前立腺及び他の癌の治療用の組成物及び方法
【課題】本発明は、熱ショックタンパク(hsp)27を標的とする治療用作用因子をイン・ビボで使用して、hsp27を過剰発現する前立腺癌及び他の癌に罹患している個体、特にヒト個体に対する治療をもたらすものである。
【解決手段】本発明によれば、治療用作用因子、例えば、hsp27 mRNA、例えばヒトhsp27 mRNAに配列特異性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド又はRNAiヌクレオチドインヒビターを、hsp27を高レベルに発現している前立腺癌又は他の一部の癌に罹患している個体に治療有効量で投与する。治療用作用因子を、製薬上許容される担体を含む薬剤組成物中に適切に配合し、単位剤形に包装する。好ましい単位剤形は、注射可能な単位剤形である。
【解決手段】本発明によれば、治療用作用因子、例えば、hsp27 mRNA、例えばヒトhsp27 mRNAに配列特異性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド又はRNAiヌクレオチドインヒビターを、hsp27を高レベルに発現している前立腺癌又は他の一部の癌に罹患している個体に治療有効量で投与する。治療用作用因子を、製薬上許容される担体を含む薬剤組成物中に適切に配合し、単位剤形に包装する。好ましい単位剤形は、注射可能な単位剤形である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2002年10月2日出願の米国仮出願第60/415,859号、及び2003年4月18日出願の米国仮出願第60/463,952号の特典を請求するものであり、これら両方を、そのような組み込みを許可する法律上の権限において、参照により本明細書に組み込む。
【0002】
本願は、疾患の発症の少なくとも一部の段階で正常組織と比べて高いレベルのhsp27を発現する前立腺癌及び他の癌の治療のための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
前立腺癌は、男性が罹患する最も一般的な癌であり、欧米世界において男性の癌による死亡の原因の第2位となっている。前立腺癌はアンドロゲン感受性腫瘍であるので、例えば去勢によるアンドロゲン分泌阻害が、進行性前立腺癌患者の治療法において使用されることがある。アンドロゲン分泌阻害によって前立腺癌に広範なアポトーシスが生じ、したがってこの疾患の退縮が生じる。しかし、去勢により誘導されるアポトーシスは完全ではなく、生き残っている細胞のアンドロゲン非依存性への進行が最終的に起こる。この進行が生存率及び生活の質(quality of life)の向上に対する主な障害であり、したがって、アンドロゲン非依存性細胞を標的とする努力が払われてきた。この努力は、アンドロゲン非依存性腫瘍細胞を標的とする非ホルモン療法に集中されてきた(非特許文献1及び非特許文献2)が、今までのところ生存率を向上させる非ホルモン性作用因子は存在しない。したがって代替手法を試みるべきであることが示唆される。
【0004】
アンドロゲン分泌阻害の後、前立腺腫瘍細胞によって多数のタンパクが多量に発現されることが観察されている。これらのタンパクの少なくとも一部は、アンドロゲン分泌阻害で観察される観察されたアポトーシス細胞死と関係することが想定される(非特許文献3、非特許文献4及び非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cancer 71(Supp.3):1098−1109(1993)
【非特許文献2】J.Urol.60:1220−1229(1998)
【非特許文献3】Cancer Res.:4448−4445(1995)
【非特許文献4】Am.J.Pathol.148:1567−1576(1996)
【非特許文献5】Cancer Res.52:6940−6944(1992)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱ショックタンパク(hsp)27を標的とする治療用作用因子をイン・ビボで使用して、hsp27を過剰発現する前立腺癌及び他の癌に罹患している個体、特にヒト個体に対する治療をもたらすものである。本発明によれば、治療用作用因子、例えば、hsp27 mRNA、例えばヒトhsp27 mRNAに配列特異性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド又はRNAiヌクレオチドインヒビターを、hsp27を高レベルに発現している前立腺癌又は他の一部の癌に罹患している個体に治療有効量で投与する。治療用作用因子を、製薬上許容される担体を含む薬剤組成物中に適切に配合し、単位剤形に包装する。好ましい単位剤形は、注射可能な単位剤形である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1A】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図1B】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図1C】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図1D】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図1E】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図1F】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図1G】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図2】PC3細胞中のhsp27発現におけるhsp27アンチセンスの効果を示す図である。
【図3A】hsp27アンチセンスで処置した後の腫瘍体積及び血清PSAを示す図である。
【図3B】hsp27アンチセンスで処置した後の腫瘍体積及び血清PSAを示す図である。
【図4A】タキソール入り及びなしでhsp27アンチセンスで処置した後の腫瘍体積の変化を示す図である。
【図4B】タキソール入り及びなしでhsp27アンチセンスで処置した後の腫瘍体積の変化を示す図である。
【図5】RNAiで処理後のhsp27 mRNAの低下を示す図である。
