説明

切削工具

【課題】工具本体を強固に工作機械に取り付けることができるとともに、容易かつ速やかに交換可能とし、交換作業における時間と労力を大幅に削減することができる切削工具を提供する。
【解決手段】工具本体12の突起部22に、円周溝23と軸線Oに直交する方向に沿った切り欠き溝部28を設け、工作機械の主軸100に固定されたアダプタ13に取付孔45を形成し、該取付孔45の内周壁面を工具径方向外側に貫通するクサビ挿入孔47を周方向に一対対向するように設け、それぞれの該クサビ挿入孔47にクサビ部材51、52を挿入してこれらを掛け渡すようにピン53を配置し、一方のクサビ部材51をピン53と固定するとともに、他方のクサビ部材52をピン53に対して工具径方向に締緩自在にボルト締めする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被切削材に予め設けられた下穴の内壁面を切削加工して加工穴を形成するとともに、この加工穴の開口部周縁を前記加工穴と同軸状に切削加工するための切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのシリンダーヘッドにおけるバルブ穴を仕上げ加工するとともにこのバルブ穴の開口部を所定の形状に加工するための切削工具として、被切削材に予め設けられた下穴に挿入される穴加工工具と、この下穴の開口部を同軸状に切削加工を行う切刃とを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1または特許文献2参照)。
【0003】
この種の切削工具としては、軸線回りに回転される工具本体を有し、該工具本体の後端側部分には工作機械の工具保持部に装着される取付部が形成され、工具本体の先端面には、軸線に沿って延びる装着孔が穿設されている。この装着孔に長尺の略円柱状をなす穴加工工具として先端に刃先部を備えたリーマが挿入されている。この装着孔には、工具本体の外周面から穿設されたクランプねじ孔が連通されており、装着孔に挿入されたリーマは、クランプねじ孔に螺着されたクランプねじによって押圧されることで強固に固定されている。また、工具本体の先端外周部には切削インサートが装着されている。
【0004】
この切削工具は、工具本体後端側に形成された取付部が工作機械の工具保持部に取り付けられ、工具本体が軸線回りに回転されつつ軸線方向先端側に向かって送られることにより、工具本体の装着孔に装着されたリーマが、例えばエンジンのシリンダーヘッドにおけるバルブ穴からなる下穴を所定の内径に加工するとともに、工具本体先端外周部に装着された切削インサートの切刃によって、このバルブ穴の開口部にバルブヘッドが当接するバルブシート面を加工するようになっている。このように加工することによってバルブ穴とバルブシート面とが同軸状に形成される。
【特許文献1】特許第2748846号公報
【特許文献2】特開平6−304804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来の切削工具においては、異なる仕様のバルブ穴やその開口部に加工する施す場合は、対応する切刃を備えた穴加工工具及び工具本体への交換作業を行う必要があり、また、切刃の寿命や欠損によっても穴加工工具及び工具本体を新しいものに交換する必要がある。この際、穴加工工具は比較的容易に着脱することができるものの、先端外周に切刃を備えた工具本体は、工作機械の工具保持部への取付剛性を確保するために該工具保持部に強固に固定されているため、工具本体を着脱して交換する作業には多くの時間と労力を要してしまうという問題があった。
【0006】
この発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、工具本体を強固に工作機械に取り付けることができるとともに、容易かつ速やかに交換可能とし、交換作業における時間と労力を大幅に削減することができる切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係る切削工具は、軸線回りに回転される工具本体を有し、前記軸線に沿って前記工具本体の先端側に延びる穴加工工具が装着されるとともに、前記工具本体の先端外周部に切刃が配置され、前記穴加工工具によって被削材に予め設けられた下穴の内壁面を切削加工して加工穴を形成するとともに、前記切刃によって前記加工穴の開口部を切削加工する切削工具であって、前記工具本体は、アダプタを介して工作機械に取りつけられ、前記工具本体の後端部と前記アダプタの先端部とのいずれか一方に前記軸線を中心とした突起部が設けられるとともに、他方には前記突起部と嵌合する取付孔が設けられ、前記突起部には、その外周に円周溝が設けられているとともに、前記軸線に直交する方向に沿って前記突起部先端側から後端側に向かって切り欠かれて形成された切り欠き溝部が設けられ、前記取付孔には、内周壁面を工具径方向外側に向けて貫通するようにして形成されたクサビ挿入孔が前記軸線を挟んで対向するように一対形成されており、該クサビ挿入孔のそれぞれに、前記円周溝と係合して前記工具本体及び前記アダプタを前記軸線方向に固定するクサビ部材が挿入され、これら2つの前記クサビ部材を掛け渡すようにして、前記切り欠き溝部に嵌入可能なピンが設けられ、前記クサビ部材の一方は、前記ピンと固定一体化されており、前記クサビ部材の他方は、前記ピンに対して工具径方向に離接可能にボルト締めされており、前記クサビ部材に、工具径方向外側に向かうに従い漸次前記取付孔の底部に近づく押圧面が設けられ、前記円周溝に、前記押圧面と等しい角度で傾斜し前記押圧面によって垂直に押圧される被押圧面が設けられていることを特徴としている。
【0008】
このような特徴の切削工具は、工具本体はアダプタを介して工作機械に取り付けられる構成とされており、該工具本体をアダプタに装着する際には、まず工具本体と工具アダプタのいずれか一方の取付孔内に位置するピンを、他方の突起部に形成された切り欠き溝部に嵌入させるようにして、即ち、切り欠き溝部によってピンを挟み込むようにして取付孔と突起部とを嵌合させる。次にピンの両端に位置するクサビ部材のうちの上記の他方のクサビ部材のボルトを締めていくことによって、該他方のクサビ部材が工具径方向内側に移動するとともに、ピンを介して該ピンに固定された一方のクサビ部材も工具径方向内側に移動していく。
これによって、2つのクサビ部材のそれぞれが突起部の円周溝に係合して工具本体とアダプタとが軸線方向に固定され一体化される。
またこの際、クサビ部材の押圧面が円周溝の被押圧面を押圧して突起部を取付孔内に押し込むことにより、工具本体とアダプタとを軸線方向に強固に固定一体化することが可能となる。
【0009】
このような状態から工具本体をアダプタから取り外す際には、上記の他方のクサビ部材のボルトを緩めることで、2つのクサビ部材のそれぞれが工具径方向外側に移動可能となり、これによってクサビ部材と円周溝との係合が解かれ、工具本体とアダプタとの軸線方向の固定が解除される。以上から、一方のクサビ部材のボルトの締緩の動作のみをもって、工具本体を強固にアダプタに取り付けることができるともに、容易かつ速やかに交換することが可能となる。
【0010】
また、本発明に係る切削工具は、前記工具本体及び前記アダプタに、前記穴加工工具を挿通するための装着孔が前記軸線に沿って貫通するように設けられるとともに、前記ピンに、前記軸線に沿って貫通し、開口部が該ピンの長手方向に延びる長孔が設けられたことを特徴としている。
【0011】
例えば、穴加工工具を保持するコレットチャック等が、工作機械側にある場合には、穴加工工具が工具本体とアダプタのそれぞれを貫通した状態で工作機械に至りコレットチャックに保持される必要があるが、本発明の切削工具では、工具本体及びアダプタに貫通孔が設けられているとともに、ピンに長孔が設けられているため、穴加工工具がこれらを挿通するように装着され、該穴加工工具の後端側が工作機械に保持される。また、このように穴加工工具が装着された状態において工具本体をアダプタから取り外す際には、上記の他方のクサビ部材のボルトを緩めることによって、該他方のクサビ部材を工具径方向外側に移動させる。この際、ピンは、長孔に穴加工工具を挿通させた状態で該長孔の開口部の長手方向の長さの範囲内で移動することができるため、このピンの移動に伴って、一方のクサビ部材も工具径方向外側へ移動することができる。従って、穴加工工具が工具本体及びアダプタを貫通して装着されている場合であっても、これに妨げられることなくクサビ部材が工具径方向に移動可能となるため、容易かつ速やかに工具本体とアダプタとの軸線方向の固定を解除して工具本体を取り外すことが可能になる。
【0012】
