説明

制御放出組成物及び方法

封入及び制御放出のための組成物は、多価カチオンによって非共有結合により架橋され、非ポリマー性であり、1つより多くのカルボキシ官能基を有し、少なくとも部分的に芳香族又は複素芳香族の特性を有し、少なくとも1つのプテリン又は5−置換プテリン部分を含むホスト分子を含む非水溶性マトリックスを含む。組成物は更に、マトリックス内に封入でき、後に放出できるゲスト分子(例えば、薬物)を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2006年12月22日に出願された、米国仮出願60/871,530の優先権を主張し、その内容を本明細書に参考として組み込む。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、ゲスト分子(例えば、薬物)の封入及び制御放出に有用な組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
制御放出組成物及び方法は、汎用性が見出されており、薬物送達の分野では特に有用である。制御放出は、多くの異なる方法によって達成されている。
【0004】
例えば、ポリマーを使用して、物質を囲むか又は物質との混合物を形成し、水の存在下でポリマーを膨潤させてその物質の放出を制御している。この手法は、膨潤ポリマーマトリックスを通して物質が拡散する機構によるものである。他のポリマーに基づく手法では、ポリマーの浸食又は分解により放出を制御している。しかし、大抵のポリマーは本来高度な多分散性であるため、ポリマー系の放出速度を制御するのは困難な場合がある。更に、製薬用途で使用するのに好適なポリマーの数は限られており、所与のポリマーは、様々な異なる物質と全く違った予測不能な方法で相互作用する可能性がある。
【0005】
別の一般的な手法では、物質の放出を可能にする開口部又は膜を有する巨視的構造体を使用している。浸透ポンプのような巨視的構造体を使用して、物質を収容するチャンバへ環境から水を取り込むことにより、そのチャンバから送達オリフィスを通じてその物質を押出すことで放出を制御している。これには、複雑な構造体を調製し、こうした構造体を送達されるべき物質で満たす必要がある。
【0006】
特定の薬物送達用途では、不都合な環境条件から薬物を保護することが望ましい場合がある。ヒトの胃腸管は、薬物の治療効果を妨げる可能性のある環境の一例である。故に、胃の低いpHのような特定の環境条件から薬物を選択的に保護する能力、及びまた小腸の中性のpHのような他の環境条件下で薬物を選択的及び制御可能に送達できる能力は極めて望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
薬物が生物活性受容体に放出される速度の変更及び制御(すなわち、持続又は制御薬物放出)はまた、特定の薬物送達用途に望ましい場合がある。持続又は制御薬物放出は、投与回数を減らし、副作用を低減し、患者のコンプライアンスを向上させるという望ましい効果をもたらすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
故に、本発明者らは、薬物(特にpH感応性薬物)を包含する種々の物質の放出を有効的及び効率的に制御するために工業的に有用な組成物及び方法が必要とされていることを認識する。特に、本発明者らは、注射によるインスリン送達の必要性を低減又は排除するために、糖尿病患者にインスリンを経口送達するための組成物及び方法が必要とされていることを認識する。
【0009】
簡単には、1つの態様において、本発明は、多価カチオンによって非共有結合により架橋され、非ポリマー性であり、1つより多くのカルボキシ官能基を有し、少なくとも部分的に芳香族又は複素芳香族の特性を有し、少なくとも1つのプテリン又は5−置換プテリン部分を含むホスト分子を含む非水溶性マトリックスを含む封入及び制御放出のための組成物を提供する。組成物は更に、マトリックス内に封入でき、後に放出できるゲスト分子(例えば、薬物)を含むことができる。
【0010】
好ましくは、ホスト分子は、少なくとも1つのプテロイル又は5−置換プテロイル部分を含む。より好ましくは、ホスト分子は、プテロイルグルタミン酸(例えば、葉酸)又は5−置換プテロイルグルタミン酸(例えば、フォリン酸)である。
【0011】
上述した特定の構造特性を有するホスト分子は、塩基の添加時、自己緩衝特性の形態で予期できない中和挙動を示し得ることを見出した。こうした特性により、pHに大きな変動を生じることなく、液晶状態(例えば、クロモニック相)の形成が可能となる。これにより、ホスト分子は、pH感応性薬物の封入及び送達(例えば、インスリンのようなタンパク質性薬物の経口送達)に特に好適となる。
【0012】
更に、中和されたホスト分子は、広い液晶領域(例えば、添加塩基約1当量〜約2当量の範囲にわたって)を示すことができる。このことが、(例えば、多価カチオンの添加による)非水溶性マトリックス及び/又は架橋粒子若しくはビーズの形成におけるそれらの使用を促進し、更にそれらを厳格な工業方法(例えば、自動処理)に使用するのに適したものにする。部分的に中和された葉酸の液晶挙動は、特に、必要なpH域にて報告された不溶性を考慮すると驚くべきことである。
【0013】
別の態様では、本発明は、多価カチオンによって非共有結合により架橋され、非ポリマー性であり、1つより多くのカルボキシ官能基を有し、少なくとも部分的に芳香族又は複素芳香族の特性を有し、少なくとも1つのプテリン又は5−置換プテリン部分を含むホスト分子を含む非水溶性マトリックスを含む粒子を含む粒子状組成物を提供する。粒子状組成物は更に、マトリックス内に封入でき、後に放出できるゲスト分子(例えば、薬物)を含むことができる。
【0014】
更に別の態様において、本発明はまた、本発明の粒子状組成物及び少なくとも1つの液体(例えば、少なくとも1つの液体の製薬上許容できる担体を含む医薬懸濁製剤を提供する。
【0015】
他の態様では、本発明は、本発明の組成物を含む錠剤、及び本発明の粒子状組成物を含むカプセルを提供する(錠剤及びカプセルは両方とも任意に少なくとも1つの製薬上許容できる担体を更に含む)。
【0016】
更なる態様では、本発明は、本発明の組成物を調製する方法を提供する。本方法は、
(a)上述のホスト分子の少なくとも1つを含む分散液(好ましくは、水中又は水及び有機溶媒の混合物中の分散液)を少なくとも1つの塩基と合わせ、クロモニック相を有する溶液を形成する工程と、
(b)クロモニック相を有する溶液を、多価カチオンの溶液と合わせて非水溶性マトリックスを形成する工程と、を含む。
【0017】
更に別の態様では、本発明は、
(a)非水溶性マトリックス及びそのマトリックス内に封入された少なくとも1つの薬物を含む本発明の組成物を提供する工程と、
(b)組成物が一価カチオンを含む組成物と接触し、封入された薬物の少なくとも一部を放出するように、組成物を生体に送達する工程と、
(c)放出された薬物を、所望の治療効果を達成するのに十分な時間その生体の少なくとも一部と接触させ続ける工程と、を含む、薬物送達方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明のこれら及びその他の特徴、態様及び利益は、次の説明、添付した請求項及び添付図面でよりよく理解されるであろう。
【図1a】それぞれ、単独のホスト分子又はホスト分子の会合体(例えば、側方会合体)及び単独の多価カチオンの実施形態の略図。
【図1b】それぞれ、単独のホスト分子又はホスト分子の会合体(例えば、側方会合体)及び単独の多価カチオンの実施形態の略図。
【図2】非水溶性マトリックスの実施形態の略図。
【図3】封入されたゲスト分子を含む非水溶性マトリックスの実施形態の略図。
【図4】非水溶性マトリックスの実施形態の構成成分の解離及び一価カチオンの存在下でのゲスト分子の放出の略図。
【図5】以下の実施例の項目の「比較滴定」に記載される分散した固体の比較クロモニック化合物の滴定に関する滴定曲線(0.5重量%塩基のミリリットルに対するpHのプロット)。
【図6】以下の実施例の項目の「滴定A」に記載される分散した固体の葉酸の滴定に関する滴定曲線(1.0重量%塩基のミリリットルに対するpHのプロット)。
【図7】以下の実施例の項目の「滴定B」に記載される分散した固体の葉酸の滴定に関する滴定曲線(0.5重量%塩基のミリリットルに対するpHのプロット)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記で要約したように、本発明は、非水溶性マトリックスを含む封入及び制御放出のための組成物を提供する。非水溶性マトリックスは、多価カチオンによって非共有結合により架橋され、非ポリマー性であり、1つより多くのカルボキシ官能基を有し、少なくとも部分的に芳香族又は複素芳香族の特性を有し、少なくとも1つのプテリン又は5−置換プテリン部分を含むホスト分子を含む。
【0020】
好ましくは、ホスト分子は、少なくとも1つのプテロイル又は5−置換プテロイル部分を含む。より好ましくは、ホスト分子は、プテロイルグルタミン酸(例えば、葉酸)又は5−置換プテロイルグルタミン酸(例えば、フォリン酸)である。
【0021】
組成物は更に、マトリックス内に封入でき、後に放出できるゲスト分子(例えば、薬物)を含むことができる。組成物の少なくとも一部の実施形態において、マトリックスは、特定の環境条件から薬物を選択的に保護でき、次いで別の環境条件下にてその薬物を制御可能に放出できる。例えば、マトリックスは、動物の胃の酸性環境において安定であり、次いで動物の腸の酸性ではない環境を通過するときに溶解でき、このマトリックスを使用すれば酵素分解から薬物を保護できる。
