説明

制電性複合繊維

【課題】 膠着や熱黄変色、溶出等のトラブルが生じず、優れた制電性能を有する制電性複合繊維を得ることを目的とする。
【解決手段】 単繊維の断面において、同心円状の三層構造を有する複合繊維であって、最外層はポリエステル系熱可塑性樹脂A、中間層がブロックポリエーテルアミドBを5〜50重量%含有するポリエステル系熱可塑性樹脂Cであり、最内層はポリエステル系熱可塑性樹脂Dからなり、繊維表面から中間層までの距離が0.3〜4.0μmであることを特徴とする制電性複合繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膠着や熱黄変色、溶出等のトラブルが生じず、優れた制電性能を有する制電性複合繊維を得ることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系熱可塑性樹脂からなる合成繊維は広く衣料用のみならず、産業用分野にまで利用されている。しかしながら、これらの合成繊維は電気抵抗が著しく高く、静電気を帯びやすいという致命的な欠点を有し、衣類においては脱着時の不快感、裾のまとわりつき、汚れの付着等の問題があり、これら静電気による欠点を排除すべく、これまで種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば繊維中に導電性カーボンブラック粒子を高濃度で分散させて得た導電性繊維を非導電性繊維と共に布帛とすることにより制電性を得る方法が提案されている。(特許文献1参照)しかしながら、導電性カーボンブラックを含有する導電性繊維は黒色あるいは灰色を呈するため、衣料分野での利用が実質困難であるという問題があった。この問題に対し、例えば酸化チタンに酸化アンチモンをドーピングした酸化錫をコートした粒子に代表される白色導電性金属化合物を繊維中に高濃度で分散させ、かつポリエステルのような繊維形成性熱可塑性樹脂とともに複合紡糸して白色導電繊維を得る方法が提案されている。(特許文献2参照)しかしながら、これらの繊維には高価な白色導電性金属化合物を多量に用いるため製造コストが高いばかりか、製糸性が著しく悪いという問題があった。
【0004】
一方、上記のように導電性微粒子を含有させ、繊維に導電性能を付与する方法とは別に、制電性ポリマーを繊維中の1成分として複合紡糸することで、制電性繊維を得る方法が提案されている。例えば、特許文献3に示される発明には、複合繊維の芯にポリエステルを、鞘に制電ポリマーとしてブロックポリエーテルアミドを用いる技術が提案されている。しかしながら、制電性能を有するブロックポリエーテルアミドが繊維表面に露出しているため、製糸工程において単糸同士が膠着したり、仮撚工程や布帛形成後の熱セット工程において、ブロックポリエーテルアミドの熱黄変色が問題であった。他方、制電性能を有するポリマーを芯に、鞘にポリエステルを配すると、単糸同士の膠着や、熱黄変色は避けられるものの、制電ポリマーがポリエステルによって繊維最内層に封じ込められているため、制電性能が劣るという問題があった。
【0005】
上記問題を解決するべく、特許文献4には三層構造を有する芯鞘型複合繊維において、最外層および最内層にポリエステルやポリアミド、ポリオレフィンを使用し、中間層に制電性を有するポリアルキレングリコールを共重合したポリエステルエーテルを使用する技術が提案されてる。確かにこの方法であれば、制電ポリマーが繊維表面に露出せず、薄い最外層を隔てて繊維表面近傍に存在するため、単糸同士の膠着や熱黄変色を抑制し、かつ優れた制電性能を得ることが出来る。しかしながら、ポリアルキレングリコールを共重合したポリエステルエーテルは、一般に耐アルカリ性が極端に低いため、布帛形成後の精練工程や染色工程、アルカリ減量等の工程によってポリエステルエーテルが加水分解され、溶出し、結果として得られる生地の制電性能が劣るという問題があった。
【特許文献1】特開昭55−001337号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平03−241067号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特公昭44−000911号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開昭53−111117号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題を解決し、膠着や溶出等のトラブルが生じず、優れた制電性能を有する制電性複合繊維を得るためにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
