説明

前駆体及び発泡金属成形体、並びにそれらの製造方法

【課題】微細なセル組織を均一に有し、凹部等の表面欠陥の発生を防ぎ、且つ機械的特性等の物性や品質の再現性が安定した発泡金属成形体を製造可能な前駆体を提供する。
【解決手段】本発明に係る前駆体は、母材となる金属粉末と発泡剤粉末とを混合した混合粉末を圧粉成形することにより得られる発泡金属成形体の前駆体であって、前記発泡剤粉末が炭酸塩系発泡剤粉末であり、前記金属粉末以外に前記前駆体に添加される添加粒子の平均粒径dが1μm以上20μm以下であり、前記添加粒子の体積分率fが0.003以上0.100以下であり、前記前駆体内部に存在する水素成分の成分量Xが60ppm以下であることに特徴を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末と発泡剤粉末とを混合した混合粉末を圧粉成形することにより得られる前駆体、及び同前駆体を発泡成形することにより得られ、母材中に微細な気泡(セル)を有する発泡金属成形体、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡金属は、金属からなる母材中に無数の気泡が形成された多孔質体であり、この発泡金属の成形体は、現在、各種構造材料、衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収材、吸音材(遮音材)、触媒担体等として様々な分野で利用されつつある。また一般に、発泡金属の母材としては、アルミニウム、マグネシウム、チタン、亜鉛、鉄、錫、鉛又はこれらを含む合金が提案されており、その中でも軽量化と高強度が図れるアルミニウム又はアルミニウムを含有する合金が多く用いられている。
【0003】
このような発泡金属成形体を製造する方法の一例が、特許第2898437号公報(特許文献1)や特許第3805694号公報(特許文献2)に記載されている。
前記特許文献1に記載されている発泡金属成形体の製造方法は、アルミニウム等の金属粉末と、水素化金属、炭酸塩、硫酸、水酸化物、有機物質の粉末等の発泡剤粉末(精錬材粉末)とを混合して混合粉末を調製し、その得られた混合粉末を熱間圧粉して前駆体(圧粉体)を作製する。その後、この前駆体を発泡剤粉末の分解温度以上の温度に加熱することによって発泡金属成形体が製造されている。
【0004】
一方、前記特許文献2に記載されている発泡金属成形体の製造方法は、アルミニウム又はマグネシウムの金属をルツボに投入して加熱することにより同金属を溶解する。次に、その溶湯を攪拌手段で攪拌しつつ、同溶湯に粘度調整剤を投入して粘度を調整し、更に、同溶湯に適量の炭酸塩系発泡剤を投入する。これにより、炭酸塩系発泡剤が分解してガスが発生し、溶湯の容積が増加する。その後、溶湯を冷却することによって、発泡金属成形体が製造されている。
【0005】
特に、この特許文献2の製造方法によれば、炭酸塩系発泡剤として、炭酸塩系化合物の粉末をフッ化物でコーティングした発泡剤を採用することにより、アルミニウム又はマグネシウムを覆う酸化膜がフッ化物によって破壊される。これにより、アルミニウム又はマグネシウムに対する発泡剤のぬれ性が高まり、発泡性が高められる。また、特許文献2では、炭酸塩系化合物から発生する二酸化炭素ガスにより、気泡と母材との境界に酸化アルミニウム又は酸化マグネシウムからなる殻が生成され、この生成した殻によって発泡金属成形体の強度を高めることができるとされている。
【特許文献1】特許第2898437号公報
【特許文献2】特許第3805694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載されているような金属粉末と発泡剤粉末との混合物を熱間圧粉して前駆体を作製し、同前駆体を加熱して発泡成形させる発泡金属成形体の製造方法は、現在のところ、前記特許文献2に記載されているような溶湯に発泡剤を添加して発泡させる方法に比べて生産性が低く、経済的や技術的な面で大きな課題が残されているため、未だ開発段階にあり、実用化されていないのが実情である。
【0007】
例えば前記特許文献1において、発泡剤として炭酸塩系発泡剤を用いる場合には、分解温度が比較的低い炭酸水素ナトリウムを用いて発泡アルミニウムを製造する例のみしか具体的に説明されておらず、炭酸水素ナトリウムよりも分解温度が高い炭酸カルシウムや炭酸ナトリウム等のその他の炭酸塩系発泡剤については、発泡剤として単に利用できる可能性がある材料として示されているに過ぎない。このため、このような分解温度が高い炭酸塩系発泡剤を用いて実際に発泡成形を行う場合には不確定な要素が多く、研究等を重ねて実用化が可能な具体的な条件等を明確にしていく必要があった。
【0008】
また実際に、発泡剤として炭酸水素ナトリウム粉末を用いて前駆体を作製し、同前駆体を加熱して発泡させることにより発泡金属成形体を製造した場合、得られた発泡金属成形体には、大きなサイズのセルが不均一に形成されてしまい、微細なセル組織が得られなかった。このように成形体内に大きなセルが不均一に形成されていると、成形体の機械的強度やエネルギー吸収特性等の低下を招き、また、成形体表面に大きなセルが表出して凹部等の表面欠陥が発生し、表面性状の悪化を招くという不具合もあった。
【0009】
更に、例えば炭酸水素ナトリウム以外の炭酸塩系発泡剤として、炭酸カルシウムや炭酸ナトリウムの粉末を用いて前駆体を作製し、同前駆体を発泡成形することにより発泡金属成形体を製造した場合、得られた発泡金属成形体には、大小のサイズが異なるセルが不規則に形成されていた。このように異なるサイズのセルが不規則に形成された発泡金属成形体は、成形体毎の品質に斑が生じ易く、特に機械的特性の再現性に劣るという問題があった。
【0010】
一方、前記特許文献2によれば、攪拌している溶湯中にフッ化物でコーティングした炭酸塩系発泡剤を投入することにより、発泡性が高く且つ強度の大きな発泡金属成形体が得られると記載されている。しかしながら、このような溶湯に発泡剤を投入する方法では、発泡剤の投入後に十分な攪拌時間を確保しようとすると、発泡剤の分解によるガスの発生が終了し、成形体内に形成されるセルが減少する。このため、攪拌時間をできる限り短く設定しなければならず、発泡剤を完全に均一に分散させることが極めて困難である。
【0011】
また、特許文献2では、攪拌している溶湯中に発泡剤を投入することから、発泡剤の分散と同時に、発泡剤の分解によりガスが発生する。このため、溶湯の攪拌中にセルの合体や成長が起こり、セルの粗大化を招く。このような粗大なセルを不均一に有する発泡金属成形体も、前述と同様に、成形体毎の品質に斑が生じ易く、特に機械的特性の再現性に劣るという問題があった。その上、得られた成形体の表面に大きなセルが形成された場合に、凹部等の表面欠陥が発生して表面性状の悪化を招くとともに、例えば板厚が0.5〜2mm程度の薄肉成形体の製造が困難になるといった問題もあった。
