説明

分離カラム及び液体クロマトグラフ

【課題】本発明は、モノリスロッドを備えた分離カラムにおいて、樹脂被覆材を使用せず、モノリスロッドの破壊を図るとともに高圧での送液を達成することを目的とする。
【解決手段】本発明は、テーパ円柱状に成形されたモノリスロッド(モノリシックシリカロッド)1を、クラッドの内側の形状が、テーパ円柱形状に加工されたクラッドに組込むことにより高圧での送液を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離カラム及び液体クロマトグラフに関する。例えば、高速液体クロマトグラフ等に使用される液体試料中の成分を分離する分離カラム及びそれを用いた液体クロマトグラフ装置に関し、特に分析時間を短縮するものに好適である。
【背景技術】
【0002】
従来の高速液体クロマトグラフ等において、一般に使用されている粒子充填型カラムで分析時間を短縮するためには、単位時間当たりの送液量を増やす必要があるが、従来同様の分離性能を維持するためには、充填する粒子径を小さくし粒子表面積を増やす必要がある。すなわち、内径4mm程度の円筒容器に直径5μm程度の粒子を充填した従来のカラムに対して、粒子直径を2μm程度に変更することで分析時間を10分の1に短縮できる。
【0003】
しかし、粒子径を小さくすることで流動抵抗が増加し、高圧での送液が必要となるため、分析装置本体の高耐圧化が課題である。
【0004】
この課題を解決するため、粒子充填型カラムと異なり三次元ネットワーク状の骨格とその空隙(流路,マクロポア,スルーポア)が一体となった構造を持つモノリスカラムを使用することで、表面積は増加するが、空隙率が大きく流動抵抗が増加させないカラムが可能となり、例えば、細管内に多孔質体(モノリスロッド,モノリシックシリカロッド)を組み込んだモノリス型シリカカラムで高性能化が図られている。
【0005】
しかし、多孔質体のモノリスロッドは、高圧で送液した際、送液入口と送液出口との圧力差により、クラッド内で、流れの方向にモノリスロッドがずれて、モノリスロッドの先端部が破壊されてしまう。これを防ぐため、多孔質体の外周面に樹脂被覆材を設けることが知られ、例えば特許文献1に記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−64314号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多孔質体のモノリスロッドの外周面に樹脂被覆材を設けた場合、分離カラムに流入する液体が樹脂に接触し、分離カラムを用いた分析時に樹脂剤中の揮発性溶剤が溶出し、分離性能が悪化する恐れがある。このため、樹脂被覆材を使わないことが、望ましい。
【0008】
本発明の目的は、多孔質体のモノリスロッドを用い、樹脂被覆材を使わない分離カラムにおいて、高圧での送液を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、多孔質体のモノリスロッドを、テーパー円柱状に成形することにより流体による軸方向の押し付ける力をテーパー面で受止める構造とし、耐圧力を引き上げることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂被覆材等を使用せず、流れの方向へのモノリスロッドのずれを防ぎ、高圧での送液することができる。これにより、モノリスロッドの破壊、および樹脂被覆材から揮発性溶剤が溶出することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。
【0012】
図1に、テーパ円柱状のモノリスロッドを図1のようなテーパ円柱状構造のクラッドに設置することができる。
【0013】
テーパ構造のクラッドの材質には、ステンレス、PEEK,べスペル(登録商標),チタン,フッ素樹脂を使用する。
テーパ円柱状構造により、モノリスロッドがクラッド内で流れの方向にズレことを防ぐころができる。これにより、テーパ円柱状構造のモノリスロッドには、円柱状構造と比較して、モノリスロッドの機械強度までの、圧力で送液することができる。
【0014】
分析時間を短縮化するため線速度を上げる、すなわち高圧力、特に最大圧力が5〜60MPaとする液体クロマトグラフ装置では、モノリスロッド1の直径は式1から、流動方向の長さ、すなわち分離カラムの長さは式2から算出される。
【0015】
【数1】

【0016】
【数2】

【0017】
式1において、uは線速度、Fは移動相の流量、Dはモノリスロッド1の直径、εはモノリスロッド1の空隙率を示す。
【0018】
モノリスロッド1の空隙率は0.6から0.8程度であり、線速度uを10(mm/s)一定とし、流量を汎用の液体クロマトグラフ装置で用いられる1.0mL/minの1/2から2倍の0.5〜2.0mL/minとすると、モノリスロッド1の直径は1.2から2.8mmとなり、望ましくは2mm以下に細くする。
