能することができ、約5mMから500mMの範囲のNaOHでキチンから解離することができる。これに対して、B.サーキュランス由来のCBD(BcCBD)はこれらが不可能である。
【0048】
CBDに結合するキチンの諸特性
合成又は天然のキチンはCBD融合タンパク質との結合に使用することができる。合成キチンの例は、アセチル化キトサン、重合N−アセチルグルコサミン単糖、多糖若しくはオリゴ糖又は重合グルコサミン単糖、オリゴ糖若しくは多糖である。グルコサミンは続いて化学的にアセチル化される。
【0049】
天然キチンの例は、カニの甲羅、昆虫の外骨格又は真菌の細胞壁に由来するキチンや当分野で公知の出所に由来するキチンである。
【0050】
キチンは、図7に示すように基体上に固定されていてもよい。基体の例は、プラスチックなどのポリマーである。或いは、キチンは集合して、例えば、懸濁液、コロイド、ビーズ、カラム、マトリックス、シート又は膜を形成することができる。キチンは、発酵中に発酵培地に添加するように滅菌することができ、発酵プロセスの最後に融合タンパク質と結合する、滅菌されていない形態で使用することができる。
【0051】
CBDと融合した分泌タンパク質をキチン被覆磁気ビーズを用いて濃縮する一般に適用可能な手法
分泌CBD融合タンパク質に結合するキチン基質は、標的タンパク質を培地から容易に取り出せるように磁化されていてもよい。磁化されたキチンは、キチンを磁性材料と組み合せることによって作製することができる。磁性材料は、鉄のやすり屑などの分散片とすることができる。好ましい実施形態においては、磁化キチンは、ビーズの形態であるが、不活性であってもよい追加の材料への被膜として使用することもできる。好ましい実施形態においては、磁化された材料は磁化キチンであるが、(a)標的タンパク質に結合することができ、又は標的タンパク質との融合体として発現させることができる特性及び(b)磁化することができる材料に結合することができる特性を有する他の磁性材料も使用することができる。
【0052】
一実施形態においては、磁化キチンビーズ(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)を用いて分泌CBD融合タンパク質を結合させる。ビーズのサイズは重要ではないが、直径200nm未満のサイズから形成されるビーズは、滅菌フィルターを通過し、磁力がかけられるまで培地中でコロイドを形成する利点を有する(例えば5,160,726参照)。より大きなビーズを使用することもできる。キチンビーズは中実(例えば、New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)又は多孔質(例えば、JP 62151430)とすることができる。さらに、ビーズは、様々な手段、例えば、鉄のやすり屑をビーズ全体に分散させることによって、又は(鉄にキチンを被覆することによって)鉄の核を有するビーズを形成することによって磁化することができる(例えば5,262,176参照)。本発明で使用する磁化キチンは好ましい実施形態においてはビーズの形態であるが、キチン表面の他の形状及びサイズを排除するものではない。
【0053】
磁気キチンビーズは、細胞培養物の増殖中若しくは増殖後に、又は増殖細胞を培養物から除去した後に、増殖培地に添加することもできる(図9B)。従って、磁化キチンビーズは、その結合特性をさほど変化させずに滅菌できることが本発明では示された。キチンビーズを細胞増殖中に培地に添加するときには、ビーズを滅菌することが好ましい。
【0054】
典型的には、キチンビーズに対するCBD標識タンパク質の最大結合量(図9B、段階4a及び4b)は4℃で1時間以内に生じるが、他の温度及び時間枠も可能である。磁気キチンビーズに固定されたタンパク質を磁場中で収集し(図9B、段階5a及び5b)、細胞、汚染タンパク質及び増殖培地をビーズから洗い流す(図9B、段階6)。次いで、キチンビーズ−タンパク質複合体を磁場から遊離させ(図1B、段階7)、収集したタンパク質は、キチン磁気ビーズ上に無期限に固定することができ(図9B、段階8b)、又は溶出可能なCBDを親和性タグとして用いた場合にはキチンから解離させることができる(図9B、段階8a)。
【0055】
従って、磁化キチンビーズを発酵容器中の培地に添加することによって、標的タンパク質を回収するきわめて効率的な一段階プロセスを実現することができる。細胞は、磁化キチンビーズを含む培地中で増殖し、その結果、分泌CBD標識タンパク質は、培養中にビーズに結合し、発酵容器外部の、又は所望の通りに、発酵容器内部の磁石から磁力をかける簡単な段階によって培地から直接収集することができる(図9−11参照)。この手法は、磁化キチンビーズを滅菌する必要がある。発酵開始時又は発酵中に添加したサイズ50−70μmの滅菌キチンビーズからの収率は、ビーズを発酵終了時に添加した時に得られるタンパク質の収率と類似していることがここに示された(図8)。
【0056】
分泌タンパク質を大きな体積から濃縮する本手法の説得力のある特徴はその普遍性である。本方法は、追加のタンパク質と融合したときにキチンに結合するキチン結合ドメインの能力を利用する。追加のタンパク質の機能は、CBDの存在によって損なわれない。
【0057】
融合タンパク質を分泌する細胞が、キチンに結合するタンパク質をそのままでは確実に産生しないことによって、競合的結合及び汚染が回避される。CBDは、キチンとかなりの結合力で結合する。所望のタンパク質CBD融合タンパク質は、制御条件下で結合が消滅して融合タンパク質を遊離することができるようにCBDを変異させることによって(米国特許第6,897,286号)、或いはインテイン切断システム又はプロテアーゼ切断を用いてタンパク質をCBD−キチン複合体から遊離させることによって(国際公開第2004/053460号、米国特許第5,643,758号)、キチンビーズから回収することができる。さらに、タンパク質分解性切断部位がCBDと所望のタンパク質との間に存在する場合には、CBDタグをプロテアーゼ(例えばエンテロキナーゼ、genenase、フューリン、第X因子など)による消化によって所望のタンパク質から遊離させることができる。
【0058】
CBD−キチン相互作用の堅牢な性質のために、CBD標識タンパク質は、いかなる形態の磁化キチンにでも、例えばビーズにでも、迅速に固定化することができる。
【0059】
磁化キチンがビーズ形態である場合には、結合CBD標識タンパク質を含むキチンビーズを磁場中で数秒で収集することができる。必要に応じて、(溶出可能なCBDを使用した場合)溶出緩衝剤中でインキュベートすることによって、CBD標識タンパク質を磁化基質から解離することができる。この方法の利点としては、速度の改善、高い費用効果、簡易性などが挙げられる。
【0060】
一般的な試験管(例えば、96ウェルマイクロタイター皿、微量遠心管、15mlファルコンチューブ、50mlファルコンチューブ、250mlナルゲンビンなど)に適合した磁気分離装置を使用して、CBD標識タンパク質を数マイクロリットルから数リットルの培地から収集する(図3−6)。手順は、CBD標識タンパク質をより多量の培地から収集できるように容易に拡大することができる。好ましい実施形態においては、磁石は希土類金属(例えばネオジム、サマリウム コバルトなど)で構成されるが、他のタイプの磁石(例えばフェライト、セラミックス、電磁石など)を使用することもできる。
【0061】
発現系の使用
混合物からの標的タンパク質の産生及び分離は、医薬品として、食物として、又は産業用に使用するタンパク質では必要である。発酵を主体とする製造が現在行われているタンパク質又は望ましいタンパク質の一覧は膨大である。少数の例としては、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、アミダーゼ、グリコシダーゼ、キシラナーゼ、ラッカーゼ、リグニナーゼ キモシンなど、又はこれらの断片若しくは誘導体、血液製剤(血清アルブミン、アルファ−又はベータ−グロビン、凝固因子及び例えば第VIII因子、第IX因子、フォンウィルブランド因子、フィブロネクチン、アルファ−1抗トリプシンなど、又はこれらの断片若しくは誘導体など)、インスリン及びその変異体、インターロイキンなどのリンホカイン、インターフェロン、コロニー刺激因子(G−CSF、GM−CSF、M−CSFなど)、TNFなど、又はこれらの断片若しくは誘導体、増殖因子(成長ホルモン、エリスロポイエチン、FGF、EGF、PDGF、TGFなど、又はこれらの断片若しくは誘導体など)、アポリポタンパク質及びその分子変異体、ワクチン製造用抗原性ポリペプチド(肝炎、サイトメガロウイルス、エプスタインバーウイルス、ヘルペスウイルスなど)、単鎖抗体(ScFv)、或いは特に安定化部分に融合した生物活性部分を含む融合体などのポリペプチド融合体が挙げられる。
