説明

切削タップ

【課題】材料の雌ねじを切削する切削タップを提供する。
【解決手段】細長いタップ本体(22)を有する切削タップであって、細長いタップ本体(22)の軸方向前端(24)が溝付部(30)を有し、溝付部(30)が面取り溝付部(54)と仕上げ溝付部(56)とを含む切削タップが提供される。面取り溝付部(54)の各切削ねじ山(58、62、66、68)は、すくい面角度で配置されたすくい面(72、76、80)を有し、前記すくい面角度は、切削ねじ山(58、62、66、68)が面取り溝付部(54)の軸方向前端(24)から軸方向後方に離れるとそれだけ負角になる。仕上げ溝付部(56)の各切削ねじ山(58、62、66、68)は、実質的に等しい仕上げすくい面角度で配置されたすくい面(72、76、80)を有する。仕上げすくい面角度は、面取り溝付部(54)の軸方向後方終端の切削ねじ山のすくい面角度よりも負角である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の雌ねじを切削するために使用される切削タップに関する。より具体的には、本発明は、材料の雌ねじを切削するために使用される切削タップであって、超硬合金(例えばコバルト焼結炭化タングステン)工具材料から製造されるのに適切な切刃形状を有する切削タップに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの技術において、ねじ山を必要とする機構及び機械構成要素には長い歴史がある。この点に関して、構成要素の部分をアセンブリに接合するために、ねじ山はファスナ構成要素として、他の全ての手段より常に用いられている。したがって、ねじ山を形成するために使用される物品が、多くの製造技術にとって重要であることが理解できる。
【0003】
雌ねじ及び雄ねじを形成するための多くの方法が存在するが、切削タップによって雌ねじを形成することが好ましい方法であることが経験的に示されてきた。現在、雌ねじを形成するための2つのタッピング法が存在する。タッピング法の主なものは、材料を孔の壁から切削し、次に、材料を除去してV字状の螺旋ねじ山を形成することを含む。その代わりに、材料を変位させて雌ねじを形成してもよい。材料の切削による第1のタッピング法は、一般に、第2の方法よりも好まれているが、この理由は、切削によるタッピング法が、小さなトルクで済み、変位法よりも精密なねじ山形状を形成するからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
理解できるように、雌ねじの形状及びサイズの寸法精度により、ねじ山アセンブリの精度及び適合性が調節される。言い換えれば、ねじ山の形状及びサイズに関する寸法精度が向上した雌ねじを形成する能力により、アセンブリの構成要素間でより確実な接続が得られる。したがって、ねじ山の形状及びサイズに関する寸法精度が向上した雌ねじを形成する切削タップと、雌ねじを切削する方法とを提供することが極めて望ましいことが明らかになる。
【0005】
さらに理解できるように、タッピングの速度が、雌ねじを形成するためのコストに影響を及ぼす。これは、切削タップを使用することによって、以前に存在していたものよりも高い割合又は速度で雌ねじを形成できる製造上の利点が存在し得ることを意味する。したがって、これまで利用可能であったよりも高い速度で雌ねじを形成する切削タップと、雌ねじを切削する方法とを提供することが極めて望ましいことが明らかになる。
【0006】
切削タップを製造するために使用される主な材料は高速度鋼である。高速度鋼は、その幾何学的構造を考慮すれば切削タップとして製造するのに適切な優れた強度特性を有する。切削タップに適切な例示的な高速度鋼はM1、M2及びM7等のグレードを含む。高速工具鋼用のASTM規格を参照されたい。
【0007】
他の種類の切削工具(例えば、切屑形成材料除去用途のために使用される切削工具)に関連して、焼結(コバルト焼結)炭化タングステンは、例えば、高温で高速度鋼の硬度を保持する能力を含むより高い硬度及びより高い温度安定性等の特性の故に、このような切削工具を製造するには、高速度鋼よりも好ましい材料である。典型的に、「高速度」鋼から製造された切削工具よりも少なくとも3倍速い切削速度で、超硬合金(例えばコバルト焼結炭化タングステン)から製造された切削工具を使用できる。さらに、超硬合金切削工具の有効工具寿命は、高速度鋼切削工具の有効工具寿命よりも長い。したがって、切屑形