さらに、本発明に係る切削工具は、前記突起部が、前記軸線を中心として該突起部の先端側に向かうに従い縮径するテーパ側面を有し、前記取付孔が、前記テーパ側面と嵌合するテーパ内周壁面を有することを特徴としている。
【0013】
突起部を取付孔に嵌入させる最に、突起部のテーパ側面と取付孔のテーパ内壁面とを嵌合させることによって、突起部と取付孔のそれぞれの中心軸線が一致させられる。従って、アダプタに対して工具本体を高精度で芯出しを行うことができるため、加工精度を高く維持することが可能となる
【0014】
また、本発明に係る切削工具は、前記クサビ部材の工具径方向外側への移動を一定の範囲に制限するストッパーが設けられたことを特徴としている。これによって、不クサビ部材やピンが切削工具から不用意に抜け落ちてしまうことを防止することができ安全性を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の切削工具によれば、先端外周部に切刃を備えた工具本体を、工作機械に強固に取り付けることができるとともに、容易かつ速やかに交換することが可能となるため、交換作業における時間と労力を大幅に削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の切削工具の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明に係る切削工具の一実施形態を示す側断面図である。
【0017】
切削工具11は、加工時に軸線O回りに工具回転方向Tに回転される多段円柱状の工具本体12と、この工具本体12の工具後端側(図1において右側)に位置し、後端部が工作機械の主軸に連結されているアダプタ13と、工具本体12の工具先端側(図1において左側)に向けて軸線Oに沿って延びる穴加工工具としての長尺状のリーマ14と、工具本体12の工具先端側外周に切刃37を向けて配置される切削インサート36とを有している。リーマ14は、概略円柱状をなしており、その先端側部分に刃先部14aが形成されるとともに、後端側部分がシャンク部14bとされている。
【0018】
工具本体12は、軸線Oに沿って延びるとともに、工具先端側から後端側に向かうに従い外径が大きくなる多段円柱状をなしており、外径が最も大きい部分が胴部21とされ、胴部21の工具後端側には、該胴部21よりも小径とされた突起部22が、工具後端側に向かって軸線Oに沿って、かつ軸線Oを中心として延びるように形成されている。
【0019】
該突起部22の軸線O方向の中央部には、詳しくは工具本体12の工具後端側部分の側面図である図2に示すように、外周側面が一段工具径方向内側に向かって窪むようにして円周溝23が形成されており、該突起部22の外周側面は円周溝23によって軸線O方向に二分され、工具後端側の外周側面が軸線Oに平行な平坦側面24とされ、工具先端側の外周側面が、工具後端側に向かうに従って軸線Oを中心として漸次縮径するテーパ側面25とされている。また、円周溝23と平坦側面24及びテーパ側面25との境界部は、それぞれ傾斜するように形成されており、特に円周溝23と平坦側面24との境界部は、工具径方向外側に向かうに従い漸次工具後端側に近づくように形成された凸円錐面状の被押圧面26とされている。
【0020】
さらに、突起部22における工具後端側を臨む端面である突起部端面27と、この突起部22の周りの工具本体の後端側を向く面とは、軸線Oに垂直な平坦面とされており、工具本体12の工具後端側部分の平面図である図3に示すように、該突起部端面27が軸線Oに直交する方向に沿って工具先端側に向かって切り欠かれるようにして切り欠き溝部28が形成されている。該切り欠き溝部28の溝幅は後述するピン53の直径と略同一に形成されているとともに、溝底28aは円弧状をなしており、後述するピン53が切り欠き溝部28に嵌入可能な構成とされている。
【0021】
また、図1に示すように、工具本体12には、工具先端側から後端側に向かって軸線Oに沿って貫通するように形成された、リーマ14を挿通させるための装着孔29が設けられており、該装着孔29の工具先端側部分は、一段径が縮径された小径孔29aとされている。この小径穴29aには、円筒形状を有し、その内周側にリーマ14のシャンク部14bが挿入されるブッシュ31が嵌入されている。
【0022】
