説明

加工装置

【課題】 ワークと工具との接触状態の監視・制御を行うことにより、工具の破損などを防止できる加工装置を提供すること。
【解決手段】 導電性工具Tによって導電性ワークWを加工する加工装置において、加工時に工具TとワークWとが接触されると、工具T-ワークW-ブラシ315-導線311-主軸ハウジング12-主軸11-工具Tの順に閉回路Cが構成される。閉回路Cには、高周波発生装置314、励磁コイル312によって交流電流が誘導される。工具TとワークWとの接触状態が変化すると閉回路Cのインピーダンスが変化して交流電流が変化し、検出コイル313に誘導電流が発生するから、これを利用して接触状態を監視・制御できる。軽接触/重接触判別閾値を含む監視条件によって、加工時には常に軽接触状態を維持できるから、切削抵抗が大きくならず、工具Tの破損、加工精度の悪化を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置に関する。詳しくは、ワークと工具との接触状態の監視・制御を行いながら加工を行うことができる加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されるような加工装置が知られている。
この加工装置は、機械本体と、機械本体に取り付けられワークを載置するテーブルと、ワークを加工する工具を装着する主軸と、機械本体と主軸との間に介装されて主軸を回転可能に支持する接触式軸受と、主軸に対して微小ギャップを隔てて同心状に対向配置される給電電極と、機械本体と給電電極とを電気的に接続させる導線とを備えて構成される。機械本体、テーブル、主軸、給電電極は、いずれも導電性を有し、また、ワークおよび工具も導電性を有するものが選択される。そのため、加工の際にワークと工具とが近接あるいは接触されると、ワーク-工具-主軸-給電電極-導線-機械本体-テーブル-ワーク、の順に閉回路が構成される。この閉回路には、交流電源によって交流電流が流される。そして、この交流電流は抵抗器を含む電流検出手段によって検出される。
加工の際、ワークと工具とが十分に離間された位置から徐々に近接されて行って接触されるまでの間、ワークと工具とによって構成されるコンデンサの静電容量Cの変化に伴って、前記閉回路のインピーダンスが変化され、電流検出手段における検出電流が変化される。そのため、当該検出電流を通じてワークと工具との近接・接触を検知できる。
【0003】
【特許文献1】特開平10−217069号公報(第4,5,8頁、図1,2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この加工装置によれば、ワークと工具との近接・接触は検知できるが、ワークと工具とが一旦接触した後は、その接触状態の変化を検知することができない。例えば、図10に示すようなワーク面Wに工具Tを接触させた状態で研削を行う場合、工具Tが図10において右方へ進みワーク面W上の凸部Pに接触すると、ワーク面W(凸部P)と工具Tとの間の研削負荷(力学的負荷)が急激に増大する。このような接触状態の変化が生じても特許文献1の加工装置によっては、それが是正されることはなく、研削負荷が著しく増大した状態で無理な研削が行われることになるので、工具Tの破損や加工精度の悪化などの問題が生じる。
【0005】
本発明の目的は、ワークと工具との接触状態の監視・制御を行うことにより、加工を適切にでき、工具の破損や加工精度の悪化を防止できる加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の加工装置は、導電性を有するワークを保持するワーク保持部材と、前記ワークの加工を行う導電性を有する工具を保持し、回転可能とされ、導電性を有する工具保持部材と、この工具保持部材の外周面の少なくとも一部分を覆って形成され導電性を有する第一外周部材と、前記工具保持部材を前記第一外周部材の内周面から浮上させることによって構成される第一非接触軸受と、前記第一外周部材と前記ワークとを電気的に接続する導線と、加工の際に前記ワークと前記工具とが接触されると、前記ワーク、前記工具、前記工具保持部材、前記第一外周部材および前記導線の順に構成される閉回路と、この閉回路に交流電流を供給する交流電流供給手段と、前記閉回路を流れる交流電流を検出する検出手段と、この検出手段で検出される交流電流に基づく信号の出力値を所定の監視条件によって監視する監視制御手段と、を備え、前記監視条件は、前記ワークと前記工具との接触状態が軽接触/重接触のいずれであるかを判別するための軽接触/重接触判別閾値を含んで構成され、前記監視制御手段は、前記信号の出力値が常に前記軽接触/重接触判別閾値に対して軽接触側の領域内に収まるように前記ワークと前記工具との接触状態を制御する、ことを特徴とする。