成材料除去用途において、超硬合金の使用は、高速度鋼の使用よりも有効な利点が得られることが理解できる。
【0008】
超硬合金は、切屑形成材料除去用途に関連するこれらの利点を提供してきたが、これまで、超硬合金は、切削タップを形成するのに好ましい材料ではなかった。超硬合金は高速度鋼よりも低い強度を有するので、切削タップに対する超硬合金の使用が制限されるが、この理由は、切削タップが、典型的に、他の切削工具よりも幾何学的に脆弱であるからである。
【0009】
他の切削用途(例えば切屑形成材料除去用途)で超硬合金切削工具を使用することによって得られる利点を考慮すれば、超硬合金から製造できる切削タップを提供することが望ましい。このような焼結切削タップは、既存の高速度鋼切削タップよりも多くの利点を提供する。この点に関して、超硬合金切削タップは、高速度鋼切削タップと比較して、ねじ山のサイズ及び形状に関する寸法精度を向上させる。超硬合金切削タップは、高速度鋼切削タップと比較して、切削タップの有効工具寿命を延ばす。超硬合金切削タップは、高速度鋼切削タップと比較して、雌ねじの生産速度を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態では、本発明は、軸方向前端と軸方向後端と中心長手方向軸とを有する細長いタップ本体を備える切削タップである。細長いタップ本体の軸方向前端は溝付部を有し、この場合、溝付部は溝を有する。溝付部は、細長い本体の軸方向前端を起点としてそこから後部軸方向に延びる面取り溝付部を含み、この場合、面取り溝付部は軸方向後方終端を有する。面取り溝付部は複数の切削ねじ山を備え、この場合、切削ねじ山の各々は、末端切刃で終端するすくい面を有する。すくい面は、末端切刃と中心長手方向軸との間の半径方向基準線に対するすくい面角度で配置される。切削ねじ山が面取り溝付部の軸方向前端から離れると、それだけ面取り溝付部の切削ねじ山のすくい面角度が負角になる。
【0011】
本発明の他の形態では、本発明は、軸方向前端と軸方向後端と中心長手方向軸とを有する細長いタップ本体を備える切削タップである。細長いタップ本体の軸方向前端は溝付部を有し、この場合、溝付部は溝を有する。溝付部は、細長い本体の軸方向前端を起点としてそこから後部軸方向に延びる面取り溝付部を含み、この場合、面取り溝付部は軸方向後方終端を有する。さらに、溝付部は、面取り溝付部に隣接する軸方向前端と軸方向後方終端とを有する仕上げ溝付部を含む。仕上げ溝付部は複数の切削ねじ山を備え、この場合、切削ねじ山の各々は、末端切刃で終端するすくい面を有する。すくい面は、末端切刃と中心長手方向軸との間の半径方向基準線に対する仕上げすくい面角度で配置される。仕上げ溝付部の切削ねじ山の各々の仕上げすくい面角度は実質的に等しい。仕上げすくい面角度は、面取り溝付部の軸方向後方終端の切削ねじ山のすくい面角度よりも負角である。
【0012】
本発明のさらに他の形態では、本発明は、軸方向前端と軸方向後端と中心長手方向軸とを有する細長いタップ本体を備える切削タップである。細長いタップ本体の軸方向前端は溝付部を有し、この場合、溝付部は溝を有する。溝付部は、細長い本体の軸方向前端を起点としてそこから後部軸方向に延びる面取り溝付部を含み、この場合、面取り溝付部は軸方向後方終端を有する。さらに、溝付部は、面取り溝付部との接合部を起点としてそこから後部軸方向に延びる仕上げ溝付部を含む。面取り溝付部は複数の切削ねじ山を備え、この場合、切削ねじ山の各々は、末端切刃で終端するすくい面を有する。すくい面は、末端切刃と中心長手方向軸との間の半径方向基準線に対するすくい面角度で配置される。切削ねじ山が面取り溝付部の軸方向前端から軸方向後方に離れると、それだけ面取り溝付部の切削ねじ山のすくい面角度が負角になる。仕上げ溝付部は複数の切削ねじ山を備え、この場合、切削ねじ山の各々は、末端切刃で終端するすくい面を有する。すくい面は、末端切刃と中心長手方向軸との間の半径方向基準線に対する仕上げすくい面角度で配置される。
