説明

列車搭載用画像処理システム

【課題】安価で導入容易な画像処理システムにて沿線設置機器の稼働状態を監視する。
【解決手段】鉄道の軌道10を走行する列車20に搭載される列車搭載用画像処理システム30において、前方軌道11を撮る撮像装置32と、後方軌道12を撮る撮像装置33と、GPS受信機35と、その測位結果から列車位置Qを得る列車位置検出部41と、軌道10に沿って設置された沿線設置機器に係る機器位置Nおよび機器画像Pをデータ保持する沿線設置機器データ記憶部46と、撮像装置32,33で撮った画像D1,D2から機器画像Pを検出して検出結果を対比することにより沿線設置機器の動作を確認する沿線設置機器検出部47とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軌道を走行する列車に搭載されて軌道を撮影する列車搭載用画像処理システムに関し、詳しくは、軌道に沿って設置された沿線設置機器の画像を検出する列車搭載用画像処理システムに関する。なお、列車には一両編成のものや路面電車も含まれる。
また、本発明は、保全・保安管理対象の沿線設置機器の稼働状態の監視にも関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道では、軌道を走行する列車に車上装置と共にGPS受信機が搭載されて、GPS受信機が衛星航法システム(Global Positioning System)による測位を行うとともに、車上装置がGPS受信機の測位結果に基づき路線マップデータ等も利用して列車位置を得ることにより、停留所における路面電車の発着を判定したり(特許文献1参照)、信号冒進警報装置を安価に実現したり(特許文献2参照)、車両運転状況記録装置を少ない装備で実現したり(特許文献3参照)、運転管理センタでも列車位置を把握したり(特許文献4参照)、といったことができるようになっている。
【0003】
なかでも、車両運転状況記録装置では(特許文献3参照)、列車の前方の軌道を第1撮像装置で撮って前方軌道映像を得るとともに、列車の運転席を第2撮像装置で撮って運転席映像を得て、GPS利用で得た列車の位置情報と一緒に前方軌道映像と運転席映像を記録するようになっている。
そうして記録された映像は、列車走行後に行われる路線状況や運転状態の確認などに役立っている。
【0004】
一方、沿線設置機器など保全・保安管理対象の信号保安設備に各種センサを取り付けて遠隔自動計測を行うことにより管理対象機器や設備の稼働状態を監視する定常状態監視システムが実用化されている(例えば非特許文献1参照)。
このシステムでは、測定データが各センサから情報ネットワーク経由でセンタに収集され、収集したデータや機器の稼働状態が、端末にオンライン表示されるとともに、記録もされるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−240478号公報
【特許文献2】特開2007−159309号公報
【特許文献3】特開2008−221902号公報
【特許文献4】特開2009−234349号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】黄程陽・長島高洋著「定常状態監視システム開発の変遷」DAIDO101、p.2−9、大同信号株式会社発行2002年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の定常状態監視システムでは、鉄道の沿線に分散して設置された機器にセンサを取り付けなければならないので、総ての機器を監視しようとすると必然的にセンサの個数が多くなるため、費用が嵩む。また、センタへ情報を伝送するために、各機器を有線で接続するので、信号ケーブルの屋外敷設も長距離に及び、システムが大掛かりになるため、気軽に導入できるとは言えない。
これに対し、上述した車両運転状況記録装置は、車上の撮像装置で沿線を撮ることができるので設備導入費用が比較的安くてすむうえ、GPSを利用して位置情報を得ることから列車位置の誤差が累積しないので長距離の測定に向いている。