【0007】
この発明では、回転されている工具をワークに接触させることによりワークの加工が行われる。
加工時に工具とワークとが互いに接触されると、ワーク-工具-工具保持部材-第一外周部材-導線-ワークの順に閉回路が構成される。ここで、第一非接触軸受が構成されているため、工具保持部材と第一外周部材とは非接触状態にあるが、電磁気的にはコンデンサ(以下、第一コンデンサ、という)が構成されていることになるので、交流電流であれば流すことができる。
閉回路には、交流電流供給手段によって交流電流が流される。工具とワークとの接触状態(加工状態)が変化すると、工具とワークとの間の接触抵抗(電気抵抗)などが変化することによって、閉回路のインピーダンスが変化し、閉回路に流れる交流電流が変化する。すると、検出手段における検出電流が変化して接触状態の変化が感知される。
監視制御手段は、検出電流に基づく信号の出力値を監視条件によって監視する。信号の出力値が軽接触/重接触判別閾値に対して重接触側の領域内の数値になる(以下、軽接触/重接触判別閾値を超える、と言う)と、監視条件が逸脱されたと判定され、監視制御手段は、監視条件を充足するようにワークと工具との接触状態を調整する。そのため、ワークと工具との接触状態が常に軽接触状態に維持され、切削負荷(力学的負荷)が軽い状態で加工を行うことができるから、工具の破損や加工精度の悪化を防止できる。
例えば、図10の場合、左方からある一定の送り速度でワーク面Wの研削を行っていた工具Tが凸部Pに差し掛かると、工具Tとワーク面W(凸部P)との間の研削抵抗が急激に増大して重接触状態となり、監視条件が逸脱される。すると、監視制御手段は、工具Tの送り速度を緩める、あるいは、工具Tのワーク面Wへの切り込み量を減らす等により、研削抵抗を軽減し、軽接触状態へと回復させる。そのため、凸部Pによる工具Tの破損や加工精度の悪化を防止できる。
【0008】
なお、前記のように、軽接触状態とは、ワークと工具との間の切削負荷が軽く工具の破損や加工精度の悪化のおそれのない接触状態を、重接触状態とは、切削負荷が重く工具の破損や加工精度の悪化のおそれがある接触状態を言う。ここで、その定義からもわかるように、軽/重の境界は必ずしも数値的に厳密なものではなく、また、ワークや工具の種類によっても異なるので、軽接触/重接触判別閾値もある程度の柔軟性をもって適宜設定することが可能である。
また、本発明の第一非接触軸受としては、気体軸受(特に、静圧軸受)、磁気軸受、気体磁気複合軸受等を採用できる。非接触軸受とすることによって、工具保持部材と第一外周部材との間の摩擦抵抗を著しく低減できるから、工具保持部材および工具の回転を滑らかに、かつ、正確にできて加工精度を向上でき、超精密加工に好適な加工装置を提供できる。
【0009】
また、本発明の加工装置は、導電性を有するワークを保持し、回転可能とされ、導電性を有するワーク保持部材と、前記ワークの加工を行う導電性を有する工具を保持する工具保持部材と、前記ワーク保持部材の外周面の少なくとも一部分を覆って形成され導電性を有する第二外周部材と、前記ワーク保持部材を前記第二外周部材の内周面から浮上させることによって構成される第二非接触軸受と、前記第二外周部材と前記工具とを電気的に接続する導線と、加工の際に前記ワークと前記工具とが接触されると、前記工具、前記ワーク、前記ワーク保持部材、前記第二外周部材および前記導線の順に構成される閉回路と、この閉回路に交流電流を供給する交流電流供給手段と、前記閉回路を流れる交流電流を検出する検出手段と、この検出手段で検出される交流電流に基づく信号の出力値を所定の監視条件によって監視する監視制御手段と、を備え、前記監視条件は、前記ワークと前記工具との接触状態が軽接触/重接触のいずれであるかを判別するための軽接触/重接触判別閾値を含んで構成され、前記監視制御手段は、前記信号の出力値が常に前記軽接触/重接触判別閾値に対して軽接触側の領域内に収まるように前記ワークと前記工具との接触状態を制御する、ことを特徴とする構成のものであってもよい。