仕上げ溝付部の切削ねじ山の各々の仕上げすくい面角度は実質的に等しい。仕上げすくい面角度は、面取り溝付部の軸方向後方終端の切削ねじ山のすくい面角度よりも負角である。
【0013】
本発明の他の形態では、本発明は、軸方向前端と軸方向後端と中心長手方向軸と直径とを有する細長いタップ本体を備える切削タップである。細長いタップ本体の軸方向前端は溝付部を有し、この場合、溝付部は溝を有する。溝付部は、細長い本体の軸方向前端を起点としてそこから後部軸方向に延びる面取り溝付部を含み、この場合、面取り溝付部は軸方向後方終端を有する。面取り溝付部は複数の切削ねじ山を備え、この場合、切削ねじ山の各々は、末端切刃で終端するすくい面を有する。すくい面は、中心点を有する移行半径によって定義され、この場合、切削ねじ山が後部軸方向に移動したときに、移行半径の中心点が末端切刃に対して半径方向内側に移動する。移行半径は切削タップの直径の約5%〜約100%の範囲である。
【0014】
以下は、本特許出願の一部をなす図面の簡単な説明である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の螺旋状溝切削タップの特定の実施形態の等角図である。
【図2】本発明の直線状溝切削タップの特定の実施形態の側面図である。
【図3】面取り部、及びそれと切削タップの一定の直径部(つまり仕上げ部)との間の接合部を含む図2の切削タップの軸方向前部の形状を示した側面図である。
【図4】図3の側面図の左側(図3で見たとき)の拡大図である。
【図5A】図4の断面線5A−5Aに沿った上部溝の断面図である。
【図5B】図4の断面線5B−5Bに沿った上部溝の断面図である。
【図5C】図4の断面線5C−5Cに沿った上部溝の断面図である。
【図6】直線状すくい面を有する従来技術の切削タップの1つの溝の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照すると、図1は、全体的に20で示されている本発明の切削タップの特定の実施形態を示している。この場合、切削タップ20は螺旋状溝を有する。切削タップ20は、軸方向前端24と軸方向後端26とを有する細長い本体22を有する。切削タップ20は、軸方向後端26に隣接する円筒状シャンク部(ブラケット28)と、軸方向前端24に隣接する螺旋状溝付部(ブラケット30)とを有する。
【0017】
切削タップ20は、その円筒状シャンク部28で工作機械等に動作可能に接続される。螺旋状溝付部30は、軸方向前端24を起点としてそこから後部軸方向に延びる面取り領域を有する。面取り領域は、後部軸方向に延びて接合部で終端する一定の直径領域(又は仕上げ領域)と円筒状シャンク部28とを接合する。
【0018】
特定のタッピングの用途について、右ねじれを有する螺旋状溝タップは孔(右ねじ山)から切屑を引き出し、盲孔に有効である。左螺旋状溝タップは切屑をタップ(右ねじ山)の前方に導き、貫通孔に有効である。
【0019】
非常に多数の溝を有するタップに本発明を適用できる。小径のタップでは、3つの溝が実用的である。中間サイズ範囲のタップでは、4つの溝が実用的であり、大サイズのタップは5つの溝を有してもよい。サイズ範囲は、用いられる溝の数に対応し得るが、この理由は、この特性が用途に依存するからである。溝の数と組み合わせて、右螺旋状溝タップの溝ねじれ角が、非常に広い範囲にわたる用途に応じて変化される。非常に軟らかい材料の深い孔にタップが使用される場合、55度の溝ねじれ角が有効である。より硬い材料のより浅い孔にタップが使用される場合、15度の溝ねじれ角を用いることができる。鋼を
タッピングするには、35〜55度のねじれ角が最適である。
【0020】
図2を参照すると、本発明の切削タップの他の特定の実施形態が示されており、この切削タップは、全体的に40で示されている直線状溝切削タップである。直線状溝切削タップ40は、軸方向前端44と軸方向後端46とを有する細長い本体42を有する。直線状溝切削タップ40は、軸方向後端46に隣接する円筒状シャンク部(ブラケット52)と、軸方向前端44に隣接する直線状溝付部(ブラケット50)とを有する。特定の用途について、直線状溝を有するタップは、短い切屑を生じさせる鋳鉄等の材料に有効である。
【0021】
