説明

制水扉

【課題】水路の流量制御に供するにあたり、小流量に対して流量制御を容易に行える制水扉を提供する。
【解決手段】水路に設置され、下部に四角形状の呑口が形成された戸当り3と、戸当り3に昇降自在に取り付けられ呑口を開閉する扉体4と、扉体4に取り付けられる扉体止水板と、戸当り3に取り付けられ、扉体4が下降したときに扉体止水板と密着して呑口周りを止水する戸当り止水板6と、を備えた制水扉1において、戸当り止水板6はその側部が、呑口における通水断面を幅方向に狭めるように呑口の内側まで延設されて、幅狭の開口部12を有する。開口部12の幅寸法は例えば上部12Bの方が下部12Aよりも大きく形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水路に設置される制水扉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水路に設置され、下部に四角形の呑口が形成された戸当りと、戸当りに昇降自在に取り付けられ呑口を開閉する扉体と、扉体に取り付けられる扉体止水板と、戸当りに着脱自在に取り付けられ、扉体が下降したときに扉体止水板と密着して呑口周りを止水する戸当り止水板と、を備えた制水扉の一従来例として特許文献1に記載のものが挙げられる。戸当り止水板は、呑口の周縁に沿うロの字形状を呈している。
【0003】
一般にこの種の制水扉は水路を単に開放状態にするか完全な閉止状態にするかのどちらかにすることを目的として設けられ、通常時は扉体を上げて呑口を全開状態にして水路を開放しておくことが多い。水路を閉止するのは下流側で工事を行う場合等であり、このときには扉体を下げて呑口を全閉状態にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−355223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流量制御を目的として制水扉を使用することを考えた場合、従来の制水扉では流量を微調整しづらいという問題がある。すなわち、従来の制水扉における戸当りの呑口は大きな幅寸法を有していることから、扉体の昇降距離に対する流量の増減の割合が大きい。よって、水路の水位が低い場合など小流量に対して流量制御することは困難であった。
【0006】
本発明はこのような問題を解決するために創作されたものであり、水路の流量制御に供するにあたり、小流量に対して流量制御を容易に行える制水扉を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、水路に設置され、下部に四角形状の呑口が形成された戸当りと、前記戸当りに昇降自在に取り付けられ前記呑口を開閉する扉体と、前記扉体に取り付けられる扉体止水板と、前記戸当りに取り付けられ、前記扉体が下降したときに前記扉体止水板と密着して前記呑口周りを止水する戸当り止水板と、を備えた制水扉において、前記戸当り止水板はその側部が、前記呑口における通水断面を幅方向に狭めるように前記呑口の内側まで延設されていることを特徴とする。
【0008】
当該制水扉によれば、戸当り止水板により通水断面の幅寸法が狭められるため、扉体の昇降距離に対する流量の増減の割合が小さくなり、小流量の流量調整が容易になる。戸当り止水板の製作は容易であることから、通水断面の幅寸法を小さくするにあたり安価で済み、また、既設の制水扉への対応も容易となる。
【0009】
また、本発明に係る制水扉は、前記呑口における通水断面において上部の方が下部よりも幅広となるように、前記戸当り止水板の開口部の幅寸法は上部の方が下部よりも大きく形成されていることを特徴とする。
【0010】
当該制水扉によれば、戸当り止水板の開口部において上部の幅寸法を大きくとることにより、異常増水時等において、扉体を全開にして水を大量に流すことができる。
【0011】
また、本発明に係る制水扉は、前記戸当り止水板の開口部は、上部においては下方に向かうにしたがい漸次幅寸法が小さくなり、下部においては一定の幅寸法に形成されていることを特徴とする。
【0012】
当該制水扉によれば、開口部の上部を下方に向かうにしたがい漸次幅寸法が小さくなるように形成することで、扉体の下縁が開口部の上部における下方寄りに位置している場合には、扉体の昇降距離に対する流量の増減の割合を小さくできる。
【0013】
また、本発明に係る制水扉は、前記扉体の昇降をガイドするローラが前記戸当りに回転自在に設けられ、前記ローラは、前記扉体の中間開度位置において、前記扉体止水板が前記戸当り止水板に密着するように前記扉体を押し付けることを特徴とする。
【0014】
