説明

切削工具およびそのための切削チップ

切削工具(10)は、チップホルダ(12)と、チップホルダの上側顎状部(32)と下側顎状部(34)の間に釈放自在に保持される切削チップ(14)とを備える。下側顎状部(34)には、前方突出部(40)と後方突出部(44)が設けられる。前方突出部(40)は、送り方向(F)に対してそれぞれ第一と第二の角度で傾斜する、前方突出部前側隣接面(50’’)と後側隣接面(52”)を有し、第一の角度は第二の角度より大きい。切削チップ(14)は、縦方向に延びるシャフト部(66)に隣接する切削部(64)と、下側チップ面(60)の陥凹部(70)を有する。陥凹部(70)は、シャフト部(66)の下側縁辺(76)に対してそれぞれ第一と第二の角度で傾斜する、陥凹部前側隣接面(74’’)と陥凹部後側隣接面(78’’)を有する。前方突出部前側隣接面(50’’)は、陥凹部前側隣接面(74’’)に隣接し、前方突出部後側隣接面(52’’)は陥凹部後側隣接面(78’’)に隣接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝入れおよび旋盤作業のための切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
溝入れ作業は一般に、工具ホルダの上側および下側顎状部の間に配置されるチップポケットの中に保持される切削チップを用いて行われる。ある利用分野では、たとえば「特許文献1」に示されているように、工具ホルダは比較的狭いホルダブレードであってもよい。別の利用分野では、たとえば「特許文献2」に示されているように、工具ホルダは、チップが保持される比較的狭いホルダブレード型の前部と、より大きな寸法の後部を有していてもよい。またある利用分野において、たとえば「特許文献3」に示されているように、工具ホルダは円盤型であってもよい。
【0003】
上記のタイプの工具ホルダの多くおよび他のタイプの工具ホルダに伴う問題のひとつは、工具ホルダの中に保持される切削チップが、切削チップの外側または内側への移動によって、所定の位置から外れる恐れがある点である。これは、たとえば、溝切削作業中に、ホルダブレードを被加工物から引き抜こうとするとき等に発生しうる。場合によっては、切削チップがホルダブレードから完全に抜けて、被加工物の中に埋もれてしまうことがある。別の例として、回転式溝切削ツールの場合、切削チップは遠心力の影響によってチップポケットから飛び出すことさえあり、このような状態は、高速作業中には特に危険である。
【0004】
「特許文献4」において開示されている金属切削工具では、切削チップが、クランプ顎状部の相互に対向する締め付け面の間に画定される工具ホルダ座部の中に締め付けられる。下側締め付け面には、切削チップの基底面に形成されたアーチ型陥凹部の中にフィットするようになされたアーチ型突起が設けられ、それが切削チップの内側および外側への移動を防止するメカニズムとなる。しかしながら、この工具ホルダ座部には両端型の切削チップを取り付けることができない。さらに、座部に両端型チップを配置しようと試みても、上側クランプ顎状部の自由端が突起の正反対に位置していることによって、座部の前端の上側および下側クランプ顎状部の間の距離が狭いため、切削チップの動作していない側の切削端を座部に挿入するには、クランプ顎状部を十分に押し広げなければならない。さらに、上側クランプ顎状部の自由端が突起の正反対にあるため、切削チップの切削部を座部の外に位置づけられるようにして、上側締め付け縁辺を切削チップの刃先から遠ざけなければならず、そうしないと、被加工物から削り取られた削りくずが上側締め付け縁辺に損傷を与える。切削チップの切削部を座部の外に位置づけたことにより、切削部を下から支えるものがない。
【0005】
その上、アーチ型突起とアーチ型陥凹部の傾斜面に角度が付けられていないため、アーチ型突起とアーチ型陥凹部は、切削チップの内側および外側への移動を最大限に防止するように最適化されたものではない。アーチ型突起とアーチ型陥凹部は、突起がアーチ型陥凹部の中にフィットするような、単純な設計である。さらに、下側顎状部の締め付け面は、アーチ型突起から後方に延びる単純な楔止めリブのみ有しており、チップの安定性は一意的に決定できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,357,123号明細書
【特許文献2】米国特許第5,795,109号明細書