螺旋状溝切削タップ20及び直線状溝切削タップ40の各々は超硬合金から製造される。例示的な超硬合金材料は、バインダとしてのコバルトで焼結された1つ又は複数の金属炭化物を含む。主な炭化物成分は一般に炭化タングステンであるが、炭化タンタル、炭化チタン及び炭化ニオブ等の他の炭化物を使用してもよい。さらに、粒成長を抑制するために、少量の遷移金属炭化物を添加することが可能であり、また基体は少量の不可避不純物を含むことがある。いくつかの場合、バインダはコバルトに加えて鉄及び/又はニッケルを含んでもよい。1つの好ましい超硬合金は、約15重量%に等しいコバルト含有量とバランス炭化タングステンと予想不純物とを有するコバルト焼結炭化タングステンである。
【0022】
この説明の1つの焦点は超硬合金を切削タップ用の材料として使用することにあるが、本出願人らが、切削タップ形状に他の材料を適用できることを意図していることを理解されたい。この点に関して、超硬合金から切削タップを製造することを可能にする形状を高速度鋼切削タップにも用いることができる。さらに、超硬合金切削タップに用いられるような形状に関連する利点は、高速度鋼切削タップに対しても存在する。
【0023】
図6を参照すると、直線状すくい面を有する従来技術の4溝切削タップの1つの溝が示されている。この従来技術の切削タップ形状において、直線状すくい面は、大径の末端切刃から切削タップの中心に延びる半径方向基準線に対してすくい角A3で傾斜される。図6では、すくい角A3は、すくい面の表面に沿って通過する線と半径方向基準線との間の刃先角として定義される。半径方向基準線からの傾斜が、図6に見られるように反時計回り方向にある場合、すくい角A3は正角である。半径方向基準線からの傾斜が、図6に見られるように時計回り方向にある場合、すくい角は負角である。
【0024】
すくい角A3の大きさは従来技術の切削タップの刃の強度に影響を及ぼす。この点に関して、すくい角A3を減少させる(すなわちすくい角A3を負角にする)ことによって、切刃の強度を高くすることができる。しかし、すくい角A3の減少により切刃の強度が高くなる一方、すくい角A3を減少させるにつれて、ねじ山をタッピング(又は切削)するのに必要な切削力の大きさが大きくなる。従来技術のタップが超硬合金から製造された場合、切刃は非常に削れやすくなるがこの理由は、炭化物の強度が低いからである。具体的には、面取り後の最初の完全ねじ山にほぼ等しくまたそれを含む面取り部において、最も削れやすい切刃は狭い刃である。面取り後の狭い完全ねじ山も削れやすくなるが、この理由は、狭い完全ねじ山が小さな刃先角を有するからである。面取り部のエントリ(entry)のより広い刃は非常に削れにくくなるが、この理由は、より広い刃が、完全ねじ山の切刃ほど狭くないからである。
【0025】
超硬合金切削タップに関する本出願人らの社内の研究所における経験では、0度〜−5度に等しいすくい角(A3)がなお削れを生じさせる。さらに、0〜−5度を超えて、従来技術の超硬合金切削タップのすくい角A3を減少させることが不可能であるが、この理由は、ねじ山をタッピングするのに必要な切削力を大きくすることによって、より負のすくい角(A3)が切削動作に悪影響を及ぼすからである。
【0026】
直線状すくい面を有する切削タップのすくい角(A3)に関連する上記説明の障害は、円弧状すくい面を有する切削タップに対しても存在することを理解されたい。この点に関して、円弧状すくい面を有する切削タップのコーダルフック角(chordal hook angle)は、直線状すくい面を有する切削タップのすくい角(A3)に一致する。コーダルフック角は、大径から切削タップの中心までの半径方向基準線と、末端切刃から切削タップの小径までの弦(chord)との間の角度として定義される。
【0027】
図3を参照すると、直線状溝切削タップ40の直線状溝付部50の軸方向前部が示されている。本発明を図1の切削タップ20等の螺旋状溝切削タップにも適用できることを理解されたい。切削タップ40の軸方向前端44を起点としてそこから後部軸方向に延びる面取り溝付部(ブラケット54)が存在する。面取り溝付部54は、図3の寸法「X」で示した予め選択された距離にわたって延びる。面取り溝付部54は、一定の直径の溝付部(又は仕上げ溝付部)(ブラケット56)を有する接合部で終端する。一定の直径の溝付部56は、面取り溝付部54との接合部を起点として、円筒状シャンク部52との接合部で終端するまで後部軸方向に延びる。