【0019】
式2において、Hは理論段高さ、Lはカラム長さ、Nは理論段数を示す。一般的な分離カラムの性能として理論段高さHを10μm、理論段数Nを10000とすると、カラム長さLは100mmとなり、カラム長さLは分離する試料および分析時間により異なり、カラム長さLを30から200mmとしておくことが望ましい。
【0020】
同じ圧力で送液した場合、単位時間当たりの送液量、すなわち移動相の消費量は液が通過する断面積、すなわち空隙率が一定であればモノリスロッドの断面積に反比例するから、従来の直径4mm程度のモノリスロッドを使用した場合に比べ、本発明の直径2mm以下のモノリスロッドを使用することで、移動相の消費量を4分の1に低減することができる。
【0021】
また実用上、汎用の高速液体クロマトグラフ装置で広く用いられている1.0ml/min以下の流量域で使用することができる使い勝手の良いカラムを提供することができる。
【0022】
図2は、上述した本発明の実施例の分離カラムが適用される液体クロマトグラフ装置の概略構成図である。図2において、液体クロマトグラフ装置は、溶離液9,送液ポンプ(送液手段)5,オートサンプラ(液体試料供給手段)6,カラムオーブン7,分離カラム12,検出器8,廃液用容器11を備えている。送液ポンプ5は配管を介して溶離液9を吸引する。
【0023】
送液ポンプ5から吐出される溶離液9は、オートサンプラ6に供給され、注入ポートから成分分析がされるサンプルである試料10が注入される。注入ポートから注入された試料10は、溶離液9と混合され、カラムオーブン7の内部に配置された分離カラム12に送られる。この分離カラム12で検査対象物に成分分離された試料10は、配管を介して検出器8に流入される。
【0024】
検出器8は、図示しない光源,フローセル及び光センサ等により構成されている。検出器8により、試料10に含まれる成分が分析される。検出器8で検出処理が終了した試料10は、配管を通じて廃液用容器11に廃棄回収される。
【0025】
液体クロマトグラフ装置の分離カラムに、上述したカラム本体を有する分離カラムを用いれば、液流速を増加させて分析時間を短縮しても溶媒消費量の増加を伴うことがない液体クロマトグラフ装置を実現することができる。
【0026】
さらに図3に示す他の実施例について述べる。
【0027】
上述した本発明の実施例の分離カラムが適用される液体クロマトグラフ装置は、それぞれ上述した本発明の実施例の分離カラムである分離カラム12,13を複数(本実施例では2個であるが、それ以上であっても良い。)連結して用いることができる。複数の分離カラム12,13を直結して用いることにより、全体として分離カラムの長さが長くなり、成分分析されるサンプルは、1つの分離カラムを用いる場合より高い分離性能を実現することができる。
【0028】
また、分離カラムを連結することにより分離カラム1本当たりの背圧が分割される。そのため、連結したものと同じ長さを有する1本の分離カラムの背圧より低くなり、線速度を上げることが可能であり、分析時間を短縮することができる。
【0029】
以下、更に好ましい実施例を説明する。
【0030】
全長75mmのモノリスロッドは、流れに沿って、入口側は直径2.3mm、出口側は直径2.2mmのテーパー構造を有している。モノリスロッドは接液部分の耐薬品性を向上するために肉厚0.2mmのフッ素樹脂FEP(Fluorinated Ethylene Propylene)などの熱収縮チューブにより被覆されることが望ましい。
【0031】
この他フッ素樹脂被覆材として、PTFE(Polytetrafluoroethylene)、PFA(Perfluoroalkoxy)、ETFE(EthyleneTetrafluoroethylene)なども選択できる。その外側には耐圧力のために各種材質の外筒(クラッド)を装着する必要がある。
【0032】
例えば、外筒材(クラッド)には、SUS316等のステンレス鋼、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などのプラスチック、低融点の金属、低融点のガラスなどが使用可能である。シリカロッド部位と外筒部位の中間層にシリコンゴムやシリカビーズなど形状変化に柔軟性の高い層を設けることもできる。フッ素樹脂被覆層を用いる場合は、フッ素樹脂被覆層と外筒部位の中間層に、この形状変化に柔軟性の高い層を設けることができる。
【0033】
このモノリスカラムに移動相を流量1ml/min程度、流し込むとモノリスロッドの入口側には、移動相の粘度、温度にも依るが20MPa程度の静水圧がかかる。多孔質体であるモノリスロッドを移動相が流れていくと、軸方向に沿ってほぼ直線的に静水圧が低下していき、出口側ではほぼ5MPaの静水圧になる。この移動相の流れによりモノリスロッドは出口方向に移動するような力を受ける。
