説明

列車制御システム、車上装置および地上装置

【課題】無線通信異常が発生しても安全かつ効率よく列車制御を行う列車制御システム、車上装置及び地上装置を提供する。
【解決手段】列車制御システムは、列車に搭載した車上装置20と地上に設置した地上装置10とが無線通信する。前記車上装置は位置検出手段41と停止可能位置算出手段43と車上電文送信手段と地上電文受信手段と列車制御手段とを有し、前記地上装置は車上電文受信手段と列車在線情報作成手段51とルート構成情報作成手段52と停止限界情報作成手段53と地上電文送信手段とを有する。前記車上装置の前記列車制御手段は、前記地上装置との無線通信が正常である場合、前記地上電文受信手段で受信した停止限界位置に基づき前記列車を制御し、前記地上装置との無線通信に異常が発生した場合、前記地上電文受信手段で受信した前記受信確認情報により前記地上装置が正常に受信したことを確認できた停止可能位置までの範囲に列車を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無線通信を用いて鉄道の列車制御を行う列車制御システム、車上装置および地上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信技術を利用した列車制御システムの開発が進められている。無線通信を用いた列車制御システムでは、たとえば、列車に搭載した車上装置が走行路上における列車位置を検出し、検出した列車位置を無線装置を介して地上装置へ伝送する。地上装置は、走行路上を走行するすべての列車の位置と走行路の状態とを把握し、それぞれの列車が安全に走行可能な停止限界位置を算出し、算出した停止限界位置を示す停止限界情報を無線装置を介して各列車へ送信する。車上装置は、地上装置から受信した停止限界情報に基づいて列車を安全に停止させることが出来る速度照査パターンを算出し、列車がこの速度照査パターンを超過した場合は自動的にブレーキ制御を行って列車を停止させる。
【0003】
このような無線通信を用いた列車制御システムでは、車上装置との間で無線通信が途絶した場合、地上装置は、列車の位置を正確に把握できなくなる。このため、通信途絶により車上装置から列車の位置情報が取得できなくなった場合、地上装置は、他の列車に対して確実に安全な制御を行うため、広い範囲に列車が在線することを仮定して制御を行う必要がある。たとえば、通信途絶により車上装置から列車の位置情報が受信できなくなった場合、従来の地上装置は、通信途絶した列車について当該列車の異常発生直前の列車尾端位置から異常発生直前に当該列車に与えていた停止限界位置までの間を当該列車の在線範囲として制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−15517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、無線通信が所定の時間以上途絶した場合でも、安全かつ効率よく列車制御が行える列車制御システム、車上装置および地上装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、列車制御システムは、列車に搭載した車上装置と地上に設置した地上装置とが無線通信を行う。前記車上装置は、位置検出手段と、停止可能位置算出手段と、車上電文送信手段と地上電文受信手段と、列車制御手段とを有し、前記地上装置は、車上電文受信手段と、ルート構成情報作成手段と、列車在線情報作成手段と、停止限界情報作成手段と、地上電文送信手段とを有する。前記位置検出手段は、前記列車の位置を検出する。前記停止可能位置算出手段は、前記列車の停止可能位置を算出する。前記車上電文送信手段は、前記位置検出手段により検出した列車位置と前記停止可能位置算出手段により算出した停止可能位置とを含む車上電文を前記地上装置へ送信する。前記車上電文受信手段は、前記車上装置からの車上電文を受信する。前記ルート構成情報作成手段は、前記列車が走行する走行路上で構成されているルートを示すルート構成情報を取得する。前記列車在線情報作成手段は、前記ルート構成情報と前記車上電文受信手段が受信した前記車上電文に含まれる列車位置とから前記車上装置を搭載する前記列車が走行する走行路上に存在する各列車の在線位置を示す列車在線情報を作成する。前記停止限界情報作成手段は、前記列車在線情報と前記ルート構成情報と前記列車の位置情報とから前記列車に対する停止限界位置を示す停止限界情報を作成する。前記地上電文送信手段は、前記車上電文受信手段により正常に受信できた停止可能位置を示す受信確認情報と前記停止限界情報とを含む地上電文を送信する。前記地上電文受信手段は、前記停止限界情報と受信確認情報とを含む地上電文を受信する。前記列車制御手段は、前記地上装置との無線通信が正常である場合、前記地上電文受信手段で受信した停止限界位置に基づいて前記列車を制御し、前記地上装置との無線通信が所定の時間以上途絶した場合または前記受信確認情報が所定の時間以上更新されない場合、これを通信途絶異常の発生と判断して前記地上電文受信手段で受信した前記受信確認情報により前記地上装置が正常に受信したことを確認できた停止可能位置までの範囲に前記列車を停止させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、列車制御システムにおける地上側システムの構成例を概略的に示す図である。
【図2】図2は、地上装置および車上装置が具備する機能を説明するための図である。
【図3】図3は、停止可能位置および停止限界位置の例を示す図である。
【図4】図4は、車上電文と地上電文とが正常に送受信される場合の通信手順を示す図である。
【図5】図5は、車上装置から地上装置への伝送にエラーが発生した場合(地上装置が車上電文を正常に受信できない場合)の通信手順を示す図である。
【図6】図6は、地上装置から車上装置への伝送にエラーが発生した場合(車上装置が地上電文を正常に受信できない場合)の通信手順を示す図である。
【図7】図7は、車上装置における第1の処理例を説明するためのフローチャートである。
【図8】図8は、車上装置における第2の処理例を説明するためのフローチャートである。
【図9】図9は、地上装置における処理例を説明するためのフローチャートである。
【図10】図10(a)、(b)及び(c)は、地上装置が把握できる列車位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態に係る列車制御システムの構成例を概略的に示す図である。
図1に示すように、列車制御システムは、走行路1上を走行する列車2を制御する。列車制御システムは、図1に示すように、地上に設置した地上側システム(地上システム)と列車2に搭載した車上側システム(車上システム)とが無線通信により情報を送受信することにより列車2の走行を制御する。
【0009】
地上側システムは、地上に設置される機器で構成される。図1に示す構成例では、地上側システムは、地上装置10と複数の地上無線装置11とを含む。また、走行路1上の各所に設置され、列車2へ情報を提供する地上子12も地上側システムと考えても良い。地上装置10は、制御対象とする列車2が走行する走行路1の全域において通信が可能となるように走行路1の沿線にそって設置された複数の地上無線装置11に接続される。地上装置10は、各地上無線装置11を介して走行路1を走行中の列車2と継続的に無線通信を行う。地上装置10は、運行スケジュール、各列車の在線状況、および走行路の状態などに基づいて各列車の走行を制御する。
【0010】
地上装置10は、制御部、メモリおよび各種インターフェースを有する電子計算機などで構成できる。地上装置10では、制御部がメモリに記憶したプログラムを実行することにより各種の処理を実現している。たとえば、地上装置10では、制御部がプログラムを実行することにより各列車の走行を制御するための制御情報を算出する。また、地上装置10は、各車上装置20から受信した情報をメモリに記憶する。また、地上装置10には、運行スケジュール、各列車の在線状況、および走行路の状態などに関する情報を記憶する地上データベース10aを有する。
【0011】
なお、地上側システムは、列車が走行する走行路1の全域が通信範囲となるように構成すれば良く、図1に示す構成に限定されるものではない。たとえば、地上側システムは、複数の地上装置を有しても良い。さらに、地上側システムは、複数の地上装置間をネットワークで接続し、当該ネットワークに統括的な制御を行う指令所装置を接続する構成としても良い。この場合、統括的な制御を行うための情報(運行スケジュール、各列車の在線状況、および走行路の状態などに関する情報)は、指令所装置が保存および管理するようにしても良い。
【0012】
車上側システムは、各列車に搭載される各種の機器で構成される。図1に示す構成例では、車上側システムは、車上装置20、車上無線装置21、速度発電機22および車上子23を有する。車上装置20は、車上無線装置21、速度発電機22および車上子23に接続される。車上装置20は、列車が走行している間、車上無線装置21を介して地上装置10と継続的に無線通信を行う。
【0013】