【図6A】RNAiで処理した後の発現hsp27タンパク量を示す図である。
【図6B】RNAiで処理した後の発現hsp27タンパク量を示す図である。
【図7A】前立腺癌細胞をアンチセンス及びRNAiで処理した結果を示す図である。
【図7B】前立腺癌細胞をアンチセンス及びRNAiで処理した結果を示す図である。
【図7C】前立腺癌細胞をアンチセンス及びRNAiで処理した結果を示す図である。
【図8】T24膀胱癌細胞でのhsp27発現を示す図である。
【図9】一連のNHTを行った組織中でのhsp27の免疫組織学的評価から決定したhsp27の免疫反応性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、活性型hsp27の有効量をイン・ビボで低下させる組成物に関する。本発明において有用な代表的組成物は、アンチセンスhsp27オリゴヌクレオチド又はRNAiヌクレオチドインヒビターである。本発明はさらに、hsp27を多量に発現する前立腺癌及び他の癌の治療におけるこれらの組成物の使用にも関する。
【0009】
本願の明細書及び特許請求の範囲において、「活性型hsp27」という用語は、ストレスがかかったときにタンパク構造を安定化させるシャペロンとして活性を有する、具体的には、アポトーシスの媒介物であるカスパーゼ3の活性を抑制するhsp27を指している。活性型hsp27レベルの低下は、hsp27の産生を制限すること、hsp27が産生されるより速い速度でそれを分解すること、hsp27を不活性型に転換する、例えば、抗hsp27抗体を用いるなどhsp27を不活性複合体中に隔離することのいずれかによってhsp27の総量を低下させることで達成することができる。
【0010】
本願の明細書及び特許請求の範囲において、治療され得る癌は、同じ組織型の非癌細胞と比べて多量にhsp27を発現するものである。代表的な癌には、それだけに限らないが、前立腺癌、膀胱癌、肺癌、乳癌、骨肉腫、膵癌、大腸癌、黒色腫、睾丸癌、結腸直腸癌、尿路上皮癌、腎細胞癌、肝細胞癌、白血病、リンパ腫及び卵巣癌並びに中枢神経系悪性腫瘍が含まれる。
【0011】
本願の明細書及び特許請求の範囲において、「配列特異性」という用語は、オリゴヌクレオチドと標的hsp27との間に細胞内条件下で特異的結合が生じるのに十分な、ワトソンクリック塩基対形成を用いた相補的関係が存在することを指している。完全に相補性があることが望ましいが、特に長いオリゴヌクレオチドを使用する場合、このことは必ずしも絶対的に必要ではない。
【0012】
ヒトhsp27 mRNAの配列は、例えばNCBI受託番号AB020027、X54079、NM_006308、NM_001540及びNM_001541から知られている。cDNA配列(配列番号91)は、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びRNAiヌクレオチドインヒビターを開発するための基礎をなす。アンチセンス及びRNAiに好ましい配列は、配列番号91中のヌクレオチド131〜161、241〜261、361〜371、551〜580、661〜681及び744〜764由来の領域中にある塩基群を標的とするものである。これらの領域内の塩基群を標的とするためには、アンチセンス分子又はRNAi分子は列挙した塩基群のうち少なくとも1個、好ましくは列挙した塩基群のうち少なくとも10個の塩基を含む領域との配列特異性を有していなければならない。
【0013】
適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、長さ12〜35塩基のオリゴヌクレオチドであり、hsp27 mRNA配列と配列特異性を有するものである。実際に作成し、活性型hsp27 mRNAの量を低下させることができるかどうか試験したアンチセンスオリゴヌクレオチドを、配列番号1〜82で示す。好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドは、hsp27 mRNAの5’−gggacgcggcgctcggtcat−3’(配列番号82)の配列を有するもの、並びに配列番号25、36、56、57、67、及び76の配列を有するものである。
【0014】
RNA干渉又は「RNAi」とは、二本鎖RNA(dsRNA)を線蠕虫(worm)に導入したとき、それによって遺伝子発現を遮断することができたという観察結果を記載したFire及びその共同研究者によって最初に作り出された用語である(Fireら(1998)Nature 391,806−811、これを参照により本明細書に組み込む)。dsRNAは、脊椎動物を含めた多くの生物中で遺伝子特異的転写後サイレンシングを起こすように指示し、遺伝子機能を研究するための新しい道具を提供してきた。RNAiはmRNA分解に関係するが、この干渉の根底にある生化学的機構の多くは知られていない。RNAiの使用は、Carthewら(2001)Current Opinions in Cell Biology 13,244−248及びElbashirら(2001)Nature 411,494−498にさらに記載されており、どちらの文献も参照により本明細書に組み込む。本発明のRNAi分子は、RNA阻害を媒介する約21〜23ヌクレオチドの二本鎖又は一本鎖RNAである。すなわち、本発明の単離RNAiは、hsp27遺伝子のmRNAの分解を媒介する。
【0015】
RNA、RNA分子(群)、RNAセグメント(群)、及びRNA断片(群)の用語を互換的に使用して、RNA干渉を媒介するRNAを指すことができる。これらの用語には、二本鎖RNA、一本鎖RNA、単離RNA(部分精製RNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換え体として産生されたRNA)、並びに1つ又は複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は改変により天然に存在するRNAと異なる改変RNAが含まれる。このような改変は、RNAの(両側の)末端又は内部(RNAの1つ又は複数のヌクレオチド)などに対する非ヌクレオチド物質の付加を含むことができる。本発明のRNA分子中にあるヌクレオチドは、天然に存在しないヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドを含めた標準的でないヌクレオチドを含むこともできる。このような改変RNAi化合物はすべて総称してアナログ、又は天然に存在するRNAのアナログと呼ばれる。本発明のRNAは、RNAiを媒介する能力を有する天然RNAに十分に類似しているだけでよい。本明細書においては、「RNAiを媒介する」という表現は、どのmRNAがRNAiの機構又は過程によって作用を受けるかを識別できることを指し示している。RNAiを媒介するRNAは、RNAiの機構と相互作用して、RNAiの機構に特定のmRNAを分解するよう又はその他の方法で標的タンパクの発現を低下させるよう指示する。一実施形態では、本発明は、配列が一致する特定のmRNAの切断を指示するRNA分子に関する。配列の完全な一致は不要であるが、そのRNAが、標的mRNAの切断又は発現欠如による、RNAiを用いた阻害を指示することができるのに十分なほど一致していなければならない。