【特許文献3】米国特許第5,820,309号明細書
【特許文献4】米国特許第4,938,640号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の欠点を大幅に削減し、または克服する、金属切削作業用の切削工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態によれば、チップホルダと、チップホルダのチップ保持部の中に配置されるチップポケットの中に釈放自在に保持される切削チップとを備える切削工具が提供される。チップポケットは、チップホルダの上側顎状部と下側顎状部の間のギャップによって形成される。チップポケットは、縦方向および前後方向を画定する縦軸を有する。上側顎状部は、下側顎状部の下側顎状部上面と対向する上側顎状部下面を有する。下側顎状部には、下側顎状部の欠刻によって分離される前方および後方突出部が設けられる。上側顎状部は、縦方向に、前方突出部の後方に配置された自由端を有する。いくつかの実施形態によれば、前方突出部は、それぞれ切削工具の送り方向に対して第一の角度で傾斜する2つの前方突出部前側区画と、それぞれ切削工具の送り方向に対して第二の角度で傾斜する2つの前方突出部後側区画を有する。本発明によれば、第一の角度は第二の角度より大きい。いくつかの実施形態によれば、第一の角度は25°から50°の範囲の数値であってもよく、第二の角度は20°から45°の範囲の数値であってもよいが、第二の角度が第一の角度より小さいという制約がある。
【0009】
切削チップは、チップ上面と、チップ下面と、その間に延びる周辺側面を有する。いくつかの実施形態によれば、切削チップは両端型チップであり、チップ下面には、切削チップの各端に隣接する陥凹部が設けられている。陥凹部の間には下側隣接面があり、これは略V字型の溝の形状であってもよい。いくつかの実施形態によれば、切削チップは片端型であり、チップ下面には、切削チップの一端だけに隣接する陥凹部が設けられ、チップ下面のそれ以外の部分は下側隣接面であり、これは略V字型の溝の形状であってもよい。陥凹部は、下側顎状部の前方突出部と相補的な形状を有し、第一の角度で傾斜する陥凹部前側区画と、第二の角度で傾斜する陥凹部後側区画を有する。
【0010】
切削チップがチップポケット内に保持されているとき、上側顎状部下面のうち少なくとも上側顎状部の自由端に隣接する部分が切削チップの上側隣接面の一部に隣接し、下側顎状部の前方突出部はこれに関連付けられるチップ下面の陥凹部に隣接し、このとき陥凹部前側区画は前方突出部前側区画に隣接し、陥凹部後側区画は前方突出部後側区画に隣接し、下側顎状部の後方突出部は切削チップの下側隣接面に隣接する。
【0011】
ここで、本発明をよりよく理解し、本発明が実際に実施される方法を示すために、添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態による切削工具の上部斜視図である。
【図2】本発明の実施形態によるチップホルダの上部斜視図である。
【図3】本発明の実施形態による切削チップの上部斜視図である。
【図4】本発明の実施形態によるチップホルダの底部斜視図である。
【図5】本発明の実施形態による切削チップの底部斜視図である。
【図6】本失明の実施形態によるチップホルダの側面図である。
【図7】本発明の実施形態による切削工具の側面図である。
【図8】本発明の実施形態による切削工具の、切削工具が途中までチップポケットに挿入された状態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
より簡潔かつ明確に説明するために、図に示されている要素は必ずしも正確に、または正しい縮尺で描かれているとは限らないことがわかるであろう。たとえば、要素の寸法の中には、明瞭にするために、他の要素に関して誇張されているものがあり、また、いくつかの物理的構成要素が1つの機能ブロックまたは要素の中に含まれているかもしれない。さらに、適当であれば、対応する、または同様の要素については、同じ参照番号が複数の図面を通じて使用される。
【0014】
以下の説明では、本発明のさまざまな態様を紹介する。説明の目的において、本発明が十分に理解されるように、具体的な構成と詳細を述べる。しかしながら、当業者にとって、本明細書に記載されている具体的な詳細項目がなくても本発明を実施できることが明らかであろう。さらに、周知の特徴は、本発明があいまいにならないように、割愛または簡略化される場合がある。
