説明

切削装置、および切削方法

【課題】ダイナミックバランス誤差を低減し、被加工物を高精度に切削加工し得る切削装置、および切削方法を提供する。
【解決手段】切削装置は、主軸32に着脱自在に取り付けられる切削工具20によって被加工物を切削加工する数値制御加工部30と、数値制御加工部に設けられ、切削工具の工具刃先を研削するための溝部44が成形された成形砥石40と、を有する。溝部は、主軸に砥石成形用工具が着脱自在に取り付けられた数値制御加工部によって成形される。主軸に取り付けた切削工具は、切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度で逆回転しながら、溝部を通過することによって、工具刃先が研削される。そして、切削加工を行うときの動的な振れ誤差が転写された切削工具によって被加工物を切削加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具によって被加工物を切削加工する切削装置、および切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具によって被加工物を切削加工する切削装置として、マシニングセンタなどの数値制御工作機械が広く使用されている。切削工具を主軸に取り付けた状態で成形するための研削ユニットを設けた数値制御工作機械も提案されている(特許文献1、2を参照)。
【特許文献1】特開平9−239631号公報
【特許文献2】特開2001−287139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
切削加工を実際に行うときには、切削工具を高速回転することから、切削装置には、静的な振れ誤差のほかに、動的な振れ誤差つまりダイナミックバランス誤差も生じている。
【0004】
特許文献1、2に記載された数値制御工作機械は、その機上に研削ユニットを設け、切削工具を主軸に取り付けた状態で成形することから、確かに、工具の取り付け誤差や、静的な振れ誤差などは低減することはできる。
【0005】
しかしながら、ダイナミックバランス誤差を低減できないので、切削加工後の被加工物はダイナミックバランス誤差を含んだ形状となる。ダイナミックバランス誤差は、切削工具の長さ、径などによって大きく異なってくる。たとえ同じ型番の切削工具であっても、個々の切削工具ごとに重心が僅かに異なることから、ダイナミックバランス誤差は異なってくる。
【0006】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、ダイナミックバランス誤差を低減し、被加工物を高精度に切削加工し得る切削装置、および切削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、主軸に着脱自在に取り付けられる切削工具によって被加工物を切削加工する加工部と、
前記加工部に設けられ、前記切削工具の工具刃先を研削するための溝部が成形された成形砥石と、を有し、
前記溝部は、前記主軸に砥石成形用工具が着脱自在に取り付けられた前記加工部によって成形され、
前記主軸に取り付けた前記切削工具を、切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度で逆回転させながら、前記溝部を通過させることによって、前記切削工具の工具刃先を研削してなる切削装置である。
【0008】
上記目的を達成するための請求項7に記載の発明は、工作機械の主軸に着脱自在に取り付けられる切削工具によって被加工物を切削加工する切削方法において、
前記主軸に砥石成形用工具が着脱自在に取り付けられた前記工作機械によって、前記切削工具の工具刃先を研削するための溝部を前記工作機械に設けた前記成形砥石に成形し、
前記主軸に取り付けた前記切削工具を、切削加工を行う前に、切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度で逆回転させながら、前記溝部を通過させることによって、前記切削工具の工具刃先を研削し、
切削加工を行うときの動的な振れ誤差が転写された前記切削工具によって前記被加工物を切削加工することを特徴とする切削方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ダイナミックバランス誤差を低減し、被加工物を高精度に切削加工することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る切削装置10を示す斜視図、図2は、切削装置10の要部を示す斜視図、図3は、砥石成形用工具45によって成形砥石40に溝部44を成形しているときの状態を説明する説明図、図4は、成形砥石40によって切削工具20の工具刃先を研削しているときの状態を説明する説明図、図5は、ホーニング砥石50によって切削工具20の工具刃先をホーニング加工しているときの状態を説明する説明図である。
【0012】
