説明

切削チップおよび内径加工用切削工具

【課題】 シャンク部の拘束力が高く、かつ低コストに製造できる切削チップおよび内径加工用切削工具を提供する。
【解決手段】 棒状のシャンク部2と、シャンク部2にロウ付けされシャンク部2よりも小径の棒状からなるアーム部3と、アーム部3の先端にロウ付けされて先端視でアーム部3の側面よりも側方へ突き出した切刃5を備えた切刃部4とを具備する切削チップ1をホルダ20に装着した内径加工用切削工具Tである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小径の穴の内面加工に適する切削チップを備える内径加工用切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
穴の内面を加工する内径加工用切削工具として、例えば、特許文献1のように、棒状体先端の側方に切刃を形成した形状が広く用いられている。かかる形状の切削工具は小径加工に対応すべく切刃が小さくなる傾向にあり、他の部分はほとんど傷むことなく切刃が寿命を迎える形態が多く、より効率的な使用方法が望まれている。かかる小径加工用の切削工具では、棒状体後端側に形成されるホルダに取り付けられるシャンク部の径が小さくなって、チップの拘束力が乏しくなるという問題があり、特許文献2では、一体ものでシャンク部の径を被削材の内径に挿入される部分の径よりも大きくしたチップが開示されている。
【0003】
一方、特許文献3、4には、工具本体(工具首部、シャンク)の先端に切刃を有する切刃部をロウ付けした切削工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−062602号公報
【特許文献2】特開2007−307667号公報
【特許文献3】特開2004−188518号公報
【特許文献4】実開平02−106203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2のように一体ものでシャンク部の径を先端側よりも大きくする形状では、チップの拘束力が高くなるものの製造上の加工工程に時間と費用を要して製造コストがかさむという問題があった。また、特許文献3、4のように工具首部に切刃部をロウ付けする方法を切削チップに適用した場合では、特に小径の穴加工をするために工具本体の径が小さい場合には、側方に突出する切刃部のみが損傷して棒状のアーム部は無傷のまま工具寿命を迎えてしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の切削チップは、棒状のシャンク部と、該シャンク部にロウ付けされ該シャンク部よりも小径の棒状からなるアーム部と、該アーム部の先端にロウ付けされて先端視で前記アーム部の側面よりも側方へ突き出した切刃を備えた切刃部とを具備するものである。
【0007】
ここで、シャンク部の後端に傾斜面が形成されていてもよい。
【0008】
また、前記切刃部は先端視で半円よりも小さく切り取った円の一部からなり、前記切刃部の円の中心は前記アーム部の中心に対してすくい面方向に偏芯した状態でロウ付けされていてもよい。
【0009】
さらに、シャンク部、アーム部および切刃部の側面にはそれぞれフラット面が存在し、ロウ付けする際に該フラット面同士を合わせてロウ付けしてもよい。
【0010】
そして、本発明の内径加工用切削工具は、ホルダの先端から形成された挿入孔に、上記切削チップを切削に用いる切刃が形成された端部とは反対側から挿入して固定し、前記切刃にて切削するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の切削チップおよび内径加工用切削工具は、シャンク部の径が太いので拘束力が増してビビリ等の発生を抑制できるとともに、アーム部および切刃部を別体でロウ付けするので製造工程においてより低コストな加工方法を採用できるとともに、加工量を最小限に止めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の切削チップの一例を示し、(a)斜視図、(b)上面図、(c)側面図、(d)先端視図である。
【図2】図1のチップをホルダに装着した内径加工用切削工具を示し、(a)斜視図、(b)上面図である。
【図3】(a)図1の切削チップの製造工程の一部であるシャンク部とアーム部と切刃部とをロウ付けする際の構成を示す模式図、(b)ロウ付けされたアーム部と切刃部との位置を示す斜視図、(c)ロウ付けされたアーム部と切刃部との位置を示す先端視図である。
【図4】本発明の切削チップの他の一例を示し、(a)斜視図、(b)上面図、(c)側面図、(d)先端視図である。
【図5】図4のチップをホルダに装着した内径加工用切削工具を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1〜図3を用いて、本発明の一実施態様である切削チップ(以下、チップと称す。)1をホルダ20に装着して使用する内径加工用切削工具Tについて説明する。図1は本発明の切削チップの実施態様例についての(a)斜視図、(b)上面図、(c)側面図、(d)先端視図である。図2は図1の切削チップをホルダに装着した内径加工用切削工具を示し、(a)斜視図、(b)上面図である。図3は(a)図1の切削チップの製造工程の一部であるシャンク部とアーム部と切刃部とをロウ付けする際の構成を示す模式図、(b)ロウ付けされたアーム部と切刃部との位置を示す斜視図、(c)ロウ付けされたアーム部と切刃部との位置を示す先端視図である。図4は本発明の切削チップの他の実施態様例についての(a)斜視図、(b)上面図、(c)側面図、(d)先端視図である。