【0015】
図を参照する。本発明の実施形態による切削工具10はチップホルダ12を有し、切削チップ14がチップホルダ12のチップ保持部18の中にあるチップポケット16の中に釈放自在に保持される。切削工具10は金属切削作業に使用されてもよく、切削チップ14は、超硬合金等のきわめて硬く、耐摩耗性にすぐれた材料を用い、バインダとカーバイド粉末を混練したものの成形プレスおよび焼結か、粉末射出成形方式のいずれかによって作製してもよい。チップポケット16は縦軸Lを有し、これは、本発明のいくつかの実施形態によれば、切削工具10の送り方向Fと一致していてもよい。縦方向は、縦方向と前後方向を画定する。チップ保持部18から、チップポケット16と反対方向に、チップホルダ12の工具本体部20が延びる。弾性スリット22はチップポケット16から後方に延び、終端に弾性孔24がある。チップポケット16と弾性スリット22は、チップホルダ12を上側クランプ26と下側工具本体部28に分割する。上側クランプ30で受けられ、下側工具本体部28の中に螺合的に受けられる締め付けねじ30は、上側クランプ26と下側工具本体部28の間の距離を変更するために使用できる。
【0016】
上側クランプ26の前方部分は、チップホルダ12のチップ保持部18の上側顎状部32を形成する。チップホルダ12のチップ保持部18において、上側顎状部32の反対に下側顎状部34がある。チップポケット16は、上側顎状部32と下側顎状部34の間のギャップによって形成される。上側顎状部32は、下側顎状部34の下側顎状部上面38と対面する上側顎状部下面36を有する。上側顎状部下面36は、縦方向のリブの形状であってもよい。いくつかの実施形態によれば、上側顎状部下面36は、縦軸Lに垂直な平面で切った断面が凸形状であってもよい。いくつかの実施形態において、凸形状は山形のV字形であってもよい。下側顎状部34には、チップ保持部18の前方端42に隣接する前方突出部40と、チップ保持部18の後方端46に隣接し、またチップポケット16の後端47にも隣接する後方突出部44が設けられている。前方および後方突出部40,44は、下側顎状部欠刻48によって分離される。チップ保持部18の前方端42は、チップホルダ12の前方端42でもある。前方および後方突出部40,44は共通の基準面Pを有し、前方突出部40は共通の基準面Pから第一の高さHまで突出し、後方突出部44は共通の基準面Pから第二の高さhまで突出しており、Hはhより大きい。
【0017】
前方突出部40の表面は、複数の表面区画に分割されていてもよい。いくつかの実施形態によれば、前方突出部40は、相互に対して傾斜し、それぞれ切削工具10の送り方向Fに対して第一の角度αで傾斜する2つの前方突出部前側区画50と、相互に対して傾斜し、それぞれ切削工具の送り方向Fに対して第二の角度βで傾斜する2つの前方突出部後側区画52を有していてもよい。いくつかの実施形態によれば、第一の角度αは25°から50°の範囲の数値であってもよく、第二の角度βは第一の角度αより小さい20°から45°の範囲の数値であってもよい。すなわち、第一と第二の角度αとβが上記の範囲内のいずれの数値であっても、第一の角度αは第二の角度βより大きい。
【0018】
前方突出部前側区画50は、切削チップ14が内側に移動してチップポケット16の中に入るのを防止する「内側ストッパ」として機能し、前方突出部後側区画52は、切削チップ14が外側に移動してチップポケット16から出るのを防止するための「外側ストッパ」として機能する。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、前方突出部40にはさらに、2つの前方突出部中間区画54が設けられていてもよい。一方の前方突出部中間区画54は、前方突出部前側および後側区画50,52の各ペアの間に配置され、これらを分離する。2つの前方突出部前側区画50は、中央前方突出部前側区画50’によって分離されていてもよい。2つの前方突出部後側区画52は、中央前方突出部後側区画52’によって分離されていてもよく、2つの前方突出部中間区画54は、中央前方突出部中間区画54’によって分離されていてもよい。2つの前方突出部前側区画50は、前方突出部前側隣接面50’’を形成する共通面の上にあってもよい。2つの前方突出部後側区画52は、前方突出部後側隣接面52’’を形成する共通面の上にあってもよい。したがって、前方突出部前側隣接面50’’と前方突出部後側隣接面52’’は、前方突出部中間区画54によって縦方向に分離されてもよく、前方突出部中間区画54は、切削チップ14がチップポケット16の中に取り付けられたときに、隣接面として機能しない。
