説明

切削工具

【解決手段】ドリル本体1において刃溝10を切刃7に形成すると、ワーク切削時に切削屑を分断して切削抵抗を小さくする切削屑分断機能を発揮し、切削効率を高めることができる。その際、この切削屑分断機能を発揮することができる刃溝10の切削距離Lをドリル本体1の半径dや主切屑排出溝4の切削距離Mとの関係で設定する。すなわち、0.75d≦L≦4dや0.75d≦L≦0.25Mに設定して、その刃溝10の切削距離Lを主切屑排出溝4の切削距離Mよりも短くすることができる。
【効果】従って、刃溝10を主切屑排出溝4の加工後に加工することが可能となり、主切屑排出溝4及び刃溝10の加工を容易にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばドリルやリーマなどの切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のドリルにおいては、ドリル本体の先端部でドリル本体の回転中心線上に形成されたチゼルの外周に、切刃を有する複数の切削端部と、この切削端部に隣接して開放された複数の主切屑排出溝とがドリル本体の回転方向へ交互に並べられ、この各切削端部における回転方向両側の端縁のうち回転向き側の端縁に前記チゼルから切削端部の外周部側へ延びる前記切刃が形成されているとともに、この各切削端部には所定の先端切刃角を有する逃げ面がこの切刃からこの回転向きに対する反対向き側へ形成されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、前記主切屑排出溝がドリル本体の先端部で開放された始端部からドリル本体の長手方向へ終端部まで延設されているとともに、この主切屑排出溝の内面には複数の刃溝が前記切刃で開放された始端部からドリル本体の長手方向へ終端部まで延設され、この切刃がこの刃溝により形成される尖端を有している。
【0004】
このような刃溝を切刃に形成すると、ワーク切削時に切削屑が分断されるため、切削抵抗を小さくして切削効率を高めることができる。
【特許文献1】米国特許867639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、刃溝の終端部が主切屑排出溝の終端部まで延設され、刃溝の切削距離が長くなっている。しかし、刃溝の終端部を主切屑排出溝の終端部まで延設することは、加工効率を良くするために主切屑排出溝の加工と同時に刃溝の加工を行う必要が生じ、主切屑排出溝及び刃溝の加工が面倒になる問題があった。
【0006】
この発明は、ドリルやリーマなどの切削工具において、前記主切屑排出溝に対する刃溝の形成構造を改良し、主切屑排出溝及び刃溝の加工を容易にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
後記実施形態の図面(図1に示す第1実施形態、図2に示す第2実施形態、図3に示す第3実施形態、図4に示す第4実施形態)の符号を援用して本発明を説明する。
請求項1の発明にかかる切削工具は、第1〜4実施形態に対応し、下記のように構成されている。
【0008】
工具本体1の先端部で工具本体1の回転中心線1a上に形成したチゼル2の外周に、切刃7を有する複数の切削端部3と、この切削端部3に隣接して開放した複数の主切屑排出溝4とを工具本体1の回転方向1aへ交互に並べている。この各切削端部3における回転方向Xの両側の端縁5a,5bのうち回転向きXF側の端縁5aに前記チゼル2から切削端部3の外周部6側へ延びる前記切刃7を形成している。この各切削端部3には所定の先端切刃角θを有する逃げ面8をこの切刃7からこの回転向きXFに対する反対向きXR側へ形成している。前記主切屑排出溝4は工具本体1の先端部で開放した始端部4aから工具本体1の長手方向へ終端部4bまで延設されている。この主切屑排出溝4の内面には一または二以上の刃溝10を前記切刃7で開放した始端部10aから工具本体1の長手方向へ終端部10bまで延設している。この切刃7にはこの刃溝10により形成される尖端11を有している。前記チゼル2を通り且つ工具本体1の回転中心線1aに対し直交する面と前記刃溝10の終端部10bを通り且つ工具本体1の回転中心線1aに対し直交する面との間の回転中心線方向距離をLとするとともに、工具本体1の回転中心線1aから切削端部3の外周部6までの半径をdとした場合、0.75d≦L≦4dに設定している。
