説明

力率計用位相進み/遅れ判別装置

【課題】簡単な構成で測定電力の電流と電圧の位相に対する進み/遅れを測定し得る装置および方法を提供する。
【解決手段】電圧、電流から測定電力の力率を測定するデジタル力率計とともに用いられて電流と電圧の位相の進み/遅れを判別する装置であって、デジタルデータを所定の長さの期間にわたり所定周期で検出する手段と、検出手段からのデータを逐次蓄積していくメモリーのうち、所定時点の新しい電圧データと古い電流データとを乗算する第1積を順次算出する第1乗算器と、メモリーのデータのうち、所定時点の新しい電流データと古い電圧データとを乗算する第2積を順次算出する第2乗算器と、第1積および第2積を各別に積分し平均化して第1演算値および第2演算値を求める演算回路と、第1演算値から第2演算値の差の極性を求める減算器と、差の極性から電圧と電流の位相の進み/遅れを判別する判別器とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力率計とともに用いる装置であり、対象とする測定電力の電圧位相に対する電流位相の進み/遅れを判別する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
商用電源として供給される交流電力は、負荷の一般的特性として電流位相が電圧位相に遅れて力率が悪化するのが通例である。そこで、力率を測定しその程度に応じて進相コンデンサを作用させることにより力率改善を図ることになる。
【0003】
このように、通常の商用電源から電気機器に給電している場合、電流位相は遅れるので、力率は遅れ力率と認識されている。そして、一般に普及している力率計は(遅れ)力率として数値のみを表示するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-262073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、自家発電電力を商用電源と併用する状況になると、必ずしも上記の点が該当せず遅れ力率とは限られなくなる可能性がある。
【0006】
そのような状況では、単に力率の数値が測定できる力率計では不十分であり、進み/遅れが測定できなければ正しい力率改善処置が採れない。
【0007】
しかしながら、従来の力率計は、「数値表示」のみで「進み、遅れ」は表示しない。
【0008】
本発明は上述の点を考慮してなされたもので、簡単な構成で測定電力の電流位相が電圧位相に対する進み/遅れを測定し得る装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的達成のため、本発明では、
力率を測定すべき測定電力における電圧、電流のデジタルデータが与えられ、前記測定電力の力率を測定するデジタル力率計とともに用いられて前記電流の位相が前記電圧の位相に対して進んでいるか遅れているかを判別する装置であって、
前記デジタルデータを所定の長さの期間にわたり所定周期で検出する検出手段と、
前記検出手段から与えられたデータを逐次蓄積していくメモリーと、
前記メモリーに蓄積されたデータのうち、所定の新しい電圧データと所定の古い電流データとを乗算して所定時点における電圧と電流との第1積を順次算出する第1乗算器と、
前記メモリーに蓄積されたデータのうち、所定の新しい電流データと所定の古い電圧データとを乗算して前記所定時点における電流と電圧との第2積を順次算出する第2乗算器と、
前記第1積および前記第2積を各別に積分し平均化して第1演算値および第2演算値を求める演算回路と、
前記第1演算値から前記第2演算値を差し引いて得られる差の極性を求める減算器と、
前記差の極性から前記電圧の位相に対する前記電流の位相の進みまたは遅れを判別する判別器と
をそなえたことを特徴とする力率計用位相判別装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述のように、デジタル力率計に検出手段以下の各要素を付加することにより構成をさほど複雑化することなく電圧に対する電流の位相の進み、遅れを判定することができるため、測定すべき電力が如何なるものであっても力率改善のための適切な対応を執ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一般的なデジタル力率計の構成を示す説明図。
【図2】図1の力率計に位相の進み/遅れ測定機能を付加した一構成例を示す説明図。
【図3】図1の力率計に位相の進み/遅れ測定機能を付加した他の構成例を示す説明図。
【図4】本発明の一実施例の構成を示す説明図。
【図5】図4に示した実施例に用いるシフトレジスタの構成を示す説明図。
【図6】図4に示した実施例の動作を示す説明図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照してまず本発明の基礎をなす技術を説明し、次いで本発明の実施の形態を説明する。
【一般的力率計】
【0013】
図1は、一般的なデジタル力率計の構成を示すブロック図である。力率をPFと表記すれば、
【数1】

ここで、P=測定電力
U=電圧
I=電流
と表される。
【0014】
そして、電圧Uおよび電流IをサンプリングによりA/D変換して形成したデジタル信号とする場合、電圧U、電流Iおよび電力Pはそれぞれ次のように表される。
【数2】

