説明

刈払機

【課題】
エンジン式の刈払機において、ピストンの往復運動によって発生する上下振動を低減させるとともに、エンジンの燃焼によって発生する騒音を遮断し作業性を向上させる。
【解決手段】
手持ち式の刈払機の動力源たるエンジン10の全体を取り囲むように前後方向に軸線を有する筒状のカバー5を設け、カバー5の内部においてエンジン10を複数の防振装置30によって保持するようにした。カバー5内の前記シリンダ後方側の内部空間は、仕切り板40によって区画され、区画された下方が空気の吸引用空間で、上側が空気及び排気ガスの排出用空間として用いられる。マフラー16は上側の排気用空間に設けられる。防振装置30は主にスプリング31に構成され、ボルト36とスプリングホルダ32によって固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は刈払機に関し、特に振動低減性能を向上させた手持ち式の刈払機に関する。
【背景技術】
【0002】
手持ち式刈払機において、特許文献1に開示されるように動力源として小型のエンジンが広く用いられている。エンジンは、小型軽量で大きな出力を得ることができ、燃料を供給することにより長時間の作業が可能となるという利点を有する。しかしながら、エンジンはシリンダの内部でピストンが往復移動し、混合気の燃焼による爆発を伴うので、電気モータに比べると振動が大きいというデメリットがある。近年では作業者の負担軽減のために騒音や振動の規制が厳しくなりつつあり、更なる低騒音、低振動の刈払機が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−259721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジン式の刈払機の振動源としては、ピストンの往復運動による上下振動とトルク変動によるねじり振動がある。このうち、ねじり振動に関しては様々な対策が行われており、大部分のねじり振動を取り除くことが可能である。上下振動に関しては、ハンドルグリップなどに弾性体を固着したり、ハンドルとメインパイプとの間に弾性体を介し、人体(作業者)に伝わる振動を低減させるなどの種々の対策が行われている。しかしながら、弾性体の変形量が微小であるため更なる減振効果の向上を図るのが難しい。また、弾性体の変形量を大きくしてしまうと剛性感にかけて刈払機の使い心地を低下させてしまう恐れがある。
【0005】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、防振装置を改良して作業者に伝わる振動を低減させることができる刈払機を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、作業者に伝わる騒音を低減すると共に、吸気又は排気の風が作業者に当たりにくい刈払機を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、刈払機の作業時に作業者に当たる部分をなめらかな形状のカバーで構成することにより、使い勝手が良く作業性が高い刈払機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0009】
本発明の一つの特徴によれば、エンジンと、エンジンの出力を伝達して先端に工具が取り付けられる出力伝達軸と、出力伝達軸が挿通されるメインパイプと、メインパイプの中間位置に設けられる手持ち用のハンドルを有する刈払機であって、エンジンの全体を取り囲むように前後方向に軸線を有する筒状のカバーを設け、エンジンはカバーの内部において複数の防振装置によって保持される。筒状のカバーの前方側は絞り込まれてメインパイプに連結され、後方側が開口される。防振装置は、出力伝達軸の軸線と垂直方向に配置される。
【0010】
本発明の他の特徴によれば、複数の防振装置は互いに一定の間隔を隔てて平行に配設される。防振装置は例えばコイル式のスプリングであり、スプリングの一端はエンジンのシリンダとクランクケースの接合部付近に固定され、他端はカバーに固定される。スプリングとして巻きバネを4つ用い、2つのスプリングがエンジンの一端側に水平に配置し、2つのスプリングをエンジンの他端側に水平に配置すると好ましい。各スプリングの一端は、スプリングホルダを介してカバーに取り付けられ、各スプリングの他端はエンジンのシリンダに形成された穴にねじ又はボルトを用いて固定される。