【0022】
種々の実施形態の組成物は、粒子内の薬物分子を効果的に隔離できるマトリックスを含み、組み合わせた剤形の異なる薬物間での好ましくない相互作用(例えば、化学反応)、単一の薬物構成成分内の好ましくない変化(例えば、オストワルド成長又は粒子成長、及び結晶形状の変化)、及び/又は薬物と1種類以上の賦形剤との間の好ましくない相互作用を回避することができる。マトリックスは、互いの存在下で通常不安定である2種の薬物(又は薬物と賦形剤)を、安定な剤形に処方することを可能にする。
【0023】
化学構造
この特許出願にて使用するとき、
「葉酸」は、N−[4−[[(2−アミノ−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−6−プテリジニル)メチル]アミノ]ベンゾイル−L−グルタミン酸を意味し、次の構造式によって表すことができ、
【0024】
【化1】

【0025】
「フォリン酸」は、N−[4−[[(2−アミノ−5−ホルミル−1,4,5,6,7,8−ヘキサヒドロ−4−オキソ−6−プテリジニル)メチル]アミノ]ベンゾイル]−L−グルタミン酸を意味し、次の構造式によって表すことができ、
【0026】
【化2】

【0027】
(架橋結合に関して)「非共有結合」とは、架橋結合が溶媒の存在下で可逆的に形成及び開裂できることを意味し、
(ホスト分子上の置換基に関して)「非干渉性」とは、置換基が、少なくとも部分的に中和されたホスト分子が液体媒質に分散したときに液晶相を形成することを妨げないような大きさ及び化学的特性を有することを意味し、
「有機基」とは、ヒドロカルビル基、又は少なくとも1つのヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、ハロゲン、及び/又は硫黄)を含有するヒドロカルビル基を意味し、
「プテリン部分」とは、次の構造式によって表される一価部分を意味し、
【0028】
【化3】

【0029】
「5−置換プテリン部分」とは、以下の構造式(式中、Rは非干渉性有機基である)によって表される一価部分を意味し、
【0030】
【化4】

【0031】
「プテロイル部分」とは、以下の構造式によって表される一価部分を意味し、
【0032】
【化5】

【0033】
「5−置換プテロイル部分」とは、以下の構造式(式中、Rは非干渉性有機基である)によって表される一価部分を意味し、
【0034】
【化6】

【0035】
「プテロイルグルタミン酸」とは、以下の構造式(式中、nは少なくとも1、好ましくは1〜約7の整数である)によって表される酸(又は酸の混合物)を意味し、
【0036】
【化7】

【0037】
「5−置換プテロイルグルタミン酸」は、以下の構造式(式中、Rは非干渉性有機基であり、nは少なくとも1、好ましくは1〜約7の整数である)によって表される酸(又は酸の混合物)を意味する。
【0038】
【化8】

【0039】
ホスト分子
本発明の組成物に使用するのに好適なホスト分子としては、多価カチオンによって非共有結合により架橋でき、非ポリマー性であり、1つより多くのカルボキシ官能基を有し、少なくとも部分的に芳香族又は複素芳香族の特性を有し、少なくとも1つのプテリン又は5−置換プテリン部分(より好ましくは、少なくとも1つのプテロイル又は5−置換プテロイル部分)を含むものが挙げられる。その部分の5位の置換基は非干渉性の有機基であることができる。好ましい置換基としては、水素、アルキル、ホルミル(HC(=O)−)、ホルムイミノ(HC(=NH)−)、及び脂環式環状構造を形成するために(例えば、プテロイル部分の10位の水素原子を置換して)ホスト分子の別の原子に結合できる多価の「架橋」置換基(例えば、アルキリデン(−CHR−)及びアルキリジン(−CR−)、式中、Rはアルキル又は水素である)が挙げられる。より好ましい置換基としては、水素、アルキル、ホルミル、ホルムイミノ、メチリデン(又はメチレン、−CH−)、及びメチリジン(−CH−)(更により好ましくは、水素、アルキル、及びホルミル、最も好ましくはホルミル)が挙げられる。置換基は、好ましくは1〜約12個の非水素原子(より好ましくは、1〜約8個、最も好ましくは1〜約4個)を有する。
【0040】
本明細書で使用するとき、「非ポリマー」という用語は、典型的な高分子量ポリマーと比較した場合に、ホスト分子が通常相対的に低い分子量を有することを意味する(好ましくは2000g/mol未満、より好ましくは1000g/mol未満、最も好ましくは600g/mol未満の分子量を有する)。故に、非ポリマー性ホスト分子は、少数の繰り返し単位(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマーなどで少なくとも約7又は8個までの繰り返し単位)を有する短鎖オリゴマー、及び単一単位(すなわち、繰り返し単位を含まない)からなる分子を含む。
【0041】
有用なホスト分子は、一般にその非イオン化形態にて化学構造−COOHによって表される1つより多くのカルボキシ官能基を有する。ホスト分子は、数個のカルボキシ官能基(例えば、3つのカルボキシ官能基)、好ましくは2つのカルボキシ官能基を有することができる。カルボキシ基は、ホスト分子上の隣接炭素原子に結合できるが(すなわち、HOOC−C−C−COOH)、通常1つより多くの介在分子によって分離された炭素原子に結合する。本明細書で使用するとき、「カルボキシ官能基」という用語は、遊離のイオン化形態、例えば−COO、並びに例えばナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩を包含するカルボキシ官能基の塩(すなわち、カルボン酸塩)を包含するように意図される。
【0042】
有用なホスト分子は、一般に少なくとも部分的に芳香族又は複素芳香族の特性を有する。これは、ホスト分子の少なくとも一部が環状の非局在化したπ−電子系によって特徴付けられることを意味する。一般に、これらの化合物はすべて、4n+2π−電子を有する複数の共鳴構造を用いて表すことのできる非局在化π−電子を有することを共通の特徴とする。「芳香族」という用語は、炭素だけを含有する環状構造(例としてはフェニル及びナフチル基が挙げられる)のことを指し、「複素芳香族」という用語は、炭素以外の原子(例えば、窒素、硫黄、又は酸素)を少なくとも1つ含有する環状構造を指す。複素芳香族官能性の例としては、ピロール、ピリジン、フラン、チオフェン、トリアジン、及びプテリンが挙げられる。ホスト分子は、好ましくは1つより多くの芳香又は複素芳香族官能基(より好ましくは、少なくとも1つの芳香族官能基及び少なくとも1つの複素芳香族官能基)を有する。
【0043】
カルボキシ基は、芳香族又は複素芳香族官能基に直接結合できる(例えば、カルボキシフェニル)。例えば、ホスト分子が1つより多くの芳香族又は複素芳香族官能基を有するときは、各芳香族又は複素芳香族基が、直接結合したカルボキシ基を1つ以下で有するようにカルボキシ基を配置できる。しかし、好ましくはカルボキシ基は、芳香族又は複素芳香族官能基に直接は結合しない(より好ましくは、少なくとも1つ(好ましくはすべて)のカルボキシ基は介在脂肪族部分に直接結合し、最も好ましくは、少なくとも1つ(好ましくはすべて)のカルボキシ基は、少なくとも3つの共有結合により芳香族又は複素芳香族官能基からカルボキシ基を分離するように介在脂肪族部分に直接結合する)。
【0044】
ホスト分子の電荷は中性であることができ、少なくとも1つの形式的な正電荷又は負電荷を有することもでき、あるいは双性イオン性(すなわち、少なくとも1つの形式的な正電荷及び少なくとも1つの形式的な負電荷を保持する)であることもできる。負電荷は、例えば、水素原子が解離したカルボキシ基、−COOにより保持されることができる。負電荷は、ホスト分子の適正な表示が2つより多くの共鳴構造からなるように、1つより多くのカルボキシ官能基の間で共有されることができる。あるいは、負電荷又は部分的な負電荷は、ホスト分子の他の酸基によって保持されることができる。好ましくは、ホスト分子は、1〜4個(より好ましくは、1〜2個)の正味の負電荷を有する。
【0045】
有用なホスト分子としては、少なくとも1つのプテリン又は5−置換プテリン部分(特に、プテリン)を含むものが挙げられる。好ましくは、ホスト分子は、少なくとも1つのプテロイル又は5−置換プテロイル部分(特に、プテロイル)を含む。より好ましくは、ホスト分子は、プテロイルグルタミン酸(例えば、葉酸)又は5−置換プテロイルグルタミン酸(例えば、フォリン酸)である。最も好ましくは、ホスト分子は、プテロイルグルタミン酸であり、葉酸が特に好ましい。
【0046】
こうした有用なホスト分子は、既知の有機化学技術を用いて合成でき、プテロイルグルタミン酸も種々の食品源(例えば、ホウレンソウ)から単離できる。葉酸は、B−ビタミン群に属し、市販されている。
【0047】
