説明

分解速度が調節可能な生分解性ステント

ポリ(L−ラクチド)と低濃度のL−ラクチドモノマーとで作られる生分解性ポリマーステントを開示する。L−ラクチドの濃度は、冠動脈、末梢血管および鼻血管への適用を含む治療用途に適する分解挙動が得られるように調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体吸収性ポリマー医療機器、詳細にはステント、を用いて血管を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、体内の管腔への埋込みに適した、ラジアル方向に拡張可能な内部人工器官に関する。「内部人工器官」は、体内に設置される人工の機器を指す。「管腔」とは、血管などの管状器官の空洞を指す。ステントはそのような内部人工器官の一例である。ステントは、一般的に円柱状の形状をした機器で、血管、または、尿路や胆管といった他の解剖学的管腔の一部分(セグメント)を開いた状態に保持し、時には拡張するよう機能する。ステントは、血管中のアテローム硬化型狭窄の治療によく使用される。「狭窄」は、体内の導管または開口部が、狭小化または収縮することを指す。そのような治療においてステントは、身体の血管を補強し、血管系における血管形成の後の再狭窄を阻止する。「再狭窄」は、(例えば、バルーン血管形成、ステントによる治療または弁形成によって)一見して成功裏に治療を受けた後の、血管内または心臓弁における狭窄の再発を指す。
【0003】
ステントは、典型的に、構造要素またはストラットを相互に接続してできるパターンまたはネットワーク(網目)から成り、ワイヤ、チューブ、または円筒形に巻いたシート材料で形成される。このスキャフォールドは物理的に開いた状態を保ち、必要に応じて通路の壁を拡張するので、この名称が付けられている。典型的には、ステントを治療部位まで送ってそこで展開させることができるように、カテーテル上へ圧縮したり、または加締めたりすることができる。
【0004】
送りは、カテーテルを使用してステントを小さな内腔を介し挿入すること、および治療部位へそれを運ぶことを含む。展開は、ステントが所望位置にあるとき、より大きな直径へステントを拡張することを含む。ステントによる機械的介入は、バルーン血管形成と比較して、再狭窄率を減少させる。にもかかわらず、再狭窄は重要な問題として残る。ステントが装着された体節で再狭窄が生じた場合、臨床上の選択肢がバルーン単独で治療した病変の場合よりも限定的であるので、治療が難しい可能性がある。
【0005】
ステントは機械的介入だけでなく生物学的療法を提供するビヒクル(媒体)として用いられる。生物学的療法では、薬剤入ステントを利用して治療用物質を局所的に投与する。この治療用物質は、ステントの存在で発生する有害な生物学的反応を緩和することもできる。治療部位で有効濃度とするには、有害作用または毒性副作用を生ずることが多い全身性の薬物投与が必要となる。局所送りで投与される総薬剤レベルは全身性の方法よりも少ないが、特異的部位に薬物を集中させるので、局的送りは好ましい治療法である。このように局所送りは副作用が少なく、優れた結果を達成する。
【0006】
薬剤入ステントは、金属またはポリマーのスキャフォールドの表面を、活性または生物活性のある薬剤または薬物を含むポリマーの担体でコーティングして製造できる。ポリマーのスキャフォールドを、活性のある薬剤または薬物の担体として提供してもよい。
【0007】
ステントは、多くの機械的要件を満たさねばならない。ステントは、ステントが血管の壁を支持する際にステントにかかる構造的荷重、すなわち、ラジアル方向の圧縮力に耐えられる十分なラジアル方向強度がなければならない。一旦拡張させると、ステントは、鼓動する心臓によって誘発される周期的な荷重を含め、ステントにかかる可能性のある様々な力があったとしても、治療に要する期間、適切に内腔を支持しなければならない。さらに、ステントは破壊に耐えるだけの十分な可撓性を有していなければならない。
【0008】
金属など、生物学的安定性または非腐食性の材料で作られたステントは、早期および後期の跳ね返りや再狭窄を防げることが立証されているので、経皮冠動脈インターベンション(PCI)の治療だけでなく、浅大腿動脈(SFA)などの末梢血管における標準的な治療となっている。
【0009】
病変血管の治療を有効なものとするためには、ステントの存在は限られた期間のみ必要である。血管にある永久移植物は、ステントと血管とのコンプライアンスの不一致や血栓症のリスクなど、ある種の不利益を生じる。こうした不利益を軽減するため、体内の条件に曝されると腐食または崩壊する材料でステントを作ることができる。すると、治療終了後にステントの腐食性部分は移植領域から消滅し、後には治癒した血管が残る。生体吸収性ポリマーなどの生分解性、生体吸収性、および/または生腐食性材料でできているステントは、その臨床的必要性がなくなってはじめて完全に腐食するように設計することもできる。