【0010】
この発明では、回転されているワークを工具に接触させることによりワークの加工が行われる。
加工時に工具とワークとが互いに接触されると、工具-ワーク-ワーク保持部材-第二外周部材-導線-工具の順に閉回路が構成される。ここで、第二非接触軸受が構成されているため、ワーク保持部材と第二外周部材とは非接触状態にあるが、電磁気的にはコンデンサ(以下、第二コンデンサ、という)が構成されていることになるので、交流電流であれば流すことができる。
閉回路には、交流電流供給手段によって交流電流が流される。工具とワークとの接触状態(加工状態)が変化すると、工具とワークとの間の接触抵抗(電気抵抗)などが変化することによって、閉回路のインピーダンスが変化し、閉回路に流れる交流電流が変化する。すると、検出手段における検出電流が変化して接触状態の変化が感知される。
監視制御手段は、検出電流に基づく信号の出力値を監視条件によって監視する。信号の出力値が軽接触/重接触判別閾値を超えると、監視条件が逸脱されたと判定され、監視制御手段は、監視条件を充足するようにワークと工具との接触状態を調整する。そのため、ワークと工具との接触状態が常に軽接触状態に維持され、切削負荷(力学的負荷)が軽い状態で加工を行うことができるから、工具の破損や加工精度の悪化も防止できる。
なお、本発明の第二非接触軸受としては、気体軸受、磁気軸受、気体磁気複合軸受等を採用できる。非接触軸受とすることによって、ワーク保持部材と第二外周部材との間の摩擦抵抗を著しく低減できるから、ワーク保持部材およびワークの回転を滑らかに、かつ、正確にできて加工精度を向上でき、超精密加工に好適な加工装置を提供できる。
【0011】
また、本発明の加工装置は、導電性を有するワークを保持し、回転可能とされ、導電性を有するワーク保持部材と、前記ワークの加工を行う導電性を有する工具を保持し、回転可能とされ、導電性を有する工具保持部材と、この工具保持部材の外周面の少なくとも一部分を覆って形成され導電性を有する第一外周部材と、前記ワーク保持部材の外周面の少なくとも一部分を覆って形成され導電性を有する第二外周部材と、前記工具保持部材を前記第一外周部材の内周面から浮上させることによって構成される第一非接触軸受と、前記ワーク保持部材を前記第二外周部材の内周面から浮上させることによって構成される第二非接触軸受と、前記第一外周部材と前記第二外周部材とを電気的に接続する導線と、加工の際に前記ワークと前記工具とが接触されると、前記ワーク、前記工具、前記工具保持部材、前記第一外周部材、前記導線、前記第二外周部材および前記ワーク保持部材の順に構成される閉回路と、この閉回路に交流電流を供給する交流電流供給手段と、前記閉回路を流れる交流電流を検出する検出手段と、この検出手段で検出される交流電流に基づく信号の出力値を所定の監視条件によって監視する監視制御手段と、を備え、前記監視条件は、前記ワークと前記工具との接触状態が軽接触/重接触のいずれであるかを判別するための軽接触/重接触判別閾値を含んで構成され、前記監視制御手段は、前記信号の出力値が常に前記軽接触/重接触判別閾値に対して軽接触側の領域内に収まるように前記ワークと前記工具との接触状態を制御する、ことを特徴とする構成のものであってもよい。
【0012】
この発明では、工具およびワークの少なくともいずれかが回転された状態で両者を接触させることにより、工具によるワークの加工が行われる。
ここで、工具保持部材と第一外周部材との間には第一非接触軸受および前記第一コンデンサが構成され、また、ワーク保持部材と第二外周部材との間には第二非接触軸受および前記第二コンデンサが構成される。閉回路は、第一および第二コンデンサを含んで構成される。この閉回路には交流電流が流され、検出手段での検出電流を通じて監視制御手段がワークと工具との接触状態を監視・制御する。これによって接触状態は軽接触状態に維持され、工具が破損することなく精度良く安定した加工を行うことができる。
【0013】