【0015】
図1は、このデジタル信号を用いて力率PFを求める一般的なデジタル力率計の構成を示している。この回路では、交流電圧uおよび交流電流iが入力として与えられ、電圧uは変圧回路11で変圧した上でA/D変換回路12でデジタル化してデジタル演算回路30に与え、電流iは変流回路21aで変流してから電圧変換回路21bで電圧に変えてA/D変換回路22でデジタル化しデジタル演算回路30に与える。
【0016】
デジタル演算回路30は、2つのA/D変換回路12,22にサンプリングクロックを与えてデジタル化を行わせて得た2つのデジタル信号に基づいて力率演算を行い、測定結果である力率信号を出力する。
【0017】
ただし、この力率信号は力率の大きさだけを示すものであって位相成分、つまり進み、遅れを含まない。これは、商用電源の場合、電流位相が遅れになることが通例であり進み、遅れを測定するまでもないからである。しかし、需要家が発電設備を持ち電力会社に売電することもある現況では、電流位相が進んだ測定電力の力率を測定する場合もあり得る。
【0018】
図2は、図1の回路に移相回路を付加して位相の進み、遅れをも測定し得るように構成した回路構成例を示している。そのために、図1の回路に対して移相回路41および移相回路41で移相された電圧信号をデジタル化するA/D変換回路42を付加した構成としている。
【0019】
図3は、図2の回路における移相回路41およびA/D変換回路42に替えてPLL回路40を設けたものである。この図3の回路は、離散フーリエ変換に基づいて位相角を測定するものである。この離散フーリエ変換を用いるということは、測定信号の1周期当りのサンプル数を一定のN回に保つことを意味し、そのため、測定信号の周波数に対してN倍の周波数を持つサンプリングクロックを生成するPLL回路を使用して測定信号の周波数に同期したA/D変換を行なう。
【0020】
これら図2および図3の回路は、力率を電流位相の進み遅れ付きで測定できるものではあるが、この進み遅れ測定機能のために図1の回路に比べて構成がかなり複雑になる、という問題がある。
【0021】
本発明は、この問題を解決するためになされたもので、簡単な回路構成で位相の進み遅れ測定機能付き力率計を提供するものである。
【実施例】
【0022】
図4は、本発明に係る、電流位相の進み遅れ測定機能付き力率計の回路構成を示したものである。この回路では、測定された電圧および電流がデジタル化されており、入力端子INにはそのデジタル信号が与えられる。
【0023】
図4において、図示下部すなわち一点鎖線から下はより詳細な構成として図示してはいるが、図1に示したデジタル演算回路30と同等の構成、つまり力率計の一部を示したものであり、一点鎖線から上が本発明で新たに追加した回路構成、つまり位相進み遅れ測定回路である。
【0024】
まず力率計に関しては、入力端子INから与えられた電圧デジタル信号u(k)および電流デジタル信号i(k)が乗算器101,201および301に与えられ、電圧2乗値u、電流2乗値i、および電圧と電流との乗算値u・iを得て演算器102,202および302により積分した上で平均値を求める。
【0025】
次いで、演算器102,202の出力u,iは、ルート演算器103,203に与えられてそれぞれのルート値が算出され、乗算器303に与えられて両者の積U・Iが割算器304に与えられる。割算器304には演算器302から測定電力値Pが与えられ、力率P/U・Iが算出されて出力端子OUT1に測定力率値として送出される。
【0026】
一方、位相進み遅れ測定回路は、メモリーとしてのシフトレジスタ1に時系列信号が順次蓄積されていき、このシフトレジスタ1の最古のデータu(k-M),i(k-M)と入力端子INに与えられた最新のデータu(k),i(k)とが乗算器2a,2bに与えられる。
【0027】
ここで、最新のデータu(k),i(k)は、測定電圧および電流の最新値または現在値ともいうべきもので、一方、最古のデータu(k-M),i(k-M)は、現在から所定位相に相当する期間先行する時点での電圧および電流のデータ(値)である。所定位相としては、例えば90度先行する時点を選ぶ。
【0028】
図5(a),(b)は、シフトレジスタ1におけるデータの蓄積状態を示したもので、図5(a)は更新前の状態を、図5(b)は更新後の状態をそれぞれ示している。図5(a)に示すように、最新のデータu(k),i(k)はシフトレジスタ1に対して図示上方から与えられ、図5(b)に示すように、最古のデータu(k-M),i(k-M)が図示下方から取り出される。
【0029】
そして、シフトレジスタ1におけるこれら最新のデータu(k),i(k)および最古のデータu(k-M),i(k-M)を用いて、乗算器2aではu(k)・i(k-M)が、また乗算器2bではi(k)・u(k-M)が算出される。
【0030】
すなわち、乗算器2aでは、最新の電圧信号と最古の電流信号との積、乗算器2bでは最新の電流信号と最古の電圧信号との積が求められて演算器3a,3bに与えられる。演算器3a,3bでは、下記式(5),(6)により測定信号u(k)i(k-M),u(k-M)i(k)の所定期間に亘る積分値を平均した値が求められる。
【数3】

両演算器3a,3bの出力LD,LGが減算器4に与えられて

D=LD−LG (7)

