説明

分離液状調味料

【課題】 植物ステロール類を用いて、一時乳化が十分でなくとも、油相部に水相部の風味をつけられる分離液状調味料を提供する。
【解決手段】 植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が配合されている分離液状調味料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物ステロール類を用いて、一時乳化が十分でなくとも、油相部に水相部の風味をつけられる分離液状調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
上部の油相部と下部の水相部からなる分離液状調味料は、使用の際に、容器を十分に振り、水相部と油相部を一時的に乳化させてから用いるものである。しかしながら、使用の際に容器の振りが十分でないと、乳化が不十分になり、油相部ばかりが出てしまい、風味のバランスが悪くなるという問題があった。
【0003】
一方、植物ステロール類あるいは当該脂肪酸エステルは、日常的に摂取することにより、血中の総コレステロール及び低密度リポ蛋白質−コレステロール濃度を低下させる機能を有することが知られている。植物ステロール類は、植物油脂、大豆、小麦等の食材に含まれているがその含有量は極僅かであるため、これら植物ステロール類あるいは当該脂肪酸エステルを強化して日常的に摂取できるようにした食品の開発が望まれている。
【0004】
例えば、特開2004−2601号公報(特許文献1)及び特開2004−18678号公報(特許文献2)には、植物ステロール脂肪酸エステル組成物を含む分離液状ドレッシングが提案され、舌触り等が良好な食感を有すること、また、外観の評価において、水相部及び油相部との分離状態における境界面がきれいに分離するため商品価値が高くなること等が記載されている。
【0005】
上記植物ステロール脂肪酸エステル組成物を含む分離液状ドレッシングでは、使用の際、容器を十分に振り、水相部と油相部を一時的に乳化させてから用いれば問題ないが、容器の振りが十分でないと、乳化が不十分になり油相部ばかりが出てしまう。そのため、菜種油や植物ステロール脂肪酸エステルの油っぽい風味となり、風味のバランスが悪くなるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−2601号公報
【特許文献2】特開2004−18678号公報
【特許文献3】WO2005/041692
【特許文献4】WO2005/041690
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、植物ステロール類を用いて、一時乳化が十分ででなくとも、油相部に水相部の風味をつけられる分離液状調味料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合するならば、意外にも、一時乳化が十分でなくとも、油相部に水相部の風味をつけられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が配合されていることを特徴とする分離液状調味料、
(2)前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である(1)の分離液状調味料、
(3)前記複合体の配合量が、製品に対し乾物換算で0.05〜20%である(1)又は(2)の分離液状調味料、
である。
【0010】
なお、本出願人は、既に植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体及び前記複合体を含有した水中油型乳化食品を出願している(WO2005/041692:特許文献3、WO2005/041690:特許文献4)。しかしながら、当該出願には、分離液状調味料に前記複合体を添加することはいっさい検討されていない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一時乳化が十分でなくとも、油相部に水相部の風味をつけることが可能であることから、使用の際に、容器の振りが十分でなく、油相部ばかりが出てしまうお客様に対しても、風味のよい分離液状調味料を提供することができ、更なる利用拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0013】
本発明は、分離液状調味料であって、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が配合されていることを特徴とし、これにより、一時乳化が十分でなくとも、油相部に水相部の風味を有する効果を奏する。
【0014】
本発明において分離液状調味料とは、上部の油相部と下部の水相部からなる調味料であって、使用の際に当該調味料が入った容器を上下又は左右に十分に振り、一時的に乳化して使用する、いわゆるセパレートタイプの調味料である。前記油相部は食用油脂からなり、5〜60%の食用油脂が配合されている。また、前記水相部は、一般的に水性媒体(例えば、食酢、醤油、果汁、液糖、清水等)に水溶性原料や水分散性原料が配合された水性原料からなるが、本発明においては、水相部に一部の食用油脂が均一に分散した乳化相であってもよい。
【0015】
ここで、本発明の食用油脂とは、トリアシルグリセロール又はジアシルグリセロールを主成分とする脂質のことであり、菜種油、大豆油、コーン油、サフラワー油、ひまわり油、綿実油、ごま油、こめ油、パーム油、パームオレイン、オリーブ油、落花生油、やし油、しそ油、牛脂、ラード、魚油等の動植物油又はこれらの精製油、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、エステル交換油等のような化学的あるいは酵素処理等を施して得られる油脂等が挙げられる。また、本発明の食用油脂には植物ステロール類は含まない。