【0062】
上記及び下記全ての参考文献並びに米国仮出願第60/616,420号及び同60/690,470号を参照により本明細書に組み入れる。
実施例
【実施例1】
【0063】
以下の実施例用の材料及び方法
酵母株、培養条件及び形質転換条件
K.ラクチス株及びS.セレビシエ株(表1)をYPD培地(1%酵母エキス、2%ペプトン及び2%グルコース)又はYPGal培地(1%酵母エキス、2%ペプトン及び2%ガラクトース)中で30℃で常法に従って培養した。
【0064】
【表1】
【0065】
K.ラクチス及びS.セレビシエの形質転換をエレクトロポレーションによって実施した。K.ラクチスの形質転換体を、200mg/ml G418を含むYPD寒天上で増殖させることによって選択した。一方、S.セレビシエ形質転換体を、系統の栄養要求性を補うのに必要な適切な補助剤を含むSD培地(0.67%酵母窒素ベース、2%グルコース)又はSGal培地(0.67%酵母窒素ベース、2%ガラクトース)上で増殖させることによって得た。
【0066】
分泌K.ラクチスキチン結合タンパク質の検出及び単離
ウエスタンブロット法によって、バチルスサーキュランスキチナーゼA1(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)由来のキチン結合ドメインに対するポリクローナル抗キチン結合ドメイン抗体(α−CBD)と交差反応する分泌K.ラクチスタンパク質を検出した。
【0067】
(a)48−96時間増殖後に使用培地をK.ラクチスGG799培養物から4000xgで10分間の遠心分離によって単離した。
【0068】
遠心分離後、使用培地中のタンパク質を4−20%Tris−グリシンポリアクリルアミドゲル(Daiichi Pharmaceutical Corp.、Montvale、NJ)上のSDS−PAGEによって分離し、Protranニトロセルロース膜(Schleicher & Schuell Bioscience、Keene、NH)に移した。0.05%Tween 20を含むリン酸緩衝食塩水(PBS−T)及び5%脱脂乳(w/v)で4℃で膜を終夜ブロックし、α−CBDポリクローナル抗体(5%脱脂乳を含むPBS−Tで1:2000希釈)、続いて西洋ワサビペルオキシダーゼ複合化抗ウサギ二次抗体(Kirkegaard & Perry Laboratories、Gaithersburg、MD)、5%脱脂乳を含むPBS−Tで1:2000希釈)でプローブした。タンパク質−抗体複合体をLumiGlo(商標)検出試薬(Cell Signaling Technologies、Beverly、MA)によって可視化した。
【0069】
(b)キチンに結合した分泌タンパク質を単離するために、K.ラクチスGG799細胞をYPD培地20ml中で96時間増殖させた。細胞を培養物から遠心分離によって除去し、使用培地を、水洗したキチンビーズ(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)1mlを含む新しい管に移し、静かに回転させながら室温で1時間インキュベートした。キチンビーズを遠心分離によって収集し、水10mlで洗浄した。タンパク質が結合したキチンビーズ約50μlを取り出し、タンパク質ローディングバッファー中で2分間煮沸して結合タンパク質を溶出させ、その後、溶出したタンパク質をSDS−PAGEによって分離し、α−CBDポリクローナル抗体を用いたウエスタン分析又はアミノ末端タンパク質配列決定に供した。
【0070】
K.ラクチスキチナーゼ由来のキチン結合ドメイン(KlCts1p CBD)のキチン結合特性の分析
K.ラクチスGG799使用培地20mlから得られたKlCts1pを、上述したようにキチンビーズ1mlに結合させた。KlCts1p結合ビーズを水10mlで洗浄し、水1.5mlに再懸濁させた。100μl一定分量のKlCts1p結合ビーズを個々の使い捨てカラム(Bio−Rad Laboratories、Hercules、CA)に分配することによってミニカラムを調製した。1ml体積(約10ベッド体積)の以下の各緩衝剤を別個のミニカラムに通過させた:50mMクエン酸Na pH3.0、50mMクエン酸Na pH5.0、100mMグリシン−NaOH pH10.0、非緩衝20mM NaOH pH12.3、5M NaCl及び8M尿素。次いで、各カラムを水2mlで洗浄し、その後ビーズを水200μlに再懸濁させ、微量遠心管に移し、短時間の遠心分離によって収集した。依然としてキチンに結合しているタンパク質を、ビーズを3×SDS−PAGEローディングバッファー(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)50ml中で5分間煮沸することによって溶出させた。溶出したタンパク質を、上述したように、SDS−PAGEによって分離し、ウエスタン分析によって検出した。
【0071】
様々な濃度のNaOH(0−40mM)を用いたKlCts1p溶出プロファイルを同様に実施した。キチンに結合したKlCts1pの一定分量(100μl)を上述したように調製し、1.5ml微量遠心管に挿入したマイクロフィルターカップ(Millipore、Billerica、MA)に分配してスピンカラムを作製した。流出物(flow−through)を15,800xgで1分間の微量遠心によって収集し、廃棄した。次いで、ビーズをNaOH 100μlに各所望の濃度(0−40mM)で再懸濁させ、溶出物を15,800xgで1分間の遠心分離によって収集した。各溶出物のキチナーゼ活性を以下に示すように測定した。
【0072】
K.ラクチスキチナーゼ遺伝子(KlCTS1)の破壊
PCRに基づく方法を用いて、一方の末端にKlCTS1 DNAの80−82bpを有する、ADH2プロモーター−G418耐性遺伝子カセットからなる線状DNA破壊断片を構築した。この断片は、KlCTS1部位に組み込まれると、KlCts1pの最初の168個のアミノ酸をコードするDNAをG418耐性カセットで置換する。ADH−G418配列とハイブリッドを形成するDNA(下線なし。)を含み、KlCTS1 DNA配列からなる末端(下線あり。)を有するプライマー、
【化1】
を使用して、ADH2−G418含有ベクターpGBN2からの破壊DNA断片をTaq DNAポリメラーゼを用いて増幅した。増幅産物を用いて、K.ラクチスGG799細胞を形質転換し、200mg/ml G418を含むYPD寒天上でコロニーを選択した。KlCTS1特異的順方向プライマー5’−GGGCACAACAATGGCAGG−3’(配列番号3)(組込み部位の上流用)及びG418特異的逆方向プライマー5’−GCCTCTCCACCCAAGCGGC−3’(配列番号4)を用いた細胞全体のPCRによって、破壊DNA断片をKlCTS1部位に正確に組み込んだ細胞からの約600bpの診断用DNA断片を増幅した。このようにして試験した20個の形質転換体のうち、2個のDcts1 K.ラクチス系統を特定し、さらに分析した。
【0073】
S.セレビシエ中でのKlCTS1の異種発現
S.セレビシエ中でKlCTS1を発現させるために、
【化2】
を用いて遺伝子をPCR増幅し、pMW20(31)のBamH I−Sph I部位にクローン化して、KlCTS1の発現をガラクトース誘導性/グルコース抑制性S.セレビシエGAL10プロモーターの制御下に置いた。この発現構築体をS.セレビシエΔcts1系統RG6947に形質転換によって導入した。KlCtsp1の産生を誘導するために、スターターカルチャー2mlを、20mg/mlウラシルを含むSD培地中で30℃で終夜増殖させ、その後、各培養物1mlを用いてYPD培養物20ml及びYPGal培養物20mlを接種した。各培養物を振とうしながら30℃で終夜増殖させた後、使用培地のキチナーゼ産生及び顕微鏡法による細胞形態学の分析を行った。
【0074】
キチナーゼ活性測定
