説明

剥離紙用原紙

【課題】ラベル用剥離紙、粘着テープ用剥離紙、工程紙に使用され、湿度変化によるカール、及び加熱前後の寸法安定性に優れ、さらに再生性を有する剥離紙用原紙を提供する。
【解決手段】パルプ成分として、パルプ懸濁液中にキャビテーションによって気泡を発生させ、これをパルプ懸濁液に接触させて処理したパルプを含有する基紙、あるいはキャビテーションによって気泡を発生させ、これをパルプ懸濁液に接触させてパルプ繊維に付着している汚染物質を除去した再生パルプを含有する基紙の少なくとも片面に目止め層を設けた剥離紙用原紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラベル用剥離紙用原紙、粘着テープ用剥離紙用原紙、工程紙用原紙等として使用され、湿度変化によるカール、及び加熱前後の寸法安定性に優れ、さらに再生性を有する剥離紙用原紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
剥離紙は、剥離紙用原紙上にシリコーン化合物やフッ素化合物等の剥離剤を塗布したものが使用されている。その際、少量の剥離剤にて容易な剥離を得るためには、塗布した剥離剤を剥離紙用原紙中に浸透させずに原紙表面上に留める必要がある。そのため、原紙には目止め性の高いグラシン紙、クレーコート紙、ポリエチレンラミネート紙、フィルム等が用いられている。ポリエチレンラミネート紙やフィルムは、剥離剤の目止め性は非常に優れ、吸湿による寸法安定性も優れるが、熱による収縮が大きい、回収が出来ない、製造コストが高い等の問題点がある。
【0003】
また、グラシン紙は強叩解したパルプを使用し、シリコーン樹脂等の剥離剤を塗る面に剥離剤の目止性を高めるためポリビニルアルコールや澱粉などの水溶性高分子樹脂を塗布し、更に高湿化でカレンダーやスーパーカレンダーによりシートを圧縮処理するのが一般的である(特許文献1〜5参照)。しかし、パルプを高叩解し更に圧縮処理を行って高密度化しているため、水分に対する反応性が非常に高く、吸湿等による繊維の膨張を吸収できる空隙が極めて少ないため、水溶性高分子樹脂を塗布しただけでは寸法安定性は十分なものとはならない。また、グラシン紙は、原料の原料のパルプを極度に叩解して使用する上、カレンダー処理等によって繊維間結合が強固になっているため、離解再生しようとしても、水中で分散しないという欠点を有している。さらに、たとえ、機械的処理を強化しても、叩解処理の強化により繊維が著しく損傷している上、離解処理によりさらに繊維の損傷が進行するので、一般の紙の原料として再利用することは困難である。
【0004】
【特許文献1】特許第3250340号公報
【特許文献2】特開平4−327300号公報
【特許文献3】特開平9−31898号公報
【特許文献4】特開平9−41286号公報
【特許文献5】特開平9−176990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ラベル用剥離紙用原紙、粘着テープ用剥離紙用原紙、工程紙用原紙として使用され、剥離剤の目止め性、湿度変化によるカール及び加熱前後の寸法安定性に優れ、かつ再生性を有する剥離紙用原紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、機械的叩解処理により、パルプ繊維が著しく損傷を受け内部フィブリル化が進行するため、叩解を進めたパルプ原料を用いて紙とした場合には、パルプ繊維間の結合面積が大きくなると同時に高密度化するため、吸湿等によりパルプ繊維が膨張した際の歪みを吸収することが出来ないため、寸法安定性が著しく低下することに着目し、パルプ懸濁液中にキャビテーションによって気泡を発生させ、これをパルプ懸濁液に接触させ、微細気泡の崩壊衝撃力によってパルプ繊維表面に対して選択的に負荷を与えて繊維の損傷と内部フィブリル化の進行を抑え濾水度を調整したパルプを用いることによって、寸法安定性に優れた剥離紙原紙の本発明を完成するに至った。
【0007】
