説明

切り花ボタン類の保存・流通方法

【課題】収穫後の共にボタン科に属するボタン,シャクヤクの切り花を観賞可能な状態で消費者に届けるための切り花ボタン類の保存・流通方法を提供する。
【解決手段】この発明の方法は、破蕾期を迎え、満開前(開花度50%以下)のボタン又はシャクヤクの切り花を水揚げ処理し、水揚げ処理後の切り花を樹脂フィルム製の袋に収納密閉し、切り花の姿勢を押圧固定する程度に袋内部の脱気を行い、−1℃〜5℃未満の低温・遮光条件下で保存・流通させる方法である。
上記水揚げ処理とは、収穫した切り花ボタン類の切り口を、水又は鮮度保持剤溶液に浸すことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は収穫後の共にボタン科に属するボタン,シャクヤクの切り花を観賞可能な状態で消費者に届けるための切り花ボタン類の保存・流通方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温時の切り花ボタン(Paeonia suffruticosa)類は、開花初めから落花までの期間が短く、また水揚げが悪いために、生産者は日持ち性向上のため、鮮度保持剤で前処理後、湿式縦箱方式により出荷している。
またその他の保存・流通技術としては、抗菌剤入りの樹脂フィルム製の袋に野菜や切り花を封入して脱気により50%以上の袋容積の減量を行うもの(例えば特許文献1参照。)や、生鮮農産物をトレー上に載せ、被覆フィルムによりその農産物の形状に追従させるように真空スキン包装するもの(例えば特許文献2参照。)のほか、マイクロクラフト紙にポリエチレンフィルムを積層した袋内にモヤシを密封し、5〜15℃の低温で保存・流通するもの(例えば特許文献3参照。)が知られている。
【特許文献1】特許第2730497号公報
【特許文献2】特開平3−183437号公報
【特許文献3】実開平4−71671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、高温時の切り花ボタン(Paeonia suffruticosa)類は、開花初めから落花までの期間が短く、また水揚げが悪いことが知られている。そのため、生産者は日持ち性向上のため、鮮度保持剤で前処理後、湿式縦箱方式により出荷しているが、切り花に常に水分が供給されているため、箱内で開花が進み、観賞期間が短くなるという問題があった。
また真空スキン包装等の包装方法では、切り花の花弁,枝葉等の損傷を引き起こすほか、5〜15℃の温度条件下での保存では、切り花ボタンを取り出した後の開花率も悪く、完全に開花する前に花弁が落下するなどの問題があった。
よって本発明は観賞可能な状態で切り花ボタンを消費者に届けるための切り花ボタンの保存・流通方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明の切り花ボタン類の保存・流通方法は第1に、ボタン又はシャクヤクの切り花を包装して低温・遮光下で保存・流通する方法であって、破蕾期を迎え、満開前の切り花を水揚げ処理し、該水揚げ処理後の切り花を樹脂フィルム製の袋に収納密閉し、切り花の姿勢を押圧固定する程度に袋内部の脱気を行うことを特徴としている。
【0005】
第2に、破蕾期を迎えた、満開前の切り花ボタンの開花度が50%以下を特徴としている。
【0006】
第3に、上記水揚げ処理が収穫した切り花ボタンの切り口を、水又は水と鮮度保持剤を混合した溶液に浸すことであることを特徴としている。
【0007】
第4に、保存温度が−1℃〜5℃未満であることを特徴としている。
【0008】
第5に、保存温度が1℃〜3℃であることを特徴としている。
【0009】
第6に、樹脂フィルム製の袋内の空気を半分程度脱気した後に、一旦脱気操作を停止し、茎,葉,葉柄が折れないように、軽く押さえて形態を整えることを特徴としている。
【0010】
