説明

分離膜複合体及びその製造方法

【課題】短時間で、孔を目詰まりさせている不溶物を除去してろ過効率をろ過開始時まで回復する逆洗が可能な分離膜複合体、及びこの分離膜複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】分離膜及びそれを支持する多孔質基材からなる分離膜複合体であって、前記分離膜が弾性体により形成されていることを特徴とする分離膜複合体、及び、有機マイクロバルーンを含有しかつ弾性を有する樹脂膜を、多孔質基材の一表面上に形成する製膜工程、及び前記樹脂膜中の、前記有機マイクロバルーンを破壊して前記樹脂膜中に孔を形成する貫通孔形成工程を有することを特徴とする分離膜複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の微細粒子のろ過等に用いられる樹脂性の分離膜複合体、及びこの分離膜複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な貫通孔を有する樹脂性の多孔質膜は、液体中の不純物粒子をろ過するための分離膜(フィルター)等として、医薬分野や、半導体製造や食品工業等様々な分野で用いられている(特許文献1)。このような多孔質膜としては、微細で均一な孔を有しかつ高い気孔率である薄膜が望まれる。
【0003】
分離膜としては、上記の要求特性の他にも、ろ過時の圧力損失が小さい(=ろ過効率が良い)こと、機械的強度が高いこと等が望まれる。ろ過時の圧力損失を小さくするためには分離膜は薄い方が好ましい。
【0004】
一方、分離膜が薄くなると機械的強度が低下する。そこで、微細で均一な孔からなりかつ薄い分離膜と、圧力損失を生じないような大きな径の孔を有しかつ機械的強度に優れた基材、との組合せからなる分離膜複合体が考えられている。
【0005】
この分離膜複合体によりろ過を行うと、分離膜複合体を構成する分離膜の孔は、被処理液中の濁質により目詰まりしろ過効率が経時的に低下する。そこで、所定時間毎に孔の目詰まりを解消させ、ろ過効率を回復するための操作が必要となる。
【0006】
ろ過効率を回復するための操作としては、ろ過時の流れ方向とは逆方向に(不溶物を含まない)液を流し、孔を目詰まりさせている不溶物を洗い出して除去し、目詰まりを解消させる方法、所謂逆洗が広く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平7−22683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この逆洗の工程中はろ過を停止する必要があるので、逆洗に要する時間は短い方が好ましい。しかし、従来の分離膜複合体では、短時間で孔を目詰まりさせている不溶物を全て除去する逆洗を行うことは困難であった。そこで、逆洗が容易であり、逆洗により短時間で孔を目詰まりさせている不溶物を除去できる分離膜複合体が望まれていた。
【0009】
本発明は、短時間で、孔を目詰まりさせている不溶物を除去し、ろ過効率をろ過開始時まで回復する逆洗が可能な分離膜複合体、及びこの分離膜複合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、分離膜及びそれを支持する多孔質の基材からなる分離膜複合体において、前記分離膜を弾性体により形成することにより、逆洗が容易な分離膜複合体が得られることを見出し、本発明を完成した。即ち、前記の課題は、以下に示す構成からなる発明により達成される。
【0011】
請求項1に記載の発明は、分離膜及びそれを支持する多孔質基材からなる分離膜複合体であって、前記分離膜が弾性体により形成されていることを特徴とする分離膜複合体である。
【0012】
この分離膜複合体は、それを構成する分離膜が弾性体により形成されていることを特徴とする。分離膜は、多数の微細な貫通孔を有する樹脂の薄膜であるが、この分離膜が弾性体により形成されていると、ろ過時に膜の孔内に目詰まりした不溶物(濁質)を逆洗により除去する際に、逆洗の圧力によって膜がたわむ(図4に模式的に示す)ことにより分離膜の孔が目開きする。それによって不溶物が除去され易くなるので、短時間で、孔を目詰まりさせている不溶物を十分に除去する逆洗が可能になる。
【0013】
逆洗が終了すれば、逆洗の圧力による膜のたわみが解消し、開いた孔が閉じる。そして、孔径はろ過時の大きさに戻るので、逆洗前と同様に微細粒子の除去が可能になる。又、不溶物が十分に除去されているので、ろ過流量(ろ過効率)は、ろ過開始時程度まで回復する。