【0028】
面取り溝付部54について、その周囲面が、直線状溝切削タップ40の中心長手方向軸Z−Zに対して角度「Y」で配置されることが明らかである。言い換えれば、面取り溝付部のねじ山の周囲面は、中心長手方向軸Z−Zから角度「Y」で配置される切頭円錐面に沿って配置される。
【0029】
面取り溝付部54は一連のV字状の切削ねじ山を有し、ここで、各切削ねじ山は切刃を有する。末端切削ねじ山58は、切刃59を有し、軸方向最前部の切削ねじ山である。末端切削ねじ山58は、切刃63を有する切削ねじ山62に隣接する。切削ねじ山62は、切刃67を有する切削ねじ山66に隣接する。切削ねじ山66は、切刃69を有する切削ねじ山68に隣接する。一定の直径の溝付部(又は仕上げ溝付部)56が、切削ねじ山66を起点としてそこから円筒状シャンク部52との接合部まで後部軸方向に延びることを理解されたい。
【0030】
図4を参照すると、末端切削ねじ山58の面取りされた切刃59は切削ねじ山の最も強固な部分であるが、この理由は、面取りされた切刃59が、他の切削ねじ山の切刃(例えば、切削ねじ山62と66のそれぞれの切刃63と67)よりも広く、それらほど狭くないからである。この点に関して、末端切削ねじ山58は、「A」の幅を有する。ねじ山62は、「B」の幅を有する。切削ねじ山66は、「C」の幅を有する。
【0031】
正のすくい切削角は、より負の角度と同程度の強度を提供しないが、タッピング動作又は切削動作をより容易にする(すなわち、力が少なくて済む)。これは、末端切削ねじ山58が最も強固な切削ねじ山であるので、すくい切削角が、なお十分な強度を有する切削ねじ山に対してタッピングをより容易に行うための正角であり得ることを意味する。言い換えれば、末端切削ねじ山58は、最適なタッピング動作を行うために強度と切削の容易さとをバランスさせる形状を提供する。
【0032】
引き続き図4を参照すると、次の切削ねじ山62はより狭いので、末端切削ねじ山58ほど強固ではない。切削角は、末端切削ねじ山58ほど正角でなくてもよい上に、なお、正角又は少なくとも中間(すなわちゼロ度に等しい)であってもよい。末端切削ねじ山58と同様に、切削ねじ山62は、タッピング動作を最適化するために切削ねじ山の強度とタッピングの容易さとをバランスさせるすくい面を有する。
【0033】
さらに、次の切削ねじ山66はより一層狭いので、末端切削ねじ山58又は切削ねじ山62ほど強固ではない。この場合、切削角は、切削の容易さを低下させるとしても、切削
ねじ山66のより低い強度を補償するために負角である必要があり得る。上記切削ねじ山と同様に、切削ねじ山66は、タッピング動作全体を最適化するために切削ねじ山の強度とタッピングの容易さとをバランスさせるすくい面の形状を有する。切削ねじ山のバランスは、一定の直径の溝付部(又は仕上げ溝付部)にあり、実質的に同じ形状を有する。
【0034】
図5Aは、面取り部54の軸方向前部の切削ねじ山62用のすくい面を示している。この場合、すくい面72は、直線状であり、正の切削角A1を提供するよう配向される。切削角A1は、半径方向基準線G−G(すなわち、末端切刃63と切削タップの中心74とを通過する線)と、すくい面72に沿って延びる線H−Hとの間の刃先角である。線G−Gに対する線H−Hの傾斜方向は、図5Aで見たとき反時計回り方向にあるので、切削角A1は正角である。切刃は、面取り部54の軸方向前部においてより強固であるので、正の切削角を利用でき、これにより、より容易な切削動作が可能になる。
【0035】
図5Bは、図4の断面5B−5Bで示したような同じ切削ねじ山62の軸方向のより後部の位置にあるすくい面を示している。図5Bでは、すくい面76は、移行半径R1によって定義されているような凸形状を有する。移行半径R1の長さは、切削タップの直径の約5%〜約100%の間で変化できる。切削角は、半径基準線と末端切刃63、すなわち凸状すくい面76の軸方向前方終端のすくい面の接線(I−I)との間の刃先角である。この場合、切削角はゼロ度であり、したがって、線I−Iのみが基準となるが、この理由は、線I−Iは半径方向基準線と同延であるからである。さらに、凸状すくい面76は軸方向後方終端78を有する。線J−Jは、凸状すくい面76の軸方向後方終端78の接線である。角度A1は線I−Iと線J−Jとの間の刃先角である。この実施形態では、角度A1は、図5Aに示したような切削角A1に等しい。
