説明

加圧焼結装置

【課題】 残光性に優れた高輝度な蓄光材を製造する加圧焼結装置を提供する。
【解決手段】加圧焼結装置は、パンチ及びダイスからなる金型を備え、前記パンチ及びダイスはタングステン又はモリブデンを材料とし、更に前記ダイスの内側にはタングステン又はモリブデンを材料とした分割リングが配置されている。分割リングは図6の様な4分割リングを使用した。この様な分割リングを使用する事により、製品を破壊せずに金型から取りだす事が出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残光性に優れ且つ透光性を有する蓄光材を製造する加圧焼結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
長時間の残光性に優れた蓄光材として、SrAl:Eu2+(グリーン系)及びSrAl1425:Eu2+(ブルーグリーン系)が知られている。そして、これら蓄光材の製造方法としては特許文献1、2に開示されるものが知られている。
【0003】
特許文献1には、MAlで表わされる蓄光性蛍光体(Mは、カルシウム、ストロンチウム、バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素からなる化合物)の製造方法として、炭酸ストロンチウムおよびアルミナに賦活剤としてユウロピウムを添加し、更にフラックスとして硼酸を添加し、電気炉を用いて焼成する方法が開示されている。この時、賦活剤としてEuOでなくEuを使用し、窒素と水素との還元性雰囲気中で1300℃で1時間加熱することにより蓄光体を製造する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、化学式SrAl1425:Eu2+をもって表される物質にジスプロシウム(Dy)などの賦活助剤が化学的に結合してなる長残光性を有する蛍光体の製造方法として、ストロンチウム化合物とアルミニウム化合物からなる主原料に、フラックスとして、ホウ酸、ケイフッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、燐酸水素ナトリウムまたはケイフッ化亜鉛を添加し焼成する方法が開示されている。この時も賦活剤としてEuOでなくEuを使用し、窒素と水素との還元性雰囲気中で1300℃で3時間加熱することにより蓄光体を製造する方法が記載されている。
【0005】
また非特許文献1にも、賦活剤としてEuOでなくEuを使用し、Arと水素との還元性雰囲気中で1500℃で3時間加熱することにより蓄光体を製造する方法が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−011250号公報
【特許文献2】特開平9−208948号公報
【非特許文献1】「資源と素材」 1998年 Vol.114 社団法人 資源・素材学会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
理想的な長残光性蛍光体(蓄光体)とは「時間当たりの発光輝度の減少率が小さく」且つ「初期の発光輝度が大きい」という2つの性能を同時に満足させる蛍光体である。この様な2つの性能を同時に満足させる事が出来ると、屋外使用で 太陽が沈んでから5〜6時間経過した後も1000mcd/m以上の残光輝度を持つ製品が可能となり、応用分野が大きく広がる事になるが、現実には前記2つの性能を同時に満足させる事が難しく、10分も経過すると1000mcd/m以下の残光輝度になるため、用途としては地下鉄の非常用標識等に限定されている。
本発明は、2つの性能を同時に満足させる製造方法を提供するものであり、以下に2つの性能を同時に満足させる事が出来ない、従来技術の四つの課題について述べる。
【0008】
まず、結晶母体としてSrAl4、賦活剤としてEuOを、賦活助剤としてDyを例にとって蓄光〜発光のメカニズムを説明する。
蓄光のメカニズムは、図1で示す様にSrAlの結晶母体に固溶されたEu2+が光(紫外線)エネルギーを吸収し、4f準位にある電子が5d準位に励起され、励起により生じた正孔が、価電子帯を移動して賦活助剤として導入したDy3+に捕獲され蓄光される事になる。
【0009】
発光のメカニズムは、図2で示す様にDy3+でトラップされた正孔が熱エネルギーにより解放され、価電子帯を移動し5d準位に励起された電子と再結合し発光する事になる。但し正孔を捕獲していないDy3+トラップが多数存在すると、図3で示す様にDy3+から解放された正孔が再び別のDy3+に捕獲され発光しない事になる。
【0010】
次に 理想的な長残光性蛍光体(蓄光体)の実現が難しい理由を説明する。
表1はSrAl:Eu、Dyの蓄光体に於いてDy/Euの比率を1にした時の 残光輝度の特性データである。表1から判る事は下記2点である。
【0011】
【表1】