【0020】
後方突出部44の表面は、複数の表面区画に分割されてもよい。いくつかの実施形態によれば、後方突出部44は、相互に対して傾斜する2つの後方突出部区画56を有していてもよい。いくつかの実施形態において、後方突出部区画56は、切削工具の送り方向Fに対して傾斜していない。いくつかの実施形態において、2つの後方突出部区画56は後方突出部中間区画56’によって分離されていてもよい。後方突出部44の2つの後方突出部区画56は、後方突出部隣接面56’’を形成する共通面の上にあってもよい。後方突出部隣接面56’’は、想像上の縦方向のリブの表面の一部にあってもよく、縦方向のリブは送り方向Fと共通基準面Pに垂直な平面で切った断面が凸形状であってもよい。いくつかの実施形態において、凸形状は山形のV字形であってもよい。
【0021】
切削チップ14は、チップ上面58と、チップ下面60と、チップ上面および下面58,60の間に延びる周辺側面62とを有する。いくつかの実施形態によれば、切削チップ14は、長い形状の両端型チップであってもよく、シャフト部66のいずれかの端に切削部64がある。シャフト部66は、各切削部64の付近から、切削チップ14の縦方向に沿って延びる。各切削部64には、チップ上面58に形成され、切削工程中に削りくずがその上を流れるすくい面67と、周辺側面62に形成された逃げ面69との交差部に形成された刃先68が設けられている。切削チップ14がチップポケット16の中にあるとき(たとえば、図7参照)、チップホルダ12のチップ保持部18の前方端42に位置づけられた一方の切削部64が、動作する側の切削部64’(すなわち、切削作業に関わることが可能な位置にある)であり、チップポケット16の中のもう一方の切削部64は動作しない側の切削部64’’である。
【0022】
チップ下面60には、切削チップ14の各端に隣接した、または各切削部64に同等に隣接し、そこに至るまで延びる陥凹部70が設けられている。チップ下面60の陥凹部70の間に、下側隣接面72が長い溝の形状でシャフト部66に沿って延びる。いくつかの実施形態によれば、下側隣接面72は、切削チップ14の縦方向に垂直な平面で切った断面が凹形状であってもよい。いくつかの実施形態において、凹形状は谷形のV字形形状であってもよい。下側隣接面72は、後方突出部44の2つの後方突出部区画56が存在する想像上の縦方向のリブの表面の形状に対して相補的な形状を有する。各陥凹部70は、下側顎状部34の前方突出部40の形状に対して相補的な形状を有する。
【0023】
各陥凹部70の表面は、複数の表面区画に分割されていてもよい。いくつかの実施形態によれば、各陥凹部70は、相互に傾斜し、それぞれ切削チップ14のシャフト部66の下側縁辺76に対して第一の角度αで傾斜する2つの陥凹部前側区画74と、相互に対して傾斜し、それぞれ下側縁辺76に対して第二の角度βで傾斜する2つの陥凹部後側区画78を有していてもよい。いくつかの実施形態によれば、周辺側面62とチップ下面60の交差部に、シャフト部66に沿って形成された2つの下側縁辺76があってもよい。図7でもっともよく見えるように、切削チップ14の側面図において、チップ陥凹部70は、シャフト部66の下側縁辺76より上に、チップ上面58の方向へと延びる。
【0024】
いくつかの実施形態によれば、各陥凹部70にはさらに、2つの陥凹部中間区画80が設けられていてもよい。1つの陥凹部中間区画80は、ある陥凹部70の陥没部前側および後側区画74,78の各ペアの間に配置され、これらを分離する。2つの陥凹部前側区画74は、陥凹部中央前側区画74’’によって分離されていてもよい。2つの陥凹部後側区画78は陥凹部中央後側区画78’’によって分離されていてもよく、2つの陥凹部中間区画80は陥没部中央中間区画80’によって分離されていてもよい。2つの陥凹部前側区画74は、陥凹部前側隣接面74’’を形成する共通面の上にあってもよい。2つの陥凹部後側区画78は、陥凹部後側隣接面78’’を形成する共通面の上にあってもよい。このように、陥凹部前側隣接面74’’と陥凹部後側隣接面78’’は、陥凹部中間区画80によって縦方向に分離されていてもよく、陥凹部中間区画80は一般に、切削チップ14がチップポケット16の中にあるときに隣接面として機能しない。
【0025】