【0016】
上記に示した通り、本発明のRNA分子は、一般にRNA部分及びある種の付加部分、例えばデオキシリボヌクレオチド部分を含む。RNA分子中のヌクレオチドの総数は、RNAiの有効な媒介物であるためには49個より少ないのが適切である。好ましいRNA分子中では、ヌクレオチド数は16〜29個であり、さらに好ましくは18〜23個であり、最も好ましくは21〜23個である。
【0017】
適切なRNAi分子のRNA部分を、配列番号83〜90で示す。これらの配列はセンスRNA鎖である。これらは、対応するアンチセンス鎖と組み合わせてRNAi治療に使用することができる。
【0018】
アンチセンス又はRNAi分子として使用するオリゴヌクレオチドを修飾して、イン・ビボでのそのオリゴヌクレオチドの安定性を増大させることができる。例えば、オリゴヌクレオチドを、ヌクレアーゼ消化に高い耐性を有するホスホチオエート誘導体(架橋していないホスホリル基の酸素原子を硫黄原子で置き換えたもの)の形で使用することができる。MOE修飾(ISIS主鎖)も有効である。
【0019】
そのままでの投与、及び製薬上許容される脂質担体中に含まれる形での投与を含め、当技術分野で知られている様々な機構を用いてアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与を実施することができる。例えば、アンチセンスの送達のための脂質担体は、米国特許第5,855,911号及び第5,417,978号において開示されており、これらを参照により本明細書に組み込む。一般に、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与又は経口経路による投与、或いは局所腫瘍に直接注射することによって、アンチセンスを投与する。
【0020】
投与するアンチセンスオリゴヌクレオチド又は他の治療用作用因子の量は、活性型hsp27の量を低下させるのに有効な量である。この量は、使用するアンチセンスオリゴヌクレオチド又は他の治療用作用因子が有効であるかどうかによっても、使用する任意の担体の性質によっても変わることが理解されるであろう。所与の任意の組成物について適切な量を決定することは、当分野の技術の範囲内であり、これは治療に適したレベルを評価するように設計された標準的な一連の試験により決定される。
【0021】
標的タンパクの発現を阻害することによって治療上の利益が得られるタイプの癌又は他の疾患に罹患しているヒト患者を含めた患者を治療する療法に、本発明のRNAi分子を使用する。経口的に、1種又は複数種の毎日の注射(静脈内、皮下、膀胱内、又は髄腔内)で、或いは連続静脈内投与又は連続髄腔内投与で、標的mRNA及びタンパクの制御に適した血漿及び組織濃度に達するまで1つ又は複数の治療サイクルの間、本発明のsiRNA分子を患者に投与する。
【0022】
前立腺癌は、後期癌において、特にアンドロゲン非依存性となる癌において、hsp27を過剰発現する癌の1つである。図9に、NHT(新補助ホルモン療法)を行った一連の組織中でhsp27を免疫組織学的に評価することから決定したhsp27の免疫反応性を示す。良性の試料では、免疫反応性は基底層に限定されている。新補助療法の持続期間が増大するほど、免疫反応性は増大し、アンドロゲン非依存性腫瘍が非常に強い反応性を示す。前立腺癌の治療については、最初のアンドロゲン分泌阻害の後に本発明の治療用組成物を投与するのが適切である。アンドロゲン分泌阻害の開始は、前立腺癌の治療で現在指示される外科的去勢(両方の睾丸の除去)又は内科的去勢(薬剤で誘導するテストステロン抑制)によって実施することができる。内科的去勢は、LHRH剤又は抗アンドロゲン物質を含めた様々な療法によって実施することができる(Gleaveら,CMAJ 160:225−232(1999))。可逆的アンドロゲン分泌阻害をもたらす断続的療法が、Gleaveら Eur.Urol.34(Supp.3):37−41(1998)に記載されている。
【0023】
hsp27発現の阻害は、一時的でよいこともあるが、前立腺癌の治療では、理想的にはアンドロゲン分泌阻害に一致して行なうべきである。このことは、ヒトにおいては、発現阻害をアンドロゲン分泌阻害(前又は後)の1日又は2日以内に始め、それを約3〜6ヶ月続けると有効であるはずであることを意味する。それには、達成するために多くの投与量が必要となる可能性がある。しかし、本発明の範囲を逸脱することなく、それを去勢前に始め、その後かなりの時間続けることで、その期間の終了をさらに延長することができることが理解されるであろう。
【0024】
本発明による前立腺癌を含めた癌を治療する方法は、化学療法剤及び/又は異なる標的を対象とする追加のアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与をさらに含むことができる。他の治療用作用因子の例としては、それだけに限らないが、タキサン類(パクリタキセル又はドセタキセル)、ミトキサントロン、並びにBcl−2、Bcl−xl又はc−mycを対象とするアンチセンスがある。アンチセンス又はRNAiを用いたhsp27の阻害を使用して、タキサン類又はゲムシタビン、並びに前立腺癌、乳癌、肺癌、尿路上皮癌及び他の癌の治療用の生物学的作用因子などの活性を増強することができる。
【0025】
本発明を、以下の非限定的な実施例に関して次にさらに記載する。
【実施例1】
【0026】