【0010】
耐久性のあるステントと同様、生分解性ステントも時間に依存した機械的要件を満たさなければならない。例えば、ステントは最低でも一定期間開存性を維持しなければならない。しかし、生分解性ステントがある一定期間で完全に分解して、移植部位から消滅することも重要である。機械的要件を満たす生分解性材料が、必要なまたは所望の分解時間を有していない場合もある。さらに、必要なまたは所望の分解時間は用途によって、すなわち冠動脈に適用するのか末梢血管に適用するのかによって変わる。
【発明の概要】
【0011】
本発明のさまざまな実施の形態は、ポリ(L−ラクチド)と、ポリ(L−ラクチド)に混合、分散、または溶解させた0wt%〜1.0wt%のL−ラクチドモノマーを含むポリマースキャフォールドを備え、ポリ(L−ラクチド)の結晶化度が20〜50%であり、ポリ(L−ラクチド)の数平均分子量が、ポリスチレン標準と比較して60,000〜300,000である、血管の患部を治療するためのステントを含む。
【0012】
本発明のさらなる実施の形態は、生体吸収性ポリマーステントであって、一定パターンのストラットで構成されたスキャフォールドを含む本体を備えるステントを血管の患部で展開することを含み、前記本体がポリ(L−ラクチド)と0〜1.0%のL−ラクチドモノマーで構成され、前記ステントは、支持期間中、直径が展開時直径またはそれに近い状態で血管壁を支持した後、ラジアル方向強度が低下して血管壁を支持できなくなり、前記スキャフォールドはバラバラになって人体に完全に吸収されて除去される、血管の患部を治療する方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、例示的ステントを示す。
【図2】図2は、L−ラクチドモノマーの濃度が異なるPLLAステントのin vitroでの分解挙動のグラフを示す。
【図3】図3は、図2のデータに基づく分解速度定数対L−ラクチドモノマー濃度のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
冠状動脈とは一般に、大動脈から分岐して、酸素を豊富に含んだ血液を心筋に供給する動脈のことである。末梢動脈とは一般に、心臓および脳以外の血管のことをいう。
【0015】
冠動脈疾患と末梢動脈疾患のどちらも、動脈が硬化して狭くなる、すなわち狭窄し、血流を抑制する。冠状動脈の場合、心臓への血流が抑制されるが、末梢動脈の場合は、腎臓や胃、腕、脚、足に向かう血流が抑制される。狭窄はコレステロールやプラークと呼ばれる物質が血管の内壁に堆積することによって引き起こされる。このような狭くなった部分、すなわち狭窄部分は、病変と呼ばれることが多い。狭窄の再発、すなわち血管形成術治療後に発生する再狭窄も動脈疾患に含まれる。動脈の再狭窄を引き起こすメカニズムはおそらくいくつか存在するが、重要なものとしては、血管形成部位周辺の組織増殖を誘発する炎症反応が挙げられる。この炎症反応は、血管を拡張させるために用いたバルーンの拡張、あるいは、ステントを配置した場合は異物としてのステントによって引き起こされる場合もある。
【0016】
本発明の実施の形態は、冠状動脈、ならびに浅大腿動脈、腸骨動脈および頸動脈を含む様々な末梢血管における冠動脈疾患および末梢血管疾患の治療に適用可能である。これら実施の形態はさらに、自己拡張型ステントやバルーン拡張型ステントなど様々なタイプのステントに適用可能である。実施の形態はさらに、チューブから形成したスキャフォールド構造やワイヤー構造、織物メッシュ構造を含む様々なステントの設計に適用可能である。
【0017】
本発明の実施の形態において、ステントは、結合要素で接続または連結した複数の円筒形リングを含む。血管の一部において展開させると、円筒形リングは荷重支持体となり、拡張時の直径のまま、または血管内の周期的な力のために一定範囲の直径で血管壁を支える。荷重支持体とは、ラジアル方向内向きの力によって加えられる荷重を支えるものを言う。結合要素またはストラットなどの構造要素は荷重支持体ではなく、リング同士の接続性を維持する働きをする。例えば、ステントは、一定のパターンまたは網目構造の相互接続構造要素またはストラットで構成されるスキャフォールドを含んでもよい。
【0018】
図1は例示のステント100を示す。実施の形態によっては、ステントは、一定のパターンまたは網目構造を有する相互接続構造要素105を有する本体、骨格またはスキャフォールドを含んでもよい。ステント100は、チューブ(図示せず)から形成してもよい。図1は、結合要素110によって接続された円筒形リング107を含む多くのステントパターンの典型的な特徴を示している。上記のように、円筒形リングはラジアル方向に向かう力を供給して血管の壁を支える荷重支持体である。結合要素は一般に円筒形リングを結びつける機能を有する。