【0012】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、微細なセル組織を均一に有し、凹部等の表面欠陥の発生を防ぎ、且つ機械的特性等の物性や品質の再現性が安定した発泡金属成形体を製造可能な前駆体及びその発泡金属成形体、並びにそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明により提供される前駆体は、基本的な構成として、母材となる金属粉末と発泡剤粉末とを混合した混合粉末を圧粉成形することにより得られる発泡金属成形体の前駆体であって、前記発泡剤粉末が炭酸塩系発泡剤粉末であり、前記金属粉末以外に前記前駆体に添加される添加粒子の平均粒径dが1μm以上20μm以下であり、前記添加粒子の体積分率fが0.003以上0.100以下であり、前記前駆体内部に存在する水素成分の成分量Xが60ppm以下であることを最も主要な特徴とするものである。
【0014】
特に、本発明に係る前駆体において、前記水素成分量Xと、前記平均粒径d及び前記体積分率fを用いて下記(A)式により表される前記前駆体における前記添加粒子の平均粒子間距離λとが下記(B)式を満足していることが好ましい。
λ=2d(1/f−1)/3 ・・・(A)、
15X+λ≦900 ・・・(B)。
この場合、前記水素成分量Xが10ppm以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の前駆体において、前記金属粉末はアルミニウム粉末又はアルミニウムを含有する合金粉末であることが好ましく、前記炭酸塩系発泡剤粉末は、CaCO3、CaMg(CO32、及びMgCO3から選択された少なくとも1つであることが好ましい。
【0016】
次に、本発明によれば、前述の構成を有する前駆体を加熱して発泡成形させた発泡金属成形体が提供される。
この場合、前記発泡金属成形体を任意の面で切断したときに、その切断面に表出する全てのセルの面積の合計値に対する、セル直径が500μm以下となるセルの面積の合計値の割合が0.20以上であることが好ましい。また、前記発泡金属成形体を任意の面で切断したときに、その切断面に表出する全てのセルの平均直径が100μm以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明により提供される前駆体の製造方法は、基本的な構成として、母材となる金属粉末と発泡剤粉末とを混合して混合粉末を作製し、同混合粉末を圧粉成形することにより前駆体を製造する前駆体の製造方法であって、前記混合粉末の作製時に、前記発泡剤粉末として炭酸塩系発泡剤粉末を用いるとともに、前記金属粉末以外に前記前駆体に添加される添加粒子の平均粒径dを1μm以上20μm以下、同添加粒子の体積分率fを0.003以上0.100以下に制御し、且つ、前記前駆体内部に存在する水素成分の成分量Xを60ppm以下に制御してなることを最も主要な特徴とするものである。
【0018】
特に、本発明に係る前駆体の製造方法において、前記水素成分量Xと、前記平均粒径d及び前記体積分率fを用いて下記(A)式により表される前記前駆体における前記添加粒子の平均粒子間距離λとが下記(B)式を満足するように、前記平均粒径d、前記体積分率f、及び前記水素成分量Xを制御することが好ましい。
λ=2d(1/f−1)/3 ・・・(A)、
15X+λ≦900 ・・・(B)。
【0019】
また、本発明の前駆体の製造方法において、前記水素成分量Xの制御を、前記圧粉成形前における前記混合粉末の加熱処理、前記圧粉成形前における前記混合粉末の真空脱ガス処理、及び、前記圧粉成形中における前記混合粉末の加熱処理の中の少なくとも1つの処理により行うことが好ましい。
【0020】
更に、本発明によれば、前述の構成を有する前駆体の製造方法を用いて前駆体を作製し、同前駆体を加熱して発泡成形することにより発泡金属成形体を製造する発泡金属成形体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明者等は、微細なセル組織を均一に得ることが難しい前記特許文献2のような攪拌中の溶湯に発泡剤を添加して発泡金属成形体を製造する方法を用いるのではなく、前記特許文献1のように金属粉末と発泡剤粉末との混合物を圧粉成形して前駆体を作製し、同前駆体を加熱して発泡させることを基礎として、微細なセル組織を均一に有する発泡金属成形体を製造することについて鋭意研究及び検討を重ねた。
【0022】
その結果、発泡剤として、従来から一般的に用いられている水素化金属(特に、水素化チタニウム)を採用せずに、水素化金属よりも比較的高温で分解して炭酸ガスを発生させる炭酸カルシウム等の炭酸塩系発泡剤を用いて前駆体を作製し、同前駆体を発泡成形することを想到した。そして、このような炭酸塩系発泡剤を用いて前駆体を作製して発泡成形することにより、炭酸ガスにより微小なセル(気泡)が形成され、セル組織を微細化することが可能であることが明らかになった。
【0023】
また、このようにして得られた発泡金属成形体には、炭酸ガスにより形成される微細なセル(第1セル)の他に、第1セルよりサイズが大きなセル(第2セル)も形成されること、また、この第2セルは原料となる金属粉末等に付着して前駆体内部に閉じ込められている水分や水酸化物、及び固溶水素等のような水素成分によって形成されることも判明した。
【0024】
更に、炭酸ガスにより形成される第1セルの内壁面は、発泡成形中に酸化膜が形成されることや、この酸化膜が形成されることによって各第1セルが成長したり、互いに合体したりすることが抑制されること、更には、母材となる金属粉末以外に前駆体に添加される添加粒子を適切に分散させることにより、第2セルの粗大化が抑制されることも明らかとなった。
【0025】
以上を踏まえて、本発明者等は、前駆体による発泡成形法によって発泡金属成形体を製造する場合に、発泡剤として炭酸塩系発泡剤を用い、且つ、前駆体内に含まれる水素成分の成分量Xと前記添加粒子の平均粒子間距離λと適切に制御することにより、微細なセルが均一に形成された発泡金属成形体が得られることを見出した。
【0026】
更に、様々な実験を重ね、微細なセル組織を均一に得ることが可能な水素成分量Xと平均粒子間距離λとの関係を明確に規定すること、及びこのような関係を得ることが可能な前記添加粒子の平均粒径(平均直径)d及び体積分率fと水素成分量Xとの数値範囲をそれぞれ明確に規定することによって、本発明を完成させるに至った。