【0016】
本発明の卵黄リポ蛋白質は、卵黄蛋白質と、親水部分及び疎水部分を有するリン脂質、及びトリアシルグリセロール、コレステロール等の中性脂質とからなる複合体である。当該複合体は、蛋白質やリン脂質の親水部分を外側にし、疎水部分を内側にして、中性脂質を包んだ構造をしている。卵黄リポ蛋白質は、卵黄の主成分であって、卵黄固形分中の約80%を占める。したがって、本発明の卵黄リポ蛋白質としては、当該成分を主成分とした卵黄を用いるとよく、食用として一般的に用いている卵黄であれば特に限定するものではない。例えば、鶏卵を割卵し卵白液と分離して得られた生卵黄をはじめ、当該生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもの等が挙げられる。また、本発明では、鶏卵を割卵して得られる全卵、あるいは卵黄と卵白とを任意の割合で混合したもの、あるいはこれらに上記処理を施したもの等を用いてもよい。
【0017】
一方、本発明の植物ステロール類とは、コレステロール又は当該飽和型であるコレスタノールに類似した構造をもつ植物の脂溶性画分より得られる植物ステロール又は植物スタノール、あるいはこれらの構成成分のことであり、植物ステロール類は、植物の脂溶性画分に合計で数%存在する。また、市販の植物ステロール又は植物スタノールは、融点が約140℃前後で、常温で固体であり、これらの主な構成成分としては、例えば、β−シトステロール、β−シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、ブラシカスタノール等が挙げられる。また、植物スタノールについては、天然物の他、植物ステロールを水素添加により飽和させたものも使用することができる。なお、本発明において植物ステロール類は、いわゆる遊離体を主成分とするが、若干量のエステル体を含有していてもよい。
【0018】
本発明に用いる植物ステロール類は、市販されている粉体あるいはフレーク状のものを用いることができるが、平均粒子径が50μm以下、特に10μm以下の粉体を使用することが好ましい。平均粒子径が50μmを超える粉体あるいはフレーク状の植物ステロール類を用いる場合には、卵黄と攪拌混合して複合体を製造する際に、均質機(T.K.マイコロイダー:プライミクス(株)製)等を用いて植物ステロール類の粒子を小さくしつつ攪拌混合を行うことが好ましい。これにより、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が形成され易くなり、また、当該複合体を分離液状調味料に配合したときに、ざらつき感が生じ難い口当たりの良いものが得られる。
【0019】
本発明の分離液状調味料に配合する植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、上述した植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質を主成分とする卵黄とを、好ましくは10μm以下の粉体状の植物ステロール類と卵黄を水系中で攪拌混合することにより得られる。具体的には、工業的規模での攪拌混合し易さを考慮し、卵黄リポ蛋白質として、卵黄を水系媒体で適宜希釈した卵黄希釈液を使用し、当該卵黄希釈液と植物ステロール類とを攪拌混合して製造することが好ましい。前記水系媒体としては、水分が90%以上のものが好ましく、例えば、清水の他に液状調味料(例えば、醤油、だし汁)、卵白液等が挙げられる。また、前記卵黄希釈液の濃度としては、その後、添加する植物ステロール類の配合量にもよるが、卵黄固形分として0.01〜50%の濃度が好ましく、攪拌混合時の温度は、常温(20℃)でもよいが、45〜55℃に加温しておくと複合体と攪拌混合し易く好ましい。攪拌混合は、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモゲナイザー、T.K.マイコロイダー(プライミクス(株)製)等の均質機を用いて、全体が均一になるまで行うとよい。また、上述の方法で得られたものは、複合体が水系媒体に分散したものであるが、噴霧乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を施して乾燥複合体としてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、複合体に他の原料を配合してもよい。
【0020】
植物ステロールは、水への分散処理を施しても、その後、水面に浮いてしまう性質を有する。これに対し本発明で用いる複合体は、後述で示すとおり水にも分散する性質を有する。よって、本発明で用いる複合体は、両親媒性を有する卵黄リポ蛋白質が、当該疎水部分を疎水物である植物ステロール類の表面側に、親水部分を外側に向けて植物ステロール類の表面の一部に付着した状態と推定される。また、このように本発明で用いる複合体は、表面の一部が親水化されていることにより、食酢、醤油、食塩等の水性原料との親和性を有し、一方、卵黄リポ蛋白質が付着していない部分は、表面が植物ステロール類であるため、食用油脂とも親和性を有する。従って、当該複合体は両親媒性を有することから、当該複合体を分離液状調味料に配合したときに、一時乳化が十分でなくとも、油相部に水相部の風味を有したのではないかと推定する。
【0021】