また、本発明者らは、再生パルプの製造において、大部分のインキがパルプ繊維及び/または塗工層表面に付着していることに着目し、従来のパルプ繊維全体に対して負荷を与えるインキ剥離方法ではなく、パルプ懸濁液中にキャビテーションによって気泡を発生させ、これをパルプ懸濁液に接触させ、パルプ繊維表面に対して選択的に負荷を与えてインキを剥離する方法により、パルプ繊維表面に付着しているインキの剥離・微細化を促進し、高白色度で残インキの少ない高品質パルプが得られることを見出し、古紙を利用した際においても寸法安定性に優れた剥離紙原紙の発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は上記パルプを含有する基紙の少なくとも片面に、目止め層を設けた剥離紙用原紙である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、剥離紙用原紙の寸法安定性を顕著に改善し、かつ再生性も低下しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の剥離紙用原紙に用いるパルプ原料としては、パルプ懸濁液中にキャビテーションによって気泡を発生させ、これをパルプ懸濁液に接触させて処理(以下キャビテーション処理という)することにより、所望の濾水度に調製されたパルプ、あるいはパルプ繊維に付着している汚染物質を除去したパルプである。
【0011】
本発明においてキャビテーション処理の対象とするパルプは、針葉樹または広葉樹を原料とするもので、クラフトパルプ等の化学パルプ、砕木パルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ等の機械パルプである。また、古紙から製造された再生パルプ等が挙げられる。古紙としては、例えば、新聞、チラシ、更系雑誌、塗工紙系雑誌、感熱記録紙、感圧記録紙、模造紙、色上質紙、電子写真用転写紙、コンピューターアウトプット用紙、あるいはこれらの混合古紙に適用できる。
【0012】
キャビテーションは液体が加速され、局所的な圧力がその液体の蒸気圧より低くなったときに発生するため、流速及び圧力が特に重要となる。このことから、キャビテーション状態を表わす基本的な無次元数、キャビテーション数(Cavitation Number)σは次のように定義される(加藤洋治編著、新版キャビテーション基礎と最近の進歩、槇書店、1999)。
【0013】
【数1】

【0014】
(p:一般流の圧力、U:一般流の流速、pv:流体の蒸気圧、ρ:流体の密度)
ここで、キャビテーション数が大きいということは、その流れ場がキャビテーションを発生し難い状態にあるということを示す。特にキャビテーション噴流のようなノズルあるいはオリフィス管を通してキャビテーションを発生させる場合は、ノズル上流側圧力p1、ノズル下流側圧力p2、試料水の飽和蒸気圧pvから、キャビテーション数σは下記式(2)のように書きかえることができ、キャビテーション噴流では、p1、p2、pv間の圧力差が大きく、p1≫p2≫pvとなることから、キャビテーション数σはさらに以下のように近似することができる(H. Soyama, J. Soc. Mat. Sci. Japan, 47(4), 381 1998)。
【0015】
【数2】

【0016】
本発明におけるキャビテーションの条件は、上述したキャビテーション数σが0.001以上0.5以下であることが望ましく、0.003以上0.2以下であることが好ましく、0.01以上0.1以下であることが特に好ましい。キャビテーション数σが0.001未満である場合、キャビテーション気泡が崩壊する時の周囲との圧力差が低いため効果が小さくなり、0.5より大である場合は、流れの圧力差が低くキャビテーションが発生し難くなる。
【0017】
また、ノズルまたはオリフィス管を通じて噴射液を噴射してキャビテーションを発生させる際には、噴射液の圧力(上流側圧力)は0.01MPa以上30MPa以下であることが望ましく、0.7MPa以上15MPa以下であることが好ましく、2MPa以上10MPa以下であることが特に好ましい。上流側圧力が0.01MPa未満では下流側圧力との間で圧力差を生じ難く作用効果は小さい。また、30MPaより高い場合、特殊なポンプ及び圧力容器を必要とし、消費エネルギーが大きくなることからコスト的に不利である。
【0018】