【0019】
図1の構造パターンは例示であり、一つのステントパターンの基本的な構造および特徴を図示するに過ぎない。ステント100のようなステントは、ポリマーチューブ、丸めたシートを接着して形成したチューブから製造してもよい。チューブまたはシートは、押出成形または射出成形によって形成することができる。図1に示すようなステントパターンは、レーザー切断または化学的エッチングなどの技術を用いてチューブまたはシート上に形成することができる。続いてステントを、体内管腔への送達用バルーンまたはカテーテル上でクリンプ(捲縮)させることができる。
【0020】
生分解性ポリマーの最も一般的な分解メカニズムは、加水分解に不安定な骨格の化学的加水分解である。バルク腐食ポリマーでは、ポリマーは化学的に分解され、ポリマーの総体積から材料が失われる。ポリマーが分解するに従い、分子量は低下する。分子量の低下に続いて機械的特性が低下し、続いて腐食または質量損失が起こる。機械的特性の低下は、最終的には機器の崩壊によって示される機械的完全性の喪失を生じさせる。酵素の攻撃と破片の代謝が起こり、ポリマーの質量は急速に失われることになる。
【0021】
本発明のステントを用いた動脈疾患の治療は、ステントの移植後、血管の患部の治療および治癒を可能にする時間依存特性を有する。特に、分子量、機械的特性、機械的完全性、および質量が時間と共に変化する。動脈の患部で展開した後、ステントは直径が拡大した状態で一定期間患部を支える。分子量の減少によりラジアル方向強度は低下し、やがてステントは血管患部の壁を支えられなくなる。ステントの「ラジアル方向強度」とは、ステントに回復できない変形を生じさせる圧力と定義される。ラジアル方向強度の喪失に続き、機械的完全性が徐々に低下する。
【0022】
機械的完全性とは、ステントの構造要素の大きさ、形状、および接続性を意味する。例えば、形状は、上記パターンの結合要素によって接続された円筒形リングによって形成されるステントの、概してチューブ形状のことである。機械的完全性は、化学分解(分子量減少)によりステントの構造要素に破壊が出現または伝搬すると失われ始める。構造要素の接続性の破壊または喪失が発生すると、機械的完全性はさらに失われる。
【0023】
どのステントも、臨床上第一に求められるのは、直径を、展開時直径またはそれに近い状態で開存性を維持すること、すなわち機械的に支持して血管を広げておくことである。ステントがもたらす開存性により、ステントを移植した血管区間に展開によって拡大した直径でのポジティブリモデリングが起こる。この段階でステントを移植した区間の開存性を維持することにより、ステントはネガティブリモデリングを防止する。リモデリングとは、一般に、ステントを移植した患部の血管壁が、ステントによる支持がなくても拡大された直径を維持できるように、血管壁の耐荷重能力を強化するような血管壁の構造的変化を意味する。恒久的なポジティブリモデリングを達成するには、一定の開存性持続期間が必要である。
【0024】
この期間中、ステントは血管生来の脈動機能を抑制または阻止する。ステント構造が、跳ね返りを防止し円形の内腔を維持する、と同時に、血管は、リモデリングし、ステントによる直径を形作る。これは、ポジティブリモデリングに相当する。十分なモデリングが生じる以前の早期の跳ね返りは、ネガティブリモデリングの原因となる。ネガティブリモデリングとは、ステントによる元の直径よりも著しく小さい直径、例えば、元の展開時直径の50%以下に形作ることである。
【0025】
ステントのポリマーが分解するにつれ、ステントのラジアル方向強度は低下し、血管の荷重が徐々にステントからリモデリングされた血管壁に伝達されるようになる。血管壁のリモデリングはステントのラジアル方向強度が失われた後も継続する。ステントが機械的完全性を失わないうちに、ステント構造要素が内皮層によって血管壁に取り込まれることが望ましい。やがてステントはバラバラになり、そうすると血管運動が可能になる。血管運動によって血管が動いても、血管壁はリモデリングを継続する。最終的にステントは完全に消滅し、径の増大した、健康な血管部分と同じまたは類似の血管運動を示す治癒した血管が後に残る。
【0026】
ポリ(L−ラクチド)(PLLA)は人間の体温、約37℃での強度および剛性が比較的高いため、ステント材料としては好適である。PLLAはガラス転移点が約60℃と65℃の間(Medical Plastics and Biomaterials Magazine、1998年3月)であるため、人間の体温では堅固なままである。この性質が、著しい跳ね返りを生じずに内腔を展開した状態の直径またはそれに近い直径に保つステントの能力を向上させる。