単繊維の断面において、同心円状の三層構造を有する複合繊維であって、最外層はポリエステル系熱可塑性樹脂A、中間層がブロックポリエーテルアミドBを5〜50重量%含有するポリエステル系熱可塑性樹脂Cであり、最内層はポリエステル系熱可塑性樹脂Dからなり、最外層厚みが0.3〜4.0μmであることを特徴とする制電性複合繊維を得る。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、膠着や溶出等のトラブルが生じず、優れた制電性能を有する制電性複合繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における制電性複合繊維の単繊維横断面形状は、図1の如く同心円状の三層構造を有し、最外層はポリエステル系熱可塑性樹脂A、中間層がブロックポリエーテルアミドBを5〜50重量%含有するポリエステル系熱可塑性樹脂C、最内層はポリエステル系熱可塑性樹脂Dから構成される。最外層、最内層を構成するポリエステル系熱可塑性樹脂Aは、ポリエステル繊維としての機械特性を受け持つ層であり、中間層を構成するブロックポリエーテルアミドBを含有するポリエステル系熱可塑性樹脂Cは制電性能を受け持つ層である。
【0010】
ブロックポリエーテルアミドBは、ポリアミドとポリエーテルのブロック共重合体であり、ポリエーテル部が水分子を吸着する。この水分子が繊維中の静電気を漏洩することで制電性が発現される。また、ブロックポリエーテルアミドBとポリエステル系熱可塑性樹脂Cは相溶性が乏しいために、ブロックポリエーテルアミドBを含有するポリエステル系熱可塑性樹脂Cを溶融紡糸すると、ポリエステル中にブロックポリエーテルアミドが繊維長軸方向に連続した筋状に局在化する。このように、ブロックポリエーテルアミドが筋状に局在化することが、制電性能を得るためには重要である。
【0011】
ブロックポリエーテルアミドを含有するポリエステルは一般のポリエステルにはない優れた制電性を有するが、反面、単体で繊維とした場合には強度・耐摩耗性などの機械特性が劣るという問題があるため、単体で繊維とし、実使用上問題ない機械特性を得ようとするとブロックポリエーテルアミドの含有量を小さくする必要があり、結果として制電性能が劣るものとなる。従って、優れた制電性能と機械特性を両立するためにはブロックポリエーテルアミド含有するポリエステルと通常のポリエステルからなる複合繊維とする必要がある。
【0012】
制電性複合繊維の断面形態を、繊維表面にブロックポリエーテルアミドを含有するポリエステルを配する形とした場合、繊維を加熱した際の単糸同士の膠着の問題、摩擦によるフロスティングが著しいという問題がある。従って、ブロックポリエーテルアミドを含有するポリエステルは、通常のポリエステルが繊維表面を覆う複合形態とする必要がある。一方、通常のポリエステルが繊維表面を覆う鞘として、ブロックポリエーテルアミドを含有するポリエステルを芯とした、いわゆる芯鞘型複合繊維とした場合、制電性を有するブロックポリエーテルアミドが完全にポリエステルに覆われるため、繊維表面からブロックポリエーテルアミドの層までの距離(鞘の厚み)が長くなるため、制電性に劣るという問題がある。芯鞘型複合繊維では、繊維全体に対するブロックポリエーテルアミドを含有するポリエステルの配合量を上げることで鞘厚みを薄くすることが出来るが、同時にブロックポリエーテルアミドの含有量が大となるため、前記のように機械特性が劣ることによる問題が発生する。
【0013】
一方、制電性複合繊維の横断面形状を、図1の如く同心円状の三層構造とし、最外層はポリエステル系熱可塑性樹脂A、中間層がブロックポリエーテルアミドBを5〜50重量%含有するポリエステル系熱可塑性樹脂C、最内層がポリエステル系熱可塑性樹脂Dから構成される制電性複合繊維であれば、機械特性、制電性能共に優れたものが得られる。最外層の厚みは0.3μm以上であれば、上記の様なフロスティングの問題がなく、4μm以下であれば十分な制電性能が得られる。好ましくは0.5μm〜2μmである。ここで、本発明の制電性複合繊維の中間層におけるブロックポリエーテルアミドの配合率は5〜50重量%とする必要がある。ブロックポリエーテルアミドの配合率が5重量%以下の場合十分な制電性能が得られず、50重量%を超えると得られる制電性複合繊維の機械特性が劣る。より好ましくは7〜30重量%である。
【0014】
