説明

制御用回転速度算出装置、制御用回転速度算出方法及び制御用回転速度算出プログラム

【課題】安定制御を実現できる低コストの制御用回転速度算出装置等を提供する。
【解決手段】2つの汎用センサの回転信号を演算装置のCPU で処理する。一方のセンサによる回転速度が基準値Vs 未満で他方のセンサによる回転速度が基準値以上である場合(S11,YES又はS13,YES)には、大きい方の回転速度を選択し(S12,S14) 、その移動平均を制御用回転速度NEa とする。それ以外の場合には、2つのセンサについて現在と一つ前の回転速度の差分の絶対値を互いに比較し、差分の絶対値が小さい方のセンサによる現在の回転速度を選択し(S15,YESとS15,NO) 、その移動平均を制御用回転速度NEa とする。一方のセンサに不具合が生じてもショックレスの状態でスムーズに切り換えができ、エンジンの回転は不安定化しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの駆動軸のような回転体の回転速度を適正に制御するために、制御対象として最も適した制御用回転速度を算出して出力することができる制御用回転速度算出装置等に係り、特に制御が安定するために回転体の動作に無用な変動が生じにくく、構成が簡単でコストが低い回転体の制御用回転速度算出装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの回転数を制御する場合には、回転センサによって回転軸の回転数を検出し、回転数を示す回転センサからの回転信号に基づいて制御手段が回転速度を算出するとともに、この回転速度を基としてエンジンの回転数を制御するという手法を採用することができる。このような一般的な制御構成においては、回転信号の取得のために使用する回転センサとしては、例えば電磁ピックアップや近接センサ等の汎用のセンサを使用することができ、またその設置個数としては1個の場合もあれば、2個以上を使用する例もある。
【0003】
下記特許文献1には非磁性導体からなる回転体の回転数を検出するセンサが開示されている。このセンサは、汎用型のものではなく、電気的に並列で各々が回転体を励磁する例えば2個のコイル2と、これらコイル2に共通する一つの出力端子6と、増幅器4と、パルス変換器5を備えており、一方のコイルが断線しても他方のコイルが出力し続けるようになっている。このようにセンサは2個のコイルを備えているので、エンジンなどの過酷な環境でも信頼性に優れ、長期的に安定して回転数を検出できるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−162711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前述したような汎用の回転センサを用いて回転速度を制御する構成では、1つの回転センサで回転信号を出力する場合には、この回転センサに不具合が発生すると異常な回転信号を制御に使用してしまうことになるため、エンジンの動作が不安定化する等の問題があった。
【0006】
2つの汎用の回転センサを用いる場合には、どちらの回転センサが正しいか判定することができないため、安定した制御を行なうことが困難である。また、1つの回転センサをメインとして利用し、他方のセンサの出力を参考とし、これと比較して判断する手法をとることは可能ではあるが、誤判定の可能性を前提とせざるを得ず、必ずしも安定した制御を実現できるとはいえない。
【0007】
3つの汎用の回転センサを用いる場合には、多数決による判定を行なうことによって判定精度が向上する可能性はあるが、回転センサの設置数の増大によりコストが増え、また構成やデータ処理が複雑化する等の問題がある。
【0008】
また、上記特許文献1に記載されたセンサは、実質的に2個のセンサ(コイル)で回転数の検出を行なうものであるが、その構成は前述したような汎用のセンサを利用したものではなく、専用のセンサと回路によって構成されている。このため、汎用のセンサを利用する場合に比べて製造コストが高く、また従来のシステムに簡単には組み込むことができない等の問題がある。
【0009】
本発明は、上述したような従来の問題点を解決することを目的としており、汎用型のセンサを利用した簡単な構成であるためにコストが低廉でありながら、安定した制御を実現することができる回転体の制御用回転速度算出装置等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載された制御用回転速度算出装置は、回転体の回転速度を制御するための制御用回転速度を算出する制御用回転速度算出装置において、
前記回転体の回転数をそれぞれ検出する2つのセンサと、