【0011】
本発明のさらに他の特徴によれば、カバー内のシリンダ後方側の内部空間は、仕切り板によって区画され、区画された一方が空気の吸引用空間で、他方が空気及び排気ガスの排出用空間として用いられる。カバーは、下側に載置面となるような平面部が形成され、上側端部が鋭角状に形成される。排出用空間にはエンジンのマフラーが配置される。エンジンはシリンダが鉛直方向に配置される直立エンジンであり、仕切り板はシリンダとクランクケース接合部近傍まで伸びるように水平方向に設けられ、吸引用空間が下側に、排出用空間が上側に配置される。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、刈払機においてエンジンの全体を取り囲むように前後方向に軸線を有する筒状のカバーを設け、カバーの内部において複数の防振装置によってエンジンを保持するので、ピストンの往復運動による上下振動だけでなくトルク変動によるねじり振動に対しても良好な減振効果を有する刈払機を実現できる。
【0013】
請求項2の発明によれば、カバーの前方側は絞り込まれてメインパイプに連結され、カバーの後方側は開口されるので、エンジン全体を覆うことができて作業者にエンジンの騒音が伝わりにくい構造の刈払機を実現できる。さらに、防振装置は出力伝達軸の軸線と垂直方向に配置されるので、シリンダ及びクランクケースの側部の空間を有効に利用することができ、本体をコンパクトに構成することが可能である。また、このような配置により、刈払機の作業時の動きによるエンジンからの振動の伝達を効果的に抑制することができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、複数の防振装置は互いに一定の間隔を隔てて平行に配設されるので、エンジンのトルク変動によるねじり振動に対しても効果的に制震することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、防振装置はスプリングにより構成されるので、安価な部品を使いつつコンパクトで防振効果の高い防振構造を実現できる。
【0016】
請求項5の発明によれば、スプリングとして巻きバネが4つ用いられ、2つのスプリングがエンジンの一端側に水平に配置され、2つのスプリングがエンジンの他端側に水平に配置されるので、カバーに対してエンジンをフローティング状態で保持することができるので、エンジンからの振動が作業者に伝わることを大幅に低減することができる。
【0017】
請求項6の発明によれば、スプリングの一端は、スプリングホルダを介してカバーに取り付けられ、他端がエンジンのシリンダに形成された穴にねじ又はボルトを用いて固定されるので、スプリングホルダによってスプリングを保持する機能とカバーに固定する固定機能の2つを同時に実現することができる。
【0018】
請求項7の発明によれば、カバー内のシリンダ後方側の内部空間は、仕切り板によって吸引用空間と排出用空間に分けられるので、カバー内部の風の流れを一定方向に整流することができ効率の良い冷却効果を得ることができる。
【0019】
請求項8の発明によれば、カバーは下側に載置面となるような平面部が形成されるので、地面等に直接接地させた際に安定して保持させることができる。また、上側端部が鋭角状に形成されるので、エンジンを停止させて地面に置く際に上下の位置が必然的に決まり、常にマフラー側が上部に来るようにすることができ、良好な放熱効果を達成できる。
【0020】
請求項9の発明によれば、排出用空間にエンジンのマフラーを配置したので、エンジン冷却風の排出方向とマフラーからの排気方向を同一に設定することができ、排出及び排気効果を向上させることができる。
【0021】
請求項10の発明によれば、エンジンはシリンダが鉛直方向に配置される直立エンジンであり、仕切り板はシリンダとクランクケース接合部近傍まで伸びるように水平方向に設けられ、吸引用空間が下側に、排出用空間が上側に配置されるので、下側から冷気を吸い込んで、熱せられた空気を上側から排出するという効率の良い冷却風経路を実現できる。
