説明

切削工具

【課題】穴及びその開口部周縁の面を切削加工する切削工具において、これを取り付ける工作機械の主軸構造の簡素化を図れるようにする。
【解決手段】軸線O周りに回転される略円錐状の工具本体2に、軸線O方向に進退可能な穴加工工具5と、切刃インサート6を備えて円錐面の母線方向に摺動自在とされたスライド部7とを、工具本体2と一体に回転可能に設けた切削工具1であって、工具本体2の内部には、穴加工工具5の後端部及びこれを把持するためのスリーブ12を軸線O方向に進退可能に挿入させる略円筒状のカップリング部11が軸線O方向に進退可能に設けられ、スライド部7はカップリング部11の進退に連動して摺動可能とし、カップリング部11の内側に配されるスリーブ12には径方向外側に突出する突起部12Aを形成し、カップリング部11の先端部及び後端部には突起部12Aが軸線O方向に当接可能な係止部14,16をそれぞれ形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に穴及びその開口部周縁の面の切削加工等に最適な切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのシリンダーヘッドにおいてバルブの軸部をガイドするステムガイド穴、及び、このステムガイド穴の開口部周縁を加工するための切削工具には、例えば特許文献1のように、軸線周りに回転される略円錐台状の工具本体の先端部に、軸線に沿って進退可能にリーマを取付け、さらに、リーマの根元部分に切刃インサートが位置するように、この切刃インサートを工具本体の円錐形状の母線に沿って摺動可能なスライド部に取付けて構成したものがある。
この切削工具においては、リーマによりステムガイド穴の内周面の仕上げ加工を行うと同時に、切刃インサートにより前記開口部周縁をテーパ面状に形成することができる。
【0003】
そして、上記切削工具においては、円筒状のカップリングを軸線方向に向けて工具本体に対して進退可能に、かつ、軸線回りには工具本体と一体回転可能となるように、工具本体の後端部側から内部に挿入し、カップリングに形成されて軸線方向に斜行する孔に、スライド部に取付けた連結ピンを挿脱自在に嵌挿して連結させている。このように構成することで、カップリングを軸線方向に進退させた際には、この進退動作に連動してスライド部が前記母線方向に摺動する。
【0004】
また、このリーマ後端のシャンク部を把持するチャックを備えたスライド軸は、軸線方向に向けてやはり工具本体や前記カップリングに対して進退可能に、かつ軸線回りには工具本体及びカップリングと一体回転可能となるように、工具本体内のさらに前記カップリングの内周を通して挿入されている。これにより、スライド軸を軸線方向に進退させることで、リーマが軸線方向に進退する。
【特許文献1】特許第2748846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の切削工具では、スライド軸及びカップリングが工具本体に対して個別に進退動作するように構成されているため、この切削工具を取り付ける工作機械には、工具本体を軸線周りに回転させる駆動軸の他に、スライド軸を軸線方向に進退させる駆動軸、及び、カップリングを軸線方向に進退させる駆動軸の両方を備える主軸構造を設ける必要がある。
また、主軸構造が複雑化すると主軸構造の剛性を確保することが難しい、という問題がある。特に、最近ではエンジンが高性能化すると共に小型化する傾向にあり、これに伴って切削工具の小径化する必要があるが、上述した複雑な主軸構造ではその剛性の確保が特に難しくなる、という問題が生じる。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、工作機械の主軸構造の簡素化を図ることができ、また、主軸構造の剛性も容易に確保できる切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決してこのような目的を達成するために、本発明に係る切削工具は、軸線周りに回転される略円錐状の工具本体の先端部に、前記軸線に沿って進退可能に穴加工工具を取り付けると共に、先端部側に切刃インサートを備えたスライド部を前記工具本体の円錐面の母線に沿って摺動自在に装着して、これら穴加工工具及びスライド部が前記工具本体と一体に回転可能とされた切削工具であって、前記工具本体の内部には、前記穴加工工具の後端部を挿入させる略円筒状のカップリング部が前記軸線に沿って進退可能に設けられ、前記スライド部は、前記カップリング部の進退に連動して摺動するように前記カップリング部に連結され、前記工具本体内のさらに前記カップリング部の内側には、前記穴加工工具の後端部を把持するためのスリーブが前記軸線に沿って進退可能に挿入され、前記カップリング部の先端部には、その径方向内側に突出して前記穴加工工具のみ挿通可能な環状の第1係止部が形成され、前記カップリング部の後端部には、その径方向内側に突出して前記スリーブが挿通可能な環状の第2係止部が形成され、前記カップリング部の内側に配される前記スリーブには、その周方向の一部から径方向外側に突出して、前記係止部に当接可能な被係止部が形成されていることを特徴とする。
