説明

加工ヘッド交換式回転工具、ホルダー、および加工ヘッド

【課題】ホルダーと加工ヘッドとが締結用おねじおよび締結用めねじによって一体的に結合される加工ヘッド交換式回転工具において、所定の取付強度を維持しつつ加工ヘッドを容易に取り外して交換できるようにする。
【解決手段】締結用おねじ18および締結用めねじ20が、追い側フランク52のフランク角αが進み側フランク54のフランク角βよりも小さいバットレスねじにて構成されているため、加工ヘッド14によりフライス加工が行なわれる際に熱で膨張しても、その追い側フランク52同士が強固に密着させられて溶着する可能性は小さいとともに、反対側の進み側フランク54についても溶着が抑制され、加工ヘッド14を交換する際の取外し作業が容易になる。その場合に、進み側フランク54のフランク角βは比較的大きいため、所定の取付強度を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工ヘッド交換式回転工具に係り、特に、ホルダーと加工ヘッドとが締結用おねじおよび締結用めねじによって一体的に結合される加工ヘッド交換式回転工具において、加工ヘッドを容易に取り外して交換できるようにする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 加工ヘッドおよびホルダーの一方および他方にそれぞれ軸心上に設けられた締結用おねじおよび締結用めねじが互いに螺合されることにより、その加工ヘッドがそのホルダーの先端部に同心に着脱可能に取り付けられるとともに、(b) それ等の加工ヘッドおよびホルダーには、前記締結用おねじおよび前記締結用めねじが螺合された締結状態において互いに当接させられる当接面が設けられており、(c) 前記締結用おねじおよび前記締結用めねじが加工負荷により締まり勝手となる工具回転方向へ前記ホルダを介して一体的に回転駆動されることにより、前記加工ヘッドによって所定の加工を行なうとともに、前記当接面の当接により加工負荷で前記締結用おねじおよび前記締結用めねじが更に締め付けられることが防止される加工ヘッド交換式回転工具が知られている(特許文献1参照)。このような加工ヘッド交換式回転工具によれば、例えば超硬合金等の高価な材料製の加工ヘッドのみを交換してホルダーを何度も利用できるし、複数種類の加工ヘッドを用意することにより共通のホルダーを用いて複数種類の加工を行なうことが可能で、何れの場合も資源の無駄を抑制できるとともに工具コストが低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−532844号公報
【特許文献2】特開2001−170811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このように当接面によって締結用おねじと締結用めねじとの更なる締め付けが防止されている加工ヘッド交換式回転工具においても、例えばエアブローなど比較的発熱し易い条件下で加工を行なった場合、溶着により加工ヘッドをホルダーから取り外すことができなくなることがあった。すなわち、それ等の締結用おねじおよび締結用めねじとして一般に三角ねじや台形ねじが用いられているため、加工ヘッドにより所定の加工が行なわれる際に熱で膨張すると、おねじのねじ山の径寸法が大きくなってめねじの溝に食い込み、ねじ山の両側のフランクがそれぞれめねじのフランクに強固に密着させられて溶着するものと考えられる。エアブローによる加工は、冷却油剤に比較して後処理が容易であり、環境に易しい技術として期待されている。なお、両側のフランクが略垂直の角ねじの場合は、熱膨張に拘らずフランクが溶着する可能性は低いが、十分な取付強度が得られ難いという問題がある。
【0005】