【0022】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例に係る刈払機1の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施例に係る刈払機1の内部構造を示す縦断面図である。
【図3】本発明の実施例に係る刈払機1の背面図である。
【図4】本発明の実施例に係る刈払機1の上面図であって、上側カバー7を取り外した状態を示す。
【図5】図3の防振装置30の詳細構造を示す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施例に係る刈払機101の内部構造を示す縦断面図である。
【図7】本発明の第2の実施例に係る刈払機101の背面図である。
【図8】本発明の第2の実施例に係る刈払機101の床への載置状態を説明するための図である。
【図9】本発明の第3の実施例に係る刈払機201の内部構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本明細書においては、前後左右、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る刈払機1の外観を示す斜視図である。図1において、パイプ状のメインパイプ4(伝達軸)に後述する駆動軸を通し、駆動軸をメインパイプ4の一端側に設けたエンジンにて回転させることで、メインパイプ4の他端に設けた刈刃2等の先端工具を回転させる。刈刃2の近傍には、刈り払った草の飛散防止のための飛散防御カバー9が設けられる。刈払機1は図示しない肩掛け用吊りベルト等で携帯されるもので、メインパイプ4の長手中央部付近に作業者が操作するための正面視略U字状を呈するハンドル3が取り付けられる。刈払機1の回転数は、ハンドル3に取り付けられた図示しないスロットルレバーにより作業者により制御される。スロットルレバーの操作は、図示しないワイヤーにてエンジンの気化器(後述)に伝達される。
【0026】
刈払機1は、例えば2サイクルの小型のエンジン(後述)を含み、エンジン全体を覆うように設けられたカバー5によって覆われる。カバー5は筒状であって、メインパイプ4を貫通させる前方側の細径部から中央付近にかけて径が大きくなり、中央付近から後端付近にかけてやや絞り込まれるような形状である。カバー5は後端部にだけ開口部が設けられ、前後方向に筒の軸線を有する形状とされる。エンジンはカバー5の内部に浮いた状態で保持され、ここではナット34によりカバー5に固定される左右2本の防振装置(後述)によって保持される。カバー5の下側にはプラスチック等の高分子樹脂或いは金属にて製造される燃料タンク27が取り付けられる。
【0027】
図2は、本実施例に係る刈払機1の内部構造を示す縦断面図である。エンジン10は、2サイクルの小型エンジンであって、クランク軸13がメインパイプ4と同軸上に配置され、シリンダ11がクランクケース14から略垂直方向に伸びるように配置され、ピストン12が上下方向に往復移動する。シリンダ11の後方側にはマフラー16に取り付けられ、シリンダ11の右側方には気化器(図3で後述)が設けられる。クランク軸13の前方側には冷却ファン17と、冷却ファン17の前方側には遠心クラッチ18と、遠心クラッチ18の出力が伝達されるドラム19が配置される。ドラム19はエンジン10の出力部分となるものである。ドラム19はベアリング22で回転可能に固定されるジョイント21に接続され、ジョイント21の前方側にはフレキシブルシャフト20を介して伝達軸35に連結される。フレキシブルシャフト20はある程度の可撓性を有するものである。
【0028】
冷却ファンの上側には点火プラグ25に高圧電流を供給するためのイグニッションコイル23が設けられる。イグニッションコイル23で発生された高圧電流は、イグニッションコード24を介して点火プラグ25に伝達される。本実施例においてはエンジン10の前側部分に設けられる各構成部品、即ち、冷却ファン17、遠心クラッチ18、ドラム19、ジョイント21、ベアリング22、イグニッションコイル23、イグニッションコード24がケーシング8によって覆われる。ケーシング8は、前記冷却ファン17で発生した冷却風をシリンダ11に効果的に流す風路を形成することとジョイント21を保持するハウジングの役割を果たすものであり、クランクケース14及びシリンダ11の前側を覆うように取り付けられる。ケーシング8は、必要最小限の肉厚で軽量に構成することが望ましく、エンジン10のクランクケース14及びシリンダ11にねじ等によって固定される。