工具本体12の軸線O方向の略中央部には、軸線Oと直交し、かつ径方向に沿って延びて工具本体12の外周面から装着孔29の小径部29aへと連通する調整ねじ孔32が形成されている。この調整ねじ孔32には、リーマ14の振れ出しを調整する調整手段として、先端面がリーマ14のシャンク部14bを押圧する押圧端面33aとされた略円柱状をなす調整ねじ33が螺着されている。
【0023】
また工具本体12の先端側外周部には、工具径方向外側及び工具先端側に向けて開口するように切り欠き部35が形成されており、この切り欠き部35の工具回転方向T後方側には、切刃37を有する切削インサート36が、取付ねじ38によって着脱可能に装着されている。本実施形態においては、該切削インサート36は周方向に120°間隔で3つが配置されており、これら3つの切削インサート36の切刃37と軸線Oとがなす角度がそれぞれ異なるように構成されている。また、切削インサート36の工具後端側には、切削インサート36の軸線O方向の位置を調整するための押圧ネジ39が備えられている。
【0024】
アダプタ13は、図1に示すように、その後端側で同軸状に配置された工作機械の主軸100の略円筒状の外周スリーブ101の先端部と、図6に示す係合穴20に挿入された図示されないボルトにより締結されることによって連結されており、外周スリーブ101の回転がアダプタ13に伝達されるようになっている。
【0025】
このアダプタ13は、詳しくは図4及び図5に示すように、軸線Oに沿って延びるとともに、工具先端側が後端側に比べて一段縮径した概略二段円柱形状をなしており、この工具先端側が取付部41とされ、工具後端側が大径部42とされている。また、大径部42のさらに工具後端側には、該大径部42よりも小径とされた軸線Oを中心とした突起である嵌合部42aが形成されており、上記の外周スリーブ101の先端部に形成された嵌合孔101aに嵌まり込む構成とされている。
【0026】
アダプタ13の取付部41の工具先端側を臨む端面はアダプタ先端面44とされて、軸線Oに垂直な平坦面とされるとともに、このアダプタ先端面44の中央には、軸線Oを中心として断面円形状に凹んだ有底孔である取付孔45が開口されており、さらにこの取付孔45の底部45aには、該底部45aから軸線Oに沿って工具後端側に延びるようにして貫通する、リーマ14を挿通させるための装着孔46が設けられている。
【0027】
また、取付孔45の内周壁面の軸線O方向の中央部には、図4から図6に示すように、該内周壁面と取付孔45の外周側面を工具径方向に連通し、その開口形状を四角形状としたクサビ挿入孔47が、取付孔45の軸線Oを挟んで工具径方向に対向するようにして、一対形成されている。さらに、取付孔45の内周壁面はクサビ挿入孔47によって軸線O方向に二分されるようにして、工具先端側の内周壁面が、工具先端側に向かうに従って軸線Oを中心として漸次拡径し、上記のテーパ側面25と同一のテーパ角度を有するテーパ内周壁面48とされ、工具後端側の内周壁面が、軸線Oに平行な平坦内壁面49とされている。
【0028】
そして、上記のように取付部41の工具径方向に対向するようにして2つが形成されたクサビ挿入孔47のそれぞれに、クサビ部材51、52がそれぞれ挿入されるとともに、これら2つのクサビ部材51、52を取付孔45の直径方向に掛け渡すようにして、ピン53が配置されている。
【0029】
2つのクサビ部材51、52のうち、図4から図6における上側に位置する一方のクサビ部材51は、詳しくは図7及び図8に示すように、軸線O方向に一定の厚みを備えた板片状であって、径方向内側に臨む面55が軸線Oを中心とする円に沿った円弧状に形成された形状を有している。このクサビ部材51には、径方向内側に臨む面55と径方向外側に臨む面56とを工具径方向に連通するようにして延びるボルト挿通孔57が形成されており、このボルト挿入孔57の工具径方向外側部分にボルト挿通孔57よりも一段大径とされた座ぐり孔58が設けられている。
【0030】
また、クサビ部材51の工具先端側を臨む面59は、工具径方向外側に位置する部分が工具後端側に一段窪んで収納窪部60とされ、これら工具先端側を臨む面59と収納窪部60との間の段部が当接段部61とされている。さらに、クサビ部材51の工具後端側に臨む面62と径方向内側を臨む面55との境界部には、工具径方向外側に向かうに従い漸次工具後端側に近づくように形成されるとともに、上記の被押圧面26と同様の傾斜角を有する押圧面63が形成されている。