また、本発明では、前記監視制御手段は、前記信号の出力値が前記軽接触/重接触判別閾値を超えて重接触側領域内の値となると使用者の注意を喚起する注意喚起手段を備えることが好ましい。
この発明によれば、ワークと工具とが重接触状態となることにより、監視条件が充足されなくなると、使用者の注意が喚起され、使用者は直ちに切削負荷が許容範囲を超えて重くなっていることを察知できる。そのため、切削負荷を軽減させるための方策を迅速に講じることができ、工具の破損や加工精度の悪化を防止できる。
本発明の注意喚起手段としては、アラーム(警報)を鳴らす、アラームランプを点灯させる、ディスプレイに警告情報を表示する、警告情報が印字された紙を印刷して出力(プリントアウト)する、など種々の手段が例示できる。
【0014】
また、本発明では、前記監視制御手段は、前記監視条件を記憶する記憶手段を備え、この記憶手段に所望の監視条件を入力し記憶させる入力手段が設けられることが好ましい。
この発明によれば、加工目的、あるいは、工具およびワークの選択に合わせて最適な監視条件を適宜入力した上で、この監視条件に基づいて、加工をより一層適切にでき、また、工具の破損や加工精度の悪化も防止しやすくなる。
【0015】
また、本発明では、前記監視制御手段は、前記ワークと前記工具との接触状態に関する情報を表示する表示手段を備えることが好ましい。
この発明によれば、使用者は表示手段に表示される情報を見ることによって、ワークと工具との現在の接触状態を知ることができる。
接触状態に関する情報としては、例えば、検出手段における検出電流の数値、波形、絶対値等を直接表示したものを採用できる。また、適当な演算手段によって検出電流に演算を施して接触状態の表示に好適な量としたものでもよい。また、検出手段が後述の検出回路を備える構成のものであるときは、検出回路において発生される誘導電流の数値、波形、絶対値等を直接表示したもの、あるいは、これらに適当な演算を施したものなどを採用できる。また、検出手段における検出電流を基に接触状態を解析した上で、その解析結果を文字として表示してもよい。例えば、非接触/軽接触/重接触のうち現在の接触状態に対応する一の文字を表示させるのでもよい。なお、ここで、軽接触/重接触の判定には、前記の軽接触/重接触判別閾値を利用できる。
また、表示手段としては、ディスプレイ等の表示画面を有するものに限らず、接触状態が軽接触であるときに点灯される一方のランプ(例えば、青色)、および、接触状態が重接触であるときに点灯される他方のランプ(例えば、赤色)の少なくともいずれかを備えて構成されるものでもよい。このときは、ランプの点灯が接触状態に関する情報を構成していることになる。
【0016】
本発明では、前記検出手段は、前記閉回路から発生される磁束と鎖交される検出回路を備えて構成され、前記監視制御手段は、前記検出回路において発生される誘導電流に基づく前記信号の出力値を前記監視条件によって監視することが好ましい。
ワークと工具との接触状態が変化すると、前記のように閉回路を流れる電流が変化される。すると、閉回路から発生され検出回路に鎖交する磁束が変化するから、検出回路には誘導電流が発生される。そのため、この誘導電流を利用して接触状態を監視することができる。
【0017】
また、本発明では、前記交流電流供給手段は、一定周波数の交流電流を発生する交流電流発生装置と、この交流電流が流される励磁回路とを備えて構成され、前記閉回路は、前記励磁回路において発生される磁束と鎖交されることが好ましい。
この発明では、交流電流が流される励磁回路から、一定周波数で周期変動される磁束が発生している。そして、この変動磁束と鎖交される前記閉回路には、電磁誘導によって一定周波数の交流電流が誘導されている。ワークと工具との接触状態が変化すると、閉回路のインピーダンスが変化されることによって交流電流が変化されるから、検出手段における検出電流を利用して通じて接触状態を監視できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
<第一実施形態>
図1に、本発明の第一実施形態に係る加工装置が示されている。