【0029】
エンジン10の後方側であってクランク軸13の同軸上には、スターター26が設けられる。スターター26は牽引ひもを巻回するリールをクラッチを介してエンジンのクランク軸13に連結し、この牽引ひもを引くことによってエンジンを始動するものである。本実施例においては、スターター26全体はカバー5の内部に収容され、スターター26の後端部は、開口面43よりも前側に位置する。
【0030】
エンジン10のシリンダ11の後方側にはマフラー16が設けられる。マフラー16はシリンダ11から排出される燃焼ガスが外部へ排出される際の排気音を低減するものであって、金属製で箱状に形成される。図2では図示していないがマフラー16の内部には複数の膨張室を設けたり、排気ガスの浄化のために触媒装置を設けるようにしても良い。本実施例においては、マフラー16全体はカバー5の内部に収容され、マフラー16の後端部は、開口面43よりも前側に位置する。
【0031】
カバー5は、ケーシング8及びエンジン10の組立体全体を収容するように設けられるものであって、例えばプラスチック等の合成樹脂の一体成形によって2分割して形成される。カバー5は下側カバー6と、上側カバー7によって分割面から上下方向に分割できるように構成される。上側カバー7は、下側カバー6から取り外した際にエンジン10をメインテナンスできるような形状に構成され、下側カバー6と上側カバー7は例えばネジ又はボルト等の締結部材(後述)によって固定される。
【0032】
カバー5の下側には燃料タンク27がボルト39によって固定される。燃料タンク27には、2サイクル用のガソリンとオイルの混合油が入れられ、エンジン10の気化器から伸びるホース28によって混合油が吸引される。ホース28の先端にはゴミの吸引を防ぐためにフィルタ29が設けられる。カバー5の先端部は円筒部分が形成され、円筒部分の内側にメインパイプ4が挿入される。その際、ボルト38がメインパイプ4に形成された穴に貫通することによってメインパイプ4とカバー5が固定される。
【0033】
以上説明したようにエンジン10の全体をカバー5で覆い、前述したようにエンジン構成部品を配置することにより、エンジン10を運転させた際には、カバー5の開口面43の下側半分に矢印46で示すような吸入空気の流れが発生する。吸入空気の大部分は、矢印47のように流れて冷却ファン17により吸引され、残りが図示しない気化器に流入する。冷却ファン17から排出された空気は、シリンダ11に設けられた多数の放熱フィンの周囲を流れてシリンダ11を冷却し、例えば矢印48の方向に流れて、最終的には矢印50の方向に排出される。
【0034】
矢印50の方向に流れる空気には、マフラー16から排出され矢印49のように流れる排気ガスが合流する。本実施例においては、エンジン10の後端に位置するマフラー16及びスターター26より後方側にカバー5の開口面43が位置するように構成した。この結果、エンジン10の後端部付近と開口面43の間には、下部に吸気風が流動するための第一室41が画定され、上部に排気風が流動する第二室42が構成される。さらに、第一室41と第二室42の間に仕切り板40を設けた。仕切り板40は冷却ファン17の回転による負圧によってエンジン10の内部に送り込まれる吸入風とエンジンから排出される排気風を完全に分離するためのものである。これにより仕切り板40は例えばプラスチック等の合成樹脂製の板であり、ピストン12の移動方向(上下方向)と垂直で、カバー5の開口面43からシリンダ11とクランクケース14の接合部近傍にまで伸びるように配置した。このように仕切り板40を設けることによってエンジン10を効率的に冷却できるほか、クランクケース14を効果的に冷却することが可能となり、充填効率を向上させることができる。
【0035】
図3は本発明の実施例に係る刈払機1の背面図である。背面図から理解できるように、上側カバー7と下側カバー6によって2分割に形成されるカバー5は、エンジン10の全体をすっぽり覆うような大きさの筒状に形成されて、後方側に開口面が形成される。上側カバー7と下側カバー6は、分割面において上下に分割可能なように構成され、複数のボルト37によって固定される。
【0036】