【0008】
この構成の切削工具では、穴加工工具の後端部に固定されたスリーブを軸線に沿って進退駆動するだけで、穴加工工具を軸線に沿って進退させたり、スライド部を工具本体の円錐面の母線に沿って摺動させることができる。
例えば、スリーブの被係止部が2つの係止部の間に位置している状態、すなわち、被係止部が2つの係止部のいずれにも接触していない状態において、スリーブを軸線に沿って進退駆動した場合には、穴加工工具のみが軸線に沿って進退する。なお、この場合には、スライド部が進退動作しないため、カップリング部は移動しない。
【0009】
そして、例えば、スリーブの被係止部が第1係止部若しくは第2係止部に当接した状態において、被係止部を第1係止部若しくは第2係止部に押し付けるようにスリーブを軸線に沿って進退駆動した場合には、カップリング部が穴加工工具と共に軸線に沿って進退する。そして、このカップリング部の進退に連動してスライド部が前記母線に沿って摺動する。
したがって、この切削工具を取り付ける工作機械は、工具本体を回転させる駆動軸のほかに、スリーブを軸線に沿って進退させる駆動軸を備える主軸構造を有していればよい。すなわち、この主軸構造の簡素化を図ると共に剛性を容易に確保することができる。
【0010】
また、前記切削工具においては、前記カップリング部の内周面には、その周方向の一部に前記被係止部のみ挿入可能として該被係止部を前記軸線に沿って摺動可能とするスリットを形成してもよい。
【0011】
この場合には、スリット内において被係止部を軸線に沿って移動可能としながらも、カップリング部に対する被係止部の周方向への移動をスリットによって規制することができる。なお、カップリング部は、前記母線に沿って摺動するように工具本体に装着されたスライド部に連結されているため、工具本体に対して回転することが無い。
したがって、工具本体に対してスリーブ及び穴加工工具を軸線に沿って進退可能としながらも、工具本体に対するスリーブ及び穴加工工具の回転を規制して、スリーブ及び穴加工工具を工具本体と一体に回転させることが可能となる。
【0012】
さらに、前記切削工具においては、前記第2係止部の内周縁に、その周方向の一部に前記被係止部を前記軸線に沿って挿通可能とする切欠が形成され、該切欠は、前記スリットに対して周方向の異なる位置に配され、前記スリットの上端部には、前記切欠の下端側まで周方向に延びて前記スリットと前記切欠との間で前記被係止部を周方向に摺動可能とする連通溝が形成されてもよい。
【0013】
この構成では、スリーブ及びこれに把持された穴加工工具をカップリング部に対して容易に着脱することができる、すなわち、穴加工工具の交換を容易に行うことができる。
具体的に、スリーブ及び穴加工工具をカップリング部から取り外す際には、被係止部がスリットの上端部から切欠の下端側まで連通溝内を移動するようにスリーブを軸線周りに回転させ、その後、被係止部が切欠を通過するようにスリーブを軸線に沿ってカップリング部の後端部側に移動させればよい。
また、スリーブ及び穴加工工具をカップリング部に取り付ける際には、穴加工工具をカップリング部の後端部側から挿入した後に、被係止部が切欠を通過するようにスリーブを軸線に沿ってカップリング部の先端部側に移動させる。そして、被係止部が切欠の下端側からスリットの上端部まで連通溝内を移動するようにスリーブを軸線周りに回転させればよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、同一のスリーブを進退駆動するだけで、穴加工工具を軸線に沿って進退させたり、スライド部を工具本体の円錐面の母線に沿って摺動させることができるため、工作機械の主軸構造の簡素化を図ると共に剛性を容易に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図1から図4を参照し、本発明に係る切削工具の実施形態について説明する。なお、ここで説明する切削工具は、前述した従来の切削工具と同様に、シリンダーヘッドにおいてバルブの軸部をガイドするステムガイド穴、及び、ステムガイド穴の開口部周縁(バルブシート面)を加工するものである。