この加工装置は、工具TおよびワークWを回転させて、工具TによってワークWの切削加工を行う装置である。工具Tは導電性を有する金属材料によって構成される。工具Tは、尖端や切刃を含む形状に形成されているエンドミルのようなものであってもよいし、また、被加工面の仕上げ加工等に用いられる砥石のようなものであってもよい。工具Tは、互いに形状が異なる複数種類のものが予め用意されており、使用者は加工目的に合わせて最適なものを選択して加工に用いることができる。また、ワークWは、導電性を有するもの、例えば鋼系統材料製のもの、が選択される。
【0019】
工具Tは、工具Tを回転駆動するための工具回転駆動機構1に着脱可能に取り付けられる。工具回転駆動機構1は、略円柱形状で軸線を中心軸として回転可能に設けられる工具保持部材としての主軸11と、主軸11の外周側面を覆って形成される第一外周部材としての主軸ハウジング12とを備える。主軸11および主軸ハウジング12は、金属材料によって構成され、共に導電性を有している。主軸11の外周側面には鍔部13Aが突出して形成され、主軸ハウジング12の内周面にはこの鍔部13Aと略同形状の溝13Bが環状に形成され、スラスト軸受部13が構成されている。主軸11の外周面と主軸ハウジング12の内周面との間には図示しないコンプレッサ等によって加圧空気が供給されており、第一非接触軸受としての主軸空気軸受14が構成されている。そのため、主軸11は主軸ハウジング12の内周面から浮上して、両者は非接触状態にある。これを電気的に見ると、主軸11と主軸ハウジング12とは互いに絶縁状態にあり、両者の間にはコンデンサが形成されていることになる。以下、このコンデンサを、コンデンサCtと表記することにする。
【0020】
主軸11の先端部には工具Tが着脱可能に装着され、両者は、図示しない電動機(モータ)、エアタービン等の回転駆動手段によって、その軸線を中心軸として一体的に回転されるようになっている。超精密加工時における回転数は、一分間当たり3万回転以上にもなる。このとき、主軸空気軸受14によって主軸11と主軸ハウジング12との間の摩擦抵抗が著しく低減されており、主軸11および工具Tは滑らかに回転できる。また、スラスト軸受部13によって主軸11の軸線方向の荷重が支承され、主軸11が軸線方向に移動することがないようにされている。また、主軸空気軸受14を構成するために前記コンプレッサから供給される加圧空気の量および圧力は、図示しないレギュレータによって手動設定されており、主軸11の主軸ハウジング12の内周面からの浮上状態が厳密に決定され、主軸11の軸線の位置決め(いわゆる、芯出し)が精密になされている。そのため、本実施形態によれば、工具Tによる加工精度を著しく向上させることができ、超精密加工に好適な加工装置を提供できる。なお、この加圧空気の量および圧力は、後述するNC装置4によって数値制御されるように構成することもできる。
【0021】
ワークWは、ワークWを回転駆動するためのワーク回転駆動機構2に着脱可能に取り付けられる。ワーク回転駆動機構2は、略円柱形状で軸線を中心軸として回転可能に設けられるワーク保持部材としてのワーク軸21と、ワーク軸21の外周側面を覆って形成される第二外周部材としてのワーク軸ハウジング22とを備える。ワーク軸21の軸線方向は、主軸11の軸線方向に対して所定角度傾いて形成されており、この角度は使用者が加工目的に合わせて適宜調整することが可能である。
なお、図1において主軸11とワーク軸21とを同一平面内に図示しているのは簡略化のためであって、実際の主軸11とワーク軸21との相対配置は使用者が自由に調整でき、また、後述するNC装置4によって数値制御される。
ワーク軸21の外周側面には鍔部23Aが突出して形成され、ワーク軸ハウジング22の内周面にはこの鍔部23Aと略同形状の溝23Bが環状に形成され、スラスト軸受部23が構成されている。ワーク軸21の外周面とワーク軸ハウジング22の内周面との間には図示しないコンプレッサ等によって加圧空気が供給されており、第二非接触軸受としてのワーク軸空気軸受24が構成されている。そのため、ワーク軸21はワーク軸ハウジング22の内周面から浮上して、両者は非接触状態にある。
【0022】