第7に、収納した切り花ボタン表面と樹脂フィルム製の袋とが、密着状態となるように脱気することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
以上のように構成される本発明の方法は、切り花ボタンを樹脂フィルム製の袋で密封包装することにより、切り花の乾燥と病気の発生を防止するとともに、袋内の空気を抜くことにより、保管中または輸送中の切り花ボタンの体積を減少させ、輸送効率を向上させ、輸送コストを下げることができる。
また切り花の姿勢を押圧固定する程度に袋内部の脱気を行って包装し、低温下で保存・流通させることにより、出荷時の状態で長期間保存することができるとともに、開封後は直ぐに花弁が落ちることなく、開花から満開状態になるまで切り花ボタンを観賞することができる。
さらに本発明の保存・流通方法は湿式縦箱方式とは異なり、消費者に到着するまで開花が進むことなく、出荷時の状態のまま消費者の手元に届けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図面に基づき本発明の実施形態につき説明する。図1は本発明のフロー図であり、切り花ボタンを収穫後に前処理として水揚げ処理を行う。乾式状態でポリフィルム等の樹脂フィルム製の袋に入れて脱気後、密封包装する。−1℃〜5℃の低温にて冷蔵保存しながら輸送して消費者に届ける。切り花ボタンを袋より取り出した後、開花から満開状態になるまで観賞できる。
【0013】
1)収穫
切り花ボタンは、破蕾期(花弁の一部が見える時期)の午前中の気温が低い涼しい頃 に収穫する。破蕾期で収穫する理由としては、蕾の状態では無呼吸状態のためにエネ ルギーをほとんど消費しないからであり、また花の老化を促進するエチレンガスを発 生させないためである。さらに蕾の状態は耐圧性に富み、後述する脱気による密封包 装に耐えることができるからである。
【0014】
2)水揚げ(前処理)
ボタンを切った後すぐに水切りし、切り口を水道水,切り花の鮮度保持剤であるST S剤(チオ硫酸銀溶液),「美咲」(大塚化学株式会社製)の50倍溶液又はそれら の混合溶液に1時間以上浸し、15℃で,遮光条件下に置く。また水揚げは少なくと も花弁が展開開始するまでに終える必要がある。さらに前処理としてSTS剤入りの 鮮度保持剤を処理することにより保存中のエネルギー消費を抑制することができる。 この前処理は水道水又は井戸水のみで行ってもよい。
【0015】
3)密封
ポリフィルム等の樹脂フィルム製の袋は切り花より長さ10cm、幅10cm以上大 きく、厚さ0.05mm以上のものが望ましい。水揚げが終了した切り花の切り口方 向から袋に入れる。袋の開口部を脱気装置に取り付け、袋内の空気を徐々に抜く。
全体の50%程度の空気が抜ける頃に、一度脱気装置を停止し、葉と葉柄(葉の一部 で、葉身を茎や枝につないでいる細い柄の部分)軽く押えて形態を整えた上で樹脂フ ィルムを切り花に馴染ませる。
【0016】
その後、再度脱気装置を始動させ、葉,葉柄,茎,花蕾がフィルムと密着状態になる まで脱気を行い、袋が撚り上る寸前で脱気装置を停止する。そして開口部をヒートシ ール等により密閉固定する。この時、ボタンやシャクヤク等のボタン科の切り花には 柔軟性があるので、花弁を内向きに収束させた状態で密封包装する。脱気,密封包装 することにより保存中の切り花の乾燥と病気の発生を防止し、花蕾とフィルムを密着 させることにより物理的にも開花を抑えることができる。また袋内での花弁の移動を 抑え、花弁の損傷を抑制することができる。
【0017】
4)冷蔵
フィルムが密着状態になった袋入りの切り花ボタンを遮光条件下の冷蔵庫内でダンボ
ールやコンテナに横詰め又は縦詰めで保存する。保存温度は−1℃〜5℃が適当であ
る。観賞価値が維持できる切り花ボタンの冷蔵期間は、品種により違いがあるものの
