切削加工方法および総形回転切削工具
【課題】荒加工溝に仕上げ加工を行う際の切削トルクを低減し、溝のタオレを所定の許容範囲内に維持しつつ切削速度や送り速度を速くして高能率加工を行うことができるようにする。
【解決手段】荒加工工程で荒加工溝44の底部に形成される凹所42が、仕上げ加工工程で底刃60によって形成される仕上げ加工底面の目標位置Pと略一致するように、荒加工用底刃40が仕上げ加工用底刃60と一致する位置まで突き出しているため、仕上げ加工用クリスマスカッター50による仕上げ加工時の切削トルクが低減され、溝のタオレを所定の許容範囲内に維持しつつ加工能率を向上させることができる。また、仕上げ加工用底刃60のすかし角θ2が、荒加工用底刃40のすかし角θ1よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されているため、仕上げ加工用底刃60のチッピングを回避しつつ切削トルクが一層低減され、加工能率を一層向上させることができる。
【解決手段】荒加工工程で荒加工溝44の底部に形成される凹所42が、仕上げ加工工程で底刃60によって形成される仕上げ加工底面の目標位置Pと略一致するように、荒加工用底刃40が仕上げ加工用底刃60と一致する位置まで突き出しているため、仕上げ加工用クリスマスカッター50による仕上げ加工時の切削トルクが低減され、溝のタオレを所定の許容範囲内に維持しつつ加工能率を向上させることができる。また、仕上げ加工用底刃60のすかし角θ2が、荒加工用底刃40のすかし角θ1よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されているため、仕上げ加工用底刃60のチッピングを回避しつつ切削トルクが一層低減され、加工能率を一層向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切削加工方法および総形回転切削工具に係り、特に、荒加工を行った後に仕上げ加工を行う際の切削トルクを低減して高能率加工を行うことができるようにする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン等のタービン翼車を回転軸に取り付けるための取付構造として、図8に示すように回転軸10の外周部に形成された多数のツリー形溝12にタービン翼車の羽根14を1枚ずつ嵌合するようにしたものがある。図9は、ツリー形溝12を拡大して示す断面図で、溝中心Sに対して左右対称で且つ逆クリスマスツリーのように溝深さ方向(図の下方向)において溝幅が滑らかに増減しながら徐々に狭くなっており、両側の側面16a、16bには、それぞれ複数の凹部18および凸部20が交互に連続して設けられている。そして、このようなツリー形溝12を切削加工する際には、図10に示すように目的とするツリー形溝12に近似する荒加工溝22を荒加工用総形回転切削工具によって切削加工した後、仕上げ加工用総形回転切削工具を用いてその荒加工溝22の表層部を所定の仕上げ代24だけ切削除去することにより、目的とするツリー形溝12となるように仕上げ加工を行うようにしているのが普通である。特許文献1に記載の加工方法はその一例で、荒加工溝22を単一或いは複数の荒加工用総形回転切削工具を用いて切削加工する場合について例示されている。
【特許文献1】特開2000−326133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来の仕上げ加工工程では、荒加工溝の両側面および底面の全域を所定の仕上げ代だけ切削除去するようになっていたため、切削トルク(切削抵抗)が大きくて溝のタオレが発生し易く、切削速度や送り速度を速くして高能率加工を行うことが難しいという問題があった。
【0004】
なお、「溝のタオレ」は、荒加工溝に対して仕上げ加工を行う場合、両側の側面の一方はアップカットで他方はダウンカットになるため、その切削抵抗が相違し、溝の長手方向に対して直角な断面において、例えば図6に破線で示すように溝の底部側がアップカット側(左側)へ傾斜する現象である。図6は、シャンク側(図の上方)から見て工具を右まわりに回転駆動して切削加工を行う場合で、ツリー形溝を簡略化して示した図である。
【0005】
また、上記課題は、ツリー形溝を切削加工する場合に限らず、外周切れ刃の刃先径が工具先端側へ向かうに従って変化している種々の総形回転切削工具を用いて溝加工を行う場合には同様に発生する。被加工物の角部に肩削りを行う場合も、切削抵抗によって工具のタオレが発生し易く、上記と同様の問題が生じる。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、荒加工を行った後に仕上げ加工を行う際の切削トルク(切削抵抗)を低減し、溝や工具のタオレを所定の許容範囲内に維持しつつ切削速度や送り速度を速くして高能率加工を行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 荒加工用総形回転切削工具を軸心まわりに回転駆動しつつ被加工物に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させることにより、荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃によって荒加工を行う荒加工工程と、(b) 仕上げ加工用総形回転切削工具を軸心まわりに回転駆動しつつ前記被加工物に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させることにより、前記荒加工工程で形成された荒加工面に仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃によって仕上げ加工を行う仕上げ加工工程と、を有する切削加工方法において、(c) 前記荒加工工程で前記荒加工用底刃によって形成される荒加工底面が、前記仕上げ加工工程で前記仕上げ加工用底刃によって形成される仕上げ加工底面と一致するように、それ等の荒加工用底刃および仕上げ加工用底刃の寸法を設定する一方、(d) 前記仕上げ加工用底刃のすかし角を、前記荒加工用底刃のすかし角よりも大きくし、且つ4°〜19°の範囲内としたことを特徴とする。
【0008】
第2発明は、第1発明の切削加工方法において、前記荒加工用底刃は、前記仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出していることを特徴とする。
【0009】
第3発明は、(a) 軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃によって荒加工を行う荒加工用総形回転切削工具と、(b) 軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、前記荒加工用総形回転切削工具によって形成された荒加工面に仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃によって仕上げ加工を行う仕上げ加工用総形回転切削工具と、を有する総形回転切削工具において、(c) 前記荒加工用底刃は前記仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出している一方、(d) 前記仕上げ加工用底刃のすかし角は、前記荒加工用底刃のすかし角よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されていることを特徴とする。
【0010】
第4発明は、第3発明の総形回転切削工具において、前記荒加工用外周切れ刃および前記仕上げ加工用外周切れ刃は、何れも工具先端側へ向かうに従って刃先径が増減させられた凹凸部を備えており、側面に凹凸部を有する凹凸溝を切削加工することを特徴とする。
【0011】
第5発明は、第3発明の総形回転切削工具において、前記荒加工用外周切れ刃および前記仕上げ加工用外周切れ刃は、何れも工具先端側へ向かうに従って刃先径が増減しながら徐々に小径とされており、逆クリスマスツリー形状のツリー形溝を切削加工することを特徴とする。
【0012】
第6発明は、軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃によって荒加工を行う荒加工用総形回転切削工具において、前記荒加工用底刃は、前記荒加工後に仕上げ加工を行う仕上げ加工用総形回転切削工具の仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出していることを特徴とする。
【0013】
第7発明は、軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃によって仕上げ加工を行う仕上げ加工用総形回転切削工具において、前記仕上げ加工用底刃のすかし角は、前記仕上げ加工に先立って荒加工を行う荒加工用総形回転切削工具の荒加工用底刃のすかし角よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1発明の切削加工方法においては、荒加工工程で荒加工用底刃によって形成される荒加工底面が、仕上げ加工工程で仕上げ加工用底刃によって形成される仕上げ加工底面と一致するように、それ等の荒加工用底刃および仕上げ加工用底刃の寸法が設定されているため、仕上げ加工用総形回転切削工具によって仕上げ加工が行われる際の切削トルク(切削抵抗)が低減され、溝や工具のタオレを所定の許容範囲内に維持しつつ、切削速度や送り速度を速くして高能率加工を行うことができる。また、仕上げ加工用底刃のすかし角が、荒加工用底刃のすかし角よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内とされているため、仕上げ加工用底刃のチッピングを回避しつつ仕上げ加工が行われる際の切削トルクが一層低減され、加工能率を一層向上させることができる。
