説明

副甲状腺ホルモンおよびカルシトニンの経口投与

【課題】高カルシウム血症、高カルシウム尿症および腎結石症の副作用のない、副甲状腺ホルモン、すなわちPTHの経口投与組成物。
【解決手段】有効量のPTHおよび有効量のカルシトニン含んでなる経口的共投与用組成物。カルシトニンは、サケカルシトニンが好ましく、PTHはヒト型のPTHが好ましく用いられる。骨粗しょう症の処置または予防、そして骨形成の刺激に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、副甲状腺ホルモン(PTH)の経口送達に関する。さらに特に、本発明は、PTHの経口投与のために、PTHと組み合せたカルシトニンの使用を目的とする。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の記載
PTH、PTH関連ペプチド、およびPTHアナログでの動物およびヒトにおけるPTH研究は、骨形成および骨吸収の増加においてその有用性を示し、そして、骨粗しょう症および関連する骨障害の処置のためのその使用において極めて興味深い。しかしながら、PTHの臨床的利用性は、高カルシウム血症、高カルシウム尿症および腎結石症の発生により制限される。これらの潜在的に毒性を有する副作用およびカルシウム代謝における変質の発生は、より高用量のPTHの利点を活用するのに障害となっており、そして、安全のために、PTHの血漿濃度を狭い範囲内に維持することが必要とされてきた。
【0003】
主に破骨細胞により媒介される、高カルシウム血症作用が、主に造骨細胞により媒介される、骨形成作用と分離され得るならば、経口的PTH治療の治療域(therapeutic window)が広がるであろう。PTHとは対照的に、カルシトニンは、破骨細胞と直接的に相互作用することにより血清カルシウム濃度を減少させ、これによって、破骨細胞による骨吸収表面積の減少および正味の骨吸収の減少がもたらされる。血漿カルシウム濃度の減少により、対応して尿中カルシウム濃度が減少し、これは腎結石症の既知のリスクファクターである。本発明は、PTH投与のための治療域を広げ、そして潜在的に毒性のある高カルシウム血症の副作用なしに、より多い用量のPTHの経口投与を可能にする、PTHの経口投与法を記載する。
【発明の概要】
【0004】
発明の要約
したがって、本発明は、有効投与量のPTHを経口投与する方法であって、PTHを必要とする患者に、有効量のPTHおよび有効量のカルシトニンを経口的に共投与することを含んでなる方法を目的とする。
【0005】
霊長類へのPTHの投与は、血清副甲状腺ホルモンおよび血清カルシウムの血漿濃度の上昇をもたらす。逆に、霊長類へのサケカルシトニン(sCT)の投与は、血漿sCT濃度の上昇および血清カルシウムの減少をもたらす。今回、PTHおよびカルシトニンの組合せ剤の経口投与が、それぞれの剤の単独投与で得られるのと同様のPTHおよびカルシトニン血漿濃度レベルをもたらすが;極めて驚くべきことに、カルシトニン単独で観察されるレベルまで、血清カルシウム濃度の減少をもたらすことが見出された。実質的に、カルシトニンはPTHの高カルシウム血症作用を打ち消すが、カルシトニンが、単独で、すなわちPTHの不存在下で、投与される場合に得られるのと同じ血清カルシウムの減少をもたらす。PTH治療とともにカルシトニンを投与することにより、高カルシウム血症の副作用なしに、現在妨げられているPTH投与量のさらなる治療効果が可能になる。さらに、カルシトニンは、PTHの投与に通常伴う骨疼痛の相殺に有用である鎮痛効果を提供する。
【0006】
本発明は、また、新生骨形成を刺激する方法であって、新生骨形成を必要とする患者に、治療上有効量のPTHおよび治療上有効量のカルシトニンを経口投与することを含んでなる方法を目的とする。
【0007】
さらなる実施態様において、本発明は、骨粗しょう症の処置または予防方法であって、該処置または予防を必要とする患者に、治療上有効量のPTHおよび治療上有効量のカルシトニンを経口投与することを含んでなる方法を目的とする。
【0008】
本発明は、また、例えば、PTHおよびカルシトニンの同時的(simultaneous)、同時(concurrent)または連続的経口投与のための、PTHおよびカルシトニンを含んでなる、経口送達に適した組成物を目的とする。
【0009】
本発明は、さらに、例えば、PTHおよびカルシトニンの同時的、同時または連続的経口投与のための、新生骨形成の刺激用の経口投与可能な医薬の製造のための、PTHおよびカルシトニンの使用を目的とする。
【0010】
本発明は、さらに、PTHおよびカルシトニンの経口投与のための、例えばそれらの同時的、同時または連続的経口投与のための、指導書とともに、経口投与に適したPTHおよびカルシトニンを含んでなる、新生骨形成の刺激のためのキットを目的とする。