図1および図2を参照して、切削装置10は、概説すれば、主軸32に着脱自在に取り付けられる切削工具20によって被加工物W(図6参照)を切削加工する数値制御加工部30(加工部に相当する)と、数値制御加工部30に設けられ切削工具20の工具刃先を研削するための溝部44が成形された成形砥石40と、を有している。成形砥石40の溝部44は、主軸32に砥石成形用工具45(図3参照)が着脱自在に取り付けられた数値制御加工部30によって成形されている。主軸32に取り付けた切削工具20は、切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度で逆回転させながら、溝部44を通過させることによって、工具刃先が研削されている。切削装置10はさらに、数値制御加工部30に設けられ、切削工具20の工具刃先をホーニング加工するホーニング砥石50を有している。以下、詳述する。
【0013】
前記切削工具20は、例えば、工具先端および外周面に切れ刃が形成され、表面および輪郭削りに広く使用されているエンドミルである。特に工具先端を球状の切れ刃に形成し、三次元自由曲面においても切削加工のできるボールエンドミルは、金型を加工する場合などにおいて広く使用されている。実施形態では、切削工具20としてボールエンドミルを使用している。切削工具20の材質は特に限定されないが、高硬度焼入鋼のような鋼材を高能率に切削加工することができるCBN(立方晶窒化ホウ素焼結体)工具を例示することができる。
【0014】
前記数値制御加工部30は、一般的なマシニングセンタなどの数値制御工作機械から構成されている。数値制御工作機械30は、周知のように、主軸ヘッド31と、主軸ヘッド31に回転自在に保持された主軸32と、主軸32にチャックを介して着脱自在に取り付けられる各種工具と、被加工物Wを保持するワーク台33と、ATC34(自動工具交換装置)と、コントローラ35と、を有している。コントローラ35は、工作機械における種々の制御、例えば、工具の位置、経路、工具の交換、主軸32の回転、被加工物Wの位置、被加工物Wと工具との相対位置などの制御を、数値情報に基づいて行う。主軸32は、正逆両方向に回転駆動自在となっている。ワーク台33は、図1に示したX軸、Y軸、Z軸の各軸に沿って移動される。図2には、主軸32に切削工具20を取り付けた状態が示されている。
【0015】
前記成形砥石40は、切削工具20の工具刃先のアール形状を定めるマスター砥石となるものであり、ワーク台33の上に設けられている。成形砥石40は、ワーク台33のうち被加工物Wを保持し得る範囲よりも外側の位置に取り付けられている。図3にも示されるように、成形砥石40は、スチールブロック41に形成したU溝42に、断面U字形状をなす砥石片43を固定して構成されている。砥石片43には、例えば、ダイヤモンドビドリファイド砥石が使用される。溝部44は、砥石片43の内面を砥石成形用工具45によって削ることによって成形される。砥石成形用工具45は、数値制御工作機械30の主軸32に、ATC34により、ミーリングチャックを介して取り付けられる。砥石成形用工具45は、砥石片43を成形可能なボール状の先端を備えている。砥石成形用工具45には、例えば、電着によりダイヤモンドコーティングされた超硬ボールエンドミルが使用される。砥石成形用工具45は、切削工具20の径よりも小さい径を有している。
【0016】
成形砥石40の溝部44は、後に行われる切削工具20の研削加工および被加工物Wの切削加工を行う機械と同一の数値制御工作機械30を用いて成形される。また、切削工具20の工具刃先を定められたアール形状に成形するために必要な砥石成形用工具45の位置、経路などに関する数値制御データ(以下、「NCデータ」と言う)に基づいて成形される。数値制御工作機械30は工具の取り付け誤差などの固有の機械的誤差を持ち、NCデータはデータ上の誤差を持っている。したがって、成形砥石40の溝部44は、数値制御工作機械30によって加工するときに発生する種々の誤差が転写ないし含まれた形状に成形される。成形砥石40の成形、切削工具20の研削、および被加工物Wの切削という3つのステージにおける基準が一つとなるので、積み上げられる誤差が少なく、結果的に、被加工物Wの切削加工における精度が高められる。
【0017】
成形砥石40の溝部44は、砥石成形用工具45を一軸方向にのみ動かし、他の2軸を固定して成形することが好ましい。他の2軸方向に動かすことに伴う誤差が溝部44に転写されないようにし、成形された溝部44の形状に含まれる誤差を小さくするためである。図示例では、溝部44がX軸方向に沿うように、成形砥石40が配置されている。
【0018】
成形砥石40の成形が終わると、砥石成形用工具45に換えて、切削工具20が、主軸32に取り付けられる。切削工具20は、工具の外周二番逃研削、必要に応じて三番逃研削などの前処理がすでに終わっているものが使用される。成形砥石40を用いた切削工具20の研削は、切削工具20を、切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度で逆回転させながら、溝部44を通過させることによって行っている。切削工具20は、溝部44を成形したときと同様に、一軸方向の送りによって研削される。
【0019】
切削工具20を逆回転させるのは、正転させると、すくい面によって成形砥石40の溝部44が削られるためである。切削工具20を逆回転することにより、刃先の背の部分が研削され、形状が整えられる。
【0020】