【0015】
第2発明では、荒加工用底刃を仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突出させることにより、荒加工底面を仕上げ加工底面と一致させるようになっているため、仕上げ加工用総形回転切削工具として従来のものをそのまま利用し、底刃のすかし角を変更するだけで良く、安価に構成できる。
【0016】
なお、荒加工用底刃が仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出すため、荒加工用総形回転切削工具の切削量が多くなり、負荷が大きくなるが、一般に荒加工用総形回転切削工具の切削量は元々大きいため、殆ど影響を受けない。
【0017】
第3発明の総形回転切削工具、第6発明の荒加工用総形回転切削工具、第7発明の仕上げ加工用総形回転切削工具は、何れも第1発明、第2発明の切削加工方法に好適に用いられるもので、実質的に第1発明、第2発明と同様の作用効果が得られる。
【0018】
第4発明は、側面に凹凸部を有する凹凸溝を切削加工する場合で、第5発明は、逆クリスマスツリー形状のツリー形溝を切削加工する場合であり、一般にその側面の凹凸によってタービン翼車等の嵌合部材が拘束(位置決め)されるとともに溝底部分には隙間が形成されるため、溝底寸法(溝深さ)に関しては予め定められた寸法よりも大きければ良く、荒加工底面がそのまま凹凸溝やツリー形溝の底面とされても差し支えない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、第4発明や第5発明のように、側面に凹凸部を有する凹凸溝を切削加工したり、逆クリスマスツリー形状のツリー形溝を切削加工したりする切削加工方法および総形回転切削工具に好適に適用されるが、テーパエンドミルのように外周切れ刃の径寸法が一定の変化率で変化している総形回転切削工具や、その総形回転切削工具を用いた切削加工方法にも適用され得る。被加工物の角部に肩削り加工を行う場合にも適用され得る。
【0020】
第4発明の外周切れ刃の凹凸部は、刃先径が小さくなってから大きくなる凹部、刃先径が大きくなってから小さくなる凸部の何れであっても良く、その凹部および凸部の両方を備えていても良い。なお、第5発明のツリー形溝は、第4発明の凹凸溝の一実施態様と見做すことができる。
【0021】
荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃と、仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃は、荒加工用総形回転切削工具のものか仕上げ加工用総形回転切削工具のものかを区別するためのもので、必ずしもそれ等の外周切れ刃や底刃の形状等が荒加工用と仕上げ加工用とで異なっていることを意味するものではない。但し、一般には加工条件の相違などですくい角や逃げ角、切り屑排出溝のねじれ角等が相違しているとともに、荒加工用には必要に応じてニックやラフィング等が設けられるなど、種々の相違点を有する。
【0022】
荒加工用総形回転切削工具は、目的形状に近似する荒加工面、例えば荒加工溝を切削加工するためのもので、単一の工具でその荒加工溝等を一度に切削加工するものでも良いが、複数の工具を用いて複数工程で切削加工する場合でも良い。複数工程で荒加工溝等の荒加工面を切削加工する場合は、その荒加工溝の溝底等の底面を切削加工するもの、例えば荒加工の最終工程で用いられる荒加工用総形回転切削工具に本発明は適用される。仕上げ加工用総形回転切削工具は、荒加工面の表層部を所定の仕上げ代(例えば0.1〜1.0mm程度)だけ切削除去することにより、目的とする溝や肩削り等を高い寸法精度で仕上げるためのものである。
【0023】
第1発明の切削加工方法では、少なくとも荒加工底面と仕上げ加工底面とが一致するようになっておれば良く、例えば荒加工用底刃が仕上げ加工用底刃と一致する位置まで突出させられるが、仕上げ加工用底刃の寸法を小さくして荒加工用底刃と一致させるようにしても良い。荒加工底面と仕上げ加工底面とを完全に一致させることは困難で、荒加工用底刃や仕上げ加工用底刃の寸法公差などに応じて所定の誤差(例えば±0.1mm程度)が生じ、仕上げ加工用底刃によって所定の切削加工が行われることは差し支えない。許容寸法公差を考慮して、例えば荒加工用底刃が仕上げ加工用底刃よりもその許容寸法公差分だけ突き出すように構成したり、逆に最小限の仕上げ加工が常に行われるように、仕上げ加工用底刃が荒加工用底刃よりも許容寸法公差分だけ突き出すように構成したりすることも可能で、許容寸法公差の範囲内で両底刃の軸方向位置がずれていても差し支えない。この場合も、荒加工底面と仕上げ加工底面とを一致させたり、荒加工用底刃と仕上げ加工用底刃とを一致させたりする一態様である。
【0024】
また、仕上げ加工底面の全域で荒加工底面と一致させるようにすることが望ましいが、仕上げ加工底面の少なくとも一部が荒加工底面と一致させられ、仕上げ加工時の切削トルクが軽減されるようになっておれば良い。底面だけでなく、側面の一部についても仕上げ加工が軽減されるように荒加工することも可能である。
【0025】
荒加工用総形回転切削工具の荒加工用底刃を軸方向へ突出させて仕上げ加工用底刃と一致させる場合、従来の仕上げ加工用総形回転切削工具を利用して、その仕上げ加工用底刃のすかし角を変更するだけで良いが、切削トルクが軽減されることから必要に応じて他の種々の変更を加えることも可能である。
【0026】
仕上げ加工用底刃のすかし角は、3°以下になると切削トルクが大きくなって溝のタオレ等が生じ易くなる一方、20°以上になると底刃の外周コーナー付近でチッピングが生じ易くなるため、4°〜19°の範囲内で設定することが望ましい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は荒加工用クリスマスカッター30を説明する図で、図2は仕上げ加工用クリスマスカッター50を説明する図であり、何れも前記図9のツリー形溝12を切削加工するためのもので、軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物(回転軸10)に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより所定の溝を切削加工する。すなわち、荒加工用クリスマスカッター30は荒加工用総形回転切削工具に相当し、前記荒加工溝22を形成するためのものであるが、本実施例では荒加工溝22の底部に凹所42が設けられた形状の荒加工溝44を切削加工する。この荒加工用クリスマスカッター30は、荒加工溝44を一工程で切削加工するもので、荒加工溝44の内壁面は荒加工面に相当し、凹所42の底面は荒加工底面に相当する。また、仕上げ加工用クリスマスカッター50は仕上げ加工用総形回転切削工具に相当し、前記ツリー形溝12を仕上げ加工する従来の工具と基本的に同一形状を成している。
【0028】
図1の(a) は、荒加工用クリスマスカッター30を軸心と直角な方向から見た一部を切り欠いた正面図で、(b) はこの荒加工用クリスマスカッター30によって切削加工される荒加工溝44の断面図である。荒加工用クリスマスカッター30は、シャンク32および刃部34を一体に備えており、刃部34は、加工すべき荒加工溝44の凹凸形状に対応する逆クリスマスツリー形状を成しており、工具先端側(図の下方向)へ向かうに従って径寸法が滑らかに増減しながら徐々に小径とされている。刃部34には、軸心まわりに等角度間隔で複数(例えば3本)の切り屑排出溝36が設けられ、その切り屑排出溝36に沿って複数の外周切れ刃38、およびその外周切れ刃38に連続する底刃40が設けられている。それ等の外周切れ刃38および底刃40は、荒加工用クリスマスカッター30がシャンク32側から見て右まわりに回転駆動されることにより切削加工を行うもので、切り屑排出溝36は所定のねじれ角で右まわりに傾斜している。
【0029】
上記外周切れ刃38は、荒加工用外周切れ刃に相当し、刃部34の形状に対応して工具先端側へ向かうに従って刃先径が滑らかに増減しながら徐々に小径とされているとともに、逃げ面に細かな波形状の凹凸が設けられたラフィング切れ刃にて構成されている。本実施例では外周切れ刃38の全体が、軸方向において刃先径が滑らかに増減する凹凸部に相当する。また、底刃40は、荒加工用底刃に相当し、前記凹所42を切削加工することができるように、工具先端側へ突き出すように設けられている。図1の(c) は、工具先端部分の外周切れ刃38および底刃40の回転軌跡形状を示す拡大図で、底刃40は、外周切れ刃38に接続される外周側端部から軸心側へ向かうに従って所定のすかし角θ1で凹むように形成されている。すかし角θ1は、一般に30′〜2°30′程度の範囲内で設定され、本実施例では約1°である。
