分離膜モジュールとその製造方法
【課題】ポッティング材の凝固収縮に伴う反力を確実に緩和させ、残留応力に起因する剥離現象の発生することのない優れた固着を実現し、長期に亘って、その機能を十分に発揮するようにした分離膜モジュールとその製造方法を提供する。
【解決手段】1本或は複数本の分離膜2から成る膜束3の少なくとも一端部を、ポッティング部6を介してモジュールケース5内に固定した分離膜モジュール1であって、前記ポッティング部6の開口端6aとは反対側の前記膜束3とのポッティング基端面6bに溝部7を形成して、ポッティング時に生じるポッティング部6の凝固収縮に伴う反力を緩和させるようにした分離膜モジュールである。
【解決手段】1本或は複数本の分離膜2から成る膜束3の少なくとも一端部を、ポッティング部6を介してモジュールケース5内に固定した分離膜モジュール1であって、前記ポッティング部6の開口端6aとは反対側の前記膜束3とのポッティング基端面6bに溝部7を形成して、ポッティング時に生じるポッティング部6の凝固収縮に伴う反力を緩和させるようにした分離膜モジュールである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子工業、食品工業、飲料工業、医薬品工業、発酵工業、光学工業、医療、精密工業等において使用される種々の流体に対し逆浸透、限外濾過、精密濾過、気体分離等の様々な分離膜を用いた流体処理に好適であり、特に、室内等の空間に水分を供給する加湿器などにも適した分離膜モジュールとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、加湿器などで採用され始めたウレタン樹脂や、フッ素系イオン交換樹脂などの透湿材料は、水の透湿性が高いために、水膨潤による寸法変化が大きいという特徴を有している。一般に、このような材料から成る膜モジュールは、複数本のチューブ状、或は中空糸状の分離膜が収束した膜束をモジュールケース内に装填し、その端部にポッティング材を注入してこれを硬化させた後、このポッティング部の端部を分離膜と共に切断して、端部を開口することで製造される。この製造工程において、ポッティング材は個々の分離膜の間や、膜束とモジュールケースとの間に浸透し、硬化することで一体化している。
【0003】
図17に示すように、ポッティング材30は硬化の際に収縮を伴うが、膜束の内部では多くの膜31があることから、その硬化収縮の応力は分散されるものの、膜束の最外周に位置する膜31aがポッティングの中心部に向かって収縮する働きに対し、ポッティング材30はモジュールケース32に固定されているために収縮できず、この部位では応力が残留してしまう。その結果、上記透湿材料から成る分離膜モジュールを加湿器などに使用する場合、長時間に亘って水に浸漬すると、残留応力によって、ポッティング部とモジュールケースとの接合面に剥離が生じ、しかも、この近傍に位置する膜とポッティング材との接着力が膨潤による変形力に耐え切れず、剥離現象を起こしていた。そこで、この残留応力を抑制する技術として、以下のような技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
例えば、特開2000−229225号公報(特許文献1)記載の中空糸膜モジュールは、複数本の中空糸膜を収束した中空糸束が、その端部を開口した状態でポッティング材によりモジュールケースの内部に固定された中空糸膜モジュールで、中空糸束の表面の、ポッティング材により固定される部分の縁部を含む箇所に、弾性を有する応力緩和部材を設けたことを特徴としており、これにより、中空糸束の最外周に位置する中空糸膜に、ポッティング材の硬化収縮の応力が集中するのを防いで、リークの防止を図っている。
【0005】
また、特開平4−349923号公報(特許文献2)記載の中空糸膜モジュールは、固定用部材の開口端側の外壁より内側に、固定用部材の外径より小さい内径の環状の切欠き溝を有し、中空糸膜集束体が環状部材の内側面内において硬化部材で硬化された固定用部材の外側面と環状部材との間をシールするOリングを、前記切欠き溝内に充填したことを特徴としており、これにより、開口端周りのリークの防止を図っている。
【特許文献1】特開2000−229225号公報
【特許文献2】特開平4−349923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開2000−229225号公報(特許文献1)では、応力緩和部材がポッティング材に含まれるため、硬化収縮が終了し、樹脂が安定状態になった後は不要のものとなる。また、中空糸束の最外周に緩和部材を固定させるためには、特殊な技術が必要となり、工数が多くなると共にコスト高となってしまう。しかも、角形状を呈したモジュールケースには不適である。また、特開2000−229225号公報(特許文献1)、特開平4−349923号公報(特許文献2)では、固定用部材と中空糸膜集束体の外側面間の界面剥離によるリークを防止するに留まり、残留応力は十分に緩和されておらず、解決には至っていないのが実状である。
【0007】
本発明は、上記の課題点に鑑み、鋭意研究の結果開発に至ったものであり、その目的とするところは、ポッティング材の凝固収縮に伴う反力を確実に緩和させ、残留応力に起因する剥離現象の発生することのない優れた固着を実現し、長期に亘って、その機能を十分に発揮するようにした分離膜モジュールとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、1本或は複数本の分離膜から成る膜束の少なくとも一端部を、ポッティング部を介してモジュールケース内に固定した分離膜モジュールであって、前記ポッティング部の開口端とは反対側の前記膜束とのポッティング基端面に溝部を形成して、ポッティング時に生じるポッティング部の凝固収縮に伴う反力を緩和させるようにした分離膜モジュールである。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記溝部を、少なくとも、前記分離膜束の最外膜の近傍周囲とモジュールケースの内側面との間に形成した分離膜モジュールである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の分離膜モジュールにおいて、個々の分離膜の基端部にポッティング時に生じる這い上がり部により、分離膜間に溝部又は凹状の空隙部を形成した分離膜モジュールである。
【0011】
請求項4に係る発明は、1本或は複数本の分離膜から成る膜束を形成し、この分離膜束の少なくとも一端部を、開口した状態でポッティング材によりモジュールケース内に固定する分離膜モジュールの製造方法において、溝部形成治具を予め設置したモジュールケース内に、ポッティング材を充填して分離膜束を固定した後、前記溝部形成治具を取り外し、分離膜束とポッティング部との基端部にポッティング材の凝固収縮に伴う反力を緩和させる溝部を形成し、次いで、硬化したポッティング部の端部を切断して分離膜束を開口させる工程により製造する分離膜モジュールの製造方法である。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記ポッティング部は、ポッティング材を用いて遠心成形法又は静置成形法などの成形法により形成された分離膜モジュールの製造方法である。
【0013】
請求項6に係る発明は、前記ポッティング材に毛細管現象を生じさせ、個々の分離膜の根元に形成されたポッティング材の這い上がり部により、分離膜間に溝部又は凹状の空隙部を形成した分離膜モジュールの製造方法である。
【0014】
請求項7に係る発明は、前記溝部形成治具を、ポリアセタールなどの離型性に富む材料から成形した分離膜モジュールの製造方法である。
【0015】
請求項8に係る発明は、前記溝部形成治具は、複数個の部品から所定の形状を成すよう構成され、分割して取り付け・取り外しを行い得るようにした分離膜モジュールの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1又は2に係る発明によると、ポッティング時に生じるポッティング部の凝固収縮に伴う反力を確実に緩和させることが可能となり、従来より、残留応力の働きによって生じていたポッティング部とモジュールケースや膜との接合面の剥離現象を改善した、あらゆる分野に対応し得る分離膜モジュールとして提供することが可能になった。従って、分離膜とポッティング材との間に膨張率や収縮率などの性状の違いに影響されることなく、その優れた固着状態を長期に亘って維持できるので、例えば、透湿材料から成る分離膜モジュールとして、加湿器などに提供した場合であっても、前記問題を生じることはなく、加湿器として、その性能を十分に発揮させるという効果を奏する。
【0017】
