説明

分離塔および懸濁物質分離装置

【課題】溶媒中に分散した溶媒より軽い懸濁物質を効率的に分離できる分離塔および懸濁物質分離装置を提供する。
【解決手段】分離塔10は、内部に旋回流を発生させるように導入口1が形成された内管2と、内管2を内部に保持する外管4とを備える。内管2には、内管2の内部から外管4の内部へ溶媒11を導入する連通口3が形成される。外管4には内管2から連通口3を介して導入された溶媒11を外部へ排出する導出口5が形成される。分離塔10は、外管4の内部において内管2の連通口3から外管4の導出口5に向かう溶媒11の流れる流路を屈曲させる流路構成部材としての漉し板9をさらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、分離塔および懸濁物質分離装置に関し、より特定的には、溶媒中に気泡を混入することで溶媒中に分散した懸濁物質を分離する分離塔および懸濁物質分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、二液体が混合している場合、その混合物界面には化学ポテンシャルの作用があり、界面の表面張力、濃度勾配によって物質を吸着する現象が生じる。また、気体を当該液体中に混入した場合は、気体と二液体の3種の混合となる。この場合も、気体と当該液体界面には、上記と同様な現象によって物質を吸着する効果が発生する。
【0003】
このような作用を利用した懸濁物質分離装置が従来知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1の分離装置では、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどを添加し、微細気泡を発生して、その微細気泡に被処理液中の懸濁性浮遊物や油分を付着させ、付着した懸濁性浮遊物や油分を、気泡と一緒に浮上させ、水面で分離している。
【特許文献1】特開2007−38173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の懸濁物質分離装置には、以下のような問題があった。すなわち、従来の懸濁物質分離装置(浮上分離装置)では、液体に導入される気体のトータル体積が同じ場合に、微小な気泡は気泡全体での表面積すなわち総気液界面面積を大きく取ることができるものの、当該気泡の浮力は小さく水中懸濁物質の分離に時間がかかる。一方、気泡径が大きいと、気泡全体での総気液界面面積が小さくなってしまい、また、気泡の浮上速度が大きすぎてすぐに水面に気泡が浮上してしまい、懸濁物質の付着効率がよくない。つまり、十分な懸濁物質の分離効率とスループットとを両立することは難しかった。
【0005】
また、従来の浮上分離装置では、水槽に気泡を混入し、懸濁物質を付着させ、浮力のみによって懸濁物質を浮上分離させており、懸濁物質の分離効率は必ずしも十分とは言えない。
【0006】
また、従来技術での分離は、水槽内での分離であり、たとえば、洗濯機のように水槽内(洗濯槽内)に洗濯物がある場合には適用できなかった。つまり、洗濯槽内での洗濯物の攪拌によって、水面が静止せず、その結果として折角分離した懸濁物が水中に再度混入し、洗濯物に当該懸濁物質が付着して洗濯物を再汚染する場合があった。このため、洗濯層(水槽)内での上述のような浮上分離を行なうことは困難であり、上記のような洗濯機などにおいて懸濁物質を分離するためには、配管系内での懸濁物質の分離(除去)、すなわち、インラインでの懸濁物質除去が必要となる。
【0007】
さらに、発明者は比重差による遠心力の差を利用した分離方法も検討したが、微細な懸濁物質や流体(溶媒)より軽い懸濁物質を分離する場合、流体の粘性効果が大きくなることから、この場合も懸濁物質の分離効率は必ずしも十分とは言えなかった。さらに、比重差が大きい微細気泡を用いた場合でも、懸濁物質の分離効率は必ずしも十分とは言えなかった。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、この発明の目的は、溶媒中に分散した溶媒より軽い懸濁物質を効率的に分離できる分離塔および懸濁物質分離装置を提供することである。
【0009】
また、この発明の他の目的は、経済性に優れた低コストな分離塔および懸濁物質分離装置を提供することである。