配列番号1〜81に定義した複数のアンチセンス化合物を調製し、各配列について、オリゴフェクタミン(Oligofectamine)担体中の50nMの特定のアンチセンスオリゴヌクレオチドにヒト前立腺癌PC3細胞をさらした後、ノーザンブロットによってその細胞のHsp27 mRNA発現のレベルを試験した。この試験の結果を、配列番号1〜81についてオリゴフェクタミンのみの対照に対する百分率として、図1A〜Gに示す。そこに示すように、すべてのアンチセンス配列が有効であるわけではないが、有効なアンチセンス配列は、hsp27 mRNAの全体にわたって見られる。
【実施例2】
【0027】
PC3前立腺癌細胞に、40%コンフルエント時に10cmディッシュ中でオリゴフェクタミン担体を用いて6種類の異なるhsp27アンチセンスオリゴヌクレオチドを3種類の濃度(10、30及び50nM)で2回連続してトランスフェクトした。RNAを最初の処理の48時間後に抽出し、ノーザンブロットで分析した。試験したアンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号67、57、25、76、56及び36を含むものであった。対照として、乱雑な(scrambled)配列のオリゴヌクレオチド及びオリゴフェクタミンのみの実験を行った。試験したすべてのオリゴヌクレオチドが、少なくとも1種類の濃度で対照群と比べてhsp27の下方制御を示した。図2に、その結果をGAPDH対照と対比してグラフに示す。
【実施例3】
【0028】
LNCaP前立腺癌細胞の異種移植片をマウスに導入し、去勢によるアンドロゲン分泌阻害後、10mg/kgで1日1回4週間腹腔内投与したhsp27アンチセンスオリゴヌクレオチド(配列番号82)の腹腔内注射の効果を評価した。図3A及び3Bに示すように、腫瘍体積及び血清PSAは、乱雑な配列の対照で処置した後数週間で増大した。このことから、アンドロゲン非依存性が進行し、それによって去勢療法の効力が消失したことが示唆される。それに対して、hsp27アンチセンスオリゴヌクレオチドで処置したとき同じ時点でこのアンドロゲン非依存性への進行は観察されなかった。
【実施例4】
【0029】
PC3前立腺癌細胞の異種移植片をマウスに導入し、タキソール入り及びなしで10mg/kgで1日1回4週間腹腔内投与したhsp27アンチセンスオリゴヌクレオチド(配列番号82)の腹腔内注射の効果を評価した。図4A及び4Bに示すように、腫瘍体積は、hsp27アンチセンスを用いた処置によって、乱雑な配列のオリゴヌクレオチドと比べて有意に低下した。この効果は、タキソール処置をアンチセンス処置と組み合わせたとき増強された。図4Aは、単一の作用因子による抗腫瘍活性を示しており、一方、図4Bは、hsp27アンチセンスを投与すると、イン・ビボでパクリタキセルに対する細胞の感受性を高めることができることを示している。図4Bにおける対照は、乱雑配列+タキソールである。
【実施例5】
【0030】
配列番号84、85、87、88及び90の配列を有するRNAi分子を、PC3細胞中で試験した。
PC細胞に、様々な量のhsp27 siRNA又は乱雑配列の対照をトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、全RNAを抽出し、ノーザンブロッティングによりhsp27及び28Sレベルについて分析した。オリゴフェクタミンのみで処理した細胞を追加の対照として使用した。図5は、28S mRNA対照で標準化した後のhsp27 mRNAのデンシトメトリーによる測定結果を示す。そこに示すように、配列番号84、85、87、88及び90はすべて、乱雑配列の対照と比べてhsp27発現を有意に低下させる効果が高い。
【実施例6】
【0031】
配列番号84の配列を有するRNAi分子をPC3細胞にトランスフェクトし、発現したhsp27タンパクの量を、ビンキュリン発現と比較して決定した。その結果を図6A及び6Bに示す。そこに示すように、hsp27発現における量依存的低下がRNAi分子で処理した後に観察された。
【実施例7】
【0032】
LNCaP細胞(1ウェル当たり104個の細胞、12穴プレート中で培養)に、イン・ビトロで配列番号84の配列を有する1nMのRNAi分子をトランスフェクトした。クリスタルバイオレット法を用いて細胞増殖をモニターした。図7Aに示すように、RNAiで処理すると、オリゴフェクタミンのみ又は乱雑配列の対照の処理に比べて細胞増殖が低下した。この実験を、PC3細胞を用いて反復した。図7Bは、トランスフェクションの3日後における生存細胞の%を示す。図7Cは、配列番号82のhsp27アンチセンスを用いて処理した後、イン・ビトロでPC3細胞の増殖が抑制されたことを示す。
【実施例8】
【0033】
hsp27アンチセンス(配列番号82)又はRNAi(配列番号84)分子をトランスフェクトしたヒト膀胱癌T24細胞を、hsp27発現について試験した。図8に示すように、RNAi及びアンチセンス分子はどちらも、この細胞中で発現hsp27量を低下させる効果があった。
【技術分野】
【0001】
本願は、2002年10月2日出願の米国仮出願第60/415,859号、及び2003年4月18日出願の米国仮出願第60/463,952号の特典を請求するものであり、これら両方を、そのような組み込みを許可する法律上の権限において、参照により本明細書に組み込む。
【0002】
本願は、疾患の発症の少なくとも一部の段階で正常組織と比べて高いレベルのhsp27を発現する前立腺癌及び他の癌の治療のための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
前立腺癌は、男性が罹患する最も一般的な癌であり、欧米世界において男性の癌による死亡の原因の第2位となっている。前立腺癌はアンドロゲン感受性腫瘍であるので、例えば去勢によるアンドロゲン分泌阻害が、進行性前立腺癌患者の治療法において使用されることがある。アンドロゲン分泌阻害によって前立腺癌に広範なアポトーシスが生じ、したがってこの疾患の退縮が生じる。しかし、去勢により誘導されるアポトーシスは完全ではなく、生き残っている細胞のアンドロゲン非依存性への進行が最終的に起こる。この進行が生存率及び生活の質(quality of life)の向上に対する主な障害であり、したがって、アンドロゲン非依存性細胞を標的とする努力が払われてきた。この努力は、アンドロゲン非依存性腫瘍細胞を標的とする非ホルモン療法に集中されてきた(非特許文献1及び非特許文献2)が、今までのところ生存率を向上させる非ホルモン性作用因子は存在しない。したがって代替手法を試みるべきであることが示唆される。
【0004】