【0030】
図2の(a) は、仕上げ加工用クリスマスカッター50を軸心と直角な方向から見た一部を切り欠いた正面図で、(b) はこの仕上げ加工用クリスマスカッター50により前記荒加工溝44に仕上げ加工が行われることによって除去される仕上げ代62を示す断面図で、(c) は(b) におけるIIC部の拡大図である。この仕上げ加工用クリスマスカッター50は、シャンク52および刃部54を一体に備えており、刃部54は、加工すべきツリー形溝12の凹凸形状に対応する逆クリスマスツリー形状を成しており、工具先端側(図の下方向)へ向かうに従って径寸法が滑らかに増減しながら徐々に小径とされている。刃部54には、軸心まわりに等角度間隔で複数(例えば4本)の切り屑排出溝56が設けられ、その切り屑排出溝56に沿って複数の外周切れ刃58、およびその外周切れ刃58に連続する底刃60が設けられている。それ等の外周切れ刃58および底刃60は、仕上げ加工用クリスマスカッター50がシャンク52側から見て右まわりに回転駆動されることにより切削加工を行うように設けられており、切り屑排出溝56は直溝である。
【0031】
上記外周切れ刃58は、仕上げ加工用外周切れ刃に相当し、刃部54の形状に対応して工具先端側へ向かうに従って刃先径が滑らかに増減しながら徐々に小径とされており、全体として凹凸形状を成している。この外周切れ刃58によって切削加工される仕上げ代62は、例えば0.1mm〜1.0mm程度の範囲内で、本実施例では0.3mm程度に設定されている。また、底刃60は、仕上げ加工用底刃に相当するが、図2の(c) から明らかなように、前記凹所42が形成された部分では、仕上げ代62が略0になるように底刃60による仕上げ加工底面とその凹所42の底面とが略一致させられるようになっている。図2の(c) において、符号Pは、仕上げ加工用クリスマスカッター50の底刃60の設計上の目標位置、すなわち仕上げ加工底面の目標位置であり、凹所42を切削加工する前記荒加工用クリスマスカッター30の底刃40は、この目標位置Pと一致するように突出寸法が定められている。なお、現実には、それ等の底刃40、60の許容寸法公差などにより所定の誤差(例えば±0.1mm程度)が生じることが避けられず、両底刃40および60の位置が完全に一致している必要はない。
【0032】
上記荒加工用の底刃40は、仕上げ加工用の外周切れ刃58と底刃60との境界Q付近で、その底刃60に達するように設けられており、その底刃40によって形成される凹所42は、仕上げ加工用の底刃60によって形成される仕上げ加工底面の略全域で、その仕上げ加工底面と略一致させられるように形成される。図2の(c) は切削形状であるが、外周切れ刃58と底刃60との境界Qに対応する位置に同一の符号Qを付したものである。また、図2の(d) は、仕上げ加工用クリスマスカッター50の工具先端部分における外周切れ刃58および底刃60の回転軌跡形状を示す拡大図で、底刃60は、外周切れ刃58との境界Qから軸心側へ向かうに従って所定のすかし角θ2で凹むように形成されている。このすかし角θ2は、仕上げ加工用クリスマスカッター50の切削抵抗が低減されるように、荒加工用クリスマスカッター30の底刃すかし角θ1よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されている。
【0033】
図3は、上記クリスマスカッター30および50を用いて切削加工されたツリー形溝64を示す断面図で、基本的には前記ツリー形溝12と同じ形状で、両側の側面66a、66bには対称的に前記複数の凹部18および凸部20が交互に連続して設けられている。但し、底刃40および60の寸法公差で荒加工用の底刃40の方が突き出す場合には、ツリー形溝64の底面に僅かな凹みが生じる可能性がある。
【0034】
図5の(a) は、以上のように構成された荒加工用クリスマスカッター30および仕上げ加工用クリスマスカッター50を用いてツリー形溝64を切削加工する場合(本発明による加工)と、前記図10のように荒加工、仕上げ加工共に溝底部分まで切削加工が行なわれるようにしてツリー形溝12を形成する場合(従来の加工)について、切削性能を調べた結果を説明する図である。また、図5の(b) は、荒加工用クリスマスカッター30および仕上げ加工用クリスマスカッター50を用いてツリー形溝64を切削加工する場合に、仕上げ加工用クリスマスカッター50の底刃60のすかし角θ2を種々変更して切削性能を調べた結果を説明する図である。何れの試験においても、図4の(a) の試験条件で試験を行い、(b) に示す評価基準に従って評価を行なった。
【0035】
図4の(a) において、「試験クリスマスカッターの径寸法」の欄の最大径はシャンク32、52に最も近い位置の凸部(凹部18に対応)における径寸法で、最小径は、最も先端側の凹部(凸部20に対応)における径寸法であり、試験条件の最下欄に示されるように「仕上げ代」が外周で0.3mmであることから、仕上げ加工用クリスマスカッター50は荒加工用クリスマスカッター30に比較して径寸法が0.6mmだけ大きくなる。また、「溝深さ」は、実際の加工深さの意味で底刃40、60までの寸法であり、荒加工用クリスマスカッター30、仕上げ加工用クリスマスカッター50共に27.5mmで、設計上は仕上げ加工用クリスマスカッター50の底刃60の仕上げ代62は0である。
【0036】
一方、図5の(a) の性能試験で実施する従来の加工で用いる仕上げ加工用クリスマスカッターは、基本形状は本発明の加工で用いる仕上げ加工用クリスマスカッター50と同じであるが、底刃のすかし角θ2が、本発明の仕上げ加工用クリスマスカッター50ではθ2=5°であるのに対し、従来の仕上げ加工用クリスマスカッターはθ2=1°である点が相違する(図5の(a) 参照)。また、従来の加工で用いる荒加工用クリスマスカッターは、本発明の加工で用いる荒加工用クリスマスカッター30に比較して底刃40が突き出しておらず、仕上げ加工用クリスマスカッターの底刃によっても0.3mmの仕上げ代で仕上げ加工が行われる点が相違する。被削材質や切削速度、送り速度等の他の試験条件は本発明の加工と同じである。
【0037】
図5の(a) 、(b) の試験結果において、「振動」、「切削音」、および「仕上げ面」は切れ味に関係するもので、「振動」は機械全体の振動の大きさ、「切削音」は音質や音量、「仕上げ面」は加工面の面状態であり、何れも試験者の感覚で比較評価した。「切削トルク」は、切削加工中に仕上げ加工用クリスマスカッターを回転駆動するモータトルクの最大値である。「溝タオレ(mm)」は、図6に示すように、切削加工されたツリー形溝64或いは12の最小径部におけるずれ寸法ΔX1 、ΔX2 の平均値で、この「溝タオレ」は本実施例では0.05mmが限界値、すなわち許容最大値とされている。なお、図6のツリー形溝64(12)は、幅寸法の増減を省略して両側面を単なる傾斜面として示した概略図である。
【0038】
図5の(a) の試験結果は、本発明および従来の何れの場合も、仕上げ加工用クリスマスカッターにより仕上げ加工を行った時のもので、仕上げ加工時に底刃の仕上げ代が無いとともにすかし角θ2=5°の本発明では、「切削トルク」が2.5kNで従来の60%以下になるとともに、「振動」、「切削音」、および「仕上げ面」の評価が何れも「○」または「◎」で優れた切れ味が得られ、且つ「溝タオレ」が0.01mmと小さく、実用上満足できる切削性能で高能率加工(切削速度:35m/min、送り速度:60mm/min)を行なうことができる。これに対し、仕上げ加工時に底刃で所定の仕上げ代(0.3mm)で仕上げ加工が行なわれるとともにすかし角θ2=1°の従来加工では、「切削トルク」が4.5kNと大きいとともに、「振動」、「切削音」、および「仕上げ面」の評価が何れも「△」で、且つ「溝タオレ」が0.07mmで限界値を超えており、図4(a) の加工条件で仕上げ加工を行なうことはできない。
【0039】
また、図5の(b) の試験結果のうち、網掛けを付した欄は底刃60のすかし角θ2が4°〜19°の範囲を逸脱している領域であり、すかし角θ2が4°よりも小さいと、「振動」、「仕上げ面」等の切削性能が悪くなるとともに「溝タオレ」が大きくなる。一方、すかし角θ2が19°を超えると、底刃60の外周コーナー付近にチッピングが生じて「仕上げ面」が悪くなる。このため、すかし角θ2は、4°〜19°の範囲内が適当である。
【0040】
このように、本実施例の荒加工用クリスマスカッター30および仕上げ加工用クリスマスカッター50を用いた溝加工方法によれば、荒加工工程で底刃40によって形成される凹所42が、仕上げ加工工程で底刃60によって形成される仕上げ加工底面の目標位置Pと略一致するように、荒加工用の底刃40が仕上げ加工用の底刃60と一致する位置まで突き出すように設けられているため、仕上げ加工用クリスマスカッター50によって仕上げ加工が行われる際の切削トルク(切削抵抗)が低減され、溝のタオレを所定の許容範囲内に維持しつつ、切削速度や送り速度を速くして高能率加工を行うことができる。
【0041】
また、仕上げ加工用底刃60のすかし角θ2が、荒加工用底刃40のすかし角θ1よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されているため、仕上げ加工用底刃60のチッピングを回避しつつ仕上げ加工が行われる際の切削トルクが一層低減され、加工能率を一層向上させることができる。