請求項3に係る発明によると、個々の分離膜の基端部に這い上がり部を生じさせ、分離膜間に形成した溝部又は凹状の空隙部によって、ポッティング時に生じるポッティング部の凝固収縮に伴う反力を極めて効果的に緩和させることが可能となり、残留応力の働きによって生じていたポッティング部とモジュールケースや膜との接合面の剥離現象を改善した分離膜モジュールとして提供することができる。
【0018】
請求項4又は5に係る発明によると、ポッティング時に生じるポッティング材の凝固収縮に伴う反力を確実に緩和させることが可能となり、残留応力の働きによって生じていたポッティング部とモジュールケースや膜との接合面の剥離現象を改善した分離膜モジュールの製造方法を実現し、しかも、本発明の製造方法によれば、複雑な工程を経る必要はなく、作業性、経済性にも優れた分離膜モジュールの製造方法として提供することができる。
【0019】
請求項6に係る発明によると、個々の分離膜の基端部に這い上がり部を生じさせ、分離膜間に形成した溝部又は凹状の空隙部によって、ポッティング時に生じるポッティング部の凝固収縮に伴う反力を極めて効果的に緩和させることが可能となり、残留応力の働きによって生じていたポッティング部とモジュールケースや膜との接合面の剥離現象を改善した分離膜モジュールの製造方法として提供することができる。
【0020】
請求項7に係る発明によると、硬化したポッティング材から容易に治具を取り除くことができるので、作業性を向上させることは勿論、ポッティング部に形成した溝部を損傷させるおそれもないので、寸法精度を持たせた溝部を形成することが可能となる。
【0021】
請求項8に係る発明によると、両端ポッティングを行う場合であっても、複雑な工程を経る必要はなく、優れた作業性を確保すると共に、治具の取り付け・取り外しに際しても、分離膜モジュールを破損させることなく、安全にその製造を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明における分離膜モジュールとその製造方法について、好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明における円筒状を呈する分離膜モジュールを示した断面図であり、図2は、図1におけるA−A線断面図である。図3は、本発明における角形状を呈する分離膜モジュールを示した断面図であり、図4は、図3におけるB−B線断面図である。図中1は、分離膜モジュールであり、図中2は、チューブ状の分離膜であり、図中3は、この分離膜2を複数本収束して成る分離膜束である。本例ではチューブ状の分離膜2を採用して説明するが、中空糸状などの分離膜であってもよく、また、本例では分離膜2を複数本収束して成る膜束3に対し、分離膜2が1本から成るものでもよい。分離膜2の材質については、チューブ状(或は、中空糸状など)に成形が可能であれば制限はなく、例えば、ポリウレタン、シリコン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)などが挙げられ、適宜の材質から成るものを採用することができ、とりわけ、ウレタン樹脂やフッ素系イオン交換樹脂などの透湿材料等、水膨潤を生じ易い材料が挙げられる。分離膜束3は、チューブ状の分離膜2を直線状態に収束してこれを結束したものや、分離膜2の途中位置をU字状に折り返して結束したもの、或は分離膜2を中心から外方へ放射状に折り返し、断面噴水状のループを成すよう結束したものなど、実施に応じて任意に採用することができる。
【0023】
図中4,5は、両端を開口した筒状のモジュールケースであり、図1、図2に示す円筒状を呈したモジュールケース4では、その形状から強度が強いという利点がある反面、箱型機器に対するモジュールケースの集積度が低いのに対し、図3、図4に示す角形状を呈したモジュールケース5では、箱型機器に対するモジュールケースの集積度が高いという利点がある反面、強度が弱い。従って、その利用分野に応じて、図示する円筒状や角形状、その他形状から成るものなど、その特性を生かしたものを任意に選択するとよい。また、モジュールケース4,5の材質については、例えば、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ABS、塩化ビニルなど、利用分野の要求に合った材質を適宜採用することができる。なお、ポッティング材との接着性が低い場合には、プライマー処理を施して使用してもよい。
【0024】
本例では複数本の分離膜2を直線状態に結束して分離膜束3を形成しており、その端部にポリウレタンやエポキシ樹脂などのポッティング材を充填することで、モジュールケース4(5)の一端部に密封固着し、硬化したポッティング材から成るポッティング部6の端部を切断して開口させている。ポッティング材としては、十分な接着強度を有したものであればよく、例えば、ウレタン系、エポキシ系、不飽和ポリエステル系などが挙げられる。なお、本例では片端ポッティングを施した分離膜モジュール1について説明するが、両端ポッティングを施した分離膜モジュールにも適用可能であることは勿論である。
【0025】
図中7は、開口端6aとは反対側の分離膜束3とのポッティング基端面6bに形成された溝部であり、この溝部7は、ポッティング時に生じるポッティング材の凝固収縮に伴う反力を緩和させる機能を有している。この溝部7を分離膜束3の最外膜2aの近傍周囲とモジュールケース4(5)の内側面4a(5a)との間に形成することで、応力の残りやすい膜束最外周であっても、ポッティング材の凝固収縮に伴う反力は確実に分散・吸収される。従って、モジュールケース4(5)とポッティング部6との接合状態は強固に確保され、この接合部位にリークが発生することはない。しかも、溝部7の形成によって、この溝部近傍の分離膜2では、ポッティング材の凝固収縮による応力が低減されるので、分離膜2とポッティング部6との接合状態も強固に確保されることから、分離膜2は膨潤してもポッティング材から剥離せず、内側に座屈して潰れるなどの変形を起こすこともない。図2(図4)に示す分離膜モジュール1では、溝部7をモジュールケース4の内側面4a(5a)に隣接して、その全周に渡って形成されている。
【0026】
図5(a)は、本発明における分離膜モジュールの他例を示した要部断面図であり、図5(b)は、図5(a)におけるC−C線断面図である。同図に示すように、本例の溝部7は、分離膜束3の最外膜2aとモジュールケース4の内側面4aとの中間に位置し、内側面4aに沿って形成されている。この場合にも、図2(図4)に示す分離膜モジュール1と同様、応力の残りやすい膜束最外周であっても、ポッティング材の凝固収縮に伴う反力は確実に分散・吸収され、溝部近傍の分離膜2では、ポッティング部6との接合状態が強固に確保される。
【0027】
図6(a)は、本発明における分離膜モジュールの更に他例を示した要部断面図であり、図6(b)は、図6(a)におけるD−D線断面図である。ポッティング材により固形される部分の断面積が大きい場合、即ち、ポッティング部6の体積が大きい場合には、その収縮量も大きくなることから、同図に示すように、分離膜束3の最外膜2aとモジュールケース4の内側面4aとの間に溝部7を形成することに加え、更に、最外膜2aの内側にも複数個(本例では3つ)の溝部7を形成したものであり、これにより、分離膜束3とモジュールケース4との接合部位はもとより、最外膜2aの内方においても、ポッティング材の凝固収縮に伴う反力は効果的に分散・吸収され、溝部近傍の分離膜2では、膨潤することによる応力は低減される。また、溝部7は、平面視円形状や、円弧状、或は直線状などに形成することは勿論、これらを組み合わせるなど、あらゆる形態が可能であり、更には、個々の分離膜2の周縁部に形成してもよい。分離膜2の基端部6cは、接液部位としてポッティング材との剥離が生じ易い部位であることから、基端部6c近傍のポッティング基端面6bに溝部7を形成することは極めて有効である。
【0028】
本実施形態における溝部7は、後述する治具9での成形が可能であって、応力の伝達を阻止可能な幅であり、その深さについても、同様に後述する治具9での成形が可能であって、応力の伝達を阻止可能な深さに設定されており、例えば、本発明の分離膜モジュール1を加湿器に使用する場合では、加湿器用モジュールにおける静水圧に対するポッティング部の耐圧性確保の観点から、ポッティング厚の50%以下に設定するとよい。さらに、一例として、具体的に示すと、円筒状モジュールケース(モジュール長約200mm)の内側面と円柱状分離膜束の最外膜との間にのみ、環状の溝部を形成する場合において、ポッティング径φ50mm、ポッティング厚20mmの場合では、溝部の幅を2〜7.5mm、深さを5〜10mmとし、また、ポッティング径φ100mm、ポッティング厚20mmの場合では、溝部の幅を2〜15mm、深さを5〜10mm(但し、幅10mm以上の場合は、幅の50%以上で、且つ、10mm以下)として形成するなどである。
【0029】