そこで、沿線設置機器の稼働状態の監視にGPSや画像処理を上手く利用することにより、沿線設置機器稼働状態監視システムを安価で而も導入容易な列車搭載用画像処理システムとして実現することが技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の列車搭載用画像処理システムは(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、鉄道の軌道を走行する列車に搭載される列車搭載用画像処理システムにおいて、車外を撮る撮像装置と、衛星航法システムによる測位を行うGPS受信機と、前記GPS受信機の測位結果に基づいて列車位置を得る列車位置検出部と、前記軌道に沿って設置された沿線設置機器に係る機器位置および機器画像をデータ保持する沿線設置機器データ記憶部と、前記列車位置の前記機器位置への接近を検知して異なる接近位置において前記撮像装置で撮った画像を取り込むとともにその複数の画像から前記機器画像を検出して検出結果を対比することにより前記沿線設置機器の動作を確認する沿線設置機器検出部とを備えていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の列車搭載用画像処理システムは(解決手段2)、上記解決手段1の列車搭載用画像処理システムであって、前記撮像装置が、前方軌道撮影用の第1撮像装置と後方軌道撮影用の第2撮像装置とを含んでおり、前記沿線設置機器検出部が、前記機器位置の列車通過前に前記第1撮像装置で撮った前方軌道の画像と前記機器位置の列車通過後に前記第2撮像装置で撮った後方軌道の画像とを対象にして画像処理を行うものであることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の列車搭載用画像処理システムは(解決手段3)、上記解決手段2の列車搭載用画像処理システムであって、前記沿線設置機器検出部が、前記第1撮像装置で撮った前方軌道の画像において前記機器画像を検出する際には前記列車位置と前記機器位置とに基づいて画像探索位置を決定するが、前記第2撮像装置で撮った後方軌道の画像において前記機器画像を検出する際には前記の前方軌道の画像について検出済みの画像位置に基づいて画像探索位置を決定するようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このような本発明の列車搭載用画像処理システムにあっては(解決手段1)、車上の撮像装置で沿線を撮ることができるので設備導入費用が比較的安くてすむし、GPSを利用して位置情報を得ることから列車位置の誤差が累積しないので長距離の測定に向いている、という車両運転状況記録装置の利点が引き継がれてる。そのうえ、沿線設置機器の機器位置と機器画像がデータ保持されており、それを参照して機器位置への接近検知と異なる接近位置での車外画像の取り込みと複数の車外画像からの機器画像検出と画像検出結果の対比による沿線設置機器の動作確認とが行われる。
【0012】
これにより、列車の接近や通過に応じて動作する沿線設置機器の状態変化が画像により確認されることとなるので、従来の定常状態監視システムように多数の機器にセンサを取り付けたり各機器を有線接続したりする必要がなくなる。そのため、費用やシステム規模が削減されるので、従来の定常状態監視システムより、気軽に導入することができる。
したがって、この発明によれば、安価で而も導入容易な列車搭載用画像処理システムにて沿線設置機器の稼働状態を監視することができる。
【0013】
また、本発明の列車搭載用画像処理システムにあっては(解決手段2)、前方軌道撮影用の第1撮像装置に加えて後方軌道撮影用の第2撮像装置も装備されていて、機器位置の列車通過前に第1撮像装置で撮った前方軌道の画像と機器位置の列車通過後に第2撮像装置で撮った後方軌道の画像とが沿線設置機器検出部の画像処理の対象にされる。そのため、沿線設置機器に係る列車通過の前後の画像からの検出結果が対比されるので、列車通過に応じて動作する踏切しゃ断機や転てつ機の稼働状態を的確に監視することができる。
【0014】
さらに、本発明の列車搭載用画像処理システムにあっては(解決手段3)、対比のため画像探索が二度以上行われるが、第1撮像装置で撮った前方軌道の車外映像から全体画像を得て、その中から沿線設置機器検出部が機器画像を検出するときには、列車位置と機器位置とに基づいて画像探索位置が決定される。これらの列車位置と機器位置に撮像装置取付仕様など既知の撮像条件を加えれば、全体画像のうち何処に機器画像が位置しているのかが幾何的演算で判明するので、画像探索位置が容易かつ迅速に求まる。
【0015】
しかも、第2撮像装置で撮った後方軌道の車外映像から全体画像を得て、その中から沿線設置機器検出部が機器画像を検出するときは、前方軌道の画像について既に探索も決定も済んでいる既知の位置に基づいて新たな画像探索位置が決定されるので、画像探索位置がより容易かつ迅速に求まる。そのため、画像探索を何度か行っても、画像処理を短時間で終えることができるので、沿線設置機器の稼働状態をリアルタイムで確認することが可能となる。そして、機器異常があれば早期発見がなされ、それに応じて早期修繕することで機器が速やかに正常復帰するので、事故発生の未然防止にも貢献することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の列車搭載用画像処理システムの実施例1である運転状況記録装置の構造等を示し、(a)が列車等の平面図、(b)が運転状況記録装置の外観斜視図、(c)がデータ処理装置(演算装置)のブロック図である。