【0042】
また、本実施例では荒加工用の底刃40を仕上げ加工用の底刃60の目標位置Pと一致する位置まで軸方向へ突出させることにより、荒加工溝44の底部に凹所42を形成し、その凹所42を仕上げ加工用の底刃60によって形成される仕上げ加工底面と一致させるようになっているため、仕上げ加工用クリスマスカッター50として従来のものをそのまま利用し、底刃60のすかし角θ2を変更するだけで良く、安価に構成できる。
【0043】
その場合に、荒加工用底刃40が仕上げ加工用底刃60と略一致する位置まで軸方向へ突き出すため、荒加工用クリスマスカッター30の切削量が多くなり、負荷が大きくなるが、荒加工用クリスマスカッター30は荒加工溝44を一工程で切削加工するもので、その切削量が元々大きいため、殆ど影響を受けない。
【0044】
また、本実施例は、逆クリスマスツリー形状のツリー形溝64を切削加工する場合で、そのツリー形溝64の側面66a、66bには凹部18や凸部20が設けられ、そのツリー形溝64に嵌合されるタービン翼車の羽根14はその凹凸によって拘束(位置決め)されるとともに溝底部分には隙間が形成されるため、溝底寸法(溝深さ)に関しては予め定められた寸法よりも大きければ良く、荒加工用底刃40によって形成された凹所42の底面がそのままツリー形溝64の底面とされても差し支えない。
【0045】
なお、上記実施例では逆クリスマスツリー形状のツリー形溝64を切削加工する場合について説明したが、他の溝形状の溝加工にも本発明は適用され得る。図7は、その一例を説明する図で、(a) は被加工物70に形成された溝72の最終形状を示す断面図で、(b) は、荒加工用総形回転切削工具によって形成される荒加工溝74と、仕上げ加工用総形回転切削工具によりその荒加工溝74に仕上げ加工が行われることによって除去される仕上げ代76とを示す断面図で、(c) は(b) における VIIC部の拡大図である。この溝72は、溝底近傍に溝幅が滑らかに円弧状に膨出している膨出部80を備えており、荒加工用および仕上げ加工用の総形回転切削工具は、この膨出部80に対応して外周切れ刃の刃先径が膨出する凹凸部を備えている。
【0046】
そして、荒加工用総形回転切削工具の底刃(荒加工用底刃)は、仕上げ加工用総形回転切削工具の底刃(仕上げ加工用底刃)の目標位置Pと略一致する位置まで軸方向へ突き出しており、荒加工溝74の底部には、仕上げ加工底面と略一致する位置に凹所82が設けられるようになっている。また、仕上げ加工用総形回転切削工具の底刃のすかし角は、荒加工用総形回転切削工具の底刃のすかし角よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されている。これにより、仕上げ加工時の切削トルクが低減されるとともに加工能率を向上させることができるなど、前記実施例と同様の作用効果が得られる。
【0047】
また、上記各実施例ではツリー形溝64、溝72を切削加工する場合について説明したが、例えばそれ等のツリー形溝64、溝72の溝中心Sの片側の形状の肩削り加工を被加工物の角部に施す場合にも、本発明は適用され得る。
【0048】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明方法に好適に用いられる荒加工用クリスマスカッターの一例を説明する図で、(a) は正面図、(b) は荒加工溝の断面図、(c) は底刃に設けられたすかし角θ1を説明する図である。
【図2】本発明方法に好適に用いられる仕上げ加工用クリスマスカッターの一例を説明する図で、(a) は正面図、(b) は仕上げ加工による仕上げ代を示す断面図、(c) は(b) におけるIIC部の拡大図、(d) は底刃に設けられたすかし角θ2を説明する図である。
【図3】図1および図2のクリスマスカッターを用いて切削加工されるツリー形溝を説明する図で、荒加工溝の溝形状と比較して示す断面図である。
【図4】図1および図2のクリスマスカッターを用いて切削性能試験を行なう際の(a) 試験条件および(b) 評価基準を説明する図である。
【図5】図4の(a) の試験条件に従って切削性能試験を行い、(b) の評価基準に従って評価した結果を説明する図で、(a) は従来の加工と比較した場合、(b) は仕上げ加工用底刃のすかし角を種々変更した場合である。
【図6】図5の「溝タオレ」を説明する図である。
【図7】本発明の溝加工方法が好適に適用される他の溝形状を説明する図で、(a) は溝の最終形状を示す断面図、(b) は荒加工溝と仕上げ加工による仕上げ代とを示す断面図、(c) は(b) における VIIC部の拡大図である。
【図8】タービン翼車の羽根を取り付けるための多数のツリー形溝を示す図である。
【図9】図8のツリー形溝を拡大して示す断面図である。
【図10】図9のツリー形溝を切削加工する際の荒加工溝と仕上げ加工による仕上げ代とを示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10:回転軸(被加工物) 30:荒加工用クリスマスカッター(荒加工用総形回転切削工具) 38:外周切れ刃(荒加工用外周切れ刃) 40:底刃(荒加工用底刃) 42、82:凹所(荒加工底面) 44、74:荒加工溝(荒加工面) 50:仕上げ加工用クリスマスカッター(仕上げ加工用総形回転切削工具) 58:外周切れ刃(仕上げ加工用外周切れ刃) 60:底刃(仕上げ加工用底刃) 64:ツリー形溝(凹凸溝) 70:被加工物 72:溝(凹凸溝) P:仕上げ加工用底刃の目標位置(仕上げ加工底面) θ2:仕上げ加工用底刃のすかし角
【技術分野】
【0001】
本発明は切削加工方法および総形回転切削工具に係り、特に、荒加工を行った後に仕上げ加工を行う際の切削トルクを低減して高能率加工を行うことができるようにする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン等のタービン翼車を回転軸に取り付けるための取付構造として、図8に示すように回転軸10の外周部に形成された多数のツリー形溝12にタービン翼車の羽根14を1枚ずつ嵌合するようにしたものがある。図9は、ツリー形溝12を拡大して示す断面図で、溝中心Sに対して左右対称で且つ逆クリスマスツリーのように溝深さ方向(図の下方向)において溝幅が滑らかに増減しながら徐々に狭くなっており、両側の側面16a、16bには、それぞれ複数の凹部18および凸部20が交互に連続して設けられている。そして、このようなツリー形溝12を切削加工する際には、図10に示すように目的とするツリー形溝12に近似する荒加工溝22を荒加工用総形回転切削工具によって切削加工した後、仕上げ加工用総形回転切削工具を用いてその荒加工溝22の表層部を所定の仕上げ代24だけ切削除去することにより、目的とするツリー形溝12となるように仕上げ加工を行うようにしているのが普通である。特許文献1に記載の加工方法はその一例で、荒加工溝22を単一或いは複数の荒加工用総形回転切削工具を用いて切削加工する場合について例示されている。
【特許文献1】特開2000−326133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来の仕上げ加工工程では、荒加工溝の両側面および底面の全域を所定の仕上げ代だけ切削除去するようになっていたため、切削トルク(切削抵抗)が大きくて溝のタオレが発生し易く、切削速度や送り速度を速くして高能率加工を行うことが難しいという問題があった。
【0004】
なお、「溝のタオレ」は、荒加工溝に対して仕上げ加工を行う場合、両側の側面の一方はアップカットで他方はダウンカットになるため、その切削抵抗が相違し、溝の長手方向に対して直角な断面において、例えば図6に破線で示すように溝の底部側がアップカット側(左側)へ傾斜する現象である。図6は、シャンク側(図の上方)から見て工具を右まわりに回転駆動して切削加工を行う場合で、ツリー形溝を簡略化して示した図である。
【0005】
また、上記課題は、ツリー形溝を切削加工する場合に限らず、外周切れ刃の刃先径が工具先端側へ向かうに従って変化している種々の総形回転切削工具を用いて溝加工を行う場合には同様に発生する。被加工物の角部に肩削りを行う場合も、切削抵抗によって工具のタオレが発生し易く、上記と同様の問題が生じる。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、荒加工を行った後に仕上げ加工を行う際の切削トルク(切削抵抗)を低減し、溝や工具のタオレを所定の許容範囲内に維持しつつ切削速度や送り速度を速くして高能率加工を行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 荒加工用総形回転切削工具を軸心まわりに回転駆動しつつ被加工物に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させることにより、荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃によって荒加工を行う荒加工工程と、(b) 仕上げ加工用総形回転切削工具を軸心まわりに回転駆動しつつ前記被加工物に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させることにより、前記荒加工工程で形成された荒加工面に仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃によって仕上げ加工を行う仕上げ加工工程と、を有する切削加工方法において、(c) 前記荒加工工程で前記荒加工用底刃によって形成される荒加工底面が、前記仕上げ加工工程で前記仕上げ加工用底刃によって形成される仕上げ加工底面と一致するように、それ等の荒加工用底刃および仕上げ加工用底刃の寸法を設定する一方、(d) 前記仕上げ加工用底刃のすかし角を、前記荒加工用底刃のすかし角よりも大きくし、且つ4°〜19°の範囲内としたことを特徴とする。