【0011】
本発明のさらなる特徴および利点は、下記の本発明の詳細な記載から、明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な記載
副甲状腺ホルモン、すなわちPTHは、ヒトの体内で骨を形成するための、カルシウムおよびリン酸代謝の制御においてhPTH(1〜84)の活性を模倣することができる、完全長、84アミノ酸形態の副甲状腺ホルモン、例えば、ヒト型、hPTH(1〜84)、または任意のポリペプチド、タンパク質、タンパク質フラグメント、または修飾されたフラグメント、すなわち、PTH関連ペプチドおよびPTHアナログであり得る。PTHフラグメントには、一般に、少なくとも最初の28のN末端残基が組み込まれており、そしてPTH(1〜28)、PTH(1〜31)、PTH(1〜34)、PTH(1〜37)、PTH(1〜38)およびPTH(1〜41)またはそれらのアナログ、例えばPTS893を含む。PTHは、単一のPTHであるか、または2もしくはそれ以上のPTHの任意の組合せであり得る。これらの副甲状腺ホルモンは、商品として入手可能であるか、または組換え的に、ペプチド合成により、もしくは当分野において十分に確立された方法によるヒトの体液からの抽出により、入手可能である。
【0013】
本発明において使用するためのカルシトニンは、天然、合成または組換え源のものを含む任意のカルシトニン、ならびに、1,7−Asn−ウナギカルシトニンのようなカルシトニン誘導体であり得る。サケ、ブタおよびウナギカルシトニンを含む種々のカルシトニンは、商品として入手可能であり、例えばページェット病、悪性の高カルシウム血症および骨粗しょう症の処置に通常使用される。カルシトニンは、単一のカルシトニン、または2もしくはそれ以上のカルシトニンの組合せを含み得る。好適なカルシトニンは、合成サケカルシトニンである。
【0014】
カルシトニンは、商品として入手可能であるか、または既知の方法により入手され得る。
【0015】
投与されるべきPTHの量は、一般に、新生骨形成を刺激するのに有効な量、すなわち治療上有効量である。この量は、必然的に、処置されるべき対象の年齢、大きさ、性別および状態、処置されるべき障害の性質および重症度などに応じて変動する。しかしながら、その量は、複数の組成物が投与される場合の量よりも少なくてもよい、すなわち、総合的有効量が、累積的投与単位で投与され得る。PTHの量は、また、組成物が薬理学的活性剤の持続的放出を提供する場合には、有効量以上であり得る。使用されるべきPTHの総量は、当業者に既知の方法により決定され得る。しかしながら、一般に、満足な結果が、約0.001μg/kg〜約10mg/kg(動物の体重)、好ましくは約1μg/kg〜約6μg/kg(体重)の1日投与量で、全身的に得られる。
【0016】
投与されるべきカルシトニンの適当な量は、もちろん、例えば、投与されるべきPTHの量、および処置される病状の重症度に依存して変動する。しかしながら、一般に、満足な結果が、約0.5μg/kg〜約10μg/kg(動物の体重)、好ましくは約1μg/kg〜約6μg/kg(体重)の1日投与量で、全身的に得られる。
【0017】
経口投与は、規則的に(例えば1日または週に1回またはそれ以上);断続的に(例えば1日または1週の間に不規則に);あるいは、周期的に(例えば数日または数週間規則的に、その後に投与しない期間)達成され得る。
【0018】
PTHおよびカルシトニンの共投与には、その2つの化合物の同時的、同時または連続的投与が含まれる。同時的投与は、単一の投与形態でのその2つの化合物の投与を意味し;同時投与は、時間はほぼ同じであるが、別々の投与形態での該2つの化合物の投与を意味し;そして、連続的投与は、一方の化合物の投与の後に、他方の化合物が投与されることを意味する。連続的投与は、また、該2つの化合物の同時的または同時投与、続いて該同時的または同時投与の中止、次いで、該2つの化合物の1つのみの継続的投与の形態をとり得る。
【0019】
本発明にしたがうPTHおよびカルシトニンの経口投与は、任意の既知の方法、例えば、液体または固体の投与形態で、達成され得る。
【0020】
液体投与形態には、溶液、エマルジョン、懸濁液、シロップ剤およびエリキシル剤が含まれる。PTHおよび/またはカルシトニンに加えて、液体製剤には、また、当分野において通常使用される不活性賦形剤、例えばエタノールのような可溶化剤;綿実油、ヒマシ油およびゴマ油のようなオイル;湿潤剤;乳化剤;懸濁化剤;甘味剤;香味剤;および水のような溶媒が含まれ得る。
【0021】