図1に示すように、本実施形態における切削工具1は、工具本体2が軸線Oを中心とした外形略多段円柱状をなすものであって、この工具本体2の先端部は、軸線Oを中心として先端側に向かうに従い漸次縮径する略円錐台状に形成されている。一方、工具本体2の後端面には軸線Oを中心とした外形略円柱状の突出部2Aが形成されている。この突出部2Aは、例えば、切削工具1をマシニングセンタ等の工作機械の駆動軸に取り付けるためのアダプタ3に形成された凹部3Aに挿入できるようになっている。
【0016】
工具本体2の先端部には、軸線Oに沿って取付孔2Bが形成されており、この取付孔2Bには、ステムガイド穴の仕上げ加工を行うリーマ(穴加工工具)5がブッシュ4を介して軸線Oと同軸に取り付けられている。ここで、リーマ5は、ブッシュ4の内側において軸線Oに沿って進退可能とされており、ブッシュ4の先端に対して出没できるようになっている。なお、このリーマ5の進退は、後述するスリーブ12が工作機械の駆動軸によって進退駆動されることで行われる。
【0017】
リーマ5が取り付けられた工具本体2の円錐台状の先端部には、バルブシート面を荒加工する切削インサート(不図示)と、バルブシート面を仕上げ切削する切刃インサート6とが配されている。ここで、切刃インサート6は、工具本体2を構成する円錐面の母線に沿って摺動自在に装着されたスライド部7の先端部に設けられている。
【0018】
すなわち、工具本体2の円錐面にはその母線に沿って延びる凹溝9が形成されており、この凹溝9内に前述のスライド部7が配されている。また、凹溝9の内面には前記母線に沿って延びる係合部(不図示)が形成されると共に、凹溝9の内面に対向するスライド部7の外面には前記係合部に係合する被係合部(不図示)が形成されている。したがって、これら係合部及び被係合部が係合している状態では、スライド部7が工具本体2に対して摺動自在に装着されることになる。
【0019】
一方、工具本体2の後端部には、軸線Oに沿って取付孔2Bよりも大径の孔2Cが取付孔2Bに連通するように形成されており、この孔2Cには、略円筒状のカップリング部11が軸線Oに沿って進退可能に挿入されている。また、孔2Cのさらにカップリング部11の内側には、リーマ5の後端部が挿入されると共に、リーマ5の後端部を把持するためのスリーブ12が挿入されている。
略円筒状に形成されたスリーブ12の先端部はカップリング部11の内側に配されている。また、スリーブ12の先端部には、図1〜4に示すように、その外周面から互いに逆向きに径方向外側に突出する一対の突起部(被係止部)12A,12Aが形成されている。リーマ5の後端部は、このスリーブ12の内側に挿入される。
【0020】
スリーブ12の内周孔は、その先端部側に開口する第1孔21と、この第1孔21よりも一段小径とされた第2孔22と、この第2孔22よりもさらに一段小径の第3孔23とが連設されて構成されている。
第1孔21の内周面には雌ネジが形成されており、この雌ネジ部分にはナット部材25が螺合されている。ここで、ナット部材25は、その先端側の外周面にギア歯26を形成すると共に、後端側の外周面に第1孔21の雌ネジに螺合する雄ネジを形成して構成されている。なお、ナット部材25のギア歯26は、スリーブ12の内周孔の開口から突出する位置に配されている。
【0021】
第2孔22には、リーマ5を支持するためのチャック30が挿入されている。チャック30は、軸線O方向に縦列するように配置された一対のチャック部材31,32と、これらチャック部材31,32の径方向内側に配置されるコレット33とを備えて構成されている。
チャック部材31,32は、第2孔22に嵌挿可能な外径を有する概略円筒状に形成されている。チャック30の中で最も先端側に配置されるチャック部材31はナット部材25の後端側を向く面に当接させられ、最も後端側に配置されるチャック部材32は第2孔22の底部側に当接させられている。これら一対のチャック部材31,32は互いに軸線O方向に間隔を空けて配置されている。さらに、これらのチャック部材31,32の内周側には、互いに他方のチャック部材32,31側に向かうにしたがい漸次拡径するテーパ部31A,32Aが形成されている。
【0022】
コレット33は、その外周側がテーパ部31A,32Aと密着するような形状とされた概略円筒状をなしており、その円筒壁部には、コレット33の中心軸を含む平面に沿った多数のスリット(不図示)が形成されている。そして、このスリットに挟まれた部分が中心軸に対する径方向内側に撓むことにより、コレット33の内径が縮径されることになる。このコレット33の内周側には、リーマ13の後端部が挿入されている。
【0023】
そして、工具本体2には、前述のナット部材25を回転させて軸線O方向に進退可能に移動させる移動部材35が設けられている。移動部材35は、取付孔2Bよりも径方向外側に位置する工具本体2の円錐部分に配置されており、軸線Oと平行に延びる円柱状をなしている。
