説明

加工前リンク構造体の固定方法、およびそれを用いたリンク構造体の製造方法、リンク構造体

【課題】加工前リンク構造体において、高精度に加工することが可能な固定方法、およびそれを用いたリンク構造体の製造方法、リンク構造体を提供することにある。
【解決手段】腕部と、該腕部の両端に設けられた関節部であって、該両端の少なくとも一端に、二股に分かれたヨークが形成された関節部とを有してなる、繊維強化プラスチックで構成された加工前リンク構造体を、該加工前リンク構造体に加工を施すために用いられる加工治具に固定するにあたり、前記両端の関節部に部分的に製品外フランジを設け、該製品外フランジを前記加工冶具に接着させることにより、前記加工前リンク構造体を前記加工治具に固定すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リンク構造体、特に、加工に対する剛性が低い繊維強化プラスチック(以下、FRPともいう)で構成されたリンク構造体を加工する工程において、高精度に加工することを可能にする固定方法を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットなどに用いられるリンク構造体においては、動作性や制振性の向上、また駆動源の小型化等の観点から、軽量かつ高剛性であることが求められている。そのためリンク構造体を構成する材料としてFRPが採用されてきている。
【0003】
また、ロボットが所定の動作をするために、駆動源等を取り付ける関節部および各関節部間には、軸間距離、平面度、直角度、同心度等の高い寸法精度や幾何公差が求められる。前記関節部はFRPや金属などの材料で構成されており、成形後に機械加工によって必要な寸法精度や幾何公差を出すことが求められる。
【0004】
最終的に得られるリンク構造体に加工する前のリンク構造体(「加工前リンク構造体」と称する。)がすべて金属から構成されている場合は、ボルト、ナット等で機械的に加工冶具に固定する方法や、万力と当板などを利用して固定する方法によって、必要な精度を出す機械加工を行うことが可能である。また、部分的に厚肉部を設けて、該肉厚部を機械的に固定することも容易に行うことができる。しかし、リンク構造体がより軽量かつ高剛性化を目指して、FRPから構成されており、FRP部分が薄肉構造をなす場合、リンク構造体としては必要な剛性を有していても、加工に対しては十分な剛性を有していないという問題があった。つまり、FRPの薄肉構造からなる加工前リンク構造体では、すべて金属から構成される加工前リンク構造体と同様に、ボルト、ナット等の機械的固定を用いた場合、固定する力が弱いと、機械加工を行ってもびびり等が発生し必要な精度が出ず、他方、固定する力が強いと、局部的に変形が生じ、固定した状態で精度が出たとしても固定をはずすと精度が出ない、という問題があった。固定する力をうまく調整することによって、機械加工により精度を出すことも不可能ではないが、調整に時間がかかりすぎるため、生産性の問題が発生する。また、FRPに部分的に厚肉部を設けることも可能ではあるが、構造上不安定になることや、成形やコスト面からも好ましくない。
【0005】
プラスチックのような脆い材料を加工する場合、製品外にフランジ部を設けて、該フランジ部分をボルトで固定し、機械加工後にフランジ部を切り離す方法(特許文献1)が用いられている。しかし、上述した理由から、ボルトによる機械的な固定は、薄肉のFRPから構成される加工前リンク構造体には適していない。
【0006】
また一般的に板状の被加工物を加工機に固定する方法として接着剤によって固定する方法などが用いられている(特許文献2、3)。板状の被加工物を加工する時は加工工具の進行方向に対して垂直な面を加工冶具に接着することによって、被加工物の加工工具の進行方向に対して垂直な面内へのずれを防止し、高精度な加工を可能にしている。しかし、加工前リンク構造体の場合は、腕部の両端に、その少なくとも一端に二股に分かれたヨークが形成された関節部を有しており、関節部および各関節部間に高い寸法精度および幾何公差が要求されているため、当該二股に分かれたヨーク形状に対して、内外両側から加工することが必要とされ、関節部の板状部分を加工冶具に固定することが困難である。
【特許文献1】特開平3−264233号公報
【特許文献2】特開2003−300127号公報
【特許文献3】特開2008−18483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の課題は、上記のような背景を鑑み、加工前リンク構造体において、高精度に加工することが可能な固定方法、およびそれを用いたリンク構造体の製造方法、リンク構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下の構成からなる。すなわち、
