説明

加工無洗米及びその製造方法

【課題】 毎日の食事として摂取するのに適した米飯を利用して、乳酸菌を日常的に摂取できるようにする。
【解決手段】 白米の表面に付着する付着糠を除去した米に、乳酸菌の死菌体を分散させた懸濁液を噴霧し、乾燥させて、無洗米の表面に乳酸菌の死菌体を付着させた加工無洗米を得る。また、より好ましくは、米表面への該乳酸菌の良好な付着安定性を得るために、前記乳酸菌として、細菌サイズが比較的小さい乳酸球菌を用いる。本発明の加工無洗米は、外観や味、風味、食感等において、加工前の無洗米と比べて遜色なく、健康維持・増進用食品として好ましく用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無洗米の表面に乳酸菌の死菌体を付着させて成る加工無洗米及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無洗米は、精米機では取りきれない付着糠を除去してあるお米であり、研がなくてもおいしくご飯が炊けるので、便利である。最近では、無洗米をコスト安く生産できる各種の無洗米処理装置が開発されるに至り、米飯提供業務用として、又は一般消費者にも受け、普及しつつある。
【0003】
一方、研がないで用いるという無洗米の特長を生かして、無洗米の表面に栄養成分をコーティングしておき、炊飯し、その栄養成分をご飯と一緒に摂取できるようにした加工無洗米が知られている。
【0004】
すなわち、例えば、下記特許文献1には、無洗米もしくは胚芽精米の表層全体を所定の被覆剤により被覆して成る被覆無洗米もしくは、被覆胚芽精米であって、該被覆剤は、薬用植物を主原料とした水溶液であり、該水溶液に使用する水は、米に対して1〜5%の割合で調整し、薬用植物が米に対して重量比で0.1〜1.0%の割合の被覆剤を用いて被覆処理され、加工前の無洗米もしくは胚芽精米の水分含量に対して0.5%以内の水分上昇に収まる範囲に調整し、水分含量16.0%以下に加工したことを特徴とする栄養付加着色米が開示されている。
【0005】
このような無洗米を用いた栄養付加コーティング米によれば、米に付着させた付加栄養分が米を研ぐ際に流れ出てしまうことがないので、その栄養成分をご飯と一緒に摂取できる。
【0006】
他方、従来から、免疫賦活、抗腫瘍効果等のための機能性食品として、乳酸菌が知られている。
【0007】
例えば、下記特許文献2には、乳酸菌又はその処理物を有効成分とする、薬剤によって低下した液性免疫機能を回復する作用を有する液性免疫回復剤が開示されている。
【0008】
このような乳酸菌の作用効果は、加熱滅菌処理した死菌体にも認められ、その主要な生理活性成分は、乳酸菌の細胞壁を構成する糖タンパク成分等であると考えられている。
【特許文献1】特開2006−42629号公報
【特許文献2】特開平10−29946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、乳酸菌による作用効果を得るためには、毎日継続的に摂取することが必要であり、普段から日常的に食する食品にコスト安く配合することが望まれていた。
【0010】
したがって、本発明の目的は、毎日の食事として摂取するのに適した米飯を利用して、乳酸菌を日常的に摂取できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、意外にも、乳酸菌がバインダーやコーティング剤なしに均一に無洗米に付着し、その付着安定性も良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の加工無洗米は、無洗米の表面に乳酸菌の死菌体を付着させたことを特徴とする。
【0013】
本発明の加工無洗米によれば、炊飯の際に米を研ぐという洗米作業を省くことができるように無洗化処理され、白米の表面に付着する粘性の付着糠を除去した無洗米の表面に乳酸菌の死菌体を付着させるので、当該無洗米に安定に乳酸菌を付着させることができる。
