説明

分解率測定方法

【課題】プラスチックが亜臨界流体により分解される水酸化アルミニウムを含有している場合におけるプラスチックの分解率を正確に算出する。
【解決手段】プラスチックを分解する条件に合わせて水酸化アルミニウム単体を亜臨界流体を用いて分解処理し、水酸化アルミニウム単体の重量の減少量を測定し、水酸化アルミニウムを分解処理することにより得られた残渣を水酸化アルミニウムがベーマイトに変化し、且つ、プラスチックが分解する温度以上の温度で加熱処理し、残渣の重量の減少量を測定し、水酸化アルミニウムを含有するプラスチックを亜臨界流体を用いて分解処理し、プラスチックの重量の減少量を測定し、水酸化アルミニウムを含有するプラスチックを分解処理することにより得られた残渣をプラスチックが分解する温度以上の温度で加熱処理し、残渣の重量の減少量を測定し、4つの工程により測定された4つの減少量を用いてプラスチックの分解率を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック、特に熱硬化性樹脂を含有するプラスチック廃棄物を分解した時の熱硬化性樹脂の分解率を測定するための分解率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラスチックが亜臨界流体によって分解されない無機物を含有する場合、亜臨界流体を用いてプラスチックを分解する際のプラスチックの分解率は、(1)プラスチックの配合比から亜臨界流体によって分解されない無機物の重量及び分解される樹脂重量を算出し、(2)分解前後のプラスチックの全重量を測定することにより算出することができる。
【特許文献1】特開2005−336323号公報
【特許文献2】特開2002−192175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、プラスチックが亜臨界流体により分解される水酸化アルミニウムを含有する場合には、分解したプラスチックと共に水酸化アルミニウムが溶解又は脱水するために、上述の方法を用いてプラスチックの分解率を正確に算出することはできない。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、プラスチックが亜臨界流体により分解される水酸化アルミニウムを含有している場合におけるプラスチックの分解率を正確に算出可能な分解率測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る分解率測定方法の特徴は、水酸化アルミニウムを含有するプラスチックを亜臨界流体を用いて分解した際のプラスチックの分解率を測定する分解率測定方法であって、プラスチックを分解する条件に合わせて水酸化アルミニウム単体を亜臨界流体を用いて分解処理し、分解処理に伴う水酸化アルミニウム単体の重量の減少量を測定する工程と、水酸化アルミニウム単体を分解処理することにより得られた水酸化アルミニウムの残渣を、水酸化アルミニウムがベーマイトに変化し、且つ、プラスチックが分解する温度以下の温度で加熱処理し、加熱処理に伴う残渣の重量の減少量を測定する工程と、水酸化アルミニウムを含有するプラスチックを亜臨界流体を用いて分解処理し、分解処理に伴うプラスチックの重量の減少量を測定する工程と、水酸化アルミニウムを含有するプラスチックを分解処理することにより得られた残渣をプラスチックが分解する温度以上の温度で加熱処理し、加熱処理に伴う残渣の重量の減少量を測定する工程と、前記4つの工程により測定された4つの減少量を用いてプラスチックの分解率を算出する工程とを有することにある。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る分解率測定方法によれば、プラスチックが亜臨界流体により分解される水酸化アルミニウムを含有している場合におけるプラスチックの分解率を正確に算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図1乃至図3を参照して、本発明の実施形態となる分解率測定方法について説明する。なお、図1は、水酸化アルミニウム含有プラスチック(以下、プラスチックと略記)を亜臨界水分解処理し、亜臨界水分解処理により得られた残渣を加熱した時の残渣の重量変化を示す。また、図2は、亜臨界流体を用いて水酸化アルミニウム単体を亜臨界水分解処理し、亜臨界水分解処理により得られた残渣を加熱した時の残渣の重量変化を示す。また、図3は、本発明の実施形態となる分解率測定方法の流れを示すフロー図である。