車上装置20は、制御部、メモリおよび各種インターフェースを有する電子計算機などで構成する。車上装置20では、制御部がメモリに記憶したプログラムを実行することにより各種の処理を実現できる。たとえば、地上装置10では、制御部がプログラムを実行することにより、列車2の位置を検出して列車位置情報を地上装置10へ通知する機能、および地上装置10から与えられる制御情報に基づいて当該列車2の走行を制御する機能を実現している。また、車上装置20では、地上装置10から受信した情報などをメモリに記憶する。
【0014】
また、車上装置20は、当該列車に関する情報、地上子に関する情報、走行路に関する情報などの情報を記憶する車上データベース20aを有する。たとえば、地上子に関する情報としては、各地上子12が送信する地上子IDと各地上子12が設置された走行路1上の位置情報とを対応させたテーブルを車上データベース20aに記憶する。また、走行路に関する情報としては、走行路の条件を示す走行路条件情報として、走行抵抗、曲線抵抗および勾配抵抗を算出するための情報(例えば、走行路の勾配データおよび曲線データ)、あるいは制限速度の情報などの情報を車上データベース20aに記憶する。
【0015】
速度発電機22は、当該列車の車輪の回転速度に関する情報を検出する。速度発電機22は、検出した情報を車上装置20へ出力する。車上装置20の制御部は、速度発電機22が検出した車輪の回転速度と当該車輪の車輪径から列車の速度を検出する機能を有する。車上子23は、地上子12から送信される地上子IDを受信する。車上子23は、地上子12から受信した地上子IDを車上装置20へ出力する。車上装置20の制御部は、地上子IDと各地上子の設置位置を示す情報とから当該列車の位置を検出する機能を有する。また、車上装置20の制御部は、受信した地上子IDの地上子の位置情報と列車速度の積算情報とにより各地上子間における位置を検出する機能も有する。
【0016】
次に、地上装置10および車上装置20が有する各種の処理機能について説明する。
【0017】
図2は、地上装置10および車上装置20が具備する機能を説明するための図である。
【0018】
図2に示すように、車上装置20は、処理機能として、列車位置検出手段41、列車速度検出手段42、停止可能位置算出手段43、速度照査パターン作成手段44、速度照査制御手段45、および伝送制御手段46を有する。これらの機能は、車上装置20の制御部(プロセッサ)がプログラムを実行することにより実現される機能である。
【0019】
車上装置20の列車位置検出手段41は、車上子が地上子から受信する地上子IDに基づいて位置を検出する機能である。すなわち、車上子23が列車2の走行中に地上子12から送信された地上子IDを受信した場合、車上装置20の制御部は、受信した地上子IDの地上子が設置された走行路1上の位置を車上データベース20aから判定し、地上子IDを受信した時点における走行路1上の当該列車の位置を特定する。
【0020】
車上装置20の列車速度検出手段42は、速度発電機22が検出する当該列車の車輪の回転速度に関する情報と当該車輪の車輪径とから列車の速度を検出する機能を有する。
【0021】
さらに、車上装置20の制御部は、列車位置検出手段41として、上述した列車速度を積算することにより当該列車2の移動距離を算出し、算出した移動距離に基づいて各地上子間における列車位置を検出しても良い。これにより、車上装置20の列車位置検出手段41は、各地上子12間を走行している間であっても、連続的(継続的)に列車の位置を検出できる。
【0022】
なお、本実施の形態においては、列車位置検出手段41は、列車位置を地上子12から送信される地上子IDで走行路1上の位置を特定し、地上子12同士の間では列車速度を積算することで列車位置を算出するものとして説明する。ただし、列車位置検出手段41は、車上装置20が列車の位置を連続的に検出できるものであれば良く、その検出方法あるいは構成などは、上述したものに限定されるものでない。また、列車速度検出手段42についても、上述したものに限定されるものではなく、車上装置20が列車の速度を連続的に検出できるものであれば良い。
【0023】
車上装置20の停止可能位置算出手段43は、車上装置20で現在時刻から所定の時間内に異常を検出した場合に、確実に列車を停止させることが可能な停止可能位置を算出する機能である。停止可能位置は、列車位置、列車速度に関する情報(現在速度および加速度など)、および車上データベース20aに記憶する走行路の条件を示す情報などに基づいて算出される。停止可能位置の算出方法については、後で詳細に説明するものとする。
【0024】
車上装置20の速度照査パターン作成手段44は、地上装置10から受信した停止限界情報と車上データベース20aに記憶した走行路条件情報とに基づいて、列車2を安全に停止させるための速度照査パターン(ブレーキ曲線とも称する)を作成する機能である。車上装置20の速度照査パターン作成手段44は、受信した停止限界情報で示される停止限界位置(単に、停止限界とも称する)から安全性を確保するための余裕分だけ手前側の位置を基点とし、この基点の位置と基点位置における速度(=0km/h)とから、所定のブレーキ減速度を用いて走行路条件(走行抵抗、曲線抵抗、勾配抵抗)を加味して、少なくとも列車の現在位置まで逆引きで速度照査パターン(ブレーキ曲線)を作成する。また、車上装置20の速度照査パターン作成手段44は、車上データベース20aに記録される走行路上における速度制限の情報も考慮してブレーキ曲線を作成する。なお、車上装置20の速度照査パターン作成手段44が作成する「停止限界に基づく速度照査パターン」は、「位置」と「速度」とを表す情報を組としたデータのセットで得られる情報であり、走行路上の位置(キロ程)に対する列車の許容速度を示すものである。
【0025】
車上装置20の速度照査制御手段45は、速度照査パターン作成手段44が作成した速度照査パターンと、現在の列車速度および列車位置とに基づいて当該列車の走行を制御する機能である。たとえば、車上装置20の速度照査制御手段45は、列車速度および列車位置が上述した停止限界に基づく速度照査パターンを超過した場合、上述した停止限界情報に基づく速度照査パターンに追従するように自動的にブレーキを出力して、当該列車2を停止限界の位置に至る前に停止させる制御を行う。
【0026】
車上装置20の車上伝送制御手段46は、連続的に検出する列車位置および停止可能位置を含む情報を車上電文(列車情報)として、車上無線装置21および地上無線装置11を介して地上装置10へ送信する機能である。また、車上装置20の車上伝送制御手段46は、地上装置10から伝送される地上電文を車上無線装置21および地上無線装置11を介して受信する機能でもある。すなわち、車上装置20の車上伝送制御手段46は、車上電文送信手段および地上電文受信手段として機能する。
【0027】
また、地上装置10は、図2に示すように、処理機能として、列車在線情報作成手段51、ルート構成情報作成手段52、停止限界情報作成手段53、受信確認情報作成手段54、および地上伝送制御手段55を有する。これらの機能は、地上装置10の制御部(プロセッサ)がメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現される機能であっても良い。
【0028】
地上装置10のルート構成情報作成手段52は、列車在線情報と走行路情報とにより当該列車2を安全に走行させることの出来るルート構成情報を生成する機能である。なお、地上装置10では、走行路1上に設けた転てつ装置の状態などから実際に列車が走行するルートの分岐あるいは合流の状態を示す走行路情報をメモリに記憶する。これらの情報は、連動装置など他装置から取得する形態であっても良い。地上装置10の列車在線情報作成手段51は、ルート構成情報作成手段52が作成するルート構成情報と地上無線装置11を介して各列車の車上装置20から取得する列車位置に基づいて当該走行路1上を走行する各列車の位置を把握し、走行路1上における各列車の位置を示す列車在線情報を作成する機能である。
【0029】
地上装置10の停止限界情報作成手段53は、列車在線情報、ルート構成情報および列車位置に基づいて、それぞれの列車が安全に走行可能な停止限界を示す停止限界情報を作成する機能である。
地上装置10の受信確認情報作成手段54は、車上装置20からの列車情報を受信したことを確認するための情報を作成する機能である。受信確認情報作成手段54は、正常に受信できた最新(最後)の車上電文(あるいは停止可能位置)を示す情報を受信確認情報として作成する。
【0030】
地上装置10の地上伝送制御手段55は、停止限界情報などの制御情報および受信確認情報を含む情報を地上電文(地上情報)として地上無線装置11および車上無線装置21を介して車上装置20へ送信する機能である。また、地上装置10の地上伝送制御手段55は、地上無線装置11および車上無線装置21を介して車上装置20からの列車位置及び停止可能位置を含む車上電文(列車情報)を受信する機能でもある。すなわち、地上装置10の地上伝送制御手段55は、車上電文受信手段および地上電文送信手段として機能する。
【0031】
次に、停止可能位置について詳細に説明する。
図3は、停止可能位置および停止限界位置の例を示す図である。
