説明

切削工具保持装置

【課題】標準的な切削工具を切削工具保持装置で把持したときに、切削工具を切削工具把持装置から刃物側へ抜け出すのを防止する。
【解決手段】標準的な切削工具20の刃物部側円筒部26の直径とシャンク部22の直径とにおいて、シャンク部22の直径の方が大きいことに着目し、切削工具を把持する工具保持体10と止め輪15の押し部材17とが軸方向に距離を狭めるにつれ、押し部材17が工具保持体10に設けられた工具挿入孔11の奥に向かうにつれて小さくなる傾斜13に向かって止め輪15を押すことで、止め輪15の外周が縮小されて内径が切削工具20のシャンク部22の直径より小さくなるように設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具保持装置に関し、さらに詳細には、工具ホルダの工具挿入孔に挿入された主にエンドミルなどの切削工具の保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工具ホルダは、切削工具などの工具を工具挿入孔に挿入されて保持し、工作機械の主軸等に取り付けられる。工具ホルダに挿入される部分である切削工具のシャンク部は円筒形が普及しており、円筒形状のシャンク部を把持する工具保持具として外周から中心への圧力や分布荷重により内径が収縮弾性変形するコレットチャックや油圧チャック等がある。切削工具のシャンク部は工具ホルダの把持部の内径が弾性変形することにより働く圧力が摩擦力となり把持される。加工物を加工する際の切削力などにより切削工具に工具ホルダから抜け出る方向に工具ホルダの把持力より大きな力が働くと、切削工具は当初工具ホルダに取り付けられた位置から抜け出る方向に移動することになる。この状態で切削すると加工物と干渉したり、指示した加工より多く切削することになり、正規の寸法で加工できなくなる。
【0003】
これに対応するために、工具ホルダの把持力を大きくする方法が考えられるが、シャンク部が円筒形のものは摩擦力によるため把持力に限界があった。そこで従来、切削工具のシャンク部に溝や段差を設け、工具ホルダに係合部を設けて切削工具の位置を固定する方法が考えられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−532220号公報
【特許文献2】特開2006−247764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1によれば、物品がチャックに取り付けられるとき、他方に対する一方のすべりを防止することを助けるために、山部が谷部に入り込む。つまり、切削工具に谷部を設けて工具ホルダであるチャックの山部を入り込ませることにより、工具ホルダから切削工具が抜け出すことを防止している。しかし、切削工具の標準的な円筒形のシャンク部に谷部を設ける必要があり、切削工具を特別に製作することになる。
【0006】
特許文献2によれば、封止ナットが締めこまれると、その内側突出部が摺動部材のフランジ部に当接して摺動部材を主軸内へ押し込み、摺動部材が弾性環状部材を押圧して弾性変形させ、これにより弾性環状部材が内側に突出して切削工具の細径部及び段差部分に圧着し、切削工具の軸方向や回転方向への滑り、空回りが生じないように固定するものである。しかし、弾性環状部材はそれ自体が大きく弾性変形するので切削工具の軸方向の滑りが完全に生じないように固定できない。
【0007】
円筒形のシャンク部を有する主にエンドミルなどの標準的な切削工具は、切削するための刃物部側からシャンク部に至る部分の直径よりシャンク部の直径のほうが大きい。したがって、シャンク部と刃物部側との間には段差が生じる。本発明の切削工具保持装置は上記実情に鑑みてなされたものであって、標準的な円筒形のシャンク部を有する切削工具を使用でき、工具ホルダに対しての軸方向への抜けが生じないように位置決めできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、切削工具の刃物部側円筒部と円筒状のシャンク部との間に、シャンク部が大きい直径を有して刃物部側円筒部の直径とシャンク部の直径との差を補完する壁面を有し、
工具挿入孔に挿入されると共に、切削工具を軸方向に抜けないように位置決めする切削工具保持装置であって、
外力が働かないときに切削工具のシャンク部より大きい内径を備えた止め輪と、
シャンク部を有する切削工具を受け入れる円筒形の工具挿入孔を有し、工具挿入孔の切削工具を挿入する側に、止め輪の内径が切削工具のシャンク部の直径より小さく収縮したときの止め輪が収納できる空洞および空洞から工具挿入孔の入口に向けて直径が徐々に大きくなるように傾斜を設けた工具保持体と、
