説明

制振材

【課題】ピーク温度における制振性能を向上させることができる制振材を提供する。
【解決手段】振動体1が振動すると、高摩擦磁性制振層3の磁性ゴム層の磁気吸引力とこの磁性ゴム層の摩擦抵抗力とによってこの振動体1の振動に追従して、この高摩擦磁性制振層3がせん断ひずみ変形する。このため、高摩擦磁性制振層3の内部のせん断ひずみ変形によって振動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換されて、内部損失による制振効果が発揮される。また、振動体1が振動すると高摩擦磁性制振層3がすべり振動して、この振動体1の表面1aとこの高摩擦磁性制振層3の接触面3aとの間のすべり摩擦によって振動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換されて、摩擦損失による制振効果が発揮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動体の表面に吸着してこの振動体の振動を抑える制振材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の接着型制振材は、レールの振動を抑えるゴムなどからなる制振材と、この制振材を拘束する拘束板と、制振材をレール腹部に接着する接着剤層などを備えている(例えば、特許文献1参照)。この接着型制振材では、レール上を車両が通過するときにこのレールから発生する振動を制振材によって抑制し、レールからの騒音を低減している。
【0003】
従来の磁性制振材は、振動体に吸着する磁性ゴム層と、この磁性ゴム層を拘束する拘束板と、磁性ゴム層と拘束板とを接着する接着剤層などを備えている(例えば、特許文献2参照)。この磁性制振材では、振動体の凹凸面に磁性ゴム層を接触させて、この振動体の形状に追従してこの振動体の振動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭52-109206号公報
【0005】
【特許文献2】特開平03-159735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図9に示す従来の制振材102は、振動体101の振動を抑えるゴム層103と、このゴム層103を拘束する拘束層104などを備えている。図9に示す二点鎖線は、振動体101が振動していないときの制振材102の状態(変形前の状態)であり、図9に示す実線は振動体101が振動しているときの制振材102の変形後の状態である。ここで、図9に示すLは、すべり量(mm)であり、H2はゴム層103の厚さ(mm)である。γは、ゴム層103が磁性粒子を含有しない従来の接着型制振材であるときのせん断ひずみである。γaは、ゴム層103が磁性粒子を含有する従来の磁性制振材であるときのせん断ひずみである。制振材102の制振性能=摩擦損失+内部損失であり、摩擦損失及び内部損失は以下の数1,2によって表される。
【0007】
【数1】

【0008】
【数2】

【0009】
従来の接着型制振材の場合には、図9に示す振動体101にゴム層103が接着剤によって接着されているため、振動体101の振動にゴム層103が追従してひずみ変形し、数2に示すせん断ひずみγが大きくなって内部損失が増大する。しかし、従来の接着型制振材の場合には、振動体101の表面101aとゴム層103の接触面103aとの間が接着されているため、この振動体101の振動時には一体的に変形し、有意なすべり摩擦を発現しない。一方、従来の磁性制振材の場合には、図9に示す振動体101にゴム層103が吸着しているが振動体101にゴム層103が接着されていないため、振動体101の表面101aとゴム層103の接触面103aとの間のすべり摩擦によって、数1に示すすべり量Lが大きくなり摩擦抵抗力が増加して摩擦損失が増大する。しかし、従来の磁性制振材の場合には、振動体101の表面101aとゴム層103の接触面103aとの間のすべり摩擦が大きいため、数2に示すせん断ひずみγaが従来の接着型制振材のせん断ひずみγよりも小さくなって内部損失が減少する。
【0010】
図10に示す縦軸は、制振性能であり、横軸は温度である。図10に示す点線は、従来の接着型制振材の制振性能を示し、二点鎖線は従来の磁性制振材の制振性能を示す。従来の接着型制振材は、制振性能がゴム層103に依存するため、このゴム層103の温度特性が支配的となり、図10に点線で示すように通常室温に調整されているごく限られた温度範囲でのみ高い制振性能を発現している。一方、従来の磁性制振材は、ゴム層103と振動体101との界面の摩擦損失が付与されるため、図10に二点鎖線で示すように、従来の接着型制振材に比べて広い温度範囲で制振性能を発現している。しかし、従来の磁性制振材では、ゴム層103と振動体101との界面の摩擦損失がすべりによるため、ゴム層103のせん断ひずみが小さくなって内部損失が減少し、図10に示すように室温でのゴムによる制振性能が従来の接着型制振材の制振性能よりも低くなってしまう問題点がある。また、従来の磁性制振材では、摩擦係数の低い磁性粒子を混合してゴム層103が形成されているため、振動体101の表面101aとゴム層103の接触面103aとの間の摩擦係数が低下し、摩擦損失効果が低下してしまう問題点がある。
【0011】
この発明の課題は、ピーク温度における制振性能を向上させることができる制振材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図1及び図2に示すように、振動体(1)の表面(1a)に吸着してこの振動体の振動を抑える制振材であって、前記振動体の表面と接触する界面の摩擦損失と、前記振動体の振動に伴うひずみ変形による内部損失によって、この振動体の振動を抑える高摩擦磁性制振層(3)と、前記振動体の振動に追従して前記高摩擦磁性制振層がひずみ変形するように、この高摩擦磁性制振層に積層されてこの高摩擦磁性制振層を拘束する拘束層(4)とを備える制振材(2)である。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1に記載の制振材において、前記高摩擦磁性制振層は、前記拘束層に近い側に磁性が局在し、前記振動体の表面と接触する側が高摩擦係数である磁性ゴム層であることを特徴とする制振材である。