【0027】
即ち、本発明により提供される前駆体は、母材となる金属粉末と炭酸塩系発泡剤粉末とを混合した混合粉末を圧粉成形することにより得られ、しかも、前記金属粉末以外に前駆体に添加される添加粒子の平均粒子間距離λが適切な値となるように、同添加粒子の平均粒径dが1μm以上20μm以下、且つ、体積分率fが0.003以上0.100以下に制御され、且つ、前駆体内の水素成分量Xが60ppm以下に制御されている。
【0028】
この場合、水素成分量Xと平均粒径d及び体積分率fを用いて下記(A)式により表される前駆体における添加粒子の平均粒子間距離λとは、下記(B)式を満足するように制御されている。
λ=2d(1/f−1)/3 ・・・(A)、
15X+λ≦900 ・・・(B)。
【0029】
なお、本発明において、金属粉末以外に前駆体に添加される添加粒子とは、炭酸塩系発泡剤の粒子、増粘や表面平滑化等を目的としたその他の添加剤(増粘剤や表面平滑剤等)の粒子、及び、母材を構成する金属粉末自体に形成される酸化膜の粒子を含めた前記金属粉末以外の全ての粒子をいう。また、水素成分とは、前駆体内部に閉じ込められている水分、結晶水、水酸化物、固溶水素を含む成分いう。
【0030】
このような構成を有する本発明の前駆体であれば、発泡成形が行われることにより、炭酸塩系発泡剤によって内壁面に酸化膜を有する微細な第1セルが均一に形成されるとともに、発泡成形中に同第1セルの合体や成長が生じることを前記酸化膜により効果的に抑制することができる。
【0031】
しかも、本発明の前駆体は、同前駆体内の水素成分量Xが所定値以下に制御され、且つ、前記添加粒子が適度に分散して形成されているため、同前駆体の発泡成形時に、前駆体内の水素成分に起因して生じる第2セル自体の形成を抑制できるとともに、形成される第2セルの粗大化を、酸化膜を有する第1セルや前記添加粒子により効果的に抑制することができる。
【0032】
従って、本発明の前駆体を用いて発泡成形を行うことにより、例えば発泡剤として水素化金属を用いた前駆体による従来の発泡成形法や、前記特許文献2に記載されているような方法では得ることができなかった微細なセル組織を均一に有する発泡金属成形体を安定して得ることが可能となる。
【0033】
更に、本発明の前駆体において、前記水素成分量Xが10ppm以下に制御されていれば、前駆体内の水素成分に起因する第2セルの形成自体をほぼ完全に防止することができ、超微細なセル組織を均一に有する発泡金属成形体を容易に製造することが可能となる。
【0034】
また本発明において、前記金属粉末が、アルミニウム粉末又はアルミニウムを含有する合金粉末であれば、軽量で強度に優れた発泡金属成形体を得ることが可能となり、一方、前記炭酸塩系発泡剤粉末が、CaCO3、CaMg(CO32、及びMgCO3から選択された少なくとも1つであれば、発泡金属成形体内に微小な第1セルを安定して形成することができる。
【0035】
また、本発明によれば、上述のような構成を有する前駆体を加熱して発泡成形させた発泡金属成形体が提供される。
このような本発明に係る発泡金属成形体は、従来では得ることが困難であった微細なセル組織を有することができ、具体的には、同発泡金属成形体を任意の面で切断したときに、その切断面に表出する全てのセルの面積の合計値に対するセル直径が500μm以下となるセルの面積の合計値の割合(以下、この面積の合計値の割合を面積率Sとして記す)が0.20以上となり、また、その切断面に表出する全てのセルの平均直径が100μm以下となる微細なセル組織を有することができる。特に、例えば前記水素成分量Xが10ppm以下に制御された前駆体から発泡金属成形体を製造した場合には、切断面に表出する全てのセルの直径が500μm以下となる超微細なセル組織を得ることができる。
【0036】
これにより、本発明に係る発泡金属成形体は、凹部等の表面欠陥の発生が低減された良好な表面性状を得ることができる。更に、本発明の発泡金属成形体は、微細なセル組織が均一に形成されていることにより、成形体毎の品質に斑が生じ難く、機械的性質の再現性に優れているという利点も得ることができる。
【0037】
なお、本発明において、前記面積率を求める際のセル直径の基準を500μm以下に設定した理由は、本発明者等が様々な実験を行って、前駆体の発泡成形時に炭酸塩系発泡剤粉末により形成される第1セルの直径を調べたところ、第1セルの直径は、発泡成形条件により変化するものの、500μmよりも大きくなることが殆どないことが明らかになったからである。なお、セル直径が500μm以下となるセルには、炭酸塩系発泡剤粉末により形成される第1セルだけでなく、水素成分に起因して形成される第2セルも含まれる。
【0038】
次に、本発明により提供される前駆体の製造方法は、混合粉末の作製時に、発泡剤粉末として炭酸塩系発泡剤粉末を用いるとともに、金属粉末以外に前駆体に添加される添加粒子の平均粒径dを1μm以上20μm以下、同添加粒子の体積分率fを0.003以上0.100以下に制御している。更に、前駆体内部の水素成分量Xを60ppm以下に制御している。
【0039】
特に、本発明に係る前駆体の製造方法では、水素成分量Xと、平均粒径d及び体積分率fを用いて下記(A)式により表される前駆体における添加粒子の平均粒子間距離λとが下記(B)式を満足するように、前記平均粒径d、前記体積分率f、及び前記水素成分量Xを制御している。
λ=2d(1/f−1)/3 ・・・(A)、
15X+λ≦900 ・・・(B)。
【0040】
このような本発明に係る前駆体の製造方法によれば、従来では得ることが困難であった微細なセル組織を均一に有する発泡金属成形体を製造可能な前駆体を安定して製造することができる。
【0041】
また、同製造方法において、前記水素成分量Xの制御を、前記圧粉成形前における前記混合粉末の加熱処理、前記圧粉成形前における前記混合粉末の真空脱ガス処理、及び、前記圧粉成形中における前記混合粉末の加熱処理の中の少なくとも1つの処理を用いることによって容易に行うことができるため、水素成分量Xが60ppm以下に制御された前記前駆体を安定して製造することができる。
【0042】
そして、本発明によれば、上述のような構成を有する前駆体の製造方法を用いて前駆体を作製し、同前駆体を加熱して発泡成形することにより発泡金属成形体を製造する発泡金属成形体の製造方法が提供される。
【0043】
このような本発明に係る発泡金属成形体の製造方法によれば、前駆体を加熱して発泡成形する際に、炭酸塩系発泡剤により内壁面に酸化膜を有する微細な第1セルが均一に形成されるとともに、前記酸化膜により第1セルの合体や成長を効果的に抑制することができる。
