説明

切削工具

【課題】バルブ穴のバルブステムガイド穴とバルブシート面とを同軸に切削加工するための切削工具において、工具本体先端部が小径化されても、このバルブシート面を切削するバイトを高い取付剛性で取付座に固定して高精度の切削加工を図る。
【解決手段】軸線O回りに回転される工具本体11の先端部に穴加工工具15が突出させられ、工具本体11の先端部外周には、外周側を向く壁面18Bと工具回転方向Tを向く底面18Aとを有して穴の開口部の切削加工を行うバイト19が取り付けられる取付座18が形成されるとともに、バイト19を工具回転方向T後方側に押圧して固定するクランプネジ22が螺着され、取付座18の底面18Aと壁面18Bおよびバイト19の底面18Aに密着する着座面19Aと壁面18Bに当接する側面19Bは、それぞれ互いに鋭角に交差する方向に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば4サイクルエンジンのシリンダーヘッドにおけるバルブ穴のバルブステムガイド穴とバルブシート面とを同軸に切削加工するための切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなバルブ穴のバルブステムガイド穴とバルブシート面の切削加工用の切削工具として、特許文献1には、軸線回りに回転される工具本体の先端部に、バルブステムガイド穴の加工を行うリーマが上記軸線に沿って取り付けられるとともに、このリーマの根本の工具本体先端部外周には、バルブ穴開口部のバルブシート面を切削する切刃チップが取り付けられたものが提案されている。
【0003】
ここで、この特許文献1に記載の切削工具は、上記切刃チップが取り付けられたカートリッジが工具本体に螺着されるクランプネジによって固定されることにより、切刃チップが工具本体に取り付けられた構造とされており、工具本体先端部にはこのカートリッジが着座させられる工具回転方向を向く底面と外周側を向く壁面とを備えた取付座が、上記軸線に直交する断面においてL字状をなすように形成されるとともに、カートリッジの着座面と側面はこの取付座のL字状をなす底面と壁面とにそれぞれ密着するように、互いに直交する方向に形成されている。また、上記クランプネジは、こうして着座させられたカートリッジの着座面と側面が、取付座の底面と壁面に押圧されて固定されるように、これら底面と壁面とにそれぞれ鋭角に交差する方向に螺着される。
【0004】
なお、この特許文献1に記載された切削工具は、上述のように切刃チップが取り付けられたカートリッジがクランプネジによって工具本体に固定されたものであるが、かかる切削工具においては、工具本体に取り付けられる複数の切刃チップのうち、最も高い加工精度が要求されるバルブシート面の中段部分を切削する切刃チップが、この中段部分の傾斜に合わせて工具本体の軸線に対し斜めに進退するスライダーに取り付けられたものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−059313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年の特に自動車用エンジンへの小型軽量化の要求に伴うシリンダーヘッドのコンパクト化や、多バルブ化に伴うバルブ径の小径化などにより、このようなシリンダーヘッドのバルブステムガイド穴とバルブシート面の切削加工を行う上記切削工具においても、その工具本体先端部の小径化は避けられない状況となってきている。
【0007】
そして、これに伴い、従来は上述のようにカートリッジを介して切刃チップを工具本体に固定していたのを、例えば図8に示す断面図のように、切刃1が形成された小径軸状のバイト2を、工具本体3の先端部に外周側に断面「コ」字状に開口するように形成された取付座4に着座させて、この取付座4に開口するように工具回転方向T側から工具本体3に形成されたネジ穴5にクランプネジ6を螺着し、バイト2の被押圧面7を直接押圧して固定することにより、カートリッジを廃して工具本体3先端部の小径化を図ることが提案されている。