アンドロゲン分泌阻害の後、前立腺腫瘍細胞によって多数のタンパクが多量に発現されることが観察されている。これらのタンパクの少なくとも一部は、アンドロゲン分泌阻害で観察される観察されたアポトーシス細胞死と関係することが想定される(非特許文献3、非特許文献4及び非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cancer 71(Supp.3):1098−1109(1993)
【非特許文献2】J.Urol.60:1220−1229(1998)
【非特許文献3】Cancer Res.:4448−4445(1995)
【非特許文献4】Am.J.Pathol.148:1567−1576(1996)
【非特許文献5】Cancer Res.52:6940−6944(1992)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱ショックタンパク(hsp)27を標的とする治療用作用因子をイン・ビボで使用して、hsp27を過剰発現する前立腺癌及び他の癌に罹患している個体、特にヒト個体に対する治療をもたらすものである。本発明によれば、治療用作用因子、例えば、hsp27 mRNA、例えばヒトhsp27 mRNAに配列特異性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド又はRNAiヌクレオチドインヒビターを、hsp27を高レベルに発現している前立腺癌又は他の一部の癌に罹患している個体に治療有効量で投与する。治療用作用因子を、製薬上許容される担体を含む薬剤組成物中に適切に配合し、単位剤形に包装する。好ましい単位剤形は、注射可能な単位剤形である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1A】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図1B】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図1C】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図1D】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図1E】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図1F】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図1G】配列番号1〜81のアンチセンスオリゴヌクレオチドにさらされた細胞でのmRNA発現試験の結果を示す図である。
【図2】PC3細胞中のhsp27発現におけるhsp27アンチセンスの効果を示す図である。
【図3A】hsp27アンチセンスで処置した後の腫瘍体積及び血清PSAを示す図である。
【図3B】hsp27アンチセンスで処置した後の腫瘍体積及び血清PSAを示す図である。
【図4A】タキソール入り及びなしでhsp27アンチセンスで処置した後の腫瘍体積の変化を示す図である。
【図4B】タキソール入り及びなしでhsp27アンチセンスで処置した後の腫瘍体積の変化を示す図である。
【図5】RNAiで処理後のhsp27 mRNAの低下を示す図である。
【図6A】RNAiで処理した後の発現hsp27タンパク量を示す図である。
【図6B】RNAiで処理した後の発現hsp27タンパク量を示す図である。
【図7A】前立腺癌細胞をアンチセンス及びRNAiで処理した結果を示す図である。
【図7B】前立腺癌細胞をアンチセンス及びRNAiで処理した結果を示す図である。
【図7C】前立腺癌細胞をアンチセンス及びRNAiで処理した結果を示す図である。
【図8】T24膀胱癌細胞でのhsp27発現を示す図である。
【図9】一連のNHTを行った組織中でのhsp27の免疫組織学的評価から決定したhsp27の免疫反応性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、活性型hsp27の有効量をイン・ビボで低下させる組成物に関する。本発明において有用な代表的組成物は、アンチセンスhsp27オリゴヌクレオチド又はRNAiヌクレオチドインヒビターである。本発明はさらに、hsp27を多量に発現する前立腺癌及び他の癌の治療におけるこれらの組成物の使用にも関する。
【0009】
本願の明細書及び特許請求の範囲において、「活性型hsp27」という用語は、ストレスがかかったときにタンパク構造を安定化させるシャペロンとして活性を有する、具体的には、アポトーシスの媒介物であるカスパーゼ3の活性を抑制するhsp27を指している。活性型hsp27レベルの低下は、hsp27の産生を制限すること、hsp27が産生されるより速い速度でそれを分解すること、hsp27を不活性型に転換する、例えば、抗hsp27抗体を用いるなどhsp27を不活性複合体中に隔離することのいずれかによってhsp27の総量を低下させることで達成することができる。
【0010】
本願の明細書及び特許請求の範囲において、治療され得る癌は、同じ組織型の非癌細胞と比べて多量にhsp27を発現するものである。代表的な癌には、それだけに限らないが、前立腺癌、膀胱癌、肺癌、乳癌、骨肉腫、膵癌、大腸癌、黒色腫、睾丸癌、結腸直腸癌、尿路上皮癌、腎細胞癌、肝細胞癌、白血病、リンパ腫及び卵巣癌並びに中枢神経系悪性腫瘍が含まれる。
【0011】
本願の明細書及び特許請求の範囲において、「配列特異性」という用語は、オリゴヌクレオチドと標的hsp27との間に細胞内条件下で特異的結合が生じるのに十分な、ワトソンクリック塩基対形成を用いた相補的関係が存在することを指している。完全に相補性があることが望ましいが、特に長いオリゴヌクレオチドを使用する場合、このことは必ずしも絶対的に必要ではない。
【0012】
ヒトhsp27 mRNAの配列は、例えばNCBI受託番号AB020027、X54079、NM_006308、NM_001540及びNM_001541から知られている。cDNA配列(配列番号91)は、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びRNAiヌクレオチドインヒビターを開発するための基礎をなす。アンチセンス及びRNAiに好ましい配列は、配列番号91中のヌクレオチド131〜161、241〜261、361〜371、551〜580、661〜681及び744〜764由来の領域中にある塩基群を標的とするものである。これらの領域内の塩基群を標的とするためには、アンチセンス分子又はRNAi分子は列挙した塩基群のうち少なくとも1個、好ましくは列挙した塩基群のうち少なくとも10個の塩基を含む領域との配列特異性を有していなければならない。
