説明

制御された界面化学勾配

界面化学勾配を製造するための単純かつ再現可能な調製用の方法が、本明細書中に記載される。界面化学勾配フィルムが、基材に対する相対運動における液体フロントを用いて(例えば、直線運動ドライブによる液浸または伝播性の液滴の使用)、基材サンプルを、吸着物の非常に希釈した溶液に、徐々に曝露することによって調製される。XPSによって実証されるように、本方法において製造される自己組織化単層勾配は、高い充填密度を示す。本方法は、1次元または2次元における、種々の化学的官能性または生化学的官能性の他の勾配調製において使用され得る。このような勾配は、多様な領域(例えば、細胞運動性研究、ナノ摩擦学研究およびハイスループットスクリーニング)において、広範な応用において使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、Nicholas D.Spencerらに対する、「制御された疎水性勾配(Controlled Hydrophobicity Gradients)」と表題付けられた、米国仮出願番号60/459,823(2003年3月31日出願)の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、界面化学勾配およびその製造のためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
金の上でのアルカンチオールの自己組織化は、重要な研究の対象であった周知のプロセスである(例えば、Bain,C.D.ら、J.Am.Chem.Soc.1989,111,321−335;Bain,C.D.およびWhitesides,G.M.J.Am.Chem.Soc.1988,110.6560−6561を参照のこと)。単一成分の自己組織化単層および混合自己組織化単層は、広範に研究されてきた。研究されてきた混合系は、しばしば、メチル末端チオールおよびヒドロキシル末端チオールからなる。なぜならば、それらの系の吸着は、水の接触角測定によって容易にモニタリングされるからである。このような混合単層は、安定であり、かつ容易に製造されることが明らかになった。
【0004】
化学勾配は、多くの実際的な応用(例えば、生体分子相互作用を調べること、細胞運動性研究、診断学、ナノ摩擦学または微流体工学)にとって非常に興味深いものであり、そして、これらは、組み合わせた研究に役に立つ。なぜならば、化学的性質のスペクトル全体が、単一の実験で包含され得るからである。種々の基材についての多くの勾配調製技術が記載されており(例えば、Ruardy,T.G.ら、Surf.Sci.Rep.1997,29,1−30;Liedberg,B.およびTengvall,P.Langmuir,1995,11,3821−3827;Efimenko K.らMacromolecules 2003,36,2448−2453を参照のこと)、そしてこのような勾配は、さらなる実験および応用について使用されている(Herbert C.B.ら、Chem.Biol.1997、4,731−737;Sehayek T.,Vaskevich A.およびRubinstein I.J.Am.Chem.Soc.2003,125,4718−4719)。数個の方法が、チオールを基礎とする化学勾配の生成について報告されており、この方法としては、(1)多糖マトリクスを通した、2つのチオール溶液の交差拡散(cross−diffusion)(Liedberg,B.およびTengvall,P.Langmuir,1995,11,3821−3827)、(2)吸着中の、基材への電気化学電位印加(Terrill R.H.ら、J.Am.Chem.Soc 2000,122,988−989)、(3)微小流体デバイスの使用(Jeon N.L.ら、Langmuir 2000,16,8311−8316;Dertinger S.K.W.ら、Anal.Chem.2001,73,1240−1246)および(4)走査型トンネル顕微鏡に基づく置換リソグラフィー(Fuierer R.R.ら、Adv.Mater.2002,14,154−157)が挙げられる。電気化学電位アプローチを除いては、上記勾配の形成は、物理的な大きさが限定されてきた。電気化学アプローチは、伝導基材上に勾配を形成することに限定される複雑なプロセスである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、種々の基材上に吸着単層の化学勾配を製造する、より単純な方法を見出すことが、本発明の目的である。
【0006】
