説明

切削チップおよび内径加工用切削工具

【課題】 切刃部に効率よく切削油を供給できるとともに、かつ低コストで容易に製造できる切削チップおよび内径加工用切削工具を提供する。
【解決手段】 棒状のシャンク部2と、シャンク部2の先端に設けられるとともに小径の棒状で長手方向に貫通孔12を有するアーム部3と、貫通孔12の少なくとも一部を露出させた状態でアーム部3の先端にロウ付けされるとともに先端側方に切刃5を備えた切刃部4とを具備する切削チップ1をホルダ20に装着した内径加工用切削工具Tである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小径の孔の内面加工に適する切削チップおよびこれを備える内径加工用切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
孔の内面を加工する内径加工用切削工具として、例えば、特許文献1のように、棒状体先端の側方に切刃を形成した形状が広く用いられている。かかる形状の切削工具においては切削抵抗の低減や冷却、切屑の排出のために、一般的に切削油を用いることが行われ、特許文献1では、ホルダ先端のスローアウェイチップを挿入した隙間から切削油を供給する構成となっている。しかしながら、この構成では、油孔から切刃までが遠いために切削油が効率的に切刃に到達せず、特に加工径が小さい場合には切削油を多量に供給しても切刃では切削油不足で加工される場合があった。
【0003】
そこで、特許文献2には、棒状部の側面に長手方向に伸びる溝部を形成して、より確実に切削油を切刃に供給する方法が開示されている。また、特許文献3、4には、ホルダの切刃により近い位置に油孔を配置した切削工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−238370号公報
【特許文献2】特開2006−262383号公報
【特許文献3】特開2007−075933号公報
【特許文献4】実開平05−051511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2のように棒状部に溝部を形成する方法では、切刃への切削油の供給効率が向上するものの、更なる効率向上が望まれていた。また、特許文献3、4の切削工具では、先端までホルダが形成されるために、小径の孔加工をすることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の切削チップは、棒状のシャンク部と、該シャンク部の先端に設けられるとともに小径の棒状で長手方向に貫通孔を有するアーム部と、前記貫通孔の少なくとも一部を露出させた状態で前記アーム部の先端にロウ付けされるとともに先端側方に切刃を備えた切刃部とを具備するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の切削チップおよび内径加工用切削工具は、アーム部に孔開け加工によって貫通孔を形成してから切刃部をロウ付けして作製できるので、加工が容易であるとともに、切削油を確実に切刃に供給できて切削加工効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の切削チップの一例を示し、(a)斜視図、(b)側面図、(c)上面図、(d)先端視図である。
【図2】図1のチップをホルダに装着した内径加工用切削工具を示し、(a)斜視図、(b)断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1、図2を用いて、本発明の一実施態様である切削チップ(以下、チップと称す。)1をホルダ20に装着して使用する内径加工用切削工具Tについて説明する。図1は本発明の切削チップの実施態様例についての(a)斜視図、(b)側面図、(c)上面図、(d)先端視図である。図2は図1の切削チップをホルダに装着した内径加工用切削工具を示し、(a)斜視図、(b)断面図である。
【0010】
図1のチップ1は、棒状のシャンク部2と、シャンク部2の先端に配置されるとともに小径の棒状のアーム部3と、アーム部3の先端にロウ付けされて先端視でアーム部3の側面よりも側方へ突き出した切刃5を備えた切刃部4とを具備するものである。
【0011】
そして、図1によれば、アーム部3には長手方向に貫通孔12が設けられ、貫通孔12は切刃5に切削油を供給する油孔として機能する。この構成によれば、切刃部5に近い位置に油孔となる貫通孔12を配置することができるために効率的な切削油の供給が可能となる。