【0012】
・ 1分〜60分の期間では1時間当たりの発光輝度の減少率が5736÷265=21.6と非常に大きい。
・ 更に 480分〜540分の期間では1時間当たりの発光輝度の減少率が25÷22=1.1と非常に小さい。
【0013】
1分〜60分の期間で1時間当たりの輝度の減少率が非常に大きい理由を以下に述べる。強い光(紫外線)エネルギーを照射させられた蓄光体の初期に於いては、Eu2+の電子が4f準位から5dの準位に励起され、励起により生じた正孔は価電子帯を移動してDyトラップに捕獲され、多くのDyトラップでは正孔が捕獲された状態となっている。
この様な状態で熱エネルギーによりDyトラップから解放された正孔が再びDyトラップに捕獲される確率は非常に小さく、5dの準位に励起された電子と再結合し発光する事になる。従って、1分〜60分の期間に於いては、Dyトラップに捕獲された正孔が効率よく電子と再結合するため、発光輝度も大きいが 逆に1時間当たりの発光輝度の減少率も大きくなる事になる。
【0014】
480分〜540分の期間で1時間当たりの輝度の減少率が小さい理由を以下に述べる。480分〜540分の期間に於いては、Dyトラップに捕獲された正孔の数は非常に少ない状態となっている。この様な状態で熱エネルギーによりDyトラップから解放された正孔が再びDyトラップに捕獲される確率は非常に高くなり、5dの準位に励起された電子と再結合する確率は非常に小さくなる。
従って、480分〜540分の期間に於いては、Dyトラップに捕獲された正孔が電子と再結合する効率が低いため、発光輝度も小さいが逆に1時間当たりの発光輝度の減少率も小さくなる事になる。
上記の様なメカニズムで残光輝度特性が発揮されるため、初期輝度を大きくする様に設計すると時間当たりの輝度の減少率も大きくなり、逆に時間当たりの輝度の減少率を小さくする様に設計すると初期輝度も小さくなるため、理想的な長残光性蛍光体(蓄光体)の実現は難しい事になる。
【0015】
時間当たりの発光輝度の減少率を小さくするには、賦活助剤/賦活剤の比率を 現状の1〜2から20〜40程度に大きくする事で可能になる。これは前記の説明で480分〜540分の期間と同じ状態を初期段階から作り出す事で熱エネルギーによりDyトラップから解放された正孔が再びDyトラップに捕獲される確率を非常に高く出来、5dの準位に励起された電子と再結合する確率を非常に小さく出来る事による。
勿論、トラップ深さが深い賦活助剤を使用出来れば捕獲された正孔が熱エネルギーで解放される確率が小さくなり、結果的に時間当たりの輝度の減少率は小さくなる訳であるが、最適な賦活助剤としてDyやNd以上の材料が見つかっていないのが現状である。
更に、賦活剤(EuO)の添加量を現状の0.5モル%程度から低くすれば 結果的に賦活助剤/賦活剤の比率が大きくなる訳であるが、この場合は発光輝度が添加量に比例して弱くなるのでNGとなる。
従って、賦活剤(EuO)の添加量を現状の0.5モル%程度にしたまま賦活助剤/賦活剤の比率を20〜40程度に大きくするには、賦活助剤の添加量を現状の0.5モル%程度から10モル%〜20モル%程度に大量に添加すると同時に結晶母体内に固溶させる必要がある。
【0016】
Eu2+を発光中心とするアルカリ土類ーアルミン酸塩蓄光型蛍光体の結晶母体構成(SrCa1−X)O・nAlの中で、従来技術としてもっとも多く採用されている例として、n=1の場合の結晶母体であるSrAlを選定し 蓄光機能を賦与する賦活助剤としてDyを選定した場合、結晶母体のSrの部分にDyが置換する事でDyが結晶母体に固溶される事になるが、固溶量は置換されるイオン半径の差が10%以内であれば大きいが15%以上ではきわめて微量となる。
Srのイオン半径は0.113nmであるのに対しDyのイオン半径は0.0912nmと小さく、その差は(0.113nm―0.0912nm)÷0.0912nm=23.9%と15%以上のため、SrAlの結晶内部に固溶出来るDyの量は0.5モル%程度の微量となる。
一般に、時間当たりの発光輝度の減少率は賦活助剤/賦活剤の比率を大きくすればする程小さくなるが、上記の様な結果より従来技術では賦活助剤/賦活剤の比率が1〜2程度と非常に小さいという一つ目の課題がある。
【0017】
上記課題を解決し、賦活助剤/賦活剤の比率を例えば40に大きく出来たとしても、賦活助剤/賦活剤の比率を1にした場合に比べ初期輝度は1/40程度に大きく減少するという新たな不具合が発生する事になるため、如何に初期輝度を高めていくかが理想的な長残光性蛍光体(蓄光体)実現の鍵になる。
【0018】
従来技術では、賦活剤としてEuを使用し、Hガス中やカーボン雰囲気中で結晶母体と一緒に焼結・還元を行っている。この時Hガスやカーボンの還元力が弱いためEuの一部しかEuOへ還元出来ず、発光効率が悪くなり 結果的に発光輝度が低いという二つ目の課題がある。
表3はEuの一部しかEuOへ還元出来ていない場合の発光効率で、発光効率は波長360nmの紫外線照射時で6.6%と非常に低い値となっている。
表4はEuからEuOへの還元がある程度進んだ場合の発光効率で、発光効率は波長360nmの紫外線照射時で50.3%とかなり高い値となっている。
【0019】
【表3】