1cm以上のオーダーである、吸着単層の化学勾配を製造するための方法を提供することもまた、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の簡単な要旨)
界面化学勾配の製造のための、単純かつ再現可能な調製用の方法が、本明細書中に記載される。界面化学勾配フィルムは、基材界面に対する相対運動において液体の境界を移動することにより、1つの吸着物の希釈溶液から調製される。1つの実施形態において、これは直線運動ドライブ用いて、溶液中にサンプルを徐々に液浸することによって達成される。その後、この界面は、別の吸着物の希釈溶液への液浸によって飽和される。X線光電子スペクトル法(XPS)によって実証されるように、この方法で製造される自己組織化された単層勾配は、高充填密度を示す。この方法は、1次元または2次元における化学的機能性または生物学的機能性の勾配の調製において、用いられ得る。このような勾配は、広範囲の多様な領域(例えば、細胞運動性研究、ナノ摩擦学研究およびハイスループットスクリーニング)における応用において用いられ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(発明の詳細な説明)
(I.化学勾配を作製するための方法)
界面化学勾配フィルムは、基材に対する相対運動における、吸着物を含有する液体境界を用いることによって調製される。別個のサンプルの、異なる界面化学濃度(例えば疎水性値)は、液浸時間が空間的な分布に変換され、それによって勾配を生成する場合、単一の基材上に生じさせ得る。1つの実施形態において、このことは、直線運動ドライブによる、吸着物の溶液への、基材の制御された液浸を通して達成される。第2の実施形態において、移動性液体フロントは、シリンジおよびシリンジポンプによって達成される。
【0009】
必要に応じて、上記プロセスは第2の工程を包含し、この工程において界面は、第1の溶液と異なる第2の吸着溶液中に液浸される。この第2の工程は、勾配を組み込む完全な単層を形成するために特に有用である。
【0010】
単一成分からなる界面化学勾配フィルムは、基材の液浸軸に沿う吸着物の、異なる被覆および充填の結果である。部分的な単層は一般的に、全単層よりも規則正しくないので、この最初の界面はまた、規則正しい勾配を示す。界面化学勾配を保持しつつ、完全な単層の形成を促進するようこの不均質性を取り除くために、基材は第2の工程において、第2の吸着溶液中に液浸される。一般的に、第2の工程において、より濃縮された吸着溶液が使用される。
【0011】
必要に応じて、勾配は、2つの別個の吸着物への、2回の垂直の液浸を用いて形成され得る。このプロセスは2次元の化学勾配を形成する。
【0012】
(A.直線運動ドライブを用いる勾配の形成)
1つの実施形態において、1種類の吸着物の界面濃度勾配は、直線運動ドライブを用いて、基材を非常に希釈した吸着溶液中に徐々に液浸することにより達成される。このサンプルに沿う位置は、個々の液浸時間に直接的に対応する。したがって、直線運動の速度は、吸着速度論にしたがって注意深く選択される。
【0013】
直線運動の速度は、一般的に0.1μm/秒〜10cm/秒の範囲であり、そして好ましくは、10μm/秒〜100μm/秒の範囲である。これらの速度は、制御可能な直線運動ドライブを考慮に入れている。
【0014】
典型的な速度範囲は、1μm/秒〜2.5mm/秒である。実施例において記載される勾配を形成するために使用される速度は、以下の通りである。OH−/CH勾配(5μM 1−メルカプト−11−ウンデカノール(HO(CH11SH)および10μMドデカンチオール(CH(CH11SH))に対し、速度は、OH−末端のチオール溶液について50μm/秒であり、続いてCH−末端のチオール溶液中に一晩液浸した。COOH−/CH勾配(10μM(1−メルカプト−11−ウンデカノール(COOH)CH11SH)および5μMドデカンチオール(CH(CH11SH))に対する速度は、CH−末端のチオール溶液について75μm/秒であり、続いてCOOH−末端のチオール溶液中に一晩液浸した。CF−/CH勾配(5μM 1H,1H,2H,2H,−ペルフルオロデカン−1−チオール(CF(CF(CHSH)および10μMドデカンチオール(CH(CH11SH))に対する速度は、CF−末端のチオール溶液について200μm/秒であり、続いてCH−末端のチオール溶液中に一晩液浸した。
【0015】
(B.シリンジポンプを用いる勾配の形成)