【0044】
しかも、前駆体内の水素成分に起因して生じる第2セル自体の形成を抑制できるとともに、形成される第2セルの粗大化を、酸化膜が形成された第1セルや前記添加粒子により効果的に抑制することができる。このため、従来では得ることが困難であった前述のような微細なセル組織を均一に有する発泡金属成形体を容易に且つ安定して製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態に係る前駆体は、母材となる金属粉末と炭酸塩系発泡剤粉末とを混合して混合粉末を作製した後、同混合粉末を圧粉成形することにより作製されている。前記金属粉末としては、アルミニウム、マグネシウム、チタン、亜鉛、鉄、錫、鉛、又はこれらを含む合金の粉末を用いることができるが、本実施形態では、発泡金属成形体の軽量化及び高強度化を図るために、アルミニウム粉末又はアルミニウムを含有する合金粉末が用いられており、特に、純アルミニウム粉末、又はAl−Si系合金、Al−Si−Cu系合金、若しくはAl−Mg−Si系合金の粉末等が好適に使用される。
【0046】
一方、炭酸塩系発泡剤粉末としては、CaCO3、CaMg(CO32、及びMgCO3から選択された少なくとも1つの粉末が用いられる。CaCO3、CaMg(CO32、及びMgCO3から選択された少なくとも1つの発泡剤粉末は、従来から発泡剤として一般的に用いられている水素化チタニウム(TiH2)や、前記特許文献1の例3に記載されている炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)に比べて分解温度が高く、また、TiH2やNaHCO3のように分解時に水素ガスや水分を発生させることもないので、発泡セルを微小に形成することが可能となる。
【0047】
更に、本実施形態の前駆体には、上述のような金属粉末や炭酸塩系発泡剤粉末の他に、金属カルシウムやシリコンカーバイド等の増粘剤や、SiO2やTiB2等の表面平滑剤、Al23等の安定化剤等を含ませることも可能である。
【0048】
この場合、本実施形態の前駆体は、母材となる金属粉末以外に前駆体に添加される添加粒子の平均粒径(平均直径)dが1μm以上20μm以下に制御され、また、添加粒子の体積分率fが0.003以上0.100以下に制御され、更に、前駆体内部に存在する水素成分の成分量Xが60ppm以下に制御されて構成されている。
【0049】
更に、本実施形態の前駆体は、前駆体内部の水素成分量X、金属粉末以外に前駆体に添加される添加粒子の平均粒径d及び体積分率fを用いて下記(A)式により表される前駆体内の添加粒子の平均粒子間距離λとが、下記(B)式を満足するように構成されている。
λ=2d(1/f−1)/3 ・・・(A)、
15X+λ≦900 ・・・(B)。
【0050】
ここで、前駆体内の添加粒子の平均粒子間距離λとは、金属粉末以外に前駆体内に存在する炭酸塩系発泡剤粒子等の添加粒子同士の粒子表面間距離(間隔)を、添加粒子の平均粒径dと、前駆体の体積に対する添加粒子の体積の割合である体積分率fとを用いて上記(A)式により求めた数値である。
【0051】
また、上記(B)式は、本発明者等が行った実験により導き出された関係式である。具体的には、前記平均粒子間距離λと前記水素成分量Xの値が互いに異なる種々の前駆体を作製し、更に、得られた前駆体を加熱して発泡成形することにより発泡金属成形体を測定試料として作製し、各成形体のセル組織を観察・評価した。
【0052】
このとき、各発泡金属成形体におけるセル組織の評価は、以下のような手段を用いて行った。先ず、各発泡金属成形体を切断し、その切断面を撮影した平面画像を、画像解析処理することにより、切断面に表出した全てのセルを特定して各セルの面積Aを測定する。続いて、得られた面積Aから相当する近似円を求めて、その近似円の直径dをセルの直径(セル径)として前記面積Aから算出する。
【0053】
次に、切断面に表出したセルのうち、炭酸塩系発泡剤が分解することにより主に形成されたと判断されるセル径が500μm以下の微小セルの面積率Sを、面積率S=(セル径が500μm以下の微小セルの面積の合計値)/(全てのセルの面積の合計値)の計算式から求め、この算出した微小セルの面積率Sが0.20以上となる発泡金属成形体(即ち、微小な第1セルが20%以上の面積を占める発泡金属成形体)を、微細なセル組織を有する成形体として判断した。なお、このようなる500μm以下のセル径を有する微小セルの面積率Sが0.20以上となる発泡金属成形体は、従来では得ることができなかった成形体である。
【0054】
更に、全て発泡金属成形体について、微小セルの面積率Sが0.20以上となる微細なセル組織を有するか否かを判断した後、微細なセル組織が得られた前駆体の条件を「○」とし、得られない前駆体の条件を「×」として、水素成分量Xを横軸に、平均粒子間距離λを縦軸に設定したグラフにプロットした。その結果、図1に示すようなグラフが得られた。この図1に示したグラフに基づいて、○印でプロットした微細なセル組織を有する前駆体の領域を求めることによって、微細なセル組織を有する発泡金属成形体を得ることが可能な前駆体の条件として上記(B)式が導き出された。
【0055】
即ち、前駆体内部の水素成分量Xと、前駆体内の添加粒子の平均粒子間距離λとが上記(B)式を満足するように構成された前駆体であれば、同前駆体を加熱して発泡成形が行われたときに、微細なセル組織を有する発泡金属成形体を安定して得ることが可能となる。しかし、前駆体が上記(B)式を満足しない場合には、発泡成形時に水素や水分等の水素成分によるガス圧が高くなり、水素成分に起因する第2セルの形成が促されるとともに同第2セルの成長・合体が進んで、セル組織の粗大化が引き起こされる。
【0056】
また、上記(B)式を満足するように前駆体を形成するためには、上記(A)式の関係から、同前駆体における金属粉末以外に添加される添加粒子の平均粒径dが1μm以上20μm以下、好ましくは3μm以上10μm以下に制御され、且つ、添加粒子の体積分率fが0.003以上0.100以下、好ましくは0.010以上0.040以下に制御され、更に、前駆体内部に存在する水素成分の成分量Xが60ppm以下、好ましくは10ppm以下に制御されて前駆体が構成されていることが求められる。
【0057】
