説明

分離膜用保存液

【課題】 膜に長期間安定した保湿性を付与することができ、かつ泡立ちの少ない分離膜用保存液を提供すること。
【解決手段】 HLBが8〜15の非イオン界面活性剤とグリセリンとを含有する水溶液からなる、分離膜用保存液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜用保存液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水処理用途の膜素材として、耐熱性、耐薬品性等に優れたポリフッ化ビニリデン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン等の疎水性ポリマーが多く使用されている。中でもフッ化ビニリデン系の樹脂は、耐候性、機械的強度等に優れているため膜素材として好ましい。しかしその反面、膜が疎水性であることから、使用前には親水化処理を行う必要がある。このような疎水性多孔膜を親水化する方法は、これまでにいくつか提案されており、例えば、グリセリン(特許文献1)や、界面活性剤(特許文献2)で処理する方法などが知られている。
【特許文献1】特開2002−95939号公報
【特許文献2】特開昭63−277251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、グリセリンで処理する方法(特許文献1)では、グリセリンが親水性であるのに対し、膜素材がフッ化ビニリデンのように強い疎水性ポリマーであると、界面での濡れ性が小さいため、グリセリンを膜に均一に付着させるのが困難である。また保管環境によっては、グリセリンが空気中の水分を吸収し、膜から流れてしまうこともあるため、長期間に渡り安定した透水性能を保持するのは難しい。
【0004】
また、界面活性剤で処理する方法(特許文献2)では、膜の親水化は可能であるが、その反面、保存液が大変泡立ちやすいため作業性が悪いなどの問題点がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、膜に長期間安定した保湿性を付与することができ、かつ泡立ちの少ない分離膜用保存液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、グリセリン・界面活性剤・水の混合溶液を分離膜保存液に用いることで、処理時の泡立ちが抑制でき、かつ非常に優れた透水保持性を付与することが可能であることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[3]を提供するものである。
【0008】
[1]HLBが8〜15の非イオン界面活性剤とグリセリンとを含有する水溶液からなる、分離膜用保存液。
[2]上記分離膜は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる分離膜である、[1]記載の分離膜用保存液。
[3]上記分離膜は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に対するSiO2の量(質量比)が10〜10000ppmである、SiO添加ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる分離膜である、[1]記載の分離膜用保存液。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分離膜保存液は、分離膜モジュールの透水性能を劣化させること無く、長期間保管することが可能である。すなわち、本発明の分離膜保存液は、保湿性に優れ、膜表面が長期間空気に曝露されても透水性能を保持できる。界面活性剤をグリセリンと併用することで、界面活性剤使用量を最小限に抑えることができ、更に保存液の泡立ちが小さくできるため作業性も良くなる。また、防菌・防黴効果を有し、長期間の保存性に優れている。加えて、この保存液を膜分離活性汚泥法用途のモジュールに使用することで、含有される界面活性剤が、活性汚泥のエサとなり、原水の供給量を抑えることができる。
ものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の保存液は、HLBが8〜15の非イオン界面活性剤とグリセリンとを含有する水溶液(以下「保存液」と呼ぶ場合がある。)からなるものであり、分離膜用に用いられるものである。
【0012】
ここで分離膜とは、精密濾過や限外濾過等の分離プロセスに用いられる膜を意味し、多孔質膜であることが好ましい。また、分離膜の形状は特に限定されない。分離膜の形状としては、例えば平膜、中空糸膜などが挙げられる。
【0013】
分離膜の素材としては、耐熱性、耐薬品性等に優れた疎水性の樹脂が好ましく、例えば、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。この中でも、優れた機械的強度、耐候性を持つフッ化ビニリデン系樹脂が特に好ましい。フッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体、フッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体あるいはこれらの混合物を用いることができる。
【0014】