【0020】
【表4】

【0021】
更に従来技術では、賦活剤としてEuを使用し、Hガス中やカーボン雰囲気中で結晶母体と一緒に焼結・還元を行っている。この時、結晶母体の一部が還元され酸素欠陥(酸素空孔)を持つ結晶体になる。上記酸素欠陥部がEu2+を発光させるエネルギーである紫外線領域の光を吸収するため発光効率が悪くなると共に酸素欠陥部がEu2+で発光した可視光を吸収するため発光効率が悪くなるという三つ目の課題がある。
【0022】
表5は結晶母体が還元された場合の結晶母体の吸収率で、波長360nmの紫外線で27.0%、波長500nmの可視光で9.3%と大きな値となっている。
【0023】
【表5】

【0024】
表6は結晶母体が還元されない場合の結晶母体の吸収率で、波長360nmの紫外線で3.0%、波長500nmの可視光で3.4%と小さな値となっている。
【0025】
【表6】

【0026】
尚、EuOを添加した状態で吸収率を測定すると、EuOの吸収の影響が出るため、上記の値はEuOを添加しない結晶母体だけの構成材料を焼結した時の吸収率である。
【0027】
初期輝度を大きくするため、蓄光製品の厚みを厚くする事で解決出来そうであるが、従来技術で作製した蓄光材粉末を使用した場合には、紛体表面での光散乱により透光性がないため、紫外線が充分に届く範囲が蓄光製品の表層部分のみになると同時にEu2+で発光した光を有効に取り出せるのも蓄光製品の表層部分で発光した光のみになるため、蓄光製品の厚みを厚くしても、初期の発光輝度が低いという不具合を解決出来ないという四つ目の課題がある。
勿論、結晶粒径を大きくする事で散乱を減らし発光輝度を多少改善出来るが 効果は僅かであるので、初期の発光輝度が低いという不具合が解決出来ない事に変わりが無い。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題を解決するため、本発明は結晶母体、賦活剤及び賦活助剤からなる成形体を緻密化し透光性を有する蓄光材を製造する加圧焼結装置に関し、この加圧焼結装置はパンチ及びダイスからなる金型を備え、前記パンチ及びダイスはタングステン又はモリブデンを材料とし、更に前記ダイスの内側にはタングステン又はモリブデンを材料とした2分割以上に分割されたリングが配置された構成とした。
リングを分割することで、焼結後に製品にリングが食い込むことがなくなり、製品からリングを容易に剥離することができる。
【0029】
尚、結晶母体構成としては(SrCa1−X)O・nAlを選定し、蓄光機能を賦与する賦活助剤としてはNdを選定すると共に、賦活助剤/賦活剤(Nd/Eu)の比率を20〜40と大きくする手段を採用した。具体的結晶母体として(SrCa1−X)O・nAlの中で、従来技術としてもっとも多く採用されている例として、n=1の場合の結晶母体である(SrCa1−X)Alについて述べる。
Caのイオン半径が0.1nmに対しNdのイオン半径は0.0983nmと近く、その差は(0.1nm―0.0983nm)÷0.0983nm=1.7%となり、両者のイオン半径の差は10%以内となるため、多くのNdを(SrCa1−X)Alの結晶内部に固溶出来る事になり、上記問題点は解決出来る事になる。
但しCa比率を0%から100%に増やしていくと、発光の中心波長が520nmから440nmに移動するため、表2で示す様に標準比視感度が0.71から0.023と小さくなり、人間が感じる光の強さ、即ち輝度が1/30と弱くなり過ぎるという新たな不具合が発生する。
【0030】
【表2】