車上装置20は、停止可能位置算出手段43により図3に示すような停止可能位置を算出する。停止可能位置算出手段43は、図3に示すように、現在時刻から所定の予測時間Tdet内に列車が到達可能な速度および位置を、現在時刻から列車を予測時間Tdet分だけ加速させた場合における列車速度および列車位置とし、ここから列車を減速させて停止させることができる位置を停止可能位置として算出する。なお、上記の所定の予測時間Tdetは、車上装置20によって無線通信の途絶などの異常を検出するために必要な時間などに基づいて定めるものとする。
【0032】
停止可能位置算出手段43は、所定の予測時間Tdet[秒]と、現在の列車速度V0[km/h]と、勾配が無い場合の列車の最大加速度A0MAX[km/h/s]と、走行路の勾配データと、走行路の曲線データとに基づいて、列車の現在位置X0[m]および現在速度V0[km/h]から、列車抵抗(走行抵抗Fr[N]、勾配抵抗Fg[N]、曲線抵抗Fc[N])による影響を考慮した最大加速度AMAX[km/h/s]で、所定の時間Tdet[秒]の分だけ列車を加速させた場合の列車予測位置X1[m]および列車予測速度V1[km/h]を算出する。
【0033】
なお、勾配データは、走行路において、現在の列車位置から列車の進行方向に向かう方向における走行路の勾配を示すデータであり、曲線データは、走行路において、現在の列車位置から列車の進行方向に向かう方向における走行路のカーブの度合い(曲線)を示すデータである。走行路における勾配データおよび曲線データは、車上データベース20aに予め記憶される情報であるものとする。この場合、停止可能位置算出手段43は、現在の列車位置を基準とする勾配データおよび曲線データを、適宜、車上データベース20aから取得する。
【0034】
停止可能位置算出手段43は、たとえば、列車予測位置X1および列車予測速度V1を、以下の式(1)、(2)により計算する。なお、後述する式(2)の右辺第2項の符号は、列車が下り方向(キロ程が大きくなる方向)に進む場合にプラス、上り方向(キロ程が小さくなる方向)に進む場合にマイナスとするものとする。
【0035】
V1=V0+AMAX×Tdet…(1)
X1=X0±{(V0/3.6)×Tdet+(1/2)×(AMAX/3.6)×Tdet×Tdet}…(2) 。
【0036】
また、列車抵抗による影響を考慮した最大加速度は、列車の質量W[ton]、列車の回転体の回転などに要する慣性係数kとして、以下の式(3)により算出する。後述の式(3)中における勾配抵抗Fg[N]の符号は下り勾配でマイナス、上り勾配でプラスとするものとする。
【0037】
AMAX=A0MAX-(Fr+Fg+Fc)×3.6/{W×1000×(1+k)}…(3) 。
【0038】
なお、一般的に走行抵抗Fr[N]は、列車編成毎に測定されて列車速度の二次式として表され、勾配抵抗Fg[N]、曲線抵抗Fc[N]は、勾配g[‰]、曲率半径r[m]を用いて、以下の式(4)、(5)のように表される。
【0039】
Fg=W×9.8×g…(4)
Fc=(W×9.8)×800/r…(5) 。
【0040】
次に、列車予測位置X1、列車予測速度V1から、所定のブレーキ減速度B0MAX[km/h/s]と列車抵抗(走行抵抗Fr[N]、勾配抵抗Fg[N]、曲線抵抗Fc[N])で減速した場合の列車の停止予測位置X2を求める。
列車抵抗を考慮した場合の列車の減速度をBMAX[km/h/s]は、以下の式(6)で求められる。
BMAX=B0MAX+(Fr+Fg+Fc)×3.6/{W×1000×(1+k)}…(6)
算出した列車の減速度BMAXを用いて、列車の停止予測位置X2を求める。なお、以下の式(7)中の右辺第2項の符号は、列車が下り方向(キロ程が大きくなる方向)に進む場合にプラス、上り方向(キロ程が小さくなる方向)に進む場合にマイナスとする。
【0041】
X2=X1±(V2×V2)/(7.2×BMAX)…(7) 。
【0042】
なお、式(1)〜(7)においては、列車の最大加速度A0MAX、ブレーキ減速度B0MAX、勾配抵抗、曲線抵抗、走行抵抗を一定のごとくに記しているが、実際には勾配、曲線や列車速度が変化する毎に、これらの条件を変化させながら計算を行う。
【0043】
このようにして得られた列車の停止予測位置X2に、必要に応じて更に実際のブレーキ減速度に生じるばらつきなどによって生じる位置誤差dXを加えることで、停止可能位置Xstopを算出する。なお、以下の式(8)中のdXは、システムの安全性に鑑みて総合的に決定されるべき位置誤差であり、右辺第二項の符号は、列車が下り方向(キロ程が大きくなる方向)に進む場合にプラス、上り方向(キロ程が小さくなる方向)に進む場合にマイナスとする。
【0044】
Xstop=X2±dX…(8) 。
【0045】
なお、上述の説明では、説明を簡単化するため、速度制限の条件の考慮について記載していない。しかしながら、停止可能位置算出手段43は、車上データベース20aから列車前方の速度制限などの情報を取得し、その速度制限を考慮した加速曲線および減速曲線を作成して、停止可能位置を算出する。このような速度制限を考慮した列車の走行曲線の作成方法については、例えば特開平4−257767などに示されているような公知の技術を利用することができる。
【0046】
上述の説明では、現在列車速度V0から最大加速度AMAXで加速後に所定の列車減速度BMAXで減速するものとして停止可能位置を算出する例について説明したが、停止可能位置算出手段43は、現時点での列車加速度を使用することなどにより、算出する停止可能位置の精度を高めるようにしても良い。
【0047】
また、停止可能位置算出手段43は、列車の停止可能位置を求めるに当たり、影響が小さいと判断できる場合には、処理負荷を低減するため、走行路の条件によっては勾配、曲線の影響などを無視したり、これらの値として路線や区間の代表値などを用いても良い。また、停止可能位置算出手段43は、列車の加速度、および減速度などを一定と考えて停止可能位置を算出してもよい。
【0048】
さらに、停止可能位置算出手段43は、現在の列車位置X0から停止可能位置までの距離を、現在列車速度V0に対する関数式またはテーブルデータとして持たせるようにしても良い。
停止可能位置算出手段43は、上述した算出方法で停止可能位置を算出するものに限定されるものではなく、車上装置20で無線通信途絶などの異常の発生を検出した場合に確実に列車を停止させることが可能な停止可能位置を算出することが可能であれば、どのような算出方法を用いて停止可能位置を算出しても良い。
【0049】
次に、車上装置20と地上装置10との通信手順について説明する。
上述したように、車上装置20の車上伝送制御手段46は、停止可能位置算出手段43により作成した停止可能位置を列車位置検出手段41により検出した列車位置などの情報とともに、車上電文として地上装置10へ送信する。車上伝送制御手段46は、車上電文に当該車上電文を作成したタイミングを示す車上電文IDも含める。車上電文IDは、たとえば、連続的に作成する車上電文に対するシリアル番号や車上装置が管理する時刻情報を用いることができる。
【0050】
地上装置10は、車上電文を受信した場合、車上電文IDにより受信した車上電文が車上装置から送信された順序や車上電文の更新時間間隔などを判別することができる。地上装置10が受信した車上電文に含まれる列車位置および停止可能位置などの情報を取得できた場合、地上装置10の受信確認情報作成手段54は、当該車上電文を受信したことを示す受信確認情報を作成する。地上装置10の地上伝送制御手段55は、受信確認情報作成手段54により作成した受信確認情報を、停止限界情報作成手段53により作成した停止限界情報などの情報と共に、地上電文として車上装置20へ送信する。
【0051】
たとえば、地上装置10は、車上電文を正常に受信できた場合、正常に受信できた車上電文に格納された車上電文IDを受信確認情報として地上電文に付加して送信する。また、地上装置10が車上装置20からの車上電文を正常に受信できなかった場合(車上電文を所定の時間間隔内に受信できなかった場合、車上電文は受信できたが格納されている列車位置あるいは停止可能位置のデータにエラーが生じている場合、あるいは、受信した車上電文のデータの整合性あるいは合理性に問題がある場合)、地上装置10は、正常に受信できた最後の車上電文に格納された車上電文IDを受信確認情報として地上電文に付加して送信する。
【0052】
地上装置10は、所定の時間間隔で地上電文を周期的(連続的)に出力する。所定周期で地上電文を出力するため、地上装置10は、正常な車上電文が連続的に受信できていない場合であっても、正常に受信できた車上電文のうち最も新しく受信した車上電文を示す受信確認情報を含む地上電文を作成する。つまり、地上装置10は、最も新しく受信した車上電文に含まれる車上電文IDを受信確認情報として作成し、地上電文に付加する。従って、地上装置10が出力する地上電文には、最も新しく正常受信した車上電文の車上電文IDを示す受信確認情報と最も新しく正常受信した車上電文に含まれる列車位置を用いて算出した停止限界情報とが含まれる。
【0053】