【0008】
第2発明は、第1発明の切削加工方法において、前記荒加工用底刃は、前記仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出していることを特徴とする。
【0009】
第3発明は、(a) 軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃によって荒加工を行う荒加工用総形回転切削工具と、(b) 軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、前記荒加工用総形回転切削工具によって形成された荒加工面に仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃によって仕上げ加工を行う仕上げ加工用総形回転切削工具と、を有する総形回転切削工具において、(c) 前記荒加工用底刃は前記仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出している一方、(d) 前記仕上げ加工用底刃のすかし角は、前記荒加工用底刃のすかし角よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されていることを特徴とする。
【0010】
第4発明は、第3発明の総形回転切削工具において、前記荒加工用外周切れ刃および前記仕上げ加工用外周切れ刃は、何れも工具先端側へ向かうに従って刃先径が増減させられた凹凸部を備えており、側面に凹凸部を有する凹凸溝を切削加工することを特徴とする。
【0011】
第5発明は、第3発明の総形回転切削工具において、前記荒加工用外周切れ刃および前記仕上げ加工用外周切れ刃は、何れも工具先端側へ向かうに従って刃先径が増減しながら徐々に小径とされており、逆クリスマスツリー形状のツリー形溝を切削加工することを特徴とする。
【0012】
第6発明は、軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃によって荒加工を行う荒加工用総形回転切削工具において、前記荒加工用底刃は、前記荒加工後に仕上げ加工を行う仕上げ加工用総形回転切削工具の仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出していることを特徴とする。
【0013】
第7発明は、軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃によって仕上げ加工を行う仕上げ加工用総形回転切削工具において、前記仕上げ加工用底刃のすかし角は、前記仕上げ加工に先立って荒加工を行う荒加工用総形回転切削工具の荒加工用底刃のすかし角よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1発明の切削加工方法においては、荒加工工程で荒加工用底刃によって形成される荒加工底面が、仕上げ加工工程で仕上げ加工用底刃によって形成される仕上げ加工底面と一致するように、それ等の荒加工用底刃および仕上げ加工用底刃の寸法が設定されているため、仕上げ加工用総形回転切削工具によって仕上げ加工が行われる際の切削トルク(切削抵抗)が低減され、溝や工具のタオレを所定の許容範囲内に維持しつつ、切削速度や送り速度を速くして高能率加工を行うことができる。また、仕上げ加工用底刃のすかし角が、荒加工用底刃のすかし角よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内とされているため、仕上げ加工用底刃のチッピングを回避しつつ仕上げ加工が行われる際の切削トルクが一層低減され、加工能率を一層向上させることができる。
【0015】
第2発明では、荒加工用底刃を仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突出させることにより、荒加工底面を仕上げ加工底面と一致させるようになっているため、仕上げ加工用総形回転切削工具として従来のものをそのまま利用し、底刃のすかし角を変更するだけで良く、安価に構成できる。
【0016】
なお、荒加工用底刃が仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出すため、荒加工用総形回転切削工具の切削量が多くなり、負荷が大きくなるが、一般に荒加工用総形回転切削工具の切削量は元々大きいため、殆ど影響を受けない。
【0017】
第3発明の総形回転切削工具、第6発明の荒加工用総形回転切削工具、第7発明の仕上げ加工用総形回転切削工具は、何れも第1発明、第2発明の切削加工方法に好適に用いられるもので、実質的に第1発明、第2発明と同様の作用効果が得られる。
【0018】
第4発明は、側面に凹凸部を有する凹凸溝を切削加工する場合で、第5発明は、逆クリスマスツリー形状のツリー形溝を切削加工する場合であり、一般にその側面の凹凸によってタービン翼車等の嵌合部材が拘束(位置決め)されるとともに溝底部分には隙間が形成されるため、溝底寸法(溝深さ)に関しては予め定められた寸法よりも大きければ良く、荒加工底面がそのまま凹凸溝やツリー形溝の底面とされても差し支えない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、第4発明や第5発明のように、側面に凹凸部を有する凹凸溝を切削加工したり、逆クリスマスツリー形状のツリー形溝を切削加工したりする切削加工方法および総形回転切削工具に好適に適用されるが、テーパエンドミルのように外周切れ刃の径寸法が一定の変化率で変化している総形回転切削工具や、その総形回転切削工具を用いた切削加工方法にも適用され得る。被加工物の角部に肩削り加工を行う場合にも適用され得る。
【0020】
第4発明の外周切れ刃の凹凸部は、刃先径が小さくなってから大きくなる凹部、刃先径が大きくなってから小さくなる凸部の何れであっても良く、その凹部および凸部の両方を備えていても良い。なお、第5発明のツリー形溝は、第4発明の凹凸溝の一実施態様と見做すことができる。
【0021】
荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃と、仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃は、荒加工用総形回転切削工具のものか仕上げ加工用総形回転切削工具のものかを区別するためのもので、必ずしもそれ等の外周切れ刃や底刃の形状等が荒加工用と仕上げ加工用とで異なっていることを意味するものではない。但し、一般には加工条件の相違などですくい角や逃げ角、切り屑排出溝のねじれ角等が相違しているとともに、荒加工用には必要に応じてニックやラフィング等が設けられるなど、種々の相違点を有する。
【0022】
荒加工用総形回転切削工具は、目的形状に近似する荒加工面、例えば荒加工溝を切削加工するためのもので、単一の工具でその荒加工溝等を一度に切削加工するものでも良いが、複数の工具を用いて複数工程で切削加工する場合でも良い。複数工程で荒加工溝等の荒加工面を切削加工する場合は、その荒加工溝の溝底等の底面を切削加工するもの、例えば荒加工の最終工程で用いられる荒加工用総形回転切削工具に本発明は適用される。仕上げ加工用総形回転切削工具は、荒加工面の表層部を所定の仕上げ代(例えば0.1〜1.0mm程度)だけ切削除去することにより、目的とする溝や肩削り等を高い寸法精度で仕上げるためのものである。
【0023】
第1発明の切削加工方法では、少なくとも荒加工底面と仕上げ加工底面とが一致するようになっておれば良く、例えば荒加工用底刃が仕上げ加工用底刃と一致する位置まで突出させられるが、仕上げ加工用底刃の寸法を小さくして荒加工用底刃と一致させるようにしても良い。荒加工底面と仕上げ加工底面とを完全に一致させることは困難で、荒加工用底刃や仕上げ加工用底刃の寸法公差などに応じて所定の誤差(例えば±0.1mm程度)が生じ、仕上げ加工用底刃によって所定の切削加工が行われることは差し支えない。許容寸法公差を考慮して、例えば荒加工用底刃が仕上げ加工用底刃よりもその許容寸法公差分だけ突き出すように構成したり、逆に最小限の仕上げ加工が常に行われるように、仕上げ加工用底刃が荒加工用底刃よりも許容寸法公差分だけ突き出すように構成したりすることも可能で、許容寸法公差の範囲内で両底刃の軸方向位置がずれていても差し支えない。この場合も、荒加工底面と仕上げ加工底面とを一致させたり、荒加工用底刃と仕上げ加工用底刃とを一致させたりする一態様である。
【0024】
また、仕上げ加工底面の全域で荒加工底面と一致させるようにすることが望ましいが、仕上げ加工底面の少なくとも一部が荒加工底面と一致させられ、仕上げ加工時の切削トルクが軽減されるようになっておれば良い。底面だけでなく、側面の一部についても仕上げ加工が軽減されるように荒加工することも可能である。