第2の実施形態において、シリンジポンプの針は、シリンジの(シリンジポンプによる)操作において、第1の希釈吸着溶液の伝播性の増大する液滴が、界面上に生成されるよう基材界面に密接に近接して配置される。このことは、直線運動勾配を用いて得られたのと同様の組成上の範囲を伴う、局所的な、半径方向において対称的な勾配を、界面上に作製する。第2の液浸工程は、第2の吸着溶液へのサンプルの液浸を包含する。
【0016】
(C.第2の液浸工程)
第1の吸着工程の後に、上記基材は、補完的な吸着溶液中に液浸され得、有意な距離を越える単層内の界面化学勾配を提供する。吸着物の補完的な対(すなわち、第1の溶液および第2の溶液)は、1つの末端基が生体活性または親水性であり、そしてもう1つの末端基が不活性または疎水性となるよう、異なる末端基で末端となる長鎖(C12〜C20)チオールを含む。実質的には、任意の組み合わせの末端基が、使用され得る。末端基の組み合わせは、特定の界面化学目的に基づいて選択される。適切な末端基対としては以下が挙げられる:−CH/−OH、−CH/−COOH、−CH/−CFおよび−OCH/ビオチン。
【0017】
(D.界面)
基材は、広範囲の材料で形成され得る。適切な材料としては、ガラス、金属、酸化物および合成ポリマーの界面が挙げられ得る。この界面は、表面に金層を含むよう処理されたガラス界面またはシリコン界面であり得る。界面は、シリコンウエハまたは他の半導体の界面であり得る。界面の選択は、吸着物−基材相互作用によって決定される。
【0018】
界面は、長いか、または短くあり得る。適切な長さは、1mm〜1センチメートルまたはそれ以上の範囲であり得る。好ましい実施形態において、界面の長さは、1cm以上であり、そして典型的には、1cm〜5cmの範囲である。基材の長さは、10cm以上であり得る。
【0019】
(E.勾配を形成するために用いられる吸着溶液)
基材の界面上に吸着する化合物を含む、任意の溶液が使用され得る。好ましい実施形態において、界面は金界面であり、そして吸着溶液はチオールを含む。適切なチオールとしては、アルカンチオール(例えば、異なる炭水化物鎖長を有するメチル末端チオールであるCH(CHSH(ここで、n=4〜18);異なる炭水化物鎖長を有するヒドロキシル末端チオールである、OH(CHSH(ここで、n=8〜18)、異なる炭水化物鎖長を有するカルボキシル末端チオールであるHOOC(CHSH(ここで、n=8〜18);および1H,2H,2H,2H−ペルフルオロデカン−1−チオール((CF(CF(CHSH))が挙げられる。必要に応じて、上記アルカンは、反応基で末端に官能性を持たせる。このような反応基としては、ビオチン、ビニルスルホン、マレイミドまたはN−ヒドロキシスクシニミドが挙げられる。これらの反応基は、生物化学勾配を調製するよう生体分子と結合され得る。この生体分子は、任意の生体分子であり得、例えば、ペプチド、タンパク質、オリゴ糖類、多糖類、DNA、RNAまたは脂質が含まれる。
【0020】
さらに、直線勾配および放射勾配は、例えば、2つの異なる吸着性の高分子電解質(例えば、末端官能化を伴うか、あるいは伴わない、ポリ(L−リジン)−g−ポリ(エチレングリコール))によって、酸化シリコンウエハ上に製造され得る。この末端官能化された分子は、生物化学勾配を調製するよう生体分子と結合され得る。
【0021】
吸着溶液の濃度は、代表的には0.1μM〜0.1Mの範囲である。好ましくは、この濃度は1μM〜1mMの範囲である。この濃度は、速度により選択され、吸着物の濃度が1つの末端から逆の末端まで増大する界面を生成する。したがって、1つの末端は、第1の吸着物をほとんど含まないか、あるいは全く含まず、一方、他方の末端は第1の吸着物で完全に飽和されるか、あるいはほとんど飽和される。第2の吸着物が添加される場合、それは第1の吸着物の濃度に対し、逆の濃度勾配を有する。
【0022】
(II.化学勾配)
この界面化学勾配は、界面の疎水性/親水性が、基材界面の長さ部分(または半径部分)に沿って増大または減少する疎水性勾配、あるいは、生体分子の濃度が基材界面の長さ(または半径)に沿って増大または減少する、生体分子を含む勾配を形成しうる。この勾配は、代表的には、自己組織化単層(SAM)である。
【0023】
本明細書中に記載のプロセスを用いて製造された界面化学勾配は、動的接触角における低いヒステリシス(図1a)およびX線光電子スペクトル法(XPS)測定(図2)によって実証されるように、高い充填密度を示す。
【0024】
アルカンチオールを用いて形成された金上の全単層について、一定の硫黄濃度(約6原子%)が、全ての勾配にわたって予期される。同時に、酸素の正規化された原子濃度は、疎水性側から親水性側へと増大し、一方、炭素の量は、末端メチル基がヒドロキシル基によってだんだんと置換されるので、減少する。