【0014】
請求項3の発明は、図4に示すように、請求項1又は請求項2に記載の制振材において、前記高摩擦磁性制振層及び前記拘束層が複数積層されていることを特徴とする制振材である。
【0015】
請求項4の発明は、図5に示すように、振動体(1)の表面(1a)に吸着してこの振動体の振動を抑える制振材であって、前記振動体の表面と接触する界面の摩擦損失によって、この振動体の振動を抑える高摩擦制振層(5)と、前記高摩擦制振層に積層されて、前記振動体の振動に伴うひずみ変形による内部損失によって、この振動体の振動を抑える磁性制振層(6)と、前記振動体の振動に追従して前記高摩擦制振層がひずみ変形するように、前記磁性制振層に積層されてこの磁性制振層を拘束する拘束層(4)とを備える制振材(2)である。
【0016】
請求項5の発明は、請求項4に記載の制振材において、前記磁性制振層は、磁性ゴム層であることを特徴とする制振材である。
【0017】
請求項6の発明は、請求項4又は請求項5に記載の制振材において、前記高摩擦制振層は、高摩擦ゴム層であることを特徴とする制振材である。
【0018】
請求項7の発明は、請求項4又は請求項5に記載の制振材において、前記高摩擦制振層は、発泡ゴム層であることを特徴とする制振材である。
【0019】
請求項8の発明は、請求項4又は請求項5に記載の制振材において、前記高摩擦制振層は、高摩擦フィルム層であることを特徴とする制振材である。
【0020】
請求項9の発明は、図6に示すように、請求項4から請求項8までのいずれか1項に記載の制振材において、前記高摩擦制振層、前記磁性制振層及び前記拘束層が複数積層されていることを特徴とする制振材である。
【0021】
請求項10の発明は、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の制振材において、前記高摩擦磁性制振層又は前記高摩擦制振層は、粘着材が配合されていることを特徴とする制振材である。
【0022】
請求項11の発明は、図7及び図8に示すように、請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の制振材において、前記高摩擦磁性制振層又は前記高摩擦制振層は、前記振動体の高摩擦層(9)の表面(9a)と接触することを特徴とする制振材である。
【0023】
請求項12の発明は、請求項11に記載の制振材において、前記高摩擦磁性制振層又は前記高摩擦制振層は、前記振動体の高摩擦塗料層の表面と接触することを特徴とする制振材である。
【0024】
請求項13の発明は、請求項11に記載の制振材において、前記高摩擦磁性制振層又は前記高摩擦制振層は、前記振動体の高摩擦フィルム層の表面と接触することを特徴とする制振材である。
【0025】
請求項14の発明は、請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載の制振材において、前記拘束層は、鋼板であることを特徴とする制振材である。
【発明の効果】
【0026】
この発明によると、ピーク温度における制振性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の第1実施形態に係る制振材を模式的に示す断面図である。
【図2】この発明の第1実施形態に係る制振材の制振作用を説明するための模式図である。
【図3】この発明の第1実施形態に係る制振材の制振性能を一例として示すグラフである。
【図4】この発明の第2実施形態に係る制振材を模式的に示す断面図である。
【図5】この発明の第3実施形態に係る制振材を模式的に示す断面図である。
【図6】この発明の第6実施形態に係る制振材を模式的に示す断面図である。
【図7】この発明の第7実施形態に係る制振材を模式的に示す断面図であり、(A)は制振材が高摩擦磁性制振層を備える場合の断面図であり、(B)は制振材が高摩擦制振層及び磁性制振層を備える場合の断面図である。
【図8】この発明の第8実施形態に係る制振材を模式的に示す断面図であり、(A)は制振材が高摩擦磁性制振層を備える場合の断面図であり、(B)は制振材が高摩擦制振層及び磁性制振層を備える場合の断面図である。
【図9】従来の制振材の摩擦損失と内部損失とを説明するための概念図である。
【図10】従来の制振材の制振性能を一例として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1に示す振動体1は、制振材2によって振動が抑えられる制振対象物である。振動体1は、例えば、鉄道車両の車輪が転がり接触するレール、又は鉄道車両が走行する橋梁などの鋼製振動体である。振動体1は、制振材2が着脱自在に装着される表面(振動面)1aを備えている。
【0029】
制振材2は、振動体1の表面1aに吸着してこの振動体1の振動を抑える部材である。制振材2は、磁性ゴム層に高摩擦性又は高粘着性を付与し、室温(ピーク温度)における制振性能を図10に示す従来の接着型制振材の制振性能に近づけるとともに、室温(ピーク温度)以外の温度領域における制振性能を図10に示す従来の磁性制振材の制振性能に近づけることによって、制振性能を向上させた高摩擦磁性制振材又は高粘着磁性制振材である。制振材2は、高摩擦磁性制振層3と拘束層4などを備えている。
【0030】