【図2】列車搭載用画像処理システムの動作状態を示し、(a)が列車等の平面図、(b)が列車等の側面図、(c)が前方軌道映像の例、(d)がその画像に探索位置を示した例、(e)がマッチング対象のパターン例である。
【図3】列車搭載用画像処理システムの動作状態を示し、(a)が前方軌道映像で見つかった画像位置を示した例、(b)が後方軌道映像用の画像探索位置を示した例、(c)が後方軌道映像の例、(d)がその画像に探索位置を示した例、(e)がマッチング対象のパターン例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
このような本発明の列車搭載用画像処理システムについて、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1により説明する。
図1〜3に示した実施例1は、上述した解決手段1〜3(出願当初の請求項1〜3)を総て具現化したものであり、既述した特許文献3記載の運転状況記録装置30に沿線設置機器データ46と沿線設置機器検出部47と撮像条件データ48を追加するとともに、撮像装置33を車外の後方軌道撮影用に転用することにより、列車搭載用画像処理システムを運転状況記録装置30への組み込み態様で実現している。
【実施例1】
【0018】
本発明の列車搭載用画像処理システムの一実施例である運転状況記録装置30について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、運転状況記録装置30の構造を示し、(a)が搭載先の列車20の等の平面図、(b)が運転状況記録装置30の外観斜視図、(c)がデータ処理装置40(演算装置)のブロック図である。
【0019】
運転状況記録装置30は(図1(a)参照)、レール10(軌道)上を走行する列車20に搭載されるものである。
その列車20の先頭車両の中の前側部分には運転席21が設けられており(図1(a)参照)、そこには速度計22や高度計23が装備されている(図1(b)参照)。
速度計22は、例えば台車部に設置された速度発電機などからなるが、信号出力部に改造が施されて、信号ケーブル等で運転状況記録装置30に接続され、速度情報Vを運転状況記録装置30へ随時送出するようになっている。高度計23も、随時、高度情報Hを取得して運転状況記録装置30へ送出するものであり、市販の汎用品で足りる。
【0020】
この運転状況記録装置30(図1(b)参照)には、列車20の前方軌道11を撮る撮像装置32(第1撮像装置)と、列車20の後方軌道12を撮る撮像装置33(第2撮像装置)と、衛星航法システムによる測位を行うGPSアンテナ34及びGPS受信機35と、ハードディスク等からなり十分な記憶容量を具えた記録装置36と、プログラマブルなマイクロプロセッサシステムやデジタルシグナルプロセッサ等からなり列車位置検出部41や記録制御部44として機能するデータ処理装置40と、GPS受信機35と記録装置36とデータ処理装置40と図示しない電源ユニット等を納めた筐体31とが、設けられている。筐体31は、運転席21の下や脇などで空いているところに設置される。
【0021】
撮像装置32は(図1(a),(b)参照)、例えばCCDカメラからなり、撮影方向を前方軌道11に向けた状態で(図1(a)の一点鎖線を参照)、列車20の前端部たとえば運転席21上面の最前部位に設置され、撮った前方軌道映像D1を映像信号ケーブルでデータ処理装置40へ随時送出するようになっている。
撮像装置33は(図1(a),(b)参照)、例えばCCDカメラからなり、撮影方向を後方軌道12に向けた状態で(図1(a)の二点鎖線を参照)、列車20の後端部たとえば車掌室の最後尾部位に設置され、撮った運転席映像D2を映像信号ケーブルでデータ処理装置40へ随時送出するようになっている。
【0022】
GPSアンテナ34は、列車20の天井などに設置されて、GPS(Global Positioning Satellite)衛星から電波を受信し、それを同軸ケーブル等でGPS受信機35へ随時送信するようになっている。