一方、車上装置20は、所定の時間間隔で周期的(連続的)に、車上電文を作成して出力する。また、速度照査パターン作成手段44は、地上装置10での正常受信が確認された停止可能位置に基づく速度照査パターン(第1の速度照査パターン)と、地上装置から得られた停止限界位置情報に基づく速度照査パターン(第2の速度照査パターン)を所定の周期で作成する。すなわち、速度照査パターン作成手段では、地上装置10での正常受信が確認された停止可能位置と地上装置10から通知される停止限界情報とに基づいて、2つの速度照査パターンを作成する。なお、停止可能位置が停止限界位置より内方(列車の進行方向側)に存在する場合、速度照査パターン作成手段は、停止可能位置として停止限界位置を用いて第1の速度照査パターンを作成する。すなわち、地上装置での正常受信が確認された停止可能位置に基づく速度照査パターン(第1の速度照査パターン)は、必ず停止限界情報に基づく速度照査パターン(第2の速度照査パターン)より列車の進行方向に対して手前側となる外方側に作成されるようにする。
【0054】
車上装置20は、正常に受信できた地上電文に含まれる受信確認情報により地上装置10が正常受信した車上電文(停止可能位置)を確認する。ただし、車上装置20は、通信エラーなどにより地上電文が正常受信できないこともありうるが、継続的な列車制御のため所定間隔で速度照査パターンを作成する必要がある。このため、車上装置20の速度照査パターン作成手段は、最新の地上電文に含まれる停止限界位置に基づく速度照査パターンを作成するとともに、最新の地上電文に含まれる受信確認情報で地上装置10による正常受信が確認できた停止可能位置に基づく速度照査パターンを作成する。
【0055】
車上装置20の速度照査制御手段45は、列車位置および列車速度が停止可能位置に基づく速度照査パターン(第1の速度照査パターン)あるいは停止限界位置に基づく速度照査パターン(第2の速度照査パターン)に適合するように列車を制御する。たとえば、車上装置20の速度照査制御手段45は、列車速度および列車位置が制御目標とする第1または第2の速度照査パターンを超過した場合、超過した速度照査パターンに追従するように自動的にブレーキを出力し、列車が停止限界の位置に至る前に列車を停止させる。
【0056】
上記のように構成することにより、予め定めた所定の予測時間Tdet内に、車上装置20及び地上装置10間に何らかの通信異常が発生して通信が途絶した場合であっても、車上装置20は、地上装置10が作成する停止限界位置の外方側の、車上装置20で作成した停止可能位置に基づく速度照査パターン(第1の速度照査パターン)の外方側に、確実に列車を停止させることができる。
【0057】
次に、地上装置10と車上装置20との無線通信による列車制御の概要について説明する。
図4は、車上電文と地上電文とが正常に送受信される場合の通信手順を示している。
図4に示すように、車上装置20は、所定の周期で列車位置および列車速度を検出し、検出した列車位置及び速度に基づいて停止可能位置を算出する。次に、車上装置20は、車上電文ID(k)と列車位置(k)と停止可能位置(k)とを含む車上電文(k)を作成し、作成した車上電文(k)を所定の間隔で車上無線装置21から地上装置10へ送信する。車上電文ID(k)には、たとえば、出力する車上電文に対して順に発番するシリアル番号や車上装置が管理する時刻情報など車上電文を作成した時機を特定できる情報を用いる。
【0058】
地上装置10は、車上装置20からの車上電文を所定周期で逐次受信するとともに、所定の間隔で地上電文を出力できるように、走行路上のルート構成状態と走行路上における各列車の在線位置とを検出し、車上電文の送信元となる列車の停止限界位置を算出する。たとえば、地上装置10は、走行路上のルート構成状態と、走行路上の各列車から受信した車上電文(k)から取得した列車位置(列車の現在位置)(k)などの情報から全列車の在線位置を特定して各列車に対する停止限界位置(n)を算出する。また、地上装置10は、車上電文(k)を正常に受信できたことを車上装置20へ通知するための受信確認情報を作成する。受信確認情報は、例えば正常に受信できた最新の車上電文(停止限界を算出するのに用いた列車位置情報を含む車上電文)(k)に含まれる車上電文ID(k)および停止可能位置(k)を用いる。
【0059】
なお、ここでは受信確認情報として車上電文IDと停止可能位置の情報を両方用いる例を示したが、無線通信量を低減するため、停止可能位置のみ、または車上電文IDのみを送信するようにしても良い。地上装置からの受信確認情報として停止可能位置のみが送信される場合は、車上装置はその停止可能位置の情報をそのまま用いることができる。また、受信確認情報として車上電文IDのみが送信される場合は、車上装置側では過去に車上装置から送信した車上電文IDとそのとき同時に送信した停止可能位置の情報とを記憶しておき、地上装置から受信確認情報として受信した車上電文IDから停止可能位置を取得して、車上装置側の停止可能位置を更新すればよい。地上装置10は、シリアルな地上電文番号(n)を発行し、地上電文番号(n)と停止限界(n)と受信確認情報(車上電文ID(k))とを含む地上電文(n)を作成する。地上装置10は、作成した地上電文(n)を所定の間隔で地上無線装置11により車上装置20へ送信する。
【0060】
車上装置20は、所定の間隔で次の車上電文(k+1)を作成するとともに、地上装置10からの地上電文(n)を受信可能な状態となっている。車上装置20は、地上装置10から地上電文(n)を受信した場合、地上電文(n)に含まれる停止限界(n)に基づく速度照査パターン(第2の速度照査パターン)と、地上電文(n)に含まれる受信確認情報により地上装置10での受信が確認できた車上電文(k)で送出した停止可能位置(k)に基づく速度照査パターン(第1の速度照査パターン)とを作成する。車上装置20は、地上装置10との間で通信途絶などの異常がなければ、停止限界(n)に基づく速度照査パターンで列車を制御する。地上装置10との通信途絶などの異常が発生すれば、車上装置20は、停止可能位置(k)に基づく第1の速度照査パターンで列車を制御する。なお、地上装置10との通信途絶などの異常が発生した場合、車上装置20は、非常停止ブレーキにより列車を非常停止するようにしても良い。この場合、車上装置は非常停止ブレーキによる停止位置を停止可能位置として算出するか、または停止可能位置が非常停止ブレーキによる停止位置より必ず内方側(列車の進行方向に対して進行側)となるように作成する。
【0061】
本実施の形態の列車制御システムにおいては、地上装置10と車上装置20との無線通信が正常である間、地上装置10と車上装置20とは、図4に示すような情報の送受信を繰り返し実行することにより、列車を安全かつ効率的に制御することができる。
【0062】
次に、地上装置10が一部の車上電文を正常に受信できなかった場合の制御について説明する。
図5は、車上装置20から送信された車上電文の一部が地上装置10で正常に受信できなかった場合の通信手順を示している。また、図5に示す伝送エラーは、地上装置10と車上装置20との無線通信が通信途絶などの異常と判定されないレベルのものであることを想定している。つまり、図5では、無線通信が通信途絶などの異常と判定されない状態において、所定の間隔で車上装置20から地上装置10へ送信する車上電文のうち1つの車上電文(k+1)が正常に受信できなかったことを示している。
【0063】
地上装置10において車上電文(k+1)が正常に受信できなかった場合、地上装置10は、車上電文(k+1)による情報の更新は行わず、正常に受信された最新の車上電文(k)に含まれる列車位置(k)を当該列車の位置として停止限界(n+1)を算出する。すなわち、停止限界情報作成手段53は、列車在線情報作成手段51により検出する列車在線情報とルート構成情報作成手段52により検出するルート構成情報と受信済みの最新の車上電文(k)に含まれる列車位置(k)とに基づいて停止限界(n+1)を算出する。
【0064】
停止可能位置(k)に基づいて停止限界(n+1)を作成すると、地上装置10の受信確認情報作成手段54は、地上電文(n+1)に付加する受信確認情報(n+1)として、車上電文(k)に含まれる列車位置(k)、停止可能位置(k)などの情報を正常に受信したことを示す受信確認情報(n+1)を作成する。すなわち、受信確認情報(n+1)は、地上装置10が正常に受信した最新の情報が、車上電文(k+1)ではなく車上電文(k)であることを示している。また、地上装置が作成する地上電文(n+1)は、車上電文(k+1)でなく地上装置20で正常に受信された最新の車上電文(k)に含まれる列車位置(k)、停止可能位置(k)などの情報に基づいて作成されることとなる。
【0065】
図5の車上装置の制御周期(k+2)において、車上装置20は、列車位置(k+2)および列車速度(k+2)を検出するとともに、車上装置20において地上電文(n+1)を受信して地上電文(n+1)に含まれる停止限界(n+1)に基づく第2の速度照査パターンを作成する。ただし、地上電文(n+1)に含まれる停止限界(n+1)などの情報は、実際には地上装置20で正常に受信した車上電文(k)に基づく情報となっている。また、地上電文(n+1)に含まれる受信確認情報(n+1)は車上電文(k)の正常受信を示す情報であるため、車上装置20は停止可能位置(k)を更新せず、停止可能位置(k)に基づく第1の速度照査パターンを作成する。従って、車上装置20は、停止限界(n+1)に基づく第2の速度照査パターンあるいは停止可能位置(k)に基づく第1の速度照査パターンの何れかにより列車を制御する。
【0066】