【0027】
PLLAの分解時間は、in vitroで最大3年である(Medical Plastics and Biomaterials Magazine、1998年3月;Medical Device Manufacturing & Technology 2005)。分解時間とは、ステントなどのポリマー構造体が完全に質量を失うまでに要する時間である。in vivoでの分解時間はもっと短く、動物モデルによって異なる。PLLAステントは、腐食プロファイルに加え、これに関連した分子量プロファイルおよび機械的特性(例えば強度)プロファイルを有する。上に示したように、機械的特性および機械的完全性の時間依存性は、病変血管の治療においては重要である。PLLAの分解特性は、特定の治療用途に必要な、あるいは望まれる分解特性とは一般に一致しない。例えば、PLLAステントの分解時間は、冠動脈に適用する場合であれば約2年(例えば、22〜26カ月)、末梢血管(例えば浅大腿動脈(SFA))に適用する場合であれば約18カ月(例えば、16〜20カ月)、鼻血管に適用する場合であれば1年未満が望ましい。冠動脈や末梢血管に適用する場合、ラジアル方向強度は1〜6カ月維持させなければならない。ラジアル方向強度を維持させるとは、ステントが、ステントを移植した区間の直径を少なくとも展開した時点の元の直径の50%に維持できることを意味する。冠動脈や末梢血管に適用する場合、機械的完全性喪失の開始は、少なくとも2〜4カ月が経過するまで発生してはならない。機械的完全性喪失の開始とは、構造要素がバラバラになることに相当する。
【0028】
ステントの組成を大きく変えることなく、PLLAステントが様々な用途に適用し、PLLAステントが各用途に適した分解挙動を有することが望ましい。本発明の実施の形態は、PLLAで構成されるステント本体にL−ラクチド(LLA)モノマーを含有させることによって、PLLAステントの時間依存分解挙動を調節することに関する。
【0029】
ステントの実施の形態は、ターゲットである一定少量のLLAモノマーを含むPLLAで構成される本体またはスキャフォールドを含むことができる。本体は、ターゲットである一定量のLLAを含み、それ以外を100%PLLAとすることができる。さらに、本体は、ターゲットである一定量のLLAと追加成分以外を100%PLLAとすることができる。本体は、95wt%以上、および本体の残りの部分をターゲットである一定量のLLAと必要に応じて添加される追加成分とすることができる。追加成分は、薬剤、ポリマー、またはバイオセラミック粒子などの充填剤とすることができる。本発明は、追加成分を含まない、または上記の1以上の追加成分を含まない実施の形態も含む。
【0030】
追加の実施の形態において、PLLAステント本体は、上記に加え、または上記に代えて、d−ラクチド、メソ−ラクチド、グリコリド、乳酸、またはこれらのオリゴマーで数平均分子量(Mn)が1,000g/mol未満のものを含むことができる。これらの追加のモノマーの濃度は、L−ラクチドで開示した濃度と同じにすることができる。
【0031】
ステントはさらに、本体またはスキャフォールドを覆うコーティング含むことができる。一の実施の形態において、コーティングはポリマーと薬剤の混合物とすることができる。例えば、コーティングをポリ(DL−ラクチド)とし、薬剤をエベロリムスなどの抗増殖剤とすることができる。コーティングは、LLAのコーティングへの偶発的な移動または拡散を除き、LLAモノマーを含まないものとすることができる。
【0032】
低分子量PLLAオリゴマーも、分解速度を上昇させるため、分解挙動を調節することができる。ただし、この上昇は主に、PLLAの分解速度を高める触媒として作用する酸性末端基によるものである。従って、オリゴマーのサイズが大きいほどPLLAにおける必要なオリゴマーの重量分率が高くなる。従って、オリゴマーとして同様の効果を得るには、使用するオリゴマーに比べてLLAモノマーの重量分率が著しく低いことが必要である。オリゴマーの重量分率が高いと、ステントの機械的特性に悪影響を及ぼす。
【0033】
分解挙動に関して、LLAモノマーのPLLAに対する定性的かつ正確な影響は不明である。例えば、所望の分解挙動を得るために必要なモノマーの量は不明である。これは、PLLAなどの半結晶質の分解性ポリエステル製のステントの分解挙動は、材料およびステント本体のいくつかの特性の複合関数であるという事実に、少なくとも部分的には起因する。こうした特性としては、ポリマー固有の加水分解速度(すなわち、ポリマー骨格の分子鎖切断反応)、結晶化度、形態(非晶質母材における晶子領域のサイズおよび分布)、分子量(固有の粘性、数平均分子量または重量平均分子量によって計測したもの)、およびステント本体のパラメータ(パターン、ストラット寸法)が挙げられる。