切削工具20を、切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度で回転させるのは、被加工物Wを切削加工するときのダイナミックバランス誤差を低減するためである。切削加工時は切削工具20が高速回転(例えば、10000回転/分)するため、静的な振れ誤差に比べると、ダイナミックバランス誤差は大きくなる。このため、切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度で切削工具20を回転させれば、高速加工時と同じ回転振れが再現され、切削工具20はダイナミックバランス誤差を転写した形状に研削される。さらに詳しくは、動的な振れにより切削工具20としてのボールエンドミル20の外周部分が成形砥石40の溝部44に強く押し付けられて研削されるので、ボールエンドミル20の先端部分が断面半円形状に比べると先細りとなった形状に研削される。ダイナミックバランス誤差が転写されて先細りとなった切削工具20を用いて実際に切削加工を行うと、切削工具20が動的に振れても、被加工物Wは外周部分の刃によって削られ難く、回転振れのない状態に近似した状態で加工されることになる。したがって、ダイナミックバランス誤差を低減し、被加工物Wを高精度に切削加工でき、面粗さを小さくすることができる。
【0021】
本明細書において「切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度」は、ダイナミックバランス誤差を低減する目的から定められるものであり、ただ一つの回転数に限定されるものではなく、さらに、切削加工を行うときの回転速度とまったく同一の回転速度に限定されるものでもない。使用する数値制御工作機械30の動的な振れに関する特性、被加工物Wに要求される面粗さなどに応じて、ある範囲の回転速度域から、「切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度」を選択することが許容される。一例を挙げれば、切削加工を行うときの回転速度のプラスマイナス20%の回転速度域から、「切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度」を選択することができる。切削加工を行うときの回転速度が10000回転/分であるならば、「切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度」は8000〜12000回転/分の回転速度域から選択される。
【0022】
成形砥石40による切削工具20の研削は、少なくとも新品の切削工具20を使い始めるときに行う必要はあるが、切削工具20の使い始めにのみ行ったり、加工時間を累積した値に基づいて定期的に繰り返し行ったりすることができる。
【0023】
前記ホーニング砥石50は、切削工具20の工具刃先の角を落とすために用いられ、ワーク台33の上に、成形砥石40に隣り合って設けられている。図5にも示されるように、ホーニング砥石50は、スチールブロック51に形成したカップ状凹所に、弾性体層52aと砥石層52bとが積層されたカップ型砥石52を固定して構成されている。成形砥石40による研削が終わった切削工具20は、カップ型砥石52に押し当てられ、弾性変形を利用し工具刃先の角が落とされる。ホーニング加工時には、切削工具20は、切削加工時の回転方向は逆の方向に、逆回転される。
【0024】
成形砥石40の成形、切削工具20の研削、および切削工具20のホーニング加工は、切削加工と同様に、数値制御プログラムによって自動的に実行される。したがって、切削工具20の研削、切削工具20のホーニング加工、および切削加工は、切削工具20を主軸32から取り外すことなく実施できる。さらに、ATC34を備えることにより、成形砥石40の成形開始から切削加工の終了までの自動運転が実現される。
【0025】
切削装置10はさらに、図2に示すように、成形砥石40およびホーニング砥石50を囲うスライドカバー60(成形砥石用のカバー部材、ホーニング砥石用のカバー部材に相当する)を有している。スライドカバー60は、主軸32の移動に合わせて、X軸、Y軸に沿ってスライド移動する。スライドカバー60には、切削工具20および砥石成形用工具45を挿通する開口部61が形成されている。回転する工具がスライドカバー60に直接接触することを防止するため、開口部61には、ラジアルベアリング62が取り付けられている。図2中の符号63は、スライドカバー60内に配置され研削油を供給するための研削油マニホールドを示し、符号64は、スライドカバー60内の粉塵などを負圧によって吸い出すための吸引口を示している。成形砥石40の成形、切削工具20の研削、および切削工具20のホーニングをスライドカバー60内にて実施するので、研削油や粉塵が周囲に拡散することはない。また、数値制御工作機械30の全体を覆うフルカバー化する必要がないので、切削装置10全体の大型化・複雑化を招かず、作業性も良いものとなる。
【0026】
なお、切削工具20および砥石成形用工具45を挿通する開口部が形成されるとともに成形砥石40を囲う成形砥石用のカバー部材と、切削工具20を挿通する開口部が形成されるとともにホーニング砥石50を囲うホーニング砥石50用のカバー部材と、を別個独立して設けても良い。また、カバー部材は、スライドしなくても良いし、開口部61は、円形に限定されず、長孔形状でも良い。