【0014】
また、本発明の加工無洗米の製造方法は、白米の表面に付着する付着糠を除去した米に、乳酸菌の死菌体を分散させた懸濁液を噴霧し、乾燥させることを特徴とする。
【0015】
本発明の加工無洗米の製造方法によれば、食品製造分野で用いられている通常の噴霧装置を用いて、コスト安く、前記加工無洗米を製造することができる。また、乳酸菌の死菌体を用いるので乳酸菌の生菌による汚染がなく、噴霧装置等の機器の管理もおこないやすい。
【0016】
本発明においては、前記乳酸菌が、乳酸球菌であることが好ましい。これによれば、細菌サイズが比較的小さい乳酸球菌を用いるので、更に付着安定性がよい。
【0017】
また、前記乳酸菌が、エンテロコッカス・フェカリスであるであることが好ましい。これによれば、乳酸菌の中でも特に無洗米に付着しやすく、炊飯した後でも、乳酸菌が均一に含有されたご飯が得られる。
【0018】
本発明の加工無洗米においては、乳酸菌の付着量が、米100gあたり4〜100mgであることが好ましい。これによれば、例えば、エンテロコッカス・フェカリスなどの乳酸菌の生理活性を得るためには、成人1日あたりの有効摂取量が菌数にして1010〜1012個の範囲であるとされているのであるが、上記の付着量にすることによって、成人1日あたりの有効摂取量をご飯茶碗1〜3杯分(米70〜210g)で補給することができる。
【0019】
本発明の別の態様においては、更に、γ―アミノ酪酸(GABA)、ビタミン類、ミネラル類、ポリフェノール類、セラミド、又はカロチン類から選ばれた1種又は2種以上の物質を付着させた加工無洗米を提供する。これによれば、前記加工無洗米を、更に栄養的価値及び/又は機能性の高いものとすることができる。
【0020】
本発明の加工無洗米の製造方法においては、前記懸濁液が、前記乳酸菌の死菌体を0.5〜5質量%含有する水懸濁液であることが好ましい。これによれば、所望量の乳酸菌の死菌体を米の各粒の表面に均一に分散させることができる。
【0021】
また、本発明の加工無洗米の製造方法においては、前記付着糠を除去した米に対して1〜3質量%の噴霧量で前記懸濁液を噴霧することが好ましい。これによれば、前記懸濁液の噴霧を受けた米が過多の水分を含むことがなく、その後乾燥する際に米の胴割れを起こしやすくなることがない。
【0022】
前記加工無洗米の製造方法においては、前記水懸濁液が、更に、γ―アミノ酪酸(GABA)、ビタミン類、ミネラル類、ポリフェノール類、セラミド、又はカロチン類から選ばれた1種又は2種以上の物質を含有する水懸濁液であることが好ましい。これによれば、乳酸菌と前記物質とを同じ工程で米に付着させることができるので、栄養的価値及び/又は機能性の高められた加工無洗米を、効率よく製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の加工無洗米によれば、無洗化処理された無洗米の表面に、乳酸菌の死菌体を安定性よく付着させることができるので、毎日の食事として米飯とともに簡便に、気軽に、所望量の乳酸菌を摂取するのに適した乳酸菌含有加工食品を提供することができる。
【0024】
また、本発明の加工無洗米の製造方法によれば、食品製造分野で用いられている通常の噴霧装置を用いて、コスト安く、前記加工無洗米を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明において「無洗米」とは、従来の精米機では取りきれない白米の表面に付着する粘性の付着糠を除去した米であり、うるち米、もち米等、米の品種、又は銘柄を問わず、炊飯の際に米を研ぐという洗米作業を省くことができるように無洗化処理された米を意味する。
【0026】