1−4GlcNAc残基のキチンオリゴ糖及び4−メチルウンベリフェロン(4−MU)で各々誘導体化した4−メチルウンベリフェリルN−アセチル−β−D−キトトリオシド(4MU−GlcNAc)、4−メチルウンベリフェリルN,N’−ジアセチル−β−D−キトテトラオシド(4MU−GlcNAc2)、4−メチルウンベリフェリルN,N’,N”−トリアセチル−β−D−キトトリオシド(4MU−GlcNAc3)又は4−メチルウンベリフェリルN,N’,N”,N’”−テトラアセチル−β−D−キトテトラオシド(4MU−GlcNAc4)(Sigma−Aldrich Corp.、St. Louis、MO and EMD Biosciences、San Diego、CA)を基質として用いた。Genios蛍光マイクロタイタープレートリーダー(Tecan、San Jose、CA)及び340nm/465nm励起/発光フィルターを用いて37℃で4−MUの遊離を測定することによってキチナーゼ活性を求めた。96ウェル黒色マイクロタイタープレートの各ウェル中の反応混合物は100mlであり、50mM基質、1×McIlvaine緩衝剤(異なる実験におけるpH4−7)及び試料5−10mlを含んだ。初期遊離速度を記録し、酵素単位を遊離4−MU pmol/minとして計算した。蛍光単位から変換するために、4−MU(Sigma−Aldrich Corp.、St. Louis、MO)の検量線を反応条件下で用意した。
【0075】
顕微鏡法
細胞約1−2 OD600単位を収集し、2.5%(v/v)グルタルアルデヒド1mlを用いて氷上で1時間固定した。細胞を水で2回洗浄し、封入剤(20mM Tris−HCl pH8.0、0.5%N−プロピルガラート、80%グリセリン)約100mlに再懸濁させた。隔壁染色実験においては、Calcofluor white(Sigma−Aldrich Corp.、St. Louis、MO)を封入剤に最終濃度100mg/mlで添加した。light phase Normaski imaging又は蛍光DAPIフィルター設定を用いたZeiss Axiovert 200M顕微鏡によって細胞を検査した。
【0076】
細胞のキチン測定
細胞をKOHで抽出し、アルカリ不溶性材料中のキチンをキチナーゼによってGlcNAcに加水分解し、既報(Bulik, D.A., et al. Eukaryot. Cell 2:886−900(2003))のmicro Morgan−Elsonアッセイによって定量した。
【実施例2】
【0077】
K.ラクチスキチナーゼ(KlCts1p)の特定及び生化学的特性決定
B.サーキュランスChi1Aキチン結合ドメイン(α−CBD)に対して産生されるポリクローナル抗体をK.ラクチスGG799使用培地のウエスタンブロット分析に使用して、交差反応性キチン結合ドメインを含む未変性分泌K.ラクチスタンパク質を特定した(図1)。
【0078】
非濃縮K.ラクチスGG799使用培地(96時間増殖)10ml中の分泌タンパク質を4−20%ポリアクリルアミドTris−グリシンSDSゲルを用いて分離し、B.サーキュランスキチナーゼA1キチン結合ドメインに対して産生されたポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット法によってキチン結合ドメインの有無についてスクリーニングした(レーン1)。分泌タンパク質をキチンビーズに結合させ、2分間煮沸することによってSDS−PAGEローディングバッファー中に直接溶出させ、SDS−PAGEを用いて分離した(レーン2)。
【0079】
これらのタンパク質のいずれかがキチンに結合し得るかどうかを試験するために、使用培地をキチンビーズと混合し、室温で1時間回転させた。キチンビーズを水で洗浄し、煮沸することによって結合タンパク質をSDS−PAGEローディングバッファーに直接溶出させた。ウエスタンブロット法によれば、85kDa a−CBD交差反応性タンパク質のみがキチンに結合することができた(図1、レーン2)。このようにしてキチンビーズから直接精製したタンパク質をN末端タンパク質配列決定に供した。その結果、成熟タンパク質の最初の20個のアミノ末端アミノ酸(FDINAKDNVAVYWGQASAAT)(配列番号7)が確認された。配列データベースをプローブするクエリーとしてこのアミノ酸配列を用いたtBLASTn検索によって、問い合わせ配列に正確に一致する翻訳配列であって、S.セレビシエ細胞外キチナーゼCts1p(ScCts1p)と有意な相同性を有する翻訳配列を含む、部分的に配列決定されたK.ラクチス遺伝子を特定した。
【0080】
KlCTS1のクローニングと配列解析
この研究の開始時には、K.ラクチスゲノムの配列はまだ報告されていなかった。従って、サザンブロット法とアンカーPCRの組合せを用いて、tBLASTnアルゴリズムを用いたデータベース検索によって最初に特定した(上記)部分KlCTS1配列の残部をクローン化した。KlCts1p配列は、最近報告されたK.ラクチスゲノム配列中のK.ラクチスORF KLLA0C04730gの翻訳産物と同一であった(Dujon B., et al. Nature 430:35−44(2004))。
【0081】
KlCTS1は、SDS−PAGEで測定して85kDaの分子量を有する551個のアミノ酸を含むタンパク質をコードする。KlCTS1pはS.セレビシエCts1pキチナーゼと53%同一及び82%類似であり、シグナルペプチド、触媒ドメイン、Ser/Thrに富むドメイン及びキチン結合ドメインからなる類似のモジュラードメイン構造を有する(図2A)。Signal Pソフトウエア(Nielson et al. Protein Eng. 10: 1−6(1997))によって、A19の後で開裂するシグナルペプチドの存在が予測された(図2A)。これは、F20で始まる、精製分泌KlCts1pから決定されるアミノ末端タンパク質配列と一致する。予測されたKlCts1p触媒ドメインと他のキチナーゼの触媒ドメインとのアミノ酸相同性によれば、KlCts1pはキチナーゼファミリー18に属する(図2B)。さらに、SMARTドメイン予測ソフトウエア(Letunic, I., et al. Nucl. Acids Res. 30: 242−244(2002)及びSchultz, J., et al. PNAS 95: 5857−5864(1998))によって、6個の保存システイン残基を含むC末端タイプ2キチン結合ドメインの存在が示された(図2C)。
【0082】
KlCts1pとS.セレビシエキチナーゼ(ScCts1p)の触媒作用特性を比較した。S.セレビシエCts1pは、酸性のpHが最適であるので(Kuranda、M., et al. J. Biol. Chem. 266: 19758−19767(1991))、KlCts1pの基質優先度を規定するために最初にpH4.5を選択した。図3Bに示すように、両方の酵母から得られたキチナーゼは4MU−GlcNAc3と4MU−GlcNAc4の両方の基質を加水分解した。しかし、K.ラクチスキチナーゼは、4MU−GlcNAc3よりも4MU−GlcNAc4を優先する程度がScCts1pとは異なる。K.ラクチス系統GG799の結果と類似した結果が系統CBS2359及びCBS683から分泌されたキチナーゼに対しても得られた。さらに、KlCts1pは、pH4.5で最大活性を示し、ScCts1pよりも約0.5pH単位だけよりアルカリ性であった(図3C)。
【0083】
KlCts1p CBD−キチン親和性分析
KlCts1pとキチンビーズの会合をある条件範囲下で調べた。図4Aによれば、KlCts1pのキチンとの会合は5M NaCl中並びにpH3、pH5及びpH10の緩衝剤中で安定である。タンパク質を通常は変性させる条件である8M尿素中では、キチンに結合したKlCts1pの約60%しかキチンビーズから解離しなかった。しかし、pH12.3の20mM NaOH中では完全に解離した。キチンに結合したKlCts1pの溶出プロファイルによれば、(空隙容量を含めて)最初の2つの画分では等量のタンパク質が溶出し、KlCts1p−キチン会合が20mM NaOH中ですぐに不安定になることが示唆された(図4B)。驚くべきことに、このようにして溶出したKlCts1pはキチン分解活性を保持していた(図4C)。実際に、キチン結合前と20mM NaOHでの溶出後のキチナーゼ活性の測定によれば、キチナーゼ活性はほぼ100%回復した。
【0084】
