説明

切削液ノズル位置の調整装置

【課題】マルチブレードタイプの砥石に切磋液を供給する切削液ノズルの位置合わせの作業を容易に効率良くできるようにする。
【解決手段】切削液ノズル30a乃至30cが接続された可撓性ノズル配管32a乃至32cの配管取付部34を固定する旋回可能な旋回台36をベアリング部38によって工作機械の主軸ヘッド20のハウジング側に旋回自在に支持し、36旋回台の旋回位置を任意の位置に固定するクランプ手段42を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体ウェハのような薄物ワークを砥石で切断してチップを切り出すスライサなどの工作機械に利用される切削液ノズル位置の調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スライサと呼ばれる工作機械は、単刃や多刃のダイヤモンドブレードで半導体ウェハやガラス基板などの薄物ワークを切断して、半導体チップなどを高精度、高効率で切り出し、また溝を精密加工することができる。
【0003】
スライサのように砥石でワークを切断したり、溝を切削する精密工作機械の加工では、加工点への切削液の供給を適正に行うことは、加工品位を大きく左右する重要な要素の1つである。切削液は、ノズルから加工点に向けて噴き出されるが、ノズルの位置、角度、方向などの事前の微調整は必要不可欠である。この種のスライサにおける切削液のノズル位置に関する従来技術としては、例えば、特許文献1を挙げることができる。
【0004】
ここで、図5、図6は、従来のスライサなどの工作機械における切削液ノズルの調整の仕方を説明する図である。
【0005】
図5は、スライサの主軸を正面から表した図であり、図6は、主軸を斜めの方向から表した図である。これら図5、図6において、参照番号10は加工テーブルを示し、Wは、加工対象であるワークである。切削液は、フレキシブルチューブ11からノズル12に送られ、このノズル12から砥石として用いられているブレード13とワークWが接する位置(加工点)に向けて噴出される。
【0006】
図5において、ノズル配管として利用されるフレキシブルチューブ11は、曲がり易くかつ曲がった形状を維持するチューブであり、このフレキシブルチューブ11を手で曲げてノズル12から噴き出される水流が加工点の少し上に所望の角度でかかるようにノズル12の位置、方向、角度が調整される。さらに、ブレード13は円盤形であるので、図6に示すように、砥石13に当たった水流が左右均等に分かれるようにノズル12の向きを調整する。
【0007】
以上は、ブレード13が単刃である場合のノズル位置の調整である。従来からスライサには、複数のブレードを並べて配置したマルチタイプのスライサがある。この多刃タイプのスライサでは、複数のブレードが同時にワークを切削するので、1回の送りで複数ラインの切削を一挙に行うことができ、加工能率を格段に上げることができる。
【0008】
このマルチブレードタイプのスライサでは、図7に示されるように、ブレード13と同数のノズル12が配置されており、ノズル位置合わせの調整は、上述した単刃の場合と同様に、それぞれのブレード13に対して1つ1つノズル12の位置合わせの調整を行うことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−318461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、マルチブレードタイプのブレード13の場合には、一番手前の方に位置するノズル12から出た切削液の水流は同じく一番手前にある砥石に当たって左右均等に分かれているかどうかの確認は容易であるのに較べて、図7に示されるように、奥行き側に位置するノズル13から出る切削液の水流の方は、ブレード13に当たってどのように分かれているか見えにくい。このため、正確に水流が砥石に当たっているかどうかの確認が困難になる。
【0011】
しかも、図8に示されるように、スライサのような工作機械では、周囲に切削液が飛散しないように、主軸の回りをカバー14で覆っているため、奥行き側のノズル13から噴出される水流の状態がとりわけ見え難くなっている。その上、カバー14があることで水流が見え難くなるだけでなく、作業スペースは狭くなりノズルの位置合わせの作業はきわめてしづらいという問題があった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、マルチブレードタイプの砥石に切磋液を供給する切削液ノズルの位置合わせの作業を容易に効率良くできるようにした切削液ノズル位置の調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するために、本発明は、複数枚の砥石を同軸に並べたマルチブレード型の砥石で、薄物ワークを切削する工作機械において、前記砥石がワークと接触する加工点にそれぞれ切削液を供給する複数の切削液ノズルの位置を調整するための装置であって、 前記切削液ノズルが接続された可撓性ノズル配管の配管取付部を固定する旋回可能な旋回台と、前記旋回台を前記工作機械の主軸ヘッドのハウジング側に旋回自在に支持するベアリング部と、前記旋回台の旋回位置を任意の位置に固定するクランプ手段と、を具備したことを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態による切削液ノズル位置の調節装置の側面図である。