【0034】
半結晶質ポリマーは、血管を適切かつ安全に治療するには強度および破壊靭性が概して不十分な場合がある。本発明のステントの製造には、最終ステント製品の強度および破壊靭性を向上させる処理が含まれる。この処理により、例えば、結晶化度や形態など、分解挙動に影響するある種の特性が付与される。強度および破壊靭性は、円環方向または円周方向、およびアキシャル方向におけるポリマーの二軸配向の誘発、特定範囲の結晶化度、小径晶子の分散によって向上する。
【0035】
ステントは、配向を誘発するためにラジアル方向に拡張させ、アキシャル方向に伸張させた押出PLLAポリマーチューブから製造される。ポリマーチューブは、ブロー成形によってラジアル方向の拡張率が200%〜500%、アキシャル方向の伸張率が20%〜200%になるように拡張させる。押出PLLAチューブ材のアキシャル方向の伸張率は、100%〜400%である。ステントは、拡張させたチューブ材を拡張状態のままレーザー切断することによって形成する。
【0036】
さらに、小径晶子が非晶質母材全体に分散するような方法でブロー成形プロセスが実施される。拡張に先立ち、破壊靭性を高める小径晶子の形成を誘発するためにチューブを65℃〜75℃の温度に加熱する。拡張後、更なる結晶の成長を防止するためにチューブをガラス転移点(Tg)未満に急冷する。結晶化度は20〜50%とする。結晶化度が20%未満であるとステント本体の強度が不十分となり、結晶化度が50%を超えるとステント本体が脆弱になり過ぎるおそれがある。最終製品におけるスキャフォールド材料の数平均分子量(Mn)(in g/mol)は、60,000〜300,000、さらに絞り込むと80,000〜200,000である。
【0037】
例示のストラットの断面は、例えば140×140μm〜160×160μm、または断面積が20,000〜25,000μmの矩形である。
【0038】
本発明の一の実施の形態において、ステントはPLLAと、1wt%未満のLLAモノマーで構成される。本発明のより好ましい実施の形態において、ステントは0.9wt%未満、0.7wt%未満、0.5wt%未満、0.4wt%未満、0.3wt%未満、0.2wt%未満、または0.1wt%未満のLLAモノマーを含む。別の実施の形態において、ステントは0〜1wt%のLLA、1〜2wt%のLLA、2〜3wt%のLLA、3〜4wt%のLLAを含む。ただし、以下に示すように、LLA含有量が1wt%超、または2wt%超の場合、ラジアル方向強度および力学強度が、効果的な血管患部の治療に必要な時間持続しないステントになるおそれがある。
【0039】
LLAモノマーは、粉末または特定の粒子の形態でステント本体の全体または一部に分散させることができる。こうした粒子のサイズは、100nm未満、100nm〜1000nm、または1000nm超とすることができる。ただし、サイズとは、直径または何か別の特徴的な長さのことをいう。あるいは、LLAモノマーは、分子レベルでPLLAと混合する、またはPLLAに溶解させることもできる。
【0040】
以下に述べる、L−ラクチドモノマーを含むPLLAステントのin vitroおよびin vivoでの分解試験では、特に、LLAが約1wt%を超える場合にはステントの分解速度が劇的かつ予想外なまでに増加することが観察されている。LLAが約1wt%を超えるモノマー組成を有するステントは、冠動脈および末梢血管に適用した場合、力学強度を失い、機械的完全性を失い、消滅するのが早すぎて効果的な治療ができない。さらに、低濃度のLLAは、ポリマーに分散させたモノマーがポリマーの機械的特性に全く、またはほとんど影響しないため好都合である。
【0041】
さらに、ステントの本体全体の分解挙動を均一にするには、LLAモノマーがステントのPLLA全体に均一に、または実質的に均一に分散していることが重要である。LLAモノマーがこのように低濃度の場合、分布の均一性は、LLAを混合または分散する方法に大きく依存することが確認されている。したがって、追加の実施の形態には、PLLAステント材料にLLAを混合する方法が含まれる。
【0042】
分解挙動についてのin vitroおよびin vivo試験は、PLLAステントの分解挙動に対するLLAモノマー濃度の影響を評価するために用いることもできる。さらに、この影響は、理論モデルを用いて評価することができる。
【0043】
