説明

制限されたダイナミックレンジを有するADCを有する無線通信受信機

本発明は、無線通信受信機内のADCの必要なダイナミックレンジを低減することにより、低コストの受信機を、当該受信機のパフォーマンスを悪化させることなく提供する。本発明の無線通信受信機内では、前記ADCからのデジタル信号をフィルタリングして、デジタル信号中の残留干渉を所定量だけ(例えば、技術仕様で規定された量よりも多く)減衰させるために、デジタルフィルタが使用される。これは、前記ADCにより生成された許容量子化ノイズを事前に定義されたレベルに緩和し、それによって前記ADCのダイナミックレンジを大幅に低減することを可能とする。この事前に定義された量子化ノイズのレベルは、前記受信機の感度により規定されるレベルよりも高く、前記受信機の総干渉は、許容レベルより大きくはないレベルに保持される。従って、前記ADCは、低減された前記ダイナミックレンジに対応するワード長を有する。それ故、前記ADCのコストが減少するだけでなく、前記ADCの後に続く全ての信号処理モジュールのコストも減少し、結果として前記受信機の総コストの実質的な低減がもたらされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に無線通信装置(wireless communication devices)に関し、特に無線周波数(RF)受信機(radio frequency receivers)のような無線通信受信機(wireless communication receivers)に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信技術は、人々の生活に多くの利便性をもたらしてきた。例えば携帯電話機は、たいへん普及しており、多くの人々により広く使用されている。無線機器の数が増加するにつれて、異なる機器間の相互干渉(mutual interferences)が、無線機器のシステム構成と設計の両方に関して、ますます高まる懸念事項となっている。無線機器を設計する際には、良質な通信に必要な信号対干渉比(SIR:signal−to−interference ratio)を達成するために、受信機に、すべての起こり得る干渉(all possible interferers)を、十分に低いレベルに減衰させる必要がある。
【0003】
図1は、従来のRF受信機10を示し、当該RF受信機10は、処理ユニット15と、nビットアナログデジタル変換器(ADC)52と、復調器62とを含む。処理ユニット15内では、アンテナ11によって受信された信号は、所望の信号(wanted signal)から遠く離れた周波数帯域上の強い干渉が減衰される間に所望の信号だけが通過する事を確実にするように、RFバンドパスフィルタ12によってフィルタリングされる。低ノイズ増幅器(LNA)16は、受信された弱い信号を増幅する。次にミキサ22および36は、RFからの所望の信号をそれぞれ周波数信号fおよびfとミキシング(mix)することによって、RFからの所望の信号をベースバンドに変換する。中間周波数(IF)フィルタ32もまた、帯域外干渉をある程度減衰する。ベースバンドにて、アナログローパスフィルタ42は、SIRを増加させるように、帯域外干渉およびノイズパワーの大部分を取り除く。自動利得制御(AGC)ユニット46は、その入力信号を、制限されたダイナミックレンジ(DR)内に調整し、その結果、制限されたワード長を有するADC52が、アナログ信号をデジタル信号に変換するために使用され得るようになる。その後、復調器62は、転送されたユーザデータを回復するように、デジタル信号を逆拡散(de−spread)および復号する。
【0004】
必要なSIRを達成するために、干渉(I)成分は、許容範囲内で維持されるべきである。復調器62の入力での干渉は主に、残留外部干渉と、受信機ノイズとを含み、当該受信機ノイズは、当該受信機内の全ての構成要素からの回路ノイズと、サンプリング動作中に生成されたADC量子化ノイズとを含む。当該回路ノイズは実質的に一定にとどまり、一方で当該ADC量子化ノイズは、当該受信機の感度によって規定(specify)され、総受信機ノイズ(overall receiver noise)には通常ほとんど寄与しない。
【0005】
上記ADCの1つの重要な特徴は、上記入力信号の各サンプリングについてビット数を規定するそのワード長である。当該ワード長は、当該ADCのダイナミックレンジ要件に依存する。当該ダイナミックレンジの下限は、上記受信機感度および上記の必要なSIRにより規定される等価量子化ノイズレベルによって規定され、一方で上限は、ADC入力の等価ピークパワーによって規定される。帯域外干渉がアナログフィルタによって十分には減衰されない受信機内では、残留干渉もまた、ADC入力のピークパワーに影響を及ぼす。場合によっては、当該残留干渉が、所望信号および受信機ノイズよりも遥かに大きいことがあり、従ってそのパワーレベルが、上記ADC入力の上記等価ピークパワーを規定する。このような場合には、規定される等価量子化ノイズが非常に低いレベルでとどまるので、ADCに必要なダイナミックレンジは大いに増加する。これは、当該受信機の総コストの実質的な増加を引き起こす、なぜならば、当該ADCのコストが、そのワード長の増加の結果として増加されるだけでなく、当該ADCの後に続く全ての信号処理モジュール(例えば、上記復調器)のコストが、結果として生じる当該ADCからのより大きなデジタルデータ出力、のハンドリングにおける複雑性に適応するために、増加されなければならないからである。