例えば、添加粒子の平均粒径dが1μm以上20μm以下を満たさないために、又は体積分率fが0.003以上0.100以下を満たさないために、添加粒子の平均粒径dと体積分率fとの関係で添加粒子の平均粒子間距離λの値が極めて大きくなるときには、水素成分に起因して形成される第2セルの粗大化を十分に抑制できず、前駆体の発泡成形中に第2セルの成長や合体が促される。従って、同前駆体から発泡成形される発泡金属成形体には、炭酸塩系発泡剤により形成される小さな第1セルと、成長や合体により粗大化した第2セルとが混在したセル組織が形成されてしまい、均一で微細なセル組織を得ることができない。
【0058】
一方、添加粒子の平均粒径d又は体積分率fが上記範囲を満たさないために、添加粒子の平均粒径dと体積分率fとの関係で添加粒子の平均粒子間距離λの値が極めて小さくなるときには、母材となる金属粉末粒子間の結合が添加粒子により妨げられ、発泡金属成形体の強度低下を招いてしまう虞があった。
【0059】
また、前駆体内部の水素成分量Xが60ppmを超える場合には、図1のグラフに示したように、添加粒子の平均粒径dと体積分率fとにより添加粒子の平均粒子間距離λを制御しても、セル組織の粗大化を引き起こしてしまい、均一で微細なセル組織を有する発泡金属成形体を得ることができない。一方、前記水素成分量Xを10ppm以下に制御することにより、水素成分に起因する第2セルの形成自体を大幅に低減することができ、非常に微細なセル組織をより安定して形成することが可能となる。
【0060】
従って、前駆体における添加粒子の平均粒径d及び体積分率fと、前駆体内部の水素成分量Xとをそれぞれ上述の所定範囲内に制御することにより、水素成分量Xと添加粒子の平均粒子間距離λとが上記(B)式を満足するような前駆体を得ることが可能となる。
【0061】
そして、上述の本実施形態の前駆体を加熱して発泡成形することにより得られる発泡金属成形体は、炭酸塩系発泡剤が分解して発生する炭酸ガスによる第1セルと、前駆体内の水素成分に起因する第2セルの2種類のセルが均一に分散して形成されたセル組織を有している。
【0062】
また、図2(a)に模式図を示したように、この発泡金属成形体1に形成された第1セル2は、前駆体の発泡成形中に炭酸ガスが発生することにより第1セル2の内壁面に形成された酸化膜3を有している。特に、炭酸塩系発泡剤粉末として、CaCO3、CaMg(CO32、及びMgCO3から選択された少なくとも1つの粉末が用いられている場合には、各第1セル2をその近似円から求めた直径が500μm以下となる極めて微小なサイズで形成することが可能となる。
【0063】
ここで、例えば発泡剤として従来から一般的な水素化チタンを用いて発泡成形を行った場合を考えてみると、図2(b)にその模式図を示したように、水素化チタンが分解することにより水素ガスが発生して発泡金属成形体11内にセル12が形成される。このとき、セル12内には還元性の強い水素ガスが満たされているため、セル12の内壁面には酸化膜は形成されず、セル12の合体や成長が引き起こされる。
【0064】
これに対して、本実施形態の発泡金属成形体1の場合は、上述のように発泡成形中に第1セル2の内壁面に酸化膜3が形成されることにより、同酸化膜3が第1セル2の合体や成長を効果的に防ぐことができる。このため、各第1セル2は、それぞれが独立して微小なサイズで形成される。
【0065】
また、同発泡金属成形体に水素成分に起因して形成された第2セルは、前駆体内の水素成分量Xが所定値以下に制御されているために数が少ない。特に、前駆体内の水素成分量Xを10ppm以下に制御されている場合であれば、上述のように第2セルの個数が大幅に低減される。その上、本実施形態では、前駆体内に添加粒子が適切な距離で分散しているため、発泡成形中に第2セルの粗大化が抑制される。
【0066】
従って、本実施形態における発泡金属成形体は、発泡金属成形体を任意の面で切断したときに、その切断面に表出した全セルに対するセル直径が500μm以下となるセルの面積率が0.20以上、更には1となる微細なセル組織を均一に有している。また、同発泡金属成形体は、全てのセルが1000μm以下の直径、更には500μm以下の直径を有し、発泡金属成形体を任意の面で切断したときに、その切断面に表出する全てのセルの平均直径が100μm以下となる微細なセル組織を均一に有している。
【0067】
また、本実施形態の発泡金属成形体は、比重が0.5以上1.3以下に制御されていることが好ましい。成形体の比重が0.5以上であることにより、各セルが独立した微細なセル組織を安定して維持することができるため、機械的強度の低下を確実に防止することができる。また、成形体の比重が1.3以下であれば、成形体の効果的な軽量化を実現できる。
【0068】
更に、このような発泡金属成形体では、炭酸ガスにより生じる第1セル及び水素成分に起因する第2セルを含む全てのセルが、上述のように直径1000μm以下に形成されており、例えば発泡剤として一般的な水素化チタンを用いた場合に形成されるセルに比べて相当小さい。このため、前駆体の発泡成形中に発泡圧(成形圧)が生じることによって、成形体表面にセルが表出することを抑えて、成形体表面にセルが露出することを防止することができる。
【0069】
これにより、本実施形態における発泡金属成形体は、凹部等の表面欠陥の発生が低減された良好な表面性状を得ることができ、具体的には、表面粗さRaが3.5μm以下、表面粗さRyが45μm以下、且つ、Lab値による色調評価にてΔE=5.0以下となる表面性状を得ることができる。
【0070】
更に、本実施形態の発泡金属成形体は、このように良好な表面性状が得られることにより、例えば板厚が0.5〜2mm程度の薄肉の成形体の製造が可能となるため、従来に比べて、その用途を拡大することができる。その上、同発泡金属成形体は、微細なセル組織を均一に有していることにより、機械的強度及びエネルギー吸収特性に優れ、しかも、成形体毎に品質の斑が生じることがなく、物性や品質の再現性が極めて安定した信頼性のある成形体となる。
【0071】
次に、上述のような発泡金属成形体を製造する方法について、詳細に説明する。なお、本発明において、発泡金属成形体の製造方法は、後述するような手順や条件に限定されるものではなく、必要に応じて任意に変更することが可能である。
【0072】
先ず、発泡金属成形体の母材となる金属の粉末と炭酸塩系発泡剤粉末とを均一に混合して混合粉末を作製する混合工程を行う。
この混合工程では、前記金属粉末として、前述のように、アルミニウム又はアルミニウムを含有する合金の粉末が用いられ、炭酸塩系発泡剤粉末としては、CaCO3、CaMg(CO32、及びMgCO3から選択された少なくとも1つの粉末が用いられる。更に、この混合粉末には、金属粉末や炭酸塩系発泡剤粉末の他に、増粘剤、表面平滑剤、安定化剤等を加えて混合することも可能である。
【0073】