【0010】
また、この発明の他の目的は、インラインでも使用できる分離塔および懸濁物質分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に従った分離塔は、内部に旋回流を発生させるように溶媒導入口が形成された内管と、内管を内部に保持する外管とを備える。内管には、内管の内部から外管の内部へ溶媒を導入する連通口が形成される。外管には内管から連通口を介して導入された溶媒を外部へ排出する導出口が形成される。分離塔は、外管の内部において内管の連通口から外管の導出口に向かう溶媒の流れる流路を屈曲させる流路構成部材をさらに備える。
【0012】
このようにすれば、内管に旋回流を発生させることによって、この旋回流による遠心力を利用して(溶媒と懸濁物質および/または気泡との比重差を利用して)溶媒に混入している懸濁物質に対して1段目の分離工程(第一のトラップ)を行なうことができる。また、内管でのトラップ(第一のトラップ)で分離できなかった懸濁物質を、内管の連通口より溶媒とともに外管内に形成した気体を有する空間に流出させることができる。この結果、外管内において媒質中の懸濁物質をさらに浮上分離させることが可能になる。このとき、外管内に溶媒の液面を形成するように溶媒の水面位置を調整してもよい。そして、外管内に形成された液面に溶媒が落下させるようにしてもよい。このようにして、懸濁物質を外管内において浮上分離させて第二のトラップを行なうことができる。したがって、二段階のトラップによって効率のよい懸濁物質の分離を行なうことができる。また、上述のように外管内において溶媒の液面を形成することで、インラインでも浮上分離することが可能となる。
【0013】
さらに、連通口から導出口に至る溶媒の流れる空間に流路構成部材(濾し板)を設置することによって、当該空間における溶媒の流れる流路が屈曲することで流路長が長くなる。このため、連通口から流出した懸濁物質を吸着した気泡が、流路構成部材によって堰き止められたり、長い流路の間に液面に浮上することで溶媒から分離される。このため、当該流路構成部材から導出口に至る空間に気泡が流出することを抑制することが可能となる。この結果、外管に設けた導出口より気泡に吸着された懸濁物質が排出されることを抑制できるので、効率よく、低コストで懸濁物質の分離を行なうことができる。
【0014】
上記分離塔において、流路構成部材は複数形成されていてもよい。この場合、上記のような作用を複数回起こすことができる(つまり、流路長をより長くすることで、懸濁物質の分離をより確実に行なうことができる)。
【0015】
また、連通口から導出口に至る空間に、連続して溶媒の流れる流路を形成するように空間を隔てて、複数の流路構成部材を設置してもよい。この場合、連続的に上述のような懸濁物質の分離を行なうことが可能となるので、さらに、効率のよい分離塔を実現できる。また、当該分離塔に溶媒を連続的に供給することで、当該分離塔での分離動作を連続的に実施することができる。このため、たとえばポンプでの溶媒供給を連続的に行なうことが可能となるので、インラインでの懸濁物質の分離を効率的に行なうことが可能となる。
【0016】
上記分離塔において、流路構成部材は、溶媒の流路を水平方向において屈曲させるように形成されていてもよい。この場合、外管内での溶媒の流路長を長くするとともに、溶媒の流れをスムーズにすることができる。このため、外管内での溶媒の流れが途切れることに起因して、分離塔から溶媒を排出するためのポンプなどにおいてエア噛みなどの問題が発生する可能性を低減できる。
【0017】
上記分離塔において、流路構成部材は貫通穴を有してもよい。この場合、流路構成部材の配置などを変更することなく、外管内での溶媒の流れをスムーズにすることができる。
【0018】
上記分離塔は、流路構成部材の貫通穴に設置された網状体をさらに備えていてもよい。この場合、網状体にも溶媒中の気泡や懸濁物質をトラップすることができるので、懸濁物質の分離効率をより向上させることができる。
【0019】