【0009】
請求項1の発明を前提とする請求項2の発明(第1〜2実施形態に対応)において、前記主切屑排出溝4は工具本体1の回転中心線1aに沿って直線状に延設され、0.75d≦L≦3dに設定するか、または、前記チゼル2を通り且つ工具本体1の回転中心線1aに対し直交する面と前記主切屑排出溝4の終端部4bを通り且つ工具本体1の回転中心線1aに対し直交する面との間の回転中心線方向距離(切削距離)をMとした場合、0.75d≦L≦0.25Mに設定している。
【0010】
請求項1の発明を前提とする請求項3の発明(第3〜4実施形態に対応)において、前記主切屑排出溝4は工具本体1の回転中心線1aの周囲で螺旋状に延設され、0.75d≦L≦2dに設定するか、または、前記チゼル2を通り且つ工具本体1の回転中心線1aに対し直交する面と前記主切屑排出溝4の終端部4bを通り且つ工具本体1の回転中心線1aに対し直交する面との間の回転中心線方向距離(切削距離)をMとした場合、0.75d≦L≦0.1Mに設定している。
【0011】
請求項1または請求項2または請求項3の発明を前提とする請求項4の発明(第1〜4実施形態に対応)において、前記切削端部3と主切屑排出溝4とはそれぞれ一対設けられている。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ドリルやリーマなどの切削工具において、刃溝10の終端部10bを主切屑排出溝4の終端部4bまで延設することなく、ワーク切削時に切削屑を分断して切削抵抗を小さくする切削屑分断機能を発揮することができる刃溝10の切削距離Lを工具本体1の半径dや主切屑排出溝4の切削距離Mとの関係で設定し、刃溝10を主切屑排出溝4の加工後に加工することを可能にして、主切屑排出溝4及び刃溝10の加工を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本発明の第1実施形態にかかる切削工具について図1を参照して説明する。
工具本体としてのドリル本体1の先端部で、ドリル本体1の回転中心線1a上にチゼル2が形成され、そのチゼル2の外周には一対の切削端部3と一対の主切屑排出溝4とがドリル本体1の回転方向Xへ交互に並べられている。この各主切屑排出溝4は回転中心線1aに沿って直線状に形成されている。この各切削端部3における回転方向Xの両側の端縁5a,5bのうち回転向きXF側の第一端縁5aには前記チゼル2から切削端部3の外周部6側へ延びる切刃7が形成されている。この各主切屑排出溝4はこれらの端縁5a,5b間で開放されている。この各切削端部3には逃げ面8がこの切刃7からこの回転向きXFに対する反対向きXR側へ形成され、これらの逃げ面8は互いに所定の先端切刃角θをなしている。この各切削端部3の外周部6には一対の副切屑排出溝9が回転方向Xへ並設されて逃げ面8に開放されている。この各副切屑排出溝9は回転中心線1aに沿って直線状に形成されている。なお、この各副切屑排出溝9を省略してもよい。
【0014】
前記各主切屑排出溝4はドリル本体1の先端部で開放した始端部4aからドリル本体1の長手方向(ドリル本体1の回転中心線1aの方向)へ終端部4bまで延設されている。この各主切屑排出溝4の内面には複数(三個)の刃溝10が前記切刃7で開放した始端部10aからドリル本体1の長手方向へ終端部10bまで回転中心線1aに沿って直線状に延設されている。この各刃溝10は各主切屑排出溝4の加工後に加工にされる。この切刃7にはこの各刃溝10の始端部10aにより形成される複数(四個)の尖端11がこの切刃7の延設方向に沿って並設されている。この各刃溝10でドリル本体1の長手方向に対し直交する幅方向の寸法は、始端部10aから終端部10bに至るに従い狭くなっている。
【0015】
前記チゼル2を通り且つドリル本体1の回転中心線1aに対し直交する面と前記刃溝10の終端部10bを通り且つドリル本体1の回転中心線1aに対し直交する面との間の回転中心線方向距離(刃溝10の切削距離)をLとするとともに、ドリル本体1の回転中心線1aから切削端部3の外周部6までの半径をdとした場合、0.75d≦L≦4dの範囲内で且つ2d≦L≦3dの範囲内に設定されている。また、前記チゼル2を通り且つドリル本体1の回転中心線1aに対し直交する面と前記主切屑排出溝4の終端部4bを通り且つドリル本体1の回転中心線1aに対し直交する面との間の回転中心線方向距離(主切屑排出溝4の切削距離)をMとした場合、0.75d≦L≦0.25Mの範囲内に設定されている。