下側カバーとエンジン10は水平方向に配置した複数の防振装置30を介して固定される。防振装置30はピストン移動方向(上下方向)に対して垂直方向となるように配設するのが好ましく、一端が下側カバー6に固定され、他端が振動源であるエンジン10のシリンダ11に固定される。シリンダ11は上下方向に直立して配置されるものであって、最上部付近に点火プラグ25が設けられる。シリンダ11の後方側には排気ポート(図示せず)が設けられ、排気ポートには箱状のマフラー16が直接取り付けられる。マフラー16の一部には排気口16aが形成される。クランクケース14の後方側であって、クランク軸13と同軸上にはスターター26が設けられる。スターター26には牽引ひも26aが巻回され、索引ひも26aは下側カバー6に形成される穴を貫通して下側カバー6の外部にまで伸びる。索引ひも26aの先端にはノブ26bが取り付けられる。このように防振装置30は伝達軸35の軸線と垂直方向に配置されるので、シリンダ11側部の空間を有効に利用することができ、本体をコンパクトに構成することができる。また、振動源であるシリンダ11に直接固定されることにより、エンジンからの振動の伝達を効果的に抑制することができる。
【0037】
下側カバー6の下側には燃料タンク27がボルト39によって固定される。燃料タンク27の右側方には、ガソリンやオイルを入れるための開口が設けられ、開口はキャップ27aにて閉じられる。燃料タンク27は、残量が外部から容易にわかるように半透明性に構成すると好ましい。このように、燃料タンク27が振動源であるエンジン10と切り離されカバー5側に配置されることにより、カバー5側(即ちハンドル3側)の重量が増加し、作業者に伝達される振動を低減することが可能となる。
【0038】
スターター26が収容される空間(第一室:吸引用空間)とマフラー16が収容される空間(第二室:排出用空間)の間には仕切り板40が配置される。仕切り板40は長方形の平板であって、下側カバーの内壁に形成されたリブ6aに挟まれるようにして保持される。通常エンジン10の発熱部はシリンダ11及びマフラー16であるため、発熱部分が仕切り板40の上側に集中するように配置されていることが理解できるであろう。このように配置することにより、エンジンの運転中はもとより、エンジン10の停止時において、高温となった発熱部分の熱を効果的にカバー5外部に排出することが可能である。またこの際、カバー5の上方から空気が排出されることにより、自然対流によりカバー5の下方に空気が流入するため、効果的なエンジン10の冷却を行うことが可能となる。尚、本実施例では第一室と、第二室を上下方向に並ぶように構成したが、必ずしもこの配置だけに限られない。例えば、エンジン10のシリンダ11を左右水平方向に配置して、第一室と、第二室を左右方向に配置してもよく、そのようにした場合でも吸気風と排気風の分離を行うことができる。その場合は、カバー5の図3の位置から見た断面形状を縦方向に伸びた楕円形でなく、横方向に伸びた楕円形状にすれば良い。
【0039】
図4は本発明の実施例に係る刈払機1の上面図であって、上側カバー7を取り外した状態を示す。下側カバー6には、上側カバー7を固定するための4つのねじ穴6bが形成され、ねじ穴6b付近は左右方向に飛び出た形状とされる。また、図から理解できるように、エンジン10は4つの防振装置30にて下側カバー6に固定される。防振装置30は左右に2本ずつ設けられ、左側又は右側の1本は前後方向において、シリンダ11の中心(点火プラグ25の位置)よりも前側に配置され、左側又は右側の残りの1本はシリンダ11の中心よりも後側に配置される。左側又は右側の2本の防振装置30は、共に平行に配置される。防振装置30はナット34によって下側カバー6に固定される。
【0040】
エンジン10が始動すると、ピストン12が往復運動して上下振動が発生する。上下振動はクランクケース14に固定された防振装置30を介してカバー5へ伝達され、カバー5に取り付けられるメインパイプ4を介してハンドル3に伝達する。このとき防振装置30は上下に大きくたわむことによって、上下振動を吸収し、ハンドル3の振動を低減させることができる。さらにはカバー5によってエンジン10が覆われているためエンジンからの騒音を遮断することが可能となり、作業者の耳元に伝わる騒音を低減できる。尚、エンジン10と接続された伝達軸35は、一部がフレキシブルシャフトからなり、エンジン10の上下振動に追従して変形することにより振動が先端側に伝達されるのを遮断するため、メインパイプ4内で伝達軸35を中心に保持することが可能となる。