【0014】
分離膜が弾性体により形成されているとは、逆洗の圧力によって膜がたわむ程度の弾性を有することを意味する。逆洗の圧力によって膜がたわむ限りは、弾性を付与する樹脂(弾性体材料)以外の樹脂がその構成材料に含まれていてもよい。なお、逆洗は、ろ過される液体と同じ液体を使用して行うことができるが、孔中の不溶物の除去を容易にする液体、例えば不溶物を溶解する液体を用いることも、膜の損傷等の問題が生じない限り可能である。
【0015】
請求項2に記載の発明は、前記分離膜が、フッ素樹脂エラストマー又は柔軟エポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の分離膜複合体である。
【0016】
分離膜を構成する弾性体材料としては、フッ素樹脂エラストマーや柔軟エポキシを挙げることができる。種々のろ過の中には、被処理液が腐食性を有する場合もあり、又高温環境下で使用される場合もあるので、分離膜には、耐薬品性、化学的安定性、耐熱性等が要求される場合も多い。そこで、分離膜を構成する材料としては、耐薬品性や耐熱性さらに機械的強度に優れたフッ素樹脂からなるものが好ましく、弾性体材料としても、フッ素樹脂エラストマーが好ましい。
【0017】
フッ素樹脂エラストマーは、フッ素ゴムに加硫剤、加硫助剤等の加硫用添加剤等を混合して調製した加硫用組成物を成形、加硫することで作製されるものである。柔軟エポキシ樹脂とは、柔軟性を有する硬化物が得られるエポキシ系樹脂の意味である。
【0018】
請求項3に記載の発明は、前記多孔質基材が、延伸フッ素樹脂多孔質体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の分離膜複合体である。
【0019】
本発明の分離膜複合体は、多孔質基材により補強されているので、機械的強度が優れ、分離膜モジュール等に加工する際のハンドリングも容易である。多孔質基材としては、機械的強度が優れるとともに前記分離膜のろ過効率や逆洗の容易さを阻害しないものが望まれる。そこで、多孔質基材としては、分離膜の孔より大きい孔を有するものが使用され、又、所望の機械的強度が得られる範囲で、気孔率が大きいことが、ろ過効率を阻害しないためには好ましい。さらに、所望の機械的強度が得られる厚さが望まれる。
【0020】
多孔質基材の材質としては、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂等を使用することができる。しかし、被処理液が腐食性を有する場合や高温環境下で使用される場合等では、分離膜や分離膜複合体には、耐薬品性、化学的安定性、耐熱性等が要求される。そこで、多孔質基材の材質としては耐薬品性、化学的安定性、耐熱性及び機械的強度に優れるフッ素樹脂が好ましい。
【0021】
フッ素樹脂からなる多孔質基材の製造方法としては、フッ素樹脂粉末の熱融着により得られたフッ素樹脂膜を延伸し、孔を形成して多孔質体とする方法を挙げることができる。この方法によれば、均一な孔を得やすく、又孔径の制御が容易である。即ち、多孔質基材としては、フッ素樹脂膜を延伸して製造された延伸フッ素樹脂多孔質体が好ましく使用される。延伸フッ素樹脂多孔質体としては、一軸延伸品、多軸延伸品のどちらを用いてもよい。
【0022】
本発明の分離膜複合体は、多孔質基材の表面に、前記分離膜を固定することにより製造することができる。固定する方法としては、接着剤や粘着剤を使用して接着する方法、加熱により融着する方法等を挙げることができる。優れた耐薬品性、化学的安定性、耐熱性を得るためには、接着剤や粘着剤としても、フッ素樹脂からなるものが好ましい。
【0023】
本発明の分離膜複合体は、分離膜モジュールを構成するフィルター等として好適に用いられる。
【0024】
請求項4に記載の発明は、有機マイクロバルーンを含有しかつ弾性を有する樹脂膜を、多孔質基材の一表面上に形成する製膜工程、及び前記樹脂膜中の、前記有機マイクロバルーンを破壊して前記樹脂膜中に孔を形成する貫通孔形成工程を有することを特徴とする分離膜複合体の製造方法である。
【0025】
本発明の分離膜複合体を構成する分離膜としては、例えば、フッ素樹脂粉末(フッ素樹脂エラストマーを含む)により形成された膜を焼結してフッ素樹脂の無孔質膜を形成し、この無孔質膜を延伸して多孔質化することにより得られたものを挙げることができる。
【0026】