【0008】
本発明の実施形態となる分解率測定方法では、始めに、プラスチックを亜臨界水分解処理し、亜臨界水分解処理により得られた残渣の重量[A]を測定する。なおこの実施形態では、プラスチックとして水酸化アルミニウムに加えて、ガラス繊維と炭酸カルシウムを含有するプラスチックを用いた。ここで、水酸化アルミニウムを含有するプラスチックを亜臨界水分解処理した場合、図1に示すように、プラスチックの樹脂成分の一部が亜臨界水分解処理により溶解することによってプラスチックの全重量が減少するが、この時同時に水酸化アルミニウムが脱水反応によってベーマイトに変化したり、溶解したりすることによりプラスチックの全重量はさらに減少する。
【0009】
このため、水酸化アルミニウムを含有するプラスチックを亜臨界水分解処理した際の樹脂成分の分解率を算出するためには、残渣中にある水酸化アルミニウム及びベーマイトの重量を知る必要がある。しかしながら、亜臨界水分解処理により得られた残渣中の水酸化アルミニウム及びベーマイトと、溶解した水酸化アルミニウムの重量はわからない。そこで詳しくは後述するが、本発明の実施形態となる分解率測定方法では、以下に示す処理により亜臨界水分解処理により得られた残渣中の水酸化アルミニウム及びベーマイトと、溶解した水酸化アルミニウムの重量を算出する。
【0010】
なお以下では、亜臨界水分解処理前の水酸化アルミニウムの重量[C]に対して、残渣中に含まれる水酸化アルミニウム及びベーマイトと、溶解した水酸化アルミニウムの重量をそれぞれ[C0],[C1],[C3]と定義する。また、水酸化アルミニウム含有プラスチックに含まれている水酸化アルミニウムの重量[C]は後述する水酸化アルミニウム単体の重量[D]と同重量とする。
【0011】
次に、亜臨界水分解処理により得られた残渣を加熱することにより残渣中の有機成分を気化させ、残った残渣の重量を強熱残渣量[B]として測定する。この加熱処理によれば、図1に示すように、全残渣量[A]から未溶解樹脂とその他有機物の重量及び残渣中にある水酸化アルミニウムの脱水分が減少する。なお、残渣の加熱温度は有機物が完全に気化し、残渣中にある水酸化アルミニウムがベーマイトになり、且つ、炭酸カルシウムが脱炭酸しない温度であり、本実施形態では500[℃]とした。また加熱時間は特に制限されないが、有機物が十分に気化すればよいため、本実施形態では2時間とした。
【0012】
次に、以下の数式1を用いて強熱残渣量[B]に含まれているベーマイトの重量([C1]+[C2])を算出し、さらに以下の数式2を用いて脱水した水酸化アルミニウムの重量[C1’]+[C2’]を算出する。
【0013】
[数式1]
ベーマイト重量([C1]+[C2])=強熱残渣重量[B]−ガラス繊維重量−炭酸カルシウム重量−その他無機物重量
[数式2]
脱水した水酸化アルミニウム重量([C1’]+[C2’])=ベーマイト重量([C1]+[C2])×78/60
次に、以下の数式3を用いて溶解した水酸化アルミニウムの重量[C3]を算出し、溶解した水酸化アルミニウムの重量[C3]を亜臨界水分解処理前の水酸化アルミニウムの重量[C]で除算することにより、水酸化アルミニウム含有プラスチックに含まれている水酸化アルミニウムの溶解率[C3]/[C]を算出する。
【0014】
[数式3]
溶解した水酸化アルミニウムの重量[C3]=亜臨界水分解処理前の水酸化アルミニウム重量[C]−脱水した水酸化アルミニウム重量([C1’]+[C2’])
次に、プラスチックを亜臨界水分解処理した時の分解条件に合わせて水酸化アルミニウム単体を亜臨界水分解処理し、亜臨界水分解処理により得られた残渣の重量([D1]+[D2])を測定する。ここで、亜臨界水分解処理前の水酸化アルミニウム単体の重量[D]に対し、分解後の残渣中にある水酸化アルミニウムの重量を[D0],ベーマイトの重量を[D1],溶解した水酸化アルミニウムの重量を[D3]とする。