【0036】
切削角がゼロ度に等しいとしても、切削タップの特定の用途に応じた他の切削角が適切であることを理解されたい。半径(R1)の位置及び大きさにより、凸状すくい面76の配向、及び半径基準線と末端切刃63のすくい面の接線との間の刃先角によって定義されているような切削角の大きさが決定される。
【0037】
面取り部の一定の直径部又は仕上げ部では、また例えば図5Cに示したねじ山70等の面取り部を通過したねじ山では、面取り部又は完全ねじ山の刃が脆弱になり削れやすい。ねじ山70は、軸方向のより後部のねじ山よりも脆弱であるので、切削角A2は減少される。ねじ山70を参照すると、半径方向基準線(M−M)と末端切刃71のすくい面の接線(K−K)との間の刃先角である切削角A2を定義する凸状すくい面80が存在する。線M−Mに対する線K−Kの傾斜は、図5Cで見たとき時計回り方向にあるので、切削角A2は負角である。切削タップのタッピング動作全体を最適化するために、負の切削角が、より脆弱なねじ山70を補償することを理解されたい。
【0038】
さらに、凸状すくい面80は軸方向後方終端82を有する。線L−Lは、凸状すくい面80の軸方向後方終端82の接線である。角度A1は線L−Lと線M−Mとの間の刃先角である。この実施形態では、角度A1は、図5Aに示したような切削角A1に等しい。
【0039】
末端切刃に対して移行半径R1の中心点を移動させることにより、面取り部54の軸方向前部における正の切削角A1から負の切削角A2への滑らかな移行が可能になる。末端切刃に対する一定の半径(R1)の中心点の半径方向内側への漸次移動によって定義されるとおりのすくい面の形状により、正の切削角A1と負の切削角A2との間にある切削角が生じる。したがって、必要な場合、面取り部の前部エントリ、面取り部のその後の仕上げ部の耐削れ性切刃、及び面取り部のねじ山の軸方向後部において有効な切削角を可能にするように、本発明による切削タップのすくい面の形状が最適化される。切削タップ40の切削動作について、切削タップ40は、タップの面取り部の連続する切刃によって雌ね
じ形状を形成する。一定の直径の溝付部の最初の完全ねじ山と共に、最後のねじ山形状が得られるまで、材料が孔の壁から除去される。
【0040】
切削角の範囲について、本出願人らは、角度A1が5度の負角〜15度の正角の範囲内であり、角度A2が0〜25度の負角の範囲内である場合、超硬合金から製造された切削タップを有効に使用できることを意図している。半径R1のサイズにより、ねじ山高さの0〜80%の幅の範囲であるA1とA2との間に弦が形成されることによって、切削角A1から切削角A2への移行が調節される。図5Cには、長さPの例示的な弦Nが示されている。
【0041】
溝の半径が、角度A1によって定義された線の接線である限り、本発明によるタップすくい面によって得られる切削タップ溝のバランスが、現在の実施に使用される任意の形状をとることができることを理解されたい。
【0042】
他の選択肢は、タップの形状が、面取り部、及びそれを通過したタップ本体の両方に沿って一定のままであるように、タップを形成することである。この場合、切刃のすくい面角度は、全長に沿ったA2である。切屑が切刃を起点として生じ、すくい面を横切って流れるとき、最初に、切屑は、半径R1を介してより大きな切削角A1に移行する小さな切削角A2だけ反対側に向けられる。
【0043】
切削タップの製造について、切削タップは、基体としばしば呼ばれる円筒状焼結炭化タングステンブランクから製造される。ブランクは、タップの仕上げ寸法よりも大きく寸法決めされる直径を有し、ある長さに切断されている。
【0044】
基体を加工する際の第1のステップは、中心に対する円筒トラバース研削等の方法によって、又は中心なし送り込み研削方法によって、高精度の円筒形公差にブランクを研削することである。このステップ中、円筒状シャンクが、タップの軸方向後端に寸法決めするように研削され、ねじ付き本体部の大径がタップの軸方向前端に形成される。さらに、この工程中に又は追加の工程の結果として、円筒面、及び円筒状シャンクとネック部との間の斜面によって、任意のネック部を形成することが可能である。その上、円筒研削によりタップの端部で、任意の斜面を研削することが可能である。一般に、シャンク径はねじ山の径にほぼ等しいが、シャンク径は、大径のタップのねじ山の径よりも小さくてもよく、或いは、小径のタップのねじ山の径よりも大きくてもよい。選択肢は、図2に示したように、タップの軸方向最後端のシャンクの一部を正方形に研削することであり得る。