上記分離塔において、流路構成部材は外管に固定部材を用いて固定されていてもよい。固定部材としては、たとえばビス(ネジ)などを用いることができる。また、当該ネジには外管からの液漏れなどを防止するためパッキングを付加してもよい。ここで、流路構成部材を粘着テープ等で外管に固定することも考えられる。しかし、この場合当該テープが溶媒に浸漬した状態になるため、テープ粘着力が低下し、結果的に流路構成部材が外管から外れることが考えられる。これに対して、上述のように外管にパッキンを有したビスで流路構成部材を固定することによって、上記のような流路構成部材の外れが起きる可能性を低減できる。このため、流路構成部材を一定の位置に常に配置することができるので、安定した懸濁物質の分離が可能となる。
【0020】
上記分離塔は、流路構成部材を保持する保持部材をさらに備えていてもよい。保持部材は外管に固定されていてもよい。この場合、外管の外で流路構成部材を保持部材に固定すれば、複数の流路構成部材を1つの部材として組立てることができる。このため、分離塔の組立やメンテナンスを効率的に行なうことができる。
【0021】
上記分離塔において、流路構成部材は内管に固定部材を用いて固定されていてもよい。この場合、固定部材としてネジなどを用いると、内管にネジ用の穴などを形成する必要がある。この場合、当該ネジ穴を介して内管の内部から外管の内部へ溶媒が漏れることも考えられるが、当該ネジ穴は外管の外部への溶媒の漏れの原因にはならない。そのため、分離塔からの溶媒の漏れの抑制に効果的である。
【0022】
上記分離塔は、流路構成部材を保持する保持部材をさらに備えていてもよい。保持部材は内管に固定されていてもよい。この場合、内管と外管を分解したときに、内管側に流路構成部材が保持部材を介して固定された状態となっているので、内管とともに流路構成部材を取外すことができる。このため、分離塔の効率的な分解が可能となる。
【0023】
上記分離塔において、内管は、導入口側から連通口側に向かうにつれて径が大きくなるテーパ形状を有していてもよい。外管は、連通口側から導出口側に向かうほど径が大きくなるテーパ形状を有していてもよい。
【0024】
ここで、たとえば分離塔を水平設置する(内管および外管の中心軸が水平になるように設置する)ことを考える。この場合、外管における溶媒の連通口側の水位を浅くすることができるので、外管において気泡が上昇しやすくなる。また、導出口側の水位を深くすることができるので、水面近傍の気泡や、懸濁物質が導出口から排出される可能性を低減できる。このため、効率的な懸濁物質の分離を行なうことができる。
【0025】
この発明に従った懸濁物質分離装置では、上記分離塔が配管系内に設置されている。このようにすれば、インラインで効率のよい分離を行なう懸濁物質分離装置を得ることができる。
【0026】
上記懸濁物質分離装置では、配管系が循環経路を構成してもよい。この場合、上述のようにインラインで分離塔を設置できるので、循環経路を構成する系にも本発明を適用できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、溶媒中に分散した懸濁物質を効率的に分離できる。またインラインでの使用も可能となり、経済性に優れた低コストな分離塔および懸濁物質分離装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本発明による分離塔の実施の形態1を示す正面模式図である。図2は、図1に示した分離塔の側面模式図である。図1および図2を参照して、本発明による分離塔の実施の形態1を説明する。
【0030】
図1および図2に示すように、分離塔10は、内部に旋回流を発生させるように溶媒導入口としての導入口1が形成された内管2と、内管2を内部に保持する外管4とを備える。内管2には、内管2の内部から外管4の内部へ溶媒11を導入する連通口3が形成される。外管4には内管2から連通口3を介して導入された溶媒11を外部へ排出する導出口5が形成される。分離塔10は、外管4の内部において内管2の連通口3から外管4の導出口5に向かう溶媒11の流れる流路を屈曲させる流路構成部材としての分離板(漉し板9)をさらに備える。なお、外管4の導出口5と反対側の上端部には気体出口6が形成されている。気体出口6には流量調節弁7(もしくは開閉弁)が接続されている。また、外管4の内部には、溶媒11の液面高さ(水位)を測定するためのセンサ8が配置されている。
【0031】