【0013】
適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、長さ12〜35塩基のオリゴヌクレオチドであり、hsp27 mRNA配列と配列特異性を有するものである。実際に作成し、活性型hsp27 mRNAの量を低下させることができるかどうか試験したアンチセンスオリゴヌクレオチドを、配列番号1〜82で示す。好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドは、hsp27 mRNAの5’−gggacgcggcgctcggtcat−3’(配列番号82)の配列を有するもの、並びに配列番号25、36、56、57、67、及び76の配列を有するものである。
【0014】
RNA干渉又は「RNAi」とは、二本鎖RNA(dsRNA)を線蠕虫(worm)に導入したとき、それによって遺伝子発現を遮断することができたという観察結果を記載したFire及びその共同研究者によって最初に作り出された用語である(Fireら(1998)Nature 391,806−811、これを参照により本明細書に組み込む)。dsRNAは、脊椎動物を含めた多くの生物中で遺伝子特異的転写後サイレンシングを起こすように指示し、遺伝子機能を研究するための新しい道具を提供してきた。RNAiはmRNA分解に関係するが、この干渉の根底にある生化学的機構の多くは知られていない。RNAiの使用は、Carthewら(2001)Current Opinions in Cell Biology 13,244−248及びElbashirら(2001)Nature 411,494−498にさらに記載されており、どちらの文献も参照により本明細書に組み込む。本発明のRNAi分子は、RNA阻害を媒介する約21〜23ヌクレオチドの二本鎖又は一本鎖RNAである。すなわち、本発明の単離RNAiは、hsp27遺伝子のmRNAの分解を媒介する。
【0015】
RNA、RNA分子(群)、RNAセグメント(群)、及びRNA断片(群)の用語を互換的に使用して、RNA干渉を媒介するRNAを指すことができる。これらの用語には、二本鎖RNA、一本鎖RNA、単離RNA(部分精製RNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換え体として産生されたRNA)、並びに1つ又は複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は改変により天然に存在するRNAと異なる改変RNAが含まれる。このような改変は、RNAの(両側の)末端又は内部(RNAの1つ又は複数のヌクレオチド)などに対する非ヌクレオチド物質の付加を含むことができる。本発明のRNA分子中にあるヌクレオチドは、天然に存在しないヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドを含めた標準的でないヌクレオチドを含むこともできる。このような改変RNAi化合物はすべて総称してアナログ、又は天然に存在するRNAのアナログと呼ばれる。本発明のRNAは、RNAiを媒介する能力を有する天然RNAに十分に類似しているだけでよい。本明細書においては、「RNAiを媒介する」という表現は、どのmRNAがRNAiの機構又は過程によって作用を受けるかを識別できることを指し示している。RNAiを媒介するRNAは、RNAiの機構と相互作用して、RNAiの機構に特定のmRNAを分解するよう又はその他の方法で標的タンパクの発現を低下させるよう指示する。一実施形態では、本発明は、配列が一致する特定のmRNAの切断を指示するRNA分子に関する。配列の完全な一致は不要であるが、そのRNAが、標的mRNAの切断又は発現欠如による、RNAiを用いた阻害を指示することができるのに十分なほど一致していなければならない。
【0016】
上記に示した通り、本発明のRNA分子は、一般にRNA部分及びある種の付加部分、例えばデオキシリボヌクレオチド部分を含む。RNA分子中のヌクレオチドの総数は、RNAiの有効な媒介物であるためには49個より少ないのが適切である。好ましいRNA分子中では、ヌクレオチド数は16〜29個であり、さらに好ましくは18〜23個であり、最も好ましくは21〜23個である。
【0017】
適切なRNAi分子のRNA部分を、配列番号83〜90で示す。これらの配列はセンスRNA鎖である。これらは、対応するアンチセンス鎖と組み合わせてRNAi治療に使用することができる。
【0018】
アンチセンス又はRNAi分子として使用するオリゴヌクレオチドを修飾して、イン・ビボでのそのオリゴヌクレオチドの安定性を増大させることができる。例えば、オリゴヌクレオチドを、ヌクレアーゼ消化に高い耐性を有するホスホチオエート誘導体(架橋していないホスホリル基の酸素原子を硫黄原子で置き換えたもの)の形で使用することができる。MOE修飾(ISIS主鎖)も有効である。
【0019】
そのままでの投与、及び製薬上許容される脂質担体中に含まれる形での投与を含め、当技術分野で知られている様々な機構を用いてアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与を実施することができる。例えば、アンチセンスの送達のための脂質担体は、米国特許第5,855,911号及び第5,417,978号において開示されており、これらを参照により本明細書に組み込む。一般に、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与又は経口経路による投与、或いは局所腫瘍に直接注射することによって、アンチセンスを投与する。
【0020】
投与するアンチセンスオリゴヌクレオチド又は他の治療用作用因子の量は、活性型hsp27の量を低下させるのに有効な量である。この量は、使用するアンチセンスオリゴヌクレオチド又は他の治療用作用因子が有効であるかどうかによっても、使用する任意の担体の性質によっても変わることが理解されるであろう。所与の任意の組成物について適切な量を決定することは、当分野の技術の範囲内であり、これは治療に適したレベルを評価するように設計された標準的な一連の試験により決定される。
【0021】