一方、特許文献2には、加工ヘッドがホルダーに対してテーパ嵌合される場合に、加工ヘッドと反対側から取外し補助ピンを螺合して加工ヘッドを押し出す技術が記載されており、ねじ結合による加工ヘッド交換式回転工具においても、そのような取外し補助ピンを利用することが考えられるが、それでも取外し不能な場合があった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、ホルダーと加工ヘッドとが締結用おねじおよび締結用めねじによって一体的に結合される加工ヘッド交換式回転工具において、所定の取付強度を維持しつつ加工ヘッドを容易に取り外して交換できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 加工ヘッドおよびホルダーの一方および他方にそれぞれ軸心上に設けられた締結用おねじおよび締結用めねじが互いに螺合されることにより、その加工ヘッドがそのホルダーの先端部に同心に着脱可能に取り付けられるとともに、(b) それ等の加工ヘッドおよびホルダーには、前記締結用おねじおよび前記締結用めねじが螺合された締結状態において互いに当接させられる当接面が設けられており、(c) 前記締結用おねじおよび前記締結用めねじが加工負荷により締まり勝手となる工具回転方向へ前記ホルダを介して一体的に回転駆動されることにより、前記加工ヘッドにより所定の加工を行なうとともに、前記当接面の当接により加工負荷で前記締結用おねじおよび前記締結用めねじが更に締め付けられることが防止される加工ヘッド交換式回転工具において、(d) 前記締結用おねじおよび前記締結用めねじは、追い側フランクのフランク角αが進み側フランクのフランク角βよりも小さいのこ歯状のバットレスねじ(buttress thread;のこ歯ねじ)にて構成されていることを特徴とする。
【0008】
第2発明は、第1発明の加工ヘッド交換式回転工具において、前記追い側フランクのフランク角αは4°〜15°の範囲内で、前記進み側フランクのフランク角βは35°〜60°の範囲内であることを特徴とする。
【0009】
第3発明は、第1発明または第2発明の加工ヘッド交換式回転工具において、(a) 前記ホルダーには、軸心を貫通するように貫通穴が設けられているとともに、その貫通穴の少なくとも一部に取外し用めねじが設けられており、(b) そのホルダーの後端から前記貫通穴内に挿入されて前記取外し用めねじに螺合されるとともに、先端部が前記加工ヘッドに当接させられることにより、前記締結用おねじと前記締結用めねじとの螺合を緩めて加工ヘッドをホルダーから取り外す際にその加工ヘッドを押し出すように押圧する取外し補助ピンを有する一方、(c) その取外し補助ピンと前記加工ヘッドとの当接部位には、互いに面接触するように嵌合される円錐形状の係合突起および係合凹所がそれぞれ軸心上に設けられていることを特徴とする。
【0010】
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの加工ヘッド交換式回転工具のホルダーで、第5発明は、第1発明〜第3発明の何れかの加工ヘッド交換式回転工具の加工ヘッドである。
【発明の効果】
【0011】
このような加工ヘッド交換式回転工具においては、締結用おねじおよび締結用めねじが、追い側フランクのフランク角αが進み側フランクのフランク角βよりも小さいのこ歯状のバットレスねじにて構成されているため、加工ヘッドにより所定の加工が行なわれる際に熱で膨張しても、その追い側フランク同士が強固に密着させられて溶着する可能性は小さいとともに、反対側の進み側フランクについても溶着が抑制され、加工ヘッドを交換する際の取外しが容易になる。また、進み側フランクのフランク角βは大きいため、所定の取付強度を維持できる。
【0012】
第2発明では、追い側フランクのフランク角αが4°〜15°の範囲内で、進み側フランクのフランク角βが35°〜60°の範囲内であるため、所定の取付強度を確保しつつ加工ヘッドを容易に取り外して交換できる。
【0013】
第3発明は、締結用おねじと締結用めねじとの螺合を緩めて加工ヘッドをホルダーから取り外す際に、取外し用めねじに螺合された取外し補助ピンが加工ヘッドに当接させられ、その加工ヘッドを押し出すようにしたもので、加工ヘッドの取外しが一層容易になる。特に、取外し補助ピンと加工ヘッドとの当接部位には、互いに面接触するように嵌合される円錐形状の係合突起および係合凹所がそれぞれ軸心上に設けられているため、その係合突起および係合凹所の係合で加工ヘッドと取外し補助ピン、更にはホルダーとが同心に芯出しされ、締結用おねじと締結用めねじとの螺合を一層容易に緩めることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例である加工ヘッド交換式回転工具を示す図で、(a) は軸心O、S1と直角な方向から見た正面図、(b) は加工ヘッド側から見た底面図、(c) は(a) におけるIC−IC視断面図、(d) は斜視図である。