式Mn(t)=Mn(0)exp(−Kt)を有する脂肪族ポリエステルの加水分解モデル。ただしMn(t)は時刻tにおける数平均分子量、Mn(0)はt=0における数平均分子量、Kは加水分解速度定数である。Pitt,C.G.,J.of Applied Polymer Science 26,3779〜3787(1981);Pitt,C.G.,Biomaterials 2,215〜220(1981);Weir,N.A.,Proceedings of the Institution of Mechanical Engineers,Part H:J.of Engineering in Medicine 218,307〜319(2004);Weir,N.A.,Part H:J.of Engineering in Medicine 218,321〜330(2004)。このモデルに内在する仮説は、質量喪失がサンプルにおける水とカルボキシル末端基の濃度に影響を与える可能性があるため、質量喪失が発生していなければ合理的である。この等式は、ln[Mn(t)/Mn(0)]=−Ktと書き換えることも可能である。従って、Mn(t)/Mn(0)対tのデータを対数線形グラフに表すことにより、点を接続する線の傾きから加水分解速度を推察できる場合がある。
【0044】
LLAモノマーがPLLAステントの分解挙動に与える影響を調べた、LLAモノマー濃度の異なるPLLAステントについてのin vitroおよびin vivoでの分解データが得られている。in vivoデータは、動物モデルを用いて得られたものである。モニターされたパラメータおよび挙動は、Mn、ラジアル方向強度、ステントストラットにおける割れまたは破壊の発生(構造的/機械的完全性)、および分解時間である。全試験において、ステントは本明細書に記載するように加工されている。ステントのパラメータを以下の表1に示す。ステントは、スキャフォールドを覆うポリ(DL−ラクチド)およびエベロリムスで構成されたコーティングを含む。
【表1】

【0045】
in vitro試験は、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS緩衝液)溶液中、37℃で実施した。ステントのMnは、ポリスチレン標準を使用してGPCによって計測した。in vivo試験用の動物モデルは、ユカタンミニブタとした。
【0046】
in vitro試験では、Mnの時間依存度をln[Mn(t)/Mn(0)]対時間の形でグラフ化し、加水分解モデルの予測能力を評価する。次にモデルを用いて、PLLAの分解に対するLLAの影響を評価する。
【0047】
in vitro試験において、LLAモノマー濃度の異なるPLLAステントについて時間の関数としてのMnも計測した。これらの試験において、LLAモノマーを、本明細書に記載する方法でPLLA樹脂に添加した。図2は、PLLAにおけるLLAモノマー量が、微量(0.05wt%のLLA)、0.2wt%のLLA、0.55wt%のLLA、1wt%のLLA、および3.3wt%のLLAという5つのグループのステントについてのln[Mn(t)/Mn(0)]対時間のグラフである。
【0048】
各濃度についてのデータを直線に当てはめると、その傾きは分解モデルの速度定数Kとなる。各LLAモノマー濃度についての速度定数Kを表2および図3にまとめて示す。
【表2】

線形分解モデルの予測可能性を評価するために、各グループのデータに決定係数R2を与える。R2が1に近いほどモデルの予測能力の信頼性が高い。表2のデータは、ステントの分解に対してLLAモノマー含有量が予想外なまでに劇的な効果があることを示している。例えば、LLA濃度がほぼ0から0.55wt%に増加すると、Kはほぼ約3倍分増加し、LLA濃度がほぼ0から1wt%になると、速度定数は約6倍分増加する。LLA濃度増加に伴う分子量の時間変化の違いも同様に劇的である。表3は、第二組のデータについて、LLAが1wt%の場合の異なる時点でのモデル予測に基づくMnおよびMnの下落率を示している。
【表3】

上に示すように、質量喪失の前に機械的完全性の喪失が始まる。さらに、機械的完全性の喪失の前、または喪失と同時にラジアル方向強度の喪失が発生する。絡み合い分子量約17,000の時点で、ポリマーはもはや機械的特性を有さず、荷重を加えると崩壊する。ステントは、この絡み合い分子量になる、はるか以前に機械的完全性を喪失する。
【0049】
上記のように、in vitroでの質量喪失開始はin vivoでの分解の上限となる、すなわち、質量喪失は、in vivoではより早い時期に始まると考えられる。さらに、機械的完全性喪失およびラジアル方向強度喪失の発生も、in vitroよりもin vivoの方が早い可能性もある。表4は、LLAモノマーを含まないPLLAステントのin vivoおよびin vitroでの質量喪失に関するデータを示す。質量喪失が始まる時点の差および喪失の程度の差は非常に大きい。
