説明

分解処理する条件を求める方法、および、そのためのサンプルの作成装置

【課題】
ダイオキシンなどの有毒汚染物質が付着した土壌や底質、廃棄物を加熱分解処理するために、有害物質が漏出することがなく、分解挙動(分解が起こる温度、分解速度、分解方法)が把握できる方法とその測定するサンプルを作成する装置を提供する。
【解決手段】
有害物質に汚染された対象物をガラス管内に入れ、雰囲気ガスを充填後、一定の圧力に調整後、ガラス管の両端を熱溶着してサンプル入りアンプルを作成する装置を製作し、この装置を使用して製作したアンプルを、設定温度まで加熱し、冷却後、前記アンプルを破壊し、その残留物からの抽出物を定量し、その結果を基に加熱処理条件を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有毒成分を含む恐れのある、大量の土壌や底質、廃棄物を間接的に加熱して処理するための、加熱処理条件を求める方法、および、そのためのサンプルの作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物の焼却で生成する塩素化ダイオキシン類の発生を抑制する方法として、焼却炉などでの焼却温度を1300℃以上の極めて高い温度として燃焼させる方法が提案されているが、そのような焼却炉の建設や改修には多大の設備費を必要とする。
【0003】
ダイオキシン類は、高温になるほど分解が進むことが判明しているが、300℃程度の温度で「デノボ合成」により再合成されることも判明している。そのため、汚染土壌類に高カロリー廃棄物を加えて500℃以下で焼却し、その排ガスを1000℃以上に加熱し、排ガス中の難分解性汚染物質を完全分解 する方法(例えば、特許文献1)が知られている。
【0004】
更に、ダイオキシン類をほぼ100%近く除去できる方法としては、有機ハロゲン化合物を含有する土壌を間接的に200〜600℃に加熱して有機ハロゲン化合物を揮発させ、揮発させた有機ハロゲン化合物ガスを600〜1300℃で間接的に加熱して有機ハロゲン化合物を分解する土壌処理装置が知られている(例えば、特許文献2)。間接的な加熱法としては、土壌を鋼製のロータリーキルン等の炉に投入し、温風や蒸気、または、燃料などの燃焼排ガスなどにより加熱する方法が知られている。
【0005】
実際の処理法としては、土壌中のダイオキシン類、PCB、POPs、農薬等の難分解性汚染物質を、間接加熱により分離・回収を行う「間接熱脱着工法(TPS工法)」と、回収した凝縮汚泥を通電により発生したジュール熱による溶融(1600℃以上)により、溶融固化し、ダイオキシン類を分離・無害化する「ジオメルト工法」を組み合わせた処理工法が確立されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−148631号公報
【特許文献2】特開2001−9409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、土壌や底質、廃棄物から汚染物質を除去・分解するだけでは、処理として適切ではない。間接加熱処理では、汚染物質は脱着・分解されるが、分解が不十分な場合、かえって毒性の高い分解生成物が系外に排出される恐れがある。例えば、8塩素化のダイオキシン類が脱塩素化すると、より毒性の高い異性体が生成する可能性もある。従って、汚染物質が付着した土壌や底質、廃棄物を適切に処理するためには、汚染物質の分解挙動(分解が起こる温度、分解速度、分解方法)を予め把握しておくことが必要となる。
【0008】
そのためには、汚染物質の分解する温度や速度を把握すると共に、有毒な揮発成分や熱分解生成物の漏出を防止する方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、有害物質に汚染された対象物を入れたガラス管内を雰囲気ガスで充填し、圧力を調整後、前記ガラス管を溶着して作成した汚染された対象物封入アンプルを、設定温度まで加熱し、冷却後、前記アンプルを破壊し、その残留物中に含まれる有害物質の含有量より、前記有害物質に汚染された対象物を間接的に加熱して、分解処理する条件を求める方法であり、前記対象物が土壌や底質、固形状廃棄物であり、その設定温度の少なくとも一つが、想定する有害物質の分解温度より高い温度である。
【0010】
有害物質を含む対象物を入れたガラス管の一方の口に、雰囲気ガスの流入口を接続し、もう一方の口には、圧力調整装置を接続し、前記管内の圧力を所定の圧力に調整後、前記ガラス管の両端を加熱溶着して、有害物質を含む対象物のサンプル入りアンプルを作成する装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法の装置を使用し、間接加熱法で有害物質を含む大量の対象物を処理する場合において、例えば、有害物質に汚染された土壌の対象物を封入したアンプルを作成し、毒性の強い有害物質が処理中に発生する揮発成分を漏出することがなく、有毒物質の最適の処理条件を設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者等は、ダイオキシン等の有害物質で汚染された対象物を、間接加熱法により無毒化するための処理条件を探すための実験においては、その対象物に熱をかけた場合、発生する有毒な揮発分が実験室内に放出されて、生命体に悪影響を及ぼしてはならず、且つ、簡単で低コストの試験用サンプルが作成できる事が必要であると考え、その方法に付き、鋭意研究を重ねた結果、汚染された対象物を密封容器に封じ込め、その密封容器を、有害物質の推定される分解温度近辺の複数の設定温度で加熱し、冷却後の残留物中の有害成分の含有量を、加熱条件ごとに調べてゆけば、有害物質の熱分解過程が調べられ、実際の処理において、最適な加熱条件を設定できるのではないかと考えた。
【0013】
そのため、密封した容器に有害物質に汚染された対象物を封じ込む方法として、ガラス管に封入する方法を採用した。この方法では、容易に複数のサンプルが簡単に準備可能である。ガラス管の材質は、アルカリ成分などの反応性成分を含まず、細工が容易で、急加熱、急冷却にも耐えるガラスであれば何でも良く、例えば、パイレックス(登録商標)ガラスなどが良好である。
【0014】
本発明でサンプルをガラスに封入する装置の概略を図1に示す、有害物質を含む対象物を充填し、対象物としては流動性が少ない土壌や土壌や底質、固形状廃棄物が固体物質が適しており、対象物が漏れないように対象物の両端は、不活性な耐熱の充填材料、例えばグラスウールで挟み込む。サンプル入りガラス管の一端は、図2に示したように、雰囲気ガスボンベ(1)とチューブで連結し、雰囲気ガスを充填した雰囲気ガス側(A)、もう一方の端部は、圧力調整器(2)とチューブで連結し、雰囲気ガスの流通する中、真空ポンプ(P)で吸引し所定の設定圧に調整される、圧力調整側(C)とにサンプル入りガラス管(5)を挟んで分かれる。対象物中に含まれる揮発分は、氷トラップ(4)で捕捉する。サンプル入りガラス管(5)の両端をバーナーで加熱溶着すれば、有害物質を含む対象物がガラス管に封入された、サンプル入りアンプルが作成できる。
【0015】
サンプル入りアンプルの作製
(1)パイレックス(登録商標)ガラス管に石英ウールをつめ、評価対象物質(1,2,3,4-テトラクロロパラジベンゾジオキシン-TeCDD、化1)100ng/gを付着させた石英砂)を入れる。さらに、評価対象物質を挟み込むように石英ウールをつめる。
(2)このガラス管の一方を反応雰囲気ガス(実験例では窒素、空気)ボンベ、もう片方を減圧調整系と接続する。
(3)真空ポンプを作動させ、所定の圧となるように雰囲気ガスを流通する。
(4)三方バーナーにより、雰囲気ガスボンベ側のガラス管を溶着し、次いで減圧調整系側のガラス管を溶着し、サンプル入りアンプルを製作する。
(5)放置冷却後、製作したサンプル入りアンプルを水中に浸しリークチェックを行い、漏れのないことを確認した。
【0016】
【化1】

