説明

列車無線システム

【課題】経年劣化と区別して、誘導線の受信電界レベル低下が生じている異常発生位置を容易に特定することができるようにした列車無線システムを提供する。
【解決手段】車上局装置に、受信電界レベルを検出する受信電界レベル検出部5と、所定時間間隔で受信電界レベル検出部5により検出した受信電界レベルが判定閾値以下になったときにその受信電界レベルと位置情報と時刻情報を取得するレベル観測方式処理部8と、誘導線に設定した複数の観測点で受信電界レベル検出部5により検出した受信電界レベルのレベル段階区分と位置情報を取得する定点観測方式処理部9と、レベル観測方式処理部8および定点観測方式処理部9で取得した結果を記憶する観測結果記憶部10とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導線を使用して車両局装置と基地局装置との間で無線通信を行う列車無線システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載した車上局無線装置から誘導線を使用して基地局装置へ信号を伝送する列車無線システムが知られている(例えば、特許文献1を参照)。このような列車無線システムにおける誘導線は2線式と3線式があり、各方式とも1本の誘導線が切断しても、受信電界レベルの低下を起こすが、受信電界レベルが無くなることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−260726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の列車無線システムでは、地上局装置から見ると、誘導線に入出力が1箇所しかないこと、また1区間が数kmになることから、受信電界レベルが低下した場所を特定することができない。従って、誘導線における受信電界レベルの低下が生じている異常発生位置を特定するには、車上局装置の受信電界レベルを全区間にわたって測定する必要があり、また経年劣化を監視するのであれば定期的に測定する必要があった。
【0005】
本発明の目的は、経年劣化と区別して、誘導線の受信電界レベル低下が生じている異常発生位置を容易に特定することができるようにした列車無線システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、誘導線を使用して車上局装置と地上局装置の間で無線通信を行う列車無線システムにおいて、前記車上局装置に、受信電界レベルを検出する受信電界レベル検出部と、所定時間間隔で前記受信電界レベル検出部からの受信電界レベルを位置情報と時間情報とを関連付けて検出するレベル観測方式処理部と、前記誘導線上に設定した複数の観測点で前記受信電界レベル検出部からの受信電界レベルを位置情報と共に検出する定点観測方式処理部と、前記レベル観測方式処理部および前記定点観測方式処理部で検出した結果を記憶する観測結果記憶部とを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明による列車無線システムは、定点観測方式処理とレベル観測方式処理とを並行して行うことができるので、それぞれ異なる条件の受信電界レベルを検出することができ、受信電界レベルが低下した誘導線の異常発生位置を特定するのに有効である。また、定常走行時における車上局装置で受信電界レベルの監視を行うことができるので、定期検査作業として定期的に受信電界レベルを測定する必要がなく、簡単な作業となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施の形態による列車無線システムにおける車上局装置のブロック構成図である。
【図2】図1に示したレベル観測処理部での処理動作を示すフローチャートである。
【図3】図1に示した定点観測処理部での処理動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の一実施の形態による列車無線システムにおける車上局装置のブロック構成図である。