図7は、本発明における分離膜モジュールの更に他例を示した要部拡大断面図であり、同図に示すように、分離膜モジュール1は、充填したポッティング材に毛細管現象を生じさせて、個々の分離膜2の根元に形成したポッティング材の這い上がり部6aによって、分離膜間に凹状の空隙部8を形成し、これによって、前述した溝部7による機能に加え、更に凝固収縮を小さくさせるという機能を得ている。
【0030】
次に、本発明における分離膜モジュールの製造方法について説明する。先ず、第1の形態について説明する。図8は、本発明における分離膜モジュールの製造方法を示した工程説明図である。また、図9(a)は、本発明における分離膜モジュールの製造方法で用いる治具の平面図であり、図9(b)は、図9(a)に示した治具の断面図である。なお、製造方法では、角形状を呈する分離膜モジュールを例に挙げて説明するが、円筒状を呈する分離膜モジュールにおいても適用可能であることは勿論である。図中9は、分離膜束3とポッティング部6との基端部に溝部7を形成するための治具(以下、溝部形成治具という)であり、所定長さを有する筒状の差込部9aとフランジ部9bとから構成され、その材質はシリコン、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂など、離型性に富む材料から成形されている。なお、本形態で示す溝部形成治具9は一体環状に形成されていることから、特に、片端ポッティングとして好適な治具である。図中10は、ポッティング材を注入し、収容した分離膜束3とモジュールケース5とを固定するためのポッティングカップである。
【0031】
溝部形成治具9をモジュールケース5に挿着すると、フランジ部9bがモジュールケース5の端面に係止され、差込部9aがモジュールケース5内の所定位置に配置される。このとき、差込部9aの先端がモジュールケース5の他方端面に到達しないよう、差込部9aは予め設定された所定長さを有している。このモジュールケース5と溝部形成治具9を配置したポッティングカップ10内に、チューブ状の分離膜2を直線状態に結束して成る膜束3の端部を所定位置に位置保持する。本例では分離膜2を複数本収束して成る膜束2に対し、分離膜2が1本から成るものでもよく、また、本形態に示す他、分離膜2の途中位置をU字状に折り返して結束したもの、或は分離膜2を中心から外方へ放射状に折り返し、断面噴水状のループを成すよう結束したものなど、実施に応じて任意である。
【0032】
次いで、図8(b)に示すように、遠心ポッティング装置11を用いて、ポッティングカップ10内にポッティング材を注入する。本形態においては、遠心成形法を採用しており、ポッティングカップ10が設置されたテーブル12を、装置11を半径として高速回転させることで、遠心力によって分離膜束3の端部又はその近傍にポッティング材を注入し、分離膜間の間隙にポッティング材を均等に浸透させながら、ポッティング材を間隙全体に行き渡らせる。図中13は、ポッティング材の吐出ノズルである。
【0033】
ポッティング材が硬化した後、図8(c)に示すように、分離膜束3が固着したモジュールケース5から溝部形成治具9を取り外す。前記したように、溝部形成治具9の材質はシリコン、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂など、離型性に富む材料から成形されているので、硬化したポッティング材から容易に引き抜くことができる。この溝部形成治具9を取り外した後の、分離膜束3とポッティング部6との基端部には、溝部形成治具9の差込部9aによって形成された溝部7が現われる。この工程において、ポッティングカップ10も取り外す。
【0034】
次いで、図8(d)に示すように、硬化したポッティング材から成るポッティング部6の端部を切断して、分離膜束3を開口させる。切断装置としては、ウォータージェットカッターや、レーザーカッターなど、適宜の装置を使用する。切断する位置は、分離膜束3に接着して残る部分がモジュールケース5の一部を成す底板部(又は、天板部)として十分な強度を有するだけの厚みを有し、且つ、切断により更新された分離膜束3の端部が切断面に開口していることなどを考慮して決定するとよい。前述してきた工程を経ることで、片端ポッティングを施した分離膜モジュール1が完成する。本形態では、ポッティングに際し、遠心成形法を採用して説明したが、静置成形法などを採用することもできる。
【0035】
次に、第2の形態について説明する。図10は、本発明における分離膜モジュールの製造方法の他例を示した一部省略断面図である。また、図11(a)は、本発明における分離膜モジュールの製造方法で用いる治具の平面図であり、図11(b)は、図11(a)に示した治具の断面図である。なお、前述した第1の形態と同一部材には同一符号を付し、その説明を省略する。図中14は、分離膜束3とポッティング部6との基端部に溝部7を形成するための治具であり、所定長さを有する筒状の差込部14aとフランジ部14bから構成され、その途中位置が半割りできるよう、ボルトなどの締付部材15で連結された構造を有している。その材質は、第1の形態で示した溝部形成治具9と同様、シリコン、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂など、離型性に富む材料から成形されている。なお、本形態で示す溝部形成治具14は、特に両端ポッティングとして好適な治具である。
【0036】
第1の形態と同様、溝部形成治具14をモジュールケース5に挿着すると、フランジ部14bがモジュールケース5の端面に係止され、差込部14aがモジュールケース5内の所定位置に配置される。このとき、差込部14aの先端がモジュールケース5の他方端面に到達しないよう、差込部14aは予め設定された所定長さを有している。本形態では両端ポッティングを行っているので、2つのモジュールケース5,5と、2つの溝部形成治具14,14を夫々用意し、このモジュールケース5と溝部形成治具14を配置した夫々ポッティングカップ10,10内に、分離膜束3の夫々端部を所定位置に位置保持する。本例では分離膜2を複数本収束して成る膜束3に対し、分離膜2が1本から成るものでもよく、実施に応じて任意である。
【0037】
次いで、ポッティングカップ10内にポッティング材を注入する。前述した第1の実施形態と同様、遠心成形法を採用しており、ポッティングカップ10が設置されたテーブル12を高速回転させることで、遠心力によって分離膜束3の端部又はその近傍にポッティング材を注入し、分離膜間の間隙にポッティング材を均等に浸透させながら、ポッティング材を間隙全体に行き渡らせる。
【0038】
ポッティング材が硬化した後、分離膜束3が固着したモジュールケース5から溝部形成治具14を取り外す。締付部材15を取り外すと連結状態が解除され、筒体を成していた溝部形成治具14は半割り可能となり、図10に示すように、分割して取り外すことができる。この溝部形成治具14を取り外した後の、分離膜束3とポッティング部6との基端部には、溝部形成治具14の差込部14aによって形成された溝部7が現われる。この工程において、ポッティングカップ10も取り外す。
【0039】
次いで、硬化したポッティング材から成るポッティング部6,6の端部を夫々切断して、分離膜束3の両端を開口させる。前述してきた工程を経ることで、両端ポッティングを施した分離膜モジュール1が完成する。本形態では、ポッティングに際し、遠心成形法を採用して説明したが、静置成形法などを採用することもできる。
【0040】
次に、第3の形態について説明する。なお、本形態では、ポッティング前までの工程は、前述した第1(第2)の形態と同様であり、その説明を省略する。従って、本形態における製造方法で用いる分離膜2、モジュールケース5、溝部形成治具9(14)などは、前述した第1(第2)の形態と同じものを使用して説明する。ポッティングを行うに際し、本形態では静置成形法を採用しており、ポッティング材はポッティングカップ10内に収容された分離膜束3の端部又はその近傍に注入され、その自重により徐々に分離膜間の間隙に浸透させ、間隙全体に行き渡らせる。このとき、図7に示すように、充填したポッティング材に毛細管現象を生じさせ、個々の分離膜2の根元に形成したポッティング材の這い上がり部6aにより、分離膜2間に凹状の空隙部8が形成される。ここで、這い上がり部6aとは、所定の圧力下においてポッティング部の封止性を確保するのに必要なポッティング部の厚さ(高さ)に対し、更にポッティング材が分離膜2の外周に付着し、分離膜2間に空隙部8を形成する部位をいう。これにより、分離膜間には、溝部形成治具9(14)の差込部9aを用いることなく、凹状の空隙部8を形成することができ、治具9(14)の簡素化や省略はもとより、分離膜2の間隔を詰めてモジュールケース5に対する分離膜2の充填率を上げることができる。
【0041】