GPS受信機35は、衛星航法システム(Global Positioning System)による測位を行って、例えば緯度対応値Xと経度対応値Yと高度対応値Zの組データである測位結果[X,Y,Z]をデータ処理装置40へ随時送出するようになっている。
【0023】
記録装置36は(図1(c)参照)、データを多数のファイルに分けて保持するようになっており、例えば、特異事象のイベント情報は、発生時刻や発生位置の情報と共に、テキスト形式のファイルで蓄積されるようになっている。また、前方軌道映像D1や後方軌道映像D2は、30秒や1分といった時間単位で分割されて、デジタル動画規格のMPEG(Moving Picture Experts Group)形式でファイルに記録されるようになっている。さらに、そのファイルには、撮影日時が分かるように、映像D1,D2を取得した年月日と時刻とが埋め込まれるようにもなっている。
【0024】
データ処理装置40は(図1(c)参照)、例えばマイクロプロセッサのプログラムで具現化された列車位置検出部41と記録制御部44と映像処理部45と沿線設置機器検出部47と、例えば不揮発性メモリからなるデータ記憶部に保持されたマップデータ42と沿線設置機器データ46と撮像条件データ48と、電源供給停止時も電池等で動作可能な内蔵の時計43とを具えている。
映像処理部45は、前方軌道映像D1や後方軌道映像D2をそれぞれMPEG形式のうちでも圧縮度の高い例えばAVI(Audio Video Interleave)形式に変換して記録制御部44に引き渡すとともに、前方軌道映像D1も後方軌道映像D2も取り込み要求に応じて一コマずつ沿線設置機器検出部47に引き渡すようになっている。
【0025】
列車位置検出部41は、GPS受信機35から測位結果[X,Y,Z]を取得し、それをマップデータ42に照らして修正する等のことにより迷走を防止するとともに、速度計22から速度情報Vを取得し、高度計23から高度情報Hを取得して、速度情報Vと高度情報HをGPS受信機35の測位結果[X,Y,Z]に反映させることで、より正確な列車位置Q[X,Y,Z]を得るものである。
また、列車位置検出部41は、列車位置Q[X,Y,Z]に基づいて停車位置超過の特異事象を検出するとともに、速度情報Vに基づいて速度偏差過大の特異事象を検出して、それらの特異事象Eを記録制御部44に引き渡すようにもなっている。
【0026】
記録制御部44は、映像処理部45からAVI形式の前方軌道映像D1及び後方軌道映像D2を入力して、それぞれを上記の時間単位で分割し、さらに時計43からの日時Tを埋め込んだファイル名を付けて、記録装置36に記録するようになっている。
また、記録制御部44は、上記の特異事象Eに加えて、映像D1,D2の分割単位を記録したことを示す定時記録情報も、イベント情報Eとして扱い、それらの情報を記録装置36のファイルに追加で書き込むようにもなっている。
【0027】
沿線設置機器データ46には、レール10(軌道)に沿って設置された沿線設置機器のうち列車走行接近時に画像検出したい物それぞれについて機器位置Nと機器画像Pとの組データが一組ずつ予め設定されている。
沿線設置機器の典型例は、信号機や,踏切しゃ断機,転てつ機などであり、それを撮っておいた画像が機器画像Pであるが、これは、映像D1,D2の一コマからなる全体画像よりも小さい。機器位置Nは列車位置Qと同じく[X,Y,Z]で規定される。
【0028】
撮像条件データ48は、列車20への撮像装置32,33の装着状態に係る撮像条件Mであり、撮像装置32に係る撮像条件Mには、列車位置Qと撮像装置32との前後方向差ΔXと左右方向差ΔYと上下方向差ΔZに加えて、撮像装置32の視点方向の左右方向傾きθと上下方向傾きφも含まれている。撮像装置33に係る撮像条件Mにも、列車位置Qと撮像装置33との前後方向差ΔXと左右方向差ΔYと上下方向差ΔZと、撮像装置33の視点方向の左右方向傾きθと上下方向傾きφとが、含まれている。これらの撮像条件Mも初期設定の一環として撮像条件データ48に予め設定されている。
【0029】
沿線設置機器検出部47は、列車位置検出部41から列車位置Qを得るとともに、列車進行方向に在って最も近い沿線設置機器の機器位置Nを沿線設置機器データ46から選出して、その沿線設置機器が前方軌道映像D1に映り込むところまで列車位置Qが進んだことを確認する。そして、列車位置Qの機器位置Nへの十分な接近を検知すると、前方軌道映像D1の一コマを全体画像(D1)として取り込むとともに、そのときの列車位置Qと組になっている機器画像Pを検出対象の部分画像として沿線設置機器データ46から選出するようになっている。
【0030】