さらに、上記の様に三層構造の横断面形状とし、中間層にブロックブロックポリエーテルアミドを含有するポリエステルを用いることで、得られた制電性複合繊維からなる布帛にアルカリ減量加工を施した場合、より優れた制電性能を有する布帛を得ることが出来る。一般にポリアルキレングリコールをブロック共重合した樹脂はポリエーテル部位がアルカリによる加水分解に弱く、容易に分子鎖が切断され溶出される。従って、三層構造とすれば、上記の様な膠着やフロスティングの問題を回避できるだけでなく、ブロックポリエーテルアミドの溶出を避けることが出来る。加えて、三層構造の横断面形状とすると、布帛のアルカリ減量加工によって溶出される最外層の厚みをもコントロールできるため、得られる布帛の制電性能・機械特性ともに優れたものとなる。
【0015】
一方、本発明のようにブロックポリエーテルアミドを含有するポリエステルではなく、特開昭53−111117号公報に示されるポリアルキレングリコールを共重合したポリエステルエーテルを用いた場合は上記の様な効果が得られない。前述の通り、ポリアルキレングリコールを共重合した樹脂はアルカリによる加水分解速度が速いが、通常のポリエステルによって繊維内層に封じ込める複合形態としても、過度のアルカリ減量によって通常のポリエステルよりも優先的に溶出する現象が生じる場合がある。特に、ポリアルキレングリコールを共重合したポリエステルエーテルは分子中のポリエステル部位、ポリエーテル部位ともにアルカリ加水分解により分解しやすいため、容易に低分子量化し、例え通常のポリエステルによって繊維内層に封じられていようとも外層のポリエステルの分子間を、低分子化したブロックポリエーテルエステルが移動し、溶出してしまう。しかし、本発明のブロックポリエーテルアミドは、ポリエーテル部位は同様にアルカリによる加水分解速度は速いが、ポリアミド部位のアミド結合はアルカリによって殆ど加水分解されないため、結果ブロックポリエーテルアミドは加水分解が生じるものの、溶出する程の低分子量化が起こり難い。さらに、本発明の制電性複合繊維における中間層は上記の通りポリエステル樹脂中に繊維長軸方向に連続した筋状に局在化しているため、本発明のおけるブロックポリエーテルアミド含有量の範囲であれば、アルカリによる加水分解によって中間層のみが優先的に溶出する現象が極めて起こり難い。
【0016】
本発明に用いられるポリエステル系熱可塑性樹脂とは、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンフタレート等が挙げられるが、中でも前者のテレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素原子数2〜6のアルキレングリコール成分、即ちエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、及びヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも一種のグリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルを対象とするものであり、ポリエステル系熱可塑性樹脂A,C,Dいずれも上記ポリエステルより選択することができる。このポリエステルは任意の方法で製造されたものでよく、例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、又はテレフタル酸とエチレンオキサイドを反応させるかして、テレフタル酸のグリコールエステル及び/またはその低重合体を生成させ、ついでこの生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで縮重合反応させることで容易に製造される。なお、このポリエステルはそのテレフタル酸成分の一部を他の二官能基カルボン酸成分で置き換えてもよい。この他、本発明のポリエステルは通常のポリエステルと同様に酸化チタン、カーボンブラック等の顔料のほか、従来公知の抗酸化剤、着色防止剤が添加されていてもよい。
【0017】
本発明に用いられるブロックポリエーテルアミドBとは、ポリアミドにポリエーテルがブロック状に結合したものを指す。ブロックポリエーテルアミドBを構成するポリエーテルとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピオンオキシドのブロックまたはランダム共重合体およびエチレンオキシドのテトラヒドロランのブロックまたはランダム共重合体などが用いられる。中でも、得られる繊維の機械特性・制電性の観点から、数平均分子量が200〜6000の範囲のポリエチレングリコールが好ましく用いられる。