切削工具の刃物部側円筒部より大きい内径と、止め輪を工具挿入孔から空洞部に押し入れる押圧部とを有する押し部材と、を備え、
押し部材が工具保持体の工具挿入孔から空洞部側へ軸方向に移動することにより、押圧部が止め輪を工具保持体の傾斜の直径が大きいほうから小さいほうに押し、止め輪の外周が縮小されて内径が切削工具のシャンク部より小さくなるように設けられたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の切削工具保持装置は、刃物部とシャンク部との間にシャンク部が大きい直径を有する壁面を持つ主にエンドミルなどの標準的な切削工具に対して、比較的硬い弾性体である止め輪が径方向に収縮・拡大するので、切削工具のシャンク径より内径が大きい状態のときは切削工具を切削工具保持体に容易に挿入でき、止め輪が収縮されて切削工具保持装置に固定されたときには工具挿入孔より止め輪の内径が小さくなるので、切削工具はその壁面に止め輪が当接するので切削工具保持装置から抜け出すことがない。
標準的な切削工具に対して抜け止め効果が得られるので、切削工具に細工を施したり、特殊な切削工具を製作する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による切削工具保持装置と共に切削工具を把持しているチャックの断面側面図である。
【図2】押し部材が工具保持体から離れている状態の断面側面図である。
【図3】押し部材が工具保持体の工具挿入孔から空洞部側へ軸方向に移動した状態の断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明による切削工具保持装置1が切削工具20を径方向と軸方向に拘束し、工具ホルダ30が切削工具保持装置1と共に切削工具20を把持している断面側面図であり、切削工具保持装置1は工具ホルダ30の把持部の奥で螺子により軸方向に固定されている。図2は本発明による切削工具保持装置1の押し部材17が工具保持体10から離れ、止め輪15の外径が拡大している状態の断面側面図である。図3は本発明による切削工具保持装置1の押し部材17が工具保持体10に接近して止め輪15を収縮させながら空洞12に移動させ、止め輪15が径方向・軸方向(抜け方向)共に拘束された状態の断面側面図である。
【0012】
切削工具保持装置1は、少なくとも切削工具20が切削により軸方向に移動しようとする力を受け止めるだけの材料強度を有する止め輪15、切削工具20のシャンク部22を受け入れる工具挿入孔11を有する工具保持体10、止め輪15を縮小・拡大させるための押し部材17で最小の構成を成すことができる。
【0013】
主にエンドミルなどの標準的な円筒形のシャンク部22を有する切削工具20は、シャンク部22から刃物部21に移行する部分でシャンク部22の外径よりも小さい外径を有する刃物部側円筒部26を有し、この外径の差を補完する壁面23が存在する。止め輪15の形状は、この壁面23を受けるよう、円形、正方形、長方形や台形の断面形状であり、円環状の輪に形成されている。輪の内径は、切削工具20のシャンク部22が挿入できる大きさであり、輪の外周から力を受け輪の内径が縮小されたときは少なくとも切削工具20のシャンク部22の直径より小さくなる。また、切削工具20が切削により切削工具保持装置1から抜け出す方向に力が働いたときに受け止めるだけの材料の強度と断面積が必要である。
【0014】
工具保持体10は、円筒形のシャンク部22を有する切削工具20を受け入れるための円筒形の工具挿入孔11を有し、工具挿入孔11の切削工具20を挿入する側に止め輪15の内径が切削工具20のシャンク部22の直径より小さく収縮したときの止め輪15が収納できる空洞12を設け、空洞12から工具挿入孔11の入り口に向けて直径が徐々に大きくなる傾斜13を設ける。
【0015】
押し部材17は、少なくとも切削工具20の刃物部側円筒部26からシャンク部22に至る部分の直径より大きい内径と、止め輪15を工具挿入孔11の入り口にある傾斜13から空洞12に移動させる押圧部18とを有する。通常は切削工具20のシャンク部22の直径より大きい内径を有する。
【0016】
工具保持体10には工具挿入孔11の入り口の外周に雄ネジが設けられ、また押し部材17の押圧部側に押圧部18より大きい直径で雌ネジが設けられ、これら雌雄のネジが螺合することにより押し部材17と工具保持体の距離を近づけたり、離したりすることができる。
【0017】
止め輪15は工具保持体10の傾斜13と押し部材17の押圧部18の間に備えられ、押し部材17と工具保持体のネジの螺合が進むにつれて両者は接近し、止め輪15は押圧部18に押されて傾斜13に当接し、徐々に外径が縮小して止め輪15の内径が切削工具20のシャンクの外径より小さくなり、切削工具20の壁面23と当接して抜け出ることを防ぐ。