前記2つのセンサでそれぞれ検出した前記回転数に基づいて前記回転体の前記回転速度を所定の時間間隔ごとにそれぞれ算出するとともに、前記2つのセンサについて現在と一つ前の前記回転速度の差分の絶対値を算出して互いに比較し、前記差分の絶対値が小さいと判断された前記センサの現在の前記回転速度に基づいて前記制御用回転速度を算出する演算装置を具備することを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載された制御用回転速度検出装置は、請求項1記載の制御用回転速度検出装置において、
前記演算装置は、一方の前記センサによる前記回転速度が回転信号選択判断速度未満で他方の前記センサによる前記回転速度が前記回転信号選択判断速度以上である第1の場合には他方の前記センサによる前記回転速度に基づいて前記制御用回転速度を算出し、前記第1の場合が成立せず、他方の前記センサによる前記回転速度が前記回転信号選択判断速度未満で一方の前記センサによる前記回転速度が前記回転信号選択判断速度以上である第2の場合には一方の前記センサによる前記回転速度に基づいて前記制御用回転速度を算出し、前記第1の場合と前記第2の場合が成立しない場合に、前記差分の絶対値の比較に基づく前記制御用回転速度の算出を行なうことを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載された制御用回転速度検出装置は、請求項2記載の制御用回転速度検出装置において、
前記演算装置は、前記2つのセンサが正常である場合に、前記2つのセンサの前記各回転速度にそれぞれ基づく2つの異常判定用回転速度の両方がオーバースピード判定速度以上である場合に、前記回転体の前記回転速度がオーバースピードであると判定することを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載された制御用回転速度検出装置は、請求項3記載の制御用回転速度検出装置において、
前記演算装置は、前記2つのセンサの一方が異常であるとともに他方が正常であり、かつ正常である他方の前記センサの前記回転速度に基づく前記異常判定用回転速度が前記オーバースピード判定速度以上である場合に、前記回転体の前記回転速度がオーバースピードであると判定することを特徴としている。
【0014】
請求項5に記載された制御用回転速度検出装置は、請求項4記載の制御用回転速度検出装置において、
前記演算装置は、前記2つのセンサの一方の前記回転速度が0であり、他方の前記回転速度が断線判定速度以上である場合に、前記回転速度が0である一方の前記センサが異常であると判定することを特徴としている。
【0015】
請求項6に記載された制御用回転速度算出方法は、回転体の回転速度を制御するための制御用回転速度を算出する制御用回転速度算出方法において、
2つのセンサで前記回転体の回転数をそれぞれ検出し、前記2つのセンサがそれぞれ検出した前記回転数に基づいて前記回転体の前記回転速度を所定の時間間隔ごとにそれぞれ算出し、前記2つのセンサについて現在と一つ前の前記回転速度の差分の絶対値を算出して互いに比較し、前記差分の絶対値が小さいと判断された前記センサの現在の前記回転速度に基づいて前記制御用回転速度を算出することを特徴としている。
【0016】
請求項7に記載された制御用回転速度算出プログラムは、回転体の回転速度を制御するための制御用回転速度を算出する制御用回転速度算出プログラムにおいて、
前記回転体の回転数を検出する2つのセンサでそれぞれ検出した前記回転数に基づいて前記回転体の前記回転速度を所定の時間間隔ごとにそれぞれ算出するとともに、前記2つのセンサについて現在と一つ前の前記回転速度の差分の絶対値を算出して互いに比較し、前記差分の絶対値が小さいと判断された前記センサの現在の前記回転速度に基づいて前記制御用回転速度を算出することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載された制御用回転速度算出装置と、請求項6に記載された制御用回転速度算出方法と、請求項7に記載された制御用回転速度算出プログラムによれば、次のような効果が得られる。すなわち、2つのセンサによって回転速度を所定時間間隔で取得し、2つのセンサについて現在と一つ前の回転速度の差分の絶対値を互いに比較し、その差分の絶対値が小さい方のセンサによる現在の回転速度に基づいて制御用回転速度を算出するので、回転体の回転速度を制御するため、仮に一方のセンサに不具合が生じてもショックレスでスムーズにセンサの切り換えを行なうことができ、制御対象である回転体の回転が不安定化することがない。
【0018】
請求項2に記載された制御用回転速度検出装置によれば、まず一方のセンサによる回転速度が基準値未満で他方のセンサによる回転速度が基準値以上である場合には、大きい方のセンサによる回転速度に基づいて制御用回転速度を算出しており、それ以外の場合において差分の絶対値の比較に基づく制御用回転速度の算出を行っているので、センサの不具合のためにセンサを切り替えて使用する場合に回転体の回転速度が急に増大してショックが加わるおそれが少なく、請求項1記載の制御用回転速度検出装置による効果をより一層確実に達成することができる。