次に、車上装置20は、列車位置(k+2)および列車速度(k+2)に基づいて停止可能位置(k+2)を算出する。こうして算出した列車位置(k+2)、停止可能位置情報(k+2)などの情報に基づいて、車上装置20は、車上電文ID(k+2)を含む車上電文(k+2)を作成し、地上装置10へ送信する。地上装置10において車上電文(k+2)を正常に受信すると、地上装置10は、車上電文(k+2)に含まれる列車位置(k+2)および停止可能位置(k+2)などの情報に基づいて停止限界(n+2)などの情報を算出すると共に、車上電文(k+2)を正常に受信したことを示す受信確認情報(n+2)を含む地上電文(n+2)を作成して、車上装置20へ送信する。地上電文(n+2)に含まれる受信確認情報(n+2)は、車上電文(k+2)を正常に受信したことを示しているため、車上装置20は、停止可能位置を停止可能位置(k+2)に更新し、停止可能位置(k+2)に基づく第1の速度照査パターンも更新できる。
【0067】
上記のように、車上装置20は、送信済みの車上電文が地上装置10で正常に受信されたことが確認できなければ、停止可能位置および停止可能位置に基づく第1の速度照査パターンを更新しない。つまり、車上装置20は常に地上装置10から送信されてきた停止限界または地上装置10で正常受信が確認できた最新の停止可能位置に基づく速度照査パターンにより列車に対する速度照査制御を行う。そして、無線通信途絶などの異常が発生したと判断される前、すなわち停止可能位置に基づく第1の速度照査パターンによる制御が行われる前に、車上装置と地上装置との間の情報伝送が正常に実施されれば、車上装置20の停止可能位置が更新され、更新された停止可能位置に基づく第1の速度照査パターンも更新される。逆に、車上電文が地上装置10において正常に受信できず、無線通信が所定の時間以上継続して途絶した場合には、車上装置20が受信する停止限界および停止可能位置は更新されず、この停止可能位置に基づく第1の速度照査パターンか停止限界に基づく第2の速度照査パターンを超過することで列車は停止に至る。
【0068】
次に、車上装置20が一部の地上電文を正常に受信できなかった場合の制御について説明する。
図6は、地上装置10から所定間隔で送信される地上電文の一部が車上装置20で正常に受信できなかった場合の通信手順を示している。
【0069】
なお、ここでは説明の簡単のため、複線または複々線路線のように、少なくとも走行路上のある区間においては列車の進行方向が定められており、停止限界は列車の進行方向に対して逐次前向きに進んで行き、逆向き(列車に近づく向き)には移動しないことを前提とする。
【0070】
図6では、まず、車上装置20の制御周期kにおいて列車位置(k)、列車速度(k)、停止可能位置(k)が算出されて車上電文(k)として地上装置10に送信される。なお、このとき車上装置20が持つ地上電文は制御周期kより前に受信した図示されていない例えば地上電文(k−1)であり、停止限界情報や地上装置により受信確認された停止可能位置もこの地上電文に含まれる情報である。
【0071】
次に、この車上電文(k)は、地上装置10の制御周期nにおいて正常に受信され、車上電文(k)に含まれる列車位置(k)、停止可能位置(k)や地上装置10のルート構成情報作成手段などが作成する情報に基づいて停止限界(n)などが作成されて地上電文(n)として車上装置20に送信される。なお、このとき注意すべきは、地上装置10にて作成される停止限界などの情報は、地上装置10の制御対象となる走行路上すべてに在線する列車やルート構成状態に基づいて作成されるということである。すなわち、図6にはそれぞれ1台の地上装置と車上装置が通信する様子が示されているが、実際には地上装置は制御対象となる走行路上に在線する複数の車上装置と通信を行いつつ、これらの車上装置が搭載された列車の制御を行っている。例えば、図6に図示された車上装置に送信される地上電文(n)に含まれる停止限界(n)は、図示された車上装置を搭載している列車の前方に在線する列車およびルート構成状態などに基づいて算出されており、また、図6に図示された車上装置から受信した車上電文(k)に含まれる列車位置(k)などの情報は、おもにこの列車の後続の列車に対する停止限界の作成のために利用されることになる。
【0072】
次に、車上装置20では制御周期(k+1)において地上電文(n)が正常に受信され、地上電文(n)に含まれる停止限界nによって第2の速度照査パターンが、また地上装置によって受信確認された停止可能位置(k)に基づいて第1の速度照査パターンが作成される。また、車上装置20の制御周期(k+1)において、列車位置(k+1)、列車速度(k+1)、停止可能位置(k+1)などの情報が算出されて車上電文(k+1)として地上装置10に送信される。
【0073】
次に、この車上電文(k+1)は、地上装置10の制御周期(n+1)において地上装置10によって正常に受信され、車上電文(k+1)に含まれる列車位置(k+1)、停止可能位置(k+1)や、ルート構成情報作成手段が作成するルート構成情報などの情報に基づいて停止限界(n+1)が作成されて地上電文(n+1)が車上装置20に送信される。
【0074】
図6では、ここで地上電文(n+1)が、車上装置20の制御周期(k+2)において正常に受信されなかった場合を示している。
車上装置20の制御周期(k+2)において、地上電文(n+1)が正常に受信できなかったため、この制御周期において車上装置が最後に正常に受信できた地上電文は地上電文nであり、車上装置20における停止限界は停止限界n、地上装置において受信確認された停止可能位置は停止可能位置kのまま更新されない。このため、車上装置における第1および第2の速度照査パターンも更新されず、列車の速度照査制御は停止限界nおよび停止可能位置kに対して行われる。ただし、車上装置20の制御周期(k+2)において、列車速度(k+2)および列車位置(k+2)は更新されるため、列車位置(k+2)および列車速度(k+2)が第1および第2の速度照査パターンを超過した場合には、速度照査制御手段45によって自動的にブレーキが制御されて列車は停止する。このとき、車上装置が制御周期(k+2)において用いる停止限界nは、受信されなかった地上電文(n+1)に含まれる停止限界(n+1)に対して外方(列車進行方向に対して列車に近い側)にあり、安全な走行ができることが確認されている範囲であるため、列車の走行の安全に問題を生じることはない。
【0075】
一方、地上装置10においては、作成した最新の停止限界(n+1)によって当該列車を制御しようとする。ただし、この停止限界(n+1)は図6に図示された車上装置を備えた列車の前方に在線する列車および前方のルート構成情報に基づいて算出されたものであり、これらの情報は正常に更新されたものであるため、列車の走行の安全に問題を生じることはない。また、地上装置10は、図6に図示された車上装置を備えた列車の後続の列車に対しては、車上電文(k+1)に含まれる列車位置(k+1)などに基づいて停止限界などの情報を作成するが、車上電文(k+1)も地上装置において正常に受信できた情報であるため、列車の走行の安全に問題は生じない。
【0076】
前述したように、車上装置20の制御周期(k+2)においては、列車位置(k+2)、列車速度(k+2)および停止可能位置(k+2)が算出されて車上電文(k+2)として地上装置10に送信される。
【0077】
地上装置および車上装置間において、これ以降の通信が正常に行うことができれば、車上装置20において通常の処理に復帰することができる。また、何らかの理由によって所定時間以上継続して地上電文が車上装置において正常に受信できない場合、地上電文によって車上装置の停止限界情報および地上装置で受信確認された停止可能位置が更新されないため、いずれは停止可能位置に基づく第1の速度照査パターンまたは停止限界に基づく第2の速度照査パターンを超過することになり、速度照査手段45によって列車は安全に停車することになる。
【0078】
以上の図5、図6の説明においては、地上装置と車上装置との間でそれぞれ車上電文のみ、または地上電文のみの伝送に問題が生じた場合を示したが、車上電文と地上電文の通信が両方とも同時に正常に行えなくなった場合にも上述の処理は成立する。地上装置と車上装置間で正常な通信ができなくなった場合、それぞれの装置において正常に受信している最新の情報に基づいて列車の制御が行われる。このとき、車上装置においては、正常に受信されている停止限界および地上装置で受信確認された停止可能位置に基づいて列車のブレーキが制御されるが、これらは安全な走行が可能であることが確認されている情報であるため、この情報に基づいて列車が制御されても、列車の走行の安全に問題は生じない。また、地上装置においては、正常に受信済みの車上電文に含まれている過去の列車位置および停止可能位置の範囲内に列車が在線するものとして列車の制御を行うが、上記のように車上装置側でもこの範囲内に列車を停車させる制御を行っているため、列車の走行の安全に問題を生じることはない。さらに、車上装置と地上装置との間の通信が正常に行われない場合に地上装置で列車の正確な位置が不明となることに変わりはないが、本実施の形態のように停止可能位置の情報を停止限界位置の外方側に作成して、通信途絶などの異常時にはこの停止可能位置までに列車を停止させるようにすることで、地上装置が停止限界情報しか持たない場合と比べて、列車の在線範囲をより小さな範囲に特定することができる。
【0079】