【0008】
ところが、このような切削工具において、上記従来の切削工具における取付座の底面と壁面およびカートリッジの着座面と側面と同様、図8に示すように取付座4の底面4Aと壁面4Bおよびこれらに密着するバイト2の着座面2Aと側面2Bとが交差角θを90°として互いに垂直な方向に形成されるとともに、クランプネジ6も取付座4の底面4Aと壁面4Bとにそれぞれ鋭角に交差する方向に螺着されていると、このクランプネジ6が螺着されるネジ穴5も同方向に傾斜して延びることになって、ネジ穴5と工具本体1先端部の外周面との間の肉厚が、特に工具回転方向T側のネジ穴5の開口部で小さなものとなってしまう。そして、これにより、クランプネジ6による取付剛性が損なわれてバイト2にがたつきを生じ、切削精度の低下を招くおそれが生じる。
【0009】
また、このような切削工具の工具本体3先端部は、図9に示すようにシリンダーヘッドSのバルブ穴Hにある程度挿入されて、その奥側に配設されるバルブシート面Pを上記バイト2によって切削加工するために、先端側に向かうに従い段階的に縮径する多段円筒・円錐台状に形成されるが、特に先端部が小径化された切削工具では、こうして縮径した部分にネジ穴5を傾斜して形成すること自体が不可能となる。
【0010】
このため、クランプネジ6が螺着されるネジ穴5は、こうしてバルブ穴Hに挿入される縮径した部分よりも後端側に形成せざるを得ず、すなわち切削負荷が作用するバイト2の切刃1からの距離Lが離れた位置をクランプネジ6で押圧せざるを得なくなって、一層のバイト2の取付剛性の低下を招くことになる。なお、図9において符号8で示すのは、バイト2の切刃1の突き出し量を調整する調整ネジである。
【0011】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のようにバルブ穴のバルブステムガイド穴とバルブシート面とを同軸に切削加工するための切削工具において、工具本体先端部が小径化されても、このバルブシート面を切削するバイトを高い取付剛性で取付座に固定して高精度の切削加工を図ることが可能な切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転される工具本体の先端部に、被削材の穴加工を行う穴加工工具が上記軸線に沿って先端側に突出させられるとともに、この穴加工工具の基端側における上記工具本体の先端部外周には、上記被削材の穴の開口部の切削加工を行うバイトが着脱可能に取り付けられてなる切削工具であって、上記工具本体の先端部外周には、外周側を向く壁面と工具回転方向を向く底面とを有して上記バイトが取り付けられる取付座が形成されるとともに、この取付座に取り付けられた上記バイトを工具回転方向後方側に押圧して固定するクランプネジが螺着され、上記バイトには、上記穴の開口部を切削する切刃のすくい面に連なって上記クランプネジにより押圧される被押圧面と、この被押圧面の反対側にあって上記取付座の底面に着座させられる着座面と、これら被押圧面と着座面との間にあって上記取付座の壁面に当接させられる側面とが備えられ、上記取付座の底面と壁面および上記バイトの着座面と側面は、それぞれ互いに鋭角に交差する方向に形成されていることを特徴とする。
【0013】
このような切削工具では、取付座の底面と壁面およびバイトの着座面と側面が、従来のカートリッジのように互いに直交する方向ではなく、それぞれ互いに鋭角に交差する方向に形成されているので、取付座の底面とバイトの着座面および取付座の壁面とバイトの側面の双方を密着させるのに、バイトの被押圧面を押圧するクランプネジが螺着される方向を、これら取付座底面とバイト着座面および取付座壁面とバイト側面の双方に鋭角に交差する方向に傾斜させる必要がない。
【0014】
すなわち、例えば上記クランプネジが、上記取付座の壁面に平行に螺着されていて、バイトがこの壁面に平行に取付座底面側に押圧されても、この取付座底面とバイトの着座面とは取付座壁面とバイト側面に鋭角に交差する方向に形成されているので、取付座底面に案内されるようにバイトが取付座壁面側に押圧されてバイトの側面が取付座壁面に密着させられることになる。