また、沿線設置機器検出部47は、選出した全体画像(D1)の中をパターンマッチングにて探索することで機器画像Pが含まれて存在しているのか否か更には何処に存在しているのかを調べる機器画像検出処理も行うが、それに先立ち、画像探索時間の短縮のため、全体画像(D1)において探索を開始する位置となる画像探索位置を、列車位置Qと機器位置Nと撮像条件Mとに基づいて決定するようになっている。その算出式は種々変形が可能なので具体的な提示は割愛するが、何れの式で演算しても端数誤差は別として、幾何学的関係によって、画像探索位置は一意に定まるようになっている。
【0031】
そして、全体画像(D1)における画像探索位置が決まると、そこを中心にして探索範囲を広げながら全体画像(D1)の中でその部分画像と機器画像Pとのパターンマッチング処理を許容時間内で繰り返すようになっている。
さらに、沿線設置機器検出部47は、全体画像(D1)の中に機器画像Pを見つけたときには、その機器画像Pの検出結果すなわち全体画像(D1)における機器画像Pの検出位置や拡縮度などを後の対比のために一時記憶しておくようになっている。
【0032】
また、沿線設置機器検出部47は、列車位置Qが機器位置Nに到達するまでは上述した列車位置Qの確認と画像D1の取り込みと画像探索位置の決定とパターンマッチングの処理と画像位置の一時記憶を繰り返し、列車位置Qが機器位置Nを通過してからは列車位置Qの確認と画像D2の取り込みと画像探索位置の決定とパターンマッチング処理を繰り返すようになっている。通過前と通過後で相違する主な点は、画像の取り込み元が前方軌道映像D1から後方軌道映像D2に切り替わることと、画像探索位置の決定手順が時間短縮と簡素化のため通過前後で異なっていることであり、他には大差がない。
【0033】
さらに、沿線設置機器検出部47は、画像探索位置を決定する際、列車位置Qが機器位置Nを通過する前は、上述のように撮像装置32で撮った前方軌道11の映像D1の一コマを全体画像(D1)としたうえで、列車位置Qと機器位置Nと撮像条件Mとに基づいて画像探索位置を決定するが、列車位置Qが機器位置Nを通過した後は、撮像装置33で撮った後方軌道12の映像D2の一コマを全体画像(D2)に採用するとともに、前方軌道11の全体画像(D1)について既に探索も検出も済んで一時記憶されていた画像位置を参照し、その決定済み画像位置に基づいて全体画像(D2)における新たな画像探索位置を決定する。例えば、決定済み画像位置の画像内左右対称位置を左右反転で得てから、それを撮像条件Mで修正する等のことで、画像探索位置を決定するようになっている。
【0034】
また、沿線設置機器検出部47は、列車位置Qが機器位置Nに接近したことを検知してから、上述したように異なる幾つかの接近位置において、撮像装置32や撮像装置33で撮った前方軌道映像D1や後方軌道映像D2から画像を取り込むとともに、その複数の全体画像(D1,D2)から機器画像Pを検出して、それらの検出結果を対比することにより該当箇所の沿線設置機器の動作を確認する。具体的には、沿線設置機器が信号機であれば、機器位置Nの列車通過前に異なる接近位置で撮像装置32にて撮った前方軌道11の全体画像(D1)を対象として機器画像Pを検出し、更に灯器の部分を抽出して、色も含めた点灯状態の適否や変化が正常か否かを確認するようになっている。
【0035】
沿線設置機器が踏切しゃ断機であれば、機器位置Nの列車通過前に撮像装置32にて撮った前方軌道11の全体画像(D1)と、機器位置Nの列車通過後に撮像装置33にて撮った後方軌道12の全体画像(D2)とを対象として機器画像Pを検出し、更にしゃ断桿の部分を抽出して、踏切道を閉める状態から開ける状態へ適切に変化しているか否かを確認するようになっている。沿線設置機器が転てつ機の場合は切り替え状態を確認するようになっている。さらに、こうして得た機器動作確認結果Rを記録制御部44に引き渡して記録装置36に記録させるようにもなっている。
【0036】
この実施例1の運転状況記録装置30(列車搭載用画像処理システム)について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図2は、(a)が搭載先の列車20等の平面図、(b)が列車20等の側面図、(c)が前方軌道映像D1の画像例、(d)がその画像D1に探索位置(P0)を示した例、(e)がマッチング対象のパターン例P1,P2である。また、図3は、(a)が前方軌道映像で見つかった画像位置P4を示した例、(b)が後方軌道映像D2用の画像探索位置P5を示した例、(c)が後方軌道映像D2の例、(d)がその画像D2に探索位置P5を示した例、(e)がマッチング対象のパターン例P6,P7である。