図1において、導入口1は、外管4を貫通して内管2の円周側面に接続されている。図1に示すように、導入口1の断面形状は円形状で構成されているが、当該断面形状は他の任意の形状、たとえば矩形状、楕円形状、半楕円形状、半円形状等で構成してもよい。連通口3の平面形状も円形状、矩形状、楕円形状、半楕円形状、半円等で構成してもよい。内管2と外管4は、連通口3で連通されている。
【0032】
導入口1へは、図示しない加圧装置(ポンプやタンク中の溶媒の水位差でもよい)によって溶媒が導入される。導入口1を介して流入してきた溶媒は、内管2の内周側面に沿って回転する。つまり、内管2の内部では溶媒により旋回流が形成される。そして、導入口1から十分な量の溶媒を供給するとともに、連通口3が内管2の上面に形成されているため、内管2の内部は溶媒で満たされる。
【0033】
ここで、内管2の内部で旋回流が発生すると、溶媒と懸濁物質に比重差があることから、この比重差によって軽い懸濁物質を内管2の内側に、重い溶媒を内管の外側に分離することができる。したがって、たとえば、水と油で構成された溶媒であれば、懸濁物質としての油は内管の中央付近に集まることになる。これによって、第一の分離(トラップ)を行なうことができる。
【0034】
なお、内管2の内部での旋回流による懸濁物質の分離に与える影響が大きいパラメータとしては、内管2の内径および長さ、導入口1から供給される溶媒の流速、懸濁物質の粒子径などが上げられる。たとえば、内管2の径が小さく、導入口1からの溶媒の流入速度が大きく、懸濁物質の粒子径が大きく、内管2の長さの長いものほど懸濁物質が分離しやすく、内管2の半径方向中央部に当該懸濁物質を集めやすい。
【0035】
また、一般に、旋回流が発達するためには、内管2の長さがある程度必要である。すなわち、内管2の長さが短いと旋回流が十分に発達する前に、内管2と外管4を連通する連通口3より溶媒と共に懸濁物質が流出することになる。そのため、内管2において懸濁物質を十分に収集することはできない。それ故、導入口1は内管2の一方の端近傍に設けることにより、導入口1と連通口3の間の距離を確保することが好ましい。このようにすれば、スペースの無駄がなくコンパクトに分離塔を形成できる。
【0036】
また、内管2における第一の分離で十分に懸濁物質を分離できなかった溶媒は、内管2の端に設けられた連通口3に至り、外管4に流出される。流出された溶媒11は、外管4の内壁(たとえば外管4の上側の内壁)に当たる。あるいは、流出された溶媒11は、外管4の内壁に至らず、そのまま落下し外管4内部に溜まった溶媒の液面に向かって落下する。そして、液面から溶媒中に導入された(上記内管2から流出された)溶媒中の懸濁物質は、浮上分離によって液面に上昇する。そして、当該懸濁物質は、液面に収集され、第二の分離(トラップ)を行なうことができる。
【0037】
導出口5は外管4の下部であって、内管2における導入口1の近傍に設けられている。このため、溶媒11の流路は垂直方向に屈曲することになり、外管4内の溶媒11の液面と導出口5との間の溶媒11の流路の長さを十分とることが可能となる。そのため、導出口5から溶媒11とともに懸濁物質が排出される可能性を低減できるので、分離効率を向上させることが可能となる。したがって、導出口5は外管4の最下部に設置することが好ましい。
【0038】
さらに、分離塔10に導入される溶媒11に気体(気泡)を混入させると、気体と液体の界面における懸濁物質の表面張力と溶媒の表面張力の差が、液体同士(たとえば水と油)での当該表面張力の差よりも大きくなる。なお、気体と液体との界面では、微視的に考えると懸濁物質の濃度変化が生じていると思われる。
【0039】
この表面張力差と濃度差(変化)が主たる駆動力となって、気体(気泡)近傍にある物質(懸濁物質)は気泡表面に吸着される。したがって、この吸着力が大きい気体(気泡)を利用すると、分子レベルに近い懸濁物質も、気泡に吸着させて分離することが可能となる。
【0040】
気泡混入の方法は如何なる方法であってもよく、たとえば旋回流の気泡発生器、ベンチュリー管、圧縮加圧空気の導入等を用いることができる。また、通常、気泡の比重は、液体の比重に比べて1/1000程度であり、比重差による遠心分離も行い易くなる。また、導入する気泡が微細気泡であり、たとえば微細気泡発生器で生成した気泡であれば、同じ気泡の合計体積であっても、気泡の表面積を格段に増やすことが可能となる。この場合、さらに効率の良い懸濁物質の分離を行なうことができる。