分離膜は、SiO(特には、二酸化ケイ素粒子)を含有していることが好ましい。SiOの膜への担持方法は、原料中に混合し、製膜後アルカリ液等で抽出しても良いし、あるいは、SiOをアルカリ水溶液に溶解させた後膜を浸漬させても良い。SiOの含量は、分離膜の素材として、フッ化ビニリデンの単独重合体(PVDF)、フッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体あるいはこれらの混合物のようなフッ化ビニリデン系樹脂を用いた場合に、フッ化ビニリデン系樹脂の重量に対して10〜10000ppm、好ましくは100〜1000ppmがよい。膜中のSiOの含量の測定方法は、膜を3cm×3cmの正方形の中に隙間なく並べ、上から15tの荷重でプレスして平らにし、その上からX線照射により測定することができる。SiOを含有することで、膜の親水性が高くなるため、保存液中のグリセリンや界面活性剤が少量でも、高い効果を得ることができる。
【0015】
分離膜は、アルカリ水溶液を接触させる処理(アルカリ処理)を施したものであることが好適である。アルカリ処理は、例えば、30℃以上、分離膜を構成する樹脂の融点以下で、80重量%以下の濃度のアルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等)に、分離膜を浸漬し、数秒〜数十時間保持することにより実施可能である。その他、例えば、特公昭62−17614号公報記載の方法が採用可能である。このアルカリ処理を施すことによって、膜表面が親水化されるため、保存液中のグリセリンや界面活性剤が少量でも、高い効果を得ることができる。
【0016】
本発明の保存液が含有する非イオン界面活性剤は、HLB(親水性疎水性バランス)が8〜15の範囲にあるものであればよく、非イオン界面活性剤の化学構造には制限がない。ここで、非イオン界面活性剤のHLBは、グリフィン法で算出されるものであり、以下の式で表される。
非イオン界面活性剤のHLB=(親水基部分の分子量/界面活性剤の分子量)×100/5
【0017】
非イオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは単独で使用しても、2種類以上混合してもよいが、単独で用いた方が濃度管理が容易である。疎水性多孔質膜との馴染み易さ等の点から、界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル系界面活性剤が特に好ましい。
【0018】
なお、界面活性剤のHLBが8を下回ると、親水性が弱くなるためグリセリン水溶液との親和性が悪くなり、保存液が均一に混合されない。一方、HLBが15を超えると、疎水性の分離膜に界面活性剤がうまく吸着しなくなり、充分保湿効果が得られなくなる。
【0019】
界面活性剤の濃度は、保存液の全重量を基準として、0.3〜5.0重量%、好ましくは0.5〜3.0重量%がよい。保存液中の界面活性剤の量が少なすぎると、充分に親水化効果を発現できない場合があり、一方多すぎると、分離膜に過剰に付着して微小孔を塞いだり、またグリセリン水溶液との親和性が悪化し、保存液が白濁したりする場合がある。
【0020】
グリセリンの濃度は、保存液の全重量を基準として、30〜80重量%が好ましく、更に好ましくは、50〜70重量%である。保存液中のグリセリン濃度が低すぎると、保存液の粘度が下がるため泡立ちが大きくなる傾向がある。更にグリセリンの特長である、防菌・防黴や、氷点下での凍結防止の効果が充分に得られなくなる場合がある。一方グリセリン濃度が高すぎると、界面活性剤との相溶性が悪くなり、保存液の白濁や分離を生じる場合がある。
【0021】
本発明の分離膜用保存液は、必須成分である、上記非イオン界面活性剤(HLBが8〜15)及びグリセリンの他に、本発明の効果を阻害しない範囲において、無機塩、アルコール等の低分子化合物、ポリエチレングリコール等の高分子有機物のような添加成分を含有していてもよい。
【0022】
本発明の分離膜用保存液は、HLBが8〜15の非イオン界面活性剤、グリセリン及び任意に添加される上記添加成分を、水(例えば、蒸留水、イオン交換水)中に投入して混合することで製造することができる。投入順序は特に限定されず、グリセリン、水、非イオン界面活性剤、その他の添加成分を任意の順序で投入してよい。HLBが8〜15の界面活性剤、グリセリン及び添加成分は、それ自体水分を含有していてもよい。また、混合に当たり加温や加圧を行ってもよい。
【0023】
本発明の分離膜用保存液は、分離膜(分離膜モジュールであってもよい)の処理に用いることができるが、分離膜用保存液を用いた分離膜の処理方法は特に限定されない。例としては、分離膜を分離膜用保存液に浸漬させる方法や、保存液を分離膜用分離膜で濾過する方法等が挙げられる。
【0024】
本発明の分離膜用保存液は、例えば、分離膜(分離膜モジュールであってもよい)を浸漬させることにより、分離膜の保管用に用いることができる。これにより、透水性能を劣化させること無く、分離膜を長期間保管することが可能である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0026】
なお、実施例及び比較例における透水量は以下の方法により測定した。
【0027】
(透水保持率の測定方法)
約10cm長の湿潤中空糸膜の一端を封止し、他端の中空部内へ注射針を入れ、25℃の環境下にて注射針から100kPaの圧力にて25℃の純水を中空部内へ注入し、外面から透過してくる純水の透水量を測定した。この膜の透水量の測定は、それぞれの条件ごとに4本ずつ行い、平均値をその条件下の透水量とした。なお、透水保持性能(透水保持率)は、膜を保存液で処理後に乾燥させた際の透水量Fと、その膜をエタノール水溶液で親水化した際の透水量Fの比、F/Fの値で評価した。この場合において、測定誤差等を含めて、0.95≦F/F≦1.05の時、透水量が保持できているとみなす。