標的タンパクの発現を阻害することによって治療上の利益が得られるタイプの癌又は他の疾患に罹患しているヒト患者を含めた患者を治療する療法に、本発明のRNAi分子を使用する。経口的に、1種又は複数種の毎日の注射(静脈内、皮下、膀胱内、又は髄腔内)で、或いは連続静脈内投与又は連続髄腔内投与で、標的mRNA及びタンパクの制御に適した血漿及び組織濃度に達するまで1つ又は複数の治療サイクルの間、本発明のsiRNA分子を患者に投与する。
【0022】
前立腺癌は、後期癌において、特にアンドロゲン非依存性となる癌において、hsp27を過剰発現する癌の1つである。図9に、NHT(新補助ホルモン療法)を行った一連の組織中でhsp27を免疫組織学的に評価することから決定したhsp27の免疫反応性を示す。良性の試料では、免疫反応性は基底層に限定されている。新補助療法の持続期間が増大するほど、免疫反応性は増大し、アンドロゲン非依存性腫瘍が非常に強い反応性を示す。前立腺癌の治療については、最初のアンドロゲン分泌阻害の後に本発明の治療用組成物を投与するのが適切である。アンドロゲン分泌阻害の開始は、前立腺癌の治療で現在指示される外科的去勢(両方の睾丸の除去)又は内科的去勢(薬剤で誘導するテストステロン抑制)によって実施することができる。内科的去勢は、LHRH剤又は抗アンドロゲン物質を含めた様々な療法によって実施することができる(Gleaveら,CMAJ 160:225−232(1999))。可逆的アンドロゲン分泌阻害をもたらす断続的療法が、Gleaveら Eur.Urol.34(Supp.3):37−41(1998)に記載されている。
【0023】
hsp27発現の阻害は、一時的でよいこともあるが、前立腺癌の治療では、理想的にはアンドロゲン分泌阻害に一致して行なうべきである。このことは、ヒトにおいては、発現阻害をアンドロゲン分泌阻害(前又は後)の1日又は2日以内に始め、それを約3〜6ヶ月続けると有効であるはずであることを意味する。それには、達成するために多くの投与量が必要となる可能性がある。しかし、本発明の範囲を逸脱することなく、それを去勢前に始め、その後かなりの時間続けることで、その期間の終了をさらに延長することができることが理解されるであろう。
【0024】
本発明による前立腺癌を含めた癌を治療する方法は、化学療法剤及び/又は異なる標的を対象とする追加のアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与をさらに含むことができる。他の治療用作用因子の例としては、それだけに限らないが、タキサン類(パクリタキセル又はドセタキセル)、ミトキサントロン、並びにBcl−2、Bcl−xl又はc−mycを対象とするアンチセンスがある。アンチセンス又はRNAiを用いたhsp27の阻害を使用して、タキサン類又はゲムシタビン、並びに前立腺癌、乳癌、肺癌、尿路上皮癌及び他の癌の治療用の生物学的作用因子などの活性を増強することができる。
【0025】
本発明を、以下の非限定的な実施例に関して次にさらに記載する。
【実施例1】
【0026】
配列番号1〜81に定義した複数のアンチセンス化合物を調製し、各配列について、オリゴフェクタミン(Oligofectamine)担体中の50nMの特定のアンチセンスオリゴヌクレオチドにヒト前立腺癌PC3細胞をさらした後、ノーザンブロットによってその細胞のHsp27 mRNA発現のレベルを試験した。この試験の結果を、配列番号1〜81についてオリゴフェクタミンのみの対照に対する百分率として、図1A〜Gに示す。そこに示すように、すべてのアンチセンス配列が有効であるわけではないが、有効なアンチセンス配列は、hsp27 mRNAの全体にわたって見られる。
【実施例2】
【0027】
PC3前立腺癌細胞に、40%コンフルエント時に10cmディッシュ中でオリゴフェクタミン担体を用いて6種類の異なるhsp27アンチセンスオリゴヌクレオチドを3種類の濃度(10、30及び50nM)で2回連続してトランスフェクトした。RNAを最初の処理の48時間後に抽出し、ノーザンブロットで分析した。試験したアンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号67、57、25、76、56及び36を含むものであった。対照として、乱雑な(scrambled)配列のオリゴヌクレオチド及びオリゴフェクタミンのみの実験を行った。試験したすべてのオリゴヌクレオチドが、少なくとも1種類の濃度で対照群と比べてhsp27の下方制御を示した。図2に、その結果をGAPDH対照と対比してグラフに示す。
【実施例3】
【0028】
LNCaP前立腺癌細胞の異種移植片をマウスに導入し、去勢によるアンドロゲン分泌阻害後、10mg/kgで1日1回4週間腹腔内投与したhsp27アンチセンスオリゴヌクレオチド(配列番号82)の腹腔内注射の効果を評価した。図3A及び3Bに示すように、腫瘍体積及び血清PSAは、乱雑な配列の対照で処置した後数週間で増大した。このことから、アンドロゲン非依存性が進行し、それによって去勢療法の効力が消失したことが示唆される。それに対して、hsp27アンチセンスオリゴヌクレオチドで処置したとき同じ時点でこのアンドロゲン非依存性への進行は観察されなかった。
【実施例4】
【0029】
PC3前立腺癌細胞の異種移植片をマウスに導入し、タキソール入り及びなしで10mg/kgで1日1回4週間腹腔内投与したhsp27アンチセンスオリゴヌクレオチド(配列番号82)の腹腔内注射の効果を評価した。図4A及び4Bに示すように、腫瘍体積は、hsp27アンチセンスを用いた処置によって、乱雑な配列のオリゴヌクレオチドと比べて有意に低下した。この効果は、タキソール処置をアンチセンス処置と組み合わせたとき増強された。図4Aは、単一の作用因子による抗腫瘍活性を示しており、一方、図4Bは、hsp27アンチセンスを投与すると、イン・ビボでパクリタキセルに対する細胞の感受性を高めることができることを示している。図4Bにおける対照は、乱雑配列+タキソールである。
【実施例5】
【0030】
配列番号84、85、87、88及び90の配列を有するRNAi分子を、PC3細胞中で試験した。
PC細胞に、様々な量のhsp27 siRNA又は乱雑配列の対照をトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、全RNAを抽出し、ノーザンブロッティングによりhsp27及び28Sレベルについて分析した。オリゴフェクタミンのみで処理した細胞を追加の対照として使用した。図5は、28S mRNA対照で標準化した後のhsp27 mRNAのデンシトメトリーによる測定結果を示す。そこに示すように、配列番号84、85、87、88及び90はすべて、乱雑配列の対照と比べてhsp27発現を有意に低下させる効果が高い。