このとき、炭酸塩系発泡剤粉末及びその他の添加剤としては、それらの平均粒径dが1μm以上20μm以下、特に3μm以上10μm以下となるものを使用する。また、金属粉末と炭酸塩系発泡剤粉末との混合比率は、後述する押出工程を行った後に得られる前駆体において、添加粒子の体積分率fが0.003以上0.100以下、特に0.010以上0.040以下となるように計算されて設定される。
【0074】
また混合工程では、必要に応じて、金属粉末等の混合中又は混合後に混合粉末を加熱する加熱処理や、得られた混合粉末に真空脱ガス処理が行われる。このような加熱処理や真空脱ガス処理が行われることにより、金属粉末や炭酸塩系発泡剤粉末等に付着している水分、結晶水、水酸化物、及び固溶している固溶水素といった水素成分を減少させることができる。
【0075】
更に、加熱処理や真空脱ガス処理が行われた混合粉末を、後述する圧粉成形工程が行われるまで、真空中、又は、アルゴンガスやヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気中にて保存することにより、混合粉末に水素成分が再び付着することを防止することが可能である。
【0076】
次に、上記混合工程で得られた混合粉末を、押出プレス等により圧粉して成形することによって前述の本実施形態に係る前駆体を作製する圧粉成形工程を行う。具体的には、例えば前記混合粉末を室温でプレスして冷間圧粉体を作製する。続いて、得られた冷間圧粉体を例えば300℃以上500℃以下の温度に加熱した後、押出プレスを行って所定の形状に成形する。これにより、金属粉末表面に形成された酸化膜が破壊されるとともに同金属粉末同士が拡散により互いに結合した前駆体が得られる。
【0077】
このとき、混合粉末に押出プレスが行われる前に、同混合粉末が加熱されるため、金属粉末や炭酸塩系発泡剤粉末等に付着している水素成分を減少させることができる。更に、その加熱状態を維持した状態で押出プレスが行われるため、同押出プレスにより得られる前駆体の水素成分量Xを60ppm以下、特に10ppm以下に容易に制御することができる。
【0078】
なお、本発明では、前記混合工程における混合粉末の加熱処理及び真空脱ガス処理と、圧粉成形工程における押出プレス前の加熱処理の中の少なくとも1つの処理を行うことによって、前駆体の水素成分量Xを60ppm以下に制御することができれば良く、水素成分量Xの制御を何れの処理によって行うのかは限定されるものではない。好ましくは、前記混合工程において真空脱ガス処理を行った場合には、その減圧状態を維持した状態で圧粉成形工程にて押出プレスを行うことによって、前駆体の水素成分量Xを10ppm以下に制御することが可能である。
【0079】
更に本実施形態においては、前記混合工程及び圧粉成形工程を通じて、前記添加粒子の平均粒径d及び体積分率fと前記水素成分量Xとを制御することによって、水素成分量Xと下記(A)式により表される添加粒子の平均粒子間距離λとの関係が下記(B)式を満足した前駆体が形成される。
λ=2d(1/f−1)/3 ・・・(A)、
15X+λ≦900 ・・・(B)。
【0080】
そして、この圧粉成形工程にて混合粉末がプレスされて前駆体が作製されると、上述のように金属粉末の表面に形成された酸化膜が破壊され、金属粉末同士がせん断変形力により結合するため、添加粒子が前駆体内に閉じ込められるとともに、前駆体内部に新たに水素成分が入り込んで付着することを防止することができる。従って、上記(B)式を満足するように形成された前駆体は、その平均粒子間距離λと水素成分量Xの値を殆ど変化させることなく、次の発泡成形工程に送ることができる。
【0081】
なお、前駆体の表面に水素成分が付着した場合、この前駆体表面に付着した水素成分については、後述する発泡成形工程にて行なう加熱によって容易に除去することができる。また、混合粉末の押出プレス後から発泡成形工程が行われるまでの間、得られた前駆体を真空中や不活性ガス雰囲気中に保持することにより、前駆体の平均粒子間距離λと水素成分量Xの値を確実に維持することができる。
【0082】
更に同圧粉成形工程では、前駆体が、発泡金属成形体の製品形状と相似形となる形状を有し、且つ、その発泡金属成形体に対して40%以上70%以下の体積比を有するように押出プレスが行われることが好ましい。前駆体をこのような形態に成形することにより、同前駆体を加熱して発泡成形した際に、前駆体が有する平滑な表面性状を発泡成形後でも広い範囲で安定して維持できるため、発泡金属成形体の表面性状を向上させることができる。
【0083】
前記圧粉成形工程が終了した後、得られた前駆体を金型内にセットして同金型を密閉する。このとき、金型の内面には、前駆体中の金属と反応することなく、且つ、気体が通過可能な多孔質の表面処理が施されている。このような表面処理としては、例えばCr系皮膜処理、Si系皮膜処理、窒化処理等を用いることができる。このような表面処理を金型内面に行うことにより、金型内面に離型剤を塗布することなく発泡成形を行うことができるため、発泡金属成形体の表面に離型剤の粉末形状が転写されることがなく、平滑な成形体表面を得ることが可能となる。
【0084】
その後、前駆体をセットした金型ごと加熱炉に投入して、同前駆体を母材金属の固相線温度よりも高い温度に加熱することにより、同前駆体を金型内で発泡成形する。更に、発泡成形を所定時間で行った後に冷却することによって、前述のような微細なセル組織を均一に有し、表面性状に優れた発泡金属成形体を安定して製造することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例及び比較例を示すことにより本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
今回、実施例1〜実施例4及び比較例1,2の発泡金属成形体を以下に詳述する条件にて製造し、得られた各発泡金属成形体のセル組織について比較と評価を行った。
【0086】
(実施例1)
実施例1の発泡金属成形体を製造するために、先ず混合工程にて、エアーアトマイズ法により作製した純アルミニウム粉末(粒度150μm以下)と、炭酸塩系発泡剤としてCaCO3粉末とを混合して混合粉末を作製した。このとき、CaCO3粉末の平均粒径は10μmであり、その添加量は6.3wt%とした。次に、得られた混合粉末を室温でプレスして冷間圧粉体を作製し、その後、同圧粉体を350℃に加熱して保持し、更に、その加熱状態を維持したまま圧粉体に押出プレスを行うことによって前駆体を作製した。
【0087】
この実施例1において作製した前駆体における添加粒子の平均粒子間距離λは、CaCO3の平均粒径d及び体積分率fを用いて求めたところ、100μmであった。また、同前駆体の水素成分量は、LECO製RH402型を用いて不活性ガス融解熱伝導度法により測定したところ、15ppmであった。