が算出され、得られた差Dは判定器5に送られ「進み」、「遅れ」あるいは「進みも遅れもなし」が判定されて出力端子OUT2に出力される。
【0031】
この結果、2つの出力端子OUT1,OUT2の出力から力率値と位相の進み、遅れが表示され、力率改善のためには、どのようなリアクタンスをどの程度用いる必要があるかが判明する。
【0032】
図6は、図5に示した回路のうち位相進み遅れ測定回路(図4上部)の動作を示したフローチャートである。図4に示した回路において、入力端子INに与えられた電圧u(k)、電流i(k)は、最新のデータとして共にシフトレジスタ1に対として蓄積される(ステップS1)。
【0033】
シフトレジスタ1には、サンプリングクロックの周期で順次最新のデータが与えられ、電圧u(k-1),u(k-2),u(k-3),…として蓄積されていき、最古のデータu(k-M)、i(k-M)までM対のデータが蓄積されている。
【0034】
このようにして得られた最新のデータ、つまり電圧u(k)および電流i(k)ならびに最古のデータ、つまり電圧u(k-M)および電流i(k-M)が乗算器2a,2bに与えられる(ステップS2)。そして、乗算器2aでは電圧u(k)と電流i(k-M)との乗算が行なわれ、また乗算器2bでは電圧u(k-M)と電流i(k)との乗算が行なわれる(ステップS3)。
【0035】
これら乗算器2a,2bの乗算結果は、演算器3a,3bに与えられてステップS4ないしS7に示す演算が行われる。すなわち、乗算器2aの乗算結果である第1積u(k)・i(k-M)、および乗算器2bの乗算結果である第2積u(k-M)・i(k)は各別に積分される(ステップS4)。
【0036】
ステップS1ないしS4の動作が、「k←k+1」により順次切り換えられつつN回繰り返される(ステップS5)。そして、この繰り返し動作中の第1積および第2積についての平均値、すなわち第1演算値および第2演算値が求められ(ステップS7)、上記式(5)および(6)によるLD,LGが求められた上で(ステップS8)、減算器4に送られる。
【0037】
減算器4では、D=LD-LGが演算され(ステップS9)、得られた差Dが判定器5に与えられる。判定器5では、D>0(遅れ)、D=0(同相つまり進み遅れなし)、D<0(進み)の判定がなされる(ステップS10,S11,S12,S13,S14)。
【0038】
この判定結果に応じて電流位相が遅れていれば進相用コンデンサにより、またもし進んでいれば遅相用インダクタンスにより位相調整を行なって力率を改善する。
【0039】
上述のように、本発明では、簡単な回路構成でありながら、力率の数値に加えて電流位相の進み、遅れも表示することができる。すなわち、図1の回路と比較したとき、本発明で必要とする演算回路LD,LGはデジタル演算回路30の部分的利用で足り、シフトレジスタ1は力率計に既設のメモリーを流用することで足りる。また、図2の回路と比較したとき、移相回路11が不要でA/D変換回路も一部省略できる。さらに、図3の回路と比べるとPLL回路40が不要であり、デジタル演算回路30を大幅に簡単化できる。
【変形例】
【0040】
上記実施例では、時系列データを形成するためにシフトレジスタを用いたが、このような処理は一連のデジタルデータからソフトウェア処理により行なってもよい。また、その後のデータ処理についてもソフトウェアにより行なうこともできる。
【符号の説明】
【0041】
1 シフトレジスタ、2 乗算器、3 演算器、4 減算器、5 判定器、
101 乗算器、102 演算器、103 ルート演算器、201 乗算器、202 演算器、203 ルート演算器、301 乗算器、302 演算器、303 乗算器、304 演算器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
力率を測定すべき測定電力における電圧、電流のデジタルデータが与えられ、前記測定電力の力率を測定するデジタル力率計とともに用いられて前記電流の位相が前記電圧の位相に対して進んでいるか遅れているかを判別する装置であって、
前記デジタルデータを所定の長さの期間にわたり所定周期で検出する検出手段と、
前記検出手段から与えられたデータを逐次蓄積していくメモリーと、
前記メモリーに蓄積されたデータのうち、所定の新しい電圧データと所定の古い電流データとを乗算して所定時点における電圧と電流との第1積を順次算出する第1乗算器と、
前記メモリーに蓄積されたデータのうち、所定の新しい電流データと所定の古い電圧データとを乗算して前記所定時点における電流と電圧との第2積を順次算出する第2乗算器と、
前記第1積および前記第2積を各別に積分し平均化して第1演算値および第2演算値を求める演算回路と、
前記第1演算値から前記第2演算値を差し引いて得られる差の極性を求める減算器と、
前記差の極性から前記電圧の位相に対する前記電流の位相の進みまたは遅れを判別する判別器と
をそなえたことを特徴とする力率計用位相判別装置。
【請求項2】
請求項1記載の力率計用位相判別装置において、
前記所定の新しい電圧データおよび前記所定の新しい電流データとは、前記測定電圧および電流の最新値である力率計用位相判別装置。
【請求項3】
請求項1記載の力率計用位相判別装置において、
前記所定の古い電圧データおよび前記所定の古い電流データとは、前記測定電圧および電流における所定位相に相当する期間先行する時点でのデータである力率計用位相判別装置。
【請求項4】
請求項1記載の力率計用位相判別装置において、
前記メモリーは、シフトレジスタであることを特徴とする力率計用位相判別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−37308(P2012−37308A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176037(P2010−176037)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(390031196)日本電気計器検定所 (17)
【Fターム(参考)】