【0041】
図5は刈払機1の防振装置30の断面図である。防振装置30は、主にスプリング31により構成され、スプリングホルダ32とボルト35によって固定される。スプリングホルダ32はプラスチック等の合成樹脂の一体成形により製造され、その内部には予めインサートボルト33が鋳込まれる。スプリングホルダ32は、一方でナット34に対応する締め付け具(インサートボルト33)として機能し、他方でスプリング31を固定するための固定手段としての機能を果たす。
【0042】
スプリング31の一方の端部は、ボルト36でシリンダ11(エンジン側組立体)の取付穴11aに固定される。ボルト36としては、例えば座金組込み六角穴付きボルトが用いられるが、ネジやその他の固定部材でギヤケースに固定するようにしても良い。尚、ボルト36でスプリング31を直接固定できるように、スプリング31の一端は、巻線の内径がボルト36の頭部の径よりも小さくなるように巻かれた端部31aが形成される。
【0043】
スプリング31の他方の端部はスプリングホルダ32を介して下側カバー6に固定される。スプリングホルダ32の外周には、スプリング31を保持する螺旋状の溝が形成され、スプリング31の巻線がスプリングホルダ32の溝のフレーム側の端部にまで達するように、スプリングホルダ32がスプリング31の内部にねじ込まれる。スプリング31は、螺旋状に製造されたバネ材からなるものであって、圧縮バネであると好ましい。スプリング31の材質としては、公知のバネ鋼が用いることができる。
【0044】
取付穴11aには雌ねじが形成され、座金が組み込まれた六角穴付きボルト36と螺合する。スプリングホルダ32にはインサートボルト33の頭部(図示せず)及び主軸の約半分が鋳込まれ、主軸の残り半分が下側カバー6側に形成された取付穴6cを介して外部に突出し、外側からナット34を締め付けることによって、スプリングホルダ32がスプリング31に固定される。ナット34を締め付ける際には、スプリングホルダ32がナット34と一緒に回ってしまわないように、インサートボルト33の先端のマイナスネジ溝33aをマイナスドライバ等の工具で固定しながらナット34を締める必要がある。
【0045】
以上本実施例によれば、カバー5の内部に防振装置30によってエンジン10を浮いた状態で保持するので、ハンドル部に生じる上下振動を緩和できるほか、作業者に伝わる騒音を除去することが可能になる。さらにはカバー5によってエンジン10をすっぽり覆うように構成したので、エンジン10の冷却効率を向上させることができる。
【実施例2】
【0046】
次に図6〜図8を用いて本発明の第2の実施例にかかる刈払機101について説明する。なお、以下の図において、第1の実施例と同一の部分には同一の符号を付して、繰り返しの説明は省略する。図6は、本発明の第2の実施例に係る刈払機101の内部構造を示す縦断面図である。図6においてカバー105の形状と燃料タンク127の形状が第1の実施例と異なる。エンジン10は第1の実施例と全く同じ構成である。カバー105は、エンジン10の全体をすっぽり取り囲むような筒状に構成され、その軸線が前後方向(メインパイプ4と同じ方向)になるように配置され、カバー105の前方側は絞り込まれてメインパイプ4に連結される。カバー105の後方側は開口面143となる。第1の実施例では燃料タンク27(図2参照)がカバー5の外側に配置されたが、第2の実施例は燃料タンク127を下側カバー106の内側に配置するようにした。燃料タンク127の内部にホース28が伸びて、ホース28の先端にフィルタ29が設けられる点は第1の実施例と同じである。
【0047】
図7は本発明の第2の実施例に係る刈払機101の背面図である。ここで、第1の実施例に比べて下側カバー106と上側カバー107により構成されるカバー105の形状が大きく異なることに気がつくであろう。下側カバー106は内部に扁平状の燃料タンク127を収容するために、下側に水平面106bを有するように形成される。この水平面106bは、図6とあわせてみるとわかるように略四角形状の所定の面積を持つように構成される。燃料タンク127はこの水平面106bの内壁側に図示しないねじ等によって固定される。
【0048】