チップ上面58の切削チップ14の切削部64の間に、長い溝の形状の上側隣接面82がシャフト部66に沿って延びる。いくつかの実施形態において、上側隣接面82は、切削チップ14の縦方向に垂直な平面で切った断面が凹形状であってもよい。いくつかの実施形態において、凹形状は谷形のV字形であってもよい。上側隣接面82は、上側顎状部下面36の形状に対して相補的な形状を有する。
【0026】
図6に見られるように、いくつかの実施形態によれば、上側顎状部32は、チップ保持部18の前側端42から、縦方向に、前方突出部40より遠くに位置する自由端84を有する。すなわち、上側顎状部32の自由端84は、縦方向に、前方突出部40の後方に位置する。図6において、上側顎状部32の自由端84は、前方端42から第一の縦方向の距離Dの位置にあるように示されており、前方突出部40は、前方端42から第二の縦方向の距離d(前方突出部40の中間点から測定)の位置にあるように示されており、第一の縦方向の距離Dは第二の縦方向の距離dより大きい。
【0027】
切削チップ14を切削ポケット16の中に挿入するために、上側および下側顎状部32,34は、切削チップ14の動作しない側の切削部64’’をチップポケット16に挿入できるように、十分に押し広げなければならない。チップホルダの側面図では、チップポケット16が入口直線寸法Qの入口開口部86を有する。上側顎状部32の自由端84が前方突出部40の、縦方向に、後方に配置されるという事実により、入口直線寸法はq(チップホルダの側面図において、上側顎状部32の自由端84と前方突出部40の最上部との間の垂直高さであり、自由端84が前方突出部40の最上部の真上にあったとした場合の入口直線寸法を画定する)からQへと大きくなる。入口開口部86が大きくなるということは、入口開口部86の入口直線寸法が増大しない場合と比較して、上側および下側顎状部32,34を押し広げなければならない量が小さくなることを意味する。これにより、切削チップ15をチップポケット16に挿入しやすくなる(図6)。さらに、図1、図4に見られるように、上側顎状部32の自由端が、縦方向に、前突起40の後方に配置されているとき、動作する側の切削部64’はチップホルダ12の前方端42に位置付けられ、先行技術のように前方端42より外に出ないため、上側クランプ顎状部32が被加工物から取り除かれた削りくずによって損傷を受ける心配がない。結果として、動作する側の切削部64’’は下から十分に支えられる。
【0028】
切削チップ14が、締め付けねじ30を締めてチップポケット16の中に固定されると、上側顎状部下面36の少なくとも前方部分はチップ上面58の上側隣接面82に隣接し、下側顎状部34の前方突出部40はチップ下面60の関連する陥凹部70に隣接し、下側クランプ顎状部34の後方突出部44はチップ下面60の下側隣接面72に隣接する。上側顎状部下面36の、チップ上面58の上側隣接面82と隣接する前方部分は、上側顎状部32の自由端84に隣接する上側顎状部下面36を含んでいてもよい。この領域は、縦方向に、前方突出部40の後方に位置づけられるため、上側顎状部32によって切削チップ14にかけられる締め付け力は、チップの縦軸を横切り、前方および後方突出部40,44の間を通過する直線に沿って作用するため、バランスのとれた締め付け力となる。
【0029】
いくつかの実施形態によれば、チップ下面60と下側顎状部上面38の間には3点(または3領域)の接触箇所がある。前方突出部40がこれに関連する陥凹部70と接触するのは、(i)前方突出部前側隣接面50’’が陥凹部前側隣接面74’’に隣接する箇所、(ii)前方突出部後側隣接面52’’が陥凹部後側隣接面78’’に隣接する箇所、(iii)下側クランプ顎状部34の後方突出部44の後方突出部隣接面56’’がチップ下面60の下側隣接面72に隣接する箇所、である。
【0030】
しかしながら、一般に、下側顎状部上面38の前方突出部中間区画54は、チップ14の陥凹部中間区画80に隣接しない。さらに、下側顎状部上面38の前方突出部中央前側区画50’、前方突出部中央後側区画52’または後方突出部中央区画56’のいずれも、チップ14の対向面と隣接しない。
【0031】
バランスのとれた締め付け力および、3点で接触することと第一の角度αが第二の角度βより大きいという条件により、切削チップ14をきわめて安定に締め付け、保持できることがわかった。
【0032】