有用なホスト分子は一般に、多価カチオンの添加の前に(すなわち、架橋前に)、水溶液又はアルカリ性水溶液中に溶解させた場合、クロモニック液晶相又は集合体を形成できる。クロモニック相又は集合体は周知であり(例えば、液晶ハンドブック(Handbook of Liquid Crystals)、第2B巻、XVIII章、クロモニック、ジョン・ライドン(John Lydon)、981〜1007頁、ワイリー−VCH(Wiley-VCH)、ニューヨーク(1998年)を参照のこと)、一般に平坦な多環芳香族又は複素芳香族分子の積層体からなる。この分子は一般に、親水性基により囲まれた疎水性コアからなる。この積層化は多数の異なるモルホロジーをとることができる、通常、層の積層体によって作り出された柱を形成する傾向を特徴とする。濃度増加に伴って成長する分子の秩序ある積層体が形成されるが、それらは、一般に界面活性剤のような特性を有さず、臨界ミセル濃度を示さないという点で、ミセル相とは異なる。通常、クロモニック相は、イソデスミックな挙動を示す(すなわち、秩序ある積層体に分子が加えられると、自由エネルギーの単調な減少が生じる)。
【0048】
有用なホスト分子としては、それらが多価カチオンの存在下にある前に(すなわち架橋前に)、水溶液又はアルカリ性水溶液中で、クロモニックM、N、又はアイソトロピック相を形成できるものが挙げられる。クロモニックM相は、典型的には、六方格子に配置された分子の秩序ある積層体を特徴とする。クロモニックN相は、ネマチック配列の柱を特徴とする(すなわち、ネマチック相に特徴的な柱に沿って長距離秩序が存在するが、柱間には秩序がほとんど又は全く存在せず、M相よりも秩序化していない)。クロモニックN相は、典型的には、透明な媒質内の様々な屈折率の領域を特徴とするシュリーレン組織を示す。
【0049】
非水溶性マトリックス
本発明の組成物の非水溶性マトリックスは、多価カチオンによって非共有結合により架橋したホスト分子を含む。この架橋は、水に不溶性の三次元マトリックスを形成する。本明細書で使用するとき、「非共有結合」という用語は、架橋結合が溶媒の存在下で可逆的に形成及び開裂できることを意味する。すなわち、架橋は、(例えば、イオン結合又は配位共有結合を通して)カチオンとホスト分子との会合から生じ、それは分子同士を保持するのに十分強い。
【0050】
これらの会合は、ホスト分子の形式的な負電荷と多価カチオンの形式的な正電荷との相互作用から生じることができる。多価カチオンは、少なくとも2つの正電荷を有するため、2つより多くのホスト分子と会合(例えば、イオン結合)を形成し得る(すなわち、2つより多くのホスト分子間に架橋を形成する)。架橋した非水溶性マトリックスは、ホスト分子−ホスト分子の直接的な相互作用(例えば、π−π相互作用)及びホスト分子−カチオン相互作用の組み合わせから生じる。
【0051】
少なくとも約2の電荷を有するカチオンを使用できるが、二価及び/又は三価カチオンが一般に好ましい。大多数の多価カチオンは、二価であるのがより好ましい場合がある。好適なカチオンとしては、いずれかの二価又は三価のカチオンが挙げられるが、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、及び鉄が特に好ましい。所望により、異なるカチオンの混合物を使用できる。
【0052】
上述したように、水溶液中のホスト分子のクロモニック相又は集合体は、個々のホスト分子の層状積層体又はホスト分子の会合体の層状積層体(例えば、フーグスティーン型の水素結合した葉酸塩テトラマーのような側方会合体)から作り出された柱を含むことができる。多価カチオンは、これらの柱間を架橋できる。いかなる特定の理論にも束縛されることを望まないが、ホスト分子はまた、例えば、芳香族又は複素芳香族官能性及びカルボキシ官能性の相互作用を通じても互いに会合できると考えられる。あるいは、多価カチオンは、2つより多くのホスト分子と会合できる。例えば、二価のカチオンは、不溶性となり得る「ダイマー」を形成でき、不溶性の「ダイマー」はホスト分子の官能性を通じて互いに相互作用し、非水溶性のマトリックスを形成できる。
【0053】
マトリックスに関して本明細書で使用するとき、「非水溶性」とは、そのマトリックスが、実質的に純粋な水(例えば、脱イオン水又は蒸留水)に本質的に不溶性であり、25℃で約0.01重量%未満の溶解度を有することを意味する。ある実施形態において、マトリックスは、水溶液内に懸濁及び/又は均一に分散し得る微粒子の形態であることができるが、こうした分散性は溶解性と等価ではない。
【0054】
場合によっては、単独の又は遊離の分子として存在する場合に、水溶液中で可溶性の遊離のホスト分子及び/又は遊離の多価カチオンを水溶液が含有する場合がある。しかし、こうした遊離のホスト分子及び/又は多価カチオンは、本発明の組成物の非水溶性マトリックスの形態ではない。特定の条件下にて、非水溶性のマトリックスは、ゲスト分子の放出に関する以下の説明から明らかなように、カチオン含有水溶液中に溶解するが、特定のカチオン含有水溶液中でのこうした溶解は、水への溶解を示しているのではない。
【0055】
非水溶性マトリックスは、ゲスト分子を封入でき、その後ゲスト分子を制御可能に放出できる。ホスト分子及び多価カチオンの特定の化学的特性及び量に依存して多数のモルホロジーが生じ得るが、こうしたマトリックス及びその構成成分の実施形態の略図を図1〜4に示す。
【0056】
図1a及び1bは、単独のホスト分子又はホスト分子会合体100、及び単独の多価カチオン200を示す。ホスト分子又はホスト分子会合体100は、ホスト分子又はホスト分子会合体100内で平面又はシート様領域として略記される芳香族又は複素芳香族官能性110を有する。ホスト分子又はホスト分子会合体100はまた、少なくとも2つのカルボキシ官能基120を有し、それは芳香族又は複素芳香族官能性110に間接的(例えば、介在脂肪族部分に直接結合することによって)に結合する。多価カチオン200は、楕円によって略記されている。
【0057】
図2は、非水溶性マトリックス300の1つの実施形態を示す。隣接ホスト分子又はホスト分子会合体100の芳香族又は複素芳香族官能性110は、整列してホスト分子又はホスト分子会合体の層状積層体を形成する。これらの層状積層体は、それらのカルボキシ基120と多価カチオン200との間に更なる相互作用を有し、それがカチオンの複数の価数により層状積層体間の架橋を与える。図2に示されるように、二価のカチオンは、2つの異なるホスト分子又はホスト分子会合体100のカルボキシ基120間に非共有結合による架橋連結を作り出す。図示しないが、カチオンの追加の価数により、カルボキシ基120間に非共有結合による追加の架橋連結ができる。
【0058】
本発明の組成物の非水溶性マトリックスは更に、マトリックス内に封入でき、後に放出できるゲスト分子を含むことができる。ゲスト分子600の封入は図3に略記されており、ゲスト分子600は、一対のホスト分子又はホスト分子会合体100間に封入される。図3ではゲスト分子と、ホスト分子又はホスト分子会合体との個々の交互配置を示すが、封入は、種々の方法で生じ得ることを理解すべきであり、故により広く解釈されるべきである。
【0059】
ゲスト分子は、封入されるようにマトリックス内に分散でき、そういうものとしてゲスト分子はマトリックスによって外部環境から有効に隔離されることができる。例えば、通常水に可溶性のゲスト分子は、非水溶性マトリックス内に封入されることによって水に溶解するのを防止できる。同様に、酸の存在下で不安定なゲスト分子は、マトリックスによって有効に隔離でき、顕著に分解することがない。
【0060】
図3の実施形態において、ゲスト分子600はマトリックス300に個々にインターカレートされる。すなわち、ゲスト分子は、マトリックス内に分散したゲスト分子の凝集体としてではなく、ホスト分子又はホスト分子会合体によって囲まれた隔離分子としてマトリックス内に存在する。ゲスト分子及びホスト分子が同様の寸法を有する場合、インターカレーションは、ホスト分子及びゲスト分子の交互構造の形態をとることができる。ゲスト分子がホスト分子よりも実質的に大きい場合、数個のホスト分子(例えば、ホスト分子会合体を構成する)又は数個のホスト分子会合体又は更に数個のホスト分子積層体が単一のゲスト分子を取り囲むことができる。逆に、ゲスト分子がホスト分子よりも実質的に小さい場合、1つより多くのゲスト分子が隣接ホスト分子間に封入され得る。複数種のゲスト分子の混合物を、単一マトリックス内に封入できる。
【0061】
図4を参照すると、多価カチオン200が、例えば、水溶液中で一価のカチオン500によって置換される場合、非共有結合による架橋連結は可逆的に開裂することができる。一価カチオンは、単一カルボキシ基120とだけ会合する傾向があり、これがホスト分子又はホスト分子会合体100を互いに解離させ、ゲスト分子600を放出することができる。ゲスト分子の放出は、ゲスト分子の種類及び量、存在する多価カチオンの種類及び量、ホスト分子の種類及び量、及びマトリックスが置かれる環境を包含する多数の要因に依存する。
【0062】
図1〜4及び上記の説明は、本発明の組成物の一般的な特性を例示するためのものである。故に、描写は、厳密な結合相互作用又は詳細な三次元構造を特定するものではなく、これらの概略が本発明の範囲を限定するものであると考えられるべきではないことを理解すべきである。むしろ以下の説明では本発明の組成物の構成成分及びそれらの配置について更に説明する。
【0063】
ゲスト分子
本発明の組成物は、ゲスト分子を封入及び放出するために使用できる。有用なゲスト分子の例としては、染料、化粧品剤、芳香剤、着香剤、及び生物活性化合物(例えば、薬物、除草剤、殺虫剤、フェロモン、及び抗真菌剤)が挙げられる。本明細書で使用するとき、生物活性化合物は、疾病の診断、治療、緩和、処置、若しくは予防に使用でき、又は生体の構造若しくは機能に影響を与えるために使用できる化合物である。生体に対して治療効果をもたらすことを目的とする薬物(すなわち、医薬品として活性な成分)は、特に有用なゲスト分子である。除草剤及び殺虫剤は、生物(例えば、植物又は害虫)に対して、負の効果を有することを目的とする生物活性化合物の例である。