【0027】
図6は、被加工物Wを切削加工しているときの状態を説明する説明図、図7は、切削工具20の回転と動的な振れ量との関係を示すグラフ、図8は、切削工具20の動的な振れが面粗さに影響を与える様子を説明する説明図、図9は、切削工具20の動的な振れによって工具先端のアール形状が変化する状態を説明する説明図、図10は、切削工具20の動的な振れによって加工部位に生じる加工誤差を示す概念図である。
【0028】
図6を参照して、数値制御工作機械30によって被加工物Wを切削加工しているときには、切削工具20には動的な振れdが生じる。切削工具20の位置、経路に関するNCデータは、破線によって示される線71のように、切削工具20のアール形状の中心を基準にして作成されている。数値制御工作機械30によって加工するときに、機械的誤差、データ上の誤差、および動的な振れ誤差つまりダイナミックバランス誤差などの各種誤差が発生しない理想的な状態の下では、切削加工後の面は、一点鎖線によって示される線72のように、切削工具20の軌跡に沿った面となる。しかしながら、実際の切削加工では誤差を完全にゼロにすることはできないので、切削加工後の面は、実線によって示される線73のように、各種の誤差を含んだ形状の面となる。
【0029】
図7を参照して、主軸32に取り付けられた工具先端の動的な振れ量は、切削工具20の回転速度(回転/分)が大きくなるのに比例して大きくなり、ある回転速度を超えると急激に大きくなる。切削加工を行うときの回転速度R0は、動的な振れ量が急激に大きくなる前の、例えば、10000回転/分である。
【0030】
図8を参照して、横軸は切削工具としての2枚刃のボールエンドミル20の回転位置を示し、縦軸は削り残り量や動的な振れ量などの寸法を示している。破線によって示される線75は、2枚刃のボールエンドミル20を使用した場合の理論上の削り残り量を示し、一点鎖線によって示される線76は、切削加工時のボールエンドミル20先端の動的な振れ量を示している。実線によって示される線77は、理論上の削り残り量と動的な振れ量とを合成した寸法であり、切削面の状態つまり面粗さを示している。図より明らかなように、ボールエンドミル20の動的な振れdが加工面に転写されてしまい、最大面粗さRyが大きくなる。
【0031】
図9を参照して、ボールエンドミル20に動的な振れdが生じていないときの、ボールエンドミル20のボール部分が一点鎖線によって示されている。回転半径切はr0である。切削加工時にボールエンドミル20に動的な振れdが生じると、ボール部分は、実線で示すように回転半径r1が変化し、ダイナミックバランス誤差を含んだアール形状となる。
【0032】
ボールエンドミル20の動的な振れdによって、ボール部分がダイナミックバランス誤差を含んだアール形状となっても、加工面がボールエンドミル20の軸線に対して直交する方向に存在する加工部位の場合には、主としてボール部分の先端で切削されることから、加工面の目標とする形状と実際の形状との間の加工誤差は、十分に小さい。しかしながら、図10に示すように、加工面Waがボールエンドミル20の軸線に対して傾斜している加工部位の場合には、主としてボールエンドミル20の周面で切削されることから、加工面Waの目標とする形状78(一点鎖線)と実際の形状79(実線)との間の加工誤差αがひじょうに大きく、面粗さが悪化する。
【0033】
本実施形態の切削装置10および切削方法によれば、上記のようにして生じるダイナミックバランス誤差を低減し、被加工物Wを高精度に切削加工することが可能となる。次に、本実施形態の作用を説明する。
【0034】
まず、成形砥石40の成形を行う。つまり、主軸32に砥石成形用工具45が着脱自在に取り付けられた数値制御工作機械30(工作機械に相当する)によって、切削工具20の工具刃先を研削するための溝部44を数値制御工作機械30に設けた成形砥石40に成形する。
【0035】
数値制御工作機械30は固有の機械的誤差を持ち、NCデータはデータ上の誤差を持っているので、成形砥石40の溝部44は、数値制御工作機械30によって加工するときに発生する種々の誤差が転写ないし含まれた形状に成形される。成形砥石40の成形、切削工具20の研削、および被加工物Wの切削という3つのステージにおける基準が一つとなるので、積み上げられる誤差が少なく、結果的に、被加工物Wの切削加工における精度を高めることができる。
【0036】
次いで、切削工具20の工具刃先を研削する。つまり、主軸32に取り付けた切削工具20を、切削加工を行う前に、切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度で逆回転させながら、溝部44を通過させることによって、切削工具20の工具刃先を研削する。切削工具20を逆回転させることにより、すくい面によって溝部44が削られことがなく、刃先の背の部分が研削され、形状が整えられる。切削工具20を、切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度で回転させることにより、高速加工時と同じ回転振れが再現される。溝部44は切削工具20のアール形状と同じアール形状に成形されているので、切削工具20としてのボールエンドミル20の外周部分が溝部44に強く押し付けられて研削され、ボールエンドミル20の先端部分が断面半円形状に比べると先細りとなった形状に研削される。