本発明について、1つまたは複数の具体的な実施形態を参照しながら説明したが、説明はすべて例示のためのものであり、本発明が上記の実施形態に限定されるとは解釈されない。当業者は各種の変更を考案するかもしれず、これらは本明細書には具体的に記されていなくても、本発明の範囲に含まれることがわかるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送り方向(F)を有し、チップホルダ(12)と、前記チップホルダ(12)の上側顎状部(32)と下側顎状部(34)の間に形成されたチップポケット(16)の中に釈放自在に保持される切削チップ(14)とを有する切削工具(10)であって、前記チップポケット(16)は前後方向を画定する縦軸を有し、
前記上側顎状部(32)は、上側顎状部下面(36)を有し、
前記下側顎状部は、
前記上側顎状部下面(36)に対向する下側顎状部上面(38)と、
前記チップホルダ(12)の前方端(42)に隣接する前方突出部(40)であって、送り方向(F)に対して第一の角度(α)で傾斜する前方突出部前側隣接面(50’’)と送り方向(F)に対して第二の角度(β)で傾斜する前方突出部後側隣接面(52’’)を有し、前記上側顎状部(32)の自由端(84)が、縦方向に、前方突出部(40)の後方に位置づけられる前方突出部(40)と、
下側顎状部欠刻(48)によって前記前方突出部(40)から分離され、後方突出部隣接面(56’’)を有する後方突出部(44)と、
を有し、
前記切削チップは、
チップ上面(58)と、チップ下面(60)と、その間に延びる周辺側面(62)と、
縦方向に延びるシャフト部(66)に隣接する少なくとも1つの切削部(64)と、
前記チップ下面(60)の、前記少なくとも1つの切削部(64)に隣接して、そこに至るまで延びる陥凹部(70)であって、前記シャフト部(66)の下側縁辺(76)に対して第一の角度(α)で傾斜する陥凹部前側隣接面(74’’)と、前記シャフト部(66)の前記下側縁辺(76)に対して第二の角度(β)で傾斜する陥凹部後側隣接面(78’’)を有し、前記第一の角度(α)は前記第二の角度(β)より大きい陥凹部(70)と、
前記チップ下面(60)において、前記シャフト部(66)に沿って延びる縦方向の溝の形状の下側隣接面(72)と、
前記チップ上面(58)において、前記シャフト部(66)に沿って延びる縦方向の溝の形状の上側隣接面(82)と、
を有し、
前記上側顎状部下面(36)の少なくとも前方部分は前記チップ上面(58)の前記上側隣接面(82)に隣接し、前記前方突出部後側隣接面(52’’)は前記陥凹部後側隣接面(78’’)に隣接することを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記第一の角度(α)は25°から50°の範囲であり、前記第二の角度は20°から45°の範囲であり、前記第一の角度(α)は前記第二の角度(β)より大きいことが条件であることを特徴とする、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記前方突出部前側隣接面(50’’)は、相互に傾斜する2つの前方突出部前側区画(50)を有し、前記前方突出部後側隣接面(52’’)は、相互に傾斜する2つの前方突出部後側区画(52)を有し、前記後方突出部隣接面(56’’)は、相互に対して傾斜する2つの後方突出部区画(56)を有することを特徴とする、請求項1に記載の切削工具。
【請求項4】
前記前方突出部(40)はさらに、前記前方突出部前側隣接面(50’’)と前記前方突出部後側隣接面(52’’)を分離する、少なくとも1つの前方突出部中間区画(54)を有し、
前記陥凹部(70)は、前記陥凹部前側隣接面(74’’)と前記陥凹部後側隣接面(78’’)を分離する、少なくとも1つの陥凹部中間区画(80)を有し、
前記少なくとも1つの前方突出部中間区画(54)は、前記少なくとも1つの陥凹部中間区画(80)と隣接しないことを特徴とする、請求項1に記載の切削工具。
【請求項5】
前記前方突出部前側隣接面(50’’)は、前方突出部中央前側区画(50’)によって分離される1対の前方突出部前側区画(50)を有し、
前記前方突出部後側隣接面(52’’)は、前方突出部中央後側区画(52’)によって分離される1対の前方突出部後側区画(52)を有し、
前記後方突出部隣接面(56’’)は、後方突出部中央区画(56’)によって分離される1対の後方突出部区画(56)を有し、
前記前方突出部中央前側区画(50’)、前記前方突出部中央後側区画(52’)または前記後方突出部中央区画(56’)のいずれも、切削チップの対向する表面に隣接しないことを特徴とする、請求項4に記載の切削工具。