【0037】
列車20に搭載された運転状況記録装置30は、始発駅や折返し駅で列車20の出発態勢を調える際に起動され、終着駅や折返し駅で列車20を停めた後に停止される。そして、その間、走行状態や運転状況が記録装置36にデジタルデータで記録される。
具体的には、イベント情報Eが年月日時Tと列車位置Q[X,Y,Z]と速度情報Vなどと組にして記録装置36に記録され、前方軌道映像D1や後方軌道映像D2の連続映像が上述の時間単位で分割されて記録装置36に記録される。これらの記録情報にあっては、組データの一部や分割ファイルの名称などに事象発生時等の年月日時Tが含まれているので、それを利用して相互に対応させることができる。
【0038】
また、列車20の走行中には、上述した運転状況の記録と並行して、レール10の沿線に設置されている機器の画像検出と動作確認も沿線設置機器検出部47によって行われる。詳述すると、列車位置検出部41から列車位置Qが取り込まれるとともに、最も近い沿線設置機器の機器位置Nが沿線設置機器データ46から選出されて、その沿線設置機器が前方軌道映像D1に映り込むところまで列車位置Qが進んだことが確認されると、前方軌道映像D1の一コマが全体画像(D1)として取り込まれるとともに(図2(c)参照)、そのときの列車位置Qと組になっている機器画像Pが、検出対象の部分画像として、沿線設置機器データ46から選出される。
【0039】
機器画像Pの具体例を挙げると、沿線設置機器が踏切しゃ断機なら閉状態の画像P1や開状態の画像P2が使用され(図2(e)参照)、沿線設置機器が転てつ機なら本線側切替状態の画像や支線側切替状態の画像が使用され、沿線設置機器が信号機なら青色点灯状態の画像や赤色点灯状態の画像が使用される(図示せず)。
それから、全体画像(D1)において探索を開始する位置となる画像探索位置P0が決定されるが(図2(d)参照)、その位置算出は、マップデータ42と列車位置Q[X,Y,Z]と機器位置N[X,Y,Z]と撮像条件M[ΔX,ΔY,ΔZ,θ,φ]とから、幾何学的関係に基づいて(図2(a),(b)参照)、短時間で行われる。
【0040】
さらに、画像探索位置P0を中心にして探索範囲を広げながら全体画像(D1)の中で機器画像P1,P2とマッチングする部分画像が探索され、それによって、機器画像Pすなわち機器画像P1か機器画像P2が全体画像(D1)の中から見つかると、その機器画像Pの検出結果である全体画像(D1)における機器画像Pの検出位置(P4)や拡縮度などが後の画像探索位置決定や検出結果対比のために一時記憶される。沿線設置機器が踏切しゃ断機であれば、機器画像Pが機器画像P1とマッチングして閉状態が検知されたのか、機器画像Pが機器画像P2とマッチングして開状態が検知されたのか、ということも検出結果として一時記憶される。転てつ機の場合は切り替え状態が検知され、信号機の場合は点灯色が検知され、それらが検出結果として一時記憶される。
【0041】
このような処理は、列車20が沿線設置機器の所を通過する前後に渡って繰り返されるが、通過後は、画像の取り込みが前方軌道映像D1でなく後方軌道映像D2から行われて機器画像Pの検索が全体画像(D2)について行われる(図3(c)参照)。また、通過後の列車位置Qと組になる機器画像Pには、通過前とは逆向きに見た機器画像P6,P7が、検出対象の部分画像として、沿線設置機器データ46から選出される。ここでは、沿線設置機器が踏切しゃ断機の場合の具体例を挙げると、開状態の画像P6や閉状態の画像P7が使用される(図3(e)参照)。
【0042】
通過後も、先ず全体画像(D2)において探索を開始する位置となる画像探索位置P5が決定されるが(図3(d)参照)、その位置算出は通過前と異なっており、前方軌道11の全体画像(D1)について既に探索も検出も済んで一時記憶されていた画像位置P4が参照され(図3(a)参照)、その決定済み画像位置P4に基づいて短時間で全体画像(D2)における新たな画像探索位置P5が決定される(図3(b)参照)。決定済み画像位置P4は一般に最初の画像探索位置P0より小さく絞り込まれているため(図3(a)参照)、その決定済み画像位置P4の画像内左右対称位置を撮像条件Mで修正して決定された画像探索位置P5も小さくなるので、画像探索の処理負荷が一段と軽減される。
【0043】
それから、画像探索位置P5を中心にして探索範囲を広げながら全体画像(D2)の中で機器画像P6,P7とマッチングする部分画像が探索され、それによって、機器画像Pすなわち機器画像P6か機器画像P7が全体画像(D2)の中から見つかると、その機器画像Pの検出結果として、全体画像(D2)における機器画像Pの検出位置(P8)や拡縮度に加え、沿線設置機器が踏切しゃ断機であれば、機器画像Pが機器画像P6とマッチングして開状態が検知されたのか、機器画像Pが機器画像P7とマッチングして閉状態が検知されたのか、ということも判明する。転てつ機の場合は切り替え状態が検知され、信号機の場合は点灯色が検知される。