【0012】
なお、アーム部3と切刃部4とは別々にリサイクルできて、より資源の節約が可能となるように別体として作製し、ロウ付けされたものであってもよいが、貫通孔12を容易に形成できる点ではアーム部3と切刃部4とを一体ものとして形成することもできる。
【0013】
ここで、シャンク部2およびアーム部3は鋼または合金鋼、高速度鋼や焼入鋼等の金属にて構成され、切刃部4は超硬合金、サーメット、セラミックス、ダイヤモンドおよびcBN等の硬質焼結体にて構成されることが、性能とコストの両立の関係で望ましい。一方、ロウ付けするためのロウ材は、Ti−CuやTi−Cu−Ag系合金であると接合強度を高めることができる。特に、活性金属であるTiを含有する活性ロウ材を用いた場合には高い接合強度でロウ付けできる。
【0014】
また、図1、2によれば、シャンク部2の後端には、チップ1をホルダ20に取り付けるときの位置決めとなる傾斜面10が形成されており、傾斜面10をホルダ20の位置決め部材22に線接触させて固定する構成となっている。その構成であれば、傾斜面10をホルダ20に設けた位置決め部材22に直接線当たりで当接させて位置決めするので、従来の切削チップのように、シャンク部の外周面に平面部を設けてこれをホルダの外周からネジ部材を当接させてネジ止めする方法に比べてネジが緩むこともなく、芯高さ方向および長さ方向を拘束する際の位置決め精度が高く、かつ固定時におけるチップ1の回転も抑制できる。
【0015】
なお、図2によれば、ホルダ20のチップ1が挿入される挿入孔21の後方には、ホルダ20を取り付ける切削装置(図示せず)から切削油が供給される構成となっており、挿入孔21の後方は切削油で充填されている。そして、この挿入孔21に充填された切削油が貫通孔12に流れ込んでアーム部3の先端から流れ出す構成となっている。
【0016】
さらに、シャンク部2とアーム部3、および切刃部4の側面にはそれぞれフラット面7が存在することが望ましく、ロウ付けする際にフラット面7同士を合わせてロウ付けできるので、ロウ付けの位置合わせが容易となる。なお、フラット面7を形成する際には、切刃5は先端視でシャンク部2の外側ではなく中心に近い側に形成される。また、アーム部3と切刃部4とのロウ付け面は図1のように棒状体のチップ1の軸線Lに対して垂直に形成されている構成に限定されるものではなく、ロウ付け強度を増すために傾斜面としてもよい。
【0017】
ここで、すくい面6に続いて切屑ポケット8が形成され、切刃5で発生した切屑を一旦溜めておき、被削材の内壁面とチップ1との隙間から切削油の循環とともに徐々に切屑が排出されるという効果を有して、一時的に多量の切屑が発生した場合でも切刃5付近に切屑が詰まって切削できなくなることを抑制する。なお、切刃部4の切屑ポケット8が切刃5側で下がる向きで、切刃部4がホルダ20に固定される構成とすることによって、切削油がより効率よく切刃に供給される。また、この構成では、切刃部4は先端視で半円よりも小さく切り取った円の一部からなり、切刃部4の円の中心はアーム部3の中心に対してすくい面6方向に偏芯した状態でロウ付けされていることが望ましい。これによって、切刃5にはポジの逃げ角が形成されることになって逃げ面の干渉が抑制されるので、切刃部4の加工を少なくまたは省略することができる。また、切刃部4は小さいサイズなので、成形用の金型の作製等がやりづらいが、円形状であれば比較的容易に金型を作製できて成形も容易となる。
【0018】
また、図1(d)に示すように、貫通孔12は先端視で円形からなるとともに、貫通孔12の半円のみを露出させた状態でアーム部3の先端に切刃部4がロウ付けされている。この構成であれば、極小内径の加工をするためにアーム部3の断面が小さくなっても、比較的大きな貫通孔12を形成できるとともに、貫通孔12から効率よく切削油を切屑ポケット8の表面に供給することができる。
【0019】
一方、図2に示されるように、内径加工用切削工具Tは、ホルダ20の先端部にチップ1を差し込む挿入孔21が設けられ、挿入孔21にチップ1を切削に用いる切刃5が形成された端部とは反対側の傾斜面10側から挿入して固定されてなる。なお、上述したとおり、図2によれば、ホルダ20の挿入孔21のチップ1が挿入された部分よりも後方は切削油で充填されているとともに、これに連通する貫通孔12にも切削油が流れ込んでアーム部3の先端から流れ出す構成となっている。