【0025】
勾配は、1次元勾配または2次元勾配であり得る。
【0026】
(III.勾配についての応用)
本方法は、1次元または2次元における、種々の化学的官能性または生化学的官能性の勾配の調製において使用され得る。このような勾配は、細胞運動性研究および他の生物学的な研究、診断学、微小流体工学、ナノトライボロジー研究およびハイスループットスクリーニングを含む、広範囲の応用において使用され得る。勾配は、例えば、特定の界面種に対する細胞の感受性を決定するために、細胞を分類するために、微生物を同定するために、ならびに細胞に対する界面結合製剤の効果を試験するために使用され得る。勾配はまた、特定種の界面濃度に依存し得る、任意の物理的特性(摩擦、潤滑、磨耗または接着を含む)を研究するために使用され得る。
【0027】
本明細書中に記載される方法および組成物は、以下の非限定的実施例を参照することによってさらに理解される。
【実施例】
【0028】
(実施例1:勾配SAMフィルムの調製)
利用した2つのアルカンチオールは、ドデカンチオール(CH(CH11SH)および11−メルカプト−1−ウンデカノール(HO(CH11SH)であり、両方ともAldrich Chemicals(Milwaukee,WI,USA)から入手した。エタノール(純度>99.8%、Merck,Darmstadt,Germany)を、溶媒として使用した。SAMフィルムに対する基材を、標準的な方法(Bain,C.D.ら、J.Am.Chem.Soc.1989,111,321−335)にしたがって、金(純度>99.99%、Unaxia,Balzers,Liechtenstein)を、シリコンウエハ(POWATEC,Cham,Switzerland)上に蒸着させることにより調製した。このシリコンウエハを、蒸着チャンバー(MED 020コーティングシステム、BALTEC,Balzers,Liechtenstein)において、およそ2・10−5mbarの圧力で、6nm厚のクロム接着層でコーティングし、続いて80nmの金フィルムでコーティングした。全てのガラス製品を、ピラニア溶液(濃縮したHSO/30%H、7:3)で20分間清浄し、そして脱イオン水およびエタノールで十分にリンスした。保存溶液を、CH(CH11SHまたはHO(CH11SHを、1mMの濃度でエタノール中に溶解することによって調製した。全ての他の溶液を、対応する保存溶液のさらなる希釈によって調製した。
【0029】
勾配SAMフィルムを、金でコーティングされたシリコン基材(長さ4cm、幅1cm)の長軸に沿った、アルカンチオール含有溶液における液浸時間を変えることによって生成した。液浸速度を、50μm/秒とした。したがって、4cm長基材の1つの末端を、800秒間(13分および20秒)、そしてもう1つの末端を1秒間未満液浸した。この基材に沿う液浸時間の差異は、直線的であった。基材の液浸を、コンピューター駆動の直線運動ドライブ(OWIS,Staufen,Germany)によって制御した。全ての基材を、液浸の前に、エタノールでリンスし、窒素で乾燥し、そしてプラズマ洗浄(30秒 N、高出力、Harrick Plasma Cleaner/Sterilizer PDC−32G機器、Ossining,NY,USA)した。特性付けの前に、基材を再びエタノールでリンスし、そして窒素で乾燥した。
【0030】
(勾配SAMフィルムの特性付け)
勾配SAMフィルムの疎水性変動を、サンプルの長軸に沿う位置の関数として、水接触角を測定することによって特性付けた。静的な接触角および動的な接触角の両方を、接触角ゴニオメーター(それぞれ、Rame Hart モデル100,Rame Hart Inc.,Mountain Lakes,NJ,USAおよびG2/G40 2.05−D,Kruss GmBH,Hamburg,Germany)を利用して測定した。動的接触角の測定結果を、デジタル画像分析を使用して評価した。X線光電子スペクトルを、AI Kα供給源(350W、15kV)を備えるPHI5700分光計を用いて、45°のテイクオフ角で得た。工程ごとの46.95eVおよび0.1eVの通過エネルギーを、曝露時間を保ち、そしてそれ故に、適切なシグナル対ノイズ比を有しながらX線損傷を最小に保つために使用した。4つの領域(Cls、Ols、S2pおよびAu4f)の各測定に対する曝露時間を、700秒とした。
【0031】
(結果および考察)