本発明においては、白米を無洗米処理装置にかけて白米の表面に付着する粘性の付着糠を除去して無洗米とし、これを本発明の加工無洗米の原材料とすることができる。無洗米処理装置として、例えば、ホイールブラシで研磨して付着糠を除去する「乾式無洗米処理装置」や水道水を用いた加圧水流で付着糠を除去する「湿式無洗米処理装置」(いずれも株式会社山本製作所製)を好ましく用いることができる。また、特開2000−245364号公報等に記載されているような公知の処理方法、処理装置に準じて適宜に白米を処理することによっても、本発明の加工無洗米の原材料となる無洗米を得ることができる。
【0027】
本発明の加工無洗米の原材料となる前記無洗米としては、市販されている無洗米を用いることもできる。その場合、当該無洗米の品質等に特に制限はないが、例えば、特定非営利活動法人である全国無洗米協会の定める認証を受けた無洗米であれば、米の安全面、品質面、及び無洗化処理の環境面で、当該協会の基準を満たす無洗米であり、本願発明に好ましく用いることができる。
【0028】
本発明の加工無洗米の原材料となる前記無洗米は、その水分含量が14〜16質量%であることが好ましい。その水分含量が14質量%以下であると、米粒にクラックが入りやすいので好ましくなく、16質量%を超えると、従来の乾燥設備の性能基準設定の下、規定水分に乾燥しにくいので好ましくない。
【0029】
本発明において、前記原材料となる無洗米の表面に付着させる乳酸菌としては、食品に配合するものとして許容されるものであれば特に制限されず、例えば、免疫賦活、抗腫瘍効果等のための機能性食品として知られている各種乳酸菌を用いることができる。しかし、無洗米に対する付着安定性の点から特に乳酸球菌が好ましく用いられる。このような乳酸球菌としては、例えば、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・アビウム、エンテロコッカス・デュランス、エンテロコッカス・マラドラートス、エンテロコッカス・カセリフラブス、エンテロコッカス・ガリナール、ロイコノストック・クレモリス、ロイコノストック・シトロボラム、ロイコノストック・メゼンテロイデス、ペディオコッカス・セルビシェ、ペディオコッカス・ハロフィルス、ストレプトコッカス・アセトイニカス、ストレプトコッカス・エビウム、ストレプトコッカス・クレモリス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・サングィウス、ストレプトコッカス・ソイエ、ストレプトコッカス・デュランス、ストレプトコッカス・パラシトロボルス、ストレプトコッカス・ラクチス等が挙げられる。
【0030】
また、乳酸球菌の中でも、優れた免疫賦活活性を有することが知られており、無洗米に対する付着安定性が良好なエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)(生物資源センター「アメリカンタイプ カルチャー コレクション」から入手可能;ATCC 19433、ATCC 14508、ATCC 23655等)が特に好ましく用いられる。エンテロコッカス・フェカリスの加熱処理菌体として、例えば、市販されている「殺菌乳酸菌EC−12」(商品名、コンビ株式会社製)等を用いてもよい。なお、エンテロコッカス・フェカリス生菌の菌のサイズは直径0.5〜1.0μm程度であることが知られている。
【0031】
本発明においては、上記エンテロコッカス・フェカリスのような菌のサイズが小さい球菌型の乳酸菌を用いることが好ましい。すなわち後述する実施例で示すように、菌の長径方向のサイズが3〜8μm程度である桿菌型の乳酸菌、又は乳酸球菌であっても菌のサイズが大きい2〜3μm程度のものを用いると、米への付着性に問題はないが、ご飯を炊くときに米からはがれ落ちてしまう傾向がある。したがって、菌のサイズが0.3〜2μm、より好ましくは0.3〜1.0μm程度である乳酸球菌を用いることが好ましい。
【0032】