KlCts1p CBDが、i)KlCts1p触媒ドメインとは独立して、ii)異種発現されたタンパク質に対する親和性タグとして、機能し得るかどうかを判定するために、KlCts1pのアミノ酸470−551由来のCBD(KlCBD)とのC末端融合を含むヒト血清アルブミン(HSA)をK.ラクチスから分泌させた。比較のために、HSAを同様にB.サーキュランスキチナーゼA1タイプ3CBD(BcCBD)にも融合させ、K.ラクチスから分泌させた。CBD融合タンパク質を実施例1に記載のようにキチンビーズに結合させ、20mM NaOHの存在下でそのキチン親和性を求めた。図4Dによれば、HSA−KlCBD融合タンパク質は20mM NaOH中でキチンビーズから完全に解離したのに対して、HSA−BcCBD融合タンパク質は20mM NaOHで徹底して洗浄してもキチンに結合したままであった。これらの結果は、KlCBDがKlCts1p触媒ドメインとは独立して機能し、20mM NaOH中でのキチンからの解離は固有の特性であることを示している。また、これらのデータは、KlCBDを親アルカリ性若しくは耐アルカリ性タンパク質の精製又は可逆的なキチン固定化に対する溶出可能な親和性タグとして使用することができる可能性を提示している。
【0085】
KlCTS1の破壊
K.ラクチスにおけるKlCts1pのインビボでの機能を調べるために、KlCTS1対立遺伝子を分裂させて半数体細胞とした。PCRを用いた方法によって、「材料及び方法」に記載のように、カナマイシン選択マーカーカセットを含むDNA破壊断片を構築した。この断片を用いてK.ラクチス細胞を形質転換してG418耐性にした。形質転換体を、KlCTS1部位に破壊DNA断片が組み込まれた形質転換体について細胞全体のPCRによってスクリーニングした。試験した20個のコロニーのうち、2個は破壊DNA断片が正確に組み込まれ(データ示さず)、KlCTS1がK.ラクチスの生存に必須ではないことが示された。さらに、使用培地においてKlCts1p(図5A)及びキチン分解活性(図3A)が存在しないことによって示されるように、K.ラクチスDcts1細胞はキチナーゼを分泌しない。
【0086】
K.ラクチス野生型(GG799)及びΔcts1細胞の増殖及び細胞形態学を検討した。YPD培地では、Δcts1系統は、緩やかに凝集した細胞の小さなクラスターとして成長し、短時間の超音波処理によって容易に分散して単細胞になった。キチン結合色素Calcofluor whiteで染色した細胞の蛍光顕微鏡法によれば、Δcts1細胞は隔壁を介して連結されており(図5B、右パネル)、Δcts1細胞が細胞質分裂中に隔壁のキチンを分解できないことを示唆している。類似の表現型はS.セレビシエΔcts1細胞でも認められた(Kuranda, M., et al. J. Biol. Chem. 266: 19758−19767(1991))。従って、KlCTS1が正常な細胞分離をS.セレビシエΔcts1細胞に回復させることができるかどうかを試験した。KlCTS1をS.セレビシエ発現ベクター中のGAL10ガラクトース誘導性プロモーターの制御下に置いた。KlCTS1を発現するS.セレビシエDcts1細胞は、ガラクトース含有培地中でKlCts1pを分泌し(図6A)、細胞凝集体を形成しない(図6B)。要約すると、これらのデータは、KlCTS1とScCts1が、細胞分離に、おそらくは隔壁のキチンの分解を促進することによって、関与する機能上等価なタンパク質をコードすることを示唆している。
【0087】
K.ラクチスキチナーゼ欠失変異体の特性決定
Δcts1細胞が高い培養密度まで増殖し得るかどうかを調べた。K.ラクチスΔcts1細胞に付随する凝集表現型は、600nmにおける吸光度(OD600)による細胞密度の測定値を野生型細胞の65%未満にした。しかし、48時間増殖させた野生型及びΔcts1細胞の培養物はほぼ同一乾燥重量の細胞を産生した。さらに、細胞の全キチンは2つの系統間では有意差がなかった。細胞のキチンをKOHで抽出し、キチナーゼによって加水分解すると、系統GG799はGlcNAc 21.8±1.9nmol/mg乾燥細胞を生成し、Δcts1系統はGlcNAc 20.8±1.0nmol/mg乾燥細胞を生成した。従って、その穏和な成長表現型にもかかわらず、Δcts1細胞は、培養によって野生型細胞と同じ細胞密度を依然として得ることができ、この系統(strain background)がCBD標識タンパク質の商業生産に適切であることが示唆された。
【実施例3】
【0088】
pGBN2−HSA−KlCBDの調製
KlCts1pのCBDとヒト血清アルブミン(HSA)との融合体を作製するために、
【化3】
を使用して、KlCts1pのC末端の81個のアミノ酸をコードするDNA断片をDeep Vent(商標)DNAポリメラーゼ(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)を用いて増幅した。KlCts1p−CBD断片をK.ラクチス組み込み発現プラスミドpGBN2(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)のBgl II−Not I部位にクローン化してpGBN2−KlCBDを作製した。HSAを
【化4】
を用いて増幅し、pGBN2−KlCBDのXho I−Bgl II部位にクローン化した。生成した発現構築体は、K.ラクチスゲノムに組み込むと、(pGBN2中に存在する)S.セレビシエa−接合因子プレプロ分泌リーダー、HSA及びKlCBDからなる単一のポリペプチドを産生する。
【0089】
B.サーキュランス(B.circulans)キチナーゼA1に由来するカルボキシ末端タイプ3CBD(BcCBD)を含むHSAを産生する対照の構築体を同様に組み立てた。
【化5】
を使用して、pTYBl(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)から得られるBcCBDをPCR増幅した。増幅産物をpGBN2のBgl II−Not I部位にクローン化してpGBN2−BcCBDを作製した。HSAを、上述したように、増幅し、pGBN2−BcCBDのXho I−Bgl II部位にクローン化した。
【実施例4】
【0090】
K.ラクチスΔcts1細胞中でのHSA−CBDの産生及び分泌
ベクターpGBN2−HSA−KlCBD(5μg)を、SacIIを用いて直線化し、K.ラクチスΔcts1細胞をエレクトロポレーションによる形質転換に用いた。形質転換体を、5mMアセトアミドを含む酵母炭素ベース寒天培地(Difco(商標)、Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)上で30℃で4日間増殖させて選択した。個々の形質転換体を使用してYPD(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコース)2mlの培養を開始し、30℃で終夜増殖させた。終夜培養物の1:100希釈を使用してYPGal(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%ガラクトース)培養物2mlに接種した。培養物を振とうしながら30℃で48時間インキュベートした。培養物1mlを15,800×gで2分間微量遠心して細胞を除去することによって、使用培地を調製した。細胞を除去した使用培地の20ml一定分量を新しい管に移し、3×タンパク質ローディングバッファー10mlと混合し、95℃で10分間加熱した。20ml一定分量を10−20%Tris−グリシンポリアクリルアミドゲル上で分離させ、分泌HSA−KlCBD融合タンパク質をクーマシー染色によって検出した。
【実施例5】
【0091】
キチンビーズを用いたHSA−KlCBDの精製
融合タンパク質をキチンに固定することによって分泌HSA−KlCBDを単離するために、組み込みHSA−KlCBD発現断片を含むK.ラクチスDcts1細胞(上記)をYPD培地20ml中で96時間増殖させた。細胞を培養物から遠心分離によって除去し、使用培地を、水洗したキチンビーズ(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)1mlを含む新しい管に移し、静かに回転させながら室温で1時間インキュベートした。遠心分離によってキチンビーズを収集し、水10mlで洗浄し、水1mlに再懸濁させた。タンパク質が結合したキチンビーズ約50mlをSDS試料緩衝剤中で2分間煮沸することによって、固定されたHSA−KlCBDを溶出させ、続いて2分間微量遠心してキチンビーズを除去した。上清中の溶出したHSA−KlCBDを、SDS−PAGEとクーマシー染色によって、又はa−CBD若しくはa−HSA抗体を用いたウエスタン分析によって、可視化した。さらに、20mM NaOH 5mlをカラム全体に通すことによって、HSA−KlCBDをキチンビーズから溶出させることができる。このようにして生成したHSAは、キチンに偶然に結合する、又はキチンを分解する内因性K.ラクチスタンパク質を含まない。