ワーク軸21の先端部には、絶縁材25を介して、ワークWが同軸上に装着されている。ワーク軸21とワークWとは、図示しない電動機(モータ)、エアタービン等の回転駆動手段によって、その軸線を中心軸として一体的に回転されるようになっている。このとき、ワーク軸空気軸受24によってワーク軸21とワーク軸ハウジング22との間の摩擦抵抗が著しく低減されており、ワーク軸21およびワークWは滑らかに回転できる。また、スラスト軸受部23によってワーク軸21の軸線方向の荷重が支承され、ワーク軸21が軸線方向に移動することがないようにされている。また、ワーク軸空気軸受24を構成するために前記コンプレッサから供給される加圧空気の量および圧力は、図示しないレギュレータによって手動設定されており、ワーク軸21のワーク軸ハウジング22の内周面からの浮上状態が厳密に決定され、ワーク軸21の軸線の位置決め(いわゆる、芯出し)が精密になされている。そのため、本実施形態によれば、工具TによるワークWの加工精度を著しく向上させることができ、超精密加工に好適な加工装置を提供できる。なお、この加圧空気の量および圧力は、後述するNC装置4によって数値制御されるように構成することもできる。
【0023】
工具回転駆動機構1およびワーク回転駆動機構2は、加工装置の装置本体(図示せず)に取り付けられている。工具回転駆動機構1およびワーク回転駆動機構2の少なくともいずれかは、装置本体に設けられる図示しない駆動機構によって移動される構成となっており、両者は互いに相対移動可能となっている。したがって、工具TをワークWに対して相対移動させながらワークWを加工することが可能である。このときの工具TおよびワークWの送り速度、切り込み量は後述するNC装置4によって数値制御され、加工が適切になされるようになっている。
【0024】
本実施形態の加工装置は、工具TとワークWとの接触状態(加工状態)を検出し、それに基づいて監視・制御を行う接触状態検出・監視・制御システム3を有している。接触状態検出・監視・制御システム3は、電磁誘導現象による誘導電流を利用して接触状態に関する情報を取得する情報取得手段31と、この取得情報に基づいて接触状態の監視・制御を行う監視制御システム32とを備えて構成される。
【0025】
情報取得手段31は、一端が主軸ハウジング12に取り付けられ他端がワークWに取り付けられる導線311と、導線311の周囲に環装される励磁コイル312および検出コイル313と、励磁コイル312に一定周波数の交流電流を流す交流電流発生装置としての高周波発生装置(OSC)314とを備えて構成される。導線311の他端は、導電性を備えるブラシ(刷子)315を介して摺動可能にワークWに取り付けられている。そのため、加工時にワークWが回転されたとしても、導線311の他端とワークWとの間の電気的接続を維持できる。ここで、励磁コイル312は本発明の励磁回路を構成し、検出コイル313は本発明の検出回路を構成している。高周波発生装置314から発生される交流電流の周波数は、加工目的や、工具TおよびワークWの選択等に合わせて適宜設定可能である。
【0026】
加工の際に工具TとワークWとが接触されると、図1における反時計回り方向に沿って工具T-ワークW-ブラシ315-導線311-主軸ハウジング12-主軸11-工具Tの順に閉回路が構成される。なお、主軸ハウジング12-主軸11間は容量結合であり、前記のように静電容量Ctのコンデンサが構成されている。以下、この閉回路を閉回路Cと称することにする。
【0027】
高周波発生装置314によって励磁コイル312に一定周波数の高周波が流されると、電磁誘導によって励磁コイル312から同一周波数で周期変動する磁束が発生される。この磁束は閉回路Cに鎖交されるから、電磁誘導によって閉回路Cには同一周波数の交流電流が誘導され、さらに、閉回路Cから磁束が発生される。この磁束は、検出コイル313に鎖交されるから、検出コイル313には誘導電流が発生する。なお、高周波発生装置314と励磁コイル312とは、閉回路Cに交流電流を供給する役割を果たしているので本発明の交流電流供給手段を構成している。
工具TとワークWとの接触状態(加工状態)が変化すると、工具TとワークWとの間の接触抵抗が変化するなどのため、閉回路Cのインピーダンスが変化する。すると、閉回路Cに流れる交流電流が変化され、その結果、検出コイル313における誘導電流も変化されるから、接触状態の変化が感知される。