【0041】
なお、分離塔10に多量に気泡が流入すると、外管4内で破泡する気泡が増加し、外管4内での溶媒11の液面が低下することになる。この場合、導出口5と液面とが近くなり(つまり溶媒の水位が低くなり)、分離した懸濁物質が導出口5を介して外部に漏れ出す可能性が考えられる。これを防止するために、分離塔10には、気体出口6および流量調節弁7が接続されている。たとえば、外管4中の溶媒11の水位が低下した場合に、導出口5から懸濁物質が排出される前に、流量調節弁7を開放する。また、外管4内は、図示しない加圧装置で加圧されている。このため、流量調節弁7から外管4内の気体が排出される。これによって、外管4内の溶媒11の水位を復元することができる。
【0042】
また、流量調節弁7を、適切な開度とすることによって、外管4内での溶媒11の水位を一定に保つことも可能である。具体的には、外管4内で破泡し増える気体の体積分を、流量調節弁7から排出することによって、溶媒11の水位を一定に保つことができる。この気体出口6は外管4の最も上方(最上位)にあることが望ましい。
【0043】
また、流量調節弁7の代替として、開閉弁を用いることもできる。すなわち、水位センサ8を外管4の所望の位置に設け、外管4内部の溶媒11の水位が所望の水位以下になると流量調節弁7もしくは開閉弁を開放するように制御する制御部を設置してもよい。このようにすれば、外管4内部の溶媒11の水位を一定に保つことが可能となり、懸濁物質の導出口5からの流出を抑制することができる。
【0044】
以上は、溶媒に対して積極的に気体(気泡)を混入した場合であるが、配管系によっては、図示しない加圧装置から自然に気体が流入される場合(たとえば、ポンプのエア噛み、水槽の排出口の自由渦等で発生する気泡が溶媒に混入する場合)がある。この場合にも、気体出口6を用いて上記のような制御を行なうことができる。
【0045】
また、溶媒に混入する気泡が微細気泡の場合、連通口3より外管4内部に吹き上げられた溶媒が液面あるいは溶媒中に落下した時、その勢いで微細気泡が拡散し、導出口5の近傍までに至る微細気泡が発生することが考えられる。この場合、導出口5から当該微細気泡が排出される可能性が高くなる。
【0046】
これに対して、図1および図2で示したように、流路構成部材としての濾し板9を設置した場合、溶媒中の懸濁物質を付着した微細気泡は、点線で示すように外管4の領域Aの液面あるいは溶媒中に落下する。その後、微細気泡は再び浮上して濾し板9に至る。濾し板9に至った微細気泡は、濾し板9を乗り越えなければ、外管4の次の領域Bに至ることはできない。さらに、濾し板9を乗り越えることは、この濾し板9の高さまで一端気泡が浮上するということである。一度浮上し、界面(液面)近傍まで達した気泡は、導出口5に吸い込まれて排出されにくい。つまり、導出口5の近傍に至る気泡数を抑制できるため、分離塔10における分離効率を向上させることが可能となる。
【0047】
図3は、図1および図2に示した分離塔を備える懸濁物質分離装置の構成を示す模式図である。図3を参照して、本発明による懸濁物質分離装置を説明する。
【0048】
図3に示した懸濁物質分離装置は、上述した分離塔10が配管系内に設置され、当該配管系は循環経路を形成している。具体的には、分離塔10の導出口5(図1参照)に接続された配管14は処理部15に接続され、当該処理部15から溶媒を排出する配管14はポンプ13および配管14を介して再度分離塔10の導入口1(図1参照)に接続されている。分離塔10から排出された溶媒は、処理部15、ポンプ13を介して再び分離塔10に導入される。このようにすれば、インラインで効率のよい分離を行なう懸濁物質分離装置を実現できる。なお、処理部15としては、懸濁物質が溶媒中に分散されるような処理部であれば任意の処理部を適用できる。たとえば、洗濯機の洗濯槽などが挙げられる。
【0049】
(実施の形態2)
図4は、本発明による分離塔の実施の形態2を示す正面模式図である。図5は、図4に示した分離塔の側面模式図である。図4および図5を参照して、本発明による分離塔の実施の形態2を説明する。
【0050】