先行する研究において、金基材上でのアルカンチオール吸着の反応速度は、アルカンチオール部分を含有する溶液における、一連のサンプルの曝露時間を変えることにより研究されてきた(例えば、Bain,C.D.ら、J.Am.Chem.Soc.1989,111,321−355;Bain,C.D.およびWhitesides,G.M.J.Am.Chem.Soc.1988,110.6560−6561を参照のこと)。このアプローチを、異なる濃度で、CH(CH11SHおよびHO(CH11SH両方に対して再現した。全ての事例において、24時間の液浸後の水接触角(静的)は、飽和値に達した。初期段階(<30分)における吸着行動は、溶液濃度およびアルカンチオールの種類に強い依存性を示す。非常に濃縮した溶液(1mM)について、両方のチオール(CH(CH11SHおよびHO(CH11SH)は、液浸直後(<1分)の飽和単層値から5%未満の偏向を有する水接触角に達し、一方、より希釈した溶液(0.01mMおよび0.0033mM)に対するこれらの値に達するためには、系統的により長い時間を必要とした。さらに、HO(CH11SHは、おそらくエタノールに対する自身のより高い親和性に起因して、CH(CH11SHより遅い吸着行動を示した。
【0032】
本実施例において、第1の工程において、3.3μMの濃度および40μm/秒の直線運動速度を使用した。次いでサンプルを、第2の工程において、補完的なチオール溶液中に液浸した。
【0033】
第2の液浸工程について、2つのアプローチを利用した:(a)サンプルを、第1の工程におけるのと同じ方法で液浸し、第1の成分にほとんど曝露していない末端を、初めに補完的な溶液中に液浸した(「頭−尾法」);または(b)最初の工程に続いて、サンプルを所定の時間補完的な溶液中に十分に液浸した(完全液浸法)。空いている結合部位の充填を容易にするために、より高い濃度(0.01mM)を第2の溶液について選択した。第2の溶液中へのそれらの液浸に先立ち、サンプルをエタノールでリンスし、そして窒素の気流で風乾した。
【0034】
両方の代替物は、疎水性勾配の範囲が、第2の溶液中への液浸後に拡大されるということを示した。しかしながら、単層の完成性および再現性/安定性に関して、完全液浸工程は最良の結果を提供した。
【0035】
一晩の完全液浸から得られた前進接触角および後退接触角の測定を、図1(a)に示す。この図において、5つの異なる勾配フィルムから得た結果を、それらの再現性(±5°)を示すためにプロットする。35mmにわたって1.5°/mmの平均水接触角勾配を備える、完全に直線的な疎水性勾配が得られる。前進接触角と後退接触角との間の14°の平均水接触角ヒステリシスは、単層形成がほぼ完全に勾配に沿うということを示す(Bain,C.D.ら、J.Am.Chem.Soc.1989,111,321−335)。
【0036】
図1(b)における図は、40mmの長さを備える界面上に、完全液浸法によって生成される疎水性勾配に沿う水滴の2次元画像を提供する。
【0037】
このような勾配の化学的組成をまた、調製直後にXPSによって特性づけた。炭素1sシグナルの随伴性の減少を伴う酸素1sについての接触角の結果と一致するほぼ直線的な増加を、実験において見出した(図2を参照のこと)。0.003mMのHO(CH11SHまたは0.003mMのCH(CH11SHのいずれかにおいて24時間液浸した2つのコントロールサンプルを備える勾配の両端の比較は、化学的組成が、ほぼ完全なCH(CH11SHの単層からほぼ完全なHO(CH11SHの単層に、非常になめらかかつほぼ直線的な様式で変化することを実証する。純粋な単層の組成を、単層の減衰効果および45°のテイクオフ角で補正した理論的なモデルと比較した(Laibinis,P.E.ら、J.Phys.Chem.1991,95,7017−7021)。純粋なHO(CH11SHサンプルの事例においては、過剰な炭素が見出されたが、純粋なCH(CH11SHサンプルの事例において、完全な一致を観察した。このことは、疎水性メチル末端界面の低い界面エネルギーと比較して、より高い界面エネルギーサンプルによる炭素混入に対するより高い親和性によって説明され得る。この説明は、HO(CH11SHから製造したフィルムが、CH(CH11SHフィルムより常に数オングストローム(Å)厚い、偏光解析法からの結果と非常に一致している(Liedberg,B.およびTengvall,P.Langmuir,1995,11,3821−3827;Liedberg,B.,ら、U.Langmuir 1997,13,5329−5334)。炭素混入の単層が、OH末端化した界面上に存在するとみなされる場合、計算される正規化した原子濃度は、誤差範囲内の実験値と一致する。
【0038】