【表4】

【0050】
冠動脈および末梢血管に適用する場合、ステントの血管壁への取り込みを考慮すると、機械的完全性は、移植後少なくとも2〜4カ月は深刻な破壊(例えば、ストラットの破壊)を起こすことなく完全な状態であるべきであると考えられる。さらに、ネガティブリモデリングを防ぐにはラジアル方向強度は少なくとも約1カ月は持続させるべきであると考えられる。ラジアル方向強度は機械的完全性よりも先に失われると考えられ、機械的完全性の喪失の開始は質量喪失より先に始まると考えられる。機械的完全性の喪失開始の前兆は、ステントにおける割れの形成である。従って、このin vitroデータに基づくと、冠動脈および末梢血管に適用された場合に所望期間にわたってステントがラジアル方向強度および機械的完全性を維持するためには、LLA濃度を1wt%未満とすべきである。
【0051】
別の組のin vitro試験では、PLLAにおけるLLAがほぼ0wt%、0.2wt%、0.55wt%、1wt%および約3wt%のステントグループに対し、4カ月間にわたる追跡調査を行った。この試験では、ラジアル方向強度およびステント完全性を追跡調査した。表5は、ラジアル方向強度試験後に観察されたラジアル方向強度と機械的完全性の変化をグループ毎にまとめている。表5に示すように、LLAがほぼ0wt%、0.2wt%、および0.55wt%の場合、ラジアル方向強度は4カ月以上持続し、4カ月以上破壊が観察されなかった。LLAが1wt%の場合、ラジアル方向強度は約1カ月半〜約3カ月の間、低下し続けた。ラジアル方向強度の低下は、in vivoの場合もっと早く発生する可能性がある。さらに、わずか42日目に発生した大幅な破壊は、ラジアル方向強度および機械的完全性が早期に失われたことを示唆している。これらの結果によると、LLAが1wt%を超えるステントは、冠動脈または末梢血管への適用には適さない可能性が高い。LLAが約3wt%のステントにおけるラジアル方向強度の低下および大幅な破壊は、この濃度のPLLAステントが全く適さないことを示唆している。
【表5】

【0052】
0wt%、0.1wt%のLLA、0.4wt%のLLA、約0.6wt%のLLA、1wt%のLLA、および3.8wt%のLLAのステントグループに対する移植後28日目までの前臨床in vivo(動物)試験の結果が得られた。LLAが0.4wt%および約0.6%のステントの場合、移植後28日目で破壊は観察されなかった。LLAが1wt%のステントでは、移植後28日目に破壊が観察された。LLAが3.8wt%のステントでは、わずか7日目で大幅な破壊がみられ、28日目以降はステントが粉々になった。
【0053】
発明者が確認したように、必要量のLLAをPLLAに機械的に混合することでLLAが0.05〜0.5wt%になるように意図されたPLLAチューブを形成しようとしても、LLAが均一に混合されたチューブは得られない。この方法でチューブから形成したステントでは、LLA濃度に大きなばらつきが観察された。
【0054】
様々なチューブとそれから製造されるステントにおいて、LLAモノマーを均一の濃度に混合する2つの方法が提供される。第一の方法は、PLLAとLLAとの混合物であって、LLA濃度が目標濃度よりも高い混合物であるマスターバッチを調製することを含む。マスターバッチは、LLAとPLLAをクロロホルムなどの溶媒に溶解させることで調製される。クロロホルムを蒸発させてPLLAとLLAとの均一な混合物であるマスターバッチを形成する。次に、マスターバッチを溶融加工によって、例えば押出機で目標LLA濃度になる量のPLLAと混合する。この方法を、以下の例で説明する。
ステップ1:LLAモノマー2gとPLLA8gをクロロホルム400mlに溶解する。
ステップ2:クロロホルムを蒸発させて、LLAが25wt%のPLLAとLLAの均一な混合物を形成する。
ステップ3:LLAが25wt%の混合物を押出機にてPLLA4kgと混合し、PLLAにおけるLLAを0.5wt%とする。
LLAとPLLAの均一な混合物を調製する第二の方法は、クロロホルムなどの溶媒にLLAを溶解させて溶液を形成し、この溶液をPLLAペレットに噴霧することを含む。溶媒を除去すると、PLLAペレットに付着したLLAが残る。PLLAペレットを例えば押出機で溶融加工し、目標濃度のLLAを含むPLLAのチューブを形成する。この方法を、以下の例で説明する。
ステップ1:LLA0.5gを無水モノメタノール100mlに溶解して溶液を形成する。
ステップ2:溶液を1kgのPLLAペレットに噴霧し、撹拌する。
ステップ3:ペレットを真空オーブンに入れ、溶媒を除去する。