【0044】
そして、画像検出対象の沿線設置機器が踏切しゃ断機の場合は、列車位置Qが機器位置Nを通過する前に撮られた前方軌道11の全体画像(D1)を一つ以上と、列車位置Qが機器位置Nを通過した後に撮られた後方軌道12の全体画像(D2)を一つ以上とについて、検出した機器画像Pが閉状態から開状態に遷移しているか否かが調べられ、そのように状態遷移していれば沿線設置機器が正常に稼働していると判定され、そうでなければ異常があると判定される。
【0045】
画像検出対象の沿線設置機器が転てつ機の場合も、前方軌道11の全体画像(D1)と後方軌道12の全体画像(D2)について、正常に切り替えられているか否かが調べられて、稼働状態が判別される。信号機の場合は、二つ以上の前方軌道11の全体画像(D1)について、点灯や消灯さらには点灯色の変化が調べられ、稼働状態が判別される。
こうして、運転状況記録装置30を搭載した列車20がレール10を走行すると、それに連れて沿線設置機器の稼働状態がリアルタイムで次々に確認される。また、そうして得られた機器動作確認結果Rが沿線設置機器検出部47から記録制御部44に引き渡されて記録装置36に記録される。
【0046】
[その他]
なお、上記実施例では総ての撮像装置32,33が車外撮影用であったが、社内撮影用の撮像装置を追加して例えば運転席を撮った映像まで記録するようにしても良い。
【符号の説明】
【0047】
10…レール(軌道)、11…前方軌道、12…後方軌道、
20…列車、21…運転席、22…速度計、23…高度計、
30…運転状況記録装置(列車搭載用画像処理システム)、
31…筐体、32…第1撮像装置(車外の前方軌道撮影用)、
33…第2撮像装置(車外のうちの後方軌道を撮影する装置)、
34…GPSアンテナ、35…GPS受信機、36…記録装置、
40…データ処理装置、41…列車位置検出部、
42…マップデータ、43…時計、44…記録制御部、
45…映像処理部、46…沿線設置機器データ記憶部、
47…沿線設置機器検出部、48…撮像条件データ記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道の軌道を走行する列車に搭載される列車搭載用画像処理システムにおいて、車外を撮る撮像装置と、衛星航法システムによる測位を行うGPS受信機と、前記GPS受信機の測位結果に基づいて列車位置を得る列車位置検出部と、前記軌道に沿って設置された沿線設置機器に係る機器位置および機器画像をデータ保持する沿線設置機器データ記憶部と、前記列車位置の前記機器位置への接近を検知して異なる接近位置において前記撮像装置で撮った画像を取り込むとともにその複数の画像から前記機器画像を検出して検出結果を対比することにより前記沿線設置機器の動作を確認する沿線設置機器検出部とを備えていることを特徴とする列車搭載用画像処理システム。
【請求項2】
前記撮像装置が、前方軌道撮影用の第1撮像装置と後方軌道撮影用の第2撮像装置とを含んでおり、前記沿線設置機器検出部が、前記機器位置の列車通過前に前記第1撮像装置で撮った前方軌道の画像と前記機器位置の列車通過後に前記第2撮像装置で撮った後方軌道の画像とを対象にして画像処理を行うものであることを特徴とする請求項1記載の列車搭載用画像処理システム。
【請求項3】
前記沿線設置機器検出部が、前記第1撮像装置で撮った前方軌道の画像において前記機器画像を検出する際には前記列車位置と前記機器位置とに基づいて画像探索位置を決定するが、前記第2撮像装置で撮った後方軌道の画像において前記機器画像を検出する際には前記の前方軌道の画像について検出済みの画像位置に基づいて画像探索位置を決定するようになっていることを特徴とする請求項2記載の列車搭載用画像処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−201426(P2011−201426A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70662(P2010−70662)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(301028761)独立行政法人交通安全環境研究所 (55)
【出願人】(000207470)大同信号株式会社 (83)