【図2】図1の実施例の加工ヘッドを説明する図で、(a) は軸心S1を含む断面図、(b) は斜視図、(c) は加工ヘッドに設けられた締結用おねじの断面の拡大図である。
【図3】図1の実施例のホルダーを説明する図で、(a) は軸心Oを含む断面図、(b) は軸心Oを含む断面の斜視図である。
【図4】図1の加工ヘッド交換式回転工具において、ホルダーから加工ヘッドを取り外す際に用いられる取外し補助ピンを示す図で、(a) は一部を切り欠いた正面図、(b) は斜視図である。
【図5】図1の加工ヘッド交換式回転工具において、図4の取外し補助ピンを用いてホルダーから加工ヘッドを取り外す際の状態を示す図で、(a) は軸心O、S1、S2を含む断面図、(b) はホルダーを切り欠いて示す斜視図である。
【図6】締結用おねじおよび締結用めねじのフランク角α、βが異なる複数種類の試験品を用意し、加工の良否および加工後の加工ヘッドの取外し易さを調べた結果を説明する図で、(a) は切削試験条件、(b) は試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の加工ヘッド交換式回転工具は、例えばエンドミルやドリル、タップ、面取カッター、Tスロットカッター等の切削工具に好適に適用されるが、砥石等の研削工具や盛上げタップ等の転造工具など、回転駆動されることによって所定の加工を行う種々の回転工具に適用され得る。また、エアブロー等の発熱し易い条件下で加工を行なう場合に特に効果的であるが、冷却油剤を用いて加工を行なうことを前提とする加工ヘッド交換式回転工具にも適用され得る。
【0016】
加工ヘッドは、工具の種類に応じて切れ刃等を有して構成されるとともに、超硬合金や高速度工具鋼等の所定の工具材料によって構成される。また、必要に応じてTiNやTiCN、TiAlN、CrN等の化合物被膜やDLC(Diamond Like Carbon ;ダイヤモンド状カーボン)膜、ダイヤモンド被膜等の硬質被膜をコーティングしたり、水蒸気処理、窒化処理等を施したりすることもできる。
【0017】
ホルダーは、主軸等に取り付けられて回転駆動されるもので、例えばストレートシャンクやテーパシャンク等のシャンクであるが、自動工具交換装置により主軸等に自動的に着脱されるものでも良いなど、種々の態様が可能である。このホルダーは、加工ヘッドに比較して耐摩耗性や硬さ、強度等が低い炭素鋼等の安価な材料を採用できる。
【0018】
締結用おねじは例えば加工ヘッドの軸心上に突設され、ホルダーの先端中心部に設けられた締結用めねじに螺合されるが、ホルダーの先端軸心上に締結用おねじを突設し、加工ヘッドの軸心に設けられた締結用めねじに螺合されるようにしても良い。
【0019】
加工ヘッドおよびホルダーには、締結用おねじおよび締結用めねじが螺合された締結状態において互いに密着させられ、両者を同心に位置決めする截頭円錐形状のテーパ部およびテーパ穴を設けることが望ましい。例えば、加工ヘッドに締結用おねじが突設される場合、その締結用おねじの基端側に締結用おねじから離間するに従って大径となるテーパ部を設ける一方、ホルダーの締結用めねじよりも先端側に先端側程大径となるテーパ穴を設け、そのテーパ穴の内周面にテーパ部の外周面が密着させられるように構成される。
【0020】
加工ヘッドおよびホルダーには、上記テーパ部およびテーパ穴とは別に、或いはテーパ部およびテーパ穴を設けることなく、締結用おねじおよび締結用めねじが螺合された締結状態において互いに当接させられる当接面が設けられる。この当接面は、軸方向に当接させられる軸心に対して略垂直な平坦面や、周方向に当接させられる周方向に対して略垂直な平坦面などで、それ以上の締め付け方向の回転を阻止できる種々の態様が可能である。
【0021】
追い側フランクのフランク角αは、20°以上になると加工後の取外しが不能乃至は困難になるため20°未満で15°以下が望ましい一方、3°以下になると取付強度が不足したりフランクの加工が難しくなったりするため3°より大きく4°以上が望ましい。進み側フランクのフランク角βは、追い側フランクのフランク角αの大きさによっても異なるが、30°以下では取付強度が不足して折損し易いため30°より大きく35°以上が望ましい一方、60°を超えるとねじ山の高さが低くなったりピッチが大きくなったりするため60°以下が望ましい。