【0031】
このような構成のクサビ部材51は、その径方向内側を臨む面55がピン53の一端部65に当接されるようにして固定一体化されている。ピン53は、詳しくは図7及び図8に示すように、工具直径方向に延びる円筒形状を有しており、その一端部65にボルト固定孔66が開口しているとともに、他端部67にボルト挿入孔68が開口している。また、ピン53には、軸線Oに沿って貫通するとともに、開口部が軸線Oから該ピン53の他端部67に向かって略楕円径に延びる長孔69が設けられている。このようなピン53の一端部65がクサビ部材51の径方向内側を望む面と当接するようにして、クサビ部材51のボルト挿通孔57及びピン53のボルト固定孔66に固定ボルト70がねじこまれて、クサビ部材51とピン53とが固定一体化されている。
【0032】
また、2つのクサビ部材51、52のうち、図4から図6における下側に位置する他方のクサビ部材52は、詳しくは図9及び図10に示すように、クサビ部材51と同様に、軸線O方向に一定の厚みを備えた板片状であって、径方向内側を臨む面72が軸線Oを中心とする円に沿った円弧状に形成された形状を有している。また、クサビ部材52には、径方向内側を臨む面72と径方向外側を臨む面73とを工具径方向に連通するようにして延びるボルト挿通孔74が形成されている。
【0033】
また、クサビ部材52の工具先端側を臨む面75は、工具径方向外側寄りの部分が工具後端側に一段凹んで収納溝部76とされ、該収納溝部76と工具先端側を臨む面75との間の2つの段部が当接段部77とされている。さらに、クサビ部材52の工具後端側に臨む面78と工具径方向内側を臨む面72との境界部には、工具径方向外側に向かうに従い漸次工具後端側に近づくように形成されるとともに、上記の被押圧面26と同様の傾斜角を有する凹円錐面状の押圧面79が形成されている。
【0034】
このようなクサビ部材52は、図1及び図4から図6に示すように、クサビ部材52の工具径方向内側を臨む面72とピン53の他端部67が向き合うようにして、クサビ部材52のボルト挿通孔74及びピン53のボルト挿入孔68に締緩ボルト80がねじこまれる。そして、この締緩ボルト80を締めつけ、あるいは緩めることによって、クサビ部材52がピン53に対して離接可能な構成とされている。
【0035】
なお、アダプタ13のアダプタ先端面44とそれぞれのクサビ挿入孔47の工具先端側の内壁面47aとの間には、詳しくは図4又は図5に示すように、これらを軸線O方向に連通する2つの連通孔81が形成されており、該連通孔81にピン状のストッパー82が挿入されている。そして、これらストッパー82はそれぞれのクサビ挿入孔47の工具先端側の内壁面47aから工具後端側に向けて突出し、クサビ部材51の収納窪部60及びクサビ部材52の収納溝部に収納されている。
【0036】
上記のような構成のアダプタ13の後端側に位置する工作機械の主軸100においては、図1に示すように、略円筒状の外周スリーブ101の内周側に略円筒状の内周スリーブ102が同軸状に配置されている。この内周スリーブ102に形成された内周孔は、先端面に向けて開口した第1孔105と、この第1孔105よりも一段小径とされた第2孔106と、この第2孔106よりもさらに一段小径の第3孔107とが連設されて構成されている。この第1孔105には、その外周面にギア歯103aが形成されたナット部材103の工具後端側部分が嵌入されている。
【0037】
第2孔106には、リーマ14を支持するためのコレットチャック108が挿入されている。コレットチャック108は、軸線O方向に縦列するように配置された一対のチャック部材109、110と、これらチャック部材109、110の径方向内側に配置されるコレット111とから構成されている。
【0038】
チャック部材109、110は、第2孔106に嵌挿可能な外径を有する概略円筒状に形成されており、工具先端側に配置されるチャック部材109はナット部材103の工具後端側を向く面に当接させられ、工具後端側に配置されるチャック部材110は第2孔106の工具先端側を向く底面に当接させられるとともに、これら一対のチャック部材109、110の間には軸線O方向に間隔が開けられて配置されている。さらに、これらのチャック部材109、110の内周側には、互いに他方のチャック部材109、110側に向かうにしたがい漸次拡径するテーパ部109a、110aが形成されている。