【図2】同切削液ノズル位置の調節装置の分解側面図である。
【図3】切削液ノズル位置の調整手順を示す説明図。
【図4】図3(b)の場合に、主軸ヘッドを上からみたときのノズル位置を示す平面図である。
【図5】単刃タイプのスライサにおける切削液ノズルの位置を示す正面図である。
【図6】スライサにおける切削液ノズル位置を示す斜視図である。
【図7】多刃タイプのスライサにおける切削液ノズルの位置を示す斜視図である。
【図8】スライサのブレードを囲むカバーを示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明による切削液ノズル位置の調整装置の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本実施形態による切削液ノズル位置の調整装置の側面図であり、図2は、切削液ノズル位置の調整装置の構成部品の分解図である。
【0017】
この実施形態は、半導体ウェハやガラス基板などの薄物ワークから半導体チップを切り出すダイシング加工や、基板表面に微細な溝加工を行う工作機械であるスライサに本発明を適用した実施形態である。
【0018】
図1、図2において、参照符合20は、スライサの主軸ヘッドを示す。参照番号22は、切削液ノズルの位置調整装置の全体を示している。
【0019】
まず、主軸ヘッド20について説明する。主軸ヘッド20の砥石軸先端にはコレット24が取り付けられており、このコレット24には砥石ホルダ26が装着されている。この砥石ホルダ26は、マルチブレード型の砥石ホルダであり、複数枚、この実施形態では3枚の円盤状のダイヤモンドブレード28a、28b、28cが所定の間隔で同軸にかつ互いに平行に保持されている。このうちダイヤモンドブレード28aは、砥石ホルダ26の最も先端側に配置され、機械の正面に立った作業員にとっては一番手前側に位置している。ダイヤモンドブレード28cは、一番奥行き側に位置していることになる。
【0020】
次に、切削液ノズルの位置調整装置22について説明する。
【0021】
図1において、参照番号30a、30b、30cは、切削液をダイヤモンドブレード28a、28b、28cの加工点に向けて切削液を噴出するノズルを示す。この場合、ノズル30aはダイヤモンドブレード28aに、ノズル30bはダイヤモンドブレード28bに、ノズル30cはダイヤモンドブレード28cにそれぞれ対応している。
【0022】
このようなノズル30a、30b、30cは、それぞれフレキシブルチューブ32a、32b、32cの先端に取り付けられている。このフレキシブルチューブ32a、32b、32cは、曲がり易く、しかも曲がったあとはその形状を維持する形状記憶合金などの材料からなるチューブである。フレキシブルチューブ32a、32b、32cの基端は、配管取付部としてのマニホールド34に接続されている。このマニホールド34には、図示しない切削液供給管が接続されており、切削液はマニホールド34でそれぞれフレキシブルチューブ32a、32b、32cに分配される。
【0023】
マニホールド34は、次のように、砥石軸回りに旋回可能な旋回台36の上に固定されている。この旋回台36は、図2に示されるように、ベアリング38と間座40を用いて旋回自在に構成されている。
【0024】
この実施形態では、ベアリング38は、主軸ヘッド20の端面を塞ぐカバープレート35に取り付けられ、ベアリング38の内輪はカバープレート35に嵌合するようになっている。ベアリング38の外輪には、リング形の間座40が嵌合するようになっており、間座40は砥石軸の中心と同軸に回転自在である。間座40の内径部は段付きになっており、その内径は、砥石ホルダ26の外径よりも十分大きくなっている。
【0025】
間座40には、直方体形状の旋回台36が固着されており、この旋回台36は、間座40とともに砥石軸の回りを自在に旋回することができる。旋回台36は、その長手方向が砥石軸の軸方向と平行になるように取り付けられている。旋回台36が間座40に片持ち支持で固定された状態では、旋回台36の先端は主軸ヘッド20のハウジング外周面まで延び、その下面はハウジング外周面と隙間を保っている。
【0026】
旋回台36の先端部には、雌ねじが形成されている。この雌ねじには、クランプボルト42が砥石軸の半径方向から螺入されている。このクランプボルト42の頭にはローレットが加工されている。
【0027】
本実施形態による切削液ノズル位置の調節装置は、以上のように構成されるものであり、次に、切削液ノズル位置の調整作業との関連において、その作用並びに効果について説明する。
【0028】
図1において、クランプボルト42を緩めると、このクランプボルト42の先端は、主軸ヘッド20のハウジング外周面から離間するので、マニホールド34の固定されている旋回台36は、砥石軸回りに自由に旋回してその位置を自由に変えることができるようになる。
【0029】
逆に、クランプボルト43を締め込んでいくと、クランプボルト43の先端は主軸ヘッド20のハウジング外周面に当たりクランプが効くようになるので、ノズル30a、30b、30cの接続されている旋回台36を任意の位置で固定することができる。
【0030】
以上のような動作を利用することにより、以下のような手順を踏んで、ノズル位置の位置合わせを行う。
【0031】
図3は、本実施形態でのノズル位置合わせの手順を示す図である。