また、噴射液の噴流の速度は1m/秒以上200m/秒以下の範囲であることが望ましく、20m/秒以上100m/秒以下の範囲であることが好ましい。噴流の速度が1m/秒未満である場合、圧力低下が低く、キャビテーションが発生し難いため、その効果は弱い。一方、200m/秒より大きい場合、高圧を要し特別な装置が必要であり、コスト的に不利である。
【0019】
本発明で用いることが出来るキャビテーションの発生手段としては、液体噴流による方法、超音波振動子を用いる方法、超音波振動子とホーン状の増幅器を用いる方法、レーザー照射による方法などが挙げられこれらに限定するものではないが、液体噴流を用いる方法がキャビテーション気泡の発生効率が高く、より強力な崩壊衝撃力を持つキャビテーション気泡雲を形成することから好ましい。また、キャビテーション処理はタンクなど任意の容器内若しくは配管内で行うことができるが、これらに限定するものではない。また、ワンパスで処理することも可能であるが、必要回数だけ循環させることによって更に剥離効果を増大できる。さらに複数のキャビテーション発生装置を用いて並列で、あるいは、順列で処理することができる。
【0020】
本発明で用いることが出来る液体噴流によるキャビテーションの発生方法では、パルプ懸濁液に対する噴射液として、蒸留水、水道水、工業用水、製紙工程で回収される再用水、パルプ搾水、白水、パルプ懸濁液、アルコールなどを噴射することができるが、これらに限定するものではない。好ましくは、パルプ懸濁液自体を噴射することで処理対象とする全量を循環させて処理することが可能であり好ましい。
【0021】
また、本発明におけるキャビテーション処理におけるパルプの濃度は5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは4重量%以下、さらに好ましくは0.1〜3重量%の範囲であることが処理することが気泡の発生効率の点から好ましい。
【0022】
本発明のキャビテーション処理は、パルプ化工程及び調成工程のいかなる場所にも適用することができるが、繊維状物質が解繊されてパルプ状となった段階で適用することが好適である。また、機械力による従来の叩解機による叩解処理と本発明のキャビテーションによる叩解処理とを組合わせてもよい。
【0023】
本発明のキャビテーション処理を再生パルプに適用する場合において、再生パルプの原料として、新聞、チラシ、更紙系雑誌、コート紙系雑誌、感熱・感圧紙、模造・色上質紙、コピー用紙、コンピューターアウトプット用紙、あるいはこれらの混合古紙に適用できる。特に、夏場などに経時劣化した新聞古紙や更紙系雑誌、トナー印刷物などを含むオフィス古紙などを上記古紙と、同時にあるいは別々に処理する場合に特に優れた効果を発揮する。さらに、上記古紙にラミネート加工された紙やUV樹脂インキなどで印刷された紙などの禁忌品が混入している場合に特に優れた効果を発揮する。禁忌品とは、古紙再生促進センターが定義(財団法人古紙再生促進センター編、古紙ハンドブック1999、p4)するA類、B類全般を指す。オフィス古紙としては、古紙再生促進センターが定義(古紙ハンドブック1999、p3)する上質系オフィス古紙全般を指すが、事業所及び家庭から古紙または紙ゴミとして回収される古紙であれば、これらに限定するものではない。古紙に含まれるトナー以外のインキとしては公知の印刷インキ(日本印刷学会編、“印刷工学便覧”、技報堂、p606、1983)、ノンインパクトプリンティングインキ(“最新・特殊機能インキ”、シーエムシー、p1、1990)等が挙げられる。新聞や更系雑誌に用いられる非加熱の浸透乾燥方式のオフセットインキとしては公知の新聞・更紙用オフセットインキ(後藤朋之、日本印刷学会誌、38(5)、7、(2001)など)が挙げられるが、これらに限定するものではない。本発明は特にこのような複数のインキによって印刷された古紙を処理する場合に好適である。また、パルプ繊維と灰分の比率については特に制限はない。
【0024】
キャビテーション処理は、高濃度パルパー等の機械力を伴うインキ剥離工程と、フローテーション及び/または洗浄法によるインキ除去工程からなる、古紙を再生するために用いられる脱墨工程のいかなる場所にも適用できる。