【0015】
このため、クランプネジが螺着されるネジ穴も、上記取付座壁面に平行か、あるいは取付座壁面に鋭角に交差するように傾斜させるにしてもその傾斜角を小さく抑えることができるので、このネジ穴の工具回転方向側における開口部での工具本体外周面との肉厚を十分に確保することができる。また、このようにネジ穴の傾斜を小さくすることができるのに伴い、工具本体先端部の縮径した部分であってもネジ穴を形成することが可能となるので、バイトを、その先端の切刃に近い位置でクランプすることも可能となり、これらによってバイトの取付剛性の向上を図ってがたつき等を抑え、バルブシート面に高精度の切削加工を行うことが可能となる。
【0016】
ここで、上記取付座の底面と壁面および上記バイトの着座面と側面の鋭角をなす交差角は、これが大きすぎて直角に近くなると、上述のような効果を得ることができず、その一方で逆にこの交差角が小さくなりすぎると、取付座の底面と工具本体先端部の外周面との交差稜線部における交差角も小さくなって、該交差稜線部における工具本体の強度が損なわれ、却ってバイトの取付剛性の低下を招くおそれがある。このため、上記取付座底面と壁面および上記バイトの着座面と側面のなす交差角は、75°〜87°の範囲内とされるのが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、バルブ穴のバルブステムガイド穴とバルブシート面とを同軸に切削加工する際に、工具本体の先端部が小径化されていても、バルブシート面の切削加工を行うバイトを高い取付剛性で取付座に固定することができ、これによりバイトのがたつきを防いで高精度の切削加工を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態を示す側断面図である。
【図2】図1に示す実施形態の工具本体先端部の他の側断面図である。
【図3】図1に示す実施形態を先端側から見た拡大正面図である。
【図4】図1に示す実施形態のバイトおよびリーマが取り付けられていない状態における取付座壁面に対向する方向から見た工具本体先端部の側面図である。
【図5】図1に示す実施形態の取付座周辺を示す拡大横断面図である。
【図6】図1に示す実施形態の取付座周辺を示す拡大側面図である。
【図7】図1に示す実施形態に取り付けられるバイトの(a)正面図、(b)側面図、(c)背面図、(d)後端部の平面図である。
【図8】従来提案された切削工具の取付座周辺を示す横断面図である。
【図9】図8に示す切削工具の取付座周辺を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1ないし図7は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態において、工具本体11は、その後端部(図1において右側部分)がマシニングセンタ等の工作機械の主軸に装着される装着部12とされるとともに、これよりも先端側(図1において左側)の部分は、軸線Oを中心として先端側に向かうに従い段階的に縮径するように形成され、また縮径する部分は円錐台状に形成された、図1に示すような多段円筒・円錐台形状とされている。このような切削工具は、上述のように装着部12が工作機械の主軸に装着されて軸線O回りに工具回転方向Tに回転されつつ該軸線O方向に進退させられて、シリンダーヘッドSのバルブ穴Hのバルブステムガイド穴Gおよびバルブシート面Pを同軸に切削加工する。
【0020】
この工具本体11には、軸線Oに沿って上記装着部12の内周から工具本体11の先端に貫通する貫通穴13が形成されており、この貫通穴13には、後端の装着部12側から位置決めネジ14がねじ込まれている。また、この貫通穴13の先端側からは、上記バルブ穴Hのバルブステムガイド穴Gを加工する穴加工工具としてのリーマ15が挿入されていて、その後端が上記位置決めネジ14に当接することにより、軸線O方向に位置決めされている。