下側カバー106の後方から見た形状は、仕切り板40から下部に行くに従って幅が広がるように構成され、仕切り板40が設けられる付近の幅d1が、燃料タンク127が位置する金の幅d2に比べて、d1<d2の関係となるように構成される。このように構成することによって、燃料タンク27をカバー105の内側に配置しつつ燃料タンク127の容量を大きく確保することができる。また、下側カバー106の形状は、刈払機101を地面等に直接接地させた場合に燃料タンク27をカバー105により保護することができるので、カバー105がタンクガードを兼ねる構成となる。さらに、カバー105の外側にはボルト等が位置するだけであって、その他の付加物がないので、見た目がすっきりとしているだけでなく、作業時に体に当たる突起物がほとんどないので使いやすい刈払機を実現できる。
【0049】
カバー105は分割面において上下に分割可能に形成され、上側カバー107は下側カバー106とは別体部品で構成される。上側カバー107は下側カバー106とボルト139にて固定される。第2の実施例においてもエンジン10は、4つの防振装置30によって保持される。防振装置30が設けられる位置(シリンダ11と下側カバー106との間)については、第1の実施例と同じである。尚、上側カバー107の最上部107aは、鋭角状に尖った形に形成される。上側カバー107の最上部107aを鋭角状とすることで、エンジン10を停止させて地面に置く際に上下の位置が必然的に決まり、作業者が刈払機101を地面などに逆さまに置くことを防止でき、常にマフラー16側が上部に位置するように置かれることを誘導できるため、自然対流による放熱を確実に行うことができる
【0050】
この状態を説明するのが図8である。図8(1)は刈払機101を地面などの載置面に成立させた状態を示す図であり、(2)は倒立させようとする状態を示す図である。図8(1)にて理解できるように、下側カバー106は載置面と接する部分が平面状の水平面106bで形成されており、安定して刈払機101を載置することが可能となる。しかしながら、上側カバー107の最上部107aは鋭角状に形成しており、作業者が刈払機101を逆さまに置くことができないように構成した。このため、刈払機101を倒立して置こうとすると、図8(2)のように安定しないので置くことができない。このように第2の実施例では下側カバー106と上側カバー107の形状を工夫することにより正立状態で置きやすく構成すると共に、倒立状態では置くことができないように構成した。この結果、作業者が倒立状態で刈払機101を置いてしまうことによる再始動性の困難等のトラブルを回避することができる。
【0051】
尚、上側カバー107は上端が鋭角状になるように、図7のように背面から見たときに略三角状になるように構成されるが、そうすると内部に収容する機器、例えば気化器15を収容することが困難になる。そこで上側カバー107には右側に半球状に突出する突出部107bを形成するようにした。
【実施例3】
【0052】
次に図9を用いて本発明の第3の実施例を説明する。図9は第3の実施例に係る刈払機201の内部構造を示す縦断面図である。第1及び第2で説明した実施例の刈払機1、101では、エンジン10の全体がカバー5、106によって覆われるため、すっきりとした外観の刈払機を実現できた。しかしながら、エンジン10を覆ってしまうと、作業後にエンジン10を停止させた際の放熱性に悪影響を及ぼす恐れがある。そこで、第3の実施例においては、上側カバー207の上側後端付近207cを上側に曲げることによって、エンジン10やマフラー16からの熱を発散させ易い形状とした。このような形状とすることにより煙突効果が期待でき、排気ガスの流れを矢印250のようにするとともに、マフラー16からの自然放熱による熱を矢印250a〜250dのように効果的に発散させることができる。
【0053】
以上のように、第3の実施例では筒状のカバー205の開口面243の上端付近の形状を変えることによって、カバー205の出口側の開口面積を増大させることができ、エンジン停止時にエンジン10やマフラー16の自然放熱がしやすい刈払機を実現できた。
【0054】
以上、本発明を複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 刈払機 2 刈刃 3 ハンドル