その後、同前駆体を金型内にセットしてから金型を密閉し、更に、前駆体を金型ごと加熱炉に投入して700℃で20分間の加熱を行うことによって発泡成形を行った。これにより、評価対象となる実施例1の発泡金属成形体が得られた。
【0088】
(実施例2)
先ず混合工程にて、エアーアトマイズ法により作製したAl−7Si粉末(粒度150μm以下)と、炭酸塩系発泡剤としてMgCO3粉末とを混合して混合粉末を作製した。このとき、MgCO3粉末の平均粒径は5μmであり、その添加量は1.2wt%とした。次に、得られた混合粉末を室温でプレスして冷間圧粉体を作製し、その後、同圧粉体を350℃に加熱して保持し、更に、その加熱状態を維持したまま圧粉体に押出プレスを行うことによって前駆体を作製した。
【0089】
この実施例2において作製した前駆体における添加粒子の平均粒子間距離λは、MgCO3の平均粒径d及び体積分率fを用いて求めたところ、300μmであった。また、同前駆体の水素成分量は、前記実施例1と同様の方法により測定したところ、15ppmであった。
その後、同前駆体を金型内にセットしてから金型を密閉し、更に、前駆体を金型ごと加熱炉に投入して700℃で20分間の加熱を行うことによって発泡成形を行った。これにより、評価対象となる実施例2の発泡金属成形体が得られた。
【0090】
(実施例3)
先ず混合工程にて、ADC12粉末(粒度150μm以下)と、炭酸塩系発泡剤としてMgCO3粉末とを混合して混合粉末を作製した。このとき、MgCO3の平均粒径は10μmであり、その添加量は7.0wt%とした。
【0091】
次に、得られた混合粉末を室温でプレスして冷間圧粉体を作製し、その後、同圧粉体を450℃に加熱して保持し、更に、その加熱状態を維持したまま圧粉体に押出プレスを行うことによって前駆体を作製した。この実施例5において作製した前駆体における添加粒子の平均粒子間距離λは100μmであり、また、同前駆体の水素成分量は5ppmであった。
その後、同前駆体を金型内にセットしてから金型を密閉し、更に、前駆体を金型ごと加熱炉に投入して700℃で20分間の加熱を行うことによって発泡成形を行った。これにより、評価対象となる実施例3の発泡金属成形体が得られた。
【0092】
(実施例4)
先ず混合工程にて、エアーアトマイズ法により作製したA6063粉末(粒度150μm以下)と、炭酸塩系発泡剤としてCaMg(CO32粉末とを混合して混合粉末を作製した。このとき、CaMg(CO32の平均粒径は5μmであり、その添加量は1.2wt%とした。
【0093】
次に、得られた混合粉末を排気管が取り付けられたアルミ缶に収容して真空脱ガス処理を行った。この真空脱ガス処理は、ロータリーポンプにより1.0×10-5torrに減圧するとともに、アルミ缶ごと450℃で3時間加熱保持することにより行い、これによって、A6063粉末に吸着した水分、結晶水、水酸化物等を除去した。
【0094】
続いて、減圧状態を維持したまま350℃の温度にて押出プレスを行うことによって前駆体を作製した。この実施例4において作製した前駆体における添加粒子の平均粒子間距離λは300μmであり、また、同前駆体の水素成分量は5ppmであった。
その後、同前駆体を金型内にセットしてから金型を密閉し、更に、前駆体を金型ごと加熱炉に投入して700℃で20分間の加熱を行うことによって発泡成形を行った。これにより、評価対象となる実施例4の発泡金属成形体が得られた。
【0095】
(比較例1)
比較例1の発泡金属成形体を製造するために、先ず混合工程にて、エアーアトマイズ法により作製した6N01粉末(粒度150μm以下)と、発泡剤としてTiH2粉末とを混合して混合粉末を作製した。このとき、TiH2粉末の平均粒径は22μmであり、その添加量は0.4wt%とした。
【0096】
次に、得られた混合粉末を室温でプレスして冷間圧粉体を作製し、その後、同圧粉体を350℃に加熱して保持し、更に、その加熱状態にて圧粉体に押出プレスを行うことによって前駆体を作製した。この比較例1において作製した前駆体の水素成分量は15ppmであった。
その後、同前駆体を金型内にセットしてから金型を密閉し、更に、前駆体を金型ごと加熱炉に投入して700℃で20分間の加熱を行うことによって発泡成形を行った。これにより、評価対象となる比較例1の発泡金属成形体が得られた。
【0097】
(比較例2)
先ず混合工程にて、Al−7Si粉末(粒度150μm以下)と、炭酸塩系発泡剤としてCaCO3粉末とを混合して混合粉末を作製した。このとき、CaCO3粉末の平均粒径は10μmであり、その添加量は1.1wt%とした。次に、得られた混合粉末を室温でプレスして冷間圧粉体を作製し、その後、同圧粉体を350℃にて押出プレスを行うことによって前駆体を作製した。
【0098】
この比較例2において作製した前駆体における添加粒子の平均粒子間距離λは600μmであり、また、同前駆体の水素成分量は30ppmであった。
その後、同前駆体を金型内にセットしてから金型を密閉し、更に、前駆体を金型ごと加熱炉に投入して700℃で20分間の加熱を行うことによって発泡成形を行った。これにより、評価対象となる比較例2の発泡金属成形体が得られた。
【0099】
(発泡金属成形体の評価方法)
以上のような条件で製造された実施例1〜実施例4及び比較例1,2の各発泡金属成形体に対して、先ずアルキメデス法を用いて比重を測定した。次に、同発泡金属成形体を任意の面で切断し、その切断面を研磨した後、光学顕微鏡にてセル組織の写真を撮影した。更に、画像解析ソフトを用いて撮影写真を画像解析処理することにより、切断面に表出した全てのセルを特定し、各セルのセル直径及び断面積を測定した。
【0100】
更に、求めた各セルのセル直径及び断面積から、各発泡金属成形体の平均セル直径、標準偏差、切断面に表出する全セルに対する直径500μm以下のセルの面積率、及び、切断面に表出する全セルに対する直径1000μm以下のセルの面積率を算出した。各発泡金属成形体について上記項目を測定した結果を、その製造条件とともに下記表1に示す。
【0101】
また、実施例1及び比較例2の発泡金属成形体については、光学顕微鏡にて撮影したセル組織の写真の写しをそれぞれ図3及び図4に示す。なお、これらのセル組織の写真の写しについては、それぞれのセル組織が明確に見えるように、互いに異なる倍率で撮影されている。
【0102】
【表1】

【0103】