なお、本実施の形態においては、車上装置で停止可能位置を算出して車上電文として地上装置に送信し、地上装置でこの車上電文を正常に受信確認できた場合には、この受信確認情報を地上電文によって地上装置から車上装置に送信することで、車上装置においても地上装置が車上電文を正常に受信したことを判断できるように構成しているが、車上装置から地上装置に対して、車上装置の速度照査パターン作成手段44によって第1の速度照査パターンを作成するために用いている地上装置で受信確認された停止可能位置を制御中の停止可能位置として送信するようにしても良い。このように構成すれば、地上装置と車上装置間の通信が途絶した場合にも、地上装置側では列車が在線する範囲をより精度良く特定することができる。
【0080】
次に、車上装置20における具体的な処理例として第1の処理例について説明する。
図7は、車上装置20における第1の処理例を説明するためのフローチャートである。
【0081】
車上装置20では、上記列車速度検出手段42により所定周期で列車速度を検出し(ステップS11)、上記列車位置検出手段41により所定周期で連続的に列車位置を検出する(ステップS12)。また、車上装置20は、車上無線装置21により地上装置10からの電文(地上電文)を適宜受信する(ステップS13)。地上装置10は、地上電文を所定の周期で送信することを想定しているが、車上装置20は、必ずしも地上装置10からの地上電文を上記所定周期で受信しなくとも良い。つまり、地上電文の受信周期と車上装置20における処理周期は、必ずしも同期していない構成でも良いものとする。
【0082】
車上装置20の制御部は、所定処理周期で停止可能位置を算出し、所定処理周期で停止可能位置を車上電文として地上装置10へ送信する。一方、車上装置20の制御部は、停止可能位置に基づく速度照査制御を行うための速度照査パターンを地上装置10での正常受信が確認された最新の停止可能位置を用いて算出する。つまり、車上装置20は、所定周期で算出する停止可能位置ではなく地上装置10での正常受信が確認された最新の停止可能位置を用いて停止可能位置に基づく速度照査パターンを作成する。
【0083】
地上装置10からの地上電文を受信した場合(ステップS13)、車上装置20の制御部は、受信した地上電文に含まれる「受信確認情報」(たとえば、地上装置が受信した車上電文を示す車上電文ID)が新しいものであるか否かを判断する(ステップS14)。車上装置20の制御部は、地上装置10により受信が確認された停止可能位置により列車を制御する。このため、車上装置20の制御部は、受信確認情報としての車上電文IDが新しければ、当該車上電文に含まれていた停止可能位置(つまり、地上装置10による受信が確認できた停止可能位置)も新しいものであると判断する。
【0084】
車上装置20の制御部は、地上装置10が新しい車上電文(新しい停止可能位置)を受信したか否かにより、列車制御に用いる停止可能位置を更新するか否かを判断する。また、停止可能位置算出手段43が所定処理周期で算出する停止可能位置と列車制御用の停止可能位置(地上装置での正常受信が確認できた最新の停止可能位置)とは、車上装置20内のメモリに保存される。列車制御用の停止可能位置(地上装置10での正常受信が確認できた停止可能位置)を更新すると判断した場合(ステップS14、YES)、車上装置20の制御部は、地上装置10での受信が確認できた最新の停止可能位置を列車制御用の停止可能位置として更新する(ステップS15)。
【0085】
列車制御用の停止可能位置を更新すると、車上装置20の制御部は、更新した停止可能位置が停止限界よりも外方(列車に近い)か否かを確認する(ステップS16)。安全確保のため、列車は、停止限界の内方(列車の進行方向に対して前方側)に進めない。このため、停止可能位置が停止限界よりも外方でない場合(ステップS16、NO)、車上装置20の制御部は、地上電文により地上装置10から通知される停止限界を列車制御用の停止限界位置として列車を制御する(ステップS17)。
【0086】
列車制御用の停止可能位置が特定されると、車上装置20の制御部は、上記速度照査パターン作成手段44により地上装置10での受信が確認された最新の停止可能位置(更新した列車制御用の停止可能位置)に基づく速度照査パターン(第1の速度照査パターン)を作成(更新)する(ステップS18)。また、車上装置20の制御部は、地上装置10から受信した地上電文に含まれる停止限界に基づく速度照査パターン(第2の速度照査パターン)を作成(更新)する(ステップS19)。
【0087】
一方、車上装置20の制御部は、所定の処理周期で現在の列車位置および現在の列車速度に基づく停止可能位置を算出する(ステップS20)。現在の列車位置及び列車速度に基づく停止可能位置を算出すると、車上装置20の制御部は、現在の列車位置、算出した停止可能位置および車上電文IDなどを含む車上電文を作成する(ステップS21)。列車位置、停止可能位置及び車上電文IDを車上電文を作成すると、車上装置20の制御部は、伝送制御手段46により作成した車上電文を車上無線装置21を介して地上装置10へ送信する(ステップS22)。
【0088】
また、車上装置20の制御部は、上記速度照査制御手段45により地上装置10との無線通信に異常が発生した(無線通信が途絶した)か否かを監視する(ステップS23)。たとえば、車上装置20の制御部は、車上装置20が送信した車上電文に対する受信確認を含む新たな地上電文が所定時間内に受信できない場合、地上装置10との無線通信に異常が発生したと判断するようにしても良い。
【0089】
地上装置10との無線通信に異常が発生したことが検出されていない場合(ステップS23、NO)、車上装置20の制御部は、速度照査制御手段45により停止限界に基づく速度照査パターン(第2の速度照査パターン)を用いて列車速度などの速度照査制御(たとえば、照査速度パターンの超過によりブレーキ制御)を行う(ステップS24)。
【0090】
また、地上装置10との無線通信に異常が発生した(無線通信が途絶した)ことが検出された場合(ステップS23、YES)、車上装置20の制御部は、速度照査制御手段45により停止可能位置に基づく速度照査パターン(第1の速度照査パターン)を用いて列車速度などの速度照査制御(たとえば、照査速度パターンの超過によりブレーキ制御)を行う(ステップS25)。
【0091】
上記のような処理によれば、車上装置は、地上装置との無線伝送に異常が発生していなければ、停止限界位置に基づいて列車を制御でき、地上装置との無線伝送に異常が発生した場合には、停止可能位置に基づいて列車を制御できる。この結果として、無線伝送に異常が発生した場合、車上装置は、地上装置で受信が確認できている最新の停止可能位置までの範囲内に存在するように列車を制御できる。言い換えれば、地上装置は、無線伝送に異常が発生した場合には、地上装置は、車上装置から確実に受信できている最新の停止可能位置までの範囲内に列車が存在すると確定できる。
【0092】
次に、車上装置20における第2の処理例について説明する。
図8は、車上装置20における第2の処理例を説明するためのフローチャートである。
【0093】
図8に示す第2の処理例は、図7に示す第1の処理例と基本的な処理の流れは同様である。たとえば、図8に示すステップS11〜S22およびS24の処理は、図7に示すステップS11〜S22およびS24の処理と同様な処理である。このため、図8に示すステップS11〜S22およびS24については詳細な説明を省略するものとする。
【0094】
図8に示す第2の処理例では、車上装置20の制御部は、地上装置10との無線通信が途絶したか否かを監視している。たとえば、車上装置20の制御部は、地上装置10からの新たな地上電文が所定時間以上受信できない場合、地上装置10との無線通信が途絶(異常)となったものと判断する(ステップS31)。地上装置10との無線通信が途絶していない場合(ステップS31、YES)、車上装置20の制御部は、速度照査制御手段45により作成した停止限界に基づく速度照査パターン(第2の速度照査パターン)を用いて列車速度などの速度照査制御(たとえば、照査速度パターンの超過によりブレーキ制御)を行う(ステップS24)。
【0095】
地上装置10との無線通信が途絶したと判断した場合(ステップS31、YES)、車上装置20の制御部は、当該列車に搭載されている非常停止ブレーキを動作させる処理を行う(ステップS32)。非常停止ブレーキは、列車を確実に短い距離で停止させる機能である。このため、非常停止ブレーキは、少なくとも停止可能位置より外方(列車進行方向に対して手前側)に列車を停止させるものと考えられる。
【0096】
たとえば、鉄道事業者などでは、運用方針により異常が発生した場合には非常停止ブレーキを動作させると決められていることがある。このような運用方針では、地上装置10との無線伝送が途絶した場合、車上装置20の制御部は、非常停止ブレーキで列車を停止させる。このような場合であっても、非常停止ブレーキによる停止位置は少なくとも停止可能位置より外方(列車進行方向に対して手前側)である。
【0097】
なお、上記のような非常停止ブレーキにより非常停止した場合、車上装置20は、たとえば、乗務員が異常の解消を確認した後にマニュアル操作で通常の制御へ復帰するようにしても良い。また、非常停止状態から通常制御への復帰処理は、車上装置20が自動的に実行するようにしても良い。たとえば、車上装置20の制御部は、異常の解消(正常な通信状態への復帰)を確認した後、地上装置10から制御命令に従って、当該列車を通常制御するようにしても良い。