ノズル位置の調整を行う前には、正面からみると、ノズル30a、30b、30cの位置は、図3(a)に示す位置にあったものとする。ノズル30a、30b、30cがこの位置にあると、奥行き側に配置されるノズル30cの位置合わせが困難になるのは、従来技術の欄で説明した通りである。
【0032】
そこで、クランプボルト42を緩めて旋回台36を旋回させ、図3(b)に示すように、ノズル30a、30b、30cがそれぞれダイヤモンドブレード28a、28b、28cの上に位置するようにする。そして、クランプボルト42を締め込んで、旋回台36をクランプする。
【0033】
図4は、このとき主軸ヘッド20を上からみたときのノズル30a、30b、30cと、ダイヤモンドブレード28a、28b、28cの位置関係を示す。
【0034】
そこで、試しに切削液をノズル30a、30b、30cからダイヤモンドブレード28a、28b、28cの刃に向けて噴き付け、ダイヤモンドブレード28a、28b、28cに当たった水流が各ダイヤモンドブレード28a、28b、28cの両側面側に均等に分かれるかどうかを確認する。
【0035】
ダイヤモンドブレード28a、28b、28cの中で、例えば、最も奥行き側に配置されているダイヤモンドブレード28cで水流が不均等に分かれているとしたら、ノズル30cのフレキシブルチューブ32cを左右に曲げて水流が均等に分かれるように調整する。
【0036】
この場合、作業者は主軸ヘッド20の上から視線を投じるかたちになり、ダイヤモンドブレード28a、28b、28cの位置如何によらず水流の分かれ具合の確認は容易であり、また、フレキシブルチューブ32a、32b、32cを曲げてノズル30a、30b、30cの向きを調整する作業も容易に行うことができる。
【0037】
こうして、ダイヤモンドブレード28a、28b、28cに当たった水流が左右に均等に分かれることを確認したら、次に、クランプボルト42を緩め、旋回台36を旋回させる。図3(c)に示すように、最初の位置に戻したら、旋回台36をクランプボルト42でクランプする。
【0038】
旋回台36とともにノズル30a、30b、30cは、それぞれダイヤモンドブレード28a、28b、28cと同じ平面上を同軸に旋回するので、お互いの相対的な位置関係は変わらず、ノズル30a、30b、30cが上に位置していた場合に水流が均等に分かれるのであれば、下に位置した場合でも水流は均等に分かれることになる。
【0039】
次に、試しに切削液をノズル30a、30b、30cからダイヤモンドブレード28a、28b、28cの刃向けて吹き付け、正面から観察して、加工点に所望の角度で適正に水流がかかっているかを確認する。この場合、調整の必要がある場合には、フレキシブルチューブ32a、32b、32cを曲げてノズル30a、30b、30cの向きを上下に調整する。再度確認後、加工点に適正に水流がかかっていれば、調整は終了する。
【0040】
以上のようにして、ノズル30a、30b、30cの位置に関係なく、マルチブレード型の砥石に対する位置合わせの作業をきわめて簡便に効率よく進めることができる。
【0041】
以上、本発明による切削液ノズル位置の調整装置ついて、半導体ウェハ等を切断するスライサに本発明を適用した実施形態を挙げて説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではなく、円盤状の砥石で加工する様々な精密加工機に適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
20…主軸ヘッド、22…切削液ノズルの位置調整装置、24…コレット、26…砥石ホルダ、28a〜28c…ダイヤモンドブレード、30a〜30c…ノズル、32a〜32c…フレキシブルチューブ、34…マニホールド、36…旋回台、38…ベアリング、40…間座、42…クランプボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の砥石を同軸に並べたマルチブレード型の砥石で、薄物ワークを切削する工作機械において、前記砥石がワークと接触する加工点にそれぞれ切削液を供給する複数の切削液ノズルの位置を調整するための装置であって、
前記切削液ノズルが接続された可撓性ノズル配管の配管取付部を固定する旋回可能な旋回台と、
前記旋回台を前記工作機械の主軸ヘッドのハウジング側に旋回自在に支持するベアリング部と、
前記旋回台の旋回位置を任意の位置に固定するクランプ手段と、
を具備したことを特徴とする切削液ノズル位置の調整装置。
【請求項2】
前記ベアリング部は、前記主軸ヘッドの端面に砥石軸と同軸に固定されるベアリングと、前記ベアリングの外輪に嵌合し、前記旋回台が片持ち支持される間座と、からなることを特徴とする請求項1に記載の切削液ノズル位置の調整装置。
【請求項3】
前記クランプ手段は、前記旋回台に砥石軸の半径方向から螺入されるクランプボルトからなることを特徴とする請求項2に記載の切削液ノズル位置の調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−187661(P2012−187661A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52899(P2011−52899)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】