【0031】
人間の目は555nmの光を一番明るく感じ、標準比視感度とは波長555nmの光に対して感じる明るさを1とした時の同じ強さの光の波長に対する視感度の比を表す。
本発明では(SrCa1−X)AlのXの値を0.5〜0.9好ましくは0.7〜0.8にする手段を採用した。この事により、上記の不具合は発生しない。ちなみにXの値を0.75にすると発光波長の分布が少しブルー側にずれて行くが、波長全体の平均視感度が0.62程度と問題ないレベルになると共にNdを20モル%程度固溶出来、Nd/Euの比率を40程度にする事が可能となる。
【0032】
実施例では、還元力の強い材料を用いてEuをEuOへ100%還元するする手段を採用した。
但し、結晶母体に使用していない還元材料を用いると結晶内部に不純物が侵入するという新たな不具合が発生する。上記不具合を解決するため本発明技術では 還元力の強い材料として結晶母体を構成する元素であるCaやAlを使用する手段を採用した。この事により、上記の不具合は発生しない。
【0033】
実施例では、Euを事前還元する手段を採用した。この事により、結晶母体をHガス中やカーボン雰囲気中で焼結する必要性がなくなり、上記の様な問題点は発生しない。
但し 結晶母体と一緒にEuOを焼結すると、結晶母体の原材料であるSrCOやCaCOから焼結過程で発生するCOガスによりEuOの一部が酸化されEuに戻るという新たな不具合が発生する。上記不具合を解決するため結晶母体を事前焼結した後で EuOを添加し焼結する手段を採用した。この事により、上記の不具合は発生しない。
尚、SrCOやCaCOの替わりにSrOやCaOを使用すればCOガスの発生は理論的になくなるが、現実に於いては、ボールミル等で混合している最中にSrOやCaOが空気中から炭酸ガスを吸収しSrCOやCaCOに戻るため、COガスを発生させずに焼結する事は非常に難しい。
【0034】
実施例では、加圧焼結する事により焼結体内部の気孔を外部に追い出し、焼結体の密度を理論密度の98%以上にして紫外線及び可視光の光透過性を高めると共に製品の厚みを2mm以上に厚くする手段を採用した。
但し、加圧焼結に用いる金型としてカーボン材料(黒鉛)を用いると、結晶母体が還元されると共に、原子半径の小さなカーボンが結晶内部に侵入し、光の透過性が悪くなる新たな不具合が発生する事になる。
【0035】
従来技術ではSPS(通電焼結)方式又はホットプレス方式の金型材料としてカーボン材料(黒鉛)が用いられる。カーボン材料を用いる理由は酸素が無い環境では3000℃程度の高温で使用出来る事、更には黒鉛には潤滑性があり焼結体を金型より容易に取り出せる事等の理由からである。
但し、今回の材料を黒鉛金型で加圧焼結すると、結晶母体が還元されると共に、原子半径の小さなカーボンが結晶内部に侵入し、光の透過性が悪くなるという不具合が発生する。一般的な材料の場合には、加圧焼結した製品を大気中でアニールする事で光の透過性を回復出来問題は無いが、今回の様な材料の場合にはEuOが酸化され、EuOの一部がEuに戻るため大気中でアニールすると発光輝度が小さくなるという不具合が発生する。
【0036】
本発明では、金型材料をタングステン又はモリブデンに変更した。タングステンの融点は3407℃、モリブデンの融点は2617℃と高く加圧焼結用の金型として使用できる事になる。これにより、非酸化雰囲気及び非還元雰囲気を実現出来、上記の様な不具合は発生しない。
但し、タングステンより固いセラミックスを70MPa程度の高い圧力で焼結すると、焼結体がタングステンダイスに食い込み製品を取りだせないという新たな不具合が発生する。製品を無理に押しだすと製品が割れ、更にはタングステンパンチ又はダイスが破壊するというトラブルになる。勿論、例えば酸化珪素の様にタングステンより柔らかい材料の場合は、上記の様なトラブルは発生しないが、今回の様に結晶母体構成が(SrCa1−X)O・nAlである固い材料の場合には上記の様なトラブルが発生する事になる。
上記不具合を解決するため本発明では、ダイスの内側にタングステン又はモリブデンからなるリングを挿入すると共に前記リングを4分割程度に分割する構造とした。これにより、焼結体がリングに食い込んでも、分割リングを製品と共にタングステンダイス本体から押し出す事により製品を壊さず取り出せる事になる。
【発明の効果】
【0037】
本発明により、「時間当たりの発光輝度の減少率が小さく」且つ「初期の発光輝度が大きい」という長残光性蛍光体(蓄光体)に求められる理想的な性能を同時に満足させる蓄光製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】結晶母体としてSrAl4、賦活剤としてEuOを、賦活助剤とし てDyを例にとった蓄光〜発光のメカニズム(1)
【図2】結晶母体としてSrAl4、賦活剤としてEuOを、賦活助剤としてDyを例にとった蓄光〜発光のメカニズム(2)
【図3】結晶母体としてSrAl4、賦活剤としてEuOを、賦活助剤としてDyを例にとった蓄光〜発光のメカニズム(3)
【図4】タングステンダイスとタングステンパンチを使用した金型構造(1)
【図5】タングステンダイスとタングステンパンチを使用した金型構造(2)
【図6】タングステン4分割リングの構造
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に本発明の好適な実施例を添付の図面・表に基づいて説明する。
まずEuをEuOに事前還元するのに、結晶母体の構成元素の一つであるCaを使用した例を示す。Euを3.52gr,Caを0.72gr秤量し、ボールミル等で混合した後、アルミナ坩堝内に充填し蓋をした後1000℃×12時間加熱する。この時の反応はEu+1.8Ca→2EuO+CaO+0.8Caとなり、理論的にはEuはすべてEuOに還元される事になる。
還元した材料をX線回折した結果、理論通りEuはすべてEuOになっていた。Caの量を減らしていくと若干Euが還元されずに残っていたのでCaの量は理論値の1.8倍程度少し多めに添加する方が良い。
【0040】
次に、SrCO、CaCO、Al、Ndを用い、(SrCa1−X)O・nAl:Ndの構成になる焼結体の製造工程であるが、今回はn=1の(SrCa1−X)Al:Ndの構成の場合について説明する。
まずSrCO、CaCO、Al、Ndを目標の構成比率になるように秤量し、ボールミル等で混合した後、アルミナ坩堝に充填し、大気中又はAr中で1400℃×6時間焼結する事で(SrCa1−X)Al:Ndの構成の焼結体を作製出来る。この時Ndを20モル%と大量に固溶させる事が出来るかが重要となる。添加した大量のNdが固溶せず結晶表面や粒界に析出すると、表7に示す様に360nm付近及び520nm付近及び580nm付近の波長域での光吸収が激しくなり発光輝度が小さくなると共に、Nd/Eu比率が小さくなり、時間当たりの発光輝度の減少率が大きくなるという2つの問題を引き起こす。
【0041】
【表7】