ポッティング材が硬化した後の工程は、前述した第1(第2)の形態と同様であるので、その説明を省略する。本形態における分離膜モジュールの製造方法は、片端ポッティング、両端ポッティングのどちらにも適用可能である。
【0042】
図12(a)は、溝部形成治具の他例を示した平面図であり、図12(b)は、図12(a)に示した治具の断面図である。同図に示す溝部形成治具16の内周には拘束リブ17が突設して形成されており、この拘束リブ17内に分離膜束3を挿通することで、分離膜2の広がりを抑制した状態でモジュールケース5内への収容が行え、ハンドリング良く規定位置に固定(設定)できる。図中18は、ポッティング材の吐出ノズルを固定するための保持部である。図中16aは、所定長さを有する差込部であり、図中16bは、フランジ部である。この溝部形成治具16を用いた場合には、図13に示すように、内側面5aに沿って溝部7が形成されると共に、分離膜束3の中央位置には平面視直線状の溝部7が形成される。とりわけ、角形状の分離膜モジュールにおいては、平面視対角線上、ポッティング幅が長く、ポッティング材の凝固収縮の影響を受け易いことから、このように、膜束3内方にも溝部7を設けることが望ましい。勿論、溝部形成治具の構造は、本例に示すものや、第1、第2の形態で用いたものに限定することはなく、所望の位置に溝部7を形成できる適宜の形状から成る治具を用いるとよい。
【0043】
また、溝部形成治具9(14,16)の差込部先端の形状を、前述の実施形態で用いた角状の他に、V字状、U字状、台形状に成形した溝部形成治具とすることで、図14乃至図16に示す夫々溝部7を形成することができる。例えば、図14に示す溝部形成治具9の場合には、硬化したポッティング材から引き抜く際に要する力は少なくてよく、図15、図16に示す溝部形成治具9の場合は、その治具9によって形成された溝部7の先端形状が、それぞれ曲面や多角面となって応力集中を防げることから、ポッティング部6に強度を持たせることができるなどの利点を得ることができる。
【実施例1】
【0044】
次に、本発明の分離膜モジュール(本発明1、2)と、比較例とした分離膜モジュール(比較例1、2)に水漏試験を行った。本試験結果とあわせて、その試験条件を以下に説明する。
供試品:
円筒状の硬質塩化ビニル製モジュールケース(内径51mm、外径60mm、長さ200mm)に、分離膜として、高透質性ウレタンチューブから成る膜束(膜束外径約40mm)を固定した。ポッティング材には、二液硬化型ウレタン樹脂を用いてポッティングを行った。なお、ポッティング厚は20mmとした。
1.本発明1(溝部形成品)
モジュールケース内方側のポッティング部表面に、溝部内径46mm、外径50mm、深さ10mmの環状溝部を形成した分離膜モジュール。
2.本発明2(這い上がり部形成品)
浸漬法によりポッティングを行い、毛細管現象を発生させてポッティング材による這い上がり部(這い上がり幅約5mm)を形成した分離膜モジュール。
3.比較例1
ポッティング材の凝固収縮に伴う反力を緩和させる手段を持たない分離膜モジュール。
4.比較例2(弾性体埋設品)
ポッティング部の外側面とモジュールケース内側面との間で、ポッティング部表面に露出しない部位に、シリコン製環状弾性体(内径46mm、外径51mm、高さ10mm)を埋設した分離膜モジュール。
【0045】
試験条件:
モジュールケース内に水道水を注入し、チューブ外周が接液する状態で7日間放置し、雰囲気温度60℃下で実施して、水漏れの有無を確認した。水漏れ有無の判定基準は、モジュールケース外方端部のポッティング部表面における水滴の有無により判定する。試験結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示す試験結果からも明らかなように、本発明の分離膜モジュール(本発明1、2)においては、水漏れを起こさないことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、高透湿性ウレタンチューブや、フッ素系イオン交換樹脂などの透湿性膜はもとより、RO膜(逆浸透膜)を含む中空糸膜など、あらゆる分離膜を採用することができ、また、これら分離膜から成る膜束の一端にて各分離膜を開口させた片端ポッティング型モジュール、膜束の両端にて各分離膜を開口させた両端ポッティング型モジュール、膜束をU字状に湾曲させ、且つ、各分離膜の両端を開口させた所謂ループ型モジュールなど、膜束の一端又は両端の固定部端面において、分離膜を開口させた各種型式のモジュールにおいても、同様に実施可能であり、加湿器をはじめ、水処理モジュール等、あらゆる分野に好適な分離膜モジュールとその製造方法として提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明における円筒状を呈した分離膜モジュールを示した断面図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】本発明における角形状を呈した分離膜モジュールを示した断面図である。
【図4】図3におけるB−B線断面図である。
【図5】(a)本発明における分離膜モジュールの他例を示した要部断面図であり、(b)C−C線断面図である。
【図6】(a)本発明における分離膜モジュールの更に他例を示した要部断面図であり、(b)D−D線断面図である。
【図7】本発明における分離膜モジュールの更に他例を示した要部拡大断面図である。
【図8】本発明における分離膜モジュールの製造方法を示した工程説明図である。
【図9】(a)本発明における分離膜モジュールの製造方法で用いる治具の平面図であり、(b)治具の断面図である。
【図10】本発明における分離膜モジュールの製造方法の他例を示した一部省略断面図である。
【図11】(a)本発明における分離膜モジュールの製造方法で用いる治具の平面図であり、(b)治具の断面図である。
【図12】(a)溝部形成治具の他例を示した平面図であり、(b)治具の断面図である。
【図13】最外膜の内方に溝部を形成した分離膜モジュールの断面概略図である。
【図14】溝部形状の他例を示した断面図である。
【図15】溝部形状の更に他例を示した断面図である。
【図16】溝部形状の更に他例を示した断面図である。
【図17】残留応力による作用説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 分離膜モジュール
2 分離膜(チューブ)
3 分離膜束
4,5 モジュールケース
6 ポッティング部
6a 開口端
6b 基端面
7 溝部
8 空隙部
9,14,16 溝部形成治具
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子工業、食品工業、飲料工業、医薬品工業、発酵工業、光学工業、医療、精密工業等において使用される種々の流体に対し逆浸透、限外濾過、精密濾過、気体分離等の様々な分離膜を用いた流体処理に好適であり、特に、室内等の空間に水分を供給する加湿器などにも適した分離膜モジュールとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、加湿器などで採用され始めたウレタン樹脂や、フッ素系イオン交換樹脂などの透湿材料は、水の透湿性が高いために、水膨潤による寸法変化が大きいという特徴を有している。一般に、このような材料から成る膜モジュールは、複数本のチューブ状、或は中空糸状の分離膜が収束した膜束をモジュールケース内に装填し、その端部にポッティング材を注入してこれを硬化させた後、このポッティング部の端部を分離膜と共に切断して、端部を開口することで製造される。この製造工程において、ポッティング材は個々の分離膜の間や、膜束とモジュールケースとの間に浸透し、硬化することで一体化している。
【0003】
図17に示すように、ポッティング材30は硬化の際に収縮を伴うが、膜束の内部では多くの膜31があることから、その硬化収縮の応力は分散されるものの、膜束の最外周に位置する膜31aがポッティングの中心部に向かって収縮する働きに対し、ポッティング材30はモジュールケース32に固定されているために収縮できず、この部位では応力が残留してしまう。その結果、上記透湿材料から成る分離膜モジュールを加湿器などに使用する場合、長時間に亘って水に浸漬すると、残留応力によって、ポッティング部とモジュールケースとの接合面に剥離が生じ、しかも、この近傍に位置する膜とポッティング材との接着力が膨潤による変形力に耐え切れず、剥離現象を起こしていた。そこで、この残留応力を抑制する技術として、以下のような技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
例えば、特開2000−229225号公報(特許文献1)記載の中空糸膜モジュールは、複数本の中空糸膜を収束した中空糸束が、その端部を開口した状態でポッティング材によりモジュールケースの内部に固定された中空糸膜モジュールで、中空糸束の表面の、ポッティング材により固定される部分の縁部を含む箇所に、弾性を有する応力緩和部材を設けたことを特徴としており、これにより、中空糸束の最外周に位置する中空糸膜に、ポッティング材の硬化収縮の応力が集中するのを防いで、リークの防止を図っている。