【0021】
さらに、このリーマ15は、こうして位置決めされた状態で、工具本体11の外周面から貫通穴13に向けてねじ込まれたリーマクランプネジ16がリーマ15後端部の切欠面を押圧することにより、貫通穴13内に固定される。さらにまた、工具本体11の最先端部には、それぞれ軸線Oに直交する方向に十字に4つの芯合わせネジ17がねじ込まれており、これらの芯合わせネジ17のねじ込み量を互いに調整することにより、リーマ15先端の切刃部の中心が、上記軸線O上、すなわち主軸による回転中心線上に位置するように、リーマ15の軸線Oに対する径方向の振れが微調整可能とされている。
【0022】
このような工具本体11の先端部外周には、図3に示すように周方向に略等間隔をあけて3つの取付座18が形成されている。これらの取付座18は、工具本体11最先端部の上記芯合わせネジ17がねじ込まれた部分よりも僅かに後端側から軸線Oに平行に後端側に延びるように形成された、工具本体11の外周面に開口する凹溝状のものであって、図5に示すように軸線Oに直交する横断面において工具回転方向Tを向く底面18Aと、工具本体11の外周側を向く壁面18B、および上記底面18Aに対向して工具回転方向Tの後方側を向く壁面18Cとを備えている。なお、これら底面18Aと壁面18B、18Cは軸線Oに平行な平面状とされ、また底面18Aと壁面18Bとの交差稜線部には断面円形をなして凹む逃げ部18Dが形成されている。
【0023】
これら取付座18には、上記バルブ穴Hのバルブシート面Pを切削加工するバイト19が取り付けられる。このバイト19は、超硬合金等の硬質材料により形成されて図7に示すように概略四角柱状をなし、取付座18の上記底面18Aに着座する着座面19Aと、上記壁面18Bに当接させられる側面19Bと、着座面19Aの反対側に位置して取付座18の上記壁面18Cに対向させられる被押圧面19Cとが、四角柱状をなすバイト19の長手方向に延びる平面状に形成されている。このうち、被押圧面19Cは、このバイト19の先端側(図7(b)における左側)に形成される切刃20のすくい面とされ、すなわちこの被押圧面19Cとバイト19の先端面との交差稜線部には、バイト19の後端側に向かうに従い上記側面19Bから離間するように傾斜した直線状の上記切刃20が形成される。
【0024】
ここで、上記3つの取付座18にそれぞれ取り付けられる3つバイト19では、切刃20の側面19Bに対する傾斜角が互いに異なるようにされており、このうち傾斜角が最も小さなバイト19はバルブシート面Pのうち最もバルブ穴Hの奥側の部分を、傾斜角が最も大きなバイト19はバルブシート面Pのうち最もバルブ穴Hの手前側(開口部側)の部分を、そして傾斜角がこれらの中間のバイト(図5〜図7に示したバイト)19は、これら奥側の部分と手前側の部分の中間の最も精度が要求されるバルブが当接する部分を切削加工する。なお、被押圧面19Cの後端部には、後端側に向かうに従い着座面19A側に向かうように傾斜する傾斜面19Dが形成されている。
【0025】
そして、図3および図5に示すように、上記取付座18の底面18Aと壁面18Bとは互いに鋭角に交差する方向に形成されるとともに、これら底面18Aと壁面18Bに着座、密着するバイト19の着座面19Aと側面19Bも同様に鋭角に交差する方向に形成されている。これら底面18Aと壁面18Bの交差角と着座面19Aと側面19Bの交差角θは互いに等しく、望ましくは75°〜87°の範囲内とされて、本実施形態では83°とされている。
【0026】
なお、取付座18の壁面18B、18Cとバイト19の側面19Bおよび被押圧面19Cとは互いに直交するように形成され、従って取付座18は工具本体1の外周側に向かうに従い、またバイト19は側面19Bから離間するに従い、漸次その幅が狭くなる断面略台形状に形成される。ただし、上述のように取付座18の底面18Aと壁面18Bにバイト19の着座面19Aと側面19Bとをそれぞれ密着させた状態において、壁面18Cと被押圧面19Cとの間には僅かな隙間があけられるように、取付座18がなす凹溝の溝幅はバイト19の着座面19Aと被押圧面19C間の厚さより僅かに大きくされている。