【0025】
機械力によってインキを剥離する装置としては、タブ式またはドラム式パルパーやニーダー、マイカプロセッサー、ディスパーザーなどやCarreらの文献(B. Carre, Y. Vernac and G. Galland, Pulp and Paper Canada, 99(9), 46 (1998).)に示される各種離解、混錬、分散技術に基づく装置が挙げられる。特に、機械力によるインキ剥離装置と本発明を組合わせることで、2種の異なる機構によってインキ剥離を行うため、より作用効果が大きくなる。更に必要に応じて水酸化ナトリウム、珪酸ソーダ、その他のアルカリ薬品、脱墨剤、酸化性漂白剤、還元性漂白剤を加えることができる。更に、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等も必要に応じて添加しても何ら問題はない。用いるインキ剥離装置及びインキ除去装置、或いは処理条件については、特に制限はない。また、異物除去や高白色度化が必要ならば、上記脱墨工程に通常用いられている異物除去工程又は漂白工程などを組み入れることができる。
【0026】
本発明におけるキャビテーションの発生手段としては、液体噴流による方法、超音波振動子を用いる方法、超音波振動子とホーン状の増幅器を用いる方法、レーザー照射による方法などが挙げられるが、これらに限定するものではない。好ましくは、液体噴流を用いる方法が、キャビテーション気泡の発生効率が高く、より強力な崩壊衝撃力を持つキャビテーション気泡雲を形成するためインキ等の汚染物質に対する作用効果が大きい。上記の方法によって発生するキャビテーションは、従来の流体機械に自然発生的に生じる制御不能の害悪をもたらすキャビテーションと明らかに異なる。
【0027】
本発明における液体噴流によるキャビテーションの発生方法では、パルプ懸濁液に対して、噴射液体として、例えば、蒸留水、水道水、工業用水、製紙工程で回収される再用水、パルプ搾水、白水、パルプ懸濁液、アルコールなどを噴射することができるが、これらに限定するものではない。好ましくは、パルプ懸濁液自体を噴射することで、噴流周りに発生するキャビテーションによる作用効果に加え、高圧でオリフィスから噴射する際の流体力学的剪断力による汚染物質の剥離効果が得られるため、より大きな作用効果を発揮する。さらに、ポンプや配管から受ける剪断力による剥離効果を得ることができる。なお、噴射液体としてパルプ懸濁液を用いる場合、処理対象とする全量を循環させて処理することも可能である。
【0028】
また、処理時のパルプ懸濁液のpHは、好ましくはpH1〜13、より好ましくはpH3〜12、更に好ましくはpH4〜11である。pHが1未満であると装置の腐食などが問題となり、材質及び保守等の観点から不利である。一方、pHが13を超えると、パルプ繊維のアルカリ焼けが生じ、白色度が低下するので好ましくない。アルカリ条件である方がパルプ繊維の膨潤性がよく、OH活性ラジカルの生成量が増加することから望ましい。
【0029】
本発明は、従来の脱墨技術では困難な、比較的低濃度、低温でのダートの剥離・微細化に効果を発揮する。従って、本技術を用いることで、パルプを過度に脱水し高濃度化することなく高品質のパルプを製造できる。
【0030】
また、本発明はパルプ繊維からインキを剥離するに際して、特に脱墨薬品を使用しなくともインキを剥離することができる。従来の脱墨工程で使用されるニーダーのような機械的インキ剥離方法では、パルプ繊維を高濃度で擦り合わせるため、インキの剥離と同時にパルプ繊維内部へのインキの擦り込みが生じるため、残存インキ量が減少しても白色度が向上しないという現象を生じるが、本発明による方法では、低濃度でインキの剥離・分散を促進するため、パルプ繊維内部への擦り込みが発生し難くく、白色度の高いパルプが得られる。
【0031】
本発明では、キャビテーションを発生する工程と、それ以降に続くフローテーション及び/または洗浄からなるインキ除去工程を適宜組合わせることで、剥離したインキ等が効果的に除去されることから、より白色度の高い高品質のパルプを得ることができる。更に、複数のインキ剥離工程とインキ除去工程と本発明を組合わせることでより良い効果を得ることができる。フローテーション、洗浄装置としては、公知または新規の繊維から汚染物質の分離を目的としたいかなる装置を用いてもよい。