【0045】
次のステップでは、面取り部と組み合わせて切刃を設けるように、1つ以上の溝が研削される。選択された切削角A1とA2とを有するすくい面を設けるように、研削砥石の形状が形成され、A1とA2は半径R1の接線であり、ここで、A1はA2よりも正角である。A1が、溝のバランスによって得られる半径の接線である限り、現在の技術に従って溝のバランスを形成することが可能である。1つ又は2つのステップで、完全な形状に研削され得る。例えば、2つのステップにおいて、最初に、現在の技術に従って溝を研削し、次に、後続の作業で本発明のすくい面を研削することによって、溝を研削することが可能である。その代わりに、1回の作業で、完全な形状を形成するように砥石を形成してもよい。溝は、右ねじ山又は左ねじ山との任意の組み合わせにおいて、直線状であるか或いは右螺旋状又は左螺旋状であり得る。
【0046】
次のステップでは、小径及び大径と共に、V字状のねじ山側面を形成するように、ねじ付き本体部が螺旋状に研削される。その後、研削により、ねじ付きすくい面取り部の形状が形成される。V字状のねじ山側面及び大径により、タッピング中に形成される雌ねじが複製される。
【0047】
孔のエントリのタップを可能にするように、すくい面取り部がテーパ状に研削される。面取り部が研削された後、有効な切刃角は、面取り部の最初のエントリを有するA1であり、面取り部のその後の仕上げ部の切削角A2に徐々に進行する。
【0048】
代わりに、選択された切削角A1とA2とを有するすくい面を設けるように、研削砥石を形成することが可能であり、切削角A1とA2は半径R1の接線であり、ここで、切削角A1は切削角A2よりも正角であり、面取り部を研削した後、すくい面は、最初に、前記砥石によって面取り角に研削され、次に、タップの形状が面取り部及びタップ本体の全長に沿って一定のままであるように面取り後のタップ本体の溝に沿って研削される。
【0049】
研削後、切刃及び他の鋭い角部に小さな半径を形成するように、研磨媒体又は研磨ブラシでタップを研磨することが可能である。結果として得られる半径は約0ミクロン〜約100ミクロンの間であり得る。この研磨により、上記刃の強度がさらに向上する。
【0050】
この工程の最後のステップでは、金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物、金属ホウ化物及び/又は金属酸化物からなる耐磨耗性層(図示せず)によってタップを選択的にコーティングすることが可能であり、この場合、金属は、以下のもの、すなわち、アルミニウム、シリコン、並びに周期表のIVa族、Va族及びVIa族の遷移金属の1つ以上から選択される。上記層は、単層として、又は交互層を含む複数の層に蒸着される。上記耐摩耗性層の頂部に、薄い摩擦層を蒸着することもできる。
【0051】
理解できるように、本発明は、削れにくい超硬合金切削タップの使用を可能にする切削タップを提供する。超硬合金切削タップを使用することにより、いくつかの利点が得られる。
【0052】
超硬合金切削タップが有する、既存の高速度鋼切削タップより優れた利点について、超硬合金切削タップは、高速度鋼切削タップと比較して、ねじ山のサイズ及び形状に関する寸法精度を向上させる。さらに、超硬合金切削タップは、高速度鋼切削タップと比較して、切削タップの有効工具寿命を延ばす。その上、超硬合金切削タップは、高速度鋼切削タップと比較して、雌ねじの生産速度を向上させる。
【0053】
本明細書に記載した特許文献及び他の文献は、参照により本明細書に援用される。本発明の他の実施形態は、本明細書に開示される本発明の仕様又は実施を考慮すれば当業者には明らかであろう。仕様及び例は、例示的なものに過ぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本発明の真の範囲及び趣旨は以下の特許請求の範囲によって示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向前端と軸方向後端と中心長手方向軸と直径とを有する細長いタップ本体を備える切削タップであって、