本発明においては、得られる加工無洗米の品質の安定性、安全性等の観点から、乳酸菌を加熱処理、加圧処理等することで殺菌してその死菌体を用いる。また、後述する水懸濁液中での水分散性を良好なものとするために乳酸菌の死菌体を微粉末状に調製したものを用いることが好ましい。
【0033】
本発明において、前記乳酸菌の死菌体は、適宜に選択された培養条件で培養して得られた生菌を、各乳酸菌に適した殺菌方法で殺菌処理を施し、それを噴霧乾燥、凍結乾燥等の公知の手段により乾燥して得ることができる。
【0034】
例えば、エンテロコッカス・フェカリスの場合には、ロゴサ培地にて30〜45℃、12〜72時間培養した後、遠心分離等の適当な手段で菌体を回収する。回収した菌体を、水洗、濃縮し、この濃縮菌体懸濁液を80〜115℃、3秒間〜30分間加熱処理した後、噴霧乾燥、凍結乾燥等の適当な手段により乾燥したものを、本願発明の乳酸菌死菌体として用いることができる。
【0035】
本発明の加工無洗米は、原料となる前記無洗米に、前記乳酸菌の死菌体を好ましくは0.5〜5質量%含有する水懸濁液を噴霧し、乾燥させることで得ることができる。
【0036】
上記の噴霧処理は、米の表面にまんべんなく乳酸菌を付着させるために、原料となる前記無洗米を動転・攪拌させながらおこなうことが好ましい。また、攪拌プロペラ付の噴霧タンクに入れて、前記水懸濁液攪拌しながら噴霧することもできる。
【0037】
上記の乾燥処理は、通常の乾燥装置を用いておこなうことができ、また、自然乾燥によってもおこなうことができる。その際、まんべんなく乾燥させるために、原料となる前記無洗米を動転・攪拌させながらおこなうことが好ましい。この乾燥によって、上記の噴霧処理において無洗米に付着した前記水懸濁液の水分が乾固して、乳酸菌の死菌体が米の表面に付着する。なお、乾燥処理は噴霧処理と同時におこなってもよい。
【0038】
上記の噴霧処理及び/又は乾燥処理においては、前記水懸濁液の吹きかけ温度を5℃〜30℃、より好ましくは10℃〜25℃とすることが好ましい。吹きかけ温度が5℃よりも低いと、その後の乾燥の効率が悪くなるので好ましくない。また、吹きかけ温度が30℃よりも高いと、米の品質に悪影響を及ぼすので好ましくない。また、噴霧処理のための攪拌ドラム内の温度を調節する等によって、噴霧処理及び/又は乾燥処理の雰囲気温度を米の品質に悪影響を与えないようにすることができる。
【0039】
また、上記の乾燥処理における乾燥温度は、室温〜室温プラス10℃であることが好ましく、室温プラス5℃〜室温プラス10℃とすることがより好ましい。
【0040】
上記の噴霧処理においては、米の全体の質量に対して1〜3質量%の噴霧量で前記懸濁液を噴霧することが好ましい。噴霧量が米の質量に対して3質量%よりも多いと米が水分を多く含みその後乾燥する際に米の胴割れを起こしやすくなるので好ましくない。また、1質量%よりも少ないと、所望量の乳酸菌の死菌体を米の各粒の表面に均一に分散させるために必要とされる噴霧量を確保できないので好ましくない。
【0041】
本発明の加工無洗米においては、上記のようにして噴霧処理及び乾燥処理を経て得られる乳酸菌の最終的な付着量が、米100gあたり4〜100mgであることが好ましい。
【0042】
この量は、例えば、エンテロコッカス・フェカリスの菌数に換算すると米100gあたり2×1010〜5×1011個となる。したがって、ご飯茶碗1杯分(米70g)を摂取することで、1.4×1010〜3.5×1011個の乳酸菌を摂取することができる量とされ、成人1日あたりの有効摂取量の目安である菌数にして1010〜1012個の範囲にあるエンテロコッカス・フェカリス菌を、一日の平均的なご飯摂取量(ご飯茶碗1〜3杯分)で補給できるように調製された加工無洗米とすることができる。
【0043】