しかし、逆洗は、分離膜複合体を構成する分離膜の孔がストレートな形状、即ち膜の一方の表面より他方の表面まで貫通している孔内の屈曲や凹凸等を小さい場合の方が容易になる。ストレートな形状の孔を有する分離膜は、例えば、有機マイクロバルーンを含有しかつ弾性を有する樹脂膜を、多孔質基材の一表面上に形成する製膜工程、及び前記樹脂膜中の、前記有機マイクロバルーンを破壊して前記樹脂膜中に孔を形成する貫通孔形成工程を有する方法により製造することができる。従って、この方法により製造された膜が好ましい。製膜工程の方法としては、弾性を付与する樹脂及び有機マイクロバルーンを含有する塗料を、多孔質基材の一表面上に塗布し乾燥して、有機マイクロバルーンを含有しかつ弾性を有する樹脂膜を形成する方法を例示することができる。
【0027】
有機マイクロバルーンは、有機物から形成された微細な球形の粒子であり、樹脂膜形成後に破壊ができるものである。樹脂膜形成後に破壊できるものであれば、有機マイクロバルーンを構成する有機物の種類は限定されない、又、樹脂膜形成後に破壊できる限りは、中空のバルーンだけではなく、中実の有機物粒子も用いることができる。
【0028】
ここで、破壊とは、加熱による有機マイクロバルーンの破裂、樹脂膜を溶解せず有機マイクロバルーンのみを溶解する溶剤による有機マイクロバルーンの溶出除去等、有機マイクロバルーンが存在した位置に貫通孔が形成される方法であれば特に限定されない。破壊後、有機マイクロバルーンの一部や破片等が、分離膜内に残存する場合であっても、孔の閉塞を生じない限り、本発明で言う破壊に該当する。
【0029】
この方法により形成された孔は、内部の屈曲や凹凸の少ないものとなる。その結果、この方法により製造された分離膜複合体は、逆洗がより容易になり、より短時間の逆洗でろ過効率を回復できるようなる。
【0030】
分離膜としては、その孔の径がより均一であることが望まれる。孔の径をより均一にするためには、径の分散度が小さい有機マイクロバルーンが好ましく用いられる。具体的には、有機マイクロバルーンの径の分散度は、±30%程度以下が好ましく、より好ましくは±10%以下である。
【0031】
又、分離膜の厚みは、前記有機マイクロバルーンの平均径より小さいことが好ましい。分離膜の厚みより前記有機マイクロバルーンの径が大きい場合は、それぞれの貫通孔が有機マイクロバルーンの一の粒子で形成されるので、内部の屈曲や凹凸のない貫通孔が容易に形成される。一方、分離膜の厚みより前記有機マイクロバルーンの径が小さい場合は、一の孔が複数の有機マイクロバルーン粒子で形成されるので、孔の形状が複雑になり、本願発明の効果が得られにくくなる場合もある。なお、有機マイクロバルーンの大きさに分散がある場合は、有機マイクロバルーンの径とはその平均径を意味する。
【0032】
請求項5に記載の発明は、前記製膜工程が、水系分散媒中にフッ素樹脂エラストマー粉末及び有機マイクロバルーンを分散させたフッ素樹脂ディスパージョンを多孔質基材上に塗布してフッ素樹脂ディスパージョンの膜を形成し、その膜の乾燥及びフッ素樹脂粉末の焼結により行われ、前記有機マイクロバルーンが、前記焼結により破壊されることを特徴とする請求項4に記載の分離膜複合体の製造方法である。
【0033】
有機マイクロバルーンを含有しかつ弾性を有する樹脂膜を、多孔質基材の一表面上に形成する製膜工程は、有機マイクロバルーン及び弾性を付与する樹脂を含有する塗料を、多孔質基材上に塗布して製膜する方法により行うことができる。前記塗料としては、製膜性を有する樹脂溶液又は製膜性を有する樹脂の分散液であって、有機マイクロバルーンを含有するものを挙げることができる。
【0034】
製膜性を有するとは、薄い膜状にすることができることを意味する。製膜性を有する樹脂溶液とは、溶剤に可溶な樹脂を当該溶剤に溶解した溶液である。このときの製膜は、例えば、多孔質基材上に樹脂溶液を塗布して形成された膜から、溶剤を乾燥等により除去して行うことができる。樹脂が熱硬化性樹脂の場合は製膜の際に加熱して樹脂硬化が行われる。
【0035】
製膜性を有する樹脂の分散液とは、樹脂の微粒子を分散媒中に分散したものであって、分散液の膜を形成しその膜から樹脂膜を形成できるものである。樹脂の微粒子としては、フッ素樹脂エラストマーを含むフッ素樹脂粉末が好ましく、特にフッ素樹脂エラストマーの粉末が好ましい。又、分散媒としては、通常水等の水系分散媒が好ましく用いられる。
【0036】
従って、製膜性を有する樹脂の分散液としては、水系分散媒中に、フッ素樹脂エラストマー粉末及び有機マイクロバルーンを分散させたフッ素樹脂ディスパージョンが好ましい。ここで、フッ素樹脂エラストマー粉末とは、フッ素樹脂エラストマーの微粒子の集合体であり、例えば、乳化重合により得ることができる。