【0064】
本質的にいかなる種類の薬物も本発明の組成物に使用できるが、特に好適な薬物としては、固体剤形として処方された場合に比較的不安定なもの、胃の低いpH条件により悪影響を受けるもの、胃腸管内で酵素に晒されることで悪影響を受けるもの、及び持続又は制御放出を介して患者に提供するのが望ましいものが挙げられる。好適な薬物の例としては、ステロイド性(例えば、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、及びトリアムシノロン)及び非ステロイド性(例えば、ナプロキセン及びピロキシカム)の双方の抗炎症薬、全身性抗菌物質(例えば、エリスロマイシン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン、スルファチアゾール、ニトロフラントイン、バンコマイシン、ペニシリンVのようなペニシリン、セファレキシンのようなセファロスポリン、並びにノルフロキサシン、フルメキン、シプロフロキサシン、及びイバフロキサシンのようなキノロン)、抗原虫剤(例えば、メトロニダゾール)、抗真菌剤(例えば、ナイスタチン)、冠血管拡張剤、カルシウムチャネル遮断薬(例えば、ニフェジピン及びジルチアゼム)、気管支拡張薬(例えば、テオフィリン、ピルブテロール、サルメテロール、及びイソプロテレノール)、コラゲナーゼ阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、エラスターゼ阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、及びアンギオテンシン変換酵素阻害剤(例えば、カプトプリル及びリシノプリル)のような酵素阻害剤、他の抗高血圧症薬(例えば、プロプラノロール)、ロイコトリエン拮抗薬、H2拮抗薬のような抗潰瘍剤、ステロイドホルモン(例えば、プロゲステロン、テストステロン、及びエストラジオール)、局所麻酔薬(例えば、リドカイン、ベンゾカイン、及びプロポフォール)、強心剤(例えば、ジギタリス及びジゴキシン)、鎮咳剤(例えば、コデイン及びデキストロメトルファン)、抗ヒスタミン剤(例えば、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、及びテルフェナジン)、麻薬性鎮痛剤(例えば、モルヒネ及びフェンタニル)、ペプチドホルモン(例えば、ヒト又は動物の成長ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH−RH))、アトリオペプチドのような心臓作用性製品、タンパク質性製品(例えば、インスリン)、酵素(例えば、抗歯垢性酵素、リゾチーム、及びデキストラナーゼ)、制吐薬、抗痙攣薬(例えば、カルバマジン)、免疫抑制薬(例えば、シクロスポリン)、精神病治療薬(例えば、ジアゼパム)、鎮静剤(例えば、フェノバルビタール)、抗凝血剤(例えば、ヘパリン)、鎮痛剤(例えば、アセトアミノフェン)、抗偏頭痛剤(例えば、エルゴタミン、メラトニン、及びスマトリプタン)、不整脈治療剤(例えば、フレカイニド)、制吐薬(例えば、メトクロプラミド及びオンダンセトロン)、抗癌剤(例えば、メトトレキサート)、抗うつ剤(例えば、フルオキセチン)及び抗不安薬(例えば、パロキセチン)のような神経系の薬剤、止血剤等、並びに製薬上許容できる塩及びそれらのエステルが挙げられる。
【0065】
タンパク質及びペプチドは、本発明の組成物に用いるのに特に好適な場合がある。好適な例としては、エリスロポエチン、インターフェロン、インスリン、モノクローナル抗体、血液因子、コロニー刺激因子、成長ホルモン、インターロイキン、成長因子、治療ワクチン、及び予防ワクチンが挙げられる。治療に有効な量をなす薬物の量は、当業者であれば、特定の薬物、特定の担体、特定の投与レジメン、及び所望の治療効果を考慮して容易に決定することができる。薬物の量は、通常、非水溶性マトリックスの総重量の約0.1〜約70重量%で変わる。薬物は、マトリックスに、例えば、インターカレートできる。
【0066】
好ましい薬物はインスリンである。インスリンは、炭水化物代謝を調節するポリペプチドホルモンである。インスリンの複数回に及ぶ日々の皮下注射は、糖尿病の症状を示すヒトの血糖値を調節するために多くの場合に必要である。経口投与されたインスリンは、患者のコンプライアンス及び簡便性を改善し、並びに注射の訓練及びコンプライアンスを必要とせずに、境界型糖尿病症状を示す患者にインスリンの治療的利益を提供するのに極めて望ましい。しかし、特定の保護又は封入形態なしでは、経口投与されたインスリンは、他のタンパク質と同一の機構により胃で消化される。
【0067】
上述の薬物に加えて、ゲスト分子は、ワクチンとして使用するための抗原であることができ、又はゲスト分子は、免疫反応調整剤(IRM)化合物であることができる。所望により、抗原及び免疫反応調整剤の両方が単一のマトリックス中にゲスト分子として存在でき、免疫反応調整剤化合物は、例えば、トール様受容体を活性化することによってワクチン補助剤として作用できる。免疫反応調整剤化合物の例としては、サイトカイン(例えば、I型インターフェロン、TNF−α、IL−1、IL−6、IL−8、IL−10、IL−12、IP−10、MIP−1、MIP−3、及び/又はMCP−1など)の放出を誘発し、更に特定のTH−2サイトカイン(IL−4及びIL−5など)の産生及び分泌を阻害することが知られている分子が挙げられる。免疫反応調整剤と抗原とを合わせて送達することにより、向上した細胞の免疫反応(例えば、細胞傷害性Tリンパ球の活性化)及びTh2からTh1への免疫応答の切替を誘発させることができる。
【0068】
ゲスト分子として使用されるIRM化合物(1種又は複数)は、小分子IRMであることができ、それは相対的に小さい有機化合物(例えば、約1.7E−21g(1000ダルトン)未満、好ましくは約8.3E−22g(500ダルトン)未満の分子量を有する)、又は大きい生物学的分子IRM(例えば、シトシン−グアニンジヌクレチド(CpG)のようなオリゴヌクレオチド)である。こうした化合物の組み合わせも使用できる。好適な小分子IRMとしては、5員の窒素含有複素環に縮合した2−アミノピリジンを含む化合物、例えば、イミダゾキノリン−4−アミン(例えば、イミキモド及びレシキモド)、イミダゾナフトリジン−4−アミン(例えば、米国特許第6,194,425号(ゲルスター(Gerster))に記載される化合物)、イミダゾピリジン−4−アミン(例えば、米国特許第5,446,153号(リンドストローム(Lindstrom))に記載される化合物)、チアゾロキノリン−4−アミン(例えば、米国特許第6,110,929号(ゲルスター(Gerster))に記載される化合物)、及びプラゾロキノリン−4−アミン(例えば、国際公開第2005/079195号(ヘイズ(Hays))に記載される化合物)が挙げられる。
【0069】
組成物の調製
態様の1つでは、本発明は、封入及び制御放出のための組成物を調製する方法を提供する。この方法は、ホスト分子(1種又は複数)(及び、任意に、ゲスト分子(1種又は複数))の分散液(好ましくは、水中又は水と有機溶媒、例えば、メタノール、の混合物中の分散液)を、少なくとも1つの塩基(例えば、ホスト分子1モルあたり少なくとも約1モルの塩基からカルボキシ官能基1モルあたり約1モルの塩基まで)を合わせ、クロモニック相を有する溶液を形成する工程と、クロモニック相を有する溶液を、多価イオンの溶液と合わせて薬物送達のための不溶性組成物を形成する工程とを含む。
【0070】
所望により、薬物のようなゲスト分子は、ホスト分子の導入前に、水性界面活性剤含有溶液に溶解することができる。好適な界面活性剤としては、例えば、長鎖飽和脂肪酸又はアルコール、及びモノ不飽和脂肪酸若しくはポリ不飽和脂肪酸又はアルコールが挙げられる。オレイン酸は、好適な界面活性剤の例である。界面活性剤は、例えば、ゲスト分子の分散を助けることができ、その結果、良好に封入できる。
【0071】
所望により、ホスト分子の導入前に、塩基をゲスト分子溶液に添加することができる。あるいは、ゲスト分子を添加する前に、塩基をホスト分子溶液に添加することができる。好適な塩基の例としては、エタノールアミン、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム、アミン(モノアミン、ジアミン、トリアミン、及びポリアミン)など、及びこれらの混合物が挙げられる。こうした塩基は、例えば、ホスト化合物の溶解及び液晶相の形成を助けることができる。
【0072】
あるいは、本発明の組成物は、患者と直接接触するフィルム、コーティング、又はデポーとして調製できる。例えば、多価カチオン及びホスト分子は、適用方法に依存して、ともに混合するか又は連続して患者の特定部位に適用し、その部位にコーティング又はデポーのいずれかを形成できる。その1つの実施例は、多価カチオン及びホスト分子を独立して患者の皮膚に適用し、次いでそれらを架橋マトリックスが形成されるのに十分な時間接触させ続けることによって局所コーティングを形成するものである。別の実施例では、多価カチオン及びホスト分子を体内組織又は器官、例えば癌性腫瘍に独立に注入し、それらを架橋マトリックスが形成されるのに十分な時間接触させ続けるものである。更に別の実施例では、手術中に多価カチオン及びホスト分子を内部組織に独立して直接適用し、例えば、手術後に感染の危険を減らすための抗生物質を含む架橋マトリックスを形成するものである。