本発明の好ましい態様においては、生産各工程の死菌体の菌数を測定して、生産管理や品質管理をすることができる。例えば、エンテロコッカス・フェカリスについては、ポリクローナル抗体を用いた市販の菌数測定システム「EF−アッセイ」(商品名、コンビ株式会社製)等を利用して菌数を測定することができる。また、適宜、乳酸菌に対する抗体を用いる方法や、顕微鏡下、血球計測盤等を用いて菌数を測定することができる。
【0044】
本発明の好ましい態様においては、更にまた、前記懸濁液に食用色素を添加して、噴霧処理における塗布ムラの有無を目視によって簡便に検査することができる。そして、乳酸菌とともに食用色素が塗布された加工無洗米は、そのまま食用に供することもできる。
【0045】
本発明においては、米の外観や、炊いたご飯の味、風味や食感に悪影響を与えない限りにおいて、バインダー等の所望のコーティング剤を用いてもよい。例えば、バインダーとしてデキストリンを用いる場合であれば、乳酸菌の死菌体を懸濁した前記水懸濁液中に0.01〜0.15mg/mlの濃度で配合して、乳酸菌とともに噴霧すればよい。また、コーティング剤と前記乳酸菌の死菌体を懸濁した前記水懸濁液とを別々に噴霧してもよい。
【0046】
本発明においては、米の外観や、炊いたご飯の味、風味や食感に悪影響を与えない限りにおいて、乳酸菌以外の所望の機能性食品素材を乳酸菌とともに米に付着させてもよい。このような機能性食品素材としては、例えば、γ―アミノ酪酸(GABA)、ビタミン類、ミネラル類、ポリフェノール類、セラミド、カロチン類等が挙げられる。
【0047】
乳酸菌以外の機能性食品素材は、乳酸菌と同様な方法で無洗米に付着させることができる。その場合、乳酸菌の死菌体を懸濁した前記水懸濁液中に適宜配合して、乳酸菌とともに噴霧してもよく、また、上記の機能性食品素材を配合したコーティング用の噴霧液と、前記乳酸菌の死菌体を懸濁した前記水懸濁液とを別々に噴霧してもよい。乳酸菌以外の該機能性食品素材が米表面に付着しにくい性質を有する場合は、上記のバインダーによってその付着性を向上させることができる。
【0048】
本発明において、米の表面に付着させた乳酸菌が付着安定であることの理由は明らかではないが、菌体若しくは米の表面の静電的性質、菌体サイズや形状、又は米表面の微細孔状の構造や大きさに関係することが考えられる。
【実施例】
【0049】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例によって本発明は限定されるものではない。
【0050】
<実施例1>
加工無洗米の原料として、「湿式無洗米処理装置」(株式会社山本製作所製)で銘柄米「山形はえぬき」を無洗化処理した米を用いた。以下、これを「山形はえぬき無洗米」という。
【0051】
乳酸菌の死菌体として、「殺菌乳酸菌EC−12」(商品名、コンビ株式会社製)を用いた。この乳酸菌製剤は、乳酸球菌エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)を培養後、回収した菌体を水洗いし、加熱滅菌処理して得られた粉末製剤であり、その1g当たり5.0×1012個以上の菌数を含む乳酸菌死菌体からなる乳酸菌素材である。
【0052】
上記の乳酸菌製剤の2gを60℃温湯50mlに攪拌しつつ懸濁して、10分間放置後、15000×g、5分間の遠心分離で菌体を回収して、更にもう一度その操作を繰り返して菌体を洗浄した。この洗浄操作後に沈殿物として回収された菌体に、300mlの水を添加して乳酸菌の死菌体を懸濁させて水懸濁液を調製した。その水懸濁液30mlを、市販のハンドスプレーを用いて、室温中60秒間かけて上記の山形はえぬき無洗米1kgに対して噴霧した。
【0053】
なお、上記の懸濁液には食用色素(食品添加物着色米製剤 食用色素 緑)を配合し、噴霧、乾燥後に米への着色を目視観察することによって、噴霧した上記の水懸濁液が、米粒間、及び米粒の表面上において均一に散布されていることを確認した。
【0054】
