説明

剥離割れ試験方法

【課題】より少ない試験回数で剥離割れが生じる限界の残留水素濃度を求めることができる剥離割れ試験方法を提供する。
【解決手段】高温高圧水素環境下に使用される反応容器の母材とその母材の表面に肉盛溶接された表層部との肉盛境界部に沿う剥離割れが生じる限界の残留水素濃度を求める剥離割れ試験方法であって、母材の厚さが異なる複数個の試験片に対して同一の環境下にまとめてオートクレーブ試験を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油精製などの高温高圧水素環境下に使用される反応容器の母材とその母材の表面に肉盛溶接された表層部との肉盛境界部に沿って発生する剥離割れを試験する方法であって、剥離割れが生じる限界の残留水素濃度を求める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製などの高温高圧の水素環境下に使用される反応容器において、その内面に施されたステンレス肉盛金属と母材(クロム・モリブデン鋼)との境界に沿って発生する剥離割れを防止する必要がある。そのためには、オートクレーブを用いて母材にステンレスを肉盛溶接した試験片による剥離割れを試験しておく必要がある。
【0003】
オートクレーブについては、例えば特許文献1に記載されているように、オートクレーブを用いてステンレス肉盛金属の剥離割れ試験を行う点が知られている。
【0004】
ASTM(米国材料試験協会)では、母材厚さ40mmで直径70mmの円柱試験片を作製し、一定の温度、水素分圧環境に円柱試験片を曝露して、150℃/hで冷却した後に剥離割れが生じているかどうかを試験するものが規格化されている。
【0005】
従来、剥離割れの限界を調べるには、図4に示すように、母材厚さが同じである複数個、例えば4個の試験片を用意し、それぞれに対して異なる環境条件A〜D下にオートクレーブ試験を行っていた。
【0006】
しかしながら、高温高圧水素ガスを用いたオートクレーブの試験の場合、1回の試験のために試験片の挿入から取出しまで数日かかる。本試験を実施する場合危険度が大きく、試験回数が多くなれば、試験に際しての危険度もそれに応じて大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平1−19999号公報の第2欄15行目
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、より少ない試験回数で剥離割れが生じる限界の残留水素濃度を求めることができる剥離割れ試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、高温高圧水素環境下に使用される反応容器の母材とその母材の表面に肉盛溶接された表層部との肉盛境界部に沿う剥離割れが生じる限界の残留水素濃度を求める剥離割れ試験方法であって、母材の厚さが異なる複数個の試験片に対して同一の環境下にまとめてオートクレーブ試験を行うことを特徴とする。
【0010】
上記方法では、複数個の試験片が用いられることになるが、限界の残留水素濃度を正確に求めるためには、通常4〜6個程度の試験片が用いられる。
【0011】
上記の同一の環境下とは、具体的には、一定の温度、一定の水素圧を意味する。一定の温度は、300〜600℃、一定の水素圧は、1〜30MPaである。
【0012】
高温での使用中にステンレス鋼肉盛り金属に溶解した水素は、常温まで冷却した時に肉盛り境界部に集積し、これにより境界部に剥離割れが生じる。
【0013】
母材の厚みが厚いほど冷却中に水素が逃げにくく、逆に母材の厚みが薄いほど冷却中に水素が逃げ易い。したがって、母材の厚みが厚いほど、水素濃度が高くなり、剥離割れが生じやすくなる。
【0014】
したがって、母材の厚さが異なる複数個の試験片に対して同一の環境下にまとめてオートクレーブ試験を行うことにより、剥離割れが生じる限界の残留水素濃度を測定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、母材の厚さが異なる複数個の試験片に対して同一の環境下にまとめてオートクレーブ試験を行うため、試験回数を減らし、ひいては試験日数を減らすことができ、試験を実施することにより危険度を小さくすることができる。剥離割れが生じる限界の水素濃度を求めるのに従来3〜5回の試験が必要だったが、当該試験方法を適用することにより試験回数を1〜2回に低減できる。
【0016】
また、一定の温度および一定の水素圧の環境における母材の厚さ毎の水素濃度を知ることで、反応容器の母材の厚さの設計に役立てることができる。
【0017】
また、母材の材料が変わり、剥離割れ感受性(材料の水素に対する破壊抵抗力)が違っても、それに応じて母材厚みを調整して、水素濃度を調べることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】肉盛り溶接後の試験片2個を例示的に示す斜視図である。
【図2】作製された4個の試験片についてのオートクレーブ試験の実施を説明する模式図である。
【図3】各試験片により求められた肉盛境界部の水素濃度および剥離割れの面積率により作成されたグラフである。
【図4】従来の剥離割れ試験を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0020】
(実施例1)
以下の1〜6に従って剥離割れ試験を実施した。
【0021】
1.厚さが異なる4個の母材を用意し、各母材上面にステンレス鋼を肉盛溶接した。具体的には、各母材の厚さは、それぞれ、40mm、35mm、30mmおよび25mmであった。図1に肉盛り溶接後の試験片2個を例示的に示す。母材(1)上面上にステンレス鋼の表層部(2)が肉盛溶接されている。
【0022】
2.図2に示すように、作製された4個の試験片をオートクレーブ(3)に入れた。
【0023】
3.オートクレーブ(3)を用いて、440℃の一定の温度および100気圧の一定の水素分圧の環境下に48時間にわたって試験片を曝露した後、室温まで150℃/hの速さで冷却した。
【0024】
4.冷却後の各試験片に対して、超音波探傷機(UT)を用いて剥離している面積を求め、求められた面積を全体の面積で除算した。このようにして求められた除算値を剥離割れの面積率とした。
【0025】
5.公知のFickの拡散方程式を用いて肉割境界部に集積する水素濃度を計算した。
【0026】
6.各試験片について、肉盛境界部の水素濃度を横軸とし、剥離割れの面積率を縦軸としたグラフを作成した。図3にこのグラフを示す。
【0027】
図3に示すように、剥離割れ限界水素濃度は、270ppmであることが分かる。
【0028】
このようにして、一定温度・一定水素圧の環境における1回のオートクレーブ試験を実施し、母材の厚さ毎の水素濃度を計算することにより、反応容器の母材の厚さの設計に役立てることができる剥離割れ限界水素濃度を求めることができた。
【符号の説明】
【0029】
1 母材
2 表層部
3 オートクレーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温高圧水素環境下に使用される反応容器の母材とその母材の表面に肉盛溶接された表層部との肉盛境界部に沿う剥離割れが生じる限界の残留水素濃度を求める剥離割れ試験方法であって、
母材の厚さが異なる複数個の試験片に対して同一の環境下にまとめてオートクレーブ試験を行うことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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