高摩擦磁性制振層3は、振動体1の表面1aと接触する界面の摩擦損失と、この振動体1の表面1aの振動に伴うひずみ変形による内部損失によって、この振動体1の振動を抑える部分である。高摩擦磁性制振層3は、振動体1の表面1aと接触する接触面3aと、拘束層4の接合面4aに接合される接合面3bとを備えている。高摩擦磁性制振層3は、拘束層4に近い側に磁性が局在し、振動体1の表面1aと接触する側が高摩擦係数である高摩擦磁性ゴム層である。このような高摩擦磁性ゴム層は、材料を構成する要素を連続的に傾斜化し、単一部材内でも場所によって異なる性質を持ち合わせることを可能とする傾斜機能材料である。高摩擦磁性ゴム層は、接合面3bに近い側の磁性が局在化し接触面3a側の表面層には高摩擦ゴム層のみが形成されるように、母材と磁性粒子(磁性粉)とを混合し磁性体によって磁場をかけて形成される。高摩擦磁性ゴム層は、縞状にN極及びS極が1〜10mmの間隔で交互に着磁されており、磁性体としての残留磁束密度が10〜104G(実用的には100〜103G)であり、磁性体としての磁力吸着力が0.1〜50kPa(実用的には1〜10kPa)である。高摩擦磁性ゴム層の摩擦係数は、1未満であるとこの高摩擦磁性ゴム層のひずみ変形による内部損失による制振効果が期待できず、50を超えると振動体1の表面1aと接触面3aとの間の摩擦損失による制振効果が期待できないため、1〜50であることが好ましい。高摩擦磁性ゴム層は、母材、磁性粒子及び配合剤に必要に応じて繊維又は粘着材が配合されており、数1に示すすべり量Lが減少せず摩擦損失による制振効果が減少しない範囲内で、必要に応じて数〜数百μm程度の凹凸を接触面3aに付与することも可能である。
【0031】
母材は、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ポリノルボルネンゴム又はアクリルゴムなどの加硫ゴム、スチレン系、オレフィン系又は塩化ビニル系などの熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル又はエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)などの熱可塑性樹脂、シリコンなどのゲル、酢酸ビニル系、EVA系又はアクリル樹脂系などのエマルジョン、ゴムラテックスなどである。母材は、加硫又は未加硫のブチルゴム、ノルボルネンゴムなどの高摩擦ゴムが好ましい。母材の物性は、例えば、室温でヤング率が100MPa以下であり、望ましくは粘性も兼ね備え損失係数が0.05以上である。母材の厚さは、1mm以上が好ましく、3mmを下回ると遮音性能が低下し、10mmを超えると邪魔になるため、3〜10mmであることが特に好ましい。
【0032】
磁性粒子は、着磁されたフェライト粉体である。磁性粒子は、例えば、ストロンチウムフェライト又はバリウムフェライトが好ましく、性能に優れるストロンチウムフェライトが特に好ましい。磁性粒子は、軟磁性を示すソフトフェライト又は硬磁性を示すハードフェライトのいずれでもよいが、強い磁性を示すハードフェライトが特に好ましい。磁性粒子は、配合量が20〜90mass%であり、配合量が30mass%を下回ると磁力が弱くなって高摩擦磁性制振層3の内部損失による制振効果が低下し、配合率が90mass%を超えると磁力が強くなりすぎて摩擦損失による制振効果が低下するため、配合量が30〜90mass%であることが好ましい。
【0033】
配合剤は、加硫剤、加硫促進剤、補強剤、老化防止剤、有機充填剤又は無機充填剤の少なくとも一つを含有する。加硫剤は、硫黄、有機含硫黄化合物、有機過酸化物、金属酸化物又は有機多価アミンなどである。加硫促進剤は、ステアリン酸、亜鉛華、アルデヒド・アンモニア類、グアニジン類、チオウレア類、チアゾール類、スルファアミド類、チウラム酸、ジオカルパミン酸塩基類又はキサントゲン酸塩基類などである。補強剤は、カーボンブラック又はシリカなどであり、表面の摩擦係数を向上させるためにはシリカが好ましい。老化防止剤は、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、ジフェニルアミンとアセトンの反応物(ADPAL)、アセトンとN-フェニル-2-ナフチルアミンの縮合物(APBN)、N,N'-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン(DNPD)、又は4,4'-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)(TBMTBR)などである。有機充填剤は、ハイスチレン樹脂、クマノインデン樹脂、フェノール樹脂、リグニン又は粉末ゴムである。無機充填剤は、ケイ酸、ケイ酸塩、炭酸塩類又はタルクなどである。配合剤の粒径は、数nm〜数十μmであることが好ましい。
【0034】
繊維は、ポリエステル、ナイロン又はビニロンなどである。繊維径は、1〜100μmであり、繊維長は0.1〜5mmである。繊維の配合量は、0.5mass%を下回ると摩擦係数が低下し、30mass%を超えると摩擦係数が高くなりすぎて摩擦損失による制振効果が失われるため、0.5〜30mass%であることが好ましい。
【0035】
粘着材は、クロマンインデン樹脂、ポリブテン、フェノールホルムアルデヒド樹脂、変性アルキルフェノール樹脂、テンペンフェノール樹脂又はキシレンホルムアルデヒド樹脂などであり、ポリマー100重量部に対して20〜60重量部配合されている。
【0036】
図1に示す拘束層4は、振動体1の振動に追従してこの高摩擦磁性制振層3がひずみ変形するように、この高摩擦磁性制振層3に積層されてこの高摩擦磁性制振層3を拘束する部分である。拘束層4は、高摩擦磁性制振層3の接合面3bに接合される接合面4aなどを備えている。拘束層4の材質は、鉄、アルミニウム又はステンレスなどの金属、鋼板、石膏、アクリル、エポキシ、ポリエステル、ナイロン又はポリプロピレンなどの合成樹脂であり、ゴム層と金属板とからなる薄板状の樹脂積層型の制振鋼板も使用可能である。拘束層4の剛性は、3000MPa以上であり、拘束層4の厚さは1mm以上であり、2.3mmを下回ると拘束機能が低下し、10mmを超えると邪魔になるため2.3〜10mmが特に好ましい。拘束層4は、例えば、この拘束層4の接合面4aと高摩擦磁性制振層3の接合面3bとが制振材2の製造時に加硫接着されて、この高摩擦磁性制振層3と一体に形成されている。
【0037】
次に、この発明の第1実施形態に係る制振材の製造方法について説明する。