図4および図5に示した分離塔10は、基本的には図1および図2に示した分離塔10と同様の構成を備えるが、漉し板29が複数設置されている点が異なる。すなわち、図4および図5に示した分離塔10では、外管4の底部に、内管2の延在方向に沿って所定の間隔を隔てて複数の漉し板29が配置されている。
【0051】
このように、濾し板29を複数個設置すると、微細気泡の導出口5側への拡散を複数回抑制することができる。このため、さらに分離塔10における懸濁物質の分離効率を向上させることができる。なお、図4および図5における濾し板29の形状および固定方法は、図1および図2に示した漉し板9と同様である。つまり、漉し板29は外管4の内周底部に固定されている。
【0052】
図6は、本発明による分離塔の実施の形態2の第1の変形例を示す正面模式図である。図7は、図6に示した分離塔の側面模式図である。図6および図7を参照して、本発明による分離塔の実施の形態2の第1の変形例を説明する。
【0053】
ここで、上記の図1〜図5に示した分離塔10では、濾し板9、29を乗り越える溶媒の流量が少ない時、導出口5に至る溶媒の量が少なくなる場合が考えられる。この場合、たとえば図1の領域Bに位置する溶媒の量が少なくなる。つまり、分離塔10内でいわゆる液切れが起き、結果的に分離塔10に接続されたポンプのエア噛みなど起こす可能性が考えられる。このようなエア噛みは、インラインでの懸濁物質の分離に好ましくない。
【0054】
そこで、図6および図7に示したように、貫通穴28を設けた濾し板29を設置することで、溶媒が流れる連続した流路を容易に形成することができる。なお、貫通穴28の位置はできるだけ下方(液面から離れた位置、好ましくは漉し板29の縦方向中央より下側)であることが好ましい。貫通穴28は1つでもよいし複数個形成してもよい。また、貫通穴28の平面形状は任意の形状(円形状、楕円形状など)にすることができる。なお、貫通穴28が形成されている点以外は、図6および図7に示した分離塔10は図4および図5に示した分離塔10と同様の構成を備える。
【0055】
図8は、本発明による分離塔の実施の形態2の第2の変形例を示す側面模式図である。図8を参照して、本発明による分離塔の実施の形態2の第2の変形例を説明する。なお、図8は図7に対応する。
【0056】
図8に示した分離塔10は、基本的には図6および図7に示した分離塔10と同様の構成を備えるが、漉し板29の貫通穴28に網状体としての網27が配置されている点が異なる。このように、濾し板29の貫通穴28に網27を設けることによって、微細気泡や懸濁物質を当該網27でトラップできる。すなわち、溶媒(分子レベルの物質)は容易に網27を通り抜けるが、微細気泡は小さいといえども、数十μmの径を有している。そして、浮上分離での流速レベル(外管4内の導出口5へ向う溶媒の平均流速)では、流速が十分遅く(動圧がほとんどない)、網27を気泡が通過しにくくなるため網27に気泡が一時的に留まる。そして、網27表面に付着物(懸濁物質)を剥ぎ取られながら気泡が変形して、次の空間に網27を通って流出することとなる。このため、気泡界面は再度活性化される。この結果、分離塔10の外管4における懸濁物質の分離効率がさらに向上する。
【0057】
(実施の形態3)
図9は、本発明による分離塔の実施の形態3を示す側面模式図である。図10は、図9に示した分離塔の底面透視模式図である。図9および図10を参照して、本発明による分離塔の実施の形態3を説明する。
【0058】
図9および図10に示した分離塔10は、基本的には図4および図5に示した分離塔10と同様の構成を備えるが、複数の漉し板39の形状および配置が異なる。すなわち、漉し板39は図5などに示した漉し板29の幅方向の所定の位置で分割したような構成となっている。そして、複数の漉し板39は互い違いに配置されている。このため、外管4内部で溶媒の流路は漉し板39の間を水平方向に屈曲することになり、結果的に流路長が長くなる。このように、複数個の濾し板39の側面を液体が連続して流れるように流路を形成するべく濾し板39を設置すると、外管4の濾し板39で区画されたすべての領域が繋がることになる。この結果、実施の形態2の場合と同様に、外管4内の液切れを起こすことを抑制でき、ポンプのエアがみを防止することができるので、インラインでの懸濁物質の分離が可能となる。