噴霧後、家庭用温風発生器で風をあてて、乾燥むらがないように適度に攪拌しながら乾燥して、実施例1の加工無洗米を得た。
【0055】
この加工無洗米は、乳酸菌付着前の無洗米と比べ、多少表面の微細なひび割れの増加が認められるものの、その水分含量、砕粒の割合、胴割れ粒の割合において同程度であり、水につけると割れる水浸割粒の存在も認められなかった。したがって、乳酸菌の死菌体の付着のための噴霧、乾燥処理による品質への影響がほとんどないことが示唆された。
【0056】
<試験例1> (外観及び食味試験)
米に乳酸菌の死菌体を付着させたことによって炊飯後のご飯の食味や外観が影響を受けるかどうかを試験した。そのために、「殺菌乳酸菌EC−12」(商品名、コンビ株式会社製)10mg、100mg、500mgをそれぞれ700mlの水に懸濁した浸漬液に、山形はえぬき無洗米500gを60分間浸漬して、その後食味試験用炊飯器(社団法人日本精米工業会推奨)で炊いた米飯を用意した。そして、その乳酸菌の死菌体が付着したご飯について食味・外観試験をおこなった。試験は、社団法人日本精米工業会の官能試験実施マニュアルに記載されている「基準品を置き、評価尺度を用いて相対評価したものを統計処理する方法」(2005年12月15日制定、第5版、社団法人日本精米工業会)に準じておこなった。すなわち、上記の山形はえぬき無洗米を基準品とし、試食のつど基準品と試験品とを、光沢、香り、味わい、粘り、硬さ、総合的評価について比較する相対的な評価をおこなった。評価尺度は−3、−2、−1、0、+1、+2、+3の7段階とし、その統計値を求めた。米飯専門パネリスト16人から得られた結果を下記の表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示すように、「粘り」の評価においてばらつきが見られたものの、全体的な評価において、基準品である乳酸菌を添加しないものとの統計的有意差は認められなかった。したがって、米100gに対して、少なくとも5×1011個の乳酸菌を添加しても、炊飯後のご飯の食味や、光沢、香り等の外観に影響を与えないことが明らかとなった。
【0059】
<実施例2>
乳酸菌の死菌体として、上記の乳酸球菌エンテロコッカス・フェカリスのかわりに、乳酸球菌であるラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)(生物資源センター「アメリカンタイプ カルチャー コレクション」;ATCC 9936)を用いた。死菌体化は、培養後の菌体を水洗いし、加熱殺菌処理した後に凍結乾燥することにより行なった。得られた死菌体は、その1g当たりに5.0×1011個以上の菌数を含む粉体であった。このラクトコッカス・ラクチスの死菌体を用いて、実施例1と同様にして、実施例2の加工無洗米を調製した。
【0060】
<実施例3>
乳酸菌の死菌体として、上記の乳酸球菌エンテロコッカス・フェカリスのかわりに、乳酸桿菌であるラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)(生物資源センター「アメリカンタイプ カルチャー コレクション」;ATCC 4356)を用いた。死菌体化は、培養後の菌体を水洗いし、加熱殺菌処理した後に凍結乾燥することにより行なった。得られた死菌体は、その1g当たりに5.0×1010個以上の菌数を含む粉体であった。このラクトバチルス・アシドフィラスの死菌体を用いて、実施例1と同様にして、実施例3の加工無洗米を調製した。
【0061】
<試験例2> (付着菌数の測定)
上記の実施例1〜3の加工無洗米について、それぞれ乳酸菌の付着菌数を測定した。測定は以下のように行なった。
【0062】