磁性粒子(例えば、ストロンチウム−フェライト粉(Sr-Fe2O3)などのハードフェライト粉)と母材(例えば、未硬化のシリコーンゴム)とを混合し、これらの混合物を拘束層4に接触させた状態で超伝導コイルの磁場内に配置する。次に、等間隔に並べた多数の釘状(剣山状)又は円盤状の磁性体(軟鉄)を混合物の真下に配置し、磁性体の真上で磁性粒子を配向させて混合物内で磁性粒子を局在化させた状態でこの混合物を加熱する。その結果、混合物を加硫してこの混合物が硬化し高摩擦磁性制振層3が製造されるとともに、この高摩擦磁性制振層3と拘束層4とが加硫接着して制振材2が製造される。
【0038】
次に、この発明の第1実施形態に係る制振材の作用を説明する。
図1に示すように、制振材2の高摩擦磁性制振層3には拘束層4に近い側に磁性が局在しており、振動体1の表面1aと接触する側の高摩擦磁性制振層3の接触面3aの摩擦係数が高い。このため、図2に示すように振動体1が振動すると、高摩擦磁性制振層3の磁性ゴム層の磁気吸引力とこの磁性ゴム層の摩擦抵抗力とによってこの振動体1の振動に追従して、この高摩擦磁性制振層3がせん断ひずみ変形する。このため、高摩擦磁性制振層3の内部のせん断ひずみ変形によって振動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換されて、内部損失による制振効果が発揮される。また、高摩擦磁性制振層3の接触面3aと振動体1の表面1aとが非接着状態であり完全に固定されていないため、振動体1が振動するとこの高摩擦磁性制振層3がすべり振動して、この振動体1の表面1aとこの高摩擦磁性制振層3の接触面3aとの間のすべり摩擦によって振動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換されて、摩擦損失による制振効果が発揮される。
【0039】
図3に示す縦軸は、制振性能であり、横軸は温度である。図3に示す実線は実施形態に係る制振材(高摩擦磁性制振材)2の制振性能を示し、点線は従来の接着型制振材の制振性能を示し、二点鎖線は従来の磁性制振材の制振性能を示す。図1に示すように、高摩擦磁性制振層3の拘束層4に近い側に磁性が局在し、振動体1と接触する側の高摩擦磁性制振層3の接触面3aに高摩擦性が付与されている。このため、図3に示す従来の磁性制振材に比べて高摩擦磁性制振層3の接触面3aの摩擦係数が高くなり、振動体1が振動するとこの振動体1の振動に追従して、数2に示す高摩擦磁性制振層3のせん断ひずみが従来の磁性制振材のせん断ひずみγaよりも大きくなってこの高摩擦磁性制振層3の内部損失が増大する。その結果、図3に示すように、従来の磁性制振材の制振性能に比べて室温(ピーク温度)における制振材2の制振性能が向上し、従来の接着剤型制振材の制振性能にこの制振材2の制振性能が近づく。また、図3に示す従来の接着型制振材に比べて振動体1の表面1aと高摩擦磁性制振層3の接触面3aとの間の摩擦抵抗力が増大し、数1に示すすべり量Lが大きくなってこの高摩擦磁性制振層3の摩擦損失が増大する。その結果、図3に示すように、従来の接着型制振材の制振性能に比べて室温(ピーク温度)以外の温度領域における制振材2の制振性能が向上し、従来の磁性制振材の制振性能にこの制振材2の制振性能が近づく。
【0040】
この発明の第1実施形態に係る制振材には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、振動体1の表面1aと接触する界面の摩擦損失と、この振動体1の振動に伴うひずみ変形による内部損失によって、この振動体1の振動をこの高摩擦磁性制振層3が抑える。また、この第1実施形態では、振動体1の振動に追従して高摩擦磁性制振層3がひずみ変形するように、この高摩擦磁性制振層3に拘束層4が積層されてこの高摩擦磁性制振層3をこの拘束層4が拘束する。このため、振動体1の表面1aと高摩擦磁性制振層3の接触面3aとの間の摩擦係数を大きくして摩擦抵抗力を向上させることができ、摩擦損失による制振性能を維持しつつ内部損失による制振性能を向上させることができる。その結果、図3に示すように、室温(ピーク温度)における制振性能を従来の接着型制振材の制振性能に近づけることができるとともに、室温以外の温度領域における制振性能を従来の磁性制振材の制振性能に近づけることができる。
【0041】
(2) この第1実施形態では、高摩擦磁性制振層3が拘束層4に近い側に磁性が局在し、振動体1の表面1aと接触する側が高摩擦係数である磁性ゴム層である。例えば、図4に示す従来の磁性制振材では、摩擦係数が低い磁性ゴム層内の磁性粒子が振動体1の表面1aと直接接触するため、振動体1の表面1aと磁性ゴム層の表面との間の摩擦抵抗力が小さくなり、内部損失による制振性能が低下してしまう。この第1実施形態では、振動体1の表面1aと接触する高摩擦磁性制振層3の接触面3a側には磁性が存在せず、振動体1の表面1aと接触する側とは反対側の高摩擦磁性制振層3の接合面3b側には磁性が局在しており、高摩擦磁性制振層3内に磁性が傾斜配向されている。このため、高摩擦磁性制振層3の接触面3aの摩擦係数と高摩擦磁性制振層3内に局在する磁性による磁気吸引力とによって、振動体1の表面1aと高摩擦磁性制振層3の接触面3aとの間の摩擦抵抗力が増大する。その結果、振動体1の振動に追従して高摩擦磁性制振層3が振動し、せん断ひずみ変形によって内部損失を向上させることができるとともに、摩擦抵抗力を増加させて摩擦損失による制振性能の低下を抑制することができる。また、高摩擦磁性制振層3が磁性ゴム層を形成するため、従来の接着型制振材のような接着剤層によって振動体1の表面1aに高摩擦磁性制振層3を取り付ける作業が不要になって施工性を向上させることができる。例えば、制振材2を鋼橋に施工する場合に、高摩擦磁性制振層3内に磁性粉を単に配合しただけでは、この鋼橋の表面とこの高摩擦磁性制振層3の接触面3aとの間の摩擦係数が低下してしまう。この実施形態では、拘束層4の接合面4aと接合する高摩擦磁性制振層3の接合面3b側に磁性が傾斜配向されているため、高摩擦磁性ゴム層としての磁気吸着力を保持しつつ、鋼橋の表面と接触面3aとの間の界面の摩擦係数を増加させることができる。
【0042】