【0025】
荒加工用総形回転切削工具の荒加工用底刃を軸方向へ突出させて仕上げ加工用底刃と一致させる場合、従来の仕上げ加工用総形回転切削工具を利用して、その仕上げ加工用底刃のすかし角を変更するだけで良いが、切削トルクが軽減されることから必要に応じて他の種々の変更を加えることも可能である。
【0026】
仕上げ加工用底刃のすかし角は、3°以下になると切削トルクが大きくなって溝のタオレ等が生じ易くなる一方、20°以上になると底刃の外周コーナー付近でチッピングが生じ易くなるため、4°〜19°の範囲内で設定することが望ましい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は荒加工用クリスマスカッター30を説明する図で、図2は仕上げ加工用クリスマスカッター50を説明する図であり、何れも前記図9のツリー形溝12を切削加工するためのもので、軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物(回転軸10)に対してその軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより所定の溝を切削加工する。すなわち、荒加工用クリスマスカッター30は荒加工用総形回転切削工具に相当し、前記荒加工溝22を形成するためのものであるが、本実施例では荒加工溝22の底部に凹所42が設けられた形状の荒加工溝44を切削加工する。この荒加工用クリスマスカッター30は、荒加工溝44を一工程で切削加工するもので、荒加工溝44の内壁面は荒加工面に相当し、凹所42の底面は荒加工底面に相当する。また、仕上げ加工用クリスマスカッター50は仕上げ加工用総形回転切削工具に相当し、前記ツリー形溝12を仕上げ加工する従来の工具と基本的に同一形状を成している。
【0028】
図1の(a) は、荒加工用クリスマスカッター30を軸心と直角な方向から見た一部を切り欠いた正面図で、(b) はこの荒加工用クリスマスカッター30によって切削加工される荒加工溝44の断面図である。荒加工用クリスマスカッター30は、シャンク32および刃部34を一体に備えており、刃部34は、加工すべき荒加工溝44の凹凸形状に対応する逆クリスマスツリー形状を成しており、工具先端側(図の下方向)へ向かうに従って径寸法が滑らかに増減しながら徐々に小径とされている。刃部34には、軸心まわりに等角度間隔で複数(例えば3本)の切り屑排出溝36が設けられ、その切り屑排出溝36に沿って複数の外周切れ刃38、およびその外周切れ刃38に連続する底刃40が設けられている。それ等の外周切れ刃38および底刃40は、荒加工用クリスマスカッター30がシャンク32側から見て右まわりに回転駆動されることにより切削加工を行うもので、切り屑排出溝36は所定のねじれ角で右まわりに傾斜している。
【0029】
上記外周切れ刃38は、荒加工用外周切れ刃に相当し、刃部34の形状に対応して工具先端側へ向かうに従って刃先径が滑らかに増減しながら徐々に小径とされているとともに、逃げ面に細かな波形状の凹凸が設けられたラフィング切れ刃にて構成されている。本実施例では外周切れ刃38の全体が、軸方向において刃先径が滑らかに増減する凹凸部に相当する。また、底刃40は、荒加工用底刃に相当し、前記凹所42を切削加工することができるように、工具先端側へ突き出すように設けられている。図1の(c) は、工具先端部分の外周切れ刃38および底刃40の回転軌跡形状を示す拡大図で、底刃40は、外周切れ刃38に接続される外周側端部から軸心側へ向かうに従って所定のすかし角θ1で凹むように形成されている。すかし角θ1は、一般に30′〜2°30′程度の範囲内で設定され、本実施例では約1°である。
【0030】
図2の(a) は、仕上げ加工用クリスマスカッター50を軸心と直角な方向から見た一部を切り欠いた正面図で、(b) はこの仕上げ加工用クリスマスカッター50により前記荒加工溝44に仕上げ加工が行われることによって除去される仕上げ代62を示す断面図で、(c) は(b) におけるIIC部の拡大図である。この仕上げ加工用クリスマスカッター50は、シャンク52および刃部54を一体に備えており、刃部54は、加工すべきツリー形溝12の凹凸形状に対応する逆クリスマスツリー形状を成しており、工具先端側(図の下方向)へ向かうに従って径寸法が滑らかに増減しながら徐々に小径とされている。刃部54には、軸心まわりに等角度間隔で複数(例えば4本)の切り屑排出溝56が設けられ、その切り屑排出溝56に沿って複数の外周切れ刃58、およびその外周切れ刃58に連続する底刃60が設けられている。それ等の外周切れ刃58および底刃60は、仕上げ加工用クリスマスカッター50がシャンク52側から見て右まわりに回転駆動されることにより切削加工を行うように設けられており、切り屑排出溝56は直溝である。
【0031】
上記外周切れ刃58は、仕上げ加工用外周切れ刃に相当し、刃部54の形状に対応して工具先端側へ向かうに従って刃先径が滑らかに増減しながら徐々に小径とされており、全体として凹凸形状を成している。この外周切れ刃58によって切削加工される仕上げ代62は、例えば0.1mm〜1.0mm程度の範囲内で、本実施例では0.3mm程度に設定されている。また、底刃60は、仕上げ加工用底刃に相当するが、図2の(c) から明らかなように、前記凹所42が形成された部分では、仕上げ代62が略0になるように底刃60による仕上げ加工底面とその凹所42の底面とが略一致させられるようになっている。図2の(c) において、符号Pは、仕上げ加工用クリスマスカッター50の底刃60の設計上の目標位置、すなわち仕上げ加工底面の目標位置であり、凹所42を切削加工する前記荒加工用クリスマスカッター30の底刃40は、この目標位置Pと一致するように突出寸法が定められている。なお、現実には、それ等の底刃40、60の許容寸法公差などにより所定の誤差(例えば±0.1mm程度)が生じることが避けられず、両底刃40および60の位置が完全に一致している必要はない。
【0032】
上記荒加工用の底刃40は、仕上げ加工用の外周切れ刃58と底刃60との境界Q付近で、その底刃60に達するように設けられており、その底刃40によって形成される凹所42は、仕上げ加工用の底刃60によって形成される仕上げ加工底面の略全域で、その仕上げ加工底面と略一致させられるように形成される。図2の(c) は切削形状であるが、外周切れ刃58と底刃60との境界Qに対応する位置に同一の符号Qを付したものである。また、図2の(d) は、仕上げ加工用クリスマスカッター50の工具先端部分における外周切れ刃58および底刃60の回転軌跡形状を示す拡大図で、底刃60は、外周切れ刃58との境界Qから軸心側へ向かうに従って所定のすかし角θ2で凹むように形成されている。このすかし角θ2は、仕上げ加工用クリスマスカッター50の切削抵抗が低減されるように、荒加工用クリスマスカッター30の底刃すかし角θ1よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されている。
【0033】
図3は、上記クリスマスカッター30および50を用いて切削加工されたツリー形溝64を示す断面図で、基本的には前記ツリー形溝12と同じ形状で、両側の側面66a、66bには対称的に前記複数の凹部18および凸部20が交互に連続して設けられている。但し、底刃40および60の寸法公差で荒加工用の底刃40の方が突き出す場合には、ツリー形溝64の底面に僅かな凹みが生じる可能性がある。
【0034】
図5の(a) は、以上のように構成された荒加工用クリスマスカッター30および仕上げ加工用クリスマスカッター50を用いてツリー形溝64を切削加工する場合(本発明による加工)と、前記図10のように荒加工、仕上げ加工共に溝底部分まで切削加工が行なわれるようにしてツリー形溝12を形成する場合(従来の加工)について、切削性能を調べた結果を説明する図である。また、図5の(b) は、荒加工用クリスマスカッター30および仕上げ加工用クリスマスカッター50を用いてツリー形溝64を切削加工する場合に、仕上げ加工用クリスマスカッター50の底刃60のすかし角θ2を種々変更して切削性能を調べた結果を説明する図である。何れの試験においても、図4の(a) の試験条件で試験を行い、(b) に示す評価基準に従って評価を行なった。
【0035】
図4の(a) において、「試験クリスマスカッターの径寸法」の欄の最大径はシャンク32、52に最も近い位置の凸部(凹部18に対応)における径寸法で、最小径は、最も先端側の凹部(凸部20に対応)における径寸法であり、試験条件の最下欄に示されるように「仕上げ代」が外周で0.3mmであることから、仕上げ加工用クリスマスカッター50は荒加工用クリスマスカッター30に比較して径寸法が0.6mmだけ大きくなる。また、「溝深さ」は、実際の加工深さの意味で底刃40、60までの寸法であり、荒加工用クリスマスカッター30、仕上げ加工用クリスマスカッター50共に27.5mmで、設計上は仕上げ加工用クリスマスカッター50の底刃60の仕上げ代62は0である。
【0036】