、2℃で4週間,5℃で2週間程度の保存が可能である。この時−1℃以下の保存で は切り花が凍結する可能性が高く、5℃以上では開花率が低下する率が高い。実験で は2℃を中心に±1℃位が最も望ましい結果が確認できた。
【0018】
5)輸送
脱気,密封包装された切り花ボタンの厚みは花蕾の幅以下であるため、一般的な冷蔵
輸送可能な小包により全国各地あるいは世界各国に輸送される。脱気,密封包装によ
り従来の縦箱出荷に比して、容積が減少するため航空便等によっても発送可能である
ほか、ボタンやシャクヤクの切り花の持つ柔軟性を利用して花弁を内向きに収束させ たまま筒状容器等に入れて輸送することもできる。また従来の縦箱湿式方式に比して 、本発明の方式は乾燥状態で密封されており、開花が進むことなく、市場出荷時の状 態を維持することができる。
【0019】
6)開花
問屋,小売店と介して消費者(購入者)の手元に届けられた密封包装済みの切り花ボ
タンは、切り花の切り口の方から開封し、ゆっくりと切り花ボタンを取出す。取出し た切り花ボタンを水切りし、STS(チオ硫酸銀塩)剤に1時間以上浸す。その後、 「美咲」(大塚化学株式会社製)の50倍溶液を栄養剤として適宜補充する。この時 の温度は可能な限り低くした方が望ましい。また開封後(出庫後)にSTS剤入りの 鮮度保持剤を処理することによって、花弁の成長を促進させ、開花後の花弁落下を遅 延させることができる。
【実施例】
【0020】
[材料]
2004年4月23日に島根県農業技術センターの圃場内で栽培したボタン(Paeonia suffruticosa)のうち‘連鶴’及び‘島大臣’の4年生株から収穫した切り花を用いた。
【0021】
[方法]
開花ステージ(収穫時期)は破蕾期とし、切り花長は20〜25cm、最上位の4〜5枚葉より下の葉は除去した。収穫後すぐに、水道水で水揚げ処理後、切り花を3本一束でポリフィルム袋(横300mm,縦460mm,厚さ0.05mm)へ入れ、フィルムと切り花が密着状態になるまで袋内の空気を抜き、密封した。保存条件は2℃,5℃,10℃に設定した冷蔵庫内へ遮光条件で、1週間,2週間,4週間静置した。冷蔵処理終了後、すぐに開封し、切り花3本を50倍に希釈した美咲に生け、毎日補充した。花持ち期間は花弁が落下した日までとした。
鑑賞価値の程度は、開花の有無,花弁の伸長および展開を達観で判断し、5段階評価とした。次の表1,表2及び図2〜7にその結果を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
[結果]
図2,3に示すように‘連鶴’の鑑賞価値が維持できる切り花の冷蔵期間は、2℃で4週間、5℃で2週間、10℃では1週間であり、2℃冷蔵区での花弁の伸長が良好であった。10℃の2週間冷蔵区では花弁の伸長が悪く、開花した花弁のサイズも小さい結果となった。また5,10℃の4週間冷蔵区では出庫3日後には花弁の伸長が完全に開花しないまま途中で停止する結果となった。
【0025】
図4,5に示すように‘島大臣’の鑑賞価値が維持できる切り花の冷蔵期間は、2℃で2週間、5℃、10℃で1週間であり、2℃冷蔵区での花弁の伸長が良好であった。また5度冷蔵区での伸長が悪く、10℃冷蔵区では花弁落下が見られた。なお、鑑賞価値指数が低い場合では、全く開花しないものが見られたほか、花弁の未伸長・未展開,病害の発生,花弁および葉の先端部の褐色化などが見られた。
【0026】
図6は破蕾1週間前,破蕾1日前,破蕾期,破蕾1日後(花弁展開後)などの異なる時期に収穫した切り花ボタン(品種‘連鶴’)を2℃,2週間の冷蔵保存後の開花状況を示している。図示するように破蕾1週間前に切取ったものは開花に至らず、破蕾1日前及び破蕾期に収穫したものはやや花弁の伸長が弱いものの正常に開花し、破蕾1日後(花弁展開後)に収穫したものは出庫3日後に正常開花したものの、開花時期も早く、綺麗に開花しなかった。
【0027】
図7は切り花ボタンを樹脂フィルム製の袋に入れた後、2℃,5℃,10℃条件下で冷蔵処理を終了した際の脱気・密着状況を示している。