【0032】
本発明では、液体の噴射圧力を高めることで、噴射液の流速が増大し、より強力なキャビテーションが発生する。更に被噴射液を収める容器を加圧することで、キャビテーション気泡が崩壊する領域の圧力が高くなり、気泡と周囲の圧力差が大きくなるため気泡は激しく崩壊し衝撃力も大となる。キャビテーションは液体中の気体の量に影響され、気体が多過ぎる場合は気泡同士の衝突と合一が起こるため崩壊衝撃力が他の気泡に吸収されるクッション効果を生じるため衝撃力が弱まる。従って、溶存気体と蒸気圧の影響を受けるため、その処理温度は融点以上沸点以下でなければならない。液体が水を媒質とする場合、好ましくは0〜80℃、更に好ましくは10℃〜60℃の範囲とすることで高い効果を得ることができる。一般には、融点と沸点の中間点で衝撃力が最大となると考えられることから、水溶液の場合、50℃前後が最適であるが、それ以下の温度であっても、蒸気圧の影響を受けないため、上記の範囲であれば高い効果が得られる。80℃よりも高い温度では、キャビテーションを発生するための圧力容器の耐圧性が著しく低下するため、容器の損壊を生じやすいため不適である。
【0033】
本発明においては、界面活性剤などの液体の表面張力を低下させる物質を添加することで、キャビテーションを発生させるために必要なエネルギーを低減することができる。添加する物質としては、公知または新規の界面活性剤、例えば、脂肪酸塩、高級アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール、アルキルフェノール、脂肪酸などのアルキレンオキシド付加物などの非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、あるいは、有機溶剤、タンパク質、酵素、天然高分子、合成高分子などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの単一成分からなるものでも2種以上の成分の混合物でも良い。添加量は噴射液及び/または被噴射液の表面張力を低下させるために必要な量であればよい。また、添加場所としてはキャビテーションを発生させる場所よりも前の工程のいかなる場所でもよく、液体を循環させる場合は、キャビテーションを発生させる場所以降であっても構わない。
【0034】
パルプの叩解度は、用いられる用途により適宜調整すればよい。例えば、光透過式位置検出機を有したラベラーに用いるラベル用剥離紙では光透過性が必要となるため、パルプの叩解度はカナダ標準ろ水度で100ml以上350ml以下にすることが好ましい。カナダ標準ろ水度が100ml未満の場合、抄紙時ワイヤーパートにおいて脱水性が著しく低下し、このため抄紙速度を大幅に低下させなければならないので、好ましくない。また、ろ水度が350mlを越えると繊維間の結合面積が低下するため、加圧緻密化しても光透過性の向上幅が低く目的の光透過率は得られない。また、寸法安定性がより重要な工程紙原紙においては、パルプ叩解度はカナダ標準ろ水度で300ml以上500ml以下にすることが好ましい。カナダ標準ろ水度が300ml未満では寸法安定性が悪化してしまい、500mlを超えるとポーラスな原紙構造となりすぎるため、剥離剤の目止め層や剥離剤が基紙にしみ込みやすくなるので、目止め層の塗工量が増加する上、基紙の平滑性が損なわれるので好ましくない。
【0035】
本発明の剥離紙用原紙はキャビテーション処理したパルプを使用することが必須であるが、一般的な叩解機、例えば、ディスク型、コニカル型及びドラム型のリファイナーにより叩解されたパルプを併用することもできる。しかしながら、その場合には全パルプ成分において、キャビテーション処理されたパルプの配合率が50重量%以上であることが望ましい。キャビテーション処理されたパルプの配合率が50重量%より少ない場合には十分な寸法安定性が得られず、カールが発生する可能性がある。
【0036】
本発明の剥離紙用原紙の基紙は公知の抄紙機にて製造されるが、その抄紙条件は特に規定されるものではない。抄紙機としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機等が使用される。