【0020】
また、図2(b)においては、挿入孔21内にはチップ1の傾斜面10に当接される位置決め部材22が設けられている。ホルダ20の側面には、棒状の位置決め部材22を挿入するための位置決め部材取付孔23が多数個設けられている。そして、これら位置決め部材取付孔23のうちの1つの位置決め部材取付孔23内に棒状の位置決め部材22が挿通されている。なお、位置決め部材取付孔23が多数個設けられている理由はチップ1の突き出し量を適宜調整することができる構成とするためである。
【0021】
位置決め部材22は、例えば、ピンやねじ材といったチップ1の傾斜面10またはその終端角部11と当接するものであればよく、棒状をなしており、円柱、三角柱等の多角柱等のいずれの形状であってもよく、シャンク部2の軸方向で先端の切刃5側を向いた面があれば特に制限されない。ピンであれば容易に抜き差しできるので、チップ1の突き出し量を容易に変更することが可能である。
【0022】
ここで、図2によれば、チップ1の脱落やがたつきを抑制するために、位置決め部材22以外に、位置決め部材22よりもホルダ20の先端側で、ホルダ20の外周面から挿入孔21に貫通するネジ孔24を形成して、ネジ孔24にネジ部材25を螺合して、ネジ部材25の先端でインサート1のシャンク部3の外周面を押圧固定している。このとき、ネジ部材25に当接されるシャンク部3の外周面は曲面であってもよいが、ネジ部材25の進行方向と垂直な方向に対する傾きが±1°以内の平面であることが望ましい。すなわち、シャンク部3がネジ部材25に曲面で当接されることにより、製造バラツキの影響でインサート1が回転して取付くことがなく取り付け位置精度が高いが、傾きが±1°以内の平面であればネジ部材25の締め付け具合を調整することでインサート1の回転を抑制することができるとともに、曲面と比較して締め付け強度が向上する。
【0023】
また、上記切削チップ1を作製するには、まず、所定の位置に傾斜面10を設けたシャンク部2を研削加工または型抜きにより形成するとともに、シャンク部2の外周面の所定位置を円筒加工する。一方、原料粉末を成形して焼成することによりアーム部3および切刃部4を形成する。具体的な一例として、アーム部3には焼結後に円筒研磨を行い、その後でフラット面7を研削加工により形成する。切刃部4は小さいのでできるだけ単純な形状とすることが望ましい。
【符号の説明】
【0024】
1 切削チップ(チップ)
2 シャンク部
3 アーム部
4 切刃部
5 切刃
6 すくい面
7 フラット面
8 切屑ポケット
10 傾斜面
11 傾斜面の終端角部
12 貫通孔
20 ホルダ
21 挿入孔
22 位置決め部材
23 位置決め部材取付孔
24 ネジ孔
25 ネジ部材
26 切削油供給口
27 切削油供給通路
T 内径加工用切削工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状のシャンク部と、該シャンク部の先端に設けられるとともに小径の棒状で長手方向に貫通孔を有するアーム部と、前記貫通孔の少なくとも一部を露出させた状態で前記アーム部の先端にロウ付けされるとともに先端側方に切刃を備えた切刃部とを具備する切削チップ。
【請求項2】
前記切刃部が硬質焼結体からなるとともに、前記シャンク部および前記アーム部が金属または合金からなる請求項1記載の切削チップ。
【請求項3】
前記貫通孔は先端視で円形からなり、該貫通孔の半円のみを露出させた状態で前記アーム部の先端に前記切刃部がロウ付けされる請求項1または2記載の切削チップ。
【請求項4】
ホルダの先端から形成された挿入孔に、請求項1乃至3のいずれか記載の切削チップを切削に用いる切刃が形成された端部とは反対側から挿入して固定された内径加工用切削工具。
【請求項5】
前記切刃部に切屑ポケットが形成されており、該切屑ポケットが前記切刃側で下がる向きで前記切削チップが前記ホルダに固定されている請求項4記載の内径加工用切削工具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−94857(P2013−94857A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237450(P2011−237450)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】