4 メインパイプ 5 カバー 6 下側カバー
6a リブ 6b ねじ穴 6c 取付穴
7 上側カバー 8 ケーシング 9 飛散防御カバー
10 エンジン 11 シリンダ 11a 取付穴
12 ピストン 13 クランク軸 14 クランクケース
14a 取付穴 15 気化器 16 マフラー
16a 排気口 17 冷却ファン 18 遠心クラッチ
19 ドラム 20 フレキシブルシャフト
21 ジョイント 22 ベアリング
23 イグニッションコイル 24 イグニッションコード
25 点火プラグ 26 スターター 26a 索引ひも
26b ノブ 27 燃料タンク 27a キャップ
28 ホース 29 フィルタ
30 防振装置 31 スプリング 31a 端部
32 スプリングホルダ 33 インサートボルト 33a マイナスネジ溝
34 ナット 35 伝達軸
36、37、38、39 ボルト 40 仕切り板
41 第一室 42 第二室
43 開口面 101 刈払機 105 カバー
106 下側カバー 106b 水平面 107 上側カバー
107a 最上部 107b 突出部 127 燃料タンク
139 ボルト 143 開口面 201 刈払機
205 カバー 206 下側カバー 207 上側カバー
207c 上側後端付近 243 開口面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンの出力を伝達して先端に工具が取り付けられる出力伝達軸と、
前記出力伝達軸が挿通されるメインパイプと、
前記メインパイプの中間位置に設けられる手持ち用のハンドルを有する刈払機であって、
前記エンジンの全体を取り囲むように前後方向に軸線を有する筒状のカバーを設け、
前記エンジンは前記カバーの内部において複数の防振装置によって保持されることを特徴とする刈払機。
【請求項2】
前記カバーの前方側は絞り込まれて前記メインパイプに連結され、前記カバーの後方側は開口され、
前記防振装置は、前記出力伝達軸の軸線と垂直方向に配置されることを特徴とする請求項1に記載の刈払機。
【請求項3】
前記複数の防振装置は互いに一定の間隔を隔てて平行に配設されることを特徴とする請求項2に記載の刈払機。
【請求項4】
前記防振装置は、スプリングであることを特徴とする請求項2又は3に記載の刈払機。
【請求項5】
前記スプリングの一端は前記エンジンのシリンダとクランクケースの接合部付近に固定され、他端は前記カバーに固定されるものであって、
前記スプリングとして巻きバネが4つ用いられ、2つの前記スプリングが前記エンジンの一端側に水平に配置され、2つの前記スプリングが前記エンジンの他端側に水平に配置されることを特徴とする請求項4に記載の刈払機。
【請求項6】
前記スプリングの一端は、スプリングホルダを介して前記カバーに取り付けられ、
前記スプリングの他端は、前記エンジンのシリンダに形成された穴にねじ又はボルトを用いて固定されることを特徴とする請求項5に記載の刈払機。
【請求項7】
前記カバー内の前記シリンダ後方側の内部空間は、仕切り板によって区画され、
区画された一方が空気の吸引用空間で、他方が空気及び排気ガスの排出用空間として用いられることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の刈払機。
【請求項8】
前記カバーは、下側に載置面となるような平面部が形成され、上側端部が鋭角状に形成されることを特徴とする請求項7に記載の刈払機。
【請求項9】
前記排出用空間に前記エンジンのマフラーを配置したことを特徴とする請求項8に記載の刈払機。
【請求項10】
前記エンジンは前記シリンダが鉛直方向に配置される直立エンジンであり、前記仕切り板は前記シリンダと前記クランクケース接合部近傍まで伸びるように水平方向に設けられ、
前記吸引用空間が下側に、前記排出用空間が上側に配置されることを特徴とする請求項9に記載の刈払機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−21979(P2013−21979A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160363(P2011−160363)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】