【0037】
上記基紙の抄造に関しては、紙力増強剤、定着剤、歩留向上剤、染料などの内添薬品及び、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、水酸化アルミニウムなどの内添填料を添加することが可能である。
【0038】
本発明において、剥離剤の目止め性効果を得るための塗布液(以下、目止め性付与液)としては、ポリビニルアルコールと澱粉を混合配合したもの、あるいはそれぞれ単独のものを使用し、基紙の少なくとも一方の面に塗布し、目止め層を設けることが必要である。ポリビニルアルコールとしては完全鹸化型、あるいは部分鹸化型のポリビニルアルコールの使用が可能である。デンプンとしては未変性デンプンも使用可能であるが酵素変成デンプン、酸化変成デンプン、及び燐酸エステル化デンプン、ヒドロキシエチル化デンプン、カチオン化デンプン、ジアルデヒド化デンプン等の変成デンプンの使用が可能である。目止め層の塗布量としては、固形分で片面当たり1.0g/m以上10.0g/m以下が好ましく、より好ましい範囲は2.0g/m以上7.0g/m以下である。塗布量が2.0g/m未満では、剥離剤の目止め性及び紙粉抑制効果が不十分であり、10g/mを超えると、剥離剤の目止め性は十分であるが、乾燥負荷が増大し、乾燥工程やカレンダー工程でロールやカンバス汚れが発生する。上記目止め性付与液には、ポリビニルアルコール及び澱粉以外に、カゼイン、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂等の中から適宜選択して使用することができ、1種以上を併用してもよい。また、分散剤、離型剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、防腐剤、耐水化剤等の通常使用される各種助剤を含有させても良い。
【0039】
目止め性付与液の基紙への付与方法としては、抄紙工程の中間に設置されたブレードコーター、ゲートロールコーター、エアーナイフコーター、コンマコーター、バーコーター等の塗工機による付与が可能である。また成紙後、後加工で前述の塗工機による付与も可能である。しかし、抄紙工程の中間に設置された塗工機を用いる所謂オンマシン塗工は、基紙を抄紙機によって抄造した後、オフマシンにて塗工する場合より製造コストが大幅に低減できるため、好ましい。
【0040】
本発明の剥離紙用原紙は下記の方法にて測定された水伸びが1.8%以下であることが好ましい。水伸びが1.8%より大きい場合には外部環境の変化で吸湿等が起こると直ちにカールが発生する。このように発生するカールは、打ち抜き、印刷、シートカット等の加工の際、給紙不良、紙不揃い、印刷ずれ等のトラブルを引き起こし作業面及び品質面において重大な障害となる。水伸びの測定は、試験片を23℃、50%R/H雰囲気下で調湿後、試験片を抄紙横方向に長さ15cmでサンプリングし、その長さを正確に測定し、その後純水中に1時間放置した後に取りだし、直ちに横方向の長さを正確に測定し、式(1)によって算出する。
【0041】
水伸び(%)=(水浸漬後長さ−水浸漬前長さ)/水浸漬前長さ×100 式(1)
また、本発明の剥離紙用原紙は下記の方法にて測定された吸湿伸びが0.6%以下であることが好ましい。吸湿伸びが0.6%より大きい場合には、工程紙原紙に用いた場合、塩ビレザーなどの材料を工程紙上に乗せ、溶剤を乾燥させるためにドライヤーを通すが、ドライヤーから出た後の吸湿により原紙にしわの発生が起こり問題となる。吸湿伸びの測定は、抄紙横方向に長さ15cmでサンプリングした試験片を110℃で10分間加熱した後取り出し、直ちに試験片の長さを正確に測定し、その後23℃、50%R/H雰囲気下で調湿した後、試験片の長さを正確に測定し、式(2)によって算出する。
【0042】
吸湿伸び(%)=(調湿後長さ−乾燥後長さ)/乾燥後長さ×100 式(2)