【0098】
上記のような第2の処理例によれば、無線通信に異常が発生した場合には非常停止ブレーキを動作させる運用方針であっても、車上装置20は、少なくとも停止可能位置より外方(列車進行方向に対して手前側)に列車を留めることができる。この結果として、上記のような第2の処理例によれば、地上装置10では、車上装置20から受信できている最新の停止可能位置までの範囲内に列車が存在すると確定できる。
【0099】
なお、図7あるいは図8のフローチャートに示す処理の流れは、車上装置における処理の流れの一例を示すものであり、処理内容あるいは処理順序を限定するものではない。たとえば、車上装置では、地上電文の受信処理、列車の速度検出処理、列車の位置検出処理、停止可能位置の算出処理、車上電文の作成処理、車上電文の送信処理、停止限界位置に基づく速度照査パターンの作成処理、停止可能位置に基づく速度照査パターンの作成処理、および速度照査制御などを独立したタスクとして実行して良い。さらには、地上電文の受信処理、列車の速度検出処理、列車の位置検出処理、停止可能位置の算出処理、車上電文の作成処理、車上電文の送信処理、第1の速度照査パターンの作成処理、第2の速度照査パターンの作成処理、および速度照査制御処理などの処理を異なる装置で実行し、それらの装置間で処理結果などの情報を相互に伝送しあうシステム全体を車上装置として列車に搭載しても良い。
【0100】
次に、地上装置10における具体的な処理例について説明する。
図9は、地上装置10における処理例を説明するためのフローチャートである。
地上装置10では、図9に示すような処理を走行路上において制御対象となる全列車に対して実行する。すなわち、地上装置10では、地上無線装置11により各列車に搭載された車上装置20からの電文(車上電文)を適宜受信する。車上装置20は車上電文を所定の周期で送信するが、地上装置10は、必ずしも車上装置20からの車上電文を所定の周期で受信しなくとも良い。つまり、地上装置10は、車上電文の受信周期と地上電文を送信するための処理周期とが必ずしも同期していなくとも良い。
【0101】
制御対象とする列車に搭載された車上装置20からの車上電文を受信した場合(ステップS41、YES)、地上装置10の制御部は、受信した車上電文に含まれる車上電文ID、列車位置情報、および、停止可能位置情報を取得する(ステップS42)。地上装置10は、制御対象とする列車に関する情報として、最新の車上電文に含まれる列車位置情報及び停止可能位置情報を車上電文IDに対応づけて記憶する。このため、車上電文を受信すると、地上装置10の制御部は、受信した車上電文の車上電文IDが記憶している車上電文IDよりも新しいか否かにより、当該列車に関する情報(列車位置情報および停止可能位置情報)を更新するか否かを判断する(ステップS43)。
【0102】
受信した車上電文の車上電文IDが保存している車上電文IDよりも新しいと判断した場合(ステップS43、YES)、車上装置20の制御部は、前回までに無線通信異常となっていた列車(つまり、無線通信が途絶した状態から復帰した直後の列車)でないかを確認する(ステップS44)。無線通信が途絶した状態から復帰した直後でない場合、車上装置20の制御部は、列車位置情報を更新する(ステップS55)。無線通信が途絶した状態から復帰した直後の列車である場合、車上装置20の制御部は、無線通信による制御を通常制御に復帰させる復帰処理を行う(ステップS45)。
【0103】
なお、通常制御への復帰処理は、列車制御システムが自動的に行うものであっても良いし、列車の運行管理に係る係員が状況を確認した上で、係員による手動操作によって通常制御への復帰させるようにしても良い。通常制御の復帰処理については、たとえば、鉄道事業者の運用方針に準じて決定される。
【0104】
車上装置20との無線通信が途絶したと判断した場合(ステップS46、YES)、地上装置10の制御部は、無線通信の途絶に対応する処理として、異常時処理(伝送途絶時処理)を行う(ステップS47)。地上装置10の制御部は、無線通信の途絶を検出するための所定時間を超過しても特定の列車に関する情報が更新されていない場合(つまり、特定の列車からの新しい車上電文が所定時間以上受信できない場合)、当該列車の車上装置20との無線通信の異常(途絶)が発生したものと判断する。
【0105】
なお、地上装置10は、新しい車上電文が受信できない場合にだけ無線通信の途絶を検出するのではなく、地上無線装置11の故障や異常、あるいは、地上装置10と地上無線装置11との伝送路における故障や異常などを検出することにより、無線通信の途絶を検出するようにしても良い。たとえば、地上無線装置11、あるいは、地上装置10と地上無線装置11との伝送路における故障や異常は、たとえば、ハードウェアによる故障検出あるいはポーリングによる異常検出などによって検出しても良い。
【0106】
異常時処理(伝送途絶時処理)としては、地上装置10の制御部は、以下の(1)〜(4)に示すような処理を実行することが考えられる。
(1)地上装置10は、無線通信が途絶した車上装置20を搭載する列車を異常発生列車と認識する。(2)無線通信が途絶した車上装置20を搭載する列車に非常停止信号を送信するなどにより当該列車を停止させる制御信号を送出する(ただし、無線通信による伝送が途絶えている場合、列車に信号が到達しない可能性もあるが、地上装置10から車上装置20への一方向への伝送は可能であることもありうるため当該処理は実行すべきである)。(3)無線通信が途絶した車上装置20を搭載する列車(異常発生列車)以外の列車(他の列車)に対する処理として、異常発生列車の在線可能範囲(正常受信できた車上電文で通知された当該列車の列車尾端から停止可能位置までの間)に他の列車が進入しないように、他の列車への地上電文を作成する。つまり、他の列車を制御するための停止限界位置情報などの情報は、異常発生列車の位置が受信できた最後の停止可能位置までの範囲であるとして作成される。(4)異常発生列車の在線可能範囲におけるルートは変更しないように保持する。
【0107】
なお、上述したS41からここまでの処理は、地上装置10の制御対象範囲内に在線する全ての列車を対象として行う。
【0108】
また、地上装置10の制御部は、制御対象の列車に対するルート構成情報を所定の処理周期で取得する(ステップS48)。制御対象の列車に対するルート構成情報を取得すると、地上装置10の制御部は、取得したルート構成情報で示されるルート構成が正常かを確認し、ルート構成に関する異常あるいは故障などを検出する(ステップS49)。ルート構成が正常でないと判断した場合、あるいは、ルート構成に異常あるいは故障が含まれると判断した場合(ステップS49、NO)、地上装置10の制御部は、ルート構成の異常に対応する処理として異常時処理(ルート構成異常時処理)を行う(ステップS50)。なお、ルート構成異常処理としては、異常発生列車ではなく異常が発生した区間(ルート)として、上述した異常時処理(伝送途絶時処理)に準ずる処理を行う。
【0109】
また、地上装置10の制御部は、所定の処理周期で、当該列車の在線位置を追跡するため、当該列車の在線範囲を確定する。たとえば、無線通信の途絶が発生していない場合(継続的な無線通信ができている場合)、地上装置10の制御部は、受信できた最新の列車位置(車両の後端から先端までの範囲)を当該列車の在線範囲として確定する。また、無線通信が途絶している車上装置を搭載する列車については、地上装置10の制御部は、最後に受信した列車位置から停止可能位置までの範囲を当該列車の在線範囲として確定する(ステップS51)。確定した在線範囲を示す情報は、地上装置10のメモリに記憶する。さらに、地上装置10の制御部は、正常に受信できた最新の列車位置と、上述したルート構成情報、全列車の在線情報に基づいて当該列車への停止限界情報を作成する(ステップS52)。作成した停止限界情報は、地上装置10内のメモリに記憶する。
【0110】
たとえば、図10(a)〜(c)は、地上装置10が把握できる列車位置を示す図である。
図10(a)は、車上装置20との無線通信が正常な場合に地上装置10が把握できる列車位置を示す図である。図10(a)に示すように、無線通信が正常であれば、地上装置10は、車上装置20から受信する最新の車上電文に含まれる列車位置に基づいて列車が存在する範囲を確定できる。
図10(b)は、車上電文に停止可能位置を含まない形態において無線通信に異常が発生した場合に、地上装置10が把握できる列車位置を示す図である。車上電文に停止可能位置を含まない場合、車上装置20との無線通信が途絶すると、地上装置10では、図10(b)に示すように、列車が在線する範囲を停止限界位置までの範囲として把握せざるを得ない。
【0111】
図10(c)は、車上電文に停止可能位置を含む形態(地上装置10と地上装置10とが停止可能位置を共有できる形態)において無線通信に異常が発生した場合に、地上装置10が把握できる列車位置を示す図である。図10(c)に示すように、車上装置20と地上装置10とが停止可能位置を共有していれば、車上装置20は、無線通信に異常が発生した場合、地上装置10で把握している停止可能位置までの範囲に列車を停止させることができる。すなわち、無線通信に異常が発生した場合、地上装置10は、車上装置20から受信できている停止可能位置までの範囲を当該列車の在線範囲と判定できる。また、停止可能位置は、停止限界位置よりも列車に近い位置である。従って、停止可能位置を共有することにより、無線通信に異常が発生した場合であっても、当該列車の在線位置を停止限界位置までの範囲よりも狭い範囲に確定できる。