ポリアミドとしては、例えばω−アミノカプリル酸、ω−アミノエナント酸、ω−アミノベルコン酸、ω−アミノカプロン酸および11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸あるいはカプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、およびラウロラクタム等のラクタムおよびヘキサメチレンジアミン−セバシン酸塩およびヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸等のジアミン−ジカルボン酸の塩が用いられる。ブロックポリエーテルを構成するポリアミドは、ブロックポリエーテルの構成単位で10重量%以上ならば得られるブロックポリエーテルアミドの機械的性質が向上するため好ましく、また、80重量%以下ならば得られる樹脂の帯電防止性が向上するため好ましい。さらに、ブロックポリエーテルアミドBには、有機スルホン酸塩化合物を添加することで制電性をさらに向上させることが出来る。有機スルホン酸塩化合物とはドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸とナトリウム、カリウム等のアルカリ金属から形成される塩であり、なかでもドデシルベンゼンスルホン酸ソーダが特に好ましい。該有機スルホン酸塩化合物のポリエーテルエステルアミドへの配合量は、ブロックポリエーテルアミド100重量%に対し2〜20重量%が好ましい。有機スルホン酸塩化合物の配合量が2重量%以上ならば得られる繊維の制電性能が高く、20重量%以下であれば得られる繊維の機械特性が優れるため好ましい。また、本発明におけるブロックポリエーテルアミドには耐熱性向上剤としてヒンダードフェノール化合物を加えることができる。ここでヒンダードフェノール化合物とはフェノール系水酸基の隣接位置に立体障害を有する置換基を持つフェノール誘導体であり、例えば1,3,5−トリメチル−2,4,6トリ(3,5−tertブチルフェノール)、2,6−ジ−tertブチル−p−クレゾール、2,2−メチルビス(4−エチル−6−tertブチルフェノール)等が挙げられる。該ヒンダードフェノール化合物を配合する場合、ブロックポリエーテルアミド100重量%に対し2〜10重量%で用いられる。
【0018】
本発明に用いられるブロックポリエーテルアミドは熱による分解を受け、制電性能が低下し易いという特性がある。これは、主としてポリエーテル部の酸化分解による分子鎖切断による影響と考えらる。従って、溶融紡糸の際に紡糸温度を出来る限り低くすることで、分子鎖切断を抑制し、より優れた制電性能を有する制電性複合繊維が得られる。そこで、本発明の制電性複合繊維を構成する、ブロックポリエーテルアミド以外のポリエステル系熱可塑性樹脂A,C,Dの融点を、好ましくは240℃以下とすることにより、溶融紡糸の温度を低く設定でき、より優れた制電性が得られる。融点240℃以下のポリエステルとしては前記のポリエステルの中から選択することが出来るが、特にポリエチレンテレフタレートの酸成分を5〜30mol%イソフタル酸で置換した共重合ポリエチレンテレフタレートや、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートが好ましく用いることが出来る。
【0019】
本発明の制電性複合繊維を得る方法としては、通常の複合繊維の溶融紡糸方法を適用すればよく、ポリエステル系熱可塑性樹脂A、ブロックポリエーテルアミドBを5〜30重量%含有するポリエステル系熱可塑性樹脂C、最内層はポリエステル系熱可塑性樹脂Dをそれぞれ別々の溶融押出機より溶融させ、それぞれ所定の量に計量したのち、図1の如き断面形態となるように設計された複合紡糸口金より紡糸する。紡糸した糸条は冷却、給油したのちに一旦巻き取り、加熱延伸を施す方法であっても、一旦巻き取ることなく加熱延伸を施す方法のどちらでもよく、公知の製糸方法を適用することが出来る。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。但し、本発明は実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の評価は以下の方法に従った。
【0021】
1.強度(cN/dtex)・伸度(%)
TOYO BALDWIN社製TENSILON/UTM−III−100を使用し、試料長20cm、引張り速度20cm/分の測定条件でフィラメント破断点における強度・伸度を測定した。
【0022】
2.原糸比抵抗
フィラメント糸を束ねて約2200dtexとし、弱アニオン系洗剤を用い、十分に精錬して油剤などを除いた後、20℃、40%RHの状態で24時間放置し、同温度、湿度下にてその両端の電気抵抗を測定することによって原糸の比抵抗ρ[Ωcm]を求めた。原糸比抵抗が500×10Ωcm以上を不合格とした。
【0023】
3.鞘厚み