【0022】
第3発明は、取外し補助ピンに関するものであるが、他の発明の実施に際しては必ずしも取外し補助ピンは必要なく、ホルダーに取外し用めねじを設ける必要もない。第3発明ではまた、取外し補助ピンと加工ヘッドとの当接部位に、互いに面接触するように嵌合される円錐形状の係合突起および係合凹所がそれぞれ軸心上に設けられるが、他の発明の実施に際しては、これ等の係合突起および係合凹所が設けられず、例えば軸心に対して直角な平坦な端面同士が当接させられるようになっていても良い。
【0023】
上記取外し補助ピンに設けられるおねじおよびホルダーの取外し用めねじは、前記締結用おねじおよび締結用めねじと関係なく設けることもできるが、それ等を同じピッチ(リード)で設けることも可能で、その場合は、例えば取外し用補助ピンと加工ヘッドとを一体的に保持してホルダーに対して相対回転させることにより、加工ヘッドをホルダーから取り外すことができる。
【0024】
取外し補助ピンと加工ヘッドとの当接部位に設けられる円錐形状の係合突起および係合凹所は、互いに係合させられることによって同心に芯出しできれば良いため、必ずしも完全な円錐形状である必要はなく、先端或いは穴底が平坦な截頭円錐形などでも良い。
【0025】
上記取外し補助ピンをホルダーに対して高い精度で同心に螺合させるため、ホルダーの貫通穴に断面が真円の位置決め穴を設けるとともに、その位置決め穴の内周面に接するように摺動可能に嵌合される円柱形状の位置決め嵌合部を取外し補助ピンに設けることが望ましい。これ等の位置決め穴および位置決め嵌合部は、前記円錐形状の係合突起と係合凹所とが嵌合される部分の近傍に設けることが望ましい。
【0026】
前記ホルダーや加工ヘッド、上記取外し補助ピンには、工具を係止して回転不能に固定したり軸心まわりに回転させたりするために、工具を相対回転可能に係止できる工具係止部を設けることが望ましい。工具係止部は、軸心を挟んで対称位置に互いに平行に設けられる一対の平坦面や、外周形状が六角形や四角形等の角形或いは長円形等の頭部、軸方向の端面に設けられた六角形や四角形等の角形或いは長円形等の係止穴などである。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である加工ヘッド交換式回転工具10を示す図で、(a) は軸心Oと直角な方向から見た正面図、(b) は先端側から見た底面図、(c) は(a) におけるIC−IC視断面図、(d) は斜視図である。この加工ヘッド交換式回転工具10はフライス工具で、円柱形状のストレートシャンク12と加工ヘッド14とを備えている。シャンク12はホルダーに相当し、比較的安価な高速度工具鋼にて構成されている一方、加工ヘッド14は超硬合金にて構成されており、6枚の外周刃16が設けられているとともに、必要に応じて化合物被膜等の硬質被膜がコーティングされる。外周刃16の刃径Dは、本実施例では12mmで、シャンク12の径寸法と同じ寸法である。
【0028】
図2は、上記加工ヘッド14を説明する図で、(a) は軸心S1を含む断面図、(b) は斜視図、(c) は加工ヘッド14に設けられた締結用おねじ18の断面の拡大図である。また、図3はシャンク12を説明する図で、(a) は軸心Oを含む断面図、(b) は軸心Oを含む断面の斜視図である。そして、加工ヘッド14には、外周刃16が設けられた先端側と反対側の端面に締結用おねじ18が軸心S1と同心に突設されている一方、シャンク12の先端中央部分には、その締結用おねじ18と螺合される締結用めねじ20が軸心Oと同心に設けられており、それ等の締結用おねじ18と締結用めねじ20とが螺合されることにより、加工ヘッド14がシャンク12の先端部に同心に着脱可能に取り付けられている。加工ヘッド14には、このように締結用おねじ18を締結用めねじ20に螺合するために工具が係止される工具係止部として、二面取り状の一対の平坦な係止面21が軸心S1に対して対称位置に互いに平行に設けられている。
【0029】