(3) この第1実施形態では、拘束層4が鋼板である。このため、振動体1の表面1aに高摩擦磁性制振層3の接触面3aを鋼板によって押し付けて、この高摩擦磁性制振層3のせん断ひずみを高め内部損失による制振性能を向上させることができる。また、高摩擦磁性制振層3の接合面3bを鋼板によって被覆するため、この高摩擦磁性制振層3の耐候性を向上させることができるとともに、鋼板のダンピング効果によって高摩擦磁性制振層3の振動を抑えることができる。
【0043】
(4) この第1実施形態では、高摩擦磁性制振層3に粘着材が配合されている。このため、高摩擦磁性制振層3に粘着性が付与されてピーク温度における振動減衰性能を向上させることができる。
【0044】
(第2実施形態)
以下では、図1に示す部分と同一の部分については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図4に示す制振材2は、図1に示す高摩擦磁性制振層3及び拘束層4が互い違いに2層積層されており、下層の高摩擦磁性制振層3と上層の高摩擦磁性制振層3との間に発生する磁気吸引力によって、下層の拘束層4の表面と上層の高摩擦磁性制振層3の接触面3aとが密着している。制振材2は、振動体1の振動に追従して振動し、下層の高摩擦磁性制振層3と振動体1との間の摩擦損失と、上層の高摩擦磁性制振層3と下層の拘束層4との界面における摩擦損失とによって振動体1の振動を抑えるとともに、上層及び下層の高摩擦磁性制振層3のせん断ひずみによる内部損失によってこの振動体1の振動を抑える。この第2実施形態には、第1実施形態の効果に加えて、高摩擦磁性制振層3及び拘束層4が複数積層されているため、第1実施形態に比べてより一層制振性能を向上させることができる。
【0045】
(第3実施形態)
図5に示す制振材2は、拘束層4と、高摩擦制振層5と、磁性制振層6と、接着剤層7,8などを備えている。拘束層4は、磁性制振層6に積層されて、振動体1の振動に追従してこの磁性制振層6がひずみ変形するように、この磁性制振層6を拘束する部分である。高摩擦制振層5は、振動体1の表面1aと接触する界面の摩擦損失によって、この振動体1の振動を抑える部分である。高摩擦制振層5は、振動体1の表面1aと接触する接触面5aと、磁性制振層6の接合面6aに接合される接合面5bとを備えている。高摩擦制振層5は、高摩擦係数を有する非磁性の高摩擦ゴム層である。このような高摩擦ゴム層は、母材及び配合剤に必要に応じて繊維又は粘着材が配合されており、数1に示すすべり量Lが減少せず摩擦損失による制振効果が減少しない範囲内で、必要に応じて数〜数百μm程度の凹凸を接触面5aに付与することも可能である。高摩擦ゴム層の摩擦係数は、1未満であると磁性制振層6のひずみ変形による内部損失による制振効果が期待できず、50を超えると振動体1の表面1aと接触面5aとの間の摩擦損失による制振効果が期待できないため、1〜50であることが好ましい。
【0046】
母材は、加硫又は未加硫のブチルゴム、ノルボルネンゴムなどの高摩擦ゴムが好ましい。配合剤は、加硫剤、加硫促進剤、補強剤、老化防止剤、有機充填剤又は無機充填剤の少なくとも一つを含有する。加硫剤は、硫黄、有機含硫黄化合物、有機過酸化物、金属酸化物又は有機多価アミンなどである。加硫促進剤は、ステアリン酸、亜鉛華、アルデヒド・アンモニア類、グアニジン類、チオウレア類、チアゾール類、スルファアミド類、チウラム酸、ジオカルパミン酸塩基類又はキサントゲン酸塩基類などである。補強剤は、カーボンブラック又はシリカなどであり、表面の摩擦係数を向上させるためにはシリカが好ましい。老化防止剤は、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、ジフェニルアミンとアセトンの反応物(ADPAL)、アセトンとN-フェニル-2-ナフチルアミンの縮合物(APBN)、N,N'-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン(DNPD)、又は4,4'-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)(TBMTBR)などである。有機充填剤は、ハイスチレン樹脂、クマノインデン樹脂、フェノール樹脂、リグニン又は粉末ゴムである。無機充填剤は、ケイ酸、ケイ酸塩、炭酸塩類又はタルクなどである。配合剤の粒径は、数nm〜数十μmであることが好ましい。
【0047】
繊維は、ポリエステル、ナイロン又はビニロンなどである。繊維径は、1〜100μmであり、繊維長は0.1〜5mmである。繊維の配合量は、0.5mass%を下回ると摩擦係数が低下し、30mass%を超えると摩擦係数が高くなりすぎて摩擦損失による制振効果が失われるため、0.5〜30mass%であることが好ましい。
【0048】
粘着材は、クロマンインデン樹脂、ポリブテン、フェノールホルムアルデヒド樹脂、変性アルキルフェノール樹脂、テンペンフェノール樹脂又はキシレンホルムアルデヒド樹脂などであり、ポリマー100重量部に対して20〜60重量部配合されている。
【0049】
図5に示す磁性制振層6は、高摩擦制振層5に積層されて、振動体1の表面1aの振動に伴うひずみ変形による内部損失によって、この振動体1の振動を抑える部分である。磁性制振層6は、高摩擦制振層5の接合面5bと接合される接合面6aと、拘束層4の接合面4aに接合される接合面6bとを備えている。磁性制振層6は、この磁性制振層6内に磁性が略均一に存在する磁性ゴム層であり、このような磁性ゴム層は母材と磁性粒子とを混合し磁性体によって磁場をかけて形成される。磁性ゴム層は、縞状にN極及びS極が1〜10mmの間隔で交互に着磁されており、磁性体としての残留磁束密度が10〜104G(実用的には100〜103G)であり、磁性体としての磁力吸着力が0.1〜50kPa(実用的には1〜10kPa)である。磁性ゴム層は、高摩擦ゴム層と同様の母材及び配合剤に磁性粒子を配合するとともに、必要に応じて繊維又は粘着材が配合されている。
【0050】