【0042】
表8はSrCO、Al、Ndを(Sr0.675Nd0.2)Al3.975になる様な比率で秤量し、ボールミル等で混合した後、アルミナ坩堝に充填し、大気中で1400℃×6時間焼結した材料の吸収率データである。この例で判る様にCaを使用しない場合には、Ndが結晶表面や粒界に析出した模様で360nmでの吸収率が32.8%、520nmでの吸収率が28.2%、580nmでの吸収率が40.7%と非常に大きな値となっている。
【0043】
【表8】

【0044】
表9はSrCO、CaCO、Al、Ndを((Sr0.75Ca0.250.675Nd0.2)Al3.975になる様な比率で秤量し、ボールミル等で混合した後、アルミナ坩堝に充填し、大気中で1400℃×6時間焼結した材料の吸収率データである。この例で判る様にCaを使用した場合には、Ndが結晶表面や粒界に析出しなくなり360nmでの吸収率が17.7%、520nmでの吸収率が17.4%、580nmでの吸収率が27.8%と小さな値となっている。
【0045】
【表9】

【0046】
表10はSrCO、CaCO、Al、Ndを((Sr0.75Ca0.250.8Nd0.2)Al4.1になる様な比率で秤量し、ボールミル等で混合した後、アルミナ坩堝に充填し、大気中で1400℃×6時間焼結した材料の吸収率データである。この例で判る様にCaを使用した場合でも、(Sr0.75Ca0.25)の比率を0.8とすると、360nmでの吸収率が27.2%、520nmでの吸収率が20.2%、580nmでの吸収率が33.6%と表9に比べて大きな値となっている。
表10の吸収率の値が表9に比べて高くなる理由は、3価のNdが置換するCaが2価であるため置換が進むと結晶内にプラスイオンが多くなり、結晶内の電気的中性が保たれなくなるため、Ndが大量に固溶出来ない事になる。この現象を防ぐには、あらかじめ結晶内のプラスイオンを不足気味にする目的で2価であるSr及びCaの元素の数を少なくする事が必要となる。即ち((Sr0.75Ca0.250.675Nd0.2)Al3.975の構成の場合は、2価であるSr及びCaの元素の数が少なく、3価であるNdを添加した時に電気的中性が保たれるのに対し、((Sr0.75Ca0.250.8Nd0.2)Al4.1の構成の場合は、2価であるSr及びCaの元素の数が多くて、3価であるNdを添加した時に電気的中性が保てないため、Ndは大量に固溶出来ず、結晶表面や粒界に析出する事になる。
【0047】
【表10】