【0037】
フッ素樹脂ディスパージョンを多孔質基材上に塗布する方法は特に限定されない。なお、分離膜と多孔質基材との固定のために、接着剤や粘着剤が用いられる場合は、多孔質基材上に塗布とは、多孔質基材上に形成された接着剤や粘着剤の層上に塗布、との意味である。
【0038】
フッ素樹脂ディスパージョンを用いた場合の製膜工程では、フッ素樹脂ディスパージョンの膜の乾燥及びフッ素樹脂粉末の焼結が行われるが、焼結の際の加熱によりフッ素樹脂ディスパージョンの膜の乾燥、即ち分散媒の除去がされるので、焼結工程の他に乾燥工程を必ずしも設けなくてよい。又、有機マイクロバルーンの破壊も、焼結によりバルーンを破裂させて行うことができる。このようにすれば、一つの焼結工程により、乾燥、焼結、有機マイクロバルーンの破壊がされるので、生産工程が簡略化され生産が容易になる。
【0039】
なお、この方法で使用される多孔質基材は、有機マイクロバルーンを破壊するための焼結工程で加熱されるので、この加熱に耐えられる耐熱性が求められる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の分離膜複合体は、液体中に分散している微細粒子のろ過に用いられる分離膜複合体であるが、逆洗が容易であり、短時間での逆洗により孔を目詰まりさせている不溶物を除去でき、使用開始時のろ過性能を回復できるものである。本発明の分離膜複合体の中でも特に逆洗が容易なものは、本発明の分離膜複合体の製造方法により容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の分離膜複合体の一部を示す断面図である。
【図2】本発明の分離膜複合体の製造工程を表す断面図である。
【図3】本発明の分離膜の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図4】本発明の分離膜複合体の逆洗時の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、図を参照しながら説明するが、本発明の範囲はこの形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更を加えることができる。
【0043】
図1は、本発明の分離膜複合体の一部を示す断面図である(図1の右端、左端は、分離膜複合体が、右端、左端の、それぞれ、さらに右側、左側にも連続していることを表す。図2及び図4についても同じである。)。図中1は、分離膜であり、2は多孔質基材であり、分離膜1と多孔質基材2により分離膜複合体3が形成されている。分離膜1は、弾性体である樹脂製の薄膜1aにより構成されるが、貫通孔1bを有している。貫通孔1bは、有機マイクロバルーンの破壊により生じた空洞により形成されているので、その内部はストレートな形状であり屈曲や凹凸を有しない。
【0044】
多孔質基材2は、分離膜複合体の機械的強度を付与するために、通常分離膜1より厚い。又、多孔質基材2は、ろ過効率を低下させないため、分離膜1の貫通孔1bの径より大きな径の貫通孔を有する。ただし、図1及び後述の図2中では、この貫通孔の図示は省略されている。
【0045】
[分離膜複合体の製造方法]
本発明の分離膜複合体の各製造工程を、図3に基づき説明する。この例では、塗料として、水にフッ素樹脂エラストマー粒子を分散させたフッ素樹脂ディスパージョンを用いる。又、多孔質の基材として延伸フッ素樹脂多孔質体を用いる。
【0046】
先ず、フッ素樹脂ディスパージョンに有機マイクロバルーンを分散して塗料を調整する。図3中のS1で示す工程である。
【0047】
フッ素樹脂ディスパージョンとしては、フッ素樹脂エラストマーの粉末(粒子)を、水等の水系分散媒中に分散してなるものが使用される。
【0048】
フッ素樹脂エラストマーは、フッ素ゴムに加硫剤、加硫助剤等の加硫用添加剤及び必要に応じて配合される他の添加剤(例えば、充填剤、滑剤、酸化防止剤、安定剤、加工助剤等)を通常のゴム用加工機械(例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー等)で十分に混合して、加硫用組成物を調製し、該組成物を成形、加硫することで作製されるものである。