母材は、天然ゴム、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ポリノルボルネンゴム又はアクリルゴムなどの加硫ゴム、スチレン系、オレフィン系又は塩化ビニル系などの熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル又はエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)などの熱可塑性樹脂、シリコンなどのゲル、酢酸ビニル系、EVA系又はアクリル樹脂系などのエマルジョン、ゴムラテックスなどである。母材は、加硫又は未加硫のブチルゴム、ノルボルネンゴムなどの高摩擦ゴムが好ましい。母材の物性は、例えば、室温でヤング率が100MPa以下であり、望ましくは粘性も兼ね備え損失係数が0.05以上である。母材の厚さは、1mm以上であり、3mmを下回ると遮音性能が低下し、10mmを超えると邪魔になるため3〜10mmであることが好ましい。
【0051】
磁性粒子は、着磁されたフェライト粉体である。磁性粒子は、例えば、ストロンチウムフェライト又はバリウムフェライトであるが、性能に優れるストロンチウムフェライトが好ましい。磁性粒子は、軟磁性を示すソフトフェライト又は硬磁性を示すハードフェライトのいずれでもよいが、強い磁性を示すハードフェライトが好ましい。磁性粒子は、配合量が20〜90mass%であり、配合量が30mass%を下回ると磁力が弱くなって磁性制振層6の内部損失による制振効果が低下し、配合率が90mass%を超えると磁力が強くなりすぎて高摩擦制振層5の摩擦損失による制振効果が低下するため、配合量が30〜90mass%であることが好ましい。
【0052】
図5に示す接着剤層7は、高摩擦制振層5と磁性制振層6とを接合する部分であり、接着剤層8は拘束層4と磁性制振層6とを接合する部分である。接着剤層7は、高摩擦制振層5の接合面5bと磁性制振層6の接合面6aとの間に塗布されて、この高摩擦制振層5とこの磁性制振層6とを接合する。接着剤層8は、磁性制振層6の接合面6bと拘束層4の接合面4aとの間に塗布されて、この拘束層4とこの磁性制振層6とを接合する。接着剤層7,8は、例えば、エポキシ樹脂系、ユリア樹脂系、メラミン樹脂系、フェノール樹脂系、酢酸ビニル系、シアノアクリレート系、ウレタン系、合成ゴム系又はアクリル樹脂系の接着剤によって形成されている。
【0053】
次に、この発明の第3実施形態に係る制振材の製造方法について説明する。
磁性粒子(例えば、ストロンチウム−フェライト粉(Sr-Fe2O3)などのハードフェライト粉)が母材(例えば、ニトリルゴム)中に略均等に分散するように磁性粒子と母材とを混合してこの混合物を加熱し、混合物を加硫してこの混合物が硬化される。次に、拘束層4の接合面4aと接合する側とは反対側の混合物の表面に着磁ヨークを密着させて、コンデンサ着磁器によってS極及びN極が交互に並ぶように着磁処理すると、この混合物の平面上に着磁パターンが縞状に形成された磁性制振層6が形成される。また、母材(例えば、ブチルゴム又はノルボルネンゴム)と配合剤とを混合してこの混合物を加熱し、混合物を加硫してこの混合物が硬化される。次に、高摩擦制振層5の接合面5bと磁性制振層6の接合面6aとの間に接着剤を塗布してこれらを接着剤層7によって接合するとともに、拘束層4の接合面4aと磁性制振層6の接合面6bとの間に接着剤を塗布してこれらを接着剤層8によって接合し制振材2が製造される。
【0054】
この発明の第3実施形態に係る制振材には、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
(1) この第3実施形態では、振動体1の表面1aと接触する界面の摩擦損失によって、この振動体1の振動を高摩擦制振層5が抑える。またこの第3実施形態では、振動体1の振動に伴うひずみ変形による内部損失によって、高摩擦制振層5に積層されてこの振動体1の振動を磁性制振層6が抑える。さらに、この第3実施形態では、振動体1の振動に追従して磁性制振層6がひずみ変形するように、この磁性制振層6に積層されてこの磁性制振層6を拘束層4が拘束する。このため、振動体1の表面1aと高摩擦制振層5の接触面5aとの間の摩擦係数を大きくして摩擦抵抗力を向上させることができ、摩擦損失による制振性能を維持しつつ内部損失による制振性能を向上させることができる。その結果、図3に示すように、室温(ピーク温度)における制振性能を従来の接着型制振材の制振性能に近づけることができるとともに、室温以外の温度領域における制振性能を従来の磁性制振材の制振性能に近づけることができる。
【0055】
(2) この第3実施形態では、磁性制振層6が磁性ゴム層である。このため、磁性制振層6の磁性による磁気吸引力によって、振動体1の表面1aと高摩擦制振層5の接触面5aとの間の摩擦係数が大きくなり摩擦抵抗力が増大する。その結果、振動体1の振動に追従して磁性制振層6が振動し、せん断ひずみ変形による内部損失を向上させることができるとともに、摩擦抵抗力を増加させて摩擦損失による制振性能の低下を抑制することができる。また、磁性制振層6が磁性ゴム層を形成するため、従来の接着型制振材のような接着剤層によって振動体1の表面1aに高摩擦制振層5を取り付ける作業が不要になって施工性を向上させることができる。
【0056】
(3) この第3実施形態では、高摩擦制振層5が高摩擦ゴム層である。このため、振動体1の表面1aと高摩擦制振層5の接触面5aとの界面の摩擦損失によって振動体1の振動を抑えることができるとともに、磁性制振層6のひずみ変形による内部損失によってこの振動体1の振動を抑えることができる。
【0057】
(4) この第3実施形態では、高摩擦制振層5に粘着材が配合されている。このため、高摩擦制振層5に粘着性が付与されてピーク温度における振動減衰性能を向上させることができる。その結果、振動体1の表面1aと高摩擦制振層5の接触面5aとの間の摩擦抵抗力が大きくなり、これらの界面の摩擦損失によって振動体1の振動を抑えることができるとともに、磁性制振層6のひずみ変形による内部損失によってこの振動体1の振動を抑えることができる。
【0058】
(第4実施形態)