【0034】
モノリスロッドは、クラッドの外周被覆材または外筒の材質との境界面に発生する静止摩擦力により移動しない。しかしながら、モノリスロッドを移動させようとする力(移動力)が、所謂、最大静止摩擦力を超える場合には、実際にモノリスロッドは移動し、出口側の部材、例えば出口側フリット面に押し付けられてしまう。
【0035】
この場合、移動力から最大静止摩擦力を差し引いた力(差分力)によりモノリスロッドはフリット面積に押し付けられる。結局、この差分力をフリット面積で除した圧縮応力がモノリスロッドにかかる。この圧縮応力が数MPaの限界応力を超えた場合に、モノリスロッドは圧縮破壊することになる。
【0036】
改良策としては、モノリスロッドをテーパー構造にする。その場合、移動力をテーパー面に沿う方向とテーパー面に垂直な方向の分力成分に分けて考える必要がある。沿う方向は摩擦力と釣り合う。垂直分力は外筒からの反作用と釣り合うことになる。
【0037】
したがって、テーパー構造による効果は、極端な例として10°程度の傾斜の場合、移動力のテーパー面に沿う分力はcos10°より元の移動力にほぼ等しい。一方、テーパー面に垂直な分力はsin10°より17%程度担うことになる。
【0038】
元々、移動力は、モノリスロッドの出入口間にかかる圧力差にモノリスロッドの断面積を乗じたものである。その移動力の17%をモノリスロッドの外周テーパー面積で受けることになる。すなわちモノリスロッドの断面積でうける圧縮応力を外周テーパー面積に分散化するとみなせる。
【0039】
本例の場合、17%程度担った移動力を4.2mmから530mmで受け止めることになり、100倍以上圧縮応力を分散させることができる。圧縮応力の分散化の程度は面積比で得られるため、実際は傾斜角度を調整することによりテーパー面に垂直成分に対する移動力分担比率を最適化することになる。
【0040】
さて、モノリスロッドがテーパー構造をしていることは、線速度が入口から出口に向かって徐々に速くなり、クロマトグラファにとって一見、奇妙な印象を持つかもしれない。
【0041】
しかしよく考えてみると、理論段高さが軸方向に若干変化する程度の影響でしかなく影響度は無視できる。アナロジを用いれば、理論段数の異なるカラムを数本、直列につないだときに、個々のカラムの分離性能に差異があっても、全体として特に異常なことはないということである。
【0042】
図4は別の実施例である。空カラム(クラッド)を全長に渡り、テーパー加工するのは一般に困難である。本例では入口付近にのみテーパー構造を具備させ、加工作業をより実施容易な形状とした。
【0043】
更なる実施例として、モノリスロッドを空カラム(クラッド)に組み立てる方法とは別に空カラム(クラッド)内にモノリスロッドを形成させる方法がある。この場合、TEOS(テトラエトキシシラン)などを出発化合物とするゾル−ゲル法を利用し、クラッドであるガラス管や石英管の中にモノリスロッドを形成させる。この際、相分離剤として、HPAA(ポリアクリル酸)やPEG(ポリチレングリコール)などのポリマを用いる。
【0044】
上記実施例では、移動相が流入する分離カラムの流入口側に向かって太くなるテーパ形状のモノリスロッドについて述べたが、分離カラムの流出口側に向かって太くなるテーパ形状にすることも可能である。
【0045】
すなわち、モノリスロッドの流出口端部側を太くすることにより、モノリスロッドの先端部(流出口端部面)に加わる力が軽減されので、モノリスロッドの先端部の破壊が生じ難くなる。
【0046】
また、モノリスロッドの先端部を受け止めるクラッドの構造を堅牢にすることにより、モノリスロッドに移動相の強い圧力が作用してもモノリスロッドはずれ動くことなく確実に保持される。このため、モノリスロッドとクラッドとのテーパ面により密着状態が維持され、モノリスロッドのずれ動きに伴う隙間が生じることもないので、移動相の高圧送液が維持できる。
【0047】
上述した実施例の主な特徴を以下に列挙する。
【0048】
1.多孔質体でテーパ円柱形状に成形されたモノリスロッドを、組み込んだ分離カラム。
【0049】
2.クラッドの内側の形状が、テーパ円柱形状に加工されたことを特徴とする分離カラム。
【0050】
3.上記1において、前記モノリスロッドはテーパ中央部の直径が1.2〜2.8mm,長さ30mm〜200mmであることを特徴とする分離カラム。
【0051】
4.上記1において、前記モノリスロッドは分離カラム内の軸中心に位置していることを特徴とする分離カラム。
【0052】
5.上記1において、前記分離カラムに流入する移動相の圧力を5〜60MPaとすることを特徴とする分離カラム。
【0053】
6.上記1において、前記分離カラムに流入する移動相の流量を0.5〜2.0mL/minとすることを特徴とする分離カラム。