(1)腕部と、該腕部の両端に設けられた関節部であって、該両端の少なくとも一端に、二股に分かれたヨークが形成された関節部とを有してなる、繊維強化プラスチックで構成された加工前リンク構造体を、該加工前リンク構造体に加工を施すために用いられる加工治具に固定するにあたり、前記両端の関節部に部分的に製品外フランジを設け、該製品外フランジを前記加工冶具に接着させることにより、前記加工前リンク構造体を前記加工治具に固定することを特徴とする加工前リンク構造体の固定方法。
【0009】
(2)前記製品外フランジと前記加工冶具との間の接着厚みが1mm以下である、(1)に記載の加工前リンク構造体の固定方法。
【0010】
(3)前記関節部に金属部品が設けられている、(1)または(2)に記載の加工前リンク構造体の固定方法。
【0011】
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により前記加工治具に固定された加工前リンク構造体を加工した後に、前記製品外フランジを切断する工程を有するリンク構造体の製造方法。
【0012】
(5)(4)に記載の製造方法によって得られたリンク構造体であって、産業用ロボットに用いられるリンク構造体。
【0013】
(6)(4)に記載の製造方法によって得られたリンク構造体であって、サービスロボットに用いられるリンク構造体。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る加工前リンク構造体の固定方法によれば、腕部と、該腕部の両端に設けられた関節部であって、該両端の少なくとも一端に、二股に分かれたヨークが形成された関節部とを有してなる、繊維強化プラスチックで構成された加工前リンク構造体を、該加工前リンク構造体に加工を施すために用いられる加工治具に固定するにあたり、前記両端の関節部に部分的に製品外フランジを設け、該製品外フランジを前記加工冶具に接着させることにより、加工工具の進行方向に対しては、接着剤のせん断力によって加工前リンク構造体が保持され、加工工具の進行方向にとって垂直な面内方向に対しては、接着剤の圧縮力によって保持されるため、加工時にびびり等が発生することなく、必要な寸法精度および幾何公差を出すことが可能となる。また加工前リンク構造体には局部的な強い力を加えることなく、加工冶具に固定することができるため、加工後に製品外フランジ部を切り離しても、リンク構造体は必要な寸法精度および幾何公差をもっている。これにより、駆動系部品をリンク構造体の所定の位置に精度良く組付けることが可能となり、所望の動作を行うことができる。
【0015】
本発明に係る加工前リンク構造体の固定方法を用いて最終的に得られるリンク構造体を、産業用ロボット、サービスロボットなどのロボット部材の関節構造に適用すれば、軽量かつ高剛性であり、かつ高い寸法精度と幾何公差を有する構造を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
腕部と、該腕部の両端に設けられた関節部であって、該両端の少なくとも一端に、二股に分かれたヨークが形成された関節部とを有してなる、繊維強化プラスチックで構成された加工前リンク構造体を、該加工前リンク構造体に加工を施すために用いられる加工治具に固定するにあたり、前記両端の関節部に部分的に製品外フランジを設け、該製品外フランジを前記加工冶具に接着させることにより、前記加工前リンク構造体を前記加工治具に固定することを特徴とする。なお、本発明で規定の「加工前リンク構造体」とは、寸法精度や幾何公差を出すために必要とされる加工等が施される前のリンク構造体を意味し、最終的に得られるリンク構造体と区別するために用いられている用語である。
【0017】
ここで言う「腕部」とは、関節部と接続される部位のことであり、例えば、両端にある2つの関節部を接続し、関節部にかかる荷重の伝達を行ったり、内部に他部品を内蔵する等の役割を果たしたりする部位のことである。「関節部」とは、減速機やモーター等の駆動系部品を取り付けることができる機能を有している部分のことである。また、ここで言う「加工」とは、機械加工のことであり、ドリルやフライスなどの切削工具とマシニングセンタなどの工作機械を用いて被加工物を加工することである。さらに、「加工治具」とは被加工物を加工する時に、被加工物が動かないように固定したり、被加工物の位置決めなどを行ったりするための台のことである。被加工物は加工冶具に固定され、加工冶具は機械的方法で工作機械に堅固に固定され、かつ、工作機械に対して高精度に位置決めされている。また、「製品外フランジ」とは、フランジの一部を延在させた部分のことであり、最終製品であるリンク構造体の外に設けられている。
【0018】
製品外フランジと前記加工冶具との間の接着厚みは1mm以下とすることが好ましい。加工工具の進行方向にとって垂直な面内方向に対して、加工前リンク構造体を安定して保持することができるだけでなく、加工前リンク構造体を加工冶具に固定する時に比較的簡易に接着することも可能となる。