この第4実施形態では、図5に示す高摩擦制振層5が粘着性を有する非磁性の発泡ゴム層である。このような発泡ゴム層は、例えば、高摩擦ゴム層と同様にウレタン又はシリコンなどの母材及びシリカなどの配合剤に必要に応じて繊維又は粘着材を配合して形成されているが、母材として天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム又はエチレンプロピレンゴムなどが好ましい。発泡ゴム層は、数1に示すすべり量Lが減少せず摩擦損失による制振効果が減少しない範囲内で、必要に応じて数〜数百μm程度の凹凸を接触面5aに付与することも可能である。発泡ゴム層の摩擦係数は、1未満であると磁性制振層6のひずみ変形による内部損失による制振効果が期待できず、50を超えると振動体1の表面1aと接触面5aとの間の摩擦損失による制振効果が期待できないため、1〜50であることが好ましい。発泡ゴム層は、発泡率が5%を下回ると摩擦係数が低下し、50%を超えると摩擦係数が高くなりすぎて摩擦損失による制振効果が失われるため、5〜50%であることが好ましい。
【0059】
この発明の第4実施形態に係る制振材には、第3実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第3実施形態では、高摩擦制振層5が発泡ゴム層である。このため、振動体1の表面1aと高摩擦制振層5の接触面5aとの界面の摩擦損失によって振動体1の振動を抑えることができるとともに、磁性制振層6のひずみ変形による内部損失によってこの振動体1の振動を抑えることができる。
【0060】
(第5実施形態)
この第5実施形態では、図5に示す高摩擦制振層5が高摩擦係数を有する非磁性の高摩擦フィルム層であり、高摩擦ゴム層と同様に、ウレタン又はシリコンなどの母材及びシリカなどの配合剤に必要に応じて繊維又は粘着材を配合して、プレス加工又は射出成形加工などによってシート状に形成されている。このような高摩擦フィルム層は、例えば、シリコーン又はポリウレタンのゴム又は樹脂、気泡を含む発泡ゴム成形体、飽和炭化水素である化合物を配合剤として含まない硫黄により架橋される天然ゴムを用いた発泡ゴム成形体、ゴム又は熱可塑性エラストマーにポリアミド系熱可塑性樹脂を分散含有する固体ゴム、天然ゴムなどの基材ポリマーとグラスファイバーなどの短繊維とを含む固体ゴム、基材ポリマー中に天然ゴム及びポリイソプレンを含有する固体ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン及びシリカを含有する固体ゴムなどである。高摩擦フィルム層の膜厚は、0.001mmを下回るとシート状に形成することが困難であり、2mm又は3mmを超えると施工性が低下するため、0.001〜2,3mm程度が好ましく、0.01〜1mmが特に好ましい。
【0061】
この第5実施形態には、第3実施形態及び第4実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第5実施形態では、高摩擦制振層5が高摩擦フィルム層である。このため、制振材2の表面層に高摩擦性を付与することができ、高摩擦制振層5の摩擦損失による制振効果と磁性制振層6の内部損失による制振効果とによって、振動体1の振動を抑えることができる。
【0062】
(第6実施形態)
図6に示す制振材2は、図5に示す拘束層4、高摩擦制振層5及び磁性制振層6が互い違いに2層積層されており、下層の磁性制振層6と上層の磁性制振層6との間に発生する磁気吸引力によって、下層の拘束層4の表面と上層の高摩擦制振層5の接触面5aとが密着している。制振材2は、振動体1の振動に追従して振動し、下層の高摩擦制振層5と振動体1との界面における摩擦損失と、上層の高摩擦制振層5と下層の拘束層4との界面における摩擦損失とによって振動体1の振動を抑えるとともに、下層及び上層の磁性制振層6のせん断ひずみによる内部損失によってこの振動体1の振動を抑える。この第6実施形態には、第3実施形態〜第5実施形態の効果に加えて、拘束層4、高摩擦制振層5及び磁性制振層6が複数積層されているため、第3実施形態〜第5実施形態に比べてより一層制振性能を向上させることができる。
【0063】
(第7実施形態)
図7(A)に示す制振材2は、高摩擦磁性制振層3と拘束層4などを備えており、振動体1の高摩擦層9の表面9aとこの高摩擦磁性制振層3が接触する。図7(B)に示す制振材2は、高摩擦制振層5と、磁性制振層6と、拘束層4などを備えており、振動体1の高摩擦層9の表面9aとこの高摩擦制振層5が接触する。高摩擦層9は、高摩擦係数を有する非磁性の高摩擦塗料層である。高摩擦層9は、振動体1の表面1aに形成されており、制振材2の高摩擦磁性制振層3の接触面3a又は高摩擦制振層5の接触面5aと接触する平滑な表面9aなどを備えている。高摩擦層9は、振動体1の表面1aに高摩擦塗料を塗布して所定の膜厚で形成されている。このような高摩擦塗料は、例えば、エポキシ樹脂とポリアミド樹脂との架橋反応によって塗膜を形成する高摩擦有機ジンクペイントなどである。高摩擦塗料の摩擦係数は、1未満であるとこの高摩擦磁性制振層3又は磁性制振層6のひずみ変形による内部損失による制振効果が期待できず、50を超えると高摩擦磁性制振層3の接触面3a又は高摩擦制振層5の接触面5aと高摩擦層9の表面9aとの間の摩擦損失による制振効果が期待できないため、1〜50であることが好ましい。高摩擦塗料層の膜厚は、0.001mmを下回ると塗膜が弱くなって十分な摩擦抵抗を付与することが困難であり、2mm又は3mmを超えると施工性が低下するため、0.001〜2,3mm程度が好ましく、0.01〜1mmが特に好ましい。
【0064】
この発明の第7実施形態に係る制振材には、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
(1) この第7実施形態では、振動体1の高摩擦層9の表面9aと高摩擦磁性制振層3又は高摩擦制振層5が接触する。このため、高摩擦磁性制振層3の接触面3a又は高摩擦制振層5の接触面5aと高摩擦塗料層の表面との間の摩擦抵抗力がより一層大きくなって、これらの界面の摩擦損失によって振動体1の振動をより一層抑えることができるとともに、高摩擦磁性制振層3又は磁性制振層6のひずみ変形による内部損失によって振動体1の振動をより一層抑えることができる。