両方の末端は、いずれかの単一成分中に液浸したサンプルと非常に一致する:CH(CH11SHまたはHO(CH11SH。完全CH末端化チオールフィルムに対する理論値または完全OH末端化チオールフィルムに対する理論値を、15Å厚モデル(偏光解析法およびモデリングからの値;45°の電子テイクオフ角:0.085の減衰長(運動エネルギー)0.5)を用いて計算した。OH末端化フィルムの事例における計算値と実験値との間の不一致は、親水性サンプルのさらなる炭素混入で説明され得る。
【0039】
(実施例2:湿潤性勾配の調製(水接触角において50°〜105°))
より高い範囲の水接触角をカバーする疎水性勾配は、4cm×1cmサイズの、清浄した金でコーティングされたシリコンウエハを、5μMの1−メルカプト−11−ウンデカノール(HO(CH11SH)溶液中に、50μm/秒の速度で徐々に液浸することによって生成され得る。一旦、サンプルを完全に液浸し、それを2.5mm/秒の速度で引き抜き、エタノールでリンスし、そして窒素で乾燥する。10μMドデカンチオール(CH(CH11SH)中への一晩の液浸後に、水接触角において50°〜105°の勾配を生成する。
【0040】
(実施例3:湿潤性/電荷勾配の調製(水接触角において15°〜75°))
疎水性勾配はまた、メチル末端化チオール(CH(CH11SH)とカルボキシル末端化チオール(HOOC(CH10SH)を、組み合わせることによって調製され得る。4cm×1cmサイズの、清浄した金でコーティングされたシリコンウエハを、5μMのドデカンチオール(CH(CH11SH)溶液中へと、75μm/秒の速度で全サンプルが液浸されるまで液浸した。次いでそれを2.5mm/秒の速度で引き戻し、エタノールでリンスし、そして窒素で乾燥した。10μMの11−メルカプトウンデカン酸(HOOC(CH10SH)溶液中への一晩の液浸後に、水接触角における15°〜75°の勾配を生成した。
【0041】
(実施例4:フッ素濃度勾配の調製)
フッ素濃度勾配は、上記と同様の方法によって調製され得る。4cm×1cmの、清浄した金でコーティングされたシリコンウエハを、5μMのエタノール性の1H,1H,2H,2H,−ペルフルオロデカン−1−チオール(CF(CF(CHSH)溶液中へと、200μm/秒の速度で全サンプルが液浸されるまで液浸した。サンプルをエタノールでリンスし、そして窒素で乾燥した後に、それを10μMの1−ドデカンチオール(CH(CH11SH)エタノール性溶液中に、一晩液浸した。X線光電子スペクトル法(XPS)によるサンプルの化学的分析は、フッ素濃度が0原子%(勾配のメチルリッチ側)から20原子%(勾配のフッ素リッチ側へと)直線的に伸び、他方では炭素濃度が95%原子濃度から75%原子濃度へと減少することを示す。勾配のフッ素リッチ部分およびメチルリッチ部分の湿潤性は、水によって識別可能ではない。したがって、フッ素濃度勾配は、例えば、毛管力における差異の非存在下において、摩擦力勾配を提供し得る。
【0042】
この開示される発明は、記載される特定の方法論、プロトコールおよび試薬に限定されず、異なり得ることが理解される。本明細書中に使用される専門用語は、特定の実施形態のみを記述する目的のためであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を、制限することを意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1a】図1aは、2つの吸着物に関する勾配に沿う、動的接触角(°)のグラフであり、その1つは親水性の末端基(−OH)を、もう1つは疎水性の末端基(−CH)を備える。前進(黒丸)および後退(白丸)接触角を、グラフ上に表す。
【図1b】図1bは、湿潤性勾配に沿う水滴の図である。
【図2】図2は、XPSによって測定される湿潤性(−CH/−OH)勾配に沿う原子濃度(%)のグラフ(疎水性末端からの距離(mm))である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に界面化学勾配を調製するための方法であって、該方法は、
第1の吸着物を含む第1の溶液の前進フロントに、該基材を曝露する工程、
を包含し、
ここで、該基材は、該第1の溶液に、界面上に該第1の吸着物を吸着するのに十分な時間、該基材上の第1の領域から該基材上の第2の領域へと濃度を減少する量で曝露される、方法。
【請求項2】