【0005】
また、特開平4−349923号公報(特許文献2)記載の中空糸膜モジュールは、固定用部材の開口端側の外壁より内側に、固定用部材の外径より小さい内径の環状の切欠き溝を有し、中空糸膜集束体が環状部材の内側面内において硬化部材で硬化された固定用部材の外側面と環状部材との間をシールするOリングを、前記切欠き溝内に充填したことを特徴としており、これにより、開口端周りのリークの防止を図っている。
【特許文献1】特開2000−229225号公報
【特許文献2】特開平4−349923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開2000−229225号公報(特許文献1)では、応力緩和部材がポッティング材に含まれるため、硬化収縮が終了し、樹脂が安定状態になった後は不要のものとなる。また、中空糸束の最外周に緩和部材を固定させるためには、特殊な技術が必要となり、工数が多くなると共にコスト高となってしまう。しかも、角形状を呈したモジュールケースには不適である。また、特開2000−229225号公報(特許文献1)、特開平4−349923号公報(特許文献2)では、固定用部材と中空糸膜集束体の外側面間の界面剥離によるリークを防止するに留まり、残留応力は十分に緩和されておらず、解決には至っていないのが実状である。
【0007】
本発明は、上記の課題点に鑑み、鋭意研究の結果開発に至ったものであり、その目的とするところは、ポッティング材の凝固収縮に伴う反力を確実に緩和させ、残留応力に起因する剥離現象の発生することのない優れた固着を実現し、長期に亘って、その機能を十分に発揮するようにした分離膜モジュールとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、1本或は複数本の分離膜から成る膜束の少なくとも一端部を、ポッティング部を介してモジュールケース内に固定した分離膜モジュールであって、前記ポッティング部の開口端とは反対側の前記膜束とのポッティング基端面に溝部を形成して、ポッティング時に生じるポッティング部の凝固収縮に伴う反力を緩和させるようにした分離膜モジュールである。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記溝部を、少なくとも、前記分離膜束の最外膜の近傍周囲とモジュールケースの内側面との間に形成した分離膜モジュールである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の分離膜モジュールにおいて、個々の分離膜の基端部にポッティング時に生じる這い上がり部により、分離膜間に溝部又は凹状の空隙部を形成した分離膜モジュールである。
【0011】
請求項4に係る発明は、1本或は複数本の分離膜から成る膜束を形成し、この分離膜束の少なくとも一端部を、開口した状態でポッティング材によりモジュールケース内に固定する分離膜モジュールの製造方法において、溝部形成治具を予め設置したモジュールケース内に、ポッティング材を充填して分離膜束を固定した後、前記溝部形成治具を取り外し、分離膜束とポッティング部との基端部にポッティング材の凝固収縮に伴う反力を緩和させる溝部を形成し、次いで、硬化したポッティング部の端部を切断して分離膜束を開口させる工程により製造する分離膜モジュールの製造方法である。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記ポッティング部は、ポッティング材を用いて遠心成形法又は静置成形法などの成形法により形成された分離膜モジュールの製造方法である。
【0013】
請求項6に係る発明は、前記ポッティング材に毛細管現象を生じさせ、個々の分離膜の根元に形成されたポッティング材の這い上がり部により、分離膜間に溝部又は凹状の空隙部を形成した分離膜モジュールの製造方法である。
【0014】
請求項7に係る発明は、前記溝部形成治具を、ポリアセタールなどの離型性に富む材料から成形した分離膜モジュールの製造方法である。
【0015】
請求項8に係る発明は、前記溝部形成治具は、複数個の部品から所定の形状を成すよう構成され、分割して取り付け・取り外しを行い得るようにした分離膜モジュールの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1又は2に係る発明によると、ポッティング時に生じるポッティング部の凝固収縮に伴う反力を確実に緩和させることが可能となり、従来より、残留応力の働きによって生じていたポッティング部とモジュールケースや膜との接合面の剥離現象を改善した、あらゆる分野に対応し得る分離膜モジュールとして提供することが可能になった。従って、分離膜とポッティング材との間に膨張率や収縮率などの性状の違いに影響されることなく、その優れた固着状態を長期に亘って維持できるので、例えば、透湿材料から成る分離膜モジュールとして、加湿器などに提供した場合であっても、前記問題を生じることはなく、加湿器として、その性能を十分に発揮させるという効果を奏する。
【0017】
請求項3に係る発明によると、個々の分離膜の基端部に這い上がり部を生じさせ、分離膜間に形成した溝部又は凹状の空隙部によって、ポッティング時に生じるポッティング部の凝固収縮に伴う反力を極めて効果的に緩和させることが可能となり、残留応力の働きによって生じていたポッティング部とモジュールケースや膜との接合面の剥離現象を改善した分離膜モジュールとして提供することができる。
【0018】
請求項4又は5に係る発明によると、ポッティング時に生じるポッティング材の凝固収縮に伴う反力を確実に緩和させることが可能となり、残留応力の働きによって生じていたポッティング部とモジュールケースや膜との接合面の剥離現象を改善した分離膜モジュールの製造方法を実現し、しかも、本発明の製造方法によれば、複雑な工程を経る必要はなく、作業性、経済性にも優れた分離膜モジュールの製造方法として提供することができる。
【0019】
請求項6に係る発明によると、個々の分離膜の基端部に這い上がり部を生じさせ、分離膜間に形成した溝部又は凹状の空隙部によって、ポッティング時に生じるポッティング部の凝固収縮に伴う反力を極めて効果的に緩和させることが可能となり、残留応力の働きによって生じていたポッティング部とモジュールケースや膜との接合面の剥離現象を改善した分離膜モジュールの製造方法として提供することができる。
【0020】
請求項7に係る発明によると、硬化したポッティング材から容易に治具を取り除くことができるので、作業性を向上させることは勿論、ポッティング部に形成した溝部を損傷させるおそれもないので、寸法精度を持たせた溝部を形成することが可能となる。
【0021】
請求項8に係る発明によると、両端ポッティングを行う場合であっても、複雑な工程を経る必要はなく、優れた作業性を確保すると共に、治具の取り付け・取り外しに際しても、分離膜モジュールを破損させることなく、安全にその製造を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明における分離膜モジュールとその製造方法について、好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明における円筒状を呈する分離膜モジュールを示した断面図であり、図2は、図1におけるA−A線断面図である。図3は、本発明における角形状を呈する分離膜モジュールを示した断面図であり、図4は、図3におけるB−B線断面図である。図中1は、分離膜モジュールであり、図中2は、チューブ状の分離膜であり、図中3は、この分離膜2を複数本収束して成る分離膜束である。本例ではチューブ状の分離膜2を採用して説明するが、中空糸状などの分離膜であってもよく、また、本例では分離膜2を複数本収束して成る膜束3に対し、分離膜2が1本から成るものでもよい。分離膜2の材質については、チューブ状(或は、中空糸状など)に成形が可能であれば制限はなく、例えば、ポリウレタン、シリコン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)などが挙げられ、適宜の材質から成るものを採用することができ、とりわけ、ウレタン樹脂やフッ素系イオン交換樹脂などの透湿材料等、水膨潤を生じ易い材料が挙げられる。分離膜束3は、チューブ状の分離膜2を直線状態に収束してこれを結束したものや、分離膜2の途中位置をU字状に折り返して結束したもの、或は分離膜2を中心から外方へ放射状に折り返し、断面噴水状のループを成すよう結束したものなど、実施に応じて任意に採用することができる。
【0023】