【0039】
コレット111は、その外周側がテーパ部109a、110aと密着するような形状とされた概略円筒状をなしており、その円筒壁部には、コレット111の中心軸を含む平面に沿った多数のスリット(図示なし)が形成されていて、このスリットに挟まれた部分が中心軸に対する径方向内側に撓むことにより、コレット111の内径が縮径される構成とされている。このコレット111の内周側にリーマ14のシャンク部14bが挿入される。
【0040】
また、アダプタ13には、チャック108の工具先端側に配置されたナット部材103を軸線O方向に進退可能に移動させる図示しない移動部材が配置されている。この移動部材には、円板状をなしてその外周にウォーム歯が形成されており、該ウォーム歯がナット部材103のギア歯103aと歯合され、移動部材を回転させることでナット部材103を軸線O方向に移動可能な構成とされている。この移動部材は、六角棒レンチ等の作業用工具によって回転される構成とされている。
【0041】
次に、以上のような構成の切削工具11において、工作機械の主軸100に同軸に固定されているアダプタ13に工具本体12を取り付ける手順について説明する。まず、クサビ部材52の締緩ボルト80を緩めて一対のクサビ部材51、52の間隔が突起部22の外径より大きくなった状態で、工具本体12の突起部22をアダプタ13の取付孔45に挿入する。このとき、アダプタ13の取付孔45を工具直径方向に掛け渡すように配置されているピン53が、工具本体12の突起部22の切り欠き溝部28に嵌入するようにして、即ち、切り欠き溝部28によってピン53を挟みこむようにして、工具本体12の突起部22をアダプタ13の取付孔45内に押し込む。
【0042】
なお、この際、工具本体12の突起部22のテーパ側面25と、アダプタ13の取付孔45のテーパ内周壁面48とは互いに等しいテーパ角のテーパ状であって、それぞれの断面は軸線Oを中心とした円形状であることから、取付孔45に突起部22を取り付けた状態においては、これらテーパ側面25と外周テーパ部34とが互いに嵌合することによって、工具本体12の中心軸線がアダプタ13の中心軸線に一致させられる。
【0043】
このように、アダプタ13の取付孔45に工具本体12の突起部22が嵌入された状態で、クサビ部材52の締緩ボルト80を締めていくと、クサビ部材51、52同士が互いに近接するようにして工具径方向内側に向かって移動していく。
【0044】
このように、締緩ボルト80を締めることによって、2つのクサビ部材51、52が工具径方向内側に向かって移動すると、図4に示すようにクサビ部材51、52が取付孔45の平坦内壁面49から工具径方向内側に突出した状態となり、図1及び図6に示すように、クサビ部材51、52のそれぞれが工具本体12の突起部22に形成された円周溝23に当接するように係合して、工具本体12のアダプタ13に対しての軸線O方向の移動が阻止されることになる。これによって、工具本体12とアダプタ13とが固定一体化される。
【0045】
そして、上記のように2つのクサビ部材51、52が工具径方向内側に移動すると、それぞれのクサビ部材51、52の押圧面63、79が突起部22の被押圧面26を押圧するため、工具本体12はアダプタ13に向かって押圧され、工具本体12とアダプタ13とが軸線O方向に強固に密着される。
【0046】
次に、このようにアダプタ13に工具本体12が取り付けられた状態において、リーマ14を装着する手順を説明する。まず、リーマ14のシャンク部14b側を、工具本体12の先端側からブッシュ31に挿入し、工具本体12の装着孔29、ピン53の長孔69、アダプタ13の装着孔46を挿通させて、アダプタ13の後端側に位置する工作機械の主軸100に至らせる。このとき、コレット111の内周を拡径させた状態で、リーマ14のシャンク部14bをナット部材103、コレット111の内部へと挿入させ、図示しない移動部材を六角棒レンチ等の作業工具を用いて回転させて、ナット部材103を工具後端側へと移動させる。すると、ナット部材103の工具後端側を向く面がチャック部材109、110を押圧することになり、コレット111の内径が縮径するように変形され、リーマ14のシャンク部14bを支持することになる。そして、調整ねじ33によって、リーマ14の振れ出しを調整して、リーマ14の装着作業が完了する。