【実施例6】
【0092】
磁化キチンビーズを用いたHSA−KlCBDの濃縮
CBD標識ヒト血清アルブミン(HSA−CBD)を用いて、培養増殖の様々な段階におけるCBD標識タンパク質と磁気キチンビーズとの会合を実証した(図8参照)。K.ラクチス系統GG799 Δcts1PCKl3の4個のYPGal(1%酵母エキス、2%ペプトン及び2%ガラクトース)培養物25mlに、30℃で24時間増殖させた2mlスターターカルチャーの100mlを接種した。
【0093】
培養物1:接種前に、20分間の高圧蒸気殺菌によって滅菌した沈降(settled)キチン磁気ビーズ1mlを培地中に添加した。次いで、培養物を約300r.p.m.で振とうしながら30℃で72時間インキュベートした。
【0094】
培養物2:増殖24時間目に、無菌磁気キチンビーズ1mlを培地に添加した。培養物を約300r.p.m.で振とうしながら30℃でさらに48時間(合計72時間)インキュベートした。
【0095】
培養物3:72時間後、キチン磁気ビーズ1mlを第3培養物に添加し、続いて室温で1時間静かに振とうした。
【0096】
培養物4:第4培養物から5000r.p.m.で5分間の遠心分離によって細胞を除去し、細胞を除去した使用培地に磁気キチンビーズ1mlを添加し、続いて室温で1時間静かに振とうした。
【0097】
各培養物を標準50mlの蓋付き試験管にデカントした。試験管を50ml磁気装置(図9)に30秒間挿入し、続いて上清をデカントすることによって磁気ビーズを収集した。次いで、試験管を磁場から取り出し、磁気キチン粒子のペレットを水40mlで洗浄し、磁場中で再度単離した。この洗浄プロセスを合計3回繰り返した後、ビーズを4本のねじ蓋付き微量遠心管に移した。結合したHSA−CBDを溶出させるために、各遠心管のビーズをジチオスレイトールを含む3×タンパク質ローディングバッファー(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)250ml中に懸濁させ、98℃で5分間加熱した。各試料5ml中の溶出タンパク質を10−20%SDS−PAGEゲルによって分離し、クーマシー染色によって可視化した(図8)。溶出したHSA−CBDが各試料で観察され、磁気キチンビーズが培養物の増殖中又は増殖後にCBD標識タンパク質を首尾よく捕捉したことが示された。各培養物において捕捉したHSA−CBDの収率は4mg/Lと推定された。
【実施例7】
【0098】
分泌GluC−CBDタンパク質を濃縮するための磁化キチンビーズの使用
磁化ビーズがCBD融合タンパク質を培地から濃縮できるかどうかを試験するために、融合タンパク質(GluC−CBD。GluCはスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のエンドプロテインをコードするDNAで形質転換されたバチルス・サーキュランスの終夜培養物20mlを125mlフラスコ中で増殖させた。GluCをコードするDNAを、B.サーキュランスCBDを含むプラスミドpGNB5に挿入した。コンピテント細胞の形質転換を標準技術(Harwood and Cutting, Molecular Biological Methods, ed. John Wiley & Sons Ltd., New York, NY, pp.33−35, 67, 1990)によって実施した。比較のために、4個の培養物を増殖させた。1個はGluCエンドプロテアーゼを発現するプラスミドを含み、3個は融合タンパク質(GluC−CBD)用プラスミドを含む。全ての実験で、5%ビーズ体積を培養物に添加した。対照として、非特異的結合を調べるために、GluC構築体を含む培養物を磁気ビーズの存在下で終夜増殖させた(図12、レーン2)。磁気ビーズを3個のGluC−CBD培養物に異なる時間で添加して、インキュベーション時間が結合能力をもたらすかどうかを検討した。培養物1を増殖サイクル全体にわたってビーズの存在下で振とうしながら37℃で終夜増殖させた(図12、レーン3)。培養物2の場合、37℃で16時間増殖させた後に磁気ビーズを添加し、振とうしながら37℃で1時間インキュベートした(図12、レーン4)。培養物3を振とうしながら37℃で終夜増殖させ、細胞を遠心分離(10,000rpm 10分間)によって除去した。磁気ビーズを上清に添加し、振とうしながら室温で1時間インキュベートした(図12、レーン5)。いずれの場合においても、ビーズを磁気分離ラック(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA)を用いて収集し、LBブロス10mlで3回、次いで1M NaClで2回洗浄した。ビーズを1M NaCl 1mlに懸濁させ、1.5mlエッペンドルフ管に移し、10,000rpmで1分間遠心分離して液体を除去した。ビーズを、DTTを含む3×SDS試料緩衝剤100mlに懸濁させ、5分間煮沸してタンパク質を除去した。10,000rpmで2分間遠心分離してビーズを緩衝剤から分離した。試料を10−20%トリシンゲル上で分析し、ウエスタンブロットによってPVDF膜に移し、クーマシーブルーで染色した。溶出したタンパク質のアイデンティティをN末端配列決定によって確認した。その結果、分泌GluC−CBD融合タンパク質は、磁気キチンビーズに結合した主要なタンパク質であり、SDS試料緩衝剤中で煮沸することによって効率的に溶出できることが示された。また、ビーズは実験中の任意の時点でその効率を変えずに添加できることも示された。
【実施例8】
【0099】
ルシフェラーゼの産生及びキチンビーズからのその溶出
野生型K.ラクチスCBDをコードする遺伝子をベクターpKLAC1のNotI/StuI制限酵素切断部位にクローン化してベクターpKLAC1−KlCBDを作製した。次いで、Gaussiaルシフェラーゼ(GLuc)をコードする遺伝子をベクターpKLAC1−KlCBDのXhoI/NotI制限酵素切断部位にクローン化して、ベクター由来の分泌シグナルとのN末端融合体及びKlCBD遺伝子とのC末端融合体を作製した。この構築体を直線化し、K.ラクチスコンピテント細胞に形質転換した。GLuc−KlCDBを分泌するK.ラクチス細胞から得られた使用培地1リットルをベッド体積20mlのキチンビーズと室温で1時間混合した。キチンビーズをカラムに注ぎ、続いて10カラム体積(200ml)の水で洗浄した。結合タンパク質を20mM NaOHで溶出させた。溶出画分4mlを1M Tris−Cl pH7.5 1mlを含む管に収集して、カラムから流出した溶離剤を中和した。各溶出画分の1/40希釈物25マイクロリットルのルシフェラーゼ活性を評価し、RLU(相対光単位(light unit))で表した。図13によれば、活性なGLucが画分2から10で溶出し、最高活性は画分3、4及び5であった。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】ウエスタンブロットを示す図である。K.ラクチスによって使用培地中に分泌された、おおよその質量が>200、85及び50kDaである3種類のタンパク質が、B.サーキュランスChi1Aキチン結合ドメイン(α−CBD)に対して産生されたポリクローナル抗体と交差反応している(レーン1)。85kDaタンパク質はキチンビーズに結合し、K.ラクチスキチナーゼに対応する(レーン2)。
【図2A】図2(A)は、シグナルペプチド(縞)、触媒ドメイン(灰色)、Ser/Thrに富むドメイン(白色)及びキチン結合ドメイン(黒色)を有する複数ドメインKlCts1pキチナーゼを示す図である。シグナルペプチドの開裂はA19の後で起こる。
【図2B】図2(B)は、KlCts1pがグリコシル加水分解酵素のファミリー18に属することを示す図である。KlCts1pの予測触媒作用部位は、アミノ酸150−158の間にある。9個の位置の各々に対する代替アミノ酸を括弧内に示す。(「X」は任意のアミノ酸である。)