かくして得られた剥離紙用原紙を使用して剥離紙を製造する場合、上記剥離紙用原紙の目止め層上に、剥離剤を塗布して剥離層を設ける、剥離剤としては、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アルキド系樹脂等が使用できる。その塗布量は特に限定されるものではないが、固形分で0.1g/m以上3.0g/m以下、好ましくは0.5g/m以上2.0g/m以下の範囲で適宜調節される。なお、剥離剤の塗布量が0.1g/mより少ない場合は、剥離性が不足し重剥離になり、3.0g/mより多い場合、経済的な面から実用性が乏しい。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等制約を受けるものではない。なお、例中の部及び%はそれぞれ重量部及び重量%を示す。また、塗布量、部数、混合割合等は全て固形分で表した。
【0044】
また、シリコーン目止め性、水伸び、吸湿伸び、離解性は下記の方法によって測定及び評価した。
・シリコーン目止め性:油性マジックインキにより剥離紙用原紙の目止め層表面を塗りつぶし、版対面へのマジックインキの裏抜けの程度を目視観察した。
評価基準 ○:裏抜け無し、△:一部裏抜け、×:全面に裏抜け
・水伸び:試験片を23℃、50%R/H雰囲気下で調湿し、試験片の抄紙横方向に長さ15cmでサンプリングし、その長さを正確に測定した。その後純水中に1時間放置した後に取りだし、直ちに横方向の長さを正確に測定し、式(1)によって算出した。
水伸び(%)=(水浸漬後長さ−水浸漬前長さ)/水浸漬前長さ×100 式(1)
・吸湿伸び:抄紙横方向に長さ15cmでサンプリングした試験片を110℃で10分間加熱した後取り出し、直ちに試験片の長さを正確に測定した。その後23℃、50%R/H雰囲気下で調湿した後、試験片の長さを正確に測定し、式(2)によって算出した。
吸湿伸び(%)=(調湿後長さ−乾燥後長さ)/乾燥後長さ×100 式(2)
・離解性:試料を1cm角に裁断し、2%試料濃度、容量2LでTappi標準離解機により20分離解処理し、一部をガラス製容器に入れ多量の水に分散し、離解の程度を目視観察する。
評価基準 ○:離解性良好、△:一部未離解物が残る、×:離解不能
【0045】
<キャビテーションによるパルプの叩解>
図1に示すようなキャビテーション噴流式洗浄装置(ノズル径1.5mm)を用いて、噴射液及び容器内のパルプ懸濁液の濃度を1.1重量%として、キャビテーション処理によるパルプの叩解を行い、処理時間を変化させてろ水度を調整した。尚、噴射液の圧力は7MPa(噴流の流速70m/秒)、被噴射容器内の圧力は0.3MPaとした。処理に用いたパルプとして、広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、さらに、新聞古紙、チラシ古紙、コート系雑誌古紙、及び更系雑誌古紙を40/30/15/15の重量比で配合された古紙に対して、水酸化ナトリウムを対パルプ1.0重量%となるように加え、水でパルプ濃度15重量%に調整した後、パルパーを用いて40℃で、6分間離解して調製した古紙パルプを使用した。
【0046】
<ダブルディスクリファイナーによる叩解>
ダブルディスクリファイナー(DDR)を用いて叩解を行い、ろ水度を調整した。
【0047】
[実施例1]
キャビテーション処理によってカナダ標準ろ水度220mlに調整した広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)が70重量%、同様にキャビテーション処理によってカナダ標準ろ水度500mlに調整した針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)が30重量%の配合比で、混合カナダ標準ろ水度が304mlの原料パルプを用い、湿潤紙力剤(商品名:WS547、日本PMC製)を0.1重量%添加し、硫酸バンドで抄紙pHが4.5になるように調整後、長網多筒式の抄紙機により抄紙を行った。また、抄紙工程中間に設置されたブレードコーターにより、目処め性付与液として部分鹸化ポリビニルアルコール70重量部、燐酸エステル化澱粉30重量部の混合液を5.5g/m塗布した。さらに、成紙工程の後段のカレンダーにより密度を1.0g/cmとなるように加圧圧縮し、坪量65g/mの剥離紙用原紙を製造した。この剥離紙用原紙について剥離剤目止め性、水伸び、吸湿伸び、離解性の評価を行い、結果を表1に示した。