加工ヘッド14およびシャンク12には、締結用おねじ18および締結用めねじ20が螺合された締結状態において互いに密着させられ、両者を同心に位置決めする截頭円錐形状のテーパ部22およびテーパ穴24が、それぞれ軸心S1、Oと同心に設けられている。テーパ部22は、締結用おねじ18の基端側に締結用おねじ18から離間するに従って大径となるように設けられており、テーパ穴24は、シャンク12の締結用めねじ20よりも先端側に先端側程大径となるように設けられており、そのテーパ穴24の内周面にテーパ部22の外周面が密着させられることにより、加工ヘッド14がシャンク12に対して同心に位置決めされた状態で一体的に取り付けられる。これ等のテーパ部22、テーパ穴24のテーパ角度θ(図1(c) 参照)は、本実施例では約20°である。
【0030】
加工ヘッド14およびシャンク12にはまた、上記テーパ部22およびテーパ穴24とは別に、締結用おねじ18および締結用めねじ20が螺合された締結状態において互いに当接させられる当接面26、28が設けられている。当接面26は、テーパ部22の大径側の端部に連続して設けられた軸心S1に対して略垂直な円環形状の平坦面で、当接面28は、テーパ穴24の大径側に連続して設けられた軸心Oに対して略垂直な円環形状の平坦面、すなわちシャンク12の前端面であり、これ等の当接面26、28が軸方向に当接させられることにより、締結用おねじ18および締結用めねじ20のそれ以上の締め付け方向の回転が阻止される。
【0031】
このような加工ヘッド交換式回転工具10は、締結用おねじ18および締結用めねじ20が加工負荷により締まり勝手となる工具回転方向へ、主軸等に保持されるシャンク12を介して一体的に回転駆動されることにより、加工ヘッド14によってフライス加工を行なう。この実施例では、締結用おねじ18および締結用めねじ20は右ねじで、工具回転方向はシャンク12側から見て右まわり方向である。また、締結用おねじ18および締結用めねじ20は加工負荷によって締まり勝手となるため、加工負荷により締結状態が緩む恐れが無い一方、当接面26と28との当接により加工負荷で締結用おねじ18および締結用めねじ20が更に締め付けられることが阻止され、締め付け過ぎにより加工ヘッド14が取外し不能になることが防止される。
【0032】
本実施例では加工ヘッド14をシャンク12から取り外す際に用いられる取外し補助ピン30が用意されている。図4は、この取外し補助ピン30を示す図で、(a) は軸心S2と直角方向から見た一部を切り欠いた正面図、(b) は斜視図であり、工具係止部として六角穴32が設けられた頭部34と、おねじ部36と、おねじ部36よりも小径の円柱形状の位置決め嵌合部38と、その位置決め嵌合部38の先端に設けられた円錐形状の係合突起40とを、その順番で軸心S2上に一体に備えている。一方、シャンク12には、軸心Oを貫通するように貫通穴42が設けられており、その先端部分に前記締結用めねじ20およびテーパ穴24が形成されているとともに、他端部すなわち図3の(a) における右側の後端部側から上記頭部34を収容可能な大径穴44、おねじ部36と螺合される取外し用めねじ46、および位置決め嵌合部38が摺動可能に嵌合される断面が真円の位置決め穴48が設けられており、その位置決め穴48は軸方向において締結用めねじ20に隣接している。
【0033】
そして、図5に示すように上記貫通穴42の後端開口内に取外し用補助ピン30が係合突起40側から挿入され、おねじ部36が取外し用めねじ46に螺合されるとともに、係合突起40が加工ヘッド14に当接させられることにより、締結用おねじ18と締結用めねじ20との螺合を緩めて加工ヘッド14をシャンク12から取り外す際に、その加工ヘッド14を軸方向へ押し出すように押圧する力が付与される。加工ヘッド14の締結用おねじ18の先端面、すなわち上記係合突起40が当接させられる当接部位には、その係合突起40と同じテーパ角(本実施例では約90°)の円錐形状の係合凹所50が軸心S1と同心に設けられており、それ等の係合突起40と係合凹所50とが面接触するように嵌合されることにより、加工ヘッド14と取外し補助ピン30、更にはシャンク12とが同心に芯出しされ、締結用おねじ18と締結用めねじ20との螺合を比較的容易に緩めることができるようになる。係合突起40および係合凹所50の外周面(テーパ面)が互いに確実に面接触することを許容するため、係合突起40の先端を切除するか、或いは係合凹所50の底部に逃げ穴が設けられる。図5は、取外し補助ピン30がシャンク12の取外し用めねじ46に螺合されて係合突起40が係合凹所50に当接させられた状態を示す図で、(a) は軸心O、S1、S2を含む断面図、(b) はシャンク12を切り欠いて示す斜視図である。