図中4,5は、両端を開口した筒状のモジュールケースであり、図1、図2に示す円筒状を呈したモジュールケース4では、その形状から強度が強いという利点がある反面、箱型機器に対するモジュールケースの集積度が低いのに対し、図3、図4に示す角形状を呈したモジュールケース5では、箱型機器に対するモジュールケースの集積度が高いという利点がある反面、強度が弱い。従って、その利用分野に応じて、図示する円筒状や角形状、その他形状から成るものなど、その特性を生かしたものを任意に選択するとよい。また、モジュールケース4,5の材質については、例えば、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ABS、塩化ビニルなど、利用分野の要求に合った材質を適宜採用することができる。なお、ポッティング材との接着性が低い場合には、プライマー処理を施して使用してもよい。
【0024】
本例では複数本の分離膜2を直線状態に結束して分離膜束3を形成しており、その端部にポリウレタンやエポキシ樹脂などのポッティング材を充填することで、モジュールケース4(5)の一端部に密封固着し、硬化したポッティング材から成るポッティング部6の端部を切断して開口させている。ポッティング材としては、十分な接着強度を有したものであればよく、例えば、ウレタン系、エポキシ系、不飽和ポリエステル系などが挙げられる。なお、本例では片端ポッティングを施した分離膜モジュール1について説明するが、両端ポッティングを施した分離膜モジュールにも適用可能であることは勿論である。
【0025】
図中7は、開口端6aとは反対側の分離膜束3とのポッティング基端面6bに形成された溝部であり、この溝部7は、ポッティング時に生じるポッティング材の凝固収縮に伴う反力を緩和させる機能を有している。この溝部7を分離膜束3の最外膜2aの近傍周囲とモジュールケース4(5)の内側面4a(5a)との間に形成することで、応力の残りやすい膜束最外周であっても、ポッティング材の凝固収縮に伴う反力は確実に分散・吸収される。従って、モジュールケース4(5)とポッティング部6との接合状態は強固に確保され、この接合部位にリークが発生することはない。しかも、溝部7の形成によって、この溝部近傍の分離膜2では、ポッティング材の凝固収縮による応力が低減されるので、分離膜2とポッティング部6との接合状態も強固に確保されることから、分離膜2は膨潤してもポッティング材から剥離せず、内側に座屈して潰れるなどの変形を起こすこともない。図2(図4)に示す分離膜モジュール1では、溝部7をモジュールケース4の内側面4a(5a)に隣接して、その全周に渡って形成されている。
【0026】
図5(a)は、本発明における分離膜モジュールの他例を示した要部断面図であり、図5(b)は、図5(a)におけるC−C線断面図である。同図に示すように、本例の溝部7は、分離膜束3の最外膜2aとモジュールケース4の内側面4aとの中間に位置し、内側面4aに沿って形成されている。この場合にも、図2(図4)に示す分離膜モジュール1と同様、応力の残りやすい膜束最外周であっても、ポッティング材の凝固収縮に伴う反力は確実に分散・吸収され、溝部近傍の分離膜2では、ポッティング部6との接合状態が強固に確保される。
【0027】
図6(a)は、本発明における分離膜モジュールの更に他例を示した要部断面図であり、図6(b)は、図6(a)におけるD−D線断面図である。ポッティング材により固形される部分の断面積が大きい場合、即ち、ポッティング部6の体積が大きい場合には、その収縮量も大きくなることから、同図に示すように、分離膜束3の最外膜2aとモジュールケース4の内側面4aとの間に溝部7を形成することに加え、更に、最外膜2aの内側にも複数個(本例では3つ)の溝部7を形成したものであり、これにより、分離膜束3とモジュールケース4との接合部位はもとより、最外膜2aの内方においても、ポッティング材の凝固収縮に伴う反力は効果的に分散・吸収され、溝部近傍の分離膜2では、膨潤することによる応力は低減される。また、溝部7は、平面視円形状や、円弧状、或は直線状などに形成することは勿論、これらを組み合わせるなど、あらゆる形態が可能であり、更には、個々の分離膜2の周縁部に形成してもよい。分離膜2の基端部6cは、接液部位としてポッティング材との剥離が生じ易い部位であることから、基端部6c近傍のポッティング基端面6bに溝部7を形成することは極めて有効である。
【0028】
本実施形態における溝部7は、後述する治具9での成形が可能であって、応力の伝達を阻止可能な幅であり、その深さについても、同様に後述する治具9での成形が可能であって、応力の伝達を阻止可能な深さに設定されており、例えば、本発明の分離膜モジュール1を加湿器に使用する場合では、加湿器用モジュールにおける静水圧に対するポッティング部の耐圧性確保の観点から、ポッティング厚の50%以下に設定するとよい。さらに、一例として、具体的に示すと、円筒状モジュールケース(モジュール長約200mm)の内側面と円柱状分離膜束の最外膜との間にのみ、環状の溝部を形成する場合において、ポッティング径φ50mm、ポッティング厚20mmの場合では、溝部の幅を2〜7.5mm、深さを5〜10mmとし、また、ポッティング径φ100mm、ポッティング厚20mmの場合では、溝部の幅を2〜15mm、深さを5〜10mm(但し、幅10mm以上の場合は、幅の50%以上で、且つ、10mm以下)として形成するなどである。
【0029】
図7は、本発明における分離膜モジュールの更に他例を示した要部拡大断面図であり、同図に示すように、分離膜モジュール1は、充填したポッティング材に毛細管現象を生じさせて、個々の分離膜2の根元に形成したポッティング材の這い上がり部6aによって、分離膜間に凹状の空隙部8を形成し、これによって、前述した溝部7による機能に加え、更に凝固収縮を小さくさせるという機能を得ている。
【0030】
次に、本発明における分離膜モジュールの製造方法について説明する。先ず、第1の形態について説明する。図8は、本発明における分離膜モジュールの製造方法を示した工程説明図である。また、図9(a)は、本発明における分離膜モジュールの製造方法で用いる治具の平面図であり、図9(b)は、図9(a)に示した治具の断面図である。なお、製造方法では、角形状を呈する分離膜モジュールを例に挙げて説明するが、円筒状を呈する分離膜モジュールにおいても適用可能であることは勿論である。図中9は、分離膜束3とポッティング部6との基端部に溝部7を形成するための治具(以下、溝部形成治具という)であり、所定長さを有する筒状の差込部9aとフランジ部9bとから構成され、その材質はシリコン、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂など、離型性に富む材料から成形されている。なお、本形態で示す溝部形成治具9は一体環状に形成されていることから、特に、片端ポッティングとして好適な治具である。図中10は、ポッティング材を注入し、収容した分離膜束3とモジュールケース5とを固定するためのポッティングカップである。
【0031】
溝部形成治具9をモジュールケース5に挿着すると、フランジ部9bがモジュールケース5の端面に係止され、差込部9aがモジュールケース5内の所定位置に配置される。このとき、差込部9aの先端がモジュールケース5の他方端面に到達しないよう、差込部9aは予め設定された所定長さを有している。このモジュールケース5と溝部形成治具9を配置したポッティングカップ10内に、チューブ状の分離膜2を直線状態に結束して成る膜束3の端部を所定位置に位置保持する。本例では分離膜2を複数本収束して成る膜束2に対し、分離膜2が1本から成るものでもよく、また、本形態に示す他、分離膜2の途中位置をU字状に折り返して結束したもの、或は分離膜2を中心から外方へ放射状に折り返し、断面噴水状のループを成すよう結束したものなど、実施に応じて任意である。
【0032】
次いで、図8(b)に示すように、遠心ポッティング装置11を用いて、ポッティングカップ10内にポッティング材を注入する。本形態においては、遠心成形法を採用しており、ポッティングカップ10が設置されたテーブル12を、装置11を半径として高速回転させることで、遠心力によって分離膜束3の端部又はその近傍にポッティング材を注入し、分離膜間の間隙にポッティング材を均等に浸透させながら、ポッティング材を間隙全体に行き渡らせる。図中13は、ポッティング材の吐出ノズルである。
【0033】
ポッティング材が硬化した後、図8(c)に示すように、分離膜束3が固着したモジュールケース5から溝部形成治具9を取り外す。前記したように、溝部形成治具9の材質はシリコン、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂など、離型性に富む材料から成形されているので、硬化したポッティング材から容易に引き抜くことができる。この溝部形成治具9を取り外した後の、分離膜束3とポッティング部6との基端部には、溝部形成治具9の差込部9aによって形成された溝部7が現われる。この工程において、ポッティングカップ10も取り外す。