【0059】
なお、上記で説明した濾し板9、29、39は、外管4に両面テープ等で固定することができるが、両面テープでは、溶媒中での固定となるため粘着力の劣化が問題となる。これに対して、濾し板9、29、39を図示しないパッキンを有したビスなどで外管4に固定すれば、粘着力による固定でなく、ビスによる締め付け力によって固定することになる。この場合、常に一定の位置に漉し板9、29、39が配置されるので、安定した懸濁物質の分離が可能となる。
【0060】
(実施の形態4)
図11は、本発明による分離塔の実施の形態4を示す正面模式図である。図12は、図11に示した分離塔を構成する漉し板および漉し板を設置した外管取付用部材を示す模式図である。図11よび図12を参照して、本発明による分離塔の実施の形態4を説明する。
【0061】
図11および図12に示した分離塔10は、基本的には図4および図5に示した分離塔10と同様の構成を備えるが、複数の漉し板49が、保持部材としての1つの外管取付用部材41に設置されている点、および当該外管取付用部材41が外管4に接続固定されている点が異なる。このようにすれば、複数の漉し板49を個別に外管4に設置する場合より、外管4外部での漉し板49の調整作業などが容易となり、作業性が格段に向上するため、コストダウンを図ることも可能となる。また、濾し板49の清掃も容易となる。
【0062】
(実施の形態5)
図13は、本発明による分離塔の実施の形態5を示す正面模式図である。図14は、図13に示した分離塔を構成する漉し板および漉し板を設置した内管取付用部材を示す模式図である。図13よび図14を参照して、本発明による分離塔の実施の形態5を説明する。
【0063】
図13および図14に示した分離塔10は、基本的には図11および図12に示した分離塔10と同様の構成を備えるが、内管2と外管4を分離できるようにしている点、および濾し板59を設置した保持部材としての内管取付用部材51が内管2に設置されている点が異なっている。
【0064】
このようにすれば、内管2と外管4を分離したとき、内管2側に固定されている濾し板59も内管取付用部材51とともに同時に取外す事ができる。このため、効率的な分離塔10の分解が可能となる。さらに、濾し板59を設けた内管取付用部材51を、ビス(ネジ)を用いて内管2に設置した場合、内管2に形成されたビス用穴を介して多少の内管2から外管4への溶媒の漏れがあっても、外管4外部には溶媒が漏れることがない。つまり、外部への溶媒の漏れを防止することができる。
【0065】
(実施の形態6)
図15は、本発明による分離塔の実施の形態6を示す正面模式図である。図15を参照して、本発明による分離塔の実施の形態6を説明する。
【0066】
図15に示した分離塔10は、基本的には図1および図2に示した分離塔10と同様の構成を備えるが、内管2および外管4の形状が異なっている。すなわち、内管2は、導入口1から連通口3に向うほど内管2の径が大きくなるようなテーパ形状になるよう構成されている。また、外管4は、連通口3から導出口5に向うほど外管4の径が大きくなるようなテーパ形状になるように構成されている。このようにすれば、図15に示すような水平設置の場合、連通口3側の溶媒11の水位を浅くすることができるので、溶媒11中の気泡が上昇しやすくなる。また、導出口5側の溶媒11の水位を深くすることができるので、液面近傍の気泡や、懸濁物質を導出口5から排出する可能性を低減できる。このため、効率的な分離を行なうことができる。なお、上述した実施の形態における漉し板の形状は、図示したような形状に限られず任意の形状を用いることができる。
【0067】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
この発明は、特に懸濁物質を効率的にインラインで分離することが必要な装置、たとえば洗濯機などに有利に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明による分離塔の実施の形態1を示す正面模式図である。
【図2】図1に示した分離塔の側面模式図である。
【図3】図1および図2に示した分離塔を備える懸濁物質分離装置の構成を示す模式図である。
【図4】本発明による分離塔の実施の形態2を示す正面模式図である。