【0034】
ここで、前記締結用おねじ18および締結用めねじ20は、図2の(c) に締結用おねじ18の断面を拡大して示すように、追い側フランク52のフランク角αが進み側フランク54のフランク角βよりも小さいのこ歯状のバットレスねじにて構成されている。本実施例では、追い側フランク52のフランク角αは4°〜15°の範囲内で、進み側フランク54のフランク角βは35°〜60°の範囲内とされている。締結用めねじ20のねじ山も同様に構成されているが、図2(c) の締結用おねじ18のねじ山に対応する形状であるため、図示を省略する。
【0035】
このような加工ヘッド交換式回転工具10においては、締結用おねじ18および締結用めねじ20が、追い側フランク52のフランク角αが進み側フランク54のフランク角βよりも小さいのこ歯状のバットレスねじにて構成されているため、加工ヘッド14によりフライス加工が行なわれる際に熱で膨張しても、その追い側フランク52同士が強固に密着させられて溶着する可能性は小さいとともに、反対側の進み側フランク54についても溶着が抑制され、加工ヘッド14を交換する際の取外し作業が容易になる。その場合に、進み側フランク54のフランク角βは比較的大きいため、所定の取付強度を維持できる。
【0036】
また、本実施例では、追い側フランク52のフランク角αが4°〜15°の範囲内で、進み側フランク54のフランク角βが35°〜60°の範囲内であるため、図6の試験結果からも明らかなように所定の取付強度を確保しつつ加工ヘッド14を容易に取り外して交換することができる。
【0037】
また、締結用おねじ18と締結用めねじ20との螺合を緩めて加工ヘッド14をシャンク12から取り外す際に、取外し補助ピン30を貫通穴42内に挿入して取外し用めねじ46に螺合するとともに加工ヘッド14に当接させることにより、その加工ヘッド14を押し出す方向の力を加えることが可能で、加工ヘッド14の取外しが一層容易になる。特に、取外し補助ピン30と加工ヘッド14との当接部位には、互いに面接触するように嵌合される円錐形状の係合突起40および係合凹所50がそれぞれ軸心S2、S1上に設けられているため、その係合突起40および係合凹所50の係合で加工ヘッド14と取外し補助ピン30、更にはシャンク12とが同心に芯出しされ、締結用おねじ18と締結用めねじ20との螺合を一層容易に緩めることができるようになる。本実施例では、締結用めねじ20に隣接して設けられた位置決め穴48に取外し補助ピン30の位置決め嵌合部38が嵌合され、係合突起40と係合凹所50との嵌合部分の近傍で取外し補助ピン30がシャンク12と同心に芯出しされるため、その取外し補助ピン30を介してシャンク12の締結用めねじ20と加工ヘッド14の締結用おねじ18とを高い精度で同心に芯出しすることができる。
【0038】
図6は、上記加工ヘッド交換式回転工具10において、締結用おねじ18および締結用めねじ20のフランク角α、βが異なる10種類の試験品No1〜No10を用意し、加工の良否および加工後の加工ヘッド14の取外し易さを調べた結果を説明する図で、(a) は切削試験条件、(b) は試験結果を示す図である。図6(b) の判定欄の「○」、「△」、「×」は、備考欄に示す加工の良否および加工ヘッド14の取外し易さを総合的に判断したもので、「○」は加工および取外し易さが共に十分に満足できる場合、「△」は加工および取外し易さ共に満足できるが少なくとも一方が十分でない場合、「×」は加工および取外し易さの少なくとも一方が満足できない場合(所定の要件を満たさない場合)である。
【0039】