【0019】
本発明に係る加工前リンク構造体の固定方法を用いて最終的に得られるリンク構造体の適用範囲は特に限定されず、産業用ロボットやサービスロボットの構造部分に好ましく用いられる。ここで言う産業用ロボットとは、一般的に製造ラインで使用される溶接ロボットや組立ロボット等のことである。またサービスロボットとは、掃除などの家事、介護、救助や娯楽等に用いられるロボット全般のことである。
【0020】
以下に、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態をさらに詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明の一実施形態に係る加工前リンク構造体1の斜視図を示している。加工前リンク構造体1は、腕部2と関節部3、4から構成され、関節部3、4のフランジ5〜8には、それぞれ部分的に製品外フランジ13〜16が設けられている。さらに関節部3、4には金属部品9〜12が設けられている。すなわち、金属部品9〜12はリンク構造体としての機能を果すために、駆動系部品を取り付ける箇所に設けられている。かかる金属部品の材料としては、鉄系材料、チタン合金、またアルミ合金やマグネシウム合金等の軽合金が用いることができるが、軽量化の観点からは軽合金を用いるのがよい。なお、関節部3、4の金属部品9〜12が設けられている箇所は、プラスチックやFRPで構成されていても良い。
【0022】
加工前リンク構造体を構成するFRPは、強化繊維により強化されたプラスチック層を指し、強化繊維としては、たとえば、炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維や、ケブラー繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維からなる強化繊維が挙げられる。軽量性および剛性の面からは、とくに炭素繊維が好ましい。FRPのプラスチック層としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、さらには、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂も使用可能である。高い力学特性を求められる場合には、熱硬化樹脂ではエポキシ樹脂、熱可塑性樹脂ではポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましく適用できる。
【0023】
また、製品外フランジ13〜16は関節部のフランジ5〜8の一部に設けられている。製品外フランジが腕部まで延在している場合、加工後に製品外フランジを切り離した時、必要な寸法精度や幾何公差が出ない可能性があるためである。
【0024】
なお、本発明の別の一実施形態に係る加工前リンク構造体24として、図3に示すように、腕部25の一端の関節部27においてのみ二股に分かれたヨークが形成され、他の一端の関節部26には二股に分かれたヨークの一方のみが形成されたものであっても良い。かかる態様は、構造を簡略化でき、軽量化できるというメリットを備えているが、動作を安定させるという観点からは、図1に示すような、腕部の両端に二股に分かれたヨークが形成された関節部3、4が設けられていることが好ましい。
【0025】
以下、図2−a〜図2−cを用いて、本発明に係る加工前リンク構造体の固定方法を用いた、一実施形態に係るリンク構造体の製造方法の手順を示す。
【0026】
(A)の工程(図2−a)において、加工前リンク構造体1の製品外フランジ13〜16に接着剤17〜20をそれぞれ塗布する。製品外フランジの幅は5mm以上15mm以下であることが好ましい。5mmより小さい場合は加工前リンク構造体の固定が不安定で加工時にびびりが発生してしまい、必要な精度が出ない可能性がある。また、15mmより大きい場合は接着の作業性が悪化する場合があるためである。接着剤としては、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、シアノアクリレート系接着剤などを使用することが可能であるが、接着力、硬さ、作業性の観点からエポキシ系接着剤が好ましい。
【0027】