加硫は、例えば、加硫用組成物を金型に入れて加圧下において130〜200℃で2〜60分間保持することによってプレス加硫(一次加硫)を行ない、引き続き、150〜300℃の炉中で1〜48時間保持することによってオーブン加硫(二次加硫)を行なう方法で行われる。
【0049】
フッ素樹脂エラストマーの原料であるフッ素ゴムとしては、特に限定されず、有機過酸化物加硫が可能な公知のフッ素ゴムが使用される。フッ素ゴムとしては、例えば、高度にフッ素化された弾性共重合体、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等から選ばれる2種以上からなる弾性共重合体を挙げることができる。中でも、好ましくはフッ化ビニリデンの共重合体、特に好ましくはフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロペン弾性共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロペン3元弾性共重合体が用いられる。より具体的な例としては、フッ化ビニリデン:ヘキサフルオロプロペン=78:22〔共重合モル比〕の弾性共重合体を挙げることができる。
【0050】
フッ素樹脂エラストマーにおけるフッ素ゴムの加硫剤としては、従来からフッ素ゴムの加硫剤として使用されている公知の化合物、例えば、アミン系加硫剤、ポリオール系加硫剤、有機過酸化物加硫剤等を使用できる。有機過酸化物加硫剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、α,α'−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラクロルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエートが挙げられる。又、アミン系加硫剤としては、例えば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N'−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジミアン、シクロヘキシルジアミンカーバメートが挙げられる。
【0051】
ポリオール系加硫剤としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、4,4'−ジヒドロキシジフェニルが挙げられる。いずれのタイプの加硫剤も1種又は2種以上が使用される。又、加硫剤の使用量は、いずれのタイプの加硫剤もフッ素ゴム100重量部当たり0.1〜5重量部程度が一般的である。
【0052】
加硫剤として有機過酸化物加硫剤を使用する場合、通常、有機過酸化物加硫剤とともに不飽和結合を2個以上有する化合物からなる加硫助剤が使用される。かかる加硫助剤としては、例えば、多アリル化合物、ジメタクリレート化合物、ジビニル化合物、ポリブタジエンが用いられる。中でも、多アリル化合物が好ましく、具体的には、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート等が挙げられる。該加硫助剤は1種又は2種以上が使用され、その使用量はフッ素ゴム100重量部当たり0.1〜10重量部程度が一般的である。
【0053】
又、加硫剤としてアミン系加硫剤やポリオール系加硫剤を使用する場合、いずれの場合も、受酸剤として、フッ酸と反応してフッ化物となるもの、例えば、MgO、Ca(OH)等の2価金属の酸化物や水酸化物又はこれらの塩を添加することが通常必要となり、ポリオール系加硫剤を使用する場合、触媒として作用するCa(OH)や、加硫促進剤として4級アンモニウム塩、4級フォスフォニウム塩等の添加が必要となる。受酸剤の配合量はフッ素ゴム100重量部当たり0.1〜5重量部程度が好適であり、加硫促進剤の配合量はフッ素ゴム100重量部当たり0.1〜5重量部程度が好適である。
【0054】
なお、フッ素樹脂ディスパージョンには、フッ素樹脂エラストマーの他に、本発明の趣旨を損ねない範囲で他の樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ素化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキル・ビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素樹脂粒子を含んでいてもよい。又、その分散性を向上させるために、本発明の趣旨を損ねない範囲で、水溶性ポリマーや、潤滑剤としての陰イオン性界面活性剤を加えることもできる。