【図2C】図2(C)は、KlCts1pがタイプ2キチン結合ドメインを含むことを示す図である。KlCts1p CBDを、SMART(Simple Modular Architecture Research Tool)ソフトウエア(Letunic, I, et al. Nucl. Acids Res. 30:242−244(2002); Schultz, J., et al. PNAS 95:5857−5864(1998))によって予測されたタイプ2CBDコンセンサス配列(配列番号14)と並列させた。KlCts1p CBD(配列番号15)と、真菌(クラドスポリウム・フルバム(配列番号16);種特異的誘発物A4前駆体)、細菌(ラルストニア・ソラナセアルム(Ralsonia solanacearum)(配列番号17);Q8XZL0)、線虫(シノラブディス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)(配列番号18);推定エンドキチナーゼ)、哺乳動物(ホモ・サピエンス(配列番号19);キチナーゼ)及び昆虫(キイロショウジョウバエ(配列番号20);推定キチナーゼ3)由来の予測タイプ2CBDを含むタンパク質例とのアラインメントを示す。保存システイン残基を太字で示す。
【図3A】K.ラクチスの欠失変異体は、キチナーゼ活性によって測定してKlCts1pを分泌しないことを示す。図3(A)は、YPD培地中で30℃で22、44及び68時間の細胞増殖後に測定したキチナーゼ活性を示す図である。活性を、50mM 4MU−GlcNAc3からのpH4.5及び37℃における遊離速度4−MU/min(相対蛍光単位、RFU/min)として評価した。
【図3B】K.ラクチスの欠失変異体は、キチナーゼ活性によって測定してKlCts1pを分泌しないことを示す。図3(B)は、ウエスタンブロットでは欠失変異体に対応する試料から分泌キチナーゼを検出できなかった(レーン1)のに対して、野生型ではキチナーゼを容易に検出した(レーン2)ことを示す図である。
【図4A】図4(A)は、α−CBD抗体を用いたウエスタンブロット上のK.ラクチス由来の分泌キチナーゼ(KLCts1p)の存在を示す図である。このアッセイは、分泌キチナーゼをキチンカラムに結合させ、次いで様々なpHの緩衝剤で溶出させる、又は2分間沸騰させる必要があった。
【図4B】図4(B)は、キチンからのキチナーゼ(KLCts1p)の溶出が20mM NaOHを用いてほぼ即座に起こることを示す図である。キチンに結合したKlCts1pを、5つの連続した20mM NaOH 1ml画分(E0−E4、ここでE0はカラム空隙容量である。)として溶出させ、SDS−PAGEによって分離し、α−CBDウエスタンブロット法によって検出した。
【図4C】図4(c)は、20mM NaOHによって溶出したKlCts1pがキチン分解活性を保持することを示すグラフである。キチンに結合したKlCts1pを、様々な濃度のNaOHを用いてキチンミニカラムから溶出させた。溶出物のキチナーゼ活性を、50mM 4MU−GlcNAc3からのpH4.5及び37℃における遊離速度4−MU/minを測定することによって評価した。
【図4D】図4(D)は、未変性KlCBDが溶出可能な親和性タグとして単独で、又は融合タンパク質の一部として機能し得ることを示す図である。CBDはK.ラクチスから得られ、融合タンパク質(ヒト血清アルブミン(HSA)−KlCBD)はキチナーゼ欠乏K.ラクチス変異体(K.ラクチスΔcts1細胞)中で発現され、キチンビーズからの溶出条件は20mM NaOHである。これに対し、B.サーキュランス(B.circulans)(HSA−BcCBD)由来のCBDの融合タンパク質は、20mM NaOHによってキチンビーズから同様に溶出させることができない。対照(B−PB)は、キチンビーズを煮沸することによって溶出された融合タンパク質である。
【図5】pGBN16(pKLAC1)発現ベクターを示す図である。所望の遺伝子は、ベクター中に存在する接合因子アルファプレプロ分泌リーダー配列として同じ翻訳の読み枠中にクローン化される。特有の制限酵素切断部位を含むポリリンカーは、所望の遺伝子のクローニングを可能にするために存在する。
【図6A】K.ラクチスΔcts1細胞由来の組換えタンパク質の分泌を示す。図6(A)は、Δcts1 K.ラクチス細胞由来のマルトース結合タンパク質(MBP)の分泌を示す図である。収率は、野生型細胞由来のものと同等、又はそれ以上に良好である。
【図6B】K.ラクチスΔcts1細胞由来の組換えタンパク質の分泌を示す。図6(B)は、Δcts1 K.ラクチス細胞由来のHSA−KlCBD融合タンパク質の分泌、及び20mM NaOHによるキチンからの融合タンパク質の溶出を示す図である。
【図7】K.ラクチス細胞由来のCBD標識タンパク質の分泌を概説する流れ図である。
【図8】培養増殖の様々な時点において増殖培地に添加した磁気キチンビーズを用いて培養物から単離したCBD標識ヒト血清アルブミン(HSA−CBD)のSDS−PAGE分離を示す図である。レーン1は分子量マーカーである。レーン2は、培地成分としてK.ラクチス培養物に72時間添加した加圧滅菌キチン磁気ビーズから得たHSA−KlCBDである。レーン3は、K.ラクチス培養物に48時間添加した加圧滅菌キチン磁気ビーズから得たHSA−KlCBDである。レーン4は、収集の1時間前にK.ラクチス培養物に添加したキチン磁気ビーズから得たHSA−KlCBDである。レーン5は、細胞培養上清に添加した磁気キチンビーズから得たHSA−KlCBDである。
【図9A】図9A及び9Bは、キチン磁気ビーズを用いて、希薄溶液からタンパク質を精製する方法を示す図である。 図9A 段階1:磁気キチンビーズを滅菌する(例えば、高圧蒸気殺菌、紫外線、照射、化学処理など)。 段階2:滅菌キチンビーズを培地に添加した後、増殖培地に細胞を接種する。細胞培養物の増殖中に、細胞は、キチン結合ドメイン(黒円)で標識されたタンパク質(白丸)を分泌する。 段階3:分泌されたCBD標識タンパク質を増殖培地中の磁気キチンビーズに固定させる。 段階4:培養物増殖中のある時点において、結合CBD標識タンパク質を含む磁気キチンビーズを、磁場にかけて固定することによって細胞及び増殖培地から分離する。 段階5:ビーズを所望の緩衝剤又は培地で洗浄する。 段階6:キチンビーズ−タンパク質複合体を磁場から遊離させる。 段階7a:キチンから解離させることができるCBDを融合タンパク質の構築に使用した場合には、精製CBD融合タンパク質を磁気キチンビーズから溶出させる。段階7b:所望の用途に応じて、収集したタンパク質をキチン磁気ビーズ上に無期限に固定したままにする。
【図9B】図9A及び9Bは、キチン磁気ビーズを用いて、希薄溶液からタンパク質を精製する方法を示す図である。 図9B 段階1:磁気キチンビーズを含まない培地に細胞を接種する。 段階2:増殖細胞は、キチン結合ドメイン(黒円)で標識されたタンパク質(白丸)を分泌する。 段階3:培養物から細胞を除去することができる(例えば、遠心分離、ろ過、凝集、重力による細胞の沈降など)。 段階4a:培養物の増殖中の任意の時点において、無菌磁気キチンビーズを培養物に直接添加することができる。 段階4b:細胞を除去した使用培地に添加された磁気キチンビーズ。 段階5a及び5b:CBD標識タンパク質を、磁場にかけてビーズを固定することによって細胞及び/又は増殖培地から分離する。 段階6:ビーズを所望の緩衝剤又は培地で洗浄する。 段階7:キチンビーズ−タンパク質複合体を磁場から遊離させる。 段階8a:キチンから解離させることができるCBDを融合タンパク質の構築に使用した場合には、精製タンパク質を磁気キチンビーズから溶出させる。 段階8b:所望の用途に応じて、収集したタンパク質をキチン磁気ビーズ上に無期限に固定したままにする。
【図10A】図10(a)は、マイクロタイター皿中の調製物から磁気ビーズを分離するのに適切な磁性ラックを示す図である。
【図10B】図10(b)は、微量遠心管中の調製物から磁気ビーズを分離するのに適切な磁性ラックを示す図である。
【図10C】図10(c)は、標準50ml試験管中の調製物から磁気ビーズを分離するのに適切な磁性ラックを示す図である。
【図10D】図10(d)は、標準250ml遠心分離ボトル中の調製物から磁気ビーズを分離するのに適切な磁性ラックを示す図である。
【図11A】図11(a)は、増殖容器又は発酵槽中の調製物から磁気ビーズを分離するのに適切な、水中に投入可能な電磁石プローブを示す図である。 段階1及び2:磁気ビーズ(灰色)に固定されたタンパク質を含む増殖容器又は発酵槽に電磁石プローブ(暗灰色)を沈める。 段階3:電磁石をオンにすると、磁気ビーズがその表面に固定される。 段階4:電磁石(オン)を増殖容器又は発酵槽から取り出し、それによって磁気ビーズを単離する。