【0047】
以上で工具本体12及びリーマ14の装着作業が完了し、工具本体12を軸線O回りに工具回転方向Tに回転させるとともに、軸線O方向先端側に向かって送りを与えることにより、リーマ14の刃先部14aが、例えばエンジンのシリンダーヘッドにおけるバルブ穴からなる下穴を所定の内径に加工するとともに、切削インサート36の切刃37が該バルブ穴の開口部にバルブヘッドが当接するバルブシート面を加工する。
【0048】
そして、リーマ14及び工具本体12の交換するためにこれらを取り外す際には、取り付ける際とは逆の手順で取り外し作業を行う。即ち、図示しない移動部材を六角棒レンチ等の作業工具で回転させて、コレットチャック108によるリーマ14のシャンク部14bの支持を解除して、リーマ14を工具本体先端側から抜き取り、次いで、クサビ部材52の締緩ボルト80を緩めていくと、クサビ部材51、52が工具径方向外側に移動して、これらクサビ部材51、52と工具本体12の突起部22の円周溝23との係合が解除されるとともに、図5に示すようにクサビ部材51、52が取付孔45の平坦内壁面49と面一の状態となり、工具本体12をアダプタ13から取り外すことができるようになる。なお、このようにクサビ部材51、52が工具径方向外側へある程度移動すると、クサビ部材51、52の当接段部61、77のそれぞれにストッパー82が当接して、これらクサビ部材51、52の径方向外側への移動が阻止されるため、クサビ部材51、52やピン53がアダプタ13から不用意に抜け落ちてしまうことはない。
【0049】
また、このようにリーマ14を取り外してから工具本体12を取り外す手順の他、本実施形態の切削工具11においては、リーマ14を取り付けた状態で、工具本体12のみの交換作業を行うことも可能である。即ち、リーマ14のシャンク部14bが工作機械の主軸100のコレットチャック108に支持されている際に、クサビ部材52の締緩ボルト80を緩めていくと、クサビ部材52が工具径方向外側へ移動するとともに、ピン53は長孔69にリーマ14を挿通させた状態で、長孔69の開口部の長手方向の長さの範囲内でリーマ14の存在に妨げられることなく工具径方向外側に移動することができるため、ピン53に固定されたクサビ部材51も該ピン53の移動に伴い容易に工具径方向外側へ移動することができる。これにより、クサビ部材51、52と工具本体12の突起部22の円周溝23との係合が解除されるとともに、図5に示すようにクサビ部材51、52が取付孔45の平坦内壁面49と面一の状態となり、工具本体12をアダプタ13から分離して軸線O方向に移動することができるようになる。従って、この状態で工具本体12をリーマ14の工具先端側に向けてずらすようにして取り外すことによって、リーマ14を装着したまま、工具本体12のみの交換作業を行うことができる。
【0050】
以上から、本実施形態に係る切削工具11では、締緩ボルト80を締緩する動作をもって、2つのクサビ部材51、52を工具径方向内側又は外側に移動させることができ、これらクサビ部材51、52と工具本体12の突起部22の円周溝23とを係脱させることができるため、工具本体12をアダプタ13に対して強固に固定することができるとともに、容易かつ速やかに工具本体12の交換作業を行うことが可能となる。
【0051】
また、上記のように、ピン53に長孔69が形成されていることによって、リーマ14が工具本体12及びアダプタ13を貫通して工作機械の主軸100に支持されている場合であっても、該リーマ14の存在に妨げられることなく容易かつ速やかに工具本体12とアダプタ13との軸線O方向の固定を解除して工具本体12のみを取り外すことが可能になる。
【0052】
また、工具本体12の突起部22をアダプタ13の取付孔45に嵌入させる際には、テーパ側面25と外周テーパ部34とが互いに嵌合することによって、工具本体12及びアダプタ13中心軸線が一致させられるため、高精度で芯出しを行うことができ、加工精度を高く維持することが可能となる。さらに、クサビ部材51、52の工具径方向外側への移動を阻止するストッパー82が設けられたことによって、これらクサビ部材51、52やピン53がアダプタ13から不用意に抜け落ちてしまうことはなく、安全性を確保することができる。
【0053】