固体投与形態には、カプセル剤、ソフトゲルカプセル剤、錠剤、カプレット、散剤、顆粒剤または他の固体経口投与形態が含まれ、これらはすべて、当分野において周知の方法で製造され得る。PTHおよび/またはカルシトニンに加えて、これらの固体投与形態には、一般に、PTHおよび/またはカルシトニンのための薬学的に許容される送達剤(delivery agent)を含む。
【0022】
適当な送達剤は、米国特許番号第5,866,536号に記載された123の修飾アミノ酸のいずれか、または米国特許番号第5,773,647号に記載された193の修飾アミノ酸のいずれか、あるいはこれらの任意の組合せである。前記の米国特許番号第5,773,647号および5,866,536号の内容を、引用により、それらの全体を、本明細書の一部とする。
【0023】
さらに、送達剤は、前記の修飾アミノ酸の任意の二ナトリウム塩ならびにそのエタノール溶媒和物および水和物であり得る。適当な化合物には、下記の式(I)
【化1】

〔式中、
、R、RおよびRは、独立して、水素、−OH、−NR、ハロゲン、C〜Cアルキル、またはC〜Cアルコキシであり;
は、置換または非置換C〜C16アルキレン、置換または非置換C〜C16アルケニレン、置換または非置換C〜C12アルキル(アリレン)、あるいは、置換または非置換アリール(C〜C12アルキレン)であり;そして
およびRは、独立して、水素、酸素、またはC〜Cアルキルである。〕
で示される化合物;ならびにそれらの水和物およびアルコール溶媒和物が含まれる。式(I)で示される化合物およびそれらの二ナトリウム塩ならびにそれらのアルコール溶媒和物および水和物は、それらの製造方法とともに、WO 00/059863に記載されている。
【0024】
好適な送達剤は、N−(5−クロロサリチロイル)−8−アミノカプリル酸(5−CNAC)、N−(10−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)デカン酸(SNAD)、N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸(SNAC)ならびにこれらの一ナトリウム塩および二ナトリウム塩ならびにこれらのナトリウム塩のエタノール溶媒和物およびこれらのナトリウム塩の一水和物ならびにこれらの任意の組合せである。最も好適な送達剤は、5−CNACの二ナトリウム塩およびその一水和物である。
【0025】
本発明の医薬組成物は、典型的には、1またはそれ以上の送達剤の送達に有効な量、すなわち、所望の効果のためにPTHおよび/またはカルシトニンを送達するのに十分な量を含む。一般に、送達剤は、組成物全体の、2.5〜99.4重量%、さらに好ましくは25〜50重量%の量で存在する。
【0026】
組成物は、さらに、pH調節剤、保存剤、香味料(flavorant)、味覚マスキング剤(taste-masking agent)、芳香剤、湿潤剤、等張化剤(tonicifier)、着色剤、界面活性剤、可塑剤、ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤、流動補助剤、圧縮補助剤、可溶化剤、賦形剤、微晶性セルロースのような希釈剤、例えば、FMC社により供給されるAvicel PH 102、またはこれらの任意の組合せを含み得る。
【0027】
組成物は、また、1またはそれ以上の酵素インヒビター、例えばアクチノニンまたはエピアクチノニンおよびそれらの誘導体;アプロチニン、トラジロールおよびBowman−Birkインヒビターを含み得る。
さらに、トランスポートインヒビター、すなわち、ケトプロフィン(Ketoprofin)のようなρ−糖タンパク質は、本発明の組成物内に存在し得る。
【0028】
本発明の固体医薬組成物は、慣用的方法により、例えば、活性剤(複数も可)、送達剤、および他の任意の成分の混合物を混和すること、練合すること、カプセルに充填すること、またはカプセルに充填する代わりに、成形し、その後さらに打錠もしくは圧縮成形し、錠剤を得ることにより、製造され得る。さらに、固体分散剤は、既知の方法の後に、さらに加工して錠剤またはカプセル剤を形成することにより形成され得る。
【0029】
好ましくは、本発明の医薬組成物中の成分は、固体投与形態を通して、均質または均一に混合される。
本発明の経口投与は、それを必要とする任意の動物(哺乳動物、例えばげっ歯類、ウシ、ブタ、イヌ、ネコおよび霊長類、特にヒトを含むが、これらに限定されるわけではない。)に対してされ得る。
下記の実施例は、本発明をさらに例示するために提供される。
【実施例】
【0030】
実施例1
下記のカプセル剤を、次のように製造する:
400mg 5−CNAC二ナトリウム塩/800mcg sCT/800mcg PTHから製造されたカプセル剤(カプセル1A);