【0054】
7.上記1において、前記分離カラムを複数連結して用いることを特徴とする分離カラム。
【0055】
8.上記1乃至6いずれか記載の分離カラムを具備することを特徴とする液体クロマトグラフ。
9・モノリスロッドとクラッドの境界面が軸方向に向かって傾斜していることを特徴とする分離カラム。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例にかかわる分離カラムの断面図である。
【図2】本発明の実施例にかかわるもので、液体クロマトグラフ装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の他の実施例にかかわるもので、分離カラムを複数連結した液体クロマトグラフ装置の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の別の実施例にかかわる分離カラムの断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1…モノリスロッド
2…クラッド
5…送液ポンプ
6…オートサンプラ
7…カラムオーブン
8…検出器
9…溶離液
10…試料
11…廃液用容器
12,13…分離カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料及び移動相が流入する多孔質体で成形されたモノリスロッドと、前記モノリスロッドを内在するクラッドを有する分離カラムにおいて、
前記モノリスロッドがテーパ円柱形状を有することを特徴とする分離カラム。
【請求項2】
試料及び移動相が流入する多孔質体で成形されたモノリスロッドと、前記モノリスロッドを内在するクラッドを有する分離カラムにおいて、
前記クラッドは内周側がテーパ円筒形状を有することを特徴とする分離カラム。
【請求項3】
試料及び移動相が流入する多孔質体で成形された軸方向に延在するモノリスロッドと、前記モノリスロッドを内在するクラッドを有する分離カラムにおいて、
前記モノリスロッドと前記クラッドの境界面が軸方向に向かって傾斜していることを特徴とする分離カラム。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載された分離カラムおいて、
前記モノリスロッドは長さ30mm〜200mm程度、中央部の直径が1.2mm〜2.8mm程度であることを特徴とする分離カラム。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載された分離カラムおいて、
前記モノリスロッドはクラッド内の軸中心に位置していることを特徴とする分離カラム。
【請求項6】
請求項1から5の何れかに記載された分離カラムおいて、
前記分離カラムに流入する移動相の圧力を5〜60MPaとすることを特徴とする分離カラム。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載された分離カラムおいて、
前記分離カラムに流入する移動相の流量を0.5〜2.0mL/minとすることを特徴とする分離カラム。
【請求項8】
請求項1から7の何れかに記載された分離カラムおいて、
モノリスロッドの流れ方向入口側の直径が流れ方向出口側の直径に比較し0.1mm以上大きいことを特徴とする分離カラム。
【請求項9】
請求項1から8の何れかに記載された分離カラムおいて、
モノリスロッドを、内部が空になってるクラッド内でゾルゲル反応により合成することを特徴とする分離カラム。
【請求項10】
請求項1から9の何れかに記載された分離カラムおいて、
前記分離カラムを直列に複数連結して用いることを特徴とする分離カラム。
【請求項11】
請求項11から10の何れかに記載された分離カラムを具備することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項12】
試料及び移動相が流入する多孔質体で成形されたモノリスロッドと、前記モノリスロッドを内在するクラッドを有する分離カラムにおいて、
前記モノリスロッド、およびクラッドの境界は試料及び移動相が流入する入口側近傍部位が外に向かって末広がりの形状をしていることを特徴とする分離カラム。
【請求項13】
試料及び移動相が流入する多孔質体で成形されたモノリスロッドと、前記モノリスロッドを内在するクラッドを有する分離カラムにおいて、
前記モノリスロッド、およびクラッドの境界は試料及び移動相が流入する入口側から出口側に向かって先太になる形状をしていることを特徴とする分離カラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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