移動部材35の後端側には、円板状をなしてその外周にウォーム歯37を有するウォームギア部39が形成されている。ウォーム歯37はナット部材25のギア歯26に噛み合うように形成されており、これらが噛み合った状態で移動部材35を回転させることでナット部材25を軸線O方向に移動させることができる。また、移動部材35の先端側には、六角棒レンチ等の作業用工具と係合する係合孔40が形成されており、この係合孔40は工具本体2の円錐面から外方に露出している。
【0024】
工具本体2内部に設けられたカップリング部11は、カップリング本体13及び蓋体(第2係止部)14によって構成されている。
カップリング本体13は、円筒部15、及び、孔2Cの底面に対向する円筒部15の先端部においてその内周縁から径方向内側に突出する環状の底壁部(第1係止部)16とから構成されており、円筒部15の内周面15A及び底壁部16の貫通孔16Aは、軸線Oと同軸とされている。ここで、底壁部16の貫通孔16Aの寸法は、リーマ5及びナット部材25が挿通可能でスリーブ12を挿通させない寸法とされている。
【0025】
また、図4に示すように、円筒部15の内周面15Aは、その周方向の一部に一対の突起部12A,12Aを個別に挿入可能として軸線Oに沿って延びる一対のスリット15B,15Bを形成して構成されている。すなわち、スリーブ12の一対の突起部12A,12Aが各スリット15B,15B内に配されている状態においては、スリーブ12はカップリング部11に対して軸線Oに沿って摺動可能となっているが、軸線O周りの回転が規制されている。
【0026】
図1,2に示すように、蓋体14は、軸線Oを中心とした貫通孔14Aを形成して構成されており、円筒部15の後端部に固定された状態においては、カップリング本体13の底壁部16と同様に、円筒部15の径方向内側に突出する環状の壁部をなしている。この蓋体14の貫通孔14Aの径寸法は、スリーブ12及びリーマ5が挿通可能であるが突起部12Aを挿通させない径寸法とされている。
【0027】
さらに、この貫通孔14Aの縁をなす蓋体14の内周縁には、その周方向の一部に一対の突起部12A,12Aを個別に挿入可能とする一対の切欠14B,14Bが形成されている。各切欠14Bは、スリット15Bに対して周方向の異なる位置に形成されており、各スリット15Bに沿って突起部12Aを蓋体14に向けて移動させた際に、スリーブ12がカップリング部11から外れてしまうことを防止している。
そして、図3に示すように、各スリット15Bの上端部には、各切欠14Bの下端側まで周方向に延びる扇形状の連通溝15Cが一対形成されており、この連通溝15Cでは、スリット15Bと切欠14Bとの間で各突起部12Aを周方向に摺動可能とされている。
【0028】
以上のように構成されたカップリング部11には、図1に示すように、前述したスライド部7が連結されている。
すなわち、工具本体2には、凹溝9の底面9Aから孔2Cの底部まで貫通する連通孔2Dが形成されており、スライド部7には、この連通孔2Dを通って孔2C内に突出する連結ピン7Aが取り付けられている。そして、連結ピン7Aの先端が、カップリング本体13に形成された斜孔13Aに挿入されることで、スライド部7とカップリング部11とが連結されている。このように構成することで、カップリング部11を軸線Oに沿って進退させた際には、スライド部7がこの進退に連動して凹溝9に沿って摺動し、これに取り付けられた切刃インサート6が軸線Oに斜行する方向にスライドすることになる。
なお、カップリング部11は、上述したようにスライド部7を介して工具本体2に連結されるため、工具本体2に対して軸線O周りに回転しないように規制されている。
【0029】
以上のように構成された切削工具1では、リーマ5の後端部に固定されたスリーブ12を軸線Oに沿って進退駆動するだけで、リーマ5を軸線Oに沿って進退させたり、スライド部7を凹溝9に沿って摺動させることができる。
例えば、スリーブ12の突起部12Aがスライド部7の底壁部16と蓋体14との間に位置している状態、すなわち、突起部12Aが底壁部16及び蓋体14のいずれにも接触していない状態において、スリーブ12を軸線Oに沿って進退駆動した場合には、リーマ5のみが軸線Oに沿って進退する。なお、この場合には、カップリング部11が進退しないため、スライド部7は移動しない。
【0030】
そして、例えば、スリーブ12の突起部12Aが底壁部16若しくは蓋体14に当接した状態において、突起部12Aを底壁部16若しくは蓋体14に押し付けるようにスリーブ12を軸線Oに沿って進退駆動した場合には、カップリング部11がリーマ5と共に軸線Oに沿って進退する。そして、このカップリング部11の進退に連動してスライド部7が凹溝9に沿って摺動する。