本発明で用いる複合体は、当該原料である植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部であることが好ましい。当該構成比は、卵黄固形分中に卵黄リポ蛋白質は約8割存在するから、卵黄固形分1部に対して植物ステロール類4〜185部に相当する。当該複合体は、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が前記範囲で形成しているところ、植物ステロールが前記範囲より少ないと複合体を形成できなかった卵黄リポ蛋白質が残存し、一方、前記範囲より多いと水分散性を有した複合体が得られない。したがって、植物ステロール類が前記範囲より少ないと、範囲内にあるものと比較し、上記液状調味料に同量配合した場合、相対的に複合体の実質的な量が少なくなるためか、本発明の効果を奏し難く好ましくない。また、同様な効果を奏するために複合体の実質的な量を基準に考えると、植物ステロール類が前記範囲より少ないと、範囲内にあるものと比較し、上記液状調味料への配合量を相対的に多く配合する必要があり、経済的でなく好ましくない。一方、植物ステロール類が前記範囲より多いと、複合体の水への親和性が低下するためか、本発明の効果を奏し難く好ましくない。
【0022】
また、分離液状調味料への植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体の配合量は、製品に対して乾物換算で0.05〜20%が好ましく、0.2〜15%がより好ましい。前記複合体の配合量が前記範囲より少ないと、一時乳化が十分でない時に油相部に水相部の風味を付与するのが難しく、一方、植物ステロール類が前記範囲より多いと、油相部の粘度が高くなり、使用の際に容器を振っても一時乳化しにくくなり、好ましくない。
【0023】
本発明の必須の配合原料である植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、両親媒性を有する。本発明の分離液状調味料に前記複合体を添加する方法としては、例えば、前記複合体の調製過程で発生する水系媒体に分散した複合体をそのまま、あるいは乾燥した前記複合体を水系媒体と混合したものをそのまま水相部に添加する方法等、又は乾燥した前記複合体をそのまま水相部若しくは油相部に添加混合する方法等が挙げられる。本発明の分離液状調味料を製する際は、前記複合体を前記方法等により添加し、常法に則り分離液状調味料を製すればよい。なお、本発明は、本発明の効果を損なわない範囲で分離液状調味料に一般的に使用されている原料を適宜配合すればよい。このような原料としては、例えば、食酢、食塩、砂糖、醤油、味噌、味醂、核酸系旨味調味料等の各種調味料、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、柑橘果汁等の酸材、香辛料、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、色素、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、アラビアガム等の増粘材等、玉ねぎ、大根、赤ピーマン、ニンニク、しょうが、梅、かつおぶし、オリーブ、バジル等のハーブ、唐辛子、みょうが、ごま、のり、青じそ、しいたけ、ねぎ、ナッツ、ベーコン、ゆず等の具材の截断物、おろし、あるいは、ペースト状物等が挙げられる。
【0024】
以下、本発明で用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体及びこれを用いた分離液状調味料について、実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0025】
[調製例1]:複合体の構成成分の解析及び複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
まず、卵黄液5g(卵黄固形分2.5g、卵黄固形分中の卵黄リポ蛋白質約2g)に清水95gを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpmで1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した。次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(遊離体97.8%、エステル体2.2%、平均粒子径約3μm)2.5gを添加し、さらに10000rpmで5分間攪拌し、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質とから形成された複合体の分散液を得た(調製例1−1)。
【0026】
得られた分散液1gを取り、0.9%食塩水4gを加え、真空乾燥機(東京理科器械社製、VOS−450D)で真空度を10mmHgにして1分間脱気し、遠心分離器(国産遠心分離器社製、モデルH−108ND)で3000rpmで15分間遠心分離を行い、沈澱と上澄みとを分離した。この上澄みを0.45μmのフィルターで濾過し、さらに0.2μmのフィルターで濾過し、複合体と、複合体を形成していない植物ステロールとを除去した。
【0027】
この濾液の吸光度(O.D.)を、分光光度計(日立製作所製、U−2010)を用いて、0.9%食塩水を対照とし、280nm(蛋白質中の芳香環をもつアミノ酸の吸収)で測定し、濾液中の蛋白質の量を測定した。
【0028】
植物ステロールの添加量を表1のように変え、同様に吸光度を測定した(調製例1−2〜調製例1−8)。この結果を表1に示す。
【0029】