上記図6の結果から明らかなように、追い側フランク52のフランク角αが4°〜15°の範囲内で、且つ進み側フランク54のフランク角βが35°〜60°の範囲内の試験品No7〜No9は、ビビリ振動等を生じたり折損したりすることが無い優れた取付強度が得られるとともに、加工後に加工ヘッド14を取り外す際も、取外し補助ピン30を用いて容易に取り外すことができた。これに対し、α=20°、β=45°の試験品No6では、加工はビビリ振動等を生じることなく適切に行なうことができるものの、加工後に加工ヘッド14を取り外す際の作業が困難であり、このことから追い側フランク52のフランク角αは20°未満とすることが望ましい。α=3°、β=45°の試験品No10は、加工後に加工ヘッド14を容易に取り外すことができるものの、加工の際にビビリ振動が発生した。このことから、追い側フランク52のフランク角αについても、取付強度の点である程度の角度が必要で、3°より大きいことが望ましい。他の試験品No1〜No5については、取付強度が十分に得られず加工中に連結部分(ねじ結合部)から工具が折損するか、加工後に加工ヘッド14の取外しが不能になり、この加工条件では適切に使用することができなかった。
【0040】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0041】
10:加工ヘッド交換式回転工具 12:シャンク(ホルダー) 14:加工ヘッド 18:締結用おねじ 20:締結用めねじ 26、28:当接面 30:取外し補助ピン 40:係合突起 42:貫通穴 46:取外し用めねじ 50:係合凹所 52:追い側フランク 54:進み側フランク O:ホルダーの軸心 S1:加工ヘッドの軸心 S2:取外し補助ピンの軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工ヘッドおよびホルダーの一方および他方にそれぞれ軸心上に設けられた締結用おねじおよび締結用めねじが互いに螺合されることにより、該加工ヘッドが該ホルダーの先端部に同心に着脱可能に取り付けられるとともに、
それ等の加工ヘッドおよびホルダーには、前記締結用おねじおよび前記締結用めねじが螺合された締結状態において互いに当接させられる当接面が設けられており、
前記締結用おねじおよび前記締結用めねじが加工負荷により締まり勝手となる工具回転方向へ前記ホルダを介して一体的に回転駆動されることにより、前記加工ヘッドによって所定の加工を行なうとともに、前記当接面の当接により加工負荷で前記締結用おねじおよび前記締結用めねじが更に締め付けられることが防止される加工ヘッド交換式回転工具において、
前記締結用おねじおよび前記締結用めねじは、追い側フランクのフランク角αが進み側フランクのフランク角βよりも小さいのこ歯状のバットレスねじにて構成されている
ことを特徴とする加工ヘッド交換式回転工具。
【請求項2】
前記追い側フランクのフランク角αは4°〜15°の範囲内で、前記進み側フランクのフランク角βは35°〜60°の範囲内である
ことを特徴とする請求項1に記載の加工ヘッド交換式回転工具。
【請求項3】
前記ホルダーには、軸心を貫通するように貫通穴が設けられているとともに、該貫通穴の少なくとも一部に取外し用めねじが設けられており、
該ホルダーの後端から前記貫通穴内に挿入されて前記取外し用めねじに螺合されるとともに、先端部が前記加工ヘッドに当接させられることにより、前記締結用おねじと前記締結用めねじとの螺合を緩めて該加工ヘッドを該ホルダーから取り外す際に該加工ヘッドを押し出すように押圧する取外し補助ピンを有する一方、
該取外し補助ピンと前記加工ヘッドとの当接部位には、互いに面接触するように嵌合される円錐形状の係合突起および係合凹所がそれぞれ軸心上に設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の加工ヘッド交換式回転工具。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の加工ヘッド交換式回転工具のホルダー。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項に記載の加工ヘッド交換式回転工具の加工ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−284752(P2010−284752A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140545(P2009−140545)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】