【0027】
さらに、工具本体11の先端部には、その外周面から軸線Oを中心とした円の接線方向に沿って延びて各取付座18の上記壁面18Cに開口するネジ穴21がそれぞれ形成されている。これらのネジ穴21は、各取付座18ごとに軸線O方向の位置が異なり、切刃20の上記傾斜角が大きなバイト19が取り付けられる取付座18ほど僅かに後端側に位置するようにされているが、本実施形態ではいずれも取付座18の上記壁面18Cに垂直に開口するように、すなわち壁面18Bに対しては平行に延びるように形成されている。
【0028】
特に、切刃20の上記傾斜角が大きなものと小さなものとの中間のバイト19が取り付けられる取付座18においては、このネジ穴21は、図6に示すように工具本体11の先端部の外径が先端側に向けて一段縮径する部分にあって、先端側に向かうに従い工具本体11の外周面が漸次縮径する円錐台面状の部分にネジ穴21の中心線が軸線O方向において位置するようにされている。
【0029】
そして、これらのネジ穴21には、先端面が平坦面とされたクランプネジ22が螺着されており、この先端面がバイト19の長手方向略中央部で被押圧面19Cを押圧することにより、バイト19は取付座18にクランプされて固定される。なお、こうして固定された3つのバイト19における切刃20のすくい面とされる上記被押圧面19Cは、いずれもそれぞれ軸線Oを含む平面上に延びるように配置されて、切刃20の径方向すくい角および軸方向すくい角が0°となるようにされている。
【0030】
また、各取付座18においてこのクランプネジ22が螺着されるネジ穴21の後端側には、該ネジ穴21と平行に調整ネジ穴23が同じく壁面18Cに開口するように形成されており、これらの調整ネジ穴23には調整ネジ24が螺着されている。この調整ネジ24の先端面は、バイト19後端部の上記傾斜面19Dに当接可能な円錐面状とされていて、こうして先端面を傾斜面19Dに当接させて調整ネジ24をねじ込むことにより、各バイト19の軸線O方向の位置が先端側に向けて微調整可能とされている。
【0031】
そして、こうして微調整された3つのバイト19の切刃20の位置は、上記傾斜角の最も小さな切刃20が最も軸線O方向先端側かつ軸線Oに対する径方向内周側に位置し、また傾斜角の最も大きな切刃20は最も軸線O方向後端側かつ軸線Oに対する径方向外周側に位置するとともに、傾斜角が中間の切刃20は軸線O方向の位置も径方向の位置も、傾斜角が最大、最小の上記2つの切刃20の中間に位置して、これら3つの切刃20の軸線O回りの回転軌跡が、後端側に向かうに従い軸線Oに対する傾斜角が段階的に大きくなるように連続する折れ線状をなすようにされている。
【0032】
なお、このうち傾斜角が最も小さな切刃20を有するバイト19が取り付けられる取付座18に対して軸線Oを挟んで反対側の工具本体11先端部外周には、超硬合金等の硬質材料よりなるガイドパッド25が、調整クサビ26によってその軸線O方向に位置を微調整可能に取り付けられている。こうして微調整されたガイドパッド25は、その外周側を向く面の軸線O回りの回転軌跡が、上記傾斜角の最も小さな切刃20と等しい傾斜角で、この傾斜角の小さな切刃20の回転軌跡の極僅かに内周側に位置するようにされていて、該傾斜角の小さな切刃20によって切削されたバルブシート面Pに摺接して工具本体11をガイドするようにされている。
【0033】
また、工具本体11には、上記貫通穴13の位置決めネジ14よりも後端側の部分から分岐して、先端外周側に延びた後に軸線Oに平行に先端側に延びる3つの分岐穴27が形成されている。これらの分岐穴27は、工具本体11の表面への開口部が埋め栓によって封止されるとともに、それぞれ取付座18の壁面18Bに開口していて、上記工作機械から貫通穴13に供給される切削油剤を、各取付座18に取り付けられたバイト19の切刃20に向けて噴出可能とされている。
【0034】