【0019】
請求項3に記載された制御用回転速度検出装置によれば、請求項2記載の制御用回転速度検出装置による効果において、2つのセンサが正常である場合には、2つのセンサの各回転速度にそれぞれ基づく2つの異常判定用回転速度を基準値と比較することにより、回転体の回転速度がオーバースピードであるか否かを判定することができるので、回転体の回転速度の過剰な上昇を抑えることができる。
【0020】
請求項4に記載された制御用回転速度検出装置によれば、請求項3記載の制御用回転速度検出装置による効果において、2つのセンサの一方が異常であり他方が正常である場合には、正常なセンサの回転速度に基づく異常判定用回転速度を基準値と比較することにより、回転体の回転速度がオーバースピードであるか否かを判定することができるので、回転体の回転速度の過剰な上昇を抑えることができる。
【0021】
請求項5に記載された制御用回転速度検出装置によれば、請求項4記載の制御用回転速度検出装置による効果において、一方のセンサによる回転速度が0であり、他方のセンサによる回転速度が基準値以上である場合に、回転速度が0である方のセンサが異常であると判定するので、2つのセンサの断線状況について正しい判断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る制御用回転速度算出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る制御用回転速度算出装置における信号の波形図であって、センサからの回転信号と、これを演算装置で整形して得た回転信号を示す波形図である。
【図3】本発明の実施形態に係る制御用回転速度算出装置において、演算装置が有するCPUの内部構成及びCPU内部での情報の流れを示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る制御用回転速度算出装置において、演算装置が有するCPUのセレクタでの情報処理手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る制御用回転速度算出装置において、演算装置が有するCPUでのオーバースピード判定処理を行なうための情報処理手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態に係る制御用回転速度算出装置において、演算装置が有するCPUでの回転センサ断線判定処理を行なうための情報処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を図1〜図6を参照して説明する。
(1)用語の説明
以下の説明で使用される本装置の構成部分や種々の速度等について、その名称乃至符号とその意味を、説明に先立ってまとめて表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
(2)構成
図1に示す実施形態の制御用回転速度算出装置10は、エンジンの駆動軸11のような回転体を対象としており、この駆動軸11に連動する検出用ギア12に近接して2つの汎用のセンサ1、2を配置し、これらセンサ1、2から得た回転信号を入力情報として演算装置3が予め定められた所定の手順(プログラム)に従って加工を施し、エンジンを制御するために最も適した駆動軸11の回転速度出力(制御用回転速度NEa)と、スピードオーバーやセンサ1、2の断線等のアラーム出力を出力情報として生成する装置である。この制御用回転速度算出装置10が算出して外部に出力した回転速度出力(制御用回転速度NEa)やアラーム出力は、図1には示さないエンジンの制御装置等に与えられてエンジンの回転数制御(又は回転速度制御)等に供されることとなる。
【0026】
図1に示すように、エンジンの駆動軸11に取り付けられた検出用ギア12の近傍には、検出用ギア12の歯に近接して電磁ピックアップや近接センサ等の汎用の2つのセンサ1,2が回転センサとして配置されている。これら両センサ1,2は、検出用ギア12の歯を検出して図2の上段に示すような回転信号をそれぞれ出力する。このような2つのセンサ1,2からの回転信号は、図1に示すように各センサ1,2に対応して演算装置3内に設けられた2つの波形整形回路4,5のそれぞれに入力され、図2の下段に示すような矩形の回転信号に整形されて出力される。
【0027】
(3)制御用回転速度NEaの算出処理
図1に示すように、演算装置3において、各波形整形回路4,5から出力された整形後の回転信号は、CPU6に入力されて次に説明するような内部処理を受ける。まず、図1、図3及び図4を参照して制御用回転速度NEaを算出する手順について説明する。図1に示すように、センサ1,2が出力した回転信号は前述したように波形整形回路4,5でそれぞれ整形された後にCPU6に入力される。CPU6では、整形後の回転信号をCPU6内の図示しないカウンタに入力し、割り込みを発生させるか又は定期的にカウンタ値を読み取ることによって回転信号のパルス間隔の時間を計測し、瞬時回転速度NE1,NE2に換算する。