【0048】
表11はSrCO、CaCO、Al、Ndを((Sr0.75Ca0.250.675Nd0.2)Al3.975になる様な比率で秤量し、ボールミル等で混合した後、アルミナ坩堝に充填し、Ar雰囲気中で1400℃×6時間焼結した材料の吸収率データである。この例で判る様にAr雰囲気中で焼結すると、360nmでの吸収率が15.9%、520nmでの吸収率が15.6%、580nmでの吸収率が23.7%と大気中で焼結した場合より小さな値となっている。
この理由は、大気中で焼結するとアンチサイト欠陥が発生し易くなるのに対し、Ar雰囲気中で焼結するとアンチサイト欠陥が発生しにくくなるためと推察される。Ndを添加しない場合の300nmでの吸収率が表6で判る様に4.1%に対し、表11の場合にも5.1%とほぼ同じレベルになっているため、Ndが結晶母体内に固溶されていると思われる。
【0049】
【表11】

【0050】
最後に緻密化し透光性を持った焼結体の製造工程であるが、((Sr0.75Ca0.250.675Nd0.2)Al3.975の構成になる様に事前焼結した材料にCaで事前還元したEuOを0.5モル%になる様に添加した後、ボールミル等で粉砕・混合する。その後、加圧成形装置で直径30mm×厚み4mm程度の円盤状に成形する。成形した成形品をSPS(通電焼結)設備又はホットプレス設備などの加圧焼結装置の金型に挿入する。
【0051】
加圧焼結装置としては図4又は図5で示すように、パンチ及びダイスからなる金型を備え、前記パンチ及びダイスはタングステン又はモリブデンを材料とし、更に前記ダイスの内側にはタングステン又はモリブデンを材料とした分割リングが配置されている。分割リングは図6の様な4分割リングを使用した。この様な分割リングを使用する事により、製品を破壊せずに金型から取りだす事が出来る。
尚、加圧焼結する材料であるが((Sr0.75Ca0.250.675Nd0.2)Al3.975の構成になる様に事前焼結した材料にCaで事前還元したEuOを0.5モル%になる様に添加した後 焼結し((Sr0.75Ca0.250.675Nd0.2Eu0.005)Al3.98の構成にした材料を用いても良い。
【0052】
上記の様な金型を使用し、圧力70MPa×1200℃の条件で加圧焼結する事により直径30mm×厚み2mmの透光性を持った蓄光製品が出来る。焼結シーケンスとして、1050℃までは30℃/分の昇温速度、1050℃〜1200℃までは1℃/分の昇温速度で焼結し、1200℃で30分間保持する事により、密度が理論密度の98%で且つ520nmの可視光の透光性が65%の長残光性蛍光体(蓄光体)が完成する。
尚、上記製造工程で焼結を促進させるために焼結助剤(フラックス)を添加しても良い。焼結助剤は事前焼結前に添加しても良く、又 事前焼結後に添加しても良い。焼結助剤としては、B,AlF、LiF、KF、SrF、MgF等を使用すると良い。前記の焼結では焼結助剤としてAlFを用いた。この蓄光体に太陽光を照射したところ、5時間後の残光輝度が1000mcd/m2以上の性能を発揮した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶母体、賦活剤及び賦活助剤からなる成形体を緻密化し透光性を有する蓄光材を製造する加圧焼結装置であって、この加圧焼結装置はパンチ及びダイスからなる金型を備え、前記パンチ及びダイスはタングステン又はモリブデンを材料とし、更に前記ダイスの内側にはタングステン又はモリブデンを材料とした2分割以上に分割されたリングが配置されていることを特徴とする加圧焼結装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加圧焼結装置において、前記結晶母体はEu2+を発光中心とする(SrCa1−X)O・nAlを選定し、賦活剤としてEuを事前還元したEuOを選定し、賦活助剤としてNdを選定することを特徴とする加圧焼結装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−197386(P2012−197386A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63636(P2011−63636)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(501147509)
【Fターム(参考)】