【0016】
次に、本発明の第2実施形態にかかる切削工具について主に第1実施形態との相違点を中心に図2を参照して説明する。
各主切屑排出溝4の内面には一個の刃溝10が切刃7で開放した始端部10aからドリル本体1の長手方向へ終端部10bまで延設されている。この切刃7にはこの刃溝10の始端部10aにより形成される複数(二個)の尖端11がこの切刃7の延設方向に沿って並設されている。0.75d≦L≦4dの範囲内で且つ3d≦L≦4dの範囲内に設定されている。また、0.75d≦L≦0.25Mの範囲内に設定されている。
【0017】
次に、本発明の第3実施形態にかかる切削工具について主に第1実施形態との相違点を中心に図3を参照して説明する。
各主切屑排出溝4はドリル本体1の回転中心線1aの周囲で螺旋状に形成されている。各主切屑排出溝4の内面には複数(三個)の刃溝10が切刃7で開放した始端部10aからドリル本体1の長手方向へ終端部10bまでドリル本体1の回転中心線1aの周囲で螺旋状に延設されている。各主切屑排出溝4のねじれ角(例えば30°)よりも各刃溝10のねじれ角(例えば20°)が小さく設定されている。この切刃7にはこの各刃溝10の始端部10aにより形成される複数(四個)の尖端11がこの切刃7の延設方向に沿って並設されている。0.75d≦L≦4dの範囲内で且つd≦L≦2dの範囲内に設定されている。また、0.75d≦L≦0.25Mの範囲内で且つ0.75d≦L≦0.1Mの範囲内に設定されている。各副切屑排出溝9は省略されている。
【0018】
次に、本発明の第4実施形態にかかる切削工具について主に第1実施形態との相違点を中心に図4を参照して説明する。
各主切屑排出溝4はドリル本体1の回転中心線1aの周囲で螺旋状に形成されている。各主切屑排出溝4の内面には一個の刃溝10が切刃7で開放した始端部10aからドリル本体1の長手方向へ終端部10bまでドリル本体1の回転中心線1aの周囲で螺旋状に延設されている。各主切屑排出溝4のねじれ角(例えば30°)よりも各刃溝10のねじれ角(例えば20°)が小さく設定されている。この切刃7にはこの刃溝10の始端部10aにより形成される複数(二個)の尖端11がこの切刃7の延設方向に沿って並設されている。0.75d≦L≦4dの範囲内で且つd≦L≦2dの範囲内に設定されている。また、0.75d≦L≦0.25Mの範囲内で且つ0.75d≦L≦0.1Mの範囲内に設定されている。各副切屑排出溝9は省略されている。
【0019】
本実施形態にかかるドリルにおいては、刃溝10を切刃7に形成すると、ワーク切削時に切削屑を分断して切削抵抗を小さくする切削屑分断機能を発揮し、切削効率を高めることができる。その際、この切削屑分断機能を発揮することができる刃溝10の切削距離Lをドリル本体1の半径dや主切屑排出溝4の切削距離Mとの関係で設定し、その刃溝10の切削距離Lを主切屑排出溝4の切削距離Mよりも短くすることができる。従って、刃溝10を主切屑排出溝4の加工後に加工することが可能となり、主切屑排出溝4及び刃溝10の加工を容易にすることができる。また、切刃7により切削されて主切屑排出溝4の始端部4a及び刃溝10の始端部10aから主切屑排出溝4の終端部4b及び刃溝10の終端部10bに向って排出される切削屑は、刃溝10の終端部10bで通過抵抗を受けるため、刃溝10の両端縁による切削機能が向上し、切削効率を高めることができる。
【0020】
なお、前記切削端部3と主切屑排出溝4とをそれぞれ三以上交互に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は第1実施形態にかかる切削工具の全体を示す正面図であり、(b)は(a)の部分拡大正面図であり、(c)は(a)の拡大平面図であり、(d)は(b)のA1−A1線拡大端面図であり、(e)は(b)のA2−A2線拡大端面図であり、(f)は(b)のA3−A3線拡大端面図である。
【図2】(a)は第2実施形態にかかる切削工具の全体を示す正面図であり、(b)は(a)の部分拡大正面図であり、(c)は(a)の拡大平面図であり、(d)は(b)のB1−B1線拡大端面図であり、(e)は(b)のB2−B2線拡大端面図であり、(f)は(b)のB3−B3線拡大端面図である。