次に(B)工程(図2−b)において、加工冶具21に加工前リンク構造体を固定する。加工冶具は加工前リンク構造体との隙間が所定の値になるように加工されている。(A)の工程によって得られた、接着剤塗布後の加工前リンク構造体1を加工冶具に挿入ことによって、接着厚みを前記所定の値にすることができる。なお、当該接着厚みは1mm以下にすることが好ましく、0.5mm程度(0.4〜0.6mmの範囲で分布)であることが加工前リンク構造体の固定の安定性や接着の作業性の観点から最も好ましい。加工前リンク構造体は、接着剤の厚みの範囲で加工治具に対して位置決めされるが、この位置決め精度は、最終製品であるリンク構造体に要求される精度よりも大幅に低い。しかし、加工治具が工作機械に対して高精度に位置決めかつ堅固に固定されているので、加工が加工治具に対して高精度に行われる結果、加工前リンク構造体の上に、必要な高精度の加工が成されることになる。これら効果を得るためには、接着厚みは、上述のとおり1mm以下が好ましく、加工前リンク構造体およびその製品外フランジは加工治具に直接接しないようにすると良い。図示は割愛するが、接着剤が固まるまでは、加工前リンク構造体1の腕部2の下側に台などを置いておけば良い。そうすることで、加工前リンク構造体に局所的な力を負荷することなく、加工冶具に固定することが可能となる。このように固定することによって、加工工具の進行方向29に対しては、接着剤のせん断力によって保持され、加工工具の進行方向29にとって垂直な面内方向28に対しては、接着剤の圧縮力によって保持されるため、加工時にびびり等が発生することなく、必要な寸法精度および幾何公差を出すことが可能となる。
【0028】
次に(C)工程(図2−c)において、エンドミル22の様なフライス等の切削工具を用いて、加工を実施する。必要な寸法精度や幾何公差のための加工完了後に、製品外フランジを加工により切り離す。加工前リンク構造体に局所的な力を負荷することなく、加工冶具に固定されているため、製品外フランジを切り離した後も、必要な寸法精度および幾何公差をリンク構造体が有している。そのため、駆動系部品をリンク構造体の所定の位置に精度良く組付けることが可能となり、リンク構造体は所望の動作を行うことができる。
【0029】
以上の製造方法を用いることによって、軽量かつ高剛性であり、所望の寸法精度と幾何公差を有するリンク構造体23を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る加工前リンク構造体の一例を示す斜視図である。
【図2−a】本発明に係るリンク構造体の製造方法の一工程の一例を示す図である。
【図2−b】本発明に係るリンク構造体の製造方法の一工程の一例を示す図である。
【図2−c】本発明に係るリンク構造体の製造方法の一工程の一例を示す図である。
【図3】本発明に係る加工前リンク構造体の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1、24:加工前リンク構造体
2、25:腕部
3、4、26、27:関節部
5、6、7、8:フランジ
9、10、11、12:金属部品
13、14、15、16:製品外フランジ
17、18、19、20:接着剤
21:加工冶具
22:エンドミル
23:リンク構造体
28、29:方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腕部と、該腕部の両端に設けられた関節部であって、該両端の少なくとも一端に、二股に分かれたヨークが形成された関節部とを有してなる、繊維強化プラスチックで構成された加工前リンク構造体を、該加工前リンク構造体に加工を施すために用いられる加工治具に固定するにあたり、前記両端の関節部に部分的に製品外フランジを設け、該製品外フランジを前記加工冶具に接着させることにより、前記加工前リンク構造体を前記加工治具に固定することを特徴とする加工前リンク構造体の固定方法。
【請求項2】
前記製品外フランジと前記加工冶具との間の接着厚みが1mm以下である、請求項1に記載の加工前リンク構造体の固定方法。
【請求項3】
前記関節部に金属部品が設けられている、請求項1または2に記載の加工前リンク構造体の固定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により前記加工治具に固定された加工前リンク構造体を加工した後に、前記製品外フランジを切断する工程を有するリンク構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法によって得られたリンク構造体であって、産業用ロボットに用いられるリンク構造体。
【請求項6】
請求項4に記載の製造方法によって得られたリンク構造体であって、サービスロボットに用いられるリンク構造体。

【図1】
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【図2−a】
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【図2−b】
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【図2−c】
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【図3】
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