【0028】
図3に示すように、CPU6内では、瞬時回転速度NE1,NE2に対してそれぞれ移動平均処理を行い、異常判定用回転速度NE1a,NE2aを算出する。また、CPU6内では、セレクタ7が瞬時回転速度NE1,NE2のいずれか一方を選択して回転速度NEとし、さらに回転速度NEに対して移動平均処理を行い、制御用回転速度NEaを算出する。
【0029】
図3中に示したセレクタ7における瞬時回転速度NE1,NE2の選択手順を図4に示す。この選択においては、基準値として回転信号選択判断速度VS が用いられ、これと瞬時回転速度NE1,NE2が比較される。図4に示すように、セレクタ7において回転速度選択開始の手順が開始されると、まずステップS11においてNE1<VS かつVS ≦NE2の条件が判断され、成立する場合には(S11、YES)、回転速度NEとして回転信号選択判断速度VS よりも小さいNE1ではなく、大きいNE2を選択して(S12)、選択処理を終了する。ステップS11の条件が成立しない場合には(S11、NO)、ステップS13においてNE2<VS かつVS ≦NE1の条件が判断され、成立する場合には(S13、YES)、回転速度NEとして回転信号選択判断速度VS よりも小さいNE2ではなく、大きいNE1を選択して(S14)、選択処理を終了する。
【0030】
ステップS13の条件が成立しない場合には(S13、NO)、ステップS15において(A)式の条件が判断される。ここで、(A)式とは、図4中にも示すように、次式の通りである。
|NE1(n)−NE1(n−1)|≦|NE2(n)−NE2(n−1)|…(A) (n:現在値、n−1:1つ前の値)
【0031】
(A)式が成立するか否かを判断することは、2つのセンサ1,2について現在と一つ前の瞬時回転速度の差分の絶対値を算出して互いに比較し、その時間的な差分の絶対値が小さいと判断された方のセンサの現在の瞬時回転速度を回転速度として選択することを意味する。従って、(A)式が成立する場合(S15、YES)には、差分の絶対値が小さいのはセンサ1による瞬時回転速度NE1であるので、回転速度NEとして瞬時回転速度NE1を選択して(S16)、選択処理を終了する。(A)式が成立しない場合(S15、NO)には、差分の絶対値が小さいのはセンサ2による瞬時回転速度NE2であるので、回転速度NEとして瞬時回転速度NE2を選択して(S17)、選択処理を終了する。
【0032】
このように、本実施形態によれば、一方のセンサによる回転速度が基準値未満で他方のセンサによる回転速度が基準値以上である場合には、大きい方の回転速度を選択し、これの移動平均をとって制御用回転速度NEaとしており、それ以外の場合には、2つのセンサについて現在と一つ前の回転速度の差分の絶対値を互いに比較し、その差分の絶対値が小さい方のセンサによる現在の回転速度を選択し、これの移動平均をとって制御用回転速度NEaとしている。従って、エンジンの回転速度を制御するため、仮に一方のセンサに不具合が生じて他方のセンサに切り替えてもエンジンの回転速度が急に増大する等のショックは生じにくく、ほとんどショックレスの状態でスムーズにセンサの切り換えを行なうことができ、制御対象であるエンジンの回転が不安定化するおそれが少ない。
【0033】
(4)オーバースピード判定処理
図1に示す演算装置3では、CPU6内においてオーバースピード判定処理を行なう。オーバースピード判定処理は、図3に示した異常判定用回転速度NE1a,NE2aと、基準値としてオーバースピード判定速度VOVERを使用し、図5に示す手順で行なう。
【0034】
図5に示すように、オーバースピード判定処理が開始されると、まずステップS21でセンサ1の断線がないと判断され(S21、NO)、ステップS22でセンサ2の断線がないと判断され(S22、NO)、いずれのセンサも正常である場合には、ステップ23においてVOVER≦NE1aかつVOVER≦NE2aの条件が判断される。成立する場合には(S23、YES)、オーバースピードが発生しているものとしてアラームを出力し(S24)、判定処理を終了する。VOVER≦NE1aかつVOVER≦NE2aが成立しない場合には(S23、NO)、オーバースピードは発生していないので、アラームを出力することなく本判定処理を終了する。
【0035】
図5に示すように、オーバースピード判定処理が開始された後、まずステップS21でセンサ1の断線があると判断された場合には(S21、YES)、後述するようにセンサ2の断線はないので、回転数Nとしてセンサ2による異常判定用回転速度NE2aを採用し(S25)、ステップ26においてVOVER≦Nの条件が判断される。成立する場合には(S26、YES)、正常なセンサ2の異常判定用回転速度NE2aが基準値を越えているのであるから、オーバースピードが発生しているものとしてアラームを出力し(S24)、判定処理を終了する。ステップ26においてVOVER≦Nの条件が成立しない場合には(S26、NO)、正常なセンサ2の異常判定用回転速度NE2aが基準値を下回っているのであるから、オーバースピードは発生しておらず、アラームを出力することなく本判定処理を終了する。