【図11B】図11(b)は、発酵槽又は増殖容器の流出物から磁気ビーズを単離するのに適切な磁気装置を示す図である。 段階1:培地、細胞及び磁気ビーズ(灰色)に結合したタンパク質を含む発酵槽又は容器からの流出物は、発酵槽から磁気単離装置中に、又は磁気単離装置を通って、流出する。 段階2:電磁石又は着脱可能な永久磁石からなる磁気単離装置によって、残留流出物から磁気ビーズを分離する。 段階3:残余の流出物は、磁気分離装置を通過する。
【図12】磁化キチンビーズを始めに、細胞培養中に、又は培養上清を収集した後に添加するかどうかにかかわらず、バチルス・サーキュランス由来の分泌GluC−CBD融合タンパク質を得ることができることを示す図である。ゲルは、SDS試料緩衝剤中で煮沸することによって磁化キチンビーズから溶出後に得られたGluC−CBD量を示している。 レーン1:対照−非染色標準(Mark 12−Invitrogen、Carlsbad、CA); レーン2:対照−GluCタンパク質; レーン3:GluC−CBDで形質転換されたB.サーキュランス細胞の終夜インキュベーション。磁化キチンビーズをインキュベーション開始時に培地に添加した; レーン4:GluC−CBDで形質転換されたB.サーキュランス細胞の終夜インキュベーション。磁化キチンビーズを培地収集の1時間前に培地に添加した; レーン5:GluC−CBDで形質転換されたB.サーキュランス細胞の終夜インキュベーション。培地を収集し、遠心分離した後に、磁化キチンビーズを上清に添加した。
【図13】キチンカラムからの一連の画分中で得られたルシフェラーゼの量によって、ルシフェラーゼ−CBDが非変性条件下で画分2から10として溶出し、画分3、4及び5で最も高活性であることを示したヒストグラムである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)キチン結合ドメイン(CBD)と標的タンパク質とを含む融合タンパク質をコードするDNAを含むベクターを用いて、宿主発現細胞を形質転換すること、
(b)前記融合タンパク質を、前記宿主発現細胞中に発現させ、該宿主発現細胞から分泌させること、及び
(c)分泌組換えタンパク質の濃縮調製物が得られるように非変性条件下で所望の緩衝剤体積中に溶出可能である、分泌された前記融合タンパク質を前記CBDによってキチン調製物に結合させること、
を含む、分泌組換えタンパク質の濃縮調製物を得る方法。
【請求項2】
段階(a)のベクターがシャトルベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
標的タンパク質をコードする、ベクター中の前記DNAが、E.コリ(E. coli)中で転写的に休止状態であり、前記宿主発現細胞中で転写的に活性である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記シャトルベクターが改変LAC4プロモーターを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記シャトルベクターがpKlAC1である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記宿主発現細胞がキチナーゼ欠乏細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記宿主発現細胞が酵母細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記酵母細胞が、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、ヤロウィア(Yarrowia)、ピキア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)及びサッカロミセス(Saccharomyces)種から選択される単一種である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記宿主発現細胞がクルイベロミセスである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
クルイベロミセスがクルイベロミセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)変種フラギリス(fragilis)又はラクチス(lactis)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記宿主発現細胞が、前記融合タンパク質が培地中に分泌されるように培養物中にある、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
培養中に培地にキチンを添加することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
キチンが無菌である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
キチンが培養後に混合物に添加される、請求項1又は11に記載の方法。
【請求項15】
キチンが、被膜、コロイド、ビーズ、カラム、マトリックス、シート及び膜から選択される形態である、請求項1又は13に記載の方法。
【請求項16】
キチンがキチンビーズであり、該ビーズが多孔質又は非多孔質である、請求項1又は13に記載の方法。
【請求項17】
前記キチンビーズが磁化されている、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
段階(d)においてキチンに結合した融合タンパク質の回収が、磁力をかけることをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
キチンに対する融合タンパク質の結合が、結合条件とは異なる非変性条件下で前記融合タンパク質がキチンから遊離し得るように、可逆的である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
(a)シャトルベクターを用意すること(該シャトルベクターは(i)酵母宿主のゲノム中に組込まれることが可能であり、および(ii)キチン結合ドメインと標的タンパク質とを含む融合タンパク質をコードするDNAを含む。)、
(b)酵母宿主発現細胞中に融合タンパク質を発現する前記シャトルベクターを用いてキチナーゼ欠乏宿主発現細胞を形質転換し、該キチナーゼ欠乏宿主発現細胞から融合タンパク質を分泌させること、及び
(c)分泌されたタンパク質の濃縮調製物が得られるように、分泌融合タンパク質をCBDによってキチン調製物に結合させること
を含む、分泌組換えタンパク質の濃縮調製物を得る方法。
【請求項21】
分泌キチナーゼを発現するキチナーゼ遺伝子の変異の結果であるキチナーゼネガティブ表現型を特徴とし、野生型クルイベロミセス(Kluyveromyces)細胞と類似の細胞密度にまで増殖することが可能である、クルイベロミセス細胞調製物。
【請求項22】
組換えタンパク質を発現し及び分泌することがさらに可能である、請求項21に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【請求項23】
発現がLAC4プロモーター又はその改変体によって調節される、請求項22に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【請求項24】
クルイベロミセス中でタンパク質を発現するが、E.コリ(E.coli)中ではタンパク質を実質的に発現しない、改変Lac4プロモーターを有するシャトルベクターを含む、請求項21に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【請求項25】
シャトルベクターがpKLACIである、請求項22に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【請求項26】
クルイベロミセスの増殖及び維持の少なくとも一方が可能であり、滅菌キチンをさらに含む培地をさらに含む、請求項21に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【請求項27】
前記滅菌キチンが磁気ビーズの形である、請求項26に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【請求項28】