【0037】
次いで、成形砥石40による研削が終わった切削工具20を、ホーニング砥石50に押し当て、弾性変形を利用し工具刃先の角を落とす。ホーニング加工時にも、切削工具20は、逆回転される。
【0038】
ホーニング加工が終われば、ダイナミックバランス誤差が転写されて先細りとなった切削工具20によって被加工物Wを切削加工する。実使用において切削工具20が動的に振れても、外周部分の刃によって削られ難くなるので、回転振れのない状態に近似した状態で加工されることになる。したがって、ダイナミックバランス誤差を低減し、被加工物Wを高精度に切削加工でき、面粗さを小さくすることができる。特に、加工面Waがボールエンドミル20の軸線に対して傾斜している加工部位の場合には、主として周面で切削されることから、加工面Waの目標とする形状78と実際の形状79との間の加工誤差αがひじょうに大きかったが(図10参照)、この加工誤差αを小さくして面粗さを改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態に係る切削装置を示す斜視図である。
【図2】切削装置の要部を示す斜視図である。
【図3】砥石成形用工具によって成形砥石に溝部を成形しているときの状態を説明する説明図である。
【図4】成形砥石によって切削工具の工具刃先を研削しているときの状態を説明する説明図である。
【図5】ホーニング砥石によって切削工具の工具刃先をホーニング加工しているときの状態を説明する説明図である。
【図6】被加工物を切削加工しているときの状態を説明する説明図である。
【図7】切削工具の回転と動的な振れ量との関係を示すグラフである。
【図8】切削工具の動的な振れが面粗さに影響を与える様子を説明する説明図である。
【図9】切削工具の動的な振れによって工具先端のアール形状が変化する状態を説明する説明図である。
【図10】切削工具の動的な振れによって加工部位に生じる加工誤差を示す概念図である。
【符号の説明】
【0040】
10 切削装置、
20 ボールエンドミル、エンドミル(切削工具)、
30 数値制御工作機械(工作機械)、数値制御加工部(加工部)、
32 主軸、
33 ワーク台、
35 コントローラ、
40 成形砥石、
43 砥石片、
44 溝部、
45 砥石成形用工具、
50 ホーニング砥石、
52 カップ型砥石、
60 スライドカバー(成形砥石用のカバー部材、ホーニング砥石用のカバー部材)、
61 開口部、
W 被加工物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸に着脱自在に取り付けられる切削工具によって被加工物を切削加工する加工部と、
前記加工部に設けられ、前記切削工具の工具刃先を研削するための溝部が成形された成形砥石と、を有し、
前記溝部は、前記主軸に砥石成形用工具が着脱自在に取り付けられた前記加工部によって成形され、
前記主軸に取り付けた前記切削工具を、切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度で逆回転させながら、前記溝部を通過させることによって、前記切削工具の工具刃先を研削してなる切削装置。
【請求項2】
前記溝部が、前記砥石成形用工具を一軸方向にのみ動かして成形される請求項1の切削装置。
【請求項3】
前記切削工具が、工具先端および外周面に切れ刃が形成されたエンドミルである請求項1の切削装置。
【請求項4】
前記切削工具および前記砥石成形用工具を挿通する開口部が形成されるとともに前記成形砥石を囲う成形砥石用のカバー部材をさらに有している請求項1の切削装置。
【請求項5】
前記加工部に設けられ、前記切削工具の工具刃先をホーニング加工するホーニング砥石をさらに有している請求項1または請求項4の切削装置。
【請求項6】
前記切削工具を挿通する開口部が形成されるとともに前記ホーニング砥石を囲うホーニング砥石用のカバー部材をさらに有している請求項5の切削装置。
【請求項7】
工作機械の主軸に着脱自在に取り付けられる切削工具によって被加工物を切削加工する切削方法において、
前記主軸に砥石成形用工具が着脱自在に取り付けられた前記工作機械によって、前記切削工具の工具刃先を研削するための溝部を前記工作機械に設けた前記成形砥石に成形し、
前記主軸に取り付けた前記切削工具を、切削加工を行う前に、切削加工を行うときの回転速度に合致した回転速度で逆回転させながら、前記溝部を通過させることによって、前記切削工具の工具刃先を研削し、
切削加工を行うときの動的な振れ誤差が転写された前記切削工具によって前記被加工物を切削加工することを特徴とする切削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−126358(P2008−126358A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313548(P2006−313548)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】