当該制水扉によれば、簡単な構造で、扉体の中間開度位置において呑口周りの止水性を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、制水扉を水路の流量制御として使用するにあたり、小流量に対して流量制御を容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る制水扉の正面図であり、(a)、(b)はそれぞれ扉体の全閉状態、全開状態を示す。
【図2】本発明に係る制水扉の側断面図である。
【図3】図1におけるA−A断面図である。
【図4】本発明の戸当り止水板の単品の正面図であり、(a)は図1に示した戸当り止水板を示し、(b)〜(d)は変形例を示す。
【図5】従来の戸当り止水板の単品の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1ないし図3において、本発明に係る制水扉1は、水路に設置され、下部に四角形状の呑口2(図2、図3)が形成された戸当り3と、戸当り3に昇降自在に取り付けられ呑口2を開閉する扉体4と、扉体4に取り付けられる扉体止水板5(図2、図3)と、戸当り3に取り付けられ、扉体4が下降したときに扉体止水板5と密着して呑口2周りを止水する戸当り止水板6と、を備える。設置対象の水路としては、上下水道の水路や灌漑用水路、工業用水路等である。
【0018】
戸当り3には左右一対の縦枠部7が形成されている。扉体4は縦枠部7に両側がガイドされる態様で、上方に配した図示しない開閉機により連結棒8を介して昇降する。扉体止水板5は扉体4の後面(下流側の面)にねじによる締結方式、接着剤や両面テープを用いた貼着方式等により取り付けられ、戸当り止水板6は戸当り3の前面(上流側の面)にねじによる締結方式、接着剤や両面テープを用いた貼着方式等により取り付けられている。戸当り3および扉体4は例えば鋳鉄材の鋳物からなる。扉体止水板5は例えばステンレス鋼材からなり、戸当り止水板6は例えばステンレス鋼材より軟質な青銅からなる。
【0019】
戸当り3の縦枠部7の前面には押え板9を介して傾斜面を有する楔型固着具10が取り付けられ、扉体4の前記楔型固着具10に対応する位置には楔型部材11が取り付けられている。この楔型部材11と楔型固着具10とは、扉体4が下降したときに相互の傾斜面が摺接し、扉体4を後側に押し遣る。そして、扉体4が完全に下降し終えたとき、扉体4が戸当り3に押さえ付けられ、扉体止水板5と戸当り止水板6とが密着して呑口2周りの止水性(水密性)が保持される。以上までの構造は従来の制水扉の構造と同じである。
【0020】
本発明に係る制水扉1は、戸当り止水板6の側部が、呑口2における通水断面を幅方向に狭めるように呑口2の内側まで延設されていることを主な特徴とする。従来の戸当り止水板54は図5に示すようにロの字形状を呈しており、呑口2の内側に出ることなく呑口2の周縁に沿うように設けられているため、呑口2の幅寸法がそのまま通水断面の幅寸法となる。これに対し本発明では、呑口2の幅寸法よりも小さい戸当り止水板6の開口部12の幅寸法が通水断面の幅寸法となる。
【0021】
図1に示す戸当り止水板6は、呑口2における通水断面において上部の方が下部よりも幅広となるように、開口部12の幅寸法は上部12Bの方が下部12Aよりも大きく形成されている。具体的には、上部12Bにおいては下方に向かうにしたがい漸次幅寸法が小さくなるように形成され、下部12Aにおいては一定の幅寸法に形成されており、開口部12は全体として漏斗形状を呈している。図4(a)は図1に示した戸当り止水板6の単品の正面図である。
【0022】
本発明によれば、呑口2の幅寸法よりも小さい戸当り止水板6の開口部12の幅寸法が通水断面の幅寸法となるため、扉体4の昇降距離に対する流量の増減の割合が小さくなり、水路の水位が低い場合など小流量に対して流量の微調整を容易に行える。
【0023】
前記したように戸当り3は一般に鋳物であるため、呑口2自体の幅寸法を小さい仕様にしようとすると鋳物の金型から新たに起こさなければならないが、戸当り止水板6の開口部12により呑口2における通水断面の幅寸法を小さくする本発明によれば、戸当り止水板6の製作は容易であることから、通水断面の幅寸法を小さくするにあたり安価で済む。
【0024】
ここで、上部12Bの幅寸法を下部12Aのそれよりも大きくした理由は、主に、下水路における大雨の突発的な増水時等において、水を大量に流すための異常増水に対する措置のためである。ただしその場合でも、下方に向かうにしたがい漸次幅寸法が小さくなるように上部12Bを形成することで、扉体4の下縁が上部12Bにおいて下方寄りに位置するにしたがい、扉体4の昇降距離に対する流量の増減の割合を小さくできる。