【図5】図4に示した分離塔の側面模式図である。
【図6】本発明による分離塔の実施の形態2の第1の変形例を示す正面模式図である。
【図7】図6に示した分離塔の側面模式図である。
【図8】本発明による分離塔の実施の形態2の第2の変形例を示す側面模式図である。
【図9】本発明による分離塔の実施の形態3を示す側面模式図である。
【図10】図9に示した分離塔の底面透視模式図である。
【図11】本発明による分離塔の実施の形態4を示す正面模式図である。
【図12】図11に示した分離塔を構成する漉し板および漉し板を設置した外管取付用部材を示す模式図である。
【図13】本発明による分離塔の実施の形態5を示す正面模式図である。
【図14】図13に示した分離塔を構成する漉し板および漉し板を設置した内管取付用部材を示す模式図である。
【図15】本発明による分離塔の実施の形態6を示す正面模式図である。
【符号の説明】
【0070】
1 導入口、2 内管、3 連通口、4 外管、5 導出口、6 気体出口、7 流量調節弁、8 センサ、9,29,39,49,59 漉し板、10 分離塔、11 溶媒、13 ポンプ、14 配管、15 処理部、27 網、28 貫通穴、41 外管取付用部材、51 内管取付用部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に旋回流を発生させるように溶媒導入口が形成された内管と、
前記内管を内部に保持する外管とを備え、
前記内管には、前記内管の内部から前記外管の内部へ溶媒を導入する連通口が形成され、
前記外管には前記内管から前記連通口を介して導入された前記溶媒を外部へ排出する導出口が形成され、
前記外管の内部において前記内管の連通口から前記外管の導出口に向かう前記溶媒の流れる流路を屈曲させる流路構成部材をさらに備える、分離塔。
【請求項2】
前記流路構成部材は複数形成されている、請求項1に記載の分離塔。
【請求項3】
前記流路構成部材は、前記溶媒の流路を水平方向において屈曲させるように形成されている、請求項1または2に記載の分離塔。
【請求項4】
前記流路構成部材は貫通穴を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分離塔。
【請求項5】
前記流路構成部材の前記貫通穴に設置された網状体をさらに備える、請求項4に記載の分離塔。
【請求項6】
前記流路構成部材が前記外管に固定部材を用いて固定されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の分離塔。
【請求項7】
前記流路構成部材を保持する保持部材をさらに備え、
前記保持部材は前記外管に固定されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の分離塔。
【請求項8】
前記流路構成部材が前記内管に固定部材を用いて固定されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の分離塔。
【請求項9】
前記流路構成部材を保持する保持部材をさらに備え、
前記保持部材は前記内管に固定されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の分離塔。
【請求項10】
前記内管は、前記導入口側から前記連通口側に向かうにつれて径が大きくなるテーパ形状を有しており、
前記外管は、前記連通口側から前記導出口側に向かうほど径が大きくなるテーパ形状を有している、請求項1〜9のいずれか1項に記載の分離塔。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の分離塔が配管系内に設置された、懸濁物質分離装置。
【請求項12】
前記配管系は循環経路を構成する、請求項11に記載の懸濁物質分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−82801(P2009−82801A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254418(P2007−254418)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】