【実施例6】
【0031】
配列番号84の配列を有するRNAi分子をPC3細胞にトランスフェクトし、発現したhsp27タンパクの量を、ビンキュリン発現と比較して決定した。その結果を図6A及び6Bに示す。そこに示すように、hsp27発現における量依存的低下がRNAi分子で処理した後に観察された。
【実施例7】
【0032】
LNCaP細胞(1ウェル当たり104個の細胞、12穴プレート中で培養)に、イン・ビトロで配列番号84の配列を有する1nMのRNAi分子をトランスフェクトした。クリスタルバイオレット法を用いて細胞増殖をモニターした。図7Aに示すように、RNAiで処理すると、オリゴフェクタミンのみ又は乱雑配列の対照の処理に比べて細胞増殖が低下した。この実験を、PC3細胞を用いて反復した。図7Bは、トランスフェクションの3日後における生存細胞の%を示す。図7Cは、配列番号82のhsp27アンチセンスを用いて処理した後、イン・ビトロでPC3細胞の増殖が抑制されたことを示す。
【実施例8】
【0033】
hsp27アンチセンス(配列番号82)又はRNAi(配列番号84)分子をトランスフェクトしたヒト膀胱癌T24細胞を、hsp27発現について試験した。図8に示すように、RNAi及びアンチセンス分子はどちらも、この細胞中で発現hsp27量を低下させる効果があった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号91の一部分と相補性があり、配列番号25、36、56、57、67、76及び82からなる群から選ばれる1つのアンチセンスオリゴヌクレオチド、または配列番号84の配列からなる1本鎖もしくは2本鎖siRNAである治療用作用因子であって、該治療用作用因子にさらされたhsp27発現細胞中で活性型hsp27の量を低下させるのに有効な治療用作用因子を含む組成物。
【請求項2】
前記治療用作用因子が、アンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが配列番号82の配列からなる、請求項2の組成物。
【請求項4】
前記治療用作用因子が、配列番号84の配列からなる1本鎖もしくは2本鎖siRNAである、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドもしくはsiRNAがイン・ビボでのヌクレアーゼ消化に対する耐性をもたらす主鎖修飾を有する、請求項1−4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
癌の治療のために使用する、請求項1−5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記癌が、前立腺癌、膀胱癌、肺癌、乳癌、膵癌、大腸癌、皮膚癌(例えば黒色腫)、腎癌又は卵巣癌或いは中枢神経系悪性腫瘍である、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
請求項1−7のいずれかに記載の組成物と、注射可能な単位剤形にパッケージされた薬剤として許容される担体を含む薬剤組成物。
【請求項1】
配列番号91の一部分と相補性があり、配列番号25、36、56、57、67、76及び82からなる群から選ばれる1つのアンチセンスオリゴヌクレオチド、または配列番号84の配列からなる1本鎖もしくは2本鎖siRNAである治療用作用因子であって、該治療用作用因子にさらされたhsp27発現細胞中で活性型hsp27の量を低下させるのに有効な治療用作用因子を含む組成物。
【請求項2】
前記治療用作用因子が、アンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが配列番号82の配列からなる、請求項2の組成物。
【請求項4】
前記治療用作用因子が、配列番号84の配列からなる1本鎖もしくは2本鎖siRNAである、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドもしくはsiRNAがイン・ビボでのヌクレアーゼ消化に対する耐性をもたらす主鎖修飾を有する、請求項1−4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
癌の治療のために使用する、請求項1−5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記癌が、前立腺癌、膀胱癌、肺癌、乳癌、膵癌、大腸癌、皮膚癌(例えば黒色腫)、腎癌又は卵巣癌或いは中枢神経系悪性腫瘍である、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
請求項1−7のいずれかに記載の組成物と、注射可能な単位剤形にパッケージされた薬剤として許容される担体を含む薬剤組成物。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2010−215669(P2010−215669A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155315(P2010−155315)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【分割の表示】特願2005−500014(P2005−500014)の分割
【原出願日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【出願人】(503265094)ザ ユニバーシティ オブ ブリティッシュ コロンビア (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【分割の表示】特願2005−500014(P2005−500014)の分割
【原出願日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【出願人】(503265094)ザ ユニバーシティ オブ ブリティッシュ コロンビア (17)
【Fターム(参考)】
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