【図3】(a)は第3実施形態にかかる切削工具の全体を示す正面図であり、(b)は(a)の部分拡大正面図であり、(c)は(a)の拡大平面図であり、(d)は(b)のC1−C1線拡大端面図であり、(e)は(b)のC2−C2線拡大端面図であり、(f)は(b)のC3−C3線拡大端面図である。
【図4】(a)は第4実施形態にかかる切削工具の全体を示す正面図であり、(b)は(a)の部分拡大正面図であり、(c)は(a)の拡大平面図であり、(d)は(b)のD1−D1線拡大端面図であり、(e)は(b)のD2−D2線拡大端面図であり、(f)は(b)のD3−D3線拡大端面図である。
【符号の説明】
【0022】
1…工具本体としてのドリル本体、1a…ドリル本体の回転中心線、2…チゼル、3…切削端部、4…主切屑排出溝、4a…始端部、4b…終端部、5a,5b…切削端部の端縁、6…切削端部の外周部、7…切刃、8…逃げ面、10…刃溝、10a…始端部、10b…終端部、11…尖端、X…ドリル本体の回転方向、XF…ドリル本体の回転向き、XR…回転向きに対する反対向き、θ…逃げ面の先端切刃角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体の先端部で工具本体の回転中心線上に形成したチゼルの外周に、切刃を有する複数の切削端部と、この切削端部に隣接して開放した複数の主切屑排出溝とを工具本体の回転方向へ交互に並べ、この各切削端部における回転方向両側の端縁のうち回転向き側の端縁に前記チゼルから切削端部の外周部側へ延びる前記切刃を形成するとともに、この各切削端部には所定の先端切刃角を有する逃げ面をこの切刃からこの回転向きに対する反対向き側へ形成した切削工具において、
前記主切屑排出溝は工具本体の先端部で開放した始端部から工具本体の長手方向へ終端部まで延設され、この主切屑排出溝の内面には一または二以上の刃溝を前記切刃で開放した始端部から工具本体の長手方向へ終端部まで延設し、この切刃はこの刃溝により形成される尖端を有し、
前記チゼルを通り且つ工具本体の回転中心線に対し直交する面と前記刃溝の終端部を通り且つ工具本体の回転中心線に対し直交する面との間の回転中心線方向距離をLとするとともに、工具本体の回転中心線から切削端部の外周部までの半径をdとした場合、0.75d≦L≦4dに設定した
ことを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記主切屑排出溝は工具本体の回転中心線に沿って直線状に延設され、0.75d≦L≦3dに設定するか、または、前記チゼルを通り且つ工具本体の回転中心線に対し直交する面と前記主切屑排出溝の終端部を通り且つ工具本体の回転中心線に対し直交する面との間の回転中心線方向距離をMとした場合、0.75d≦L≦0.25Mに設定したことを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記主切屑排出溝は工具本体の回転中心線の周囲で螺旋状に延設され、0.75d≦L≦2dに設定するか、または、前記チゼルを通り且つ工具本体の回転中心線に対し直交する面と前記主切屑排出溝の終端部を通り且つ工具本体の回転中心線に対し直交する面との間の回転中心線方向距離をMとした場合、0.75d≦L≦0.1Mに設定したことを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項4】
前記切削端部と主切屑排出溝とはそれぞれ一対設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2または請求項3に記載の切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−101460(P2009−101460A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275218(P2007−275218)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000205052)大見工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】