得られたフィラメントに2g/dtexの荷重をかけたまま、スリーボンド社製紫外線感光性樹脂3055に浸漬し、セン特殊光源社製高圧水銀ランプHL100Gにて10分間紫外線を照射し、紫外線感光性樹脂を固化させた。紫外線感光性樹脂により固められたサンプルを繊維横断面方向にミクロトームで切断し、断面観察用サンプルを得た。得られた断面観察用サンプルは光学顕微鏡にて断面形態を撮影し、各単繊維の鞘厚さを測定した平均値を鞘厚みとした。
【0024】
4.溶出性評価
フィラメントを98℃に加熱した4%NaOH水溶液溶液に10分浸漬したサンプルと、30分浸漬したサンプルをそれぞれ取り出した後、水で洗浄してフィラメントを室温で乾燥した。このフィラメントを切断し、日立製作所製E1010 ION SPUTTERにて 金属アルミニウム真空蒸着を施し、日立製作所製S−3000N走査型電子顕微鏡(SEM)によりフィラメント横断面の観察を行い、浸漬時間10分で中間層の溶出が確認された場合を×、浸漬時間30分で溶出が確認された場合を△、いずれにおいても溶出が確認されなかった場合○とし、○および△を合格とした。
【0025】
5.フロスティング性評価
経糸・緯糸共に得られた制電性複合繊維を生糸で用い、常法によって経糸密度94本/2.54cm(インチ)、緯糸密度80本/2.54cm(インチ)の平織物を得た。この織物を常法によって、リラックス精練、中間セット(180℃)を行った後、グレー色に染色した。染色後の織物を直径10cmの円形に切り出し、蒸留水で湿潤させて円盤に取り付けた。更に30cm角に切り出した織物を乾いたまま水平の板の上に固定した。蒸留水で湿潤させた織物が取り付けられた円盤を水平な板の上に固定された織物に対して水平に接触させ、円盤の中心が直径10cmの円を描くように、50rpmの速度で10分間円盤を円運動させ、2枚の織物を摩擦させた。摩擦終了後4時間放置してから、円盤に取り付けた織物の変褪色の程度を、次の5段階に分けて視感評価し、3〜5級を○、1,2級を×とし、○を合格とした。
5級:変褪色が認められず良好
4級:良好
3級:普通
2級:変褪色が認められ不良
1級:変褪色が著しく不良
6.延伸性評価
後述する実施例の方法にて制電性複合繊維を延伸する際、未延伸糸3.0kgが糸切れすることなく延伸可能であった確率(延伸満管率)が95%以上が○、90%以上が△、90%未満を×とし、○および△を合格とした。
【0026】
実施例1
常法によって得られた固有粘度0.64のポリエチレンテレフタレート(以下PETと略)チップ状樹脂を160℃で6時間真空乾燥し、ポリエステル系熱可塑性樹脂A,C,Dとして用いた。尚、固有粘度は樹脂を0.8gをオルソクロロフェノール溶液10mlに溶解させ、25℃にて測定した。
【0027】
カプロラクタム47.53重量部、数平均分子量が2000のポリエチレングリコール(以下PEGと略)50重量部、アジピン酸3.7重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(以下DBSと略)5重量部、“イルガノックス”1098(チバガイギー社製酸化防止剤)0.2重量部、および三酸化アンチモン触媒0.1重量部とともにヘリカルリボン攪拌翼を備えた反応容器にし込み、窒素置換して240℃で40分間加熱攪拌して透明な均一溶液とした後、260℃、0.5mmHg以下の条件で5時間以上重合後、窒素下で常圧とし1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(以下“イルガノックス”1330と略:チバガイギー社製酸化防止剤)5.5重量部を添加し、20分間練りこみ後、1.0mmHg以下まで減圧し脱泡後ポリマーを冷却ベルト上にガット状に吐出し、冷却、カッティングし、ブロックポリエーテルアミド樹脂を作成した。得られたチップ状樹脂は、40℃で24時間真空乾燥し、ブロックポリエーテルアミドBとして用いた。このブロックポリエーテルアミドBを、ポリエステル系熱可塑性樹脂Cと、それぞれ重量比で1:9となるように計量したのち、十分混合し、樹脂混合物Eを得た。
【0028】
ポリエステル系樹脂A、D、樹脂混合物Eをそれぞれ別々のエクストルーダー型押出機により溶融押し出しし、紡糸温度285℃にて、ポリエステル系樹脂Aを最外層、ポリエステル系樹脂Dを最内層、樹脂混合物Eを中間層とした図1の如き三層構造の複合形態となる複合紡糸口金より紡糸した。このとき、ポリエステル系樹脂A、D、樹脂混合物Eの配合比はそれぞれ2:6:2とした。紡糸した糸条は20℃のエアーで冷却、油剤付与後、巻き取り速度1800m/分で巻き取り、218デシテックス36フィラメントの未延伸糸を得た。得られた未延伸糸は熱板加熱式延伸機にて、延伸倍率2.6倍、熱板温度140℃、にて延伸し、84デシテックス36フィラメントの制電性繊維を得た。延伸の際の延伸満管率は97%と良好な製糸性であった。