【0028】
(泡高さの測定方法)
保存液50mlを、100mlサイズのスクリュー管(内径38mm、全長120mm)に入れ、20cmの振り幅で10回上下に振り、直後の泡の高さを測定した。
【0029】
(実施例1)
内径0.67mm、膜厚0.30mmのポリフッ化ビニリデン製中空糸膜を、HLB=14.5であるポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(花王エマルゲンA90)1重量%、グリセリン65重量%を含有する水溶液中に、常温で約30分間浸漬させた後取り出し、50℃の乾燥機内で72時間乾燥させた。この中空糸の100kPa、25℃における透水量をFとし、その後この糸をエタノール40%水溶液に30分間浸漬させて親水化した後、再測定して得られた透水量をFとすると、透水保持率F/F=0.97であった。また、泡高さの値は12mmであった。
【0030】
(実施例2)
実施例1と同じ中空糸を用い、HLB=13.3であるポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王エマルゲン709)1重量%、グリセリン65重量%を含有する水溶液で、実施例1と同様の方法で処理した後、透水測定を行なったところ、透水保持率F/F=1.03であった。また、泡高さの値は8mmであった。
【0031】
(実施例3)
実施例1と同じ中空糸を用い、HLB=9.6であるポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王エマルゲン104P)1重量%、グリセリン65重量%を含有する水溶液で、浸漬時間を1時間に変えた以外は実施例1と同様の方法で処理した後、透水測定を行なったところ、透水保持率F/F=0.99であった。また、泡高さの値は3mmであった。
【0032】
(実施例4)
膜中にSiOを500ppm含有していること以外は、実施例1と同じ中空糸を用い、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル0.5重量%、グリセリン65重量%を含有する水溶液で、実施例1と同様の方法で処理した後、透水測定を行なったところ、透水保持率F/F=1.00であった。また、泡高さの値は8mmであった。この結果、膜にSiOが含有されていると界面活性剤濃度が低くても効果が得られることが判明した。
【0033】
(比較例1)
実施例1と同じ中空糸を用い、グリセリン65重量%水溶液で、実施例1と同様の方法で処理した後、透水測定を行なったところ、透水保持率F/F=0.11であった。また、泡高さの値は1mmであった。このように、界面活性剤を加えない系では、透水の保持率が低かった。
【0034】
(比較例2)
実施例1と同じ中空糸を用い、HLB=18.1であるポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王 エマルゲン130k)1重量%、グリセリン65重量%を含有する水溶液で、実施例1と同様の方法で処理した後、透水測定を行なったところ、透水保持率F/F=0.12であった。また、泡高さの値は23mmであった。このように、界面活性剤のHLBが高いと、透水の保持率が低かった。
【0035】
(比較例3)
実施例1と同じ中空糸を用い、ラウリル硫酸トリエタノールアミン(花王 エマールTD)1重量%水溶液中に、常温で1時間浸漬させた後取り出し、50℃の乾燥機内で2時間乾燥させた。この糸を、実施例1と同様の方法で透水を測定したところ、透水保持率F/F=0.51であった。また、泡高さの値は55mmであった。この結果、HLBが15超のアニオン界面活性剤では、透水を充分保持することが出来なかった。
【0036】
(比較例4)
実施例1と同じ中空糸を用い、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルの1重量%水溶液で、実施例1と同様の方法で処理し、透水測定を行なったところ、透水保持率F/F=0.85であった。また、泡高さの値は45mmであった。この結果と実施例1を比較して、グリセリンを加えることで、保存液の泡立ちを抑えられることが分かる。
【0037】
以上の結果をまとめて、以下の表1に示す。
【表1】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLBが8〜15の非イオン界面活性剤とグリセリンとを含有する水溶液からなる、分離膜用保存液。
【請求項2】
前記分離膜は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる分離膜である、請求項1記載の分離膜用保存液。
【請求項3】
前記分離膜は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に対するSiO2の量(質量比)が10〜10000ppmである、SiO添加ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる分離膜である、請求項1記載の分離膜用保存液。


【公開番号】特開2010−88996(P2010−88996A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260694(P2008−260694)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】