一方、図5の(a) の性能試験で実施する従来の加工で用いる仕上げ加工用クリスマスカッターは、基本形状は本発明の加工で用いる仕上げ加工用クリスマスカッター50と同じであるが、底刃のすかし角θ2が、本発明の仕上げ加工用クリスマスカッター50ではθ2=5°であるのに対し、従来の仕上げ加工用クリスマスカッターはθ2=1°である点が相違する(図5の(a) 参照)。また、従来の加工で用いる荒加工用クリスマスカッターは、本発明の加工で用いる荒加工用クリスマスカッター30に比較して底刃40が突き出しておらず、仕上げ加工用クリスマスカッターの底刃によっても0.3mmの仕上げ代で仕上げ加工が行われる点が相違する。被削材質や切削速度、送り速度等の他の試験条件は本発明の加工と同じである。
【0037】
図5の(a) 、(b) の試験結果において、「振動」、「切削音」、および「仕上げ面」は切れ味に関係するもので、「振動」は機械全体の振動の大きさ、「切削音」は音質や音量、「仕上げ面」は加工面の面状態であり、何れも試験者の感覚で比較評価した。「切削トルク」は、切削加工中に仕上げ加工用クリスマスカッターを回転駆動するモータトルクの最大値である。「溝タオレ(mm)」は、図6に示すように、切削加工されたツリー形溝64或いは12の最小径部におけるずれ寸法ΔX1 、ΔX2 の平均値で、この「溝タオレ」は本実施例では0.05mmが限界値、すなわち許容最大値とされている。なお、図6のツリー形溝64(12)は、幅寸法の増減を省略して両側面を単なる傾斜面として示した概略図である。
【0038】
図5の(a) の試験結果は、本発明および従来の何れの場合も、仕上げ加工用クリスマスカッターにより仕上げ加工を行った時のもので、仕上げ加工時に底刃の仕上げ代が無いとともにすかし角θ2=5°の本発明では、「切削トルク」が2.5kNで従来の60%以下になるとともに、「振動」、「切削音」、および「仕上げ面」の評価が何れも「○」または「◎」で優れた切れ味が得られ、且つ「溝タオレ」が0.01mmと小さく、実用上満足できる切削性能で高能率加工(切削速度:35m/min、送り速度:60mm/min)を行なうことができる。これに対し、仕上げ加工時に底刃で所定の仕上げ代(0.3mm)で仕上げ加工が行なわれるとともにすかし角θ2=1°の従来加工では、「切削トルク」が4.5kNと大きいとともに、「振動」、「切削音」、および「仕上げ面」の評価が何れも「△」で、且つ「溝タオレ」が0.07mmで限界値を超えており、図4(a) の加工条件で仕上げ加工を行なうことはできない。
【0039】
また、図5の(b) の試験結果のうち、網掛けを付した欄は底刃60のすかし角θ2が4°〜19°の範囲を逸脱している領域であり、すかし角θ2が4°よりも小さいと、「振動」、「仕上げ面」等の切削性能が悪くなるとともに「溝タオレ」が大きくなる。一方、すかし角θ2が19°を超えると、底刃60の外周コーナー付近にチッピングが生じて「仕上げ面」が悪くなる。このため、すかし角θ2は、4°〜19°の範囲内が適当である。
【0040】
このように、本実施例の荒加工用クリスマスカッター30および仕上げ加工用クリスマスカッター50を用いた溝加工方法によれば、荒加工工程で底刃40によって形成される凹所42が、仕上げ加工工程で底刃60によって形成される仕上げ加工底面の目標位置Pと略一致するように、荒加工用の底刃40が仕上げ加工用の底刃60と一致する位置まで突き出すように設けられているため、仕上げ加工用クリスマスカッター50によって仕上げ加工が行われる際の切削トルク(切削抵抗)が低減され、溝のタオレを所定の許容範囲内に維持しつつ、切削速度や送り速度を速くして高能率加工を行うことができる。
【0041】
また、仕上げ加工用底刃60のすかし角θ2が、荒加工用底刃40のすかし角θ1よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されているため、仕上げ加工用底刃60のチッピングを回避しつつ仕上げ加工が行われる際の切削トルクが一層低減され、加工能率を一層向上させることができる。
【0042】
また、本実施例では荒加工用の底刃40を仕上げ加工用の底刃60の目標位置Pと一致する位置まで軸方向へ突出させることにより、荒加工溝44の底部に凹所42を形成し、その凹所42を仕上げ加工用の底刃60によって形成される仕上げ加工底面と一致させるようになっているため、仕上げ加工用クリスマスカッター50として従来のものをそのまま利用し、底刃60のすかし角θ2を変更するだけで良く、安価に構成できる。
【0043】
その場合に、荒加工用底刃40が仕上げ加工用底刃60と略一致する位置まで軸方向へ突き出すため、荒加工用クリスマスカッター30の切削量が多くなり、負荷が大きくなるが、荒加工用クリスマスカッター30は荒加工溝44を一工程で切削加工するもので、その切削量が元々大きいため、殆ど影響を受けない。
【0044】
また、本実施例は、逆クリスマスツリー形状のツリー形溝64を切削加工する場合で、そのツリー形溝64の側面66a、66bには凹部18や凸部20が設けられ、そのツリー形溝64に嵌合されるタービン翼車の羽根14はその凹凸によって拘束(位置決め)されるとともに溝底部分には隙間が形成されるため、溝底寸法(溝深さ)に関しては予め定められた寸法よりも大きければ良く、荒加工用底刃40によって形成された凹所42の底面がそのままツリー形溝64の底面とされても差し支えない。
【0045】
なお、上記実施例では逆クリスマスツリー形状のツリー形溝64を切削加工する場合について説明したが、他の溝形状の溝加工にも本発明は適用され得る。図7は、その一例を説明する図で、(a) は被加工物70に形成された溝72の最終形状を示す断面図で、(b) は、荒加工用総形回転切削工具によって形成される荒加工溝74と、仕上げ加工用総形回転切削工具によりその荒加工溝74に仕上げ加工が行われることによって除去される仕上げ代76とを示す断面図で、(c) は(b) における VIIC部の拡大図である。この溝72は、溝底近傍に溝幅が滑らかに円弧状に膨出している膨出部80を備えており、荒加工用および仕上げ加工用の総形回転切削工具は、この膨出部80に対応して外周切れ刃の刃先径が膨出する凹凸部を備えている。
【0046】
そして、荒加工用総形回転切削工具の底刃(荒加工用底刃)は、仕上げ加工用総形回転切削工具の底刃(仕上げ加工用底刃)の目標位置Pと略一致する位置まで軸方向へ突き出しており、荒加工溝74の底部には、仕上げ加工底面と略一致する位置に凹所82が設けられるようになっている。また、仕上げ加工用総形回転切削工具の底刃のすかし角は、荒加工用総形回転切削工具の底刃のすかし角よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されている。これにより、仕上げ加工時の切削トルクが低減されるとともに加工能率を向上させることができるなど、前記実施例と同様の作用効果が得られる。
【0047】
また、上記各実施例ではツリー形溝64、溝72を切削加工する場合について説明したが、例えばそれ等のツリー形溝64、溝72の溝中心Sの片側の形状の肩削り加工を被加工物の角部に施す場合にも、本発明は適用され得る。
【0048】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明方法に好適に用いられる荒加工用クリスマスカッターの一例を説明する図で、(a) は正面図、(b) は荒加工溝の断面図、(c) は底刃に設けられたすかし角θ1を説明する図である。
【図2】本発明方法に好適に用いられる仕上げ加工用クリスマスカッターの一例を説明する図で、(a) は正面図、(b) は仕上げ加工による仕上げ代を示す断面図、(c) は(b) におけるIIC部の拡大図、(d) は底刃に設けられたすかし角θ2を説明する図である。
【図3】図1および図2のクリスマスカッターを用いて切削加工されるツリー形溝を説明する図で、荒加工溝の溝形状と比較して示す断面図である。
【図4】図1および図2のクリスマスカッターを用いて切削性能試験を行なう際の(a) 試験条件および(b) 評価基準を説明する図である。
【図5】図4の(a) の試験条件に従って切削性能試験を行い、(b) の評価基準に従って評価した結果を説明する図で、(a) は従来の加工と比較した場合、(b) は仕上げ加工用底刃のすかし角を種々変更した場合である。
【図6】図5の「溝タオレ」を説明する図である。
【図7】本発明の溝加工方法が好適に適用される他の溝形状を説明する図で、(a) は溝の最終形状を示す断面図、(b) は荒加工溝と仕上げ加工による仕上げ代とを示す断面図、(c) は(b) における VIIC部の拡大図である。
【図8】タービン翼車の羽根を取り付けるための多数のツリー形溝を示す図である。
【図9】図8のツリー形溝を拡大して示す断面図である。
【図10】図9のツリー形溝を切削加工する際の荒加工溝と仕上げ加工による仕上げ代とを示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10:回転軸(被加工物) 30:荒加工用クリスマスカッター(荒加工用総形回転切削工具) 38:外周切れ刃(荒加工用外周切れ刃) 40:底刃(荒加工用底刃) 42、82:凹所(荒加工底面) 44、74:荒加工溝(荒加工面) 50:仕上げ加工用クリスマスカッター(仕上げ加工用総形回転切削工具) 58:外周切れ刃(仕上げ加工用外周切れ刃) 60:底刃(仕上げ加工用底刃) 64:ツリー形溝(凹凸溝) 70:被加工物 72:溝(凹凸溝) P:仕上げ加工用底刃の目標位置(仕上げ加工底面) θ2:仕上げ加工用底刃のすかし角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荒加工用総形回転切削工具を軸心まわりに回転駆動しつつ被加工物に対して該軸心と直角な方向へ相対移動させることにより、荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃によって荒加工を行う荒加工工程と、