【0029】
得られた制電性複合繊維の比抵抗値は4.2×10Ωcmと良好であり、溶出性評価では、アルカリ液30分浸漬においても溶出が認められず、フロスティング性は4級であり、いずれも良好な結果が得られた。
【0030】
実施例2、3
中間層を形成する樹脂混合物を調整する際に、ブロックポリエーテルアミドの配合率を表1の通り変更した以外、実施例1と同様の方法にて制電性複合繊維を得た。実施例2は溶出性、フロスティング性、製糸性共に良好であったが、実施例1に比してブロックポリエーテルアミドの配合率が低いため、比抵抗値が233×10Ωcmと高めであったが、十分な制電性能が得られた。一方、実施例3では、実施例1に比してブロックポリエーテルアミドの配合率が高いために、溶出性評価ではアルカリ液30分浸漬において中間層の溶出が認められ、フロスティング性は3級、延伸満管率は94%といずれも実施例1対比劣位であったが問題ないレベルであった。実施例3にて得られた制電性複合繊維は1.1×10Ωcmであり、制電性能は良好であった。
【0031】
実施例4、5
最外層の厚みを変更すべく、ポリエステル系樹脂A、Dの配合比を表1の通り変更した以外、実施例1と同様の方法にて制電性複合繊維を得た。実施例4は実施例1に比して最外層の厚みが大であるため、比抵抗値は120×10Ωcmと実施例1対比高めであったが、十分な制電性能が得られ、溶出性、フロスティング性、製糸性いずれにおいても実施例1同等レベルの良好な結果が得られた。一方、実施例5は実施例1に比して最外層の厚みが小であるため、溶出性評価ではアルカリ液30分浸漬において中間層の溶出が認められ、フロスティング性は3級であったものの、いずれも問題ないレベルであり、比抵抗値は1.9×10Ωcmと良好な制電性能が得られた。
【0032】
実施例6、7
ブロックポリエーテルアミドに含有されるDBSの添加率を表1の通り変更した以外、実施例1と同様の方法にて制電性複合繊維を得た。実施例6では溶出性、フロスティング性、製糸性ともに十分なレベルに達していたものの、実施例1に比してブロックポリエーテルアミド中のDBS含有量が低いため、得られた制電性複合繊維の比抵抗値は280×108Ωcmと高めであったが、十分な制電性能が得られた。一方、実施例7では制電性能、溶出性、フロスティング性ともに十分なレベルに達していたが、生産上問題ないレベルではあるものの延伸満管率が92%と実施例1対比劣るものであった。
【0033】
実施例8、9
ブロックポリエーテルアミドのPEG共重合率を表1の通り変更した以外、実施例1と同様の方法にて制電性複合繊維を得た。実施例8は溶出性、フロスティング性、製糸性ともに良好であったが、実施例1に比してブロックポリエーテルアミドを構成するPEG共重合率が低いため、制電性能としては十分なレベルではあるが、比抵抗値445×10Ωcmと高めであった。一方、実施例9は実施例1に比してブロックポリエーテルアミドを構成するPEG共重合率が高いために、溶出性評価ではアルカリ液30分浸漬において中間層の溶出が認められたものの、フロスティング性、製糸性は良好であった。実施例9にて得られた制電性複合繊維は1.3×10Ωcmであり、制電性能は良好であった。
【0034】
実施例10
ポリエステル系熱可塑性樹脂A,C,Dを全て、融点228℃である固有粘度0.86のポリテトラメチレンテレフタレート(以下PBTと略)としたうえ、紡糸温度を255℃にて176dtexの未延伸糸を得た後、延伸倍率を2.1倍として延伸した以外、実施例1と同様の方法にて制電性複合繊維を得た。得られた制電性複合繊維の比抵抗値は1.3×10Ωcmと良好であり、溶出性評価では、アルカリ液30分浸漬においても溶出が認められず、フロスティング性は4級であり、延伸満管率96%といずれも良好な結果が得られた。
【0035】
実施例11
ポリエステル系熱可塑性樹脂A,C,Dを全て、融点225℃である固有粘度1.51のポリテトリメチレンテレフタレート(以下PPTと略)としたうえ、紡糸温度を255℃にて193dtexの未延伸糸を得た後、延伸倍率を2.3倍として延伸した以外、実施例1と同様の方法にて制電性複合繊維を得た。得られた制電性複合繊維の比抵抗値は1.5×10Ωcmと良好であり、溶出性評価では、アルカリ液30分浸漬においても溶出が認められず、フロスティング性は4級であり、延伸満管率95%といずれも良好な結果が得られた。
【0036】
実施例12、13