【0073】
本発明の組成物は、任意に、1つより多くの添加剤、例えば、開始剤、充填剤、可塑剤、架橋剤、粘着付与剤、結合剤、酸化防止剤、安定剤、界面活性剤、溶解剤、浸透向上剤、接着剤、粘度向上剤、着色剤、着香剤など、及びこれらの混合物を包含できる。
【0074】
粒子状組成物及び医薬懸濁液
態様の1つでは、本発明は、上述の非水溶性マトリックスを含む粒子を含む粒子状組成物を提供する。ゲスト分子は、マトリックス内に封入でき、後で放出することができる。粒子の適切な大きさ及び形状は、その目的とする用途に応じて変更できる。例えば、薬物がマトリックス内に封入される場合、粒子の適切な大きさ及び形状は、マトリックス内に分散した薬物の種類及び量、粒子の目的とする送達経路、及び所望の治療効果に応じて変化する。
【0075】
大きい粒子(例えば、直径が数ミリメートルのオーダー)を調製できるが、本発明の粒子状組成物の粒子の質量中央粒径は、通常、約100μm未満の大きさ、普通は約25μm未満の大きさ、場合によっては約10μm未満の大きさであることができる。特定の場合には、約1μm未満の大きさの粒子を有することが望ましい場合もある。粒子は、典型的には、一般的な形状が実質的に球状であるが、他のいずれかの好適な形状(例えば、針状、円筒形、又は平面)であってもよい。
【0076】
粒子は、ホスト分子と多価カチオンとを混合することにより調製できる。通常、これは、水溶液中にホスト分子を溶解させ(好ましくは、水に対して約5〜約60重量%のホスト分子の量にて)、上述の塩基を添加し、その後多価カチオンを添加して粒子を不溶性にするか、又は別の方法としては溶解したホスト分子の水溶液を多価カチオンの溶液に添加することによって行うことができる。薬物(又はその他のゲスト分子)は、2つの溶液を合わせる前に、薬物をホスト分子の水溶液又は多価カチオン溶液のいずれかに添加することによって、マトリックス内に分散又はインターカレートできる。あるいは、薬物は、ホスト分子又は多価カチオン溶液との混合の前に、油又は噴射剤のような別の賦形剤又は媒質中に分散又は溶解できる。粒子は、例えば、ろ過、噴霧、又は他の手段によって収集し、次いで乾燥し、水性担体を除去できる。
【0077】
粒子は、一価カチオン又は非イオン性化合物(例えば、界面活性剤)の水溶液に溶解させることができる。典型的な一価カチオンとしては、ナトリウム及びカリウムが挙げられる。粒子を溶解させるために必要な一価カチオンの濃度は、マトリックス内のホスト分子の種類及び量に依存するが、粒子を完全に溶解させるためには、一般に、少なくとも、マトリックス内のカルボキシ基のモル量に相当するモル量の一価カチオンが必要であり得る。このようにして、各カルボキシ基と会合するために、少なくとも1つの一価カチオンが必要であり得る。
【0078】
粒子が溶解する速度はまた、架橋のために使用される多価カチオンの種類及び量を調節することにより変更できる。マトリックスを架橋させるには、二価のカチオンで十分であり得るが、より高い価数のカチオンを用いて、追加の架橋を行い、溶解速度を遅くすることができる。価数に加えて、溶解速度もまた特定のカチオンの種類に依存することがあり得る。
【0079】
例えば、マグネシウムのような非配位二価カチオンは、一般に、カルシウム又は亜鉛のような配位二価カチオンよりも素早く溶解させることができる。異なるカチオンの種類は、整数ではない平均カチオン価数を与えるように混合できる。特に、二価カチオン及び三価カチオンの混合物では、すべてのカチオンが二価である類似のマトリックスよりも溶解速度を遅くできる。
【0080】
すべてのゲスト分子が時間とともに放出されるのが望ましい場合が多いが、ある種の用途においてはゲスト分子の一部のみが放出されることが望ましい場合がある。例えば、ホスト分子及び/又は多価カチオンの種類及び/又は量は、放出されるゲスト分子の総量がそれらが置かれる環境に応じて変化するように調節できる。特定の実施形態において、粒子は、酸性溶液又は一価カチオンを含有する酸性溶液に溶解できないので、酸感応性ゲスト分子を分解から保護できる。
【0081】
ゲスト分子が薬物である場合、一般的な放出特性の2つの種類は、即時放出及び持続放出である。即時放出としては、薬物の大部分が、約4時間未満、一般に約1時間未満、しばしば約30分未満、場合によっては約10分未満の時間で放出されることが一般に望まれることができる。場合によっては、薬物放出が、ほぼ瞬間的(例えば、ほんの数秒で生じる)であるのが望ましいこともある。
【0082】
持続(又は制御)放出としては、通常、薬物の大部分が、約2時間以上の期間にわたって放出されることが望ましい場合がある。例えば種々の埋め込み可能用途においては、1ヶ月以上の期間が所望される場合もある。経口持続放出調剤は、一般に約4時間〜約14日、場合によっては約12時間〜約7日の期間にわたって、薬物の大部分を放出できる。しかし、薬物の大部分が、約24〜約48時間の期間にわたって放出されることが所望される場合もある。即時及び持続放出の組み合わせが所望される場合もあり、例えば、そのような場合、調剤は、特定の症状を急速に緩和するために初期に放出され、続いてその症状を長期的に処置するために持続送達される。
【0083】
場合によっては、放出速度が時間の経過により変化する(例えば、生体の概日リズムに合わせて増加及び減少する)ように、薬物のパルス性又は多峰性の放出が望ましい場合もある。同様に、調剤が都合のよい時間(例えば就寝直前)に投与され得るように薬物の遅延放出を提供するのが望ましい場合もあるが、薬物がより有効となり得る後の時間(例えば起床直前)まで薬物の放出を防ぐこともできる。パルス状放出特性、多峰性放出特性、又は遅延放出特性を達成するための手法の1つでは、異なる薬物放出特性を有する2種以上の粒子を混合できる。あるいは、異なる薬物放出特性を有するコア及びシェルのような2つより多い別個の相を有する粒子を形成できる。
【0084】
更なる態様において、本発明は、本発明の粒子状組成物及び液体(例えば、少なくとも1つの液体の製薬上許容できる担体)を含む医薬懸濁製剤を提供する。
【0085】
薬物送達方法
本発明の粒子状組成物は、経口調剤薬物の送達に特に有用であり得る。典型的な経口剤形には、固体調剤(例えば錠剤及びカプセル)、及び他の経口投与調剤(例えば液体懸濁液及びシロップ)が挙げられる。動物に投与される場合、いくつかの実施形態の粒子は、胃の酸性環境では安定であり、次いで腸の非酸性環境へ通過する際に溶解できる。粒子が酸性溶液中で安定な場合、粒子は一般に、pH7.0未満(例えば、約5.0未満、場合によっては約3.0未満)の酸性環境中に存在する場合に、約1時間より長く、場合により約12時間より長く、場合によっては約24時間より長く安定であることができる。
【0086】
本発明の粒子状組成物の特定の実施形態において、薬物含有粒子の空気力学的質量中央粒径は、粒子が吸入送達経路を介して動物の気道に送達される場合に吸入可能であるように、多くの場合約10μm未満であることができ、場合によっては約5μm未満であることができる。吸入による粒子の送達は周知であり、加圧定量式吸入器(例えば、米国特許第5,836,299号(クゥオン(Kwon)ら)に記載されるものであって、その記載は本明細書に参考として組み込まれる)、ドライパウダー吸入器(例えば、米国特許第5,301,666号(ラーク(Lerk)ら)に記載されるものであって、その記載は本明細書に参考として組み込まれる)、及びネブライザ(例えば、米国特許第6,338,443号(パイパー(Piper)ら)に記載されるものであって、その記載は本明細書に参考として組み込まれる)を包含する種々のデバイスによって達成できる。本発明の粒子状組成物の吸引可能粒子は、既知の方式及び方法を用いて吸入剤形に組み込むことができる。
【0087】
本発明の粒子状組成物の薬物含有粒子は、経口又は吸入以外の経路によって送達できる。例えば、粒子は、静脈内注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射(例えば、水性又は油性溶液又は懸濁液形態)によって、皮下注射によって、及び経皮的、局所的、及び粘膜剤形(例えば、クリーム、ゲル、接着貼付剤、座剤、及び経鼻スプレー)に組み込むことによって送達できる。粒子状組成物はまた、種々の内部器官及び組織(例えば、癌性腫瘍)に埋め込む又は注入でき、又は内部体腔に直接適用できる(例えば、手術中)。
【0088】
ヒドロフルオロカーボン又はその他の好適な噴射剤のような噴射剤中の粒子状懸濁液は、吸入又は経鼻薬物送達のために使用される加圧定量式吸入器に使用できる。水性媒質中の粒子状懸濁液は、吸入又は経鼻薬物送達のために使用されるネブライザに使用できる。あるいは、水性媒質中の粒子状懸濁液はまた、静脈内又は筋肉内送達に有用であり得る。
【0089】
故に、少なくとも1つの態様において、本発明は、生体(例えば、植物又は動物)への薬物送達のための方法(1つ又は複数)を提供する。1つの方法は、(a)封入された薬物を含む本発明の組成物を提供する工程と、(b)組成物が一価カチオンを含む組成物と接触し、封入された薬物の少なくとも一部を放出するように組成物を生体に送達する工程と、(c)放出された薬物を、所望の治療効果を達成するのに十分な時間、生体の少なくとも一部と接触させ続ける工程とを含む。
【0090】