【0065】
(2) この第7実施形態では、振動体1の高摩擦塗料層の表面と高摩擦磁性制振層3又は高摩擦制振層5が接触する。このため、振動体1の表面1aに高摩擦塗料を塗布して、この振動体1の表面1aに簡単に低コストで高摩擦層9を形成することができる。
【0066】
(第8実施形態)
この第8実施形態では、図7に示す高摩擦層9が高摩擦係数を有する非磁性の高摩擦フィルム層であり、図5に示す接着剤層7,8と同様の接着剤層10によって振動体1の表面1aにこの高摩擦フィルム層が接着されている。図8(A)に示す制振材2は、高摩擦磁性制振層3と拘束層4などを備えており、振動体1の高摩擦フィルム層の表面とこの高摩擦磁性制振層3が接触する。図8(B)に示す制振材2は、高摩擦制振層5と、磁性制振層6と、拘束層4などを備えており、振動体1の高摩擦フィルム層の表面とこの高摩擦制振層5が接触する。高摩擦フィルム層は、図5に示す制振材2の高摩擦制振層5の高摩擦フィルム層と同様の材質であり、膜厚及び摩擦係数も同様である。この第8実施形態には、第7実施形態と同様の効果がある。
【0067】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
この実施形態では、高摩擦磁性制振層3、高摩擦制振層5及び磁性制振層6がゴム層である場合を例に挙げて説明したが、これらを合成樹脂層によって形成することもできる。また、この実施形態では、室温において制振性能が向上する場合を例に挙げて説明したが、室温以外の任意の温度領域において制振性能が向上するように可塑剤などを配合することもできる。
【符号の説明】
【0068】
1 振動体
1a 表面
2 制振材
3 高摩擦磁性制振層
3a 接触面
3b 接合面
4 拘束層
4a 接合面
5 高摩擦制振層
5a 接触面
5b 接合面
6 磁性制振層
6a,6b 接合面
7,8 接着剤層
9 高摩擦層
9a 表面
10 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体の表面に吸着してこの振動体の振動を抑える制振材であって、
前記振動体の表面と接触する界面の摩擦損失と、前記振動体の振動に伴うひずみ変形による内部損失によって、この振動体の振動を抑える高摩擦磁性制振層と、
前記振動体の振動に追従して前記高摩擦磁性制振層がひずみ変形するように、この高摩擦磁性制振層に積層されてこの高摩擦磁性制振層を拘束する拘束層と、
を備える制振材。
【請求項2】
請求項1に記載の制振材において、
前記高摩擦磁性制振層は、前記拘束層に近い側に磁性が局在し、前記振動体の表面と接触する側が高摩擦係数である磁性ゴム層であること、
を特徴とする制振材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の制振材において、
前記高摩擦磁性制振層及び前記拘束層が複数積層されていること、
を特徴とする制振材。
【請求項4】
振動体の表面に吸着してこの振動体の振動を抑える制振材であって、
前記振動体の表面と接触する界面の摩擦損失によって、この振動体の振動を抑える高摩擦制振層と、
前記高摩擦制振層に積層されて、前記振動体の振動に伴うひずみ変形による内部損失によって、この振動体の振動を抑える磁性制振層と、
前記振動体の振動に追従して前記高摩擦制振層がひずみ変形するように、前記磁性制振層に積層されてこの磁性制振層を拘束する拘束層と、
を備える制振材。
【請求項5】
請求項4に記載の制振材において、
前記磁性制振層は、磁性ゴム層であること、
を特徴とする制振材。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の制振材において、
前記高摩擦制振層は、高摩擦ゴム層であること、
を特徴とする制振材。
【請求項7】
請求項4又は請求項5に記載の制振材において、
前記高摩擦制振層は、発泡ゴム層であること、
を特徴とする制振材。
【請求項8】
請求項4又は請求項5に記載の制振材において、
前記高摩擦制振層は、高摩擦フィルム層であること、
を特徴とする制振材。
【請求項9】
請求項4から請求項8までのいずれか1項に記載の制振材において、
前記高摩擦制振層、前記磁性制振層及び前記拘束層が複数積層されていること、
を特徴とする制振材。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の制振材において、
前記高摩擦磁性制振層又は前記高摩擦制振層は、粘着材が配合されていること、
を特徴とする制振材。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の制振材において、
前記高摩擦磁性制振層又は前記高摩擦制振層は、前記振動体の高摩擦層の表面と接触すること、
を特徴とする制振材。
【請求項12】
請求項11に記載の制振材において、
前記高摩擦磁性制振層又は前記高摩擦制振層は、前記振動体の高摩擦塗料層の表面と接触すること、
を特徴とする制振材。
【請求項13】
請求項11に記載の制振材において、
前記高摩擦磁性制振層又は前記高摩擦制振層は、前記振動体の高摩擦フィルム層の表面と接触すること、
を特徴とする制振材。
【請求項14】
請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載の制振材において、
前記拘束層は、鋼板であること、
を特徴とする制振材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−23970(P2013−23970A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161751(P2011−161751)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】