【0014】
図1のチップ1は、棒状のシャンク部2と、シャンク部2にロウ付けされシャンク部2よりも小径の棒状からなるアーム部3と、アーム部3の先端にロウ付けされて先端視でアーム部3の側面よりも側方へ突き出した切刃5を備えた切刃部4とを具備するものである。
【0015】
この2箇所のロウ付けによって、シャンク部2の径が太いので拘束力が増してビビリ等の発生を抑制できるとともに、アーム部3および切刃部4では製造工程における研削加工量を最小限に止めることができてコスト削減となる。また、アーム部3と切刃部4とを別々にリサイクルできるので、より資源の節約が可能となる。また、アーム部3は基本的に切削時に被削材の穴内に挿入される部分が円筒研磨されており、その後にフラット面7が加工される。これによって、チップ1がより安価に製造できる。
【0016】
なお、シャンク部2は鋼または合金鋼等の金属にて構成され、アーム部3および切刃部4は超硬合金やサーメット等の硬質合金にて構成されることが、性能とコストの両立の関係で望ましい。硬質焼結体としては、超硬合金、サーメット、セラミックス、ダイヤモンドおよびcBNが好適に適用可能であり、金属または合金鋼としては、高速度鋼や焼入鋼
も好適に適用可能である。一方、ロウ付け用合金は、Ti−CuやTi−Cu−Ag系合金であると接合強度を高めることができる。特に、活性金属であるTiを含有する活性ロウ付け用合金を用いた場合には高い接合強度でロウ付けできる。
【0017】
ここで、図1、2によれば、シャンク部2の後端にチップ1をホルダ20に取り付けるときの位置決めとなる傾斜面10が形成されており、傾斜面10をホルダ20の位置決め部材22に線接触させて固定する構成となっている。その構成であれば、傾斜面10をホルダ20に設けた位置決め部材22に直接線当たりで当接させて位置決めするので、シャンク部2の外周面に平面部を設けてこれをホルダ20の外周からネジ部材を当接させてネジ止めする方法に比べてネジが緩むこともなく、芯高さ方向および長さ方向を拘束する際の位置決め精度が高く、かつ固定時におけるチップ1の回転も抑制できる。
【0018】
また、切刃部4は先端視で半円よりも小さく切り取った円の一部からなり、切刃部4の円の中心はアーム部3の中心に対してすくい面6方向に偏芯した状態でロウ付けされていることが望ましい。これによって、切刃5にはポジの逃げ角が形成されることになって逃げ面の干渉が抑制されるので、切刃部4の加工を少なくまたは省略することができる。また、切刃部4は小さいサイズなので、成形用の金型の作製等がやりづらいが、円形状であれば比較的容易に金型を作製できて成形も容易となる。
【0019】
さらに、シャンク部2、アーム部3および切刃部4の側面にはそれぞれフラット面7が存在することが望ましく、ロウ付けする際にフラット面7同士を合わせてロウ付けできるので、ロウ付けの位置合わせが容易となる。なお、フラット面7を形成する際には、切刃5は先端視でシャンク部2の外側ではなく中心に近い側に形成される。また、図1、3によれば、シャンク部2、アーム部3および切刃部4のロウ付け面はすべて棒状体のチップ1の軸線Lに対して垂直に形成されているが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、ロウ付け強度を増すために傾斜面としてもよい。
【0020】
ここで、すくい面6に続いて切屑ポケット8が形成され、切刃5で発生した切屑を一旦溜めておき、被削材の内壁面とチップ1との隙間から徐々に切屑が排出されるという効果を有して、一時的に多量の切屑が発生した場合でも切刃5付近に切屑が詰まって切削できなくなることを抑制する。また、図1によれば、アーム部3の先端は、後方に向かって外周側に隆起する隆起面9をなし切屑ブレーカとして機能する。
【0021】
一方、図2に示されるように、内径加工用切削工具Tは、ホルダ20の先端部にチップ1を差し込む挿入孔21が設けられ、挿入孔21にチップ1を切削に用いる切刃5が形成された端部とは反対側の傾斜面10側から挿入して固定されてなる。
【0022】
そして、図2(b)においては、挿入孔21内にはチップ1の傾斜面10またはその終端角部11に当接される位置決め部材22が設けられている。ホルダ20の側面には、棒状の位置決め部材22を挿入するための位置決め部材取付孔23が多数個設けられている。そして、これら位置決め部材取付孔23のうちの1つの位置決め部材取付孔23内に棒状の位置決め部材22が挿通されている。なお、位置決め部材取付孔23が多数個設けられている理由はチップ1の突き出し量を適宜調整することができる構成とするためである。
【0023】
位置決め部材22は、例えば、ピンやねじ材といったチップ1の傾斜面10またはその終端角部11と当接するものであればよく、棒状をなしており、円柱、三角柱等の多角柱等のいずれの形状であってもよく、シャンク部2の軸方向で先端の切刃5側を向いた面があれば特に制限されない。ピンであれば容易に抜き差しできるので、チップ1の突き出し量を容易に変更することが可能である。