この方法のいくつかの実施形態では、組成物は、経口で動物に送達でき、こうした実施形態では、組成物は、腸を通過するまで封入された薬物を放出できない。封入された薬物は、腸を通過した時点で直ちに放出されることができ、又は腸内に存在する間に持続様式にて放出されることもできる。封入された薬物はまた、腸膜に入る又は通過することができ、動物の他の場所(例えば、循環系)にて薬物を放出することもできる。更に他の実施形態において、組成物は、経口又は経鼻吸入を介して送達できる。
【実施例】
【0091】
本発明の目的及び利点は、以下の実施例によって更に例示されるが、これらの実施例において列挙された特定の材料及びその量は、他の諸条件及び詳細と同様に、本発明を不当に制限するものと解釈すべきではない。これらの実施例は単に、あくまで例示を目的としたものであり、添付の請求項の範囲を制限することを意味するものではない。
【0092】
特に記載のない限り、実施例及びこれ以降の明細書に記載される部、百分率、比率等はすべて、重量による。使用された溶媒及びその他の試薬は、特に記載のない限り、シグマ・アルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Sigma-Aldrich Chemical Company)(ミズーリ州セントルイス(St. Louis)、又はアルファ・エイサー(Alfa Aesar)(マサチューセッツ州ワード・ヒル(Ward Hill))から得られた。生理学的実験に使用されるpH6.5(6.0〜7.5)の、100mLあたり600mgのNaCl(USP等級)、310mgの乳酸ナトリウム、30mgのKCl(USP等級)、及び20mgのCaCl(USP等級)の平衡水溶液であるリンガー溶液は、バクスター(Baxter)(イリノイ州ディアフィールド(Deerfield))から「乳酸化リンガー注射USP」として得られた。
【0093】
インスリン濃度の測定
インスリン濃度は、逆相勾配溶離技術を用いる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。150×4.6mmのゾルバックス(Zorbax)のステーブルボンド(Stablebond)C8(SB−C、アジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies)、デラウェア州ウィルミントン(Wilmington))シリカカラムを、0.1体積%のトリフルオロ酢酸を含有する水及びアセトニトリルの85/15体積/体積(v/v)混合物を用いて、1.0mL/分及び25℃にて平衡化した。サンプル溶液の15μL注入の後、インスリンを、0.1体積%のトリフルオロ酢酸を含有する水及びアセトニトリルの30/70体積/体積混合物への10分間の線状勾配で溶離した。インスリンの溶離は、210nmにおける紫外線吸光度検出を用いて検出した。この実験で測定されたピーク面積を、サンプル溶液中のインスリン濃度を測定するために同じ条件下で分析されたウシインスリンの標準溶液の応答と比較した。
【0094】
3−{4,6−ビス[(4−カルボキシフェニル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2−イル}−1−メチル−1H−イミダゾール−3−イウム双性イオン性水和物(以降、「比較化合物ZH」)の調製
3−{4,6−ビス[(4−カルボキシフェニル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2−イル}−1−メチル−1H−イミダゾール−3−イウムクロライド(以降、以下の左手の構造に対応する「比較化合物」)(4−N,N−ジメチルアミノピリジンの代わりに1−メチルイミダゾールを用いる以外、米国特許第6,488,866号(サホウアニ(Sahouani)ら)の実施例1に記載される方法によって本質的に調製された、78.68g、塩基滴定によって測定される場合に65重量%純度)を、攪拌しながら脱イオン水(450mL)に添加し、次いで得られた混合物を塩基の添加前に30分間混合した。水酸化ナトリウム(5.27mL、水中50重量%)を、15分間かけてこの混合物に滴下した。次いで、得られた固−液混合物を更に90分間混合した。更に2〜3時間放置した後に生成物(以下の中央構造に対応する)が形成し、その生成物を濾過し、空気乾燥した。
【0095】
【化9】

【0096】
滴定
比較滴定
3当量を超える塩基による0.5重量%比較化合物の滴定
比較化合物(1.0g)を、剪断ミキサー/エマルジファイア(シルバーソン(Silverson)モデルL4R、シルバーソン・マシーンズ(Silverson Machines, Ltd.)(英国バックス(Bucks)、チェシャム(Chesham)、ウォーターサイド(Waterside))を用いて約5分間脱イオン水(199mL)に分散させた。クレゾールレッド指示薬(水中0.04重量%、4滴)をエンドポイント検出を補助するために添加した。サンプルを、液体媒質(マリンクロット・ベーカー(Mallinckrodt Baker)(ニュージャージー州フィリップスバーグ(Phillipsburg))からの0.1N分析標準等級の水酸化ナトリウム)中に分散した固形分の懸濁を維持するために高速で攪拌しながら、1〜3時間かけて(0.1mLの目盛りを有する50mLビュレットを用いて)滴定した。分散液は、2当量の塩基を添加した後で透明になったが、それは比較化合物が上記の右手の構造に対応する化合物に転化したことを示していた。図5の得られた滴定曲線に示されるように、最初のpKaはpH約3.2にて観測され、第2のpKaはpH約5.8にて観測された。第1のエンドポイントはpH約4.7にて観測され、第2のエンドポイントはpH約8.8にて観測された。より高濃度では、ゲスト分子の封入に有用な可能性のある液晶相が、pH約7〜pH約8の間で形成される。この相は、滴定曲線の急勾配のエンドポイント転移点にて形成されるが、そこでは更に少量の塩基を添加すると、pHに大きな変動が生じる(例えば、pH感応性ゲスト分子の封入に比較化合物を使用するためには、塩基の添加量を注意深くモニターし、制御する必要があることを示している)。
【0097】
滴定A
3当量を超える塩基による0.5重量%の葉酸の滴定
シルバーソン(Silverson)L4R剪断ミキサー/エマルジファイアを用いて、葉酸(1.0g)を脱イオン水(199mL)に約5分かけて分散した。クレゾールレッド指示薬(水中0.04重量%、4滴)をエンドポイント検出を補助するために添加した。サンプルを、塩基(マリンクロット・ベイカー(Mallinckrodt Baker)(ニュージャージー州フィリップスバーグ(Phillipsburg))からの0.1N分析標準等級の水酸化ナトリウム)の添加中に液体媒質に分散した固形分の懸濁を維持するために高速で攪拌しながら(0.1mLの目盛りを有する50mLビュレットを用いて)滴定した。2当量の塩基を添加した後に分散液が透明になった。図6の得られた滴定曲線に示されるように、第1及び第2pKaは、pH約5.8にて観測された。合わせたエンドポイントはpH約6.9にて観測され、第3のエンドポイントはpH約10.0にて観測された。滴定曲線の「緩衝領域」は、pH約5.5とpH約6.5との間で観測され、そこで塩基の添加は、pHに大きな変動を与えず、高濃度においても、(例えば、pH感応性ゲスト分子の封入での使用にも)添加された塩基量の注意深いモニタリング及び制御を必要とすることなく液晶相が達成される。
【0098】
滴定B
3当量を超える塩基による1重量%の葉酸の滴定
シルバーソン(Silverson)L4R剪断ミキサー/エマルジファイアを用いて、葉酸(2.0g)を脱イオン水(198mL)に約5分かけて分散した。クレゾールレッド指示薬(水中0.04重量%、4滴)をエンドポイント検出を補助するために添加した。サンプルを、塩基(マリンクロット・ベイカー(Mallinckrodt Baker)(ニュージャージー州フィリップスバーグ(Phillipsburg))からの0.2N分析標準等級の水酸化ナトリウム)の添加中に液体媒質に分散した固形分の懸濁を維持するために高速で攪拌しながら(0.1mLの目盛りを有する50mLビュレットを用いて)滴定した。2当量の塩基を添加した後に分散液が透明になった。図7の得られた滴定曲線に示されるように、第1及び第2pKaは、pH約6.1にて観測された。合わせたエンドポイントはpH約7.1にて観測され、第3のエンドポイントはpH約10.0にて観測された。滴定曲線の「緩衝領域」は、pH約5.5とpH約6.5との間で観測され、そこで塩基の添加は、pHに大きな変動を与えず、高濃度においても、(例えば、pH感応性ゲスト分子の封入での使用にも)添加された塩基量の注意深いモニタリング及び制御を必要とすることなく液晶相が達成される。
【0099】
比較例1
比較化合物ZHを用いる粒子状組成物の調製の試み
比較化合物ZH(1.5g)を水(8.5mL、溶液中15重量%)に分散させた。次いで、この分散液を、脱イオン水中に塩化カルシウム、塩化亜鉛、又は塩化カルシウム及び塩化亜鉛(1:1)の混合物(25mL、10重量%溶液)を含有する一連のサンプルバイアル瓶に滴下した。分散液滴が各塩溶液の表面と接触したとき、液滴中の固形分が分散し、白色の粉末状沈殿物及びいくつかの粒塊チャンクを形成した。
【0100】