また、調製例1−1の濾液と、調製例1−6の濾液については、更に440nmの吸光度を測定した。ここで、440nmは、卵黄リポ蛋白質中に含まれる油溶性の色素(カロチン)の吸収波長である。この結果を表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以下であると、表1より、植物ステロールの割合が増えるに伴い、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度が小さくなっており、蛋白質あるいはアミノ酸の含量が減少することが分かる。また、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−1の濾液は調製例1−6に比べ吸光度が優位に高く、油脂含量が明らかに多いことが分かる。一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であると、表1より、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度は略一定を示し、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−6の濾液は調製例1−1に比べ吸光度が優位に低く、油脂含量が明らかに少ないことが分かる。
【0033】
以上の結果より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であるものの分散液には、複合体以外に、卵黄リポ蛋白質でない遊離の蛋白質あるいはアミノ酸が存在し、一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部より少ないものの分散液には、前記遊離の蛋白質あるいはアミノ酸に加え、複合体を形成しなかった卵黄リポ蛋白質が存在しているものと推定される。したがって、卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、植物ステロール類が5部以上必要であることが分かる。
【0034】
[調製例2]:複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
鶏卵を工業的に割卵して得られた卵黄液(固形分45%)と清水の量と植物ステロールの量を表3の通りに変更して、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を調製し、この分散液の分散性から、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との好ましい構成比を検討した。
【0035】
すなわち、鶏卵を割卵して取り出した卵黄液(固形分45%)に清水を加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、45℃に加温し、次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)を除々に添加し、添加し終えたところで、さらに10000rpmで攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。
【0036】
また、分散液の分散性に関しては、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液0.5gを試験管(内径1.6cm、高さ17.5cm)にとり、0.9%食塩水10mLで希釈し、試験管ミキサー(IWAKI GLASS MODEL−TM−151)で10秒間撹拌することにより振盪し、その後1時間室温で静置し、さらに真空乾燥機(東京理化器械社製、VOS−450D)に入れ、真空度を10mmHg以下にして室温(20℃)で脱気を行い、脱気後に浮上物が見られない場合を○、浮上物が見られた場合を×と判定した。これらの結果を表3に示す。
【0037】
なお、植物ステロールを加熱溶解し、冷却し、比重の異なるエタノール液に浸けて浮き沈みによりその比重を求めたところ、0.98であったことから、上述の分散性の試験での浮上物は植物ステロールであると考えられる。
【0038】
【表3】

【0039】
表3より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが232部以下であると、複合体に良好な水分散性を付与できることが分かる。
【0040】
調製例1及び調製例2の結果より、複合体が良好な水分散性を有し、しかも卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部の範囲であることが分かる。
【0041】
[調製例3]
清水7.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体(殺菌卵黄使用)の分散液を得た。なお、得られた分散液中の複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール8.9部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール11.1部である。
【0042】
[調製例4]
清水17.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。得られた複合体の分散液を噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、乾燥複合体(殺菌卵黄使用)を得た。なお、複合体の構成比は、調製例3のものと同じである。
【0043】
[調製例5]