すなわち、加工無洗米10gに対して、ダルベッコ りん酸緩衝生理食塩水50mlを加えて攪拌し、超音波洗浄器で30分間処理して乳酸菌を米から剥離させ、ワットマンろ紙No.2でろ過して、乳酸菌の離出した測定液を分離した。その測定液について、常法に従って、血球計算盤を用いて顕微鏡下に菌数をカウントした。そして、血球計算盤の所定のマス目内の乳酸菌の死菌体の数と、希釈倍率と血球計算盤のマス目の容積とから、前記測定液全体に含まれる菌数を算出した。その結果を下記の表2に示す。なお、結果は、それぞれの実施例の加工無洗米について3例の平均値を示した。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に明らかなように、米への付着菌数は菌体の大きさによって異なり、サイズの小さいエンテロコッカス・フェカリスにおいて最も多く付着していることがわかる。
【0065】
<試験例3> (振動時の付着安定性)
上記の実施例1〜3の加工無洗米について、これを包装して流通させる場合、最終消費者にとどけられるまでの輸送等における振動や揺動を想定して、以下のような剥離負荷試験をおこなった。
【0066】
すなわち、実施例1〜3の加工無洗米のそれぞれ1kgを、一般の精米や無洗米の流通時と同様にして脱酸素剤2個を入れて米袋に包装し、2日間静置した。その後、段ボール箱に縦置きに入れて、振動試験機の振動台に固定し、下記に示す条件で48時間の振動負荷を与えた。
【0067】
(振動条件)
・ 振動数(「タコハイテスタ3404、日置電機株式会社製」による測定値)
;910rpm
・ 振幅(「振動計3002型、株式会社ノード社製」による測定値)
;上下0.7mm、左右0.1mm、前後0.1mm
・ 加速度(「振動計3002型、株式会社ノード社製」による測定値)
;上下1.5G、左右0.5G、前後0.5G
【0068】
振動負荷後、包装袋を開封し、開封口を上にして縦置きし、消費時の包装袋の取り扱いを想定して上下に10回揺さぶった。そして、米袋内の上表部、中央、下底に当たる部分からそれぞれ米を採取して、上記試験例2と同様にして、米10gに付着している乳酸菌の菌数を測定した。その結果を下記の表3に示す。なお、結果は、それぞれの実施例の加工無洗米について3回試験し、その平均値を示した。また、図1では、各実施例の加工無洗米について、米袋上表部から採取した米10gあたりの付着菌数を100とした場合の相対値を示した。
【0069】
【表3】

【0070】
表3及び図1に示すように、エンテロコッカス・フェカリスを付着させた実施例1の加工無洗米においては、米袋内の各部から採取したものの間に付着菌数の差異は認められなかった。したがって、上記の剥離負荷による乳酸菌の米からの剥離が少ないことが示唆された。一方、ラクトコッカス・ラクチスを付着させた実施例2の加工無洗米、及びラクトバチルス・アシドフィラスを付着させた実施例3の加工無洗米においては、米袋内の中央又は下底から採取したものにおいて、米に付着している乳酸菌の菌数に減少傾向が認められ、上記の負荷条件で若干の剥離が生じること明らかとなった。
【0071】
<試験例4> (炊飯時の付着安定性)
上記の実施例1〜3の加工無洗米について、炊飯時の付着安定性を調べる目的で、それぞれ450gを用いて、食味試験用炊飯器(社団法人日本精米工業会推奨)でご飯を炊いた。そして、炊飯釜内の上表部、及び下底から採取した米飯を水分3.3質量%まで乾燥し、その乾燥米飯10gについて、上記試験例2と同様にして付着菌数を測定した。その結果を下記の表4に示す。なお、結果は、それぞれの実施例の加工無洗米について3回試験し、その平均値を示した。また、図2では、各実施例の加工無洗米について、炊飯器上表部から採取した乾燥米飯10gあたりの付着菌数を100とした場合の相対値を示した。
【0072】
【表4】

【0073】