このように構成された切削工具は、上述のように軸線O回りに回転されつつ該軸線O方向先端側に送り出されて、シリンダーヘッドSのバルブ穴Hに挿入されることにより、図1に示すようにリーマ15によりバルブステムガイド穴Gを穴加工するとともに、こうして加工されたバルブステムガイド穴Gと同軸に、バルブ穴Hの開口部周縁のバルブシート面Pを、3つのバイト19の切刃20により切削加工して、開口部側に向けて傾斜角が段階的に大きくなる多段凹円錐面状に形成する。
【0035】
そして、このようにバルブシート面Pを切削加工するバイト19が取り付けられる取付座18の底面18Aおよび壁面18Bと、これら底面18Aおよび壁面18Bに密着するバイト19の着座面19Aと側面19Bとは、それぞれ互いに鋭角に交差する方向に形成されており、本実施形態のようにクランプネジ22が壁面18Bに平行な方向にネジ穴21に螺着されていても、取付座18の底面18Aに着座面19Aが案内されるようにしてバイト19が壁面18B側に押し付けられて側面19Bが密着させられ、バイト19を確実に取付座18に固定することができる。
【0036】
このため、図8に示したようにネジ穴5およびクランプネジ6が取付座4の底面4Aと壁面4Bとにそれぞれ鋭角に交差する方向に配設されている場合に比べ、図5に示すようにネジ穴21と工具本体11の先端部外周面との間の肉厚を、特に工具回転方向T側のネジ穴21の開口部周辺で大きく確保することが可能となる。従って、これにより、工具本体11の先端部の外径が小径化されても、このネジ穴21に螺着されるクランプネジ22によるバイト19の取付剛性の向上を図ることができ、切削加工時にバイト19にがたつきが生じたりするのを防いで、高精度のバルブシート面Pの切削加工を促すことが可能となる。
【0037】
また、特に本実施形態では、こうしてネジ穴21の開口部周辺における工具本体11の肉厚を大きく確保できるのに伴い、3つのバイト19のうち切刃20の傾斜角が中間のバイト19が取り付けられる取付座18において、図6に示したようにネジ穴21の中心線が、工具本体11の先端部において先端側に向かうに従い外周面が漸次縮径する円錐台面状の部分に軸線O方向において位置するようにされている。
【0038】
このため、工具本体11の先端部が小径であると、従来は図9に示したようにネジ穴5の中心線を軸線O方向において上記円錐台面状の部分よりも後端側の径が大きな部分に位置させざるを得ないのに比べて、本実施形態では切刃20との距離Lが短い位置でクランプネジ22によりバイト19をクランプすることができる。従って、この切刃20に作用する切削抵抗に対して一層の取付剛性の向上を図ることができ、バイト19をより確実に固定することがで可能となる。
【0039】
特に、この傾斜角が中間の切刃20は、上述したように3段のバルブシート面Pのうちでも最も精度が要求されるバルブが当接する部分を切削加工するものであるので、そのような切刃20を備えたバイト19をこうして確実に固定することにより、シリンダーヘッドSのバルブ穴Hとして十分な精度を有するバルブシート面Pの切削加工を行うことが可能となる。勿論、残りの2つのバイト19が取り付けられる取付座18においても、必要があれば同様の構成としてよい。
【0040】
なお、上述のように取付座18の底面18Aおよび壁面18Bとバイト19の着座面19Aと側面19Bとが、それぞれ互いに鋭角に交差する方向に形成されていれば、クランプネジ22が螺着されるネジ穴21は、図8に示したのと同じように底面18Aと壁面18Bとに鋭角に交差する方向に形成されていてもよく、そのような場合でも、ネジ穴21の壁面18Bに対する傾斜角は図8に示した場合より小さくすることができるので、開口部周辺の工具本体11の肉厚は確保することができる。
【0041】
ただし、その場合には、バイト19の被押圧面19Cをネジ穴21の中心線に対して垂直となるように、着座面19Aと同様に側面19Bと鋭角に交差するように形成しなければならなくなって、バイト19の精度管理が煩雑となるので、本実施形態のように壁面18Bに平行にネジ穴21が形成されてクランプネジ22が螺着されるのが望ましい。