中間層を形成する樹脂混合物を調整する際に、ブロックポリエーテルアミドの配合率を表1の通り変更した以外、実施例11と同様の方法にて制電性複合繊維を得た。実施例12は溶出性、フロスティング性、製糸性共に良好であったが、実施例11に比してブロックポリエーテルアミドの配合率が低いため、比抵抗値が201×10Ωcmと高めであったが、十分な制電性能が得られた。一方、実施例13では、実施例1に比してブロックポリエーテルアミドの配合率が高いために、溶出性評価ではアルカリ液30分浸漬において中間層の溶出が認められ、フロスティング性は3級、延伸満管率は91%といずれも実施例1対比劣位であったが問題ないレベルであった。実施例13にて得られた制電性複合繊維は0.8×10Ωcmであり、制電性能は良好であった。
【0037】
実施例14、15
最外層の厚みを変更すべく、ポリエステル系樹脂A、Dの配合比を表1の通り変更した以外、実施例11と同様の方法にて制電性複合繊維を得た。実施例14は実施例11に比して最外層の厚みが大であるため、比抵抗値は89×10Ωcmと実施例1対比高めであったが、十分な制電性能が得られ、溶出性、フロスティング性、製糸性いずれにおいても実施例11同等レベルの良好な結果が得られた。一方、実施例15は実施例1に比して最外層の厚みが小であるため、溶出性評価ではアルカリ液30分浸漬において中間層の溶出が認められ、フロスティング性は3級であったものの、いずれも問題ないレベルであり、比抵抗値は0.8×10Ωcmと良好な制電性能が得られた。
【0038】
比較例1、2
中間層を形成する樹脂混合物を調整する際に、ブロックポリエーテルアミドの配合率を表2の通り変更した以外、実施例1と同様の方法にて制電性複合繊維を得た。比較例1では中間層に対するブロックポリエーテルアミドの配合率が低過ぎるため、比抵抗値782×10Ωcmと、十分な制電性能が得られなかった。一方、比較例2では中間層に対するブロックポリエーテルアミドの配合率が高過ぎるため、比抵抗値は0.9×108Ωcmと良好であったものの、溶出性評価ではアルカリ液10分浸漬において溶出が認められ、延伸満管率86%と製糸性も不良であった。
【0039】
比較例3
最外層の厚みを変更すべく、ポリエステル系樹脂A、Dの配合比を表2の通り変更した以外、実施例1と同様の方法にて制電性複合繊維を得た。得られた制電性複合繊維は、最外層の厚みが0.2μmと薄いため、溶出性評価ではアルカリ液10分浸漬において溶出が認められ、フロスティング性評価では2級と、いずれも不良な結果であった。
【0040】
比較例4
得られる制電性複合繊維の複合形態が三層構造の複合形態ではなく、芯に樹脂混合物Eを、鞘にポリエステル系熱可塑性樹脂Aを配する芯鞘型複合となる口金を使用した以外、実施例1と同様の方法にて制電性複合繊維を得た。溶出性、フロスティング性、製糸性いずれも良好な結果が得られたが、比抵抗値は544×10Ωcmであり、制電性は不十分であった。
【0041】
比較例5
中間層に用いる樹脂混合物Eの代わりに、PETに平均分子量が2000のPEGを30重量%ブロック共重合したポリエステルエーテル(固有粘度1.1)を用いた以外、実施例1と同様の方法によって制電性複合繊維を得た。得られた制電性繊維はアルカリ液10分浸漬において、著しく中間層が溶出していることが確認された。
【0042】
以上実施例1〜15の結果を表1へ、比較例1〜5の結果を表2へ示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態を示す、制電性複合繊維の横断面模式図
【符号の説明】
【0046】
1:最外層
2:中間層
3:最内層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維の断面において、同心円状の三層構造を有する複合繊維であって、最外層はポリエステル系熱可塑性樹脂A、中間層がブロックポリエーテルアミドBを5〜50重量%含有するポリエステル系熱可塑性樹脂Cであり、最内層はポリエステル系熱可塑性樹脂Dからなり、繊維表面から中間層までの距離が0.3〜4.0μmであることを特徴とする制電性複合繊維。
【請求項2】
ポリエステル系熱可塑性樹脂A、C、Dが融点240℃以下のポリエステルであることを特徴とする、請求項1記載の制電性複合繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2008−81881(P2008−81881A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262682(P2006−262682)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】