【0024】
ここで、図2によれば、チップ1の脱落やがたつきを抑制するために、位置決め部材22以外に、位置決め部材22よりもホルダ20の先端側でホルダ20の外周面から挿入孔21に貫通するネジ孔24を形成して、ネジ孔24にネジ部材25を螺合して、ネジ部材25の先端でチップ1のシャンク部2の外周面を押圧固定している。このとき、ネジ部材25に当接されるシャンク部2の外周面は曲面であることが望ましい。すなわち、シャンク部2がネジ部材25に平面で当接されると、製造バラツキの影響でチップ1が回転して取付いてしまい取り付け位置が狂ってしまうおそれがある。
【0025】
なお、図1のチップ1は棒状のシャンク部2の片端に切刃5を形成したものであったが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、図4に示すように、棒状のシャンク部2の両端に切刃5を形成したものであってもよい。このとき、このチップ1’をホルダ30に装着した上面図である図5に示すように、ネジ部材25はホルダ20の先端側から差し込まれて、反対の切刃5’の位置決め用として機能する傾斜面10’に当接されて固定される構成とすることもできる。なお、フラット面7’はフラット面7で代用することもできるが、シャンク部2が容易に加工できる場合にはフラット面7’をフラット面7の反対側側面に形成することが望ましい。
【0026】
また、上記切削チップ1を作製するには、まず、所定の位置に傾斜面10を設けたシャンク部2を研削加工または型抜きにより形成するとともに、シャンク部2の外周面の所定位置を円筒加工する。一方、原料粉末を成形して焼成することによりアーム部3および切刃部4を形成する。具体的な一例として、アーム部3には焼結後に円筒研磨を行い、その後でフラット面7を研削加工により形成する。切刃部4は小さいのでできるだけ単純な形状とすることが望ましく、図3によれば、切刃部4は後で加工するフラット面7を形成する前は先端視が円形の形状で作製されている。
【0027】
そして、図3(a)に示すように、シャンク部2、アーム部3、切刃部4のフラット面7を用いてこれらを位置合わせして図3(b)(c)のように載置し、その後、ロウ材により順にロウ付けする。ロウ付けの方法としては、真空ロウ付け、レーザ照射によるロウ付けの方法が挙げられる。また、ロウ付けする際に、傾斜面10をホルダ20の位置決め部材22に当接させて固定するとともに、切刃5の位置を決めてロウ付けすることにより、後述する切刃5の加工が少ないかまたは不要とすることもできる。
【0028】
その後、チップ1の傾斜面10またはその終端角部をホルダ20の位置決め部材23に当接した状態で、所望により加工を行って、図3(b)(c)のように切刃部4およびアーム部3の先端側が先端視したときにフラット面7以外が円形の形状から上部を削って、すくい面6、切屑ポケット8、隆起面9を形成する。また、切刃5の位置や形状の調整を行う。
【符号の説明】
【0029】
1、1’ 切削チップ(チップ)
2 シャンク部
3 アーム部
4 切刃部
5、5’ 切刃
6 すくい面
7 フラット面
8 切屑ポケット
9 隆起面
10、10’ 傾斜面
11 傾斜面の終端角部
20、30 ホルダ
21 挿入孔
22 位置決め部材
23 位置決め部材取付孔
24 ネジ孔
25 ネジ部材
T 内径加工用切削工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状のシャンク部と、該シャンク部にロウ付けされ該シャンク部よりも小径の棒状からなるアーム部と、該アーム部の先端にロウ付けされて先端視で前記アーム部の側面よりも側方へ突き出した切刃を備えた切刃部とを具備する切削チップ。
【請求項2】
前記シャンク部の後端に傾斜面が形成されている請求項1記載の切削チップ。
【請求項3】
また、前記切刃部は先端視で半円よりも小さく切り取った円の一部からなり、前記切刃部の円の中心は前記アーム部の中心に対してすくい面方向に偏芯した状態でロウ付けされている請求項1または2記載の切削チップ。
【請求項4】
前記シャンク部、前記アーム部および前記切刃部の側面にはそれぞれフラット面が存在し、該フラット面同士を合わせてロウ付けされている請求項1乃至3のいずれか記載の切削チップ。
【請求項5】
前記シャンク部および前記アーム部の側面の少なくとも一部が円筒研磨されている請求項1乃至4のいずれか記載の切削チップ。
【請求項6】
ホルダの先端から形成された挿入孔に、請求項1乃至5のいずれか記載の切削チップを切削に用いる切刃が形成された端部とは反対側から挿入して固定し、前記切刃にて切削する内径加工用切削工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−152871(P2012−152871A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15431(P2011−15431)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】