【0036】
図5に示すように、オーバースピード判定処理が開始された後、ステップS21でセンサ1の断線がないと判断された場合には(S21、NO)、ステップS22でセンサ2の断線があるか否かが判断される。センサ2が断線していると判断された場合には(S22、YES)、回転数Nとしてセンサ1による異常判定用回転速度NE1aを採用し(S27)、ステップ26においてVOVER≦Nの条件が判断される。成立する場合には(S26、YES)、正常なセンサ1の異常判定用回転速度NE1aが基準値を越えているのであるから、オーバースピードが発生しているものとしてアラームを出力し(S24)、判定処理を終了する。ステップ26においてVOVER≦Nの条件が成立しない場合には(S26、NO)、正常なセンサ1の異常判定用回転速度NE1aが基準値を下回っているのであるから、オーバースピードは発生しておらず、アラームを出力することなく本判定処理を終了する。
【0037】
このように、本実施形態によれば、2つのセンサが正常である場合には、2つのセンサの各回転速度にそれぞれ対応する2つの異常判定用回転速度NE1a,NE2aを基準値と比較することにより、エンジンの回転速度がオーバースピードであるか否かを判定することができ、また2つのセンサの一方が異常であり他方が正常である場合には、正常なセンサの回転速度に基づく異常判定用回転速度NE1a又はNE2aを基準値と比較することにより、エンジンの回転速度がオーバースピードであるか否かを判定することができる。このため、エンジンの回転速度が異常な状態で上昇することを抑えることができる。エンジンが何らかの異常により暴走して過回転の状態になると重大な事故を引き起こすおそれがあるが、本実施形態によればそのような異常を早めに検出して迅速かつ確実に安全な状態で停止させることができるという効果がある。
【0038】
(5)回転センサ断線判定処理
前述した図5のオーバースピード判定処理において、センサ1、2について断線の有無を判定したが、かかるセンサの断線についての判定処理は、図1に示す演算装置3のCPU6内において、図3に示した異常判定用回転速度NE1a,NE2aと、基準値である断線判定速度Verr を使用し、図6に示す手順で行なう。
【0039】
図6に示すように、センサ1,2の断線判定処理が開始された後、まずステップS31でNE1a=0かつVerr ≦NE2aの条件が判断され、同条件が成立すると判断された場合には(S31、YES)、センサ1の出力が0であるのに、センサ2は基準値以上の回転速度を示しているのであるから、センサ1が断線しているとのアラームを出力し(S32)、判定処理を終了する。
【0040】
図6に示すように、センサの断線判定処理が開始された後、ステップS31でNE1a=0かつVerr ≦NE2aの条件が成立しないと判断された場合には(S31、NO)、ステップS33でNE2a=0かつVerr ≦NE1aの条件が判断される。同条件が成立すると判断された場合には(S33、YES)、センサ2の出力が0であるのに、センサ1は基準値以上の回転速度を示しているのであるから、センサ2が断線しているとのアラームを出力し(S34)、判定処理を終了する。
【0041】
ステップS31でNE1a=0かつVerr ≦NE2aの条件が成立せず(S31、NO)、さらにステップS33でNE2a=0かつVerr ≦NE1aの条件が成立しないと判断された場合には(S33、NO)、2つのセンサはいずれも正常であるものと判断され(S35)、アラームを出力することなく本判定処理を終了する。
【0042】
このように、本実施形態によれば、一方のセンサによる回転速度が0であり、他方のセンサによる回転速度が基準値以上である場合に、回転速度が0である方のセンサが異常であると判定するので、2つのセンサの断線状況について正しい判断を行うことができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の制御用回転速度算出装置10は、図4〜図6に示したフローチャートで表す情報処理の手順を記載したプログラムを演算装置3のROMに書き込むことにより構成された一種の情報処理装置であって、互いに独立して設置された汎用の2個のセンサからの回転信号を上記ROM中のプログラムに従って上記CPU6がRAM等とともに処理することにより制御用回転速度NEaや、異常判定用回転速度NE1a,NE2aを算出して外部に出力するものであり、これを用いてエンジンの制御を安定して行うとともに、オーバースピード判定やセンサの断線判断といった異常判定を行なうという一定の目的を達成するものである。
【0044】