【0018】
止め輪15の内径が切削工具20のシャンク部22の外径より大きくなるように押し部材17と工具保持体10の螺合で位置を決め、切削工具20のシャンク部22を押し部材17から止め輪15を経て工具保持体の工具挿入孔11に切削工具20の壁面23が止め輪15を通過するまで挿入する。このとき、止め輪15に外圧がかからない状態で内径がシャンク部22の直径より小さくてもシャンク部22を押し込めば止め輪15の内径が弾性で大きくなり、止め輪15の内径にシャンク部22を挿入できるようにしても良いが、螺合させる位置は止め輪15の内径がシャンク部22の外径より大きくなることを見込む必要がある。また、止め輪15の断面形状を円形にすると止め輪15の内径がシャンク部22の直径より小さくても、断面形状の円形の中心線でできる輪の直径がシャンク部22の挿入側最先端の直径より大きければ、弾性で内径が拡大しやすくなる。
【0019】
押し部材17と工具保持体10の螺合を、止め輪15が切削工具20のシャンク部22の直径より小さくなる位置まで進め、切削工具20を抜け出す方向に引っ張ると壁面23と止め輪15が当接して止まる。
【0020】
図1のように、工具保持体10を外周が円筒のコレットにして、工具ホルダ30で把持すると工具保持体10の外周は弾性変形して内周で切削工具20を把持する。工具保持体10を工具ホルダ30に直接設けてもよい。
【0021】
工具保持体10に弾性変形が容易になるスリットを設け、このスリットを工具ホルダ30から供給される流体の通路とし、押し部材17に設けた押圧部側から刃物部側に流体を通す流路19から切削工具20に給油することも可能である。具体的には、図2に示すように、押し部材17の内周面に周方向に沿う溝部24を形成しておき、押し部材17の前記空洞12の側から、この溝部24に向けてドリル孔25を形成する。このドリル孔25は押し部材17の周方向に複数設けておく。これにより、ドリル孔25と溝部24とが連通して流路19が形成される。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、主にエンドミルなどの切削工具を保持する装置の産業で利用される。
【符号の説明】
【0023】
1 切削工具保持装置
10 工具保持体
11 工具挿入孔
12 空洞
13 傾斜
15 止め輪
17 押し部材
18 押圧部
19 流路
20 切削工具
21 刃物部
22 シャンク部
23 壁面
26 刃物部側円筒部
30 工具ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具の刃物部側円筒部と円筒状のシャンク部との間に、シャンク部が大きい直径を有して刃物部側円筒部の直径とシャンク部の直径との差を補完する壁面を有し、
切削工具が工具挿入孔に挿入されると共に、軸方向に抜けないように位置決めする切削工具保持装置であって、
外力が働かないときに切削工具のシャンク部より大きい内径を備えた止め輪と、
切削工具のシャンク部を受け入れる円筒形の工具挿入孔を有し、工具挿入孔の切削工具を挿入する側に、止め輪の内径が切削工具のシャンク部の直径より小さく収縮したときの止め輪が収納できる空洞および空洞から工具挿入孔の入口に向けて直径が徐々に大きくなるように傾斜を設けた工具保持体と、
切削工具の刃物部側円筒部より大きい内径と、止め輪を工具挿入孔から空洞部に押し入れる押圧部とを有する押し部材と、を備え、
押し部材が工具保持体の工具挿入孔から空洞部側へ軸方向に移動することにより、押圧部が止め輪を工具保持体の傾斜の直径が大きいほうから小さいほうに押し、止め輪の外周が縮小されて内径が切削工具のシャンク部より小さくなるように設けられた切削工具保持装置。
【請求項2】
止め輪は断面が円形である請求項1に記載の切削工具保持装置。
【請求項3】
押し部材は押圧部側から刃物部側円筒部に流体を通す流路を設けられた請求項1又は2に記載の切削工具保持装置。
【請求項4】
工具保持体は外周が円筒のコレットであり工具ホルダに把持され、係合部により軸方向に固定されている請求項1乃至3のいずれか一項に記載の切削工具保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−56014(P2012−56014A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201268(P2010−201268)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000205834)大昭和精機株式会社 (41)
【Fターム(参考)】