該調製物が、キチンビーズを可逆的に結びつける磁石を含んでいてもよい容器又は該磁石と接触していてもよい容器に入れられている、請求項21に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【請求項1】
(a)キチン結合ドメイン(CBD)と標的タンパク質とを含む融合タンパク質をコードするDNAを含むベクターを用いて、宿主発現細胞を形質転換すること、
(b)前記融合タンパク質を、前記宿主発現細胞中に発現させ、該宿主発現細胞から分泌させること、及び
(c)分泌組換えタンパク質の濃縮調製物が得られるように非変性条件下で所望の緩衝剤体積中に溶出可能である、分泌された前記融合タンパク質を前記CBDによってキチン調製物に結合させること、
を含む、分泌組換えタンパク質の濃縮調製物を得る方法。
【請求項2】
段階(a)のベクターがシャトルベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
標的タンパク質をコードする、ベクター中の前記DNAが、E.コリ(E. coli)中で転写的に休止状態であり、前記宿主発現細胞中で転写的に活性である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記シャトルベクターが改変LAC4プロモーターを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記シャトルベクターがpKlAC1である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記宿主発現細胞がキチナーゼ欠乏細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記宿主発現細胞が酵母細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記酵母細胞が、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、ヤロウィア(Yarrowia)、ピキア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)及びサッカロミセス(Saccharomyces)種から選択される単一種である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記宿主発現細胞がクルイベロミセスである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
クルイベロミセスがクルイベロミセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)変種フラギリス(fragilis)又はラクチス(lactis)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記宿主発現細胞が、前記融合タンパク質が培地中に分泌されるように培養物中にある、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
培養中に培地にキチンを添加することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
キチンが無菌である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
キチンが培養後に混合物に添加される、請求項1又は11に記載の方法。
【請求項15】
キチンが、被膜、コロイド、ビーズ、カラム、マトリックス、シート及び膜から選択される形態である、請求項1又は13に記載の方法。
【請求項16】
キチンがキチンビーズであり、該ビーズが多孔質又は非多孔質である、請求項1又は13に記載の方法。
【請求項17】
前記キチンビーズが磁化されている、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
段階(d)においてキチンに結合した融合タンパク質の回収が、磁力をかけることをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
キチンに対する融合タンパク質の結合が、結合条件とは異なる非変性条件下で前記融合タンパク質がキチンから遊離し得るように、可逆的である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
(a)シャトルベクターを用意すること(該シャトルベクターは(i)酵母宿主のゲノム中に組込まれることが可能であり、および(ii)キチン結合ドメインと標的タンパク質とを含む融合タンパク質をコードするDNAを含む。)、
(b)酵母宿主発現細胞中に融合タンパク質を発現する前記シャトルベクターを用いてキチナーゼ欠乏宿主発現細胞を形質転換し、該キチナーゼ欠乏宿主発現細胞から融合タンパク質を分泌させること、及び
(c)分泌されたタンパク質の濃縮調製物が得られるように、分泌融合タンパク質をCBDによってキチン調製物に結合させること
を含む、分泌組換えタンパク質の濃縮調製物を得る方法。
【請求項21】
分泌キチナーゼを発現するキチナーゼ遺伝子の変異の結果であるキチナーゼネガティブ表現型を特徴とし、野生型クルイベロミセス(Kluyveromyces)細胞と類似の細胞密度にまで増殖することが可能である、クルイベロミセス細胞調製物。
【請求項22】
組換えタンパク質を発現し及び分泌することがさらに可能である、請求項21に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【請求項23】
発現がLAC4プロモーター又はその改変体によって調節される、請求項22に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【請求項24】
クルイベロミセス中でタンパク質を発現するが、E.コリ(E.coli)中ではタンパク質を実質的に発現しない、改変Lac4プロモーターを有するシャトルベクターを含む、請求項21に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【請求項25】
シャトルベクターがpKLACIである、請求項22に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【請求項26】
クルイベロミセスの増殖及び維持の少なくとも一方が可能であり、滅菌キチンをさらに含む培地をさらに含む、請求項21に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【請求項27】
前記滅菌キチンが磁気ビーズの形である、請求項26に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【請求項28】
該調製物が、キチンビーズを可逆的に結びつける磁石を含んでいてもよい容器又は該磁石と接触していてもよい容器に入れられている、請求項21に記載のクルイベロミセス細胞調製物。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2008−515427(P2008−515427A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535756(P2007−535756)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/035697
【国際公開番号】WO2006/041849
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(591021970)ニユー・イングランド・バイオレイブス・インコーポレイテツド (18)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/035697
【国際公開番号】WO2006/041849
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(591021970)ニユー・イングランド・バイオレイブス・インコーポレイテツド (18)
【Fターム(参考)】
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