車上局装置は、アンテナ1と、送信部2および受信部3と、この送信部2または受信部3とアンテナ1との接続を切り替える切替部4と、通常の車上局装置としての図示を省略した周知の構成部分と、受信部3を通して受信電界レベルを検出する受信電界レベル検出部5と、位置情報を提供する位置検出部6と、時刻情報を提供する時計部7と、予め設定した一定時間間隔で受信電界レベル検出部5を用いて検出した受信電界レベルを、位置検出部6からの位置情報と時計部7からの時刻情報とを関連付けて抽出するレベル観測方式処理部8と、予め設定した観測点において受信電界レベル検出部5を用いて検出した受信電界レベルを位置検出部6からの位置情報と関連付けて抽出する定点観測方式処理部9と、レベル観測方式処理部8および定点観測方式処理部9での検出結果を記憶する観測結果記憶部10と、その都度の観測終了時点で観測結果を観測結果記憶部10から退避領域に測定結果を退避する退避記録装置11と、これらの各部を制御する制御部12と、制御部12での誘導線異常位置検出処理プログラムやその他通常の処理プログラムなどを格納した記憶部13などを有して構成している。
【0011】
上述したレベル観測方式処理部8は、種々の構成を採ることができるが、この実施の形態では、予め設定した一定時間間隔で受信電界レベル検出部5を用いて検出した受信電界レベルを予め設定した判定閾値と比較し、その結果、判定閾値以下のときに位置検出部6からの位置情報と時計部7からの時刻情報とを関連付けて抽出するようにしている。また、上述した定点観測方式処理部9も種々の構成を採ることができるが、この実施の形態では、予め設定した所定の観測点において受信電界レベル検出部5で受信電界レベルを検出し、この検出した受信電界レベルを予め設定したレベル段階区分のどれに該当するかを判定すると共に、位置検出部6からの位置情報を関連付けて抽出するようにしている。
【0012】
切替部4は送信部2または受信部3とアンテナ1間を制御部12によって切替接続可能であるが、常時、車上局装置はアンテナ1を通して地上局装置と通信状態となっているため、制御部12はアンテナ1と受信部3とを接続状態にしている。
【0013】
このような車上局装置は、監視する対象の路線を走行する全ての車両に搭載したり、同じ路線を定期的に走行する車両に搭載して使用され、誘導線異常位置検出処理プログラムに従ってレベル観測方式処理部8でのレベル観測方式処理と、このレベル観測方式処理とは異なる定点観測方式処理部9での定点観測方式処理とを行う。先ず、レベル観測方式処理部8でのレベル観測方式処理について、図2に示したフローチャートを用いて説明する。
【0014】
レベル観測方式処理時に使用される時計部7には、例えば、電源を投入してから200ms程度を経過してから、一定時間間隔で設定した所定のタイミング、例えば200msまたは500ms間隔で電界強度検出部5を用いて受信電界レベルを取得するように予め観測タイミングが設定されている。この観測タイミングの設定は、時計部7で行うものに限らず、レベル観測方式処理部8の図示しないタイミング設定部で行うようにすることもできる。
【0015】
ステップS1で電源を投入すると、時計部7などがステップS2で200ms程度をカウントして観測タイミングを受信電界レベル検出部5に与える。これを受けた受信電界レベル検出部5は、ステップS3で受信部3から受信電界レベルを取得する。次いで、ステップS4でレベル観測方式処理部8は、この取得した受信電界レベルを取り込み、予め設定した判定閾値と比較する。
【0016】
ステップS4での比較の結果、取得した受信電界レベルが判定閾値以下であると判定した場合、レベル観測方式処理部8は、ステップS5で位置検知部6からそのときの位置情報を取得し、また時計部7からそのときの時刻情報を取得し、これらの位置情報および時刻情報を取得した受信電界レベルと関連付けて観測結果記録部10に記憶する。
【0017】
第一回目の受信電界レベルの観測が終了したとき、制御部12は、第一回目の受信電界レベルの観測を終了し、観測結果記憶部10から退避記録装置11の退避領域に測定結果を退避する。
【0018】
また第一回目の受信電界レベルの観測が終了した後、ステップS6で一定時間間隔での観測全体が完了しているかどうか、つまり終了条件を判定し、終了条件を満たしている場合は終了となる。一方、終了条件を満たしていない場合はステップS2に戻り、一定時間間隔で第二回目の受信電界レベルの観測を第一回目と同様に行う。
【0019】
このようなレベル観測方式処理部8でのレベル観測方式処理によれば、誘導線の異常が発生していて受信電界レベルが判定閾値以下に低下したとき、そのときの受信電界レベルと、位置情報と、時刻情報とが関連付けられて観測結果記録部10に記憶されることになる。従って、誘導線の異常発生位置を特定するために分析可能な情報が観測結果記録部10に保管される。
【0020】
次に、定点観測方式処理部9での定点観測方式処理について、図3に示したフローチャートを用いて説明する。