【0042】
一方、取付座18の底面18Aと壁面18Bおよびバイト19の着座面19Aと側面19Bの鋭角をなす交差角θは、本実施形態のように75°〜87°の範囲内とされるのが望ましく、この交差角θは上記範囲より大きくて直角に近くなると、図8に示したのと同様にネジ穴21を壁面18Bに対して大きく傾斜させざるを得なくなって、開口部周辺の工具本体11の肉厚を確保することができなくなるおそれが生じる。その一方で、この交差角θが上記範囲よりも小さいと、底面18Aと工具本体11の外周面との交差稜線部における交差角も小さくなって強度が損なわれ、取付剛性が却って損なわれたりこの交差稜線部に変形や破損が生じるおそれがある。
【0043】
なお、本実施形態では、バルブシート面Pを切削加工する3つのバイト19がいずれもクランプネジ22によって工具本体11の所定の位置に形成された取付座18に固定された切削工具について説明したが、上述したように最も高い加工精度が要求されるバルブシート面の中段部分を切削する切刃チップは工具本体の軸線に対して斜めに進退するスライダーに取り付けられた切削工具において、この切刃チップ以外の切刃を有するバイトを取り付けるのに、上記構成を適用してもよい。また、本実施形態ではこのように1つの工具本体11に3つのバイト19が取り付けられている場合について説明したが、工具本体11にはバイト19が1つだけ取り付けられていたり、2つだけ取り付けられていたりしていてもよい。
【符号の説明】
【0044】
11 工具本体
15 リーマ(穴加工工具)
18 取付座
18A 取付座18の底面
18B 取付座18の壁面
19 バイト
19A バイト19の着座面
19B バイト19の側面
19C バイト19の被押圧面
20 切刃
21 ネジ穴
22 クランプネジ
O 工具本体11の軸線
T 工具回転方向
θ 取付座18の底面18Aと壁面18Bおよびバイト19の着座面19Aと側面19Bの交差角θ
L クランプネジ22の中心と切刃20との距離
S シリンダーヘッド
H バルブ穴
P バルブシート面
G バルブステムガイド穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転される工具本体の先端部に、被削材の穴加工を行う穴加工工具が上記軸線に沿って先端側に突出させられるとともに、この穴加工工具の基端側における上記工具本体の先端部外周には、上記被削材の穴の開口部の切削加工を行うバイトが着脱可能に取り付けられてなる切削工具であって、上記工具本体の先端部外周には、外周側を向く壁面と工具回転方向を向く底面とを有して上記バイトが取り付けられる取付座が形成されるとともに、この取付座に取り付けられた上記バイトを工具回転方向後方側に押圧して固定するクランプネジが螺着され、上記バイトには、上記穴の開口部を切削する切刃のすくい面に連なって上記クランプネジにより押圧される被押圧面と、この被押圧面の反対側にあって上記取付座の底面に着座させられる着座面と、これら被押圧面と着座面との間にあって上記取付座の壁面に当接させられる側面とが備えられ、上記取付座の底面と壁面および上記バイトの着座面と側面は、それぞれ互いに鋭角に交差する方向に形成されていることを特徴とする切削工具。
【請求項2】
上記クランプネジは、上記取付座の壁面に平行に螺着されていることを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
上記取付座の底面と壁面および上記バイトの着座面と側面の交差角が75°〜87°の範囲内とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−167834(P2011−167834A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36517(P2010−36517)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】