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせあるいは動作手順等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る切削工具の一実施形態を示す側断面図である
【図2】工具本体の工具後端側部分の側面図である。
【図3】工具本体の工具後端側部分の平面図である。
【図4】クサビ部材が径方向内側に移動した際のアダプタ、クサビ部材及びピンの側断面図である。
【図5】クサビ部材が径方向外側に移動した際のアダプタ、クサビ部材及びピンの側断面図である。
【図6】図1におけるA―A断面図である。
【図7】一方のクサビ部材及びピンの側断面図である。
【図8】一方のクサビ部材及びピンの正面図である。
【図9】他方のクサビ部材の側断面図である。
【図10】他方のクサビ部材の正面図である。
【符号の説明】
【0055】
11 切削工具
12 工具本体
13 アダプタ
14 リーマ(穴加工工具)
22 突起部
23 円周溝
25 テーパ側面
26 被押圧面
28 切り欠き溝部
29 装着孔
37 切刃
45 取付孔
46 装着孔
47 クサビ挿入孔
48 テーパ内周壁面
51 クサビ部材
52 クサビ部材
53 ピン
63 押圧面
69 長孔
79 押圧面
80 締緩ボルト
82 ストッパー
100 工作機械の主軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転される工具本体を有し、前記軸線に沿って前記工具本体の先端側に延びる穴加工工具が装着されるとともに、前記工具本体の先端外周部に切刃が配置され、前記穴加工工具によって被削材に予め設けられた下穴の内壁面を切削加工して加工穴を形成するとともに、前記切刃によって前記加工穴の開口部を切削加工する切削工具であって、
前記工具本体は、アダプタを介して工作機械に取りつけられ、
前記工具本体の後端部と前記アダプタの先端部とのいずれか一方に前記軸線を中心とした突起部が設けられるとともに、他方には前記突起部と嵌合する取付孔が設けられ、
前記突起部には、その外周に円周溝が設けられているとともに、前記軸線に直交する方向に沿って前記突起部先端側から後端側に向かって切り欠かれて形成された切り欠き溝部が設けられ、
前記取付孔には、内周壁面を工具径方向外側に向けて貫通するようにして形成されたクサビ挿入孔が前記軸線を挟んで対向するように一対形成されており、
該クサビ挿入孔のそれぞれに、前記円周溝と係合して前記工具本体及び前記アダプタを前記軸線方向に固定するクサビ部材が挿入され、
これら2つの前記クサビ部材を掛け渡すようにして、前記切り欠き溝部に嵌入可能なピンが設けられ、
前記クサビ部材の一方は、前記ピンと固定一体化されており、前記クサビ部材の他方は、前記ピンに対して工具径方向に離接可能にボルト締めされており、
前記クサビ部材に、工具径方向外側に向かうに従い漸次前記取付孔の底部に近づく押圧面が設けられ、
前記円周溝に、前記押圧面と等しい角度で傾斜し前記押圧面によって垂直に押圧される被押圧面が設けられていることを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記工具本体及び前記アダプタに、前記穴加工工具を挿通するための装着孔が前記軸線に沿って貫通するように設けられるとともに、
前記ピンに、前記軸線に沿って貫通し、開口部が該ピンの長手方向に延びる長孔が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記突起部が、前記軸線を中心として該突起部の先端側に向かうに従い縮径するテーパ側面を有し、
前記取付孔が、前記テーパ側面と嵌合するテーパ内周壁面を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記クサビ部材の工具径方向外側への移動を一定の範囲に制限するストッパーが設けられたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−154220(P2009−154220A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331834(P2007−331834)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】