【0055】
フッ素樹脂ディスパージョン中のフッ素樹脂粉末(フッ素樹脂エラストマーを含む)の含有量は、20重量%〜70重量%の範囲が好ましい。フッ素樹脂ディスパージョンとしては、旭硝子社製のAD911等の市販品を用いることができる。
【0056】
なお、分離膜の形成には、フッ素樹脂ディスパージョン(フッ素樹脂エラストマーを含む)の代わりに製膜性を有する樹脂溶液を使用することもできる。例えば、柔軟エポキシ樹脂のプレポリマー溶液や柔軟エポキシ樹脂をメチルエチルケトン等の溶剤に溶解した樹脂溶液を用いることができる。柔軟エポキシとは、前記のように、柔軟性を有する硬化物が得られるエポキシ系樹脂の意味であるが、具体的には炭化水素変性、エラストマー変性、ゴム変性、シリコーン変性等の変性エポキシ樹脂を挙げることができる。これらの樹脂に、各種添加剤を加えた硬化物は弾性を持ち応力を緩和することができる。より具体的には、例えば、シクロペンタジエン変性エポキシ樹脂(XD−1000、日本化薬社製)、ゴム変性エポキシ樹脂(TB−16、日本化薬社製)が挙げられる。
【0057】
有機マイクロバルーンは、中空又は中実の球形粒子であるが、中空の有機マイクロバルーンとは、中空マイクロスフィア(Microsphere)の一種であり、例えば、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂;ゴム等の有機高分子材料から形成された中空の球状微粒子を挙げることができる。
【0058】
有機マイクロバルーンは、樹脂膜の形成後、焼結等により破壊され、破壊された後に残った空洞が分離膜の孔となる。そこで、焼結の工程前では破壊されないことが望まれる。なお、フッ素樹脂ディスパージョンを用いる場合以外で、樹脂膜の形成段階で乾燥や樹脂硬化のための加熱等がある製造方法に用いる場合は、これらにより破壊されない程度の耐熱性が望まれる。
【0059】
有機マイクロバルーンは、特別に調製してもよいが、市販品を使用することもできる。市販品としては、マツモトマイクロスフェアー(松本油脂製薬社製:F−80SED、M−201)、フェノールマイクロバルーン(ユニオンカーバイド社製、BJO−0840)、マイクロバルーン(サランマイクロスフィア社製)等が挙げられる。
【0060】
市販の有機マイクロバルーンの径は、通常、1μm〜200μm程度であるが、本発明では、微細な孔を形成するため、径が10μm以下、望ましくは5μm以下程度のものが主に用いられる。
【0061】
フッ素樹脂ディスパージョン中の有機マイクロバルーンの配合割合は、有機マイクロバルーンと樹脂の合計体積に対して、通常、5〜60体積%、好ましくは10〜50体積%、より好ましくは15〜45体積%である。
【0062】
フッ素樹脂ディスパージョンに有機マイクロバルーンを分散した塗料を調整した次には、多孔質の基材2の表面に、前記塗料を塗布する。図3中のS2で示す工程である。
【0063】
多孔質の基材として用いられている延伸フッ素樹脂多孔質体は、フッ素樹脂粒子の製膜、焼結等により形成された無孔質のフッ素樹脂を延伸して得ることができる。延伸フッ素樹脂多孔質体としては、ポアフロン(登録商標:住友電工社製)等の市販品を用いることができる。
【0064】
延伸フッ素樹脂多孔質体を構成するフッ素樹脂としては、PTFE、PVDF、PFA等が使用できるが、中でも、PTFEを主体とするフッ素樹脂は、耐薬品性、耐熱性が特に優れているので好ましい。
【0065】
これらの熱可塑性のフッ素樹脂は、溶融粘度が高いので、溶融押出等によって製膜することは不可能である。そこで、PTFE、PVDF、PFA等の固体粒子を、300℃あるいはそれ以上の温度で熱融着させて製膜し、このようにして得られたフッ素樹脂膜を延伸して孔を形成することにより、多孔質膜を得る方法が採用される。
【0066】
延伸フッ素樹脂多孔質体の厚さは、分離膜複合体の機械的強度を所望の値とする厚さが求められる。ただし、機械的強度は、延伸フッ素樹脂多孔質体の気孔率等により変動するので、好ましい厚さの具体的範囲は特に限定されない。
【0067】
多孔質の基材2の表面に前記塗料を塗布する前に、好ましくは、多孔質の基材2と分離膜1を固定するための接着剤や粘着剤が、多孔質の基材2の表面に塗布され、塗布された接着剤や粘着剤の上に塗料が塗布される。接着剤や粘着剤として、溶剤可溶性あるいは熱可塑性のフッ素樹脂、フッ素ゴムを使用すれば、フッ素樹脂からなる分離膜1や多孔質の基材2の耐熱性や耐薬品性を生かせる用途に使用することができるのでより好ましい。