仕上げ加工用総形回転切削工具を軸心まわりに回転駆動しつつ前記被加工物に対して該軸心と直角な方向へ相対移動させることにより、前記荒加工工程で形成された荒加工面に仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃によって仕上げ加工を行う仕上げ加工工程と、
を有する切削加工方法において、
前記荒加工工程で前記荒加工用底刃によって形成される荒加工底面が、前記仕上げ加工工程で前記仕上げ加工用底刃によって形成される仕上げ加工底面と一致するように、該荒加工用底刃および該仕上げ加工用底刃の寸法を設定する一方、
前記仕上げ加工用底刃のすかし角を、前記荒加工用底刃のすかし角よりも大きくし、且つ4°〜19°の範囲内とした
ことを特徴とする切削加工方法。
【請求項2】
前記荒加工用底刃は、前記仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出している
ことを特徴とする請求項1に記載の切削加工方法。
【請求項3】
軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対して該軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃によって荒加工を行う荒加工用総形回転切削工具と、
軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対して該軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、前記荒加工用総形回転切削工具によって形成された荒加工面に仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃によって仕上げ加工を行う仕上げ加工用総形回転切削工具と、
を有する総形回転切削工具において、
前記荒加工用底刃は前記仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出している一方、
前記仕上げ加工用底刃のすかし角は、前記荒加工用底刃のすかし角よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されている
ことを特徴とする総形回転切削工具。
【請求項4】
前記荒加工用外周切れ刃および前記仕上げ加工用外周切れ刃は、何れも工具先端側へ向かうに従って刃先径が増減させられた凹凸部を備えており、側面に凹凸部を有する凹凸溝を切削加工する
ことを特徴とする請求項3に記載の総形回転切削工具。
【請求項5】
前記荒加工用外周切れ刃および前記仕上げ加工用外周切れ刃は、何れも工具先端側へ向かうに従って刃先径が増減しながら徐々に小径とされており、逆クリスマスツリー形状のツリー形溝を切削加工する
ことを特徴とする請求項3に記載の総形回転切削工具。
【請求項6】
軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対して該軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃によって荒加工を行う荒加工用総形回転切削工具において、
前記荒加工用底刃は、前記荒加工後に仕上げ加工を行う仕上げ加工用総形回転切削工具の仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出している
ことを特徴とする荒加工用総形回転切削工具。
【請求項7】
軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対して該軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃によって仕上げ加工を行う仕上げ加工用総形回転切削工具において、
前記仕上げ加工用底刃のすかし角は、前記仕上げ加工に先立って荒加工を行う荒加工用総形回転切削工具の荒加工用底刃のすかし角よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されている
ことを特徴とする仕上げ加工用総形回転切削工具。
【請求項1】
荒加工用総形回転切削工具を軸心まわりに回転駆動しつつ被加工物に対して該軸心と直角な方向へ相対移動させることにより、荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃によって荒加工を行う荒加工工程と、
仕上げ加工用総形回転切削工具を軸心まわりに回転駆動しつつ前記被加工物に対して該軸心と直角な方向へ相対移動させることにより、前記荒加工工程で形成された荒加工面に仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃によって仕上げ加工を行う仕上げ加工工程と、
を有する切削加工方法において、
前記荒加工工程で前記荒加工用底刃によって形成される荒加工底面が、前記仕上げ加工工程で前記仕上げ加工用底刃によって形成される仕上げ加工底面と一致するように、該荒加工用底刃および該仕上げ加工用底刃の寸法を設定する一方、
前記仕上げ加工用底刃のすかし角を、前記荒加工用底刃のすかし角よりも大きくし、且つ4°〜19°の範囲内とした
ことを特徴とする切削加工方法。
【請求項2】
前記荒加工用底刃は、前記仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出している
ことを特徴とする請求項1に記載の切削加工方法。
【請求項3】
軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対して該軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃によって荒加工を行う荒加工用総形回転切削工具と、
軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対して該軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、前記荒加工用総形回転切削工具によって形成された荒加工面に仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃によって仕上げ加工を行う仕上げ加工用総形回転切削工具と、
を有する総形回転切削工具において、
前記荒加工用底刃は前記仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出している一方、
前記仕上げ加工用底刃のすかし角は、前記荒加工用底刃のすかし角よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されている
ことを特徴とする総形回転切削工具。
【請求項4】
前記荒加工用外周切れ刃および前記仕上げ加工用外周切れ刃は、何れも工具先端側へ向かうに従って刃先径が増減させられた凹凸部を備えており、側面に凹凸部を有する凹凸溝を切削加工する
ことを特徴とする請求項3に記載の総形回転切削工具。
【請求項5】
前記荒加工用外周切れ刃および前記仕上げ加工用外周切れ刃は、何れも工具先端側へ向かうに従って刃先径が増減しながら徐々に小径とされており、逆クリスマスツリー形状のツリー形溝を切削加工する
ことを特徴とする請求項3に記載の総形回転切削工具。
【請求項6】
軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対して該軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、荒加工用外周切れ刃および荒加工用底刃によって荒加工を行う荒加工用総形回転切削工具において、
前記荒加工用底刃は、前記荒加工後に仕上げ加工を行う仕上げ加工用総形回転切削工具の仕上げ加工用底刃と一致する位置まで軸方向へ突き出している
ことを特徴とする荒加工用総形回転切削工具。
【請求項7】
軸心まわりに回転駆動されつつ被加工物に対して該軸心と直角な方向へ相対移動させられることにより、仕上げ加工用外周切れ刃および仕上げ加工用底刃によって仕上げ加工を行う仕上げ加工用総形回転切削工具において、
前記仕上げ加工用底刃のすかし角は、前記仕上げ加工に先立って荒加工を行う荒加工用総形回転切削工具の荒加工用底刃のすかし角よりも大きく、且つ4°〜19°の範囲内で設定されている
ことを特徴とする仕上げ加工用総形回転切削工具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−279548(P2008−279548A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126055(P2007−126055)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]