表4及び図2に示すように、エンテロコッカス・フェカリスを付着させた実施例1の加工無洗米においては、炊飯釜内の各部から採取したものの間に付着菌数の差異はほとんど認められなかった。したがって、炊飯によっても乳酸菌の分散性のむらが生じにくいことが明らかとなった。一方、ラクトコッカス・ラクチスを付着させた実施例2の加工無洗米、及びラクトバチルス・アシドフィラスを付着させた実施例3の加工無洗米においては、炊飯釜内の中央から下底から採取したものにおいて、米に付着している乳酸菌の菌数に顕著な減少傾向が認められ、炊飯によって、乳酸菌の分散性にむらが生じることが明らかとなった。
【0074】
以上から、付着させる乳酸菌の種類によって、その付着安定性が異なることが明らかとなった。その理由の詳細は明らかではないが、上記の試験例3及び試験例4の結果を合わせて考察すると、乳酸菌の大きさや形状にその要因の1つがあることが示唆された。露出した米表面の微細な細孔に保持されるためには、より適した付着させる乳酸菌の菌の大きさや形状が大きくなると剥離しやすくなる傾向にあることが考えられる。すなわち、乳酸菌が球状の比較的小さいサイズ(例えば、エンテロコッカス・フェカリスの大きさは0.5〜1.0μm程度である。)であるほうが米への付着安定性がよく、一方、ロッド状の形状をした乳酸桿菌(例えば、ラクトバチルス・アシドフィラスの長径方向の大きさは3〜8μm程度である。)は米から剥離しやすい傾向にあることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】米袋上表部から採取した米10gあたりの付着菌数を100とした場合の相対値を示す図表である。
【図2】炊飯器上表部から採取した乾燥米飯10gあたりの付着菌数を100とした場合の相対値を示す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無洗米の表面に乳酸菌の死菌体を付着させたことを特徴とする加工無洗米。
【請求項2】
前記乳酸菌が、乳酸球菌である請求項1に記載の加工無洗米。
【請求項3】
前記乳酸菌が、エンテロコッカス・フェカリスである請求項1又は2に記載の加工無洗米。
【請求項4】
乳酸菌の付着量が、米100gあたり4〜100mgである請求項1〜3のいずれか1つに記載の加工無洗米。
【請求項5】
更に、γ―アミノ酪酸(GABA)、ビタミン類、ミネラル類、ポリフェノール類、セラミド、又はカロチン類から選ばれた1種又は2種以上の物質を付着させた請求項1〜4のいずれか1つに記載の加工無洗米。
【請求項6】
白米の表面に付着する付着糠を除去した米に、乳酸菌の死菌体を分散させた懸濁液を噴霧し、乾燥させることを特徴とする加工無洗米の製造方法。
【請求項7】
前記乳酸菌が、乳酸球菌である請求項6に記載の加工無洗米の製造方法。
【請求項8】
前記乳酸菌が、エンテロコッカス・フェカリスである請求項6又は7に記載の加工無洗米の製造方法。
【請求項9】
前記懸濁液が、前記乳酸菌の死菌体を0.5〜5質量%含有する水懸濁液である請求項6〜8のいずれか1つに記載の加工無洗米の製造方法。
【請求項10】
前記付着糠を除去した米に対して1〜3質量%の噴霧量で前記懸濁液を噴霧する請求項6〜9のいずれか1つに記載の加工無洗米の製造方法。
【請求項11】
前記水懸濁液が、更に、γ―アミノ酪酸(GABA)、ビタミン類、ミネラル類、ポリフェノール類、セラミド、又はカロチン類から選ばれた1種又は2種以上の物質を含有する水懸濁液である請求項6〜10のいずれか1つに記載の加工無洗米の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−300850(P2007−300850A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132361(P2006−132361)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000144898)株式会社山本製作所 (144)
【出願人】(503188106)株式会社ブロマ研究所 (3)
【Fターム(参考)】