【0006】
図2は、TD−SCDMA仕様に関して、従来の受信機に関連する一例を示す。この例では、等価受信機ノイズは−104.15dBmであり、規定された等価量子化ノイズは−119.15dBmであり、−119.15dBmという数値は総受信機ノイズよりも遥かに低い。近接チャネル干渉(adjacent channel interferer)の規定された最大パワーレベルは−54dBmであり、アナログフィルタによって−76dBmに抑制される。この残留干渉はさらに、デジタルフィルタによって−87.24dBmに抑制され得る。既知のピーク対平均比の12dBを考慮すると、ADC入力の等価ピークパワーは−64dBmである。従って、ADCの必要なダイナミックレンジは−64dBmと−119.15dBmとの差、すなわち55.15dBである。これは通常、8から10ビット長の間の等価ワード長ということになる。上述のように、ADCのワード長が長くなるにつれて、受信機の総コストは増加する。
【0007】
したがって、低コストの受信機を、パフォーマンスを悪化させることなく提供する必要がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、無線通信受信機内のADCの必要なダイナミックレンジを低減することにより、低コストの受信機を、当該受信機のパフォーマンスを悪化させる(degrade)ことなく提供する。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、無線通信受信機が提供される。前記受信機は、処理ユニットと、アナログデジタル変換器(ADC)と、デジタルフィルタとを備える。前記処理ユニットは、受信された信号を処理し、処理された前記信号を、フィルタリングされたアナログ信号を出力するように、アナログ領域(domain)でフィルタリングする。前記ADCは、フィルタリングされた前記アナログ信号をデジタル信号に変換する。次に前記デジタルフィルタは、前記ADCからの前記デジタル信号をフィルタリングし、前記デジタル信号中の残留干渉を所定量だけ(例えば、技術仕様で規定された量よりも多く)減衰させる。これは、前記ADCにより生成された許容量子化ノイズを事前に定義されたレベルに緩和し、それによって前記ADCのダイナミックレンジを大幅に(substantially)低減することを可能とする。この事前に定義された量子化ノイズのレベルは、前記受信機の感度により規定(prescribe)されるレベルよりも高く、一方で前記受信機の総干渉は、許容レベルより大きくはない(not greater than)レベルに保持される。従って、前記ADCは、低減された前記ダイナミックレンジに対応するワード長を有する。
【0010】
それ故、ADCのコストが減少するだけでなく、ADCの後に続く全ての信号処理モジュールのコストも減少し、結果として受信機の総コストの実質的な低減がもたらされる。
【0011】
本発明のより完全な理解と共にその他の目的および達成物が、添付の図面と関連付けて考慮される以下の説明および特許請求の範囲を参照することによって、明らかになり且つ理解されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、添付の図面を参照して、更に詳細に且つ例示の方法により説明される。
当該図面を通じて、同一の参照番号は、類似の又は対応する特徴又は機能を指し示す。
【0013】
図3は、本発明の一実施形態による無線通信受信機80を示す。受信機80は、処理ユニット15と、mビットADC84と、デジタルローパスフィルタ86と、復調器62とを含む。処理ユニット15は、図1に関連して上述した方法と同じ方法で、信号のミキシングおよびフィルタリングを含む多数の機能を実施する。デジタルローパスフィルタ86はさらに、帯域外干渉を、技術仕様で規定されたレベルよりも低いレベルに減衰させる。これは、当該受信機のSIRを変更することなく、上記ADCの等価量子化ノイズレベルを、受信機感度により規定されるレベルよりも高いレベルに緩和することを可能とする。従って、ADC84の遥かに小さなダイナミックレンジが達成され、結果として、ADC84のワード長の実質的な減少、従って、当該受信機の総コストの実質的な減少がもたらされる。
【0014】