【0048】
[実施例2]
キャビテーション処理によってカナダ標準ろ水度400mlに調整したLBKPが70重量%、同様にキャビテーション処理によってカナダ標準ろ水度500mlに調整したNBKPが30重量%の配合比で、混合カナダ標準ろ水度が430mlの原料パルプを用いた以外は、実施例1と同様にして剥離紙用原紙を作成し、実施例1と同様に評価を行い、結果を表1に示した。
【0049】
[実施例3]
原料パルプとして実施例2の原料パルプ(カナダ標準ろ水度430ml)70重量%、キャビテーション処理によって得られた再生パルプ(カナダ標準ろ水度330ml)30重量%の配合比で、混合カナダ標準ろ水度が400mlの原料パルプを用いた以外は、実施例1と同様にして剥離紙用原紙を作成し、実施例1と同様に評価を行った。
【0050】
[比較例1]
DDR処理によってカナダ標準ろ水度220mlに調整したLBKPが70重量%、同様にDDR処理によってカナダ標準ろ水度500mlに調整したNBKPが30重量%の配合比で、混合カナダ標準ろ水度が304mlの原料パルプを用いた以外は、実施例1と同様にして剥離紙用原紙を作成し、実施例1と同様に評価を行った。
【0051】
[比較例2]
DDR処理によってカナダ標準ろ水度400mlに調整したLBKPが70重量%、同様にDDR処理によってカナダ標準ろ水度500mlに調整したNBKPが30重量%の配合比で、混合カナダ標準ろ水度が430mlの原料パルプを用いた以外は、実施例2と同様にして剥離紙用原紙を作成し、実施例1と同様に評価を行った。
【0052】
[比較例3]
DDR処理によってカナダ標準ろ水度510mlに調整したLBKPが70重量%、同様にDDR処理によってカナダ標準ろ水度530mlに調整したNBKPが30重量%の配合比で、混合カナダろ水度が516mlの原料パルプを用いた以外は、実施例1と同様にして剥離紙用原紙を作成し、実施例1と同様に評価を行った。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から明らかなように、実施例1及び2は目止め性、水伸び、吸湿伸び、離解性全てにおいて良好であった。また、水伸び及び吸湿伸びが良好であるため、環境変化に対するカールの発生がないことも確認された。一方、比較例1及び2は水伸び及び吸湿伸びが悪く、カールの発生が起こった。また、比較例1は、目止め性は良好であるが、離解性において満足のいくものではなく、カールの発生も顕著であった。比較例3では水伸び及び吸湿伸びに優れるため、カールの状況は良好であったが、目止め性が劣る結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例で使用したキャビテーション噴流式洗浄装置の概略図である。
【符号の説明】
【0056】
1:試料タンク
2:ノズル
3:キャビテーション噴流セル
4:プランジャポンプ
5:上流側圧力制御弁
6:下流側圧力制御弁
7:上流側圧力計
8:下流側圧力計
9:給水弁
10:循環弁
11:排水弁
12:温度センサー
13:ミキサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ懸濁液中にキャビテーションによって気泡を発生させ、これをパルプ懸濁液に接触させて処理したパルプを含有する基紙の少なくとも片面に、目止め層を設けることを特徴とする剥離紙用原紙。
【請求項2】
キャビテーションによって気泡を発生させ、これをパルプ懸濁液に接触させてパルプ繊維に付着している汚染物質を除去した再生パルプを含有する基紙の少なくとも片面に、目止め層を設けることを特徴とする剥離紙用原紙。

【図1】
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【公開番号】特開2006−257630(P2006−257630A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43100(P2006−43100)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】