なお、以上説明した演算装置3における選択・判定の各処理手順においては、その処理の目的に応じて、センサの出力に基づく各種回転速度と比較するための基準値として、回転信号選択判断速度VS と、オーバースピード判定速度VOVERと、断線判定速度Verr が予め設定されている。その大小関係は一般にVerr ≦VS <VOVERとすることができる。
【0045】
また、本実施形態の制御用回転速度算出装置10はエンジンを制御するための制御用回転速度を算出するものであったが、これは一例に過ぎず、制御用回転速度を算出する対象としてはエンジンのみに限るものではなく、回転数が検出可能で回転を制御しうる回転体であれば本発明の対象になることはもちろんである。
【符号の説明】
【0046】
1,2…センサ
3…演算装置
4,5…波形整形回路
6…CPU
7…セレクタ
10…制御用回転速度算出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の回転速度を制御するための制御用回転速度を算出する制御用回転速度算出装置において、
前記回転体の回転数をそれぞれ検出する2つのセンサと、
前記2つのセンサでそれぞれ検出した前記回転数に基づいて前記回転体の前記回転速度を所定の時間間隔ごとにそれぞれ算出するとともに、前記2つのセンサについて現在と一つ前の前記回転速度の差分の絶対値を算出して互いに比較し、前記差分の絶対値が小さいと判断された前記センサの現在の前記回転速度に基づいて前記制御用回転速度を算出する演算装置を具備することを特徴とする制御用回転速度算出装置。
【請求項2】
前記演算装置は、一方の前記センサによる前記回転速度が回転信号選択判断速度未満で他方の前記センサによる前記回転速度が前記回転信号選択判断速度以上である第1の場合には他方の前記センサによる前記回転速度に基づいて前記制御用回転速度を算出し、前記第1の場合が成立せず、他方の前記センサによる前記回転速度が前記回転信号選択判断速度未満で一方の前記センサによる前記回転速度が前記回転信号選択判断速度以上である第2の場合には一方の前記センサによる前記回転速度に基づいて前記制御用回転速度を算出し、前記第1の場合と前記第2の場合が成立しない場合に、前記差分の絶対値の比較に基づく前記制御用回転速度の算出を行なうことを特徴とする請求項1記載の制御用回転速度検出装置。
【請求項3】
前記演算装置は、前記2つのセンサが正常である場合に、前記2つのセンサの前記各回転速度にそれぞれ基づく2つの異常判定用回転速度の両方がオーバースピード判定速度以上である場合に、前記回転体の前記回転速度がオーバースピードであると判定することを特徴とする請求項2記載の制御用回転速度検出装置。
【請求項4】
前記演算装置は、前記2つのセンサの一方が異常であるとともに他方が正常であり、かつ正常である他方の前記センサの前記回転速度に基づく前記異常判定用回転速度が前記オーバースピード判定速度以上である場合に、前記回転体の前記回転速度がオーバースピードであると判定することを特徴とする請求項3記載の制御用回転速度検出装置。
【請求項5】
前記演算装置は、前記2つのセンサの一方の前記回転速度が0であり、他方の前記回転速度が断線判定速度以上である場合に、前記回転速度が0である一方の前記センサが異常であると判定することを特徴とする請求項4記載の制御用回転速度検出装置。
【請求項6】
回転体の回転速度を制御するための制御用回転速度を算出する制御用回転速度算出方法において、
2つのセンサで前記回転体の回転数をそれぞれ検出し、前記2つのセンサがそれぞれ検出した前記回転数に基づいて前記回転体の前記回転速度を所定の時間間隔ごとにそれぞれ算出し、前記2つのセンサについて現在と一つ前の前記回転速度の差分の絶対値を算出して互いに比較し、前記差分の絶対値が小さいと判断された前記センサの現在の前記回転速度に基づいて前記制御用回転速度を算出することを特徴とする制御用回転速度算出方法。
【請求項7】
回転体の回転速度を制御するための制御用回転速度を算出する制御用回転速度算出プログラムにおいて、
前記回転体の回転数を検出する2つのセンサでそれぞれ検出した前記回転数に基づいて前記回転体の前記回転速度を所定の時間間隔ごとにそれぞれ算出するとともに、前記2つのセンサについて現在と一つ前の前記回転速度の差分の絶対値を算出して互いに比較し、前記差分の絶対値が小さいと判断された前記センサの現在の前記回転速度に基づいて前記制御用回転速度を算出することを特徴とする制御用回転速度算出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−163902(P2011−163902A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26604(P2010−26604)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(503116899)新潟原動機株式会社 (61)