【0068】
多孔質の基材2の表面に、フッ素樹脂ディスパージョンに有機マイクロバルーンを分散した塗料を塗布した後には、乾燥によりフッ素樹脂ディスパージョンの水系分散媒を除去する工程が行われる。図3中のS3で示す工程である。
【0069】
図2は、この乾燥後の様子を示す断面図である。図中、1a'は、フッ素樹脂ディスパージョンを乾燥後、焼結前のフッ素樹脂粒子からなる膜であり、1cは有機マイクロバルーンである。図により示されるように有機マイクロバルーン1cの径(直径)は、膜1a'の厚さより大きい。
【0070】
乾燥の工程(S3)の後、焼結が行われる。そして、焼結により、有機マイクロバルーンを破裂させて破壊し、破壊後の空洞が貫通孔となり、孔形成がされる。図4中のS4で示す工程である。
【0071】
前記の乾燥の工程(S3)を行わずにこの焼結を行ってもよい。この場合、焼結の段階でフッ素樹脂ディスパージョンの水系分散媒の除去がされる。焼結により、フッ素樹脂ディスパージョン中に含まれていたフッ素樹脂粒子が融着して、樹脂膜1aが形成される。そこで焼結では、フッ素樹脂粒子が互いに融着する温度、PTFEを用いた場合は300℃以上で熱処理される。
【0072】
なお前記の説明は、塗料としてフッ素樹脂ディスパージョンを用い、多孔質の基材として延伸フッ素樹脂多孔質体を用いた例に関するが、塗料としては、フッ素樹脂以外の樹脂を使用してもよい。例えば、製膜性を有する樹脂溶液を、分離膜を形成するための塗料として使用することもできる。
【0073】
使用する樹脂が熱硬化性樹脂の場合は、多孔質の基材上に有機マイクロバルーンを含む塗料を塗布した後、その樹脂の硬化温度で熱処理して製膜する。熱処理温度が低く有機マイクロバルーンが十分破裂しない場合は、破裂せずに残った有機マイクロバルーンを溶剤で溶かして孔を形成してもよい。
【0074】
上記のようにして製造した分離膜複合体は、逆洗が容易であり、短時間での逆洗により孔を目詰まりさせている不溶物を除去でき、使用開始時のろ過効率を回復できるフィルターである。
【0075】
図4は、本発明の分離膜複合体を液体中の微細粒子(濁質)のろ過等に用いた後に、この分離膜複合体を逆洗する様子を示す断面図である。図中のMは、逆洗により取除かれる濁質を表し、矢印は逆洗水の流れを示す。図4に示されているように、分離膜複合体は、逆洗水の圧力により、貫通孔1bの開口部が開くようにたわんでいる。その結果、貫通孔1bを目詰まりさせていた濁質Mの除去が容易になっている。
【符号の説明】
【0076】
1 分離膜
1a 樹脂膜
1b 貫通孔
1c 有機マイクロバルーン
2 多孔質の基材
3 分離膜複合体
M 濁質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜及びそれを支持する多孔質基材からなる分離膜複合体であって、前記分離膜が弾性体により形成されていることを特徴とする分離膜複合体。
【請求項2】
前記分離膜が、フッ素樹脂エラストマー又は柔軟エポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の分離膜複合体。
【請求項3】
前記多孔質基材が、延伸フッ素樹脂多孔質体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の分離膜複合体。
【請求項4】
有機マイクロバルーンを含有しかつ弾性を有する樹脂膜を、多孔質基材の一表面上に形成する製膜工程、及び
前記樹脂膜中の前記有機マイクロバルーンを破壊して、前記樹脂膜中に孔を形成する貫通孔形成工程
を有することを特徴とする分離膜複合体の製造方法。
【請求項5】
前記製膜工程が、水系分散媒中に、フッ素樹脂エラストマー粉末及び有機マイクロバルーンを分散させたフッ素樹脂ディスパージョンを、多孔質基材上に塗布してフッ素樹脂ディスパージョンの膜を形成し、その膜の乾燥及びフッ素樹脂粉末の焼結により行われ、前記有機マイクロバルーンが、前記焼結により破壊されることを特徴とする請求項4に記載の分離膜複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−56421(P2011−56421A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209714(P2009−209714)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】