【0028】
[考察]
以上の結果、ボタンを収穫後に十分水揚げを行い、切り花をポリフィルム袋で密封、密着状態としたところ、2℃遮光条件の冷蔵処理により開花可能な状態で2週間は保存できることが明らかとなった。またこの条件(2℃,遮光,2週間)下での切り花ボタンの出庫後の観賞可能期間が長いほか、最も綺麗に開花させることが判明した。なお、保存日数には品種間差が認められた。さらに花弁の未伸長・未展開、病害の発生、花弁および葉の先端部の褐色化などが見られた原因としては、冷蔵中の呼吸による消耗、エチレンの発生、病原菌の繁殖等が原因と推察される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の保存・流通方法は、切り花ボタンだけでなく耐圧性の蕾を持ち、柔軟性のある茎を持った植物等の保存・流通方法として広く応用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の切り花ボタンの保存・流通方法を示すフロー図である。
【図2】(A)〜(C)は本発明の切り花ボタン(品種‘連鶴’)の2週間の2℃,5℃,10℃の冷蔵処理後の出庫当日,出庫3日後,出庫5日後の開花程度を示す。
【図3】(A),(B)は本発明の切り花ボタン(品種‘連鶴’)の4週間の2℃,5℃,10℃の冷蔵処理後の出庫当日,出庫3日後の開花程度を示す。
【図4】(A)〜(C)は本発明の切り花ボタン(品種‘島大臣’)の2週間の2℃,5℃,10℃の冷蔵処理後の出庫当日,出庫3日後,出庫5日後の開花程度を示す。
【図5】(A),(B)は本発明の切り花ボタン(品種‘島大臣’)の4週間の2℃,5℃,10℃の冷蔵処理後の出庫当日,出庫3日後の開花程度を示す。
【図6】(A)〜(C)は本発明の切り花ボタン(品種‘連鶴’)の破蕾1週間前,破蕾1日前,破蕾期,破蕾1日後に収穫後2℃で冷蔵を開始し、2週間の冷蔵処理後の出庫当日,出庫3日後,出庫5日後の開花程度を示す。
【図7】本発明の切り花ボタンを樹脂フィルム製の袋に入れた後、2℃,5℃,10℃条件下で冷蔵処理を終了した際の脱気・密着状況を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボタン又はシャクヤクの切り花を包装して低温・遮光下で保存・流通する方法であって、破蕾期を迎え、満開前の切り花を水揚げ処理し、該水揚げ処理後の切り花を樹脂フィルム製の袋に収納密閉し、切り花の姿勢を押圧固定する程度に袋内部の脱気を行う切り花ボタン類の保存・流通方法。
【請求項2】
破蕾期を迎えた、満開前の切り花ボタンの開花度が50%以下である請求項1の切り花ボタン類の保存・流通方法。
【請求項3】
上記水揚げ処理が収穫した切り花ボタンの切り口を、水又は鮮度保持剤溶液に浸す請求項1又は2の切り花ボタンの類保存・流通方法。
【請求項4】
保存温度が−1℃〜5℃未満である請求項1,2又は3の切り花ボタン類の保存・流通方法。
【請求項5】
保存温度が1℃〜3℃である請求項1,2,3又は4の切り花ボタン類の保存・流通方法。
【請求項6】
樹脂フィルム製の袋内の空気を半分程度脱気した後に、一旦脱気操作を停止し、茎,葉,葉柄が折れないように、軽く押さえて形態を整える請求項1,2,3,4又は5の切り花ボタン類の保存・流通方法。
【請求項7】
収納した切り花ボタン表面と樹脂フィルム製の袋とが、密着状態となるように脱気する請求項1,2,3,4,5又は6の切り花ボタン類の保存・流通方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−99713(P2007−99713A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293231(P2005−293231)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】