生卵黄10kg(固形分50%)を50℃に加温し、豚膵臓由来のホスフォリパーゼA(ノボザイムス社「レシターゼ10L」)5mLを添加し、2時間攪拌しリゾ化率61%のホスフォリパーゼA処理卵黄を得た。なお、卵黄をホスフォリパーゼAで処理すると、ホスフォリパーゼAは、卵黄中の卵黄リポ蛋白質の構成成分であるリン脂質の1位のアシル基に、ホスフォリーパーゼAは、リン脂質の2位のアシル基に、それぞれ作用し、リゾリン脂質と脂肪酸に加水分解される。また、前記リゾ化率は、酵素処理後におけるリゾホスファチジルコリンとホスファチジルコリンの合計質量に対するリゾホスファチジルコリンの質量割合をイヤトロスキャン法(TLC−FID法)で分析し算出した値である。
【0044】
調製例4の殺菌卵黄に換えて上記ホスフォリパーゼA処理卵黄を用いた以外は調製例4に準じて乾燥複合体(ホスフォリパーゼA処理卵黄)を調製した。なお、得られた複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール8.0部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール10.0部である。
【0045】
[実施例1]分離液状ドレッシング
下記配合に準じ、まず調製例3で得られた複合体分散液と他の水相原料を均一に混合した。そして、分離液状ドレッシングの容量が250mLとなるように250mL容量のPET容器に水相部を充填した後に、残りの油相部である菜種油を積層させ密栓した。得られた分離液状ドレッシングには、製品に対して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体が乾物換算で6.7%含まれている。
【0046】
<分離液状ドレッシングの配合割合>
(油相部)
菜種油 30.0%
(水相部)
リンゴ酢(酸度5%) 10.0%
醤油 10.0%
味醂 4.5%
砂糖 3.0%
食塩 1.5%
L−グルタミン酸ナトリウム 0.8%
粉末ガーリック 0.2%
黒胡椒 0.1%
キサンタンガム 0.05%
複合体分散液(調整例3) 30.6%
清水 残余
――――――――――――――――――――――――――
合計 100.0%
【0047】
[実施例2]分離液状ドレッシング
実施例1の分離液状ドレッシングで使用した調製例3の複合体(殺菌卵黄使用)分散液に換えて調製例4の乾燥複合体(殺菌卵黄使用)6.7%を用いた。分離液状ドレッシングは、実施例1に準じて製した。
【0048】
[実施例3]分離液状ドレッシング
実施例2の分離液状ドレッシングで使用した調製例4の乾燥複合体(殺菌卵黄使用)に換えて調製例5の乾燥複合体(ホスフォリパーゼA処理卵黄)6.7%を用いた。分離液状ドレッシングは、実施例1に準じて製した。
【0049】
[実施例4]分離液状ドレッシング
実施例2の分離液状ドレッシングで使用した調製例4の乾燥複合体(殺菌卵黄使用)の配合割合を1.0%に変更した。分離液状ドレッシングは、実施例1に準じて製した。
【0050】
[実施例5]分離液状ドレッシング
実施例4の分離液状ドレッシングで使用した調製例4の乾燥複合体(殺菌卵黄使用)1.0%を油相部に配合した。分離液状ドレッシングは、菜種油に乾燥複合体(殺菌卵黄使用)を均一に分散させる以外は、実施例1に準じて製した。
【0051】
[比較例1]分離液状ドレッシング
実施例1の分離液状ドレッシングで使用した調製例3の複合体(殺菌卵黄使用)分散液に換えて清水を用いた。分離液状ドレッシングは、実施例1に準じて製した。
【0052】
[比較例2]分離液状ドレッシング
実施例5の分離液状ドレッシングで使用した調製例4の乾燥複合体(殺菌卵黄使用)に換えて植物ステロール(調製例1と同じもの)1.0%を用いた。分離液状ドレッシングは、実施例5に準じて製した。
【0053】
[比較例3]分離液状ドレッシング
実施例5の分離液状ドレッシングで使用した調製例4の乾燥複合体(殺菌卵黄使用)に換えて植物ステロール脂肪酸エステル(商品名「サンステロール NO.3(ES)」:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)1.0%を用いた。分離液状ドレッシングは、実施例5に準じて製した。
【0054】
[試験例1]
実施例1〜5、並びに比較例1〜3で得られた各分離液状ドレッシングを、上下に約15cmの振幅で激しく3往復振盪し、一時乳化が十分でない状態で、振盪後に直ちにキャップをはずし、15g注ぎ出したものを風味テストした。結果を表4に示す。なお、通常、分離液状ドレッシングは、上下に約30cmの振幅で激しく10往復振盪すると、一時乳化が十分な状態になることから、今回の試験例の混ぜ方は、一時乳化が十分でないことが理解される。
【0055】
【表4】

【0056】
<評価基準>
○:水相部の風味を有し、風味のバランスが良い
△:水相部の風味を有するが、やや油っぽい風味
×:油っぽく、風味のバランスが悪い
【0057】
本発明の複合体の分散液、あるいは乾燥複合体を配合した実施例1〜5の分離液状ドレッシングは、複合体を配合しなかった比較例1、複合体でなく植物ステロールを配合した比較例2、あるいは複合体でなく植物ステロール脂肪酸エステルを配合した比較例3の分離液状ドレッシングと比較し、水相部の風味を有することが理解される。特に、本発明の複合体の分散液、あるいは乾燥複合体を水相部に配合した実施例1〜4の分離液状ドレッシングは、風味のバランスも良いことが理解される。また、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が配合されていることを特徴とする分離液状調味料。
【請求項2】
前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である請求項1記載の分離液状調味料。
【請求項3】
前記複合体の配合量が、製品に対し乾物換算で0.05〜20%である請求項1又は2記載の分離液状調味料。