【0031】
このように動作する切削工具1により、前述したステムガイド穴及びバルブシート面を加工する方法について説明する。
上記加工の際には、はじめに、前記切削インサートによりバルブシート面を荒加工し、次いで、ステムガイド穴の仕上げ加工を行う。このステムガイド穴の仕上げ加工に際しては、切刃インサート6がバルブシート面に接触しないように、予めスライド部7を摺動させて切刃インサート6を軸線Oから離間する方向に移動させておく。ここでは、突起部12Aを蓋体14に押し付けるように、スリーブ12を軸線Oに沿って工具本体2の後端部側に向けて駆動することで、カップリング部11を軸線Oに沿って工具本体2の後端部側に移動させる。この移動の際には、カップリング部11の移動に連動してスライド部7が凹溝9に沿って軸線Oから離間する方向に摺動し、切刃インサート6がスライド部7と同様に軸線Oから離間する方向に移動する。
【0032】
その後、工具本体2を軸線O周りに回転させると共に、スリーブ12を工具本体2の先端部側に向けて前進駆動して、ステムガイド穴の内周面に仕上げ加工を施す。ここで、切刃インサート6を移動させずにリーマ5を前進駆動できるストロークは、蓋体14から底壁部16までの長さから突起部12Aの厚さを差し引いたものに等しいため、前述の仕上げ加工に十分なストロークを確保できるように、予め工具本体2をステムガイド穴に近づけておくことが好ましい。
【0033】
ステムガイド穴の仕上げ加工後には、工具本体2を回転させながら軸線Oに沿って僅かに後退させて、前記切削インサートをバルブシート面から離間させる。そして、スリーブ12を前進駆動して突起部12Aを底壁部16に押し付けて、カップリング部11を軸線Oに沿って工具本体2の先端部側に移動させる。この際には、スライド部7が凹溝9に沿って軸線Oに近づく方向に移動すると共に切刃インサート6が同様に移動し、この移動によって、バルブシート面の仕上げ切削が行われる。
なお、バルブシート面の仕上げ切削の終了後には、工具本体2を後退させると共に回転を停止させればよい。
【0034】
また、この切削工具において工具本体2にリーマ5を装着する際には、コレット33の内周を拡径させた状態でリーマ5の後端部をナット部材25、コレット33の内部へと挿入する。次いで、工具本体2の円錐面から露出する移動部材35の係合孔40に六角棒レンチ等の作業用工具を係合させて回転させる。これにより、ナット部材25が軸線Oに沿ってチャック30側に向けて移動し、この移動に伴って、ナット部材25がチャック部材31,32を押圧して、コレット33の内径が縮径するように変形する。そして、この縮径によって、リーマ5の後端部が締め付けられてチャック30に把持されることになる。
なお、リーマ5を工具本体2から取り外す場合には、移動部材35を上述の装着時とは逆向きに回転させればよい。
【0035】
さらに、径寸法の異なるリーマ5を工具本体2に装着する場合には、ナット部材25やチャック30を交換すればよい。この交換に際しては、はじめに、突起部12Aが蓋体14に当接するまでスリーブ12を工具本体2の後端部側に移動させ、次いで、突起部12Aが切欠14Bの下端側まで連通溝15C内を移動するようにスリーブ12を軸線O周りに回転させる。その後、突起部12Aが切欠14Bを通過するようにスリーブ12を軸線Oに沿って移動させることで、スリーブ12とこれに装着されているナット部材25及びチャック30がカップリング部11から外れることになる。そして、ナット部材25及びチャック30をスリーブ12から取り外すと共に別のナット部材25及びチャック30をスリーブ12に取り付ければよい。
また、スリーブ12をカップリング部11に取り付ける際には、突起部12Aが切欠14Bを通過するようにスリーブ12を軸線Oに沿ってカップリング部11の先端部側に移動させる。そして、突起部12Aが切欠14Bの下端側からスリット15Bの上端部まで連通溝15C内を移動するように、スリーブ12を回転させればよい。
【0036】
以上説明したように、本実施形態による切削工具1によれば、同一のスリーブ12を軸線Oに沿って進退駆動するだけで、リーマ5を軸線Oに沿って進退させたり、スライド部7を工具本体2の凹溝9に沿って摺動させることができるため、切削工具1を取り付ける工作機械は、工具本体2を回転させる駆動軸のほかに、スリーブ12を軸線Oに沿って進退させる駆動軸を備える主軸構造を有していればよい。すなわち、工作機械の主軸構造の簡素化を図ると共に剛性を容易に確保することができる。
【0037】
また、工具本体2に対して回転不能とされたカップリング部11には、これに対するスリーブ12の進退動作を許容すると同時に軸線O周りの回転を規制するスリット15Bが形成されているため、リーマ5を工具本体2に対して軸線Oに沿って進退可能としながらも、工具本体2と一体に回転させることができる。