【請求項6】
前記前方突出部前側隣接面(50’’)は、前方突出部中央前側区画(50’)によって分離される1対の前方突出部前側区画(50)を有し、
前記前方突出部後側隣接面(52’’)は、前方突出部中央後側区画(52’)によって分離される1対の前方突出部後側区画(52)を有し、
前記後方突出部隣接面(56’’)は、後方突出部中央区画(56’)によって分離される1対の後方突出部区画(56)を有し、
前記前方突出部中央前側区画(50’)、前記前方突出部中央後側区画(52’)または前記後方突出部中央区画(56’)のいずれも、切削チップの対向する表面に隣接しないことを特徴とする、請求項1に記載の切削工具。
【請求項7】
チップ上面(58)と、チップ下面(60)と、その間に延びる周辺側面(62)と、
縦方向に延びるシャフト部(66)に隣接する少なくとも1つの切削部(64)と、
前記チップ下面(60)の、前記少なくとも1つの切削部(64)に隣接し、そこに至るまで延びる陥凹部(70)であって、前記シャフト部(66)の下側縁辺(76)に対して第一の角度(α)で傾斜する陥凹部前側隣接面(74’’)と、前記シャフト部(66)の前記下側縁辺(76)に対して第二の角度(β)で傾斜する陥凹部後側隣接面(78’’)を有する陥凹部(70)と、
前記チップ下面(60)において、前記シャフト部(66)に沿って延びる縦方向の溝の形状の下側隣接面(72)と、
前記チップ上面(58)において、前記シャフト部(66)に沿って延びる縦方向の溝の形状の上側隣接面(82)と、
を有し、
前記第一の角度(α)は前記第二の角度(β)より大きいことを特徴とする切削チップ。
【請求項8】
前記第一の角度(α)は25°から50°の範囲であり、前記第二の角度は20°から45°の範囲であり、前記第一の角度(α)は前記第二の角度(β)より大きいことが条件であることを特徴とする、請求項7に記載の切削チップ。
【請求項9】
前記陥凹部前側隣接面(74’’)は相互に対して傾斜する2つの陥凹部前側区画(74)を有し、前記陥凹部後側隣接面(78’’)は相互に対して傾斜する2つの陥凹部後側区画(78)を有することを特徴とする、請求項7に記載の切削チップ。
【請求項10】
前記切削チップは両端型であり、切削部(64)を前記シャフト部(66)の各端の付近に有し、
各切削部(64)は、前記チップ下面(60)にこれに関連づけられる陥凹部(70)を有することを特徴とする、請求項7に記載の切削チップ。
【請求項11】
各陥凹部(70)は、前記下側縁辺(76)の上方に前記チップ上面(58)に向かって延びることを特徴とする、請求項10に記載の切削チップ。
【請求項12】
前記陥凹部前側隣接面(74’’)と前記陥凹部後側隣接面(78’’)を分離する少なくとも1つの陥凹部中間区画(80)をさらに有することを特徴とする、請求項7に記載の切削チップ。
【請求項13】
前記陥凹部前側隣接面(74’’)と前記陥凹部後側隣接面(78’’)の間に位置する2つの陥凹部中間区画(80)と、
前記2つの陥凹部中間区画(80)を分離する陥凹部中央中間区画(80’)と、
をさらに有することを特徴とする、請求項12に記載の切削チップ。
【請求項14】
前記切削チップは両端型であり、切削部(64)を前記シャフト部(66)の各端の付近に有し、
各切削部(64)は、前記チップ下面(60)にこれに関連づけられる陥凹部(70)を有することを特徴とする、請求項14に記載の切削チップ。
【請求項15】
各陥凹部(70)は、前記下側縁辺(76)の上方に前記チップ上面(58)に向かって延びることを特徴とする、請求項14に記載の切削チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−501864(P2012−501864A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526629(P2011−526629)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【国際出願番号】PCT/IL2009/000758
【国際公開番号】WO2010/029533
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(306037920)イスカーリミテッド (93)
【Fターム(参考)】