1当量の比較化合物ZHあたり0.5当量の塩基を添加して上記手順を繰り返した。水(8.2mL)中の比較化合物ZH(1.5g)分散液に、水酸化ナトリウム(0.3mL、5N)(溶液中15重量%)を添加し、得られた混合物を攪拌して均質混合物を得た。次いで、この混合物を、脱イオン水中に塩化カルシウム、塩化亜鉛、又は塩化カルシウム及び塩化亜鉛(1:1)の混合物(25mL、10重量%溶液)を含有するサンプルバイアル瓶に滴下した。分散液滴が各塩溶液の表面と接触したとき、液滴中の固形分が分散してビーズを形成したが、このビーズは、その一体性を維持せず、約3〜4日後にビーズ上にいくつかの剥離薄片が観測された。中和されていない比較化合物ZHは、溶液から粉末として沈降した。攪拌を停止した後、得られた混合物は、真珠光沢の溶液(総体積の約半分)及び粉末を含んでいるようであった。
【0101】
(実施例1)
葉酸を用いる粒子状組成物の調製
脱イオン水中に葉酸二水和物(表1に示される量)を電磁攪拌器を用いて分散させ、次いで1又は2当量の表1に列挙される塩基(水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム、1.0N溶液、マリンクロット・ベイカー(Mallinckrodt Baker)(ニュージャージー州フィリップスバーグ(Phillipsburg))から入手可能な分析標準等級)、濃縮(28〜30重量%)水酸化アンモニウム)を攪拌しながら添加することによって中和して、以下の表1に示される濃度を有する葉酸の溶液を調製した。得られた液晶溶液は、様々な色及び外観を示した。
【0102】
次いで水酸化ナトリウムで中和された液晶溶液(10重量%の葉酸)を、それぞれ濃度が水中10重量%である塩化カルシウムニ水和物、酢酸カルシウム、又は硝酸カルシウムの一連の溶液に滴下した。液晶溶液の液滴が各塩溶液の表面と接触したとき、液滴はその形状を保持し、固化してビーズを形成した(以下の実施例2〜4も参照のこと)。比較例1とは対照的に、1当量の添加塩基を有する液晶葉酸溶液は、攪拌を停止した後も分離しなかった。
【0103】
【表1】

【0104】
(実施例2)
1当量塩基を用いる葉酸及び封入されたエバンズブルー(Evan’s Blue)染料を含む粒子状組成物の調製
無水葉酸(FA、3.0g)を脱イオン水(15.1mL)に分散させた。この分散液に、攪拌しながら水酸化ナトリウム(1.36mL、5N)を5分間かけて滴下すると、15重量%の固形分を含む真珠光沢の橙色溶液が得られた。水(1.02mL)中に溶解したエバンズブルー(Evan’s blue)染料((6,6’−[ジメチル[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジイル)ビス(アゾ)]ビス[4−アミノ−5−ヒドロキシ−1,3−ナフタレンジスルホン酸]四ナトリウム塩、EB、0.015g)を、葉酸溶液に添加し、約10分間攪拌すると、FAの重量を基準に0.5重量%のEBを含有する緑色の真珠光沢溶液が得られた。次いで、この溶液を、脱イオン水中に塩化カルシウム、塩化亜鉛、又は塩化カルシウム及び塩化亜鉛(1:1)の混合物(25mL、10重量%溶液)を含有する一連のバイアル瓶に滴下した。EB含有FA溶液の液滴が各塩溶液の表面に接触したとき、液滴はその形状を保持し、固化され、見掛け上丸く、粉末を形成するようには分散しない架橋FAビーズを形成した。EBは、ビーズ上方の各溶液が青色ではないことによって示されるように、一貫して架橋FAビーズ中に留まった。3日後、各溶液からのビーズの一部を脱イオン水に入れると、ビーズ上方の水が青色を呈していないことによって示されるように、ビーズはEBを保持していた。
【0105】
(実施例3)
1.5当量塩基を用いる葉酸及び封入されたエバンズブルー(Evan’s Blue)染料を含む粒子状組成物の調製
無水葉酸(FA、1.5g)を脱イオン水(7.5mL)に分散させた。この分散液に、攪拌しながら水酸化ナトリウム(1.02mL、5N)を5分間かけて滴下すると、15重量%の固形分を含む真珠光沢の橙色溶液が得られた。水(0.51mL)中に溶解したエバンズブルー(Evan’s blue)染料(EB、0.0075g)を葉酸溶液に添加し、約10分間攪拌すると、FAの重量を基準に0.5重量%のEBを含有する曇った橙色溶液が得られた。次いで、この溶液を、脱イオン水中に塩化カルシウム、塩化亜鉛、又は塩化カルシウム及び塩化亜鉛(1:1)の混合物(25mL、10重量%)を含有する一連のバイアル瓶に滴下した。EB含有FA溶液の液滴が各塩溶液の表面に接触したとき、液滴はその形状を保持し、固化し、見掛け上丸く、粉末を形成するようには分散しない架橋FAビーズを形成した。EBは、ビーズ上方の各溶液が青色ではないことによって示されるように、一貫してビーズ中に留まった。3日後、各溶液からのビーズの一部を脱イオン水に入れると、ビーズ上方の水が青色を呈していないことによって示されるように、ビーズはEBを保持していた。
【0106】
(実施例4)
2当量塩基を用いる葉酸及び封入されたエバンズブルー(Evan’s Blue)染料を含む粒子状組成物の調製
無水葉酸(FA、1.5g)を脱イオン水(7.15mL)に分散させた。この分散液に、攪拌しながら水酸化ナトリウム(1.3mL、5N)を5分間かけて滴下すると、15重量%の固形分を含む真珠光沢の橙色溶液を得た。水(0.51mL)中に溶解したエバンズブルー(Evan’s blue)染料(EB、0.0075g)を葉酸溶液に添加し、約10分間攪拌すると、FAの重量を基準に0.5重量%のEBを含有する曇ったクランベリーレッドの溶液が得られた。次いで、この溶液を、脱イオン水中に塩化カルシウム、塩化亜鉛、又は塩化カルシウム及び塩化亜鉛(1:1)の混合物(25mL、10重量%)を含有する一連のバイアル瓶に滴下した。EB含有FA溶液の液滴が各塩溶液の表面に接触したとき、液滴はその形状を保持し、固化し、見掛け上丸く、粉末を形成するようには分散しない架橋FAビーズを形成した。EBは、ビーズ上方の各溶液が青色ではないことによって示されるように、一貫してビーズ中に留まった。3日後、各溶液からのビーズの一部を脱イオン水に入れると、ビーズ上方の水が青色を呈していないことによって示されるように、ビーズはEBを保持していた。
【0107】
(実施例5)
葉酸及び封入されたインスリンを含む粒子状組成物の調製
葉酸二水和物(6.67g、水酸化ナトリウムを用いてpH6.2に中和された12重量%の原液、約1当量の塩基)及びウシインスリン(水中の75mg/mL原液1.33g、シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich)からカタログ番号I5500として得られた)の混合物を、攪拌棒を備えた広口バイアル瓶に入れ、30分間攪拌した。プロペラを備えたミキサーを1時間用いて、ヒドロキシプロピルセルロース(水中17重量%溶液155g、MW 100,000)中の葉酸/インスリン混合物(7.8g)のエマルションを製造した。このエマルション(38.2g)の一部を、塩化カルシウム及び塩化亜鉛(水中の1:1混合物の10重量%原液)から製造された架橋溶液(200mL)に添加し、1時間放置した。次いで、得られた混合物を振とう器(「リシプロケイティング・シェイカー(Reciprocating Shaker)」、カタログ番号6010、エバーバック(Eberback Corp.)ミシガン州アナーバー(Ann Arbor))に30分間置いた。次いで、追加の水(200mL)をこの混合物に添加した。穏やかに混合した後、混合物を1分あたり3000回転(rpm)にて30分間遠心分離した(得られた上澄みが曇っていた場合には更に30分間行った)。上澄みを取り出した後、その一部を分析用に確保し、追加の水(50mL)を得られた濃縮固体(以降、「ペレット」)に添加し、得られたサンプルを30秒間又はペレットが分散するまで超音波プローブした(30%振幅、ソニック・アンド・マテリアルズ(Sonics & Materials, Inc.)(コネチカット州ニュートン(Newton))製の、0.64cm(1/4インチ)プローブを備えたビブラーセル(Vibracell)VCX 130超音波プローブ)。水(200mL)を添加し、穏やかに混合した後、サンプルを3000rpmにて30分間遠心分離した。上澄みを取り出した後、その一部を分析用に確保し、エチルアルコール(50mL)を添加し、サンプルを30秒間又はペレットが分散するまで超音波プローブした(30%振幅)。追加のエチルアルコール(200mL)を添加し、穏やかに混合した後、サンプルを3000rpmにて30分間遠心分離した。上澄みを取り出し、サンプルを凍結乾燥瓶に入れ、液体窒素を用いて急速冷凍した。次いで、ペレットを、粉末状になるまで真空(93.3Pa(700mTorr)未満の圧力)下で凍結乾燥器に入れた。
【0108】
得られたインスリン含有葉酸粒子の一部(5mg)を、5mLのリンガー溶液とともに別の容器に加えた。次いで、得られた混合物を振とう器(「リシプロケイティング・シェイカー(Reciprocating Shaker)」、カタログ番号6010、エバーバック(Eberback Corp.)(ミシガン州アナーバー(Ann Arbor))に置き、サンプル(0.5mL部分)を、5、15、30、45、60、及び90分後、分析のために取り出した。サンプルをHPLCによってインスリン含量について分析し、結果は次の通りであった。5分後に4.8重量%を放出、15分後に5.9重量%を放出、30分後に6.6重量%を放出、45分後に7.5重量%を放出、及び60分後に8.6重量%を放出した。
【0109】