【0015】
次に、水酸化アルミニウムがベーマイトに変化し、且つ、プラスチックが分解する温度以上の温度に亜臨界水分解処理により得られた残渣を加熱し、加熱処理後のベーマイトの重量([D1]+[D2])を測定する。そして、以下に示す数式4を用いて加熱後のベーマイトの重量([D1]+[D2])から脱水した水酸化アルミニウムの重量([D1’]+[D2’])を算出する。
【0016】
[数式4]
脱水した水酸化アルミニウムの重量=ベーマイト重量([D1]+[D2])×78/60
次に、以下に示す数式5を用いて溶解した水酸化アルミニウムの重量[D3]を算出し、溶解した水酸化アルミニウムの重量[D3]を亜臨界水分解処理前の水酸化アルミニウム単体の重量[D]で除算することにより、水酸化アルミニウム単体の溶解率[D3]/[D]を算出する。次に、亜臨界水中に含まれるアルカリ濃度をパラメータとして、水酸化アルミニウム重量[D0],ベーマイト重量[D1],及び水酸化アルミニウム重量[D3]の重量比率の変化を算出する。
【0017】
[数式5]
溶解した水酸化アルミニウムの重量[D3]=亜臨界水分解処理前の水酸化アルミニウム単体重量[D]−脱水した水酸化アルミニウム重量([D1’]+[D2’])
次に、水酸化アルミニウム含有プラスチックに含まれている水酸化アルミニウムの重量[C]と水酸化アルミニウム単体の重量[D]が同重量である場合、水酸化アルミニウム含有プラスチックの水酸化アルミニウム溶解率([C3]/[C])は水酸化アルミニウム単体の溶解率([D3]/[D])と等しくなるので、その時の重量比率から水酸化アルミニウムを含有するプラスチックを亜臨界水分解処理することにより得られた残渣中に含まれる水酸化アルミニウムの重量[C0]とベーマイトの重量[C1]を算出する。
【0018】
次に、以下の数式6により未溶解樹脂量を算出する。そして最後に、分解前のプラスチック中の樹脂重量から未溶解樹脂量を差分することにより得られた値を分解前のプラスチック中の樹脂重量で除算することにより樹脂の分解率を算出する。
【0019】
[数式6]
未溶解樹脂量=残渣重量[A]−ガラス繊維重量−炭酸カルシウム重量−その他無機物重量−その他有機物重量−水酸化アルミニウム重量[C0]−ベーマイト重量[C1]
なお、上記実施形態において、プラスチックの配合成分は、特に限定されることはないが、樹脂,ガラス繊維,炭酸カルシウム,水酸化アルミニウムを含むものとする。また、亜臨界水分解処理におけるプラスチックと水の配合割合は、特に限定されることはないが、プラスチックの樹脂成分100質量部に対し水の添加量を200〜500質量部の範囲内にすることが望ましい。また、アルカリの添加量は、特に限定されることはないが、プラスチックの樹脂成分100質量部に対し50〜100質量部の範囲内にすることが望ましい。
【0020】
また、亜臨界水分解させる温度は180〜270[℃]の範囲内に設定することが望ましい。亜臨界水分解させる温度が180[℃]以下であると、アルカリによる効果よりも温度依存により、分解するのに多大な時間を費やすのみならず、十分に分解することができない。また、亜臨界水分解させる温度が270[℃]以上であると、熱分解の影響が大きくなり、熱硬化性樹脂がランダムに分解してしまい、熱硬化性樹脂を再度同様な熱硬化性樹脂の原料,低収縮剤,分散剤として再利用することが困難になる恐れがある。また、亜臨界水分解させる時間は、反応温度等の条件によって異なり、熱分解の影響が生じない温度以下では1〜4時間の範囲内が好ましいが、亜臨界水分解させる時間が短い方が処理コストを少なくすることができるので、より好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明に係る分解率測定方法を実施例に基づきより具体的に説明する。
【0022】
〔実施例1〕