第2の吸着物を含む第2の溶液に、前記基材を曝露する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記界面化学勾配が、前記界面の長さ全体にわたって、該界面に誘引される水の量を変化させる疎水性勾配である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基材の前記界面が、ガラス、金属、酸化物および合成ポリマーからなる群より選択される材料で形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記界面が金であり、そして前記第1の溶液および前記第2の溶液がアルカンチオールを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記界面が酸化物であり、そして前記第1の溶液および前記第2の溶液が有機ホスフェートを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記界面が酸化物であり、そして前記第1の溶液および前記第2の溶液が高分子電解質を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記界面が疎水性ポリマーであり、そして前記第1の溶液および前記第2の溶液が高分子電解質を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の吸着物または前記第2の吸着物が、生体分子を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記基材が、直線運動ドライブを用いて前記第1の溶液に曝露される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記基材が、シリンジポンプを用いて前記第1の溶液に曝露される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記基材が、全液浸によって前記第2の溶液に曝露される、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
生物学的分析のために界面化学勾配を使用する方法であって、該方法は、該界面化学勾配を細胞に曝露する工程を包含し、ここで、該界面化学勾配は、第1の吸着物を、該基材上の第1の領域から該基材上の第2の領域へと濃度を減少する量で含み、そして、第2の吸着物を、該基材上の該第1の領域から該基材上の該第2の領域へと濃度を増大する量で含む、方法。
【請求項14】
前記第1の吸着物または前記第2の吸着物が、生体分子を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
分析のために界面化学勾配を使用する方法であって、該方法は、該界面化学勾配を分子に曝露する工程を包含し、ここで、該界面化学勾配は、第1の吸着物を、該基材上の第1の領域から該基材上の第2の領域へと濃度を減少する量で含み、そして、第2の吸着物を、該基材上の該第1の領域から該基材上の該第2の領域へと濃度を増大する量で含み、そしてここで、該分子は優先的に該第1の吸着物に結合する、方法。
【請求項16】
基材の界面上の界面化学勾配であって、該勾配は、第1の吸着物を、該基材上の第1の領域から該基材上の第2の領域へと濃度を減少する量で含み、そして、第2の吸着物を、該基材上の該第1の領域から該基材上の該第2の領域へと濃度を増大する量で含み、ここで、該基材は1cm以上の長さである、勾配。
【請求項17】
請求項16に記載の界面化学勾配であって、ここで、該勾配は、
第1の吸着物を含む第1の溶液の前進フロントに、前記基材を曝露する工程であって、ここで、該基材は、該第1の溶液に、界面上に該第1の吸着物を吸着するのに十分な時間、該基材上の第1の領域から該基材上の第2の領域へと濃度を減少する量で曝露される、工程、ならびに
第2の吸着物を含む第2の溶液に該基材を曝露する工程、
によって形成される、勾配。
【請求項18】
請求項16に記載の界面化学勾配であって、ここで、該勾配は、細胞運動性研究、診断学、微流体工学、ナノ摩擦学研究およびハイスループットスクリーニングからなる群より選択される分析に適している、勾配。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−515263(P2007−515263A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532361(P2006−532361)
【出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2004/009949
【国際公開番号】WO2005/002743
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(501418199)
【Fターム(参考)】