図4は、本発明の一実施形態による、受信機80のようなハンドセット受信機用のADCのダイナミックレンジ低減の一例を示す。図2の例と比較するに、この例は、TD−SCDMA仕様において規定されたものと類似のデータを使用している。この例では、残留近接干渉がデジタル領域(domain)において14.24dBだけ抑制されるが、14.24dBという数値は図2のそれよりも3dB大きい。総許容干渉(I)(残留干渉と受信機ノイズの両方を含む)は一定にとどまることになり、残留干渉はさらに減少しているので、総受信機ノイズはより高いレベルに緩和され得る。総受信機ノイズ中のフロントエンドノイズとADC回路ノイズは通常の状況下ではほぼ一定なので、通常は非常に低いレベルにあるADC量子化ノイズが、従って、より高いレベルに著しく緩和され得る。従って、ADCの許容可能な量子化ノイズは−90.24dBmに大きく緩和され、総SIRが一定のレベルに維持される。もちろん実際の実装では、等価量子化ノイズレベルは、許容レベルの−90.24dBmよりも低くなり得る。結果として、ADCに必要なダイナミックレンジは26.24dB、すなわち−64dBmと−90.24dBmとの差に低減されるが、26.24dBという数値は図2の例の55.15dBより著しく低い。従って、ADCの対応するワード長は、図2に示されるワード長に比べて5量子化ビットだけ低減され得ることになり、結果として、ADCの後に続く全ての信号処理モジュールのコストの実質的な減少、従って、受信機の総コストの実質的な減少がもたらされ得る。
【0015】
図5は、本発明の一実施形態によるデジタルフィルタ86の転送機能を示す。
【0016】
上で、本発明は、携帯端末内のRF受信機に関連して説明されている。本発明は、その他の無線通信システムの受信機(例えば基地局、デジタルTV受信機等)の受信機内でも使用され得る。
【0017】
本発明は特定の実施形態に関連して説明されたが、上記説明に鑑みれば当業者には多くの代替物、修正物および変形物が明らかであろう。従ってそれは、添付の特許請求の範囲の精神および領域内に属する全てのそのような代替物、修正物および変形物を包含する事が意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来のRF受信機を示す。
【図2】従来の受信機に関連する一例を示す。
【図3】本発明の一実施形態による無線通信受信機を示す。
【図4】本発明の一実施形態によるハンドセット受信機用のADCのダイナミックレンジ低減の一例を示す。
【図5】本発明の一実施形態によるデジタルフィルタの転送機能を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信受信機であって、
(a)受信された信号を処理し、処理された前記信号を、フィルタリングされたアナログ信号を出力するように、アナログ領域でフィルタリングする処理ユニットと、
(b)フィルタリングされた前記アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換器(ADC)と、
(c)前記ADCにより生成された許容量子化ノイズを事前に定義されたレベルに緩和し、それによって前記ADCのダイナミックレンジを大幅に低減することを可能とするために、前記ADCからの前記デジタル信号をフィルタリングし、前記デジタル信号中の残留干渉を所定量だけ減衰させるデジタルフィルタとを備え、
前記ADCが、低減された前記ダイナミックレンジに対応するワード長を有する無線通信受信機。
【請求項2】
事前に定義された前記レベルが、前記受信機の感度により規定されるレベルよりも高い請求項1に記載の受信機。
【請求項3】
前記量子化ノイズの事前に定義された前記レベルがある範囲内に維持されることで、前記受信機の総干渉が許容レベルより大きくはないレベルに保持される請求項1または2に記載の受信機。
【請求項4】
ユーザデータを回復するように、前記ADCからのフィルタリングされた前記デジタル信号を復調する復調器をさらに備える請求項1、2または3に記載の受信機。
【請求項5】
無線通信受信機内で使用するための方法であって、
受信された信号を処理し、
処理された前記信号を、フィルタリングされたアナログ信号を出力するように、アナログ領域でフィルタリングし、
フィルタリングされた前記アナログ信号をデジタル信号に変換し、
前記変換ステップで生成された許容量子化ノイズを事前に定義されたレベルに緩和し、それによって前記変換ステップで必要とされる量子化ビット数を大幅に低減することを可能とするために、前記デジタル信号をデジタル領域でフィルタリングし、前記デジタル信号中の残留干渉を所定量だけ減衰させるステップ群を備え、
前記変換ステップが、フィルタリングされた前記アナログ信号を、対応する低減された量子化ビット数を有する前記デジタル信号に変換する方法。
【請求項6】
事前に定義された前記レベルが、前記受信機の感度により規定されるレベルよりも高い請求項5に記載の方法。
【請求項7】
事前に定義された前記レベルがある範囲内に維持されることで、前記受信機の総干渉が許容レベルより大きくはないレベルに保持される請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
ユーザデータを回復するように、フィルタリングされた前記デジタル信号を復調するステップをさらに備える請求項5、6または7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−500984(P2007−500984A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530772(P2006−530772)
【出願日】平成16年4月16日(2004.4.16)
【国際出願番号】PCT/IB2004/050467
【国際公開番号】WO2004/102819
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】