実施例1では、始めに、熱硬化性樹脂26[wt%],ガラス繊維23[wt%],無機充填材43[%](このうち、炭酸カルシウム50[wt%],水酸化アルミニウム50[wt%]),及びその他成分8[wt%]を含有する水酸化アルミニウム含有プラスチック4[g]とKOH濃度0.85[mol/L]の水溶液16[g]を反応管に仕込み、閉栓した後、230[℃]の恒温槽に反応管を浸漬させて4時間放置して水酸化アルミニウムを含有するプラスチックを亜臨界水で分解処理した。次に、反応管を開栓して内容物を取り出し、固液分離した後、残渣の重量を測定し、さらに強熱によって残った残渣の重量を測定した。そして、水酸化アルミニウム単体の重量変化比率から水酸化アルミニウムの残存率,脱水率,及び溶解率を測定することにより、水酸化アルミニウム含有プラスチックの未溶解樹脂重量を算出し、分解率{=(分解前の水酸化アルミニウム含有プラスチック樹脂重量−未溶解樹脂重量)/分解前の水酸化アルミニウム含有プラスチック樹脂重量×100}を算出した。算出結果を以下の表1に示す。
【0023】
〔実施例2〕
実施例2では、KOH濃度1.5[mol/L]の水溶液を用いた以外は実施例1と同じ処理を行うことによりプラスチックの分解率を算出した。算出結果を以下の表1に示す。
【0024】
〔実施例3〕
実施例3では、NaOH濃度1.0[mol/L]の水溶液を用いた以外は実施例1と同じ処理を行うことによりプラスチックの分解率を算出した。算出結果を以下の表1に示す。
【0025】
〔実施例4〕
実施例4では、NaOH濃度1.4[mol/L]の水溶液を用いた以外は実施例1と同じ処理を行うことによりプラスチックの分解率を算出した。算出結果を以下の表1に示す。
【表1】

【0026】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】水酸化アルミニウム含有プラスチックを亜臨界水分解処理し、亜臨界水分解処理により得られた残渣を加熱した時の残渣の重量変化を示す。
【図2】亜臨界流体を用いて水酸化アルミニウム単体を亜臨界水分解処理し、亜臨界水分解処理により得られた残渣を加熱した時の残渣の重量変化を示す。
【図3】本発明の実施形態となる分解率測定方法の流れを示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化アルミニウムを含有するプラスチックを亜臨界流体を用いて分解した際のプラスチックの分解率を測定する分解率測定方法であって、
プラスチックを分解する条件に合わせて水酸化アルミニウム単体を亜臨界流体を用いて分解処理し、分解処理に伴う水酸化アルミニウム単体の重量の減少量を測定する工程と、
上記水酸化アルミニウム単体を分解処理することにより得られた水酸化アルミニウムの残渣を、水酸化アルミニウムがベーマイトに変化し、且つ、プラスチックが分解する温度以下の温度で加熱処理し、加熱処理に伴う残渣の重量の減少量を測定する工程と、
水酸化アルミニウムを含有するプラスチックを亜臨界流体を用いて分解処理し、分解処理に伴うプラスチックの重量の減少量を測定する工程と、
上記水酸化アルミニウムを含有するプラスチックを分解処理することにより得られた残渣をプラスチックが分解する温度以上の温度で加熱処理し、加熱処理に伴う残渣の重量の減少量を測定する工程と、
前記4つの工程により測定された4つの減少量を用いてプラスチックの分解率を算出する工程と
を有することを特徴とする分解率測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の分解率測定方法であって、前記亜臨界流体がアルカリを含有する場合、水酸化アルミニウム単体を分解処理する際、プラスチック中に含有する水酸化アルミニウムの量に応じて亜臨界流体中のアルカリ濃度を減少させることを特徴とする分解率測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−51782(P2008−51782A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231281(P2006−231281)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】