定点観測方式処理時に参照される位置検知部6または時計部7には、予め誘導線上における複数の観測点が決定されており、車両が各観測点に達したとき電界レベル検出部5での受信電界レベルの測定が行われるように観測タイミングが設定されている。例えば、カウンタによって複数の観測点にそれぞれ対応するように観測タイミングが設定されている。このカウンタは、制御部12または時計部7からの計測開始信号を受けてクリアされ、カウントを開始し、その観測点での受信電界レベルの観測が終了したとき、1を加算する。しかし、この観測タイミングの設定は、位置検知部6または時計部7とは別に定点観測方式処理部9の図示しないタイミング設定部で行うようにしても良い。また定点観測方式処理部9には、定点観測方式処理のために複数、例えば10段階程度に受信電界レベルを区分し、各観測点での測定結果がどのレベル段階区分に該当するのかを判定するようにしている。
【0021】
先ず、位置検知部6が、ステップS8で車両が誘導線上の予め設定した第一番目の観測点に到達したことを検出すると、受信電界レベル検出部5に受信電界レベルの取得信号を与える。この取得信号を受けた受信電界レベル検出部5は、ステップS9で受信電界レベルを取得する。定点観測方式処理部9は、この取得した受信電界レベルを取り込み、ステップS10で第一番目の観測点で測定した受信電界レベルが予め区分したどのレベル段階区分に該当するのかを判断し、ステップS11で位置検出部6から取得したその位置情報とレベル段階区分とを関連付けて観測結果記憶部10に記憶する。
【0022】
第一回目の観測点での受信電界レベルの観測が終了したとき、制御部12は、第一回目の観測点での受信電界レベルの観測を終了し、観測結果記憶部10から退避記録装置11の退避領域に測定結果を退避する。
【0023】
次いで、ステップS12で位置検出部6で設定した観測点情報を参照して、全ての観測点における観測が完了しているかどうかを判定し、終了条件を満たしている場合は終了となり、一方、終了条件を満たしていない場合は、ステップS8に戻って第二番目の観測点における観測を実施する。第二番目以降の各観測点における観測も先の場合と同様に実施され、ステップS12の終了条件に達したときに終了となる。
【0024】
この定点観測方式処理部9での定点観測方式処理によって、誘導線上の各観測点における受信電界レベルが予め区分したレベル段階区分として、位置情報と共に観測結果記憶部10に記憶される。
【0025】
このようにして車上局装置で、レベル観測方式処理部8でのレベル観測方式処理および定点観測方式処理部9での定点観測方式処理によって退避記録装置11に格納した情報は、USBやSDカード等の記憶媒体経由で取り込んで、パソコン等の分析ツールで測定結果の分析を行うことができる。
【0026】
実際の解析では、上述した車上局装置におけるレベル観測方式処理部8でのレベル観測方式処理および定点観測方式処理部9での定点観測方式処理の結果だけでなく、同じ路線を複数回走行する場合に行った他の計測結果や、同じ路線を走行する他の車両に搭載した車上局装置による同様の計測結果も合わせて用いることができる。
【0027】
上述したように本実施の形態による列車無線システムでは、誘導線を使用して車上局装置と地上局装置の間で無線通信を行う列車無線システムにおいて、車上局装置に、受信電界レベルを検出する受信電界レベル検出部5と、所定時間間隔で受信電界レベル検出部5により検出した受信電界レベルが判定閾値以下になったときにその受信電界レベルと位置情報と時刻情報を取得するレベル観測方式処理部8と、誘導線に設定した複数の観測点で該受信電界レベル検出部5により検出した受信電界レベルのレベル段階区分と位置情報を取得する定点観測方式処理部9と、レベル観測方式処理部8および定点観測方式処理部9で取得した結果を記憶する観測結果記憶部10とを設けている。
【0028】
このような列車無線システムによれば、レベル観測方式処理と定点観測方式処理とを組み合わせているため、それぞれ異なる条件の受信電界レベルを計測し、その結果を記憶することができ、計測結果を用いて経年劣化と、この経年劣化と区別して誘導線の異常発生を判別しながら、受信電界レベルの低下傾向から誘導線の異常発生位置を特定するのに用いることができる。しかも、このような解析のための計測は、定常走行時における車上局装置で行うことができるので、特別な定期検査作業として定期的に受信電界レベルを測定する必要がなくなり、簡単な作業となる。
【0029】