上記表1に示したように、実施例1〜実施例4の発泡金属成形体は、何れも平均セル直径が100μm以下であり、セルサイズが全体的に小さい微細なセル組織を有していた。特に、前駆体の水素成分量を10ppm以下に制御した実施例3及び実施例4の発泡金属成形体は平均セル直径が50μm以下であった。更に、実施例3及び実施例4の発泡金属成形体ついては、標準偏差が50μm以下とセルサイズのバラツキが少なく、超微細なセル組織を有していることがわかった。
【0104】
これに対して、発泡剤としてTiH2粉末を用いた比較例1の発泡金属成形体は、水素ガスにより形成されたセルの成長・合体が顕著に発生しており、比重が比較的大きいにも関わらず、平均セル直径が1000μmを超える粗大なセル組織を有していた。また、比較例2の発泡金属成形体は、前駆体における発泡剤の体積分率fが本発明の数値範囲を下回り、水素成分量Xと平均粒子間距離λとの関係が「15X+λ≦900」を満足していなかったために、図3と図4との比較からも明らかなように、平均セル直径が100μmを超える粗大なセル組織が形成されていた。
【0105】
更に、直径500μm以下のセルの面積率及び直径1000μm以下のセルの面積率についての測定結果を比較してみると、実施例1〜実施例4の発泡金属成形体は、何れも直径500μm以下のセルの面積率が0.20以上を示す微細なセル組織を有していた。特に、実施例1、実施例3及び実施例4の発泡金属成形体は、直径1mm以下のセルの面積率が1を示したため、全てのセルの直径が1mm以下であること、更に、実施例3及び実施例4の発泡金属成形体については全てのセルの直径が500μm以下であることが明らかとなった。
【0106】
これに対して、比較例1の発泡金属成形体は、直径500μm以下のセルの面積率及び直径1mm以下のセルの面積率がともに0.1未満と低く、同発泡金属成形体に形成された殆どのセルが1mmを超えるセル直径を有していることが判った。また、比較例2の発泡金属成形体は、直径が500μm以下の微小なセルが少ない上に、直径が1mmを越える粗大なセルが形成されており、セルサイズが非常に不規則であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】微細な組織を有する発泡金属成形体が得られる前駆体の水素成分量Xと平均粒子間距離λとの関係を示すグラフである。
【図2】(a)は、炭酸ガスにより形成された第1セルを模式的に示す模式図であり、(b)は、水素ガスにより形成されたセルを模式的に示す模式図である。
【図3】実施例1に係る発泡金属成形体のセル組織を光学顕微鏡にて撮影した写真の写しである。
【図4】比較例2に係る発泡金属成形体のセル組織を光学顕微鏡にて撮影した写真の写しである。
【符号の説明】
【0108】
1 発泡金属成形体
2 第1セル
3 酸化膜
11 発泡金属成形体
12 セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材となる金属粉末と発泡剤粉末とを混合した混合粉末を圧粉成形することにより得られる発泡金属成形体の前駆体であって、
前記発泡剤粉末が炭酸塩系発泡剤粉末であり、
前記金属粉末以外に前記前駆体に添加される添加粒子の平均粒径dが1μm以上20μm以下であり、
前記添加粒子の体積分率fが0.003以上0.100以下であり、
前記前駆体内部に存在する水素成分の成分量Xが60ppm以下である、
ことを特徴とする前駆体。
【請求項2】
前記水素成分量Xと、前記平均粒径d及び前記体積分率fを用いて下記(A)式により表される前記前駆体における前記添加粒子の平均粒子間距離λとが下記(B)式を満足してなる請求項1記載の前駆体。
λ=2d(1/f−1)/3 ・・・(A)
15X+λ≦900 ・・・(B)
【請求項3】
前記水素成分量Xが10ppm以下である請求項1又は2記載の前駆体。
【請求項4】
前記金属粉末は、アルミニウム粉末又はアルミニウムを含有する合金粉末である請求項1〜3のいずれかに記載の前駆体。
【請求項5】
前記炭酸塩系発泡剤粉末は、CaCO3、CaMg(CO32、及びMgCO3から選択された少なくとも1つである請求項1〜4のいずれかに記載の前駆体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の前駆体を加熱して発泡成形させたことを特徴とする発泡金属成形体。
【請求項7】
前記発泡金属成形体を任意の面で切断したときに、その切断面に表出する全てのセルの面積の合計値に対する、セル直径が500μm以下となるセルの面積の合計値の割合が0.20以上である請求項6記載の発泡金属成形体。
【請求項8】
前記発泡金属成形体を任意の面で切断したときに、その切断面に表出する全てのセルの平均直径が100μm以下である請求項6記載の発泡金属成形体。
【請求項9】
母材となる金属粉末と発泡剤粉末とを混合して混合粉末を作製し、同混合粉末を圧粉成形することにより前駆体を製造する前駆体の製造方法であって、
前記混合粉末の作製時に、前記発泡剤粉末として炭酸塩系発泡剤粉末を用いるとともに、前記金属粉末以外に前記前駆体に添加される添加粒子の平均粒径dを1μm以上20μm以下、同添加粒子の体積分率fを0.003以上0.100以下に制御し、且つ、
前記前駆体内部に存在する水素成分の成分量Xを60ppm以下に制御してなる、
ことを特徴とする前駆体の製造方法。
【請求項10】
前記水素成分量Xと、前記平均粒径d及び前記体積分率fを用いて下記(A)式により表される前記前駆体における前記添加粒子の平均粒子間距離λとが下記(B)式を満足するように、前記平均粒径d、前記体積分率f、及び前記水素成分量Xを制御してなる請求項9記載の前駆体の製造方法。
λ=2d(1/f−1)/3 ・・・(A)
15X+λ≦900 ・・・(B)
【請求項11】
前記水素成分量Xの制御を、前記圧粉成形前における前記混合粉末の加熱処理、前記圧粉成形前における前記混合粉末の真空脱ガス処理、及び、前記圧粉成形中における前記混合粉末の加熱処理の中の少なくとも1つの処理により行われてなる請求項9又は10記載の前駆体の製造方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の前駆体の製造方法を用いて前駆体を作製し、同前駆体を加熱して発泡成形することにより発泡金属成形体を製造することを特徴とする発泡金属成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−228025(P2009−228025A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72133(P2008−72133)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】