【実施例1】
【0017】
管状の小型加熱炉である電気管状炉に設置した石英管内に、上記の方法で作成したサンプル入りアンプルを置き、加熱温度、加熱時間を設定し加熱処理する。加熱時間は、所定温度に達してからの時間とする。所定の加熱時間経過後、直ちに冷却する。加熱処理実施例の5実験系列を表1に記載した。
【0018】
【表1】

【0019】
実施例1の石英管から取り出した各実験系列のサンプル入りアンプルをラジオペンチで割り、加熱処理したサンプル部分と、割ったアンプルの破片の全てを円筒濾紙に詰め、ソックスレー抽出器にセットし、有機溶媒(ダイオキシン類分析公定法に準じて精製したトルエン)を用いて抽出を行った。石英砂1gに相当する分からの抽出成分を分析サンプルとし、質量分析器付きガスクロマトグラフを用いて分析し、前記分析サンプル中のダイオキシン類濃度を調べた。結果を表2にまとめた。
【0020】

【0021】
この結果より、窒素雰囲気下および酸素雰囲気下において、1,2,3,4-TeCDDは500℃の時点では分解しなかったこと、600℃は初期から80%以上、600℃で3分の加熱では、ほぼ100%近く分解しており、有害物質である1,2,3,4-TeCDDは500℃ではほとんど分解せず、600℃では分解することより、分解が起こる温度は500℃以上600℃以下であることが認められた。窒素雰囲気下と酸素雰囲気下では、窒素雰囲気下の方が、わずかに分解が速かった。また、分解生成物も回収されており、1,2,3,4-TeCDDが脱塩素化して3塩素化物、2塩素化物、1塩素化物を生成することも認められた。初めに、600℃の温度で雰囲気ガスが空気の条件で行えば、一回で削減率が100%近い処理条件を探せる可能性もある。
【0022】
このように、分析結果より、処理条件による、有害残留物の種類と含有量を調べ、有害物質の分解率が満足するレベルであり、且つ、残留している有害物質が毒性の少ない処理条件を探し、実際の有害物質が含まれる対象物の最適な間接加熱条件の設定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1に使用したサンプル入りアンプル製作のための、パイレックス(登録商標)ガラス管に評価対象物を入れ、石英ウールで両端を挟みこんだ状態の写真である。
【図2】本発明のサンプル入りアンプルを作成するための、装置の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1、3. 雰囲気ガス
2. 圧力調整器
4. 氷トラップ
5. サンプル入りガラス管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害物質に汚染された対象物を入れたガラス管内を雰囲気ガスで充填し、圧力を調整後、前記ガラス管を溶着して作成した汚染された対象物封入アンプルを、設定温度まで加熱し、冷却後、前記アンプルを破壊し、その残留物中に含まれる有害物質の含有量より、前記有害物質に汚染された対象物を間接的に加熱して、分解処理する条件を求める方法。
【請求項2】
前記対象物が土壌や底質、固形状廃棄物である、請求項1に記載の、分解処理する条件を求める方法。
【請求項3】
前記設定温度の少なくとも一つが、想定する有害物質の分解温度より高い温度である、請求項1に記載の、分解処理する条件を求める方法。
【請求項4】
有害物質を含む対象物を入れたガラス管の一方の口に、雰囲気ガスの流入口を接続し、もう一方の口には、圧力調整装置を接続し、前記管内の圧力を所定の圧力に調整後、前記ガラス管の両端を加熱溶着して、有害物質を含む対象物のサンプル入りアンプルを作成する装置。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−209362(P2007−209362A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289535(P2005−289535)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】