前記細長いタップ本体の前記軸方向前端が溝付部を有し、前記溝付部が溝を有し、
前記溝付部が、前記細長い本体の前記軸方向前端を起点として前記軸方向前端から後部軸方向に延びる面取り溝付部を含み、前記面取り溝付部が軸方向後方終端を有し、
前記面取り溝付部が複数の切削ねじ山を備え、前記切削ねじ山の各々が、末端切刃で終端するすくい面を有し、前記すくい面が、中心点を有する移行半径によって定義され、前記切削ねじ山が前記後部軸方向に移動したときに、前記移行半径の前記中心点が前記末端切刃に対して半径方向内側に移動し、前記移行半径が前記切削タップの直径の約5%〜約100%の範囲である切削タップ。
【請求項2】
前記面取り溝付部が軸方向最前部の切削ねじ山を有し、前記すくい面角度が約5度の負角〜約15度の正角の範囲であり、前記面取り溝付部が軸方向最後部の切削ねじ山を有し、前記すくい面角度が約1度の負角〜約25度の負角の範囲である請求項1に記載の切削タップ。
【請求項3】
前記細長いタップ本体が超硬合金から製造される請求項1に記載の切削タップ。
【請求項4】
前記溝付部が直線状溝を有する請求項1に記載の切削タップ。
【請求項5】
前記溝付部が、約15度〜約55度のねじれ角を有する螺旋状溝を有する請求項1に記載の切削タップ。
【請求項6】
前記切刃が研磨される請求項1に記載の切削タップ。
【請求項7】
金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物、金属ホウ化物及び/又は金属酸化物からなる1つ以上の層を含むコーティングスキームをさらに含み、前記金属が、アルミニウム、シリコン、並びに周期表のIVa族、Va族及びVIa族の遷移金属の1つ以上から選択される請求項1に記載の切削タップ。
【請求項8】
前記コーティングスキームに摩擦低減層をさらに含む請求項7に記載の切削タップ。
【請求項9】
前記細長いタップ本体が高速度鋼を含む請求項1に記載の切削タップ。
【請求項10】
前記溝付部が、前記面取り溝付部に隣接する軸方向前端と軸方向後方終端とを有する仕上げ溝付部をさらに含み、
前記仕上げ溝付部が複数の切削ねじ山を備え、前記切削ねじ山の各々が、末端切刃で終端するすくい面を有し、前記すくい面が、前記末端切刃と前記中心長手方向軸との間の半径方向基準線に対する仕上げすくい面角度で配置され、
前記仕上げ溝付部の前記切削ねじ山の各々の前記仕上げすくい面角度が実質的に等しく、前記仕上げすくい面角度が、前記面取り溝付部の前記軸方向後方終端の前記切削ねじ山の前記すくい面角度よりも負角である請求項1に記載の切削タップ。
【請求項11】
前記仕上げ面角度が約1度の負角〜約25度の負角の範囲である請求項10に記載の切削タップ。
【請求項12】
前記すくい面が、前記末端切刃と前記中心長手方向軸との間の半径方向基準線に対するすくい面角度で配置され、前記切削ねじ山が前記面取り溝付部の前記軸方向前端から離れると、それだけ前記面取り溝付部の前記切削ねじ山の前記すくい面角度が負角になる請求項1に記載の切削タップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−56417(P2013−56417A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−254034(P2012−254034)
【出願日】平成24年11月20日(2012.11.20)
【分割の表示】特願2009−533453(P2009−533453)の分割
【原出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(399031078)ケンナメタル インコーポレイテッド (182)
【氏名又は名称原語表記】Kennametal Inc.
【住所又は居所原語表記】1600 Technology Way Latrobe PA 15650−0231, USA
【出願人】(591131822)株式会社彌満和製作所 (13)