【0034】
次いで、図8(d)に示すように、硬化したポッティング材から成るポッティング部6の端部を切断して、分離膜束3を開口させる。切断装置としては、ウォータージェットカッターや、レーザーカッターなど、適宜の装置を使用する。切断する位置は、分離膜束3に接着して残る部分がモジュールケース5の一部を成す底板部(又は、天板部)として十分な強度を有するだけの厚みを有し、且つ、切断により更新された分離膜束3の端部が切断面に開口していることなどを考慮して決定するとよい。前述してきた工程を経ることで、片端ポッティングを施した分離膜モジュール1が完成する。本形態では、ポッティングに際し、遠心成形法を採用して説明したが、静置成形法などを採用することもできる。
【0035】
次に、第2の形態について説明する。図10は、本発明における分離膜モジュールの製造方法の他例を示した一部省略断面図である。また、図11(a)は、本発明における分離膜モジュールの製造方法で用いる治具の平面図であり、図11(b)は、図11(a)に示した治具の断面図である。なお、前述した第1の形態と同一部材には同一符号を付し、その説明を省略する。図中14は、分離膜束3とポッティング部6との基端部に溝部7を形成するための治具であり、所定長さを有する筒状の差込部14aとフランジ部14bから構成され、その途中位置が半割りできるよう、ボルトなどの締付部材15で連結された構造を有している。その材質は、第1の形態で示した溝部形成治具9と同様、シリコン、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂など、離型性に富む材料から成形されている。なお、本形態で示す溝部形成治具14は、特に両端ポッティングとして好適な治具である。
【0036】
第1の形態と同様、溝部形成治具14をモジュールケース5に挿着すると、フランジ部14bがモジュールケース5の端面に係止され、差込部14aがモジュールケース5内の所定位置に配置される。このとき、差込部14aの先端がモジュールケース5の他方端面に到達しないよう、差込部14aは予め設定された所定長さを有している。本形態では両端ポッティングを行っているので、2つのモジュールケース5,5と、2つの溝部形成治具14,14を夫々用意し、このモジュールケース5と溝部形成治具14を配置した夫々ポッティングカップ10,10内に、分離膜束3の夫々端部を所定位置に位置保持する。本例では分離膜2を複数本収束して成る膜束3に対し、分離膜2が1本から成るものでもよく、実施に応じて任意である。
【0037】
次いで、ポッティングカップ10内にポッティング材を注入する。前述した第1の実施形態と同様、遠心成形法を採用しており、ポッティングカップ10が設置されたテーブル12を高速回転させることで、遠心力によって分離膜束3の端部又はその近傍にポッティング材を注入し、分離膜間の間隙にポッティング材を均等に浸透させながら、ポッティング材を間隙全体に行き渡らせる。
【0038】
ポッティング材が硬化した後、分離膜束3が固着したモジュールケース5から溝部形成治具14を取り外す。締付部材15を取り外すと連結状態が解除され、筒体を成していた溝部形成治具14は半割り可能となり、図10に示すように、分割して取り外すことができる。この溝部形成治具14を取り外した後の、分離膜束3とポッティング部6との基端部には、溝部形成治具14の差込部14aによって形成された溝部7が現われる。この工程において、ポッティングカップ10も取り外す。
【0039】
次いで、硬化したポッティング材から成るポッティング部6,6の端部を夫々切断して、分離膜束3の両端を開口させる。前述してきた工程を経ることで、両端ポッティングを施した分離膜モジュール1が完成する。本形態では、ポッティングに際し、遠心成形法を採用して説明したが、静置成形法などを採用することもできる。
【0040】
次に、第3の形態について説明する。なお、本形態では、ポッティング前までの工程は、前述した第1(第2)の形態と同様であり、その説明を省略する。従って、本形態における製造方法で用いる分離膜2、モジュールケース5、溝部形成治具9(14)などは、前述した第1(第2)の形態と同じものを使用して説明する。ポッティングを行うに際し、本形態では静置成形法を採用しており、ポッティング材はポッティングカップ10内に収容された分離膜束3の端部又はその近傍に注入され、その自重により徐々に分離膜間の間隙に浸透させ、間隙全体に行き渡らせる。このとき、図7に示すように、充填したポッティング材に毛細管現象を生じさせ、個々の分離膜2の根元に形成したポッティング材の這い上がり部6aにより、分離膜2間に凹状の空隙部8が形成される。ここで、這い上がり部6aとは、所定の圧力下においてポッティング部の封止性を確保するのに必要なポッティング部の厚さ(高さ)に対し、更にポッティング材が分離膜2の外周に付着し、分離膜2間に空隙部8を形成する部位をいう。これにより、分離膜間には、溝部形成治具9(14)の差込部9aを用いることなく、凹状の空隙部8を形成することができ、治具9(14)の簡素化や省略はもとより、分離膜2の間隔を詰めてモジュールケース5に対する分離膜2の充填率を上げることができる。
【0041】
ポッティング材が硬化した後の工程は、前述した第1(第2)の形態と同様であるので、その説明を省略する。本形態における分離膜モジュールの製造方法は、片端ポッティング、両端ポッティングのどちらにも適用可能である。
【0042】
図12(a)は、溝部形成治具の他例を示した平面図であり、図12(b)は、図12(a)に示した治具の断面図である。同図に示す溝部形成治具16の内周には拘束リブ17が突設して形成されており、この拘束リブ17内に分離膜束3を挿通することで、分離膜2の広がりを抑制した状態でモジュールケース5内への収容が行え、ハンドリング良く規定位置に固定(設定)できる。図中18は、ポッティング材の吐出ノズルを固定するための保持部である。図中16aは、所定長さを有する差込部であり、図中16bは、フランジ部である。この溝部形成治具16を用いた場合には、図13に示すように、内側面5aに沿って溝部7が形成されると共に、分離膜束3の中央位置には平面視直線状の溝部7が形成される。とりわけ、角形状の分離膜モジュールにおいては、平面視対角線上、ポッティング幅が長く、ポッティング材の凝固収縮の影響を受け易いことから、このように、膜束3内方にも溝部7を設けることが望ましい。勿論、溝部形成治具の構造は、本例に示すものや、第1、第2の形態で用いたものに限定することはなく、所望の位置に溝部7を形成できる適宜の形状から成る治具を用いるとよい。
【0043】
また、溝部形成治具9(14,16)の差込部先端の形状を、前述の実施形態で用いた角状の他に、V字状、U字状、台形状に成形した溝部形成治具とすることで、図14乃至図16に示す夫々溝部7を形成することができる。例えば、図14に示す溝部形成治具9の場合には、硬化したポッティング材から引き抜く際に要する力は少なくてよく、図15、図16に示す溝部形成治具9の場合は、その治具9によって形成された溝部7の先端形状が、それぞれ曲面や多角面となって応力集中を防げることから、ポッティング部6に強度を持たせることができるなどの利点を得ることができる。
【実施例1】
【0044】
次に、本発明の分離膜モジュール(本発明1、2)と、比較例とした分離膜モジュール(比較例1、2)に水漏試験を行った。本試験結果とあわせて、その試験条件を以下に説明する。
供試品:
円筒状の硬質塩化ビニル製モジュールケース(内径51mm、外径60mm、長さ200mm)に、分離膜として、高透質性ウレタンチューブから成る膜束(膜束外径約40mm)を固定した。ポッティング材には、二液硬化型ウレタン樹脂を用いてポッティングを行った。なお、ポッティング厚は20mmとした。
1.本発明1(溝部形成品)
モジュールケース内方側のポッティング部表面に、溝部内径46mm、外径50mm、深さ10mmの環状溝部を形成した分離膜モジュール。
2.本発明2(這い上がり部形成品)
浸漬法によりポッティングを行い、毛細管現象を発生させてポッティング材による這い上がり部(這い上がり幅約5mm)を形成した分離膜モジュール。
3.比較例1
ポッティング材の凝固収縮に伴う反力を緩和させる手段を持たない分離膜モジュール。
4.比較例2(弾性体埋設品)
ポッティング部の外側面とモジュールケース内側面との間で、ポッティング部表面に露出しない部位に、シリコン製環状弾性体(内径46mm、外径51mm、高さ10mm)を埋設した分離膜モジュール。
【0045】
試験条件:
モジュールケース内に水道水を注入し、チューブ外周が接液する状態で7日間放置し、雰囲気温度60℃下で実施して、水漏れの有無を確認した。水漏れ有無の判定基準は、モジュールケース外方端部のポッティング部表面における水滴の有無により判定する。試験結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示す試験結果からも明らかなように、本発明の分離膜モジュール(本発明1、2)においては、水漏れを起こさないことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、高透湿性ウレタンチューブや、フッ素系イオン交換樹脂などの透湿性膜はもとより、RO膜(逆浸透膜)を含む中空糸膜など、あらゆる分離膜を採用することができ、また、これら分離膜から成る膜束の一端にて各分離膜を開口させた片端ポッティング型モジュール、膜束の両端にて各分離膜を開口させた両端ポッティング型モジュール、膜束をU字状に湾曲させ、且つ、各分離膜の両端を開口させた所謂ループ型モジュールなど、膜束の一端又は両端の固定部端面において、分離膜を開口させた各種型式のモジュールにおいても、同様に実施可能であり、加湿器をはじめ、水処理モジュール等、あらゆる分野に好適な分離膜モジュールとその製造方法として提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明における円筒状を呈した分離膜モジュールを示した断面図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】本発明における角形状を呈した分離膜モジュールを示した断面図である。
【図4】図3におけるB−B線断面図である。
【図5】(a)本発明における分離膜モジュールの他例を示した要部断面図であり、(b)C−C線断面図である。
【図6】(a)本発明における分離膜モジュールの更に他例を示した要部断面図であり、(b)D−D線断面図である。
【図7】本発明における分離膜モジュールの更に他例を示した要部拡大断面図である。
【図8】本発明における分離膜モジュールの製造方法を示した工程説明図である。
【図9】(a)本発明における分離膜モジュールの製造方法で用いる治具の平面図であり、(b)治具の断面図である。
【図10】本発明における分離膜モジュールの製造方法の他例を示した一部省略断面図である。
【図11】(a)本発明における分離膜モジュールの製造方法で用いる治具の平面図であり、(b)治具の断面図である。
【図12】(a)溝部形成治具の他例を示した平面図であり、(b)治具の断面図である。
【図13】最外膜の内方に溝部を形成した分離膜モジュールの断面概略図である。
【図14】溝部形状の他例を示した断面図である。
【図15】溝部形状の更に他例を示した断面図である。
【図16】溝部形状の更に他例を示した断面図である。
【図17】残留応力による作用説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 分離膜モジュール
2 分離膜(チューブ)
3 分離膜束
4,5 モジュールケース
6 ポッティング部
6a 開口端
6b 基端面
7 溝部
8 空隙部
9,14,16 溝部形成治具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本或は複数本の分離膜から成る膜束の少なくとも一端部を、ポッティング部を介してモジュールケース内に固定した分離膜モジュールであって、前記ポッティング部の開口端とは反対側の前記膜束とのポッティング基端面に溝部を形成して、ポッティング時に生じるポッティング部の凝固収縮に伴う反力を緩和させるようにしたことを特徴とする分離膜モジュール。
【請求項2】
前記溝部を、少なくとも、前記分離膜束の最外膜の近傍周囲とモジュールケースの内側面との間に形成した請求項1に記載の分離膜モジュール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分離膜モジュールにおいて、個々の分離膜の基端部にポッティング時に生じる這い上がり部により、分離膜間に溝部又は凹状の空隙部を形成した分離膜モジュール。
【請求項4】
1本或は複数本の分離膜から成る膜束を形成し、この分離膜束の少なくとも一端部を、開口した状態でポッティング材によりモジュールケース内に固定する分離膜モジュールの製造方法において、溝部形成治具を予め設置したモジュールケース内に、ポッティング材を充填して分離膜束を固定した後、前記溝部形成治具を取り外し、分離膜束とポッティング部との基端部にポッティング材の凝固収縮に伴う反力を緩和させる溝部を形成し、次いで、硬化したポッティング部の端部を切断して分離膜束を開口させる工程により製造することを特徴とする分離膜モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記ポッティング部は、ポッティング材を用いて遠心成形法又は静置成形法などの成形法により形成された請求項4に記載の分離膜モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記ポッティング材に毛細管現象を生じさせ、個々の分離膜の根元に形成されたポッティング材の這い上がり部により、分離膜間に溝部又は凹状の空隙部を形成した請求項4又は5に記載の分離膜モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記溝部形成治具を、ポリアセタールなどの離型性に富む材料から成形した請求項4乃至6の何れか1項に記載の分離膜モジュールの製造方法。
【請求項8】
前記溝部形成治具は、複数個の部品から所定の形状を成すよう構成され、分割して取り付け・取り外しを行い得るようにした請求項4乃至7の何れか1項に記載の分離膜モジュールの製造方法。
【請求項1】
1本或は複数本の分離膜から成る膜束の少なくとも一端部を、ポッティング部を介してモジュールケース内に固定した分離膜モジュールであって、前記ポッティング部の開口端とは反対側の前記膜束とのポッティング基端面に溝部を形成して、ポッティング時に生じるポッティング部の凝固収縮に伴う反力を緩和させるようにしたことを特徴とする分離膜モジュール。
【請求項2】
前記溝部を、少なくとも、前記分離膜束の最外膜の近傍周囲とモジュールケースの内側面との間に形成した請求項1に記載の分離膜モジュール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分離膜モジュールにおいて、個々の分離膜の基端部にポッティング時に生じる這い上がり部により、分離膜間に溝部又は凹状の空隙部を形成した分離膜モジュール。
【請求項4】
1本或は複数本の分離膜から成る膜束を形成し、この分離膜束の少なくとも一端部を、開口した状態でポッティング材によりモジュールケース内に固定する分離膜モジュールの製造方法において、溝部形成治具を予め設置したモジュールケース内に、ポッティング材を充填して分離膜束を固定した後、前記溝部形成治具を取り外し、分離膜束とポッティング部との基端部にポッティング材の凝固収縮に伴う反力を緩和させる溝部を形成し、次いで、硬化したポッティング部の端部を切断して分離膜束を開口させる工程により製造することを特徴とする分離膜モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記ポッティング部は、ポッティング材を用いて遠心成形法又は静置成形法などの成形法により形成された請求項4に記載の分離膜モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記ポッティング材に毛細管現象を生じさせ、個々の分離膜の根元に形成されたポッティング材の這い上がり部により、分離膜間に溝部又は凹状の空隙部を形成した請求項4又は5に記載の分離膜モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記溝部形成治具を、ポリアセタールなどの離型性に富む材料から成形した請求項4乃至6の何れか1項に記載の分離膜モジュールの製造方法。
【請求項8】
前記溝部形成治具は、複数個の部品から所定の形状を成すよう構成され、分割して取り付け・取り外しを行い得るようにした請求項4乃至7の何れか1項に記載の分離膜モジュールの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−51455(P2006−51455A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235472(P2004−235472)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(390002381)株式会社キッツ (223)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(390002381)株式会社キッツ (223)
【Fターム(参考)】
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