400mg 5−CNAC二ナトリウム塩/800mcg PTHから製造されたカプセル剤(カプセル1B);
400mg 5−CNAC二ナトリウム塩/800mcg sCTから製造されたカプセル剤(カプセル1C);
800mcg PTHから製造されたカプセル剤(カプセル1D)。
【0031】
PTHは、商品として入手可能な、PTHフラグメント1〜34である。sCTは、サケカルシトニンである。カプセル剤は、すべて、個々の成分を秤量し、それらを混和し、均質な混合物を製造することにより乾燥混合物として製造し、次いで、400mgの混合物をそれぞれのカプセルに手で充填する。PTHのみのカプセルに関しては、PTHを秤量し、そして400mgを、直接的に、それぞれのカプセルに入れる。
【0032】
実施例2
霊長類への投与
実施例1において製造されたカプセル剤は、次のようにアカゲザルに投与される:各群4匹のサルに、それぞれ、実施例1において製造された1つのカプセルを次のように投与する:
投与の前にアカゲザルを一夜絶食させ、そして、試験時間の間、十分に意識があるまま椅子に拘束する。胃管栄養チューブを介して、カプセル、続いて10mLの水を投与する。
【0033】
血液サンプルを、投与後、0、0.25、0.5、0.75、1、1.5、2、3、4、5および6時間に回収する。血漿サケカルシトニンおよび血漿PTHをラジオイムノアッセイにより測定する。各グループのサル由来の霊長類血漿サケカルシトニン(sCT)およびPTHを平均化し、そして最大平均血漿カルシトニンを計算し、そして表1〜5に報告する。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
表1〜5のデータから分かるように、sCTおよびPTH血漿レベルは、それらの化合物が個別的にまたはともに投与された場合で本質的に同一である。しかしながら、PTHおよびカルシトニンの組合せ剤の経口投与は、それぞれの剤を単独で投与した場合に得られるのと同様のPTHおよびカルシトニン血漿濃度レベルをもたらす;一方、極めて驚くべきことに、カルシトニン単独で観察されるレベルにまで、血清カルシウム濃度の減少をもたらす。
【0040】
前記の実施態様および実施例は、本発明を例示するためのみに与えられたものであり、限定を意図するものではない。多数の他の実施態様および変形は、本発明の範囲内であり、そして当業者にとって容易に想到されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PTHおよびカルシトニンを含んでなる、経口的共投与用組成物。
【請求項2】
カルシトニンがサケカルシトニンである、請求項1に記載の共投与用組成物。
【請求項3】
新生骨形成を刺激するための、PTHおよびカルシトニンを含んでなる、経口的共投与用組成物。
【請求項4】
カルシトニンがサケカルシトニンである、請求項3に記載の共投与用組成物。
【請求項5】
骨粗しょう症を処置または予防するための、PTHおよびカルシトニンを含んでなる、経口的共投与用組成物。
【請求項6】
カルシトニンがサケカルシトニンである、請求項5に記載の共投与用組成物。
【請求項7】
PTHおよびカルシトニンを含んでなる経口投与用組成物。
【請求項8】
PTHがヒト型のPTHである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
カルシトニンがサケカルシトニンである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
骨形成の刺激のための経口投与可能な医薬の製造のための、PTHおよびカルシトニンの使用。
【請求項11】
PTHがヒト型のPTHである、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
カルシトニンがサケカルシトニンである、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
経口投与のための指導書とともに、経口投与に適したPTHおよびカルシトニンを含んでなる、新生骨形成の刺激のためのキット。

【公開番号】特開2010−189423(P2010−189423A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98631(P2010−98631)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【分割の表示】特願2003−501491(P2003−501491)の分割
【原出願日】平成14年5月31日(2002.5.31)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】