さらに、カップリング部11の蓋体14に切欠14Bを形成すると共にスリット15Bの上端部に連通溝15Cを形成しておくことで、スリーブ12及びリーマ5をカップリング部11に対して容易に着脱することができる、すなわち、リーマ5の交換を容易に行うことができる。
【0038】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、前記実施形態においては、工具本体2の軸線Oと斜交するバルブシート面を仕上げ切削する構成を示したが、軸線Oと直交する面を仕上げ切削するようにしてもよい。また、仕上げ切削に限らず、軸線Oと交差する方向の面に各種切削加工を施すことに適用することもできる。
【0039】
また、スリーブ12には突起部12Aが一対形成されるとしたが、例えば1つだけ形成されるとしてもよいし、3つ以上形成されてもよい。この場合には、スリット15B、連通溝15C及び切欠14Bの数も突起部12Aの数に対応づけて形成すればよい。
さらに、突起部12Aは、スリーブ12の先端部に形成されるとしたが、少なくともカップリング部11に対するスリーブ12の進退動作のストロークが確保されていればよいため、例えばスリーブ12の軸線O方向の中途部に形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係る切削工具を示す概略断面図である。
【図2】図1の切削工具のA−A矢視断面図である。
【図3】図1の切削工具のB−B矢視断面図である。
【図4】図1の切削工具のC−C矢視断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 切削工具
2 工具本体
5 リーマ(穴加工工具)
6 切刃インサート
7 スライド部
11 カップリング部
12 スリーブ
12A 突起部(被係止部)
14 蓋体(第2係止部)
14B 切欠
15A 内周面
15B スリット
16 底壁部(第1係止部)
O 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線周りに回転される略円錐状の工具本体の先端部に、前記軸線に沿って進退可能に穴加工工具を取り付けると共に、先端部側に切刃インサートを備えたスライド部を前記工具本体の円錐面の母線に沿って摺動自在に装着して、これら穴加工工具及びスライド部が前記工具本体と一体に回転可能とされた切削工具であって、
前記工具本体の内部には、前記穴加工工具の後端部を挿入させる略円筒状のカップリング部が前記軸線に沿って進退可能に設けられ、
前記スライド部は、前記カップリング部の進退に連動して摺動するように前記カップリング部に連結され、
前記工具本体内のさらに前記カップリング部の内側には、前記穴加工工具の後端部を把持するためのスリーブが前記軸線に沿って進退可能に挿入され、
前記カップリング部の先端部には、その径方向内側に突出して前記穴加工工具のみ挿通可能な環状の第1係止部が形成され、
前記カップリング部の後端部には、その径方向内側に突出して前記スリーブが挿通可能な環状の第2係止部が形成され、
前記カップリング部の内側に配される前記スリーブには、その周方向の一部から径方向外側に突出して、前記係止部に当接可能な被係止部が形成されていることを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記カップリング部の内周面は、その周方向の一部に前記被係止部のみ挿入可能として該被係止部を前記軸線に沿って摺動可能とするスリットを形成してなることを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記第2係止部の内周縁には、その周方向の一部に前記被係止部を前記軸線に沿って挿通可能とする切欠が形成され、
該切欠は、前記スリットに対して周方向の異なる位置に配され、
前記スリットの上端部には、前記切欠の下端側まで周方向に延びて前記スリットと前記切欠との間で前記被係止部を周方向に摺動可能とする連通溝が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の切削工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−178814(P2009−178814A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20911(P2008−20911)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(593186046)株式会社新機械技研 (9)
【Fターム(参考)】