ステップ4:ペレットを押出機に入れ、LLAが0.5wt%のチューブを形成する。
【0055】
本発明の特定の実施の形態を示し、記述してきたが、より広い態様での本発明を逸脱しない限り、変更および変形を施すことも可能であることは当業者にとって自明であろう。したがって、添付の請求項はその範囲において本発明の真の精神および範囲に含まれる全ての変更および変形を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(L−ラクチド)と、前記ポリ(L−ラクチド)に混合、分散、または溶解させた0wt%〜1.0wt%のL−ラクチドモノマーとを含むポリマースキャフォールドを備え、
前記ポリ(L−ラクチド)の結晶化度は、20〜50%であり、
前記ポリ(L−ラクチド)の数平均分子量は、ポリスチレン標準と比較して60,000〜300,000である、
血管の患部を治療するためのステント。
【請求項2】
前記スキャフォールドは、95wt%超のポリ(L−ラクチド)を含む、
請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記スキャフォールドは、一定パターンのストラットで構成され、
前記パターンは、結合用ストラットで接続された複数の円筒形リングを含む、
請求項1に記載のステント。
【請求項4】
前記ストラットは、矩形断面を有し、断面積が20,000〜25,000μmである、
請求項3に記載のステント。
【請求項5】
前記スキャフォールドは、チューブをラジアル方向に200〜500%拡張させ、前記チューブから前記ステントを形成することによって誘発したポリマー鎖配向を有する、
請求項1に記載のステント。
【請求項6】
前記L−ラクチドモノマーは、1.0wt%未満のL−ラクチドである、
請求項1に記載のステント。
【請求項7】
前記L−ラクチドモノマーは、0.6wt%未満のL−ラクチドである、
請求項1に記載のステント。
【請求項8】
生体吸収性ポリマーステントであって、一定パターンのストラットで構成されたスキャフォールドを含む本体を備えるステントを血管の患部で展開することを含み、
前記本体は、ポリ(L−ラクチド)と0〜1.0%のL−ラクチドモノマーで構成され、
前記ステントは、支持期間中、直径が展開時直径またはそれに近い状態で血管壁を支持した後、ラジアル方向強度が低下して血管壁を支持できなくなり、前記スキャフォールドがバラバラになって人体に完全に吸収されて除去される、
血管の患部を治療する方法。
【請求項9】
前記スキャフォールドは、95wt%超のポリ(L−ラクチド)を含む、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記L−ラクチドモノマーは、1.0wt%未満のL−ラクチドである、
請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記L−ラクチドモノマーは、0.6wt%未満のL−ラクチドである、
請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記血管は、冠動脈である、
請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記ステント本体は、約22〜26カ月で完全に吸収されて除去される、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記血管は、浅大腿動脈である、
請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記ステント本体は、約16〜20カ月で完全に吸収されて除去される、
請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−533408(P2012−533408A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521678(P2012−521678)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/041998
【国際公開番号】WO2011/011242
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(509268314)アボット カルディオバスキュラー システムズ インコーポレーテッド (16)
【氏名又は名称原語表記】Abbott Cardiovascular Systems Inc.
【住所又は居所原語表記】3200 Lakeside Drive,Santa Clara,California 95054,United States of America
【Fターム(参考)】