【0112】
最新の列車位置などに基づく停止限界情報を作成すると、地上装置10の制御部は、作成した停止限界情報、受信確認情報(例えば、受信できている最新の車上電文の車上電文ID)、および地上電文番号を含む地上電文を作成する(ステップS53)。停止限界情報、受信確認情報および地上電文番号を含む地上電文を作成すると、地上装置10の制御部は、地上無線装置11により作成した地上電文を送信する(ステップS54)。
【0113】
なお、図9のフローチャートに示す処理の流れは、地上装置10における処理の流れの一例を示すものであり、処理内容あるいは処理順序を限定するものではない。たとえば、地上装置10では、車上電文の受信処理、列車位置情報の更新処理、ルート構成情報の取得処理、停止限界位置の算出処理、列車の在線範囲の更新処理、地上電文の作成処理、地上電文の送信処理などを独立したタスクとして実行して良い。さらには、車上電文の受信処理、列車位置情報の更新処理、ルート構成情報の取得処理、停止限界位置の算出処理、列車の在線範囲の更新処理、地上電文の作成処理、地上電文の送信処理などの処理を異なる装置で実行し、それらの装置間で処理結果などの情報を相互に伝送しあうシステム全体を地上装置としても良い。
【0114】
上記のように、列車制御システムでは、車上装置において作成した停止可能位置を地上装置と共有し、地上装置での受信を確認した停止可能位置に基づく速度照査パターンを作成する。これにより、車上装置及び地上装置間で通信異常が発生した場合であっても、車上装置は、地上装置での受信確認ができた最新の停止可能位置に基づく速度照査パターンによって速度照査制御を行うことができる。この結果として、地上装置では、車上装置及び地上装置間で通信異常が発生した場合であっても、当該列車が在線すると考えられる範囲(確実に列車が在線すると想定すべき範囲)をより小さく限定された範囲(停止可能位置までの範囲)に絞り込むことができる。
【0115】
すなわち、無線通信を用いた列車制御システムにおいては、列車位置をリアルタイムに検出できるのは車上装置側だけである。このため、車上装置と地上装置との伝送に異常が発生した場合、地上装置では、現在の列車位置を正確に特定できなくなる。列車位置が正確に特定できない場合、列車運行の安全性を確保するため、列車制御システムは、確実に列車が存在する範囲を仮定して列車制御を行う。しかしながら、列車の位置を広い範囲で特定すると、他の列車を効率的に制御するのが難しくなる。
【0116】
上述した実施の形態に係る列車制御システムでは、無線通信に異常が発生した場合であっても、地上装置は、列車の在線範囲を地上装置が認識している最新の停止可能位置までの範囲に特定することが可能であり、列車運行の安全性と効率性とを高度に両立させることが可能となる。また、本実施の形態に係る列車制御システムでは、異常時のために車軸検知装置などの外部装置を設置する必要もなくなり、システム全体のコストを低減することも期待できる。
【0117】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0118】
10…地上装置、11…地上無線装置、20…車上装置、21…車上無線装置、41…列車位置検出手段、42…列車速度検出手段、43…停止可能位置算出手段、44…速度照査パターン作成手段、45…速度照査制御手段、46…車上伝送制御手段、51…列車在線情報作成手段、52…ルート構成情報作成手段、53…停止限界情報作成手段、54…受信確認情報作成手段、55…地上伝送制御手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に搭載した車上装置と地上に設置した地上装置とが無線通信する列車制御システムにおいて、
前記車上装置は、
前記列車の位置を検出する位置検出手段と、
前記列車の停止可能位置を算出する停止可能位置算出手段と、
前記停止可能位置算出手段により算出した停止可能位置と前記位置検出手段により検出した列車位置とを含む車上電文を前記地上装置へ送信する車上電文送信手段と、を有し、
前記地上装置は、
前記車上装置からの車上電文を受信する車上電文受信手段と、
前記車上装置を搭載する前記列車が走行する走行路上に存在する各列車の在線位置を示す列車在線情報を作成する列車在線情報作成手段と、
前記列車が走行する走行路上で構成されているルートを示すルート構成情報を取得するルート構成情報作成手段と、
前記列車在線情報と前記ルート構成情報と前記列車の位置情報とから前記列車に対する停止限界位置を示す停止限界情報を作成する停止限界情報作成手段と、
前記車上電文受信手段により正常に受信できた停止可能位置を示す受信確認情報と前記停止限界情報とを含む地上電文を送信する地上電文送信手段と、を有し、
前記車上装置は、さらに、
前記停止限界情報と受信確認情報とを含む地上電文を受信する地上電文受信手段と、
前記地上装置との無線通信が正常である場合、前記地上電文受信手段で受信した停止限界位置に基づいて前記列車を制御し、前記地上装置との無線通信に異常が発生した場合、前記地上電文受信手段で受信した前記受信確認情報により前記地上装置が正常に受信したことを確認できた停止可能位置までの範囲に前記列車を停止させる列車制御手段と、を有する列車制御システム。
【請求項2】
前記地上装置の前記列車在線情報作成手段は、前記車上装置との無線通信に異常が発生した場合、前記車上装置を搭載する前記列車の在線位置を前記車上装置から最後に受信した車上電文に含まれる列車位置と停止可能位置との範囲に決定する、
前記請求項1に記載の列車制御システム。
【請求項3】
前記車上装置の前記車上電文送信手段は、前記停止可能位置と前記列車位置とに加えて車上電文IDを含む車上電文を前記地上装置へ送信し、
前記地上装置の前記地上電文送信手段は、前記受信確認情報として正常に受信できた停止可能位置に対応する車上電文IDを含む地上電文を送信する、
前記請求項1又は2の何れかに記載の列車制御システム。
【請求項4】
前記車上装置は、さらに、前記地上電文受信手段で受信した停止限界位置に基づく速度照査パターンと前記地上電文受信手段で受信した前記受信確認情報により前記地上装置が正常に受信したことを確認できた停止可能位置に基づく速度照査パターンとを作成する作成手段を有し、
前記車上装置の前記列車制御手段は、前記地上装置との無線通信が正常である場合、前記停止限界位置に基づく速度照査パターンで前記列車を制御し、前記地上装置との無線通信に異常が発生した場合、前記停止可能位置に基づく速度照査パターンで前記列車を制御する、
前記請求項1乃至3の何れか1項に記載の列車制御システム。
【請求項5】
前記車上装置の前記列車制御手段は、前記地上装置との無線通信に異常が発生した場合、前記列車に搭載されている非常停止ブレーキにより前記列車を停止させる、
前記請求項1乃至3の何れか1項に記載の列車制御システム。
【請求項6】
列車に搭載され、地上に設置した地上装置と無線通信する車上装置において、
前記列車の位置を検出する位置検出手段と、
前記列車の停止可能位置を算出する停止可能位置算出手段と、
前記停止可能位置算出手段により算出した停止可能位置と前記位置検出手段により検出した列車位置と電文番号とを含む車上電文を前記地上装置へ送信する送信手段と、
前記地上装置が正常に受信できた停止可能位置を示す受信確認情報と前記地上装置が正常に受信できた列車位置に基づいて作成した停止限界位置とを含む地上電文を受信する受信手段と、
前記地上装置との無線通信が正常である場合、前記受信手段で受信した停止限界位置に基づいて前記列車を制御し、前記地上装置との無線通信に異常が発生した場合、前記受信手段で受信した前記受信確認情報により前記地上装置が正常に受信したことを確認できた停止可能位置までの範囲に前記列車を停止させる列車制御手段と、
を有する車上装置。
【請求項7】
地上に設置され、走行路上の各列車に搭載された各車上装置と無線通信する地上装置において、
制御対象とする列車に搭載された車上装置から列車位置と停止可能位置とを含む車上電文を受信する受信手段と、
前記制御対象の列車が走行する走行路上に存在する各列車の在線位置を示す列車在線情報を作成する列車在線情報作成手段と、
前記制御対象の列車が走行する走行路上で構成されているルートを示すルート構成情報を取得するルート構成情報作成手段と、
前記列車在線情報と前記ルート構成情報と前記制御対象の列車に搭載された車上装置から受信した列車位置とから前記制御対象の列車に対する停止限界を示す停止限界情報を作成する停止限界情報作成手段と、
前記受信手段により前記制御対象の列車に搭載された車上装置から正常に受信できた停止可能位置を示す受信確認情報と前記停止限界情報とを含む地上電文を送信する送信手段と、
を有する地上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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