例えば、レベル観測方式処理では、一定時間間隔で受信電界レベルを測定し、受信電界レベルが判定閾値以下になったときの情報を収集するので、今回の計測結果や、前回または他の車上局装置での計測結果や、定点観測方式処理で記録した位置と比較しながら、受信電界レベルが低下した位置の有無および位置情報を得ることができ、受信電界レベルが低下した誘導線の異常発生の有無とその異常発生位置を特定するのに有効である。また定点観測方式処理によって今回の計測結果と、前回または他の車上局装置での計測結果と、さらにはレベル観測方式処理での計測結果と比較しながら、各観測点での時間経過と共に受信電界レベルの推移を知ることができるので、受信電界レベルの低下が複数の計測時に共通ではなく特定の車上局装置による計測時に固有のものであれば、その車上局装置の受信機の故障を疑うことができる。さらに、両観測方式処理や各車上局装置による計測時に共通であれば、受信機の故障とは区別して誘導線側の経年劣化等によるレベル低下であると簡単に精度良く判断することができる。
【0030】
先の実施の形態によるレベル観測方式処理部8でのレベル観測方式処理は、予め受信電界レベルの判定閾値を設定し、受信電界レベル検出部5で検出した受信電界レベルが判定閾値以下に低下したとき、また受信電界レベルが判定閾値にまで回復したとき、そのときの受信電界レベルと、位置情報と、時刻情報とを関連付けて観測結果記録部10に記憶するようにしても良いし、受信電界レベル検出部5で検出した全ての受信電界レベルと、位置情報と、時刻情報とを関連付けて観測結果記録部10に記憶し、その後の解析時に、記憶情報から受信電界レベルのうち判定閾値以下のものを位置情報および時刻情報と共に抽出し、また回復時の受信電界レベルを位置情報および時刻情報と共に抽出し、これらの抽出情報から解析を行うようにしても良い。
【0031】
また先の実施の形態による定点観測方式処理を行う定点観測方式処理部9は、誘導線上に設定した複数の観測点において受信電界レベル検出部5で受信電界レベルを検出し、この検出後の受信電界レベルをレベル段階区分に割り付けた結果を記憶したが、受信電界レベル検出部5で検出した全ての観測点での受信電界レベルと位置情報とを関連付けて観測結果記録部10に記憶し、その後の解析時に、記憶情報から受信電界レベルを対応するレベル段階区分に割り付け処理を行い、この処理情報から解析を行うようにしても良い。
【0032】
従って本発明では、少なくとも所定時間間隔で受信電界レベルを位置情報と時間情報とを関連付けて検出するレベル観測方式処理部8と、誘導線上に設定した各観測点における受信電界レベルを位置情報と共に検出する定点観測方式処理部9と、レベル観測方式処理部8および定点観測方式処理部9で検出した結果を記憶する観測結果記憶部10とを設けた構成とすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、図1に示した車上局装置について説明したが、その他の構成の車上局装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 アンテナ
2 送信部
3 受信部
4 切替部
5 受信電界レベル検出部
6 位置検出部
7 時計部
8 レベル観測方式処理部
9 定点観測方式処理部
10 観測結果記憶部
11 退避記憶装置
12 制御部
13 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導線を使用して車上局装置と地上局装置の間で無線通信を行う列車無線システムにおいて、前記車上局装置に、受信電界レベルを検出する受信電界レベル検出部と、所定時間間隔で前記受信電界レベル検出部からの受信電界レベルを位置情報と時間情報とを関連付けて検出するレベル観測方式処理部と、前記誘導線上に設定した複数の観測点で前記受信電界レベル検出部からの受信電界レベルを位置情報と共に検出する定点観測方式処理部と、前記レベル観測方式処理部および前記定点観測方式処理部で検出した結果を記憶する観測結果記憶部とを設けたことを特徴とする列車無線システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−191398(P2012−191398A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52696(P2011−52696)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】