【0025】
図4(b)〜(d)は戸当り止水板6の開口部12の変形例を示す図である。図4(b)は開口部12の全高さにわたり、下方に向かうにしたがい漸次開口部12の幅寸法が小さくなるように形成した例を示している。図4(c)は開口部12を一定の幅寸法の下部12Aと、下部12Aよりも広い一定の幅寸法の上部12Bとから形成した例を示している。これら図4(b)、(c)に示す変形例と図4(a)の例はいずれも、「呑口2における通水断面において上部の方が下部よりも幅広となるように、戸当り止水板6の開口部12の幅寸法は上部の方が下部よりも大きく形成されている」構成の例である。これらは前記したように異常増水時において水を大量に流したい場合に有効である。
【0026】
一方、図4(d)は開口部12を全高さにわたり一定の幅寸法に形成した場合を示しており、異常増水のおそれがない水路に好適である。
このように、戸当り止水板6は、流量特性に合わせた通水断面形状に容易に変更することができる。
【0027】
次に、扉体4が中間開度位置にあるときに扉体止水板5と戸当り止水板6との止水性を高める構造について説明する。図3において、扉体4の昇降をガイドするローラ15が戸当り3に回転自在に設けられる。具体的には、ローラ15は、戸当り3と一体の押え板9に設けられている。押え板9の上流面側に固設したブラケット13には水路幅方向に沿う支軸14が取り付けられ、この支軸14にローラ15が回転自在に枢支されている。ローラ15は押え板9の切欠き部16を通って、扉体4の側部に貼着された摺接板17に押圧力を伴って接している。このローラ15は、図1に示すように、戸当り3の左右の縦枠部7にそれぞれ上下方向に適宜間隔をおいて複数設けられる。
【0028】
この構造によれば、扉体4の中間開度位置において、ローラ15は、扉体止水板5が戸当り止水板6に密着するように扉体4を押し付けることとなる。したがって、扉体4の中間開度位置において呑口2周りの止水性が高められる。ローラ15の材質は例えばステンレスであり、摺接板17の材質は例えば真鍮である。
【0029】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は図面に記載したものに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 制水扉
2 呑口
3 戸当り
4 扉体
5 扉体止水板
6 戸当り止水板
12 開口部
15 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路に設置され、下部に四角形状の呑口が形成された戸当りと、
前記戸当りに昇降自在に取り付けられ前記呑口を開閉する扉体と、
前記扉体に取り付けられる扉体止水板と、
前記戸当りに取り付けられ、前記扉体が下降したときに前記扉体止水板と密着して前記呑口周りを止水する戸当り止水板と、
を備えた制水扉において、
前記戸当り止水板はその側部が、前記呑口における通水断面を幅方向に狭めるように前記呑口の内側まで延設されていることを特徴とする制水扉。
【請求項2】
前記呑口における通水断面において上部の方が下部よりも幅広となるように、前記戸当り止水板の開口部の幅寸法は上部の方が下部よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項1に記載の制水扉。
【請求項3】
前記戸当り止水板の開口部は、上部においては下方に向かうにしたがい漸次幅寸法が小さくなり、下部においては一定の幅寸法に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の制水扉。
【請求項4】
前記扉体の昇降をガイドするローラが前記戸当りに回転自在に設けられ、
前記ローラは、前記扉体の中間開度位置において、前記扉体止水板が前記戸当り止水板に密着するように前記扉体を押し付けることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の制水扉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−136871(P2012−136871A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290019(P2010−290019)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(390014074)前澤工業株式会社 (134)
【Fターム(参考)】