本明細書で引用した特許、特許文献、及び公報に含有される参照された記述内容は、その全体が、それぞれ個別に組み込まれているかのように、参照として組み込まれる。本発明に対する様々な予見できない修正及び変更は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく当業者に明らかとなるであろう。本発明は、本明細書に記載した例示的な実施形態及び実施例によって過度に限定されるものではなく、またかかる実施例及び実施形態は、一例として表されているだけであり、本発明の範囲は、以下のように本明細書に記載した請求項によってのみ限定されることを意図するものと理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カチオンによって非共有結合により架橋され、非ポリマー性であり、1つより多くのカルボキシ官能基を有し、少なくとも部分的に芳香族又は複素芳香族の特性を有し、少なくとも1つのプテリン又は5−置換プテリン部分を含むホスト分子を含む非水溶性マトリックスを含む組成物。
【請求項2】
前記部分の5位における置換基が、水素、アルキル、ホルミル、ホルムイミノ、アルキリデン、及びアルキリジンから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ホスト分子が、少なくとも1つのプテロイル又は5−置換プテロイル部分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記部分の5位における置換基が、水素、アルキル、ホルミル、ホルムイミノ、アルキリデン、及びアルキリジンから選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ホスト分子が、プテロイルグルタミン酸又は5−置換プテロイルグルタミン酸である、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記酸の5位における置換基が、水素、アルキル、ホルミル、ホルムイミノ、アルキリデン、及びアルキリジンから選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ホスト分子が葉酸又はフォリン酸である、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記ホスト分子がプテロイルグルタミン酸である、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
前記ホスト分子が葉酸である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記ホスト分子が、2つの前記カルボキシ官能基を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記カルボキシ官能基が、脂肪族部分に直接結合している、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記ホスト分子が、少なくとも部分的に芳香族特性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が更に、少なくとも1つのゲスト分子を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記ゲスト分子が、染料、化粧品剤、芳香剤、着香剤、及び生物活性化合物から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記生物活性化合物が、薬物、除草剤、殺虫剤、フェロモン、及び抗真菌剤から選択される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記ゲスト分子が薬物である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記薬物が、タンパク質及びペプチドから選択される、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記薬物がインスリンである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記ホスト分子が、前記多価カチオンの不在下にて、水溶液中で、クロモニックM、N、又はアイソトロピック相を形成できる、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
前記多価カチオンの大部分が二価である、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
前記多価カチオンが、二価及び三価カチオンから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
前記多価カチオンが、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、鉄、及びこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項23】
多価カチオンによって非共有結合により架橋した葉酸を含む非水溶性マトリックスを含む組成物。
【請求項24】
前記組成物が更に、少なくとも1つのゲスト分子を含む、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記ゲスト分子が薬物である、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記薬物が、タンパク質及びペプチドから選択される、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記薬物がインスリンである、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
多価カチオンによって非共有結合により架橋され、非ポリマー性であり、1つより多くのカルボキシ官能基を有し、少なくとも部分的に芳香族又は複素芳香族の特性を有し、少なくとも1つのプテリン又は5−置換プテリン部分を含むホスト分子を含む非水溶性マトリックスを含む粒子を含む粒子状組成物。
【請求項29】
前記粒子が、一価カチオンを含む水溶液中に可溶である、請求項28に記載の粒子状組成物。
【請求項30】
前記粒子が、7.0未満のpHを有する溶液中に実質的に溶解しない、請求項28に記載の粒子状組成物。
【請求項31】
前記粒子の質量中央粒径が100μm未満である、請求項28に記載の粒子状組成物。
【請求項32】
請求項28に記載の粒子状組成物及び少なくとも1つの液体を含む医薬懸濁製剤。
【請求項33】
請求項1に記載の組成物を調製する方法であって、
(a)
(1)非ポリマー性であり、1つより多くのカルボキシ官能基を有し、少なくとも部分的に芳香族又は複素芳香族の特性を有し、少なくとも1つのプテリン又は5−置換プテリン部分を含む少なくとも1つのホスト分子を含む分散液と、
(2)少なくとも1つの塩基と
を合わせてクロモニック相を有する溶液を形成する工程と、
(b)クロモニック相を有する前記溶液と、多価カチオンの溶液とを合わせて、非水溶性マトリックスを形成する工程とを含む、方法。
【請求項34】
薬物送達方法であって、
(a)非水溶性マトリックスを含む組成物を提供する工程であって、このマトリックスが、
(1)多価カチオンによって非共有結合により架橋され、非ポリマー性であり、1つより多くのカルボキシ官能基を有し、少なくとも部分的に芳香族又は複素芳香族の特性を有し、少なくとも1つのプテリン又は5−置換プテリン部分を含むホスト分子と、
(2)前記マトリックス内に封入された少なくとも1つの薬物と、を含む工程と、
(b)前記組成物が一価カチオンを含む組成物と接触し、前記封入された薬物の少なくとも一部を放出するように、生体に前記組成物を送達する工程と、
(c)前記放出された薬物を、所望の治療効果が達成されるのに十分な時間、前記生体の少なくとも一部と接触させ続ける工程とを含む、方法。
【請求項35】
前記組成物が動物に経口で送達される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記封入された薬物が、放出前に腸に送達される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記封入された薬物が、放出前に体循環に送達される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記組成物が吸引により動物に送達される、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
前記組成物が静脈内又は筋肉内にて動物に送達される、請求項34に記載の方法。
【請求項40】
請求項1に記載の組成物を含む錠剤。
【請求項41】
請求項28に記載の粒子状組成物を含むカプセル。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−514679(P2010−514679A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543129(P2009−543129)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/087867
【国際公開番号】WO2008/079805
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】