なお、検出コイル313は、閉回路Cを流れる交流電流を検出する本発明の検出手段を構成している。
【0028】
監視制御システム32は、検出コイル313からの信号(誘導電流に基づく信号)を増幅するアンプユニット(AMP)321と、この増幅信号に基づいて接触状態を監視制御するコントローラ(制御装置)322と、前記の増幅信号をリアルタイムに表示するデジタルオシロスコープ323とを備えて構成される。
アンプユニット321は、増幅器、検波器、熱電変換モジュール等(いずれも図示せず)を備えて構成されている。
【0029】
コントローラ322では、アンプユニット321からの増幅信号(アナログ信号)がアナログデジタル変換器(AD)3221によってデジタル信号に変換され、このデジタル信号は、入出力インターフェイス(IOF)3222を通じてバス3223に入力される。バス3223では、CPU3224による演算制御の下、このデジタル信号が伝送される。CPU3224は、ROM3225に記憶されているコントロールプログラムやRAM3226に記憶されている種々のデータ、フラグに基づいて、当該デジタル信号の演算制御を行う。
【0030】
本発明の記憶手段としてのRAM3226には、前記デジタル信号の許容出力範囲(単位:mV)を定める監視条件が記憶される。この監視条件は、許容出力範囲の上限を規定する軽接触/重接触判別閾値S1と、下限を規定する非接触/軽接触判別閾値S2とを含んで構成される。ここで、閾値S1は、工具TとワークWとの接触状態が軽接触/重接触のいずれであるかを判別するための閾値であり、閾値S2は、非接触/軽接触のいずれであるかを判別するための閾値である。すなわち、前記デジタル信号の出力値Sが、(i)S>S1、であれば、工具TとワークWとが重接触状態にあることがわかり、(ii)S1≧S≧S2、であれば、軽接触状態にあることがわかり、(iii)S2>S、であれば、非接触状態にあることがわかる。監視条件が充足されるのは前記デジタル信号の出力値が許容出力範囲内にある軽接触状態(ii)のときである。逆に、重接触状態(i)、非接触状態(iii)のときは、監視条件が充足されない。
各閾値S1、S2は、工具TおよびワークWの選択や加工目的に応じて使用者が適宜設定した値を図示しない入力手段によって入力することによって、RAM3226に記憶させることができる。
【0031】
ここで、図2を用いて、工具TとワークWとの接触状態について説明する。この図における工具Tは、表面に微小金属粒Gが多数配置され、この金属粒GによってワークWを研削するタイプのものが示されている。図中の矢印は工具Tの回転を表している。
図2(A)は、非接触状態(監視条件は充足されず)を示す。工具TとワークWとが接触していないために研削が行われていない状態である。このとき、工具Tは、空回りをしている。迅速に研削を行って研削加工の能率性を高めるためには、非接触状態にある時間はできる限り短縮する必要がある。
図2(B)は、軽接触状態(監視条件が充足される)を示す。工具TとワークWとが、軽い研削負荷のもとに接触して研削が行われる。工具TおよびワークWに無理な負荷がかかることなく、スムーズに研削できるので、工具Tの破損のおそれが少なく、また、高い研削精度を実現できる。そのため、研削は、この軽接触状態で行うのが最適である。
図2(C)および(D)は、重接触状態(監視条件が充足されない)を示す。工具TとワークWに大きな研削負荷がかかっている。(C)では、工具Tの破損までは起こっていないが、工具TをワークWに対して無理に押し付けている形になるので、加工精度に悪影響が及ぶ可能性がある。また、(D)では、さらに無理に工具TをワークWに対して押し付けた結果、工具Tが破損してしまっている。
【0032】
再び図1に戻って説明を続ける。液晶ディスプレイを有するLCDモニタ3227には、前記監視条件における閾値S1およびS2と、実際のデジタル信号の出力値とが、並べて表示される。使用者は、この数値比較によって、監視条件が充足されているか否かを即時に判断でき、監視条件が充足されていない場合には、対応措置、すなわち、工具TとワークWとを軽接触状態に調整して監視条件を充足させるための措置を迅速に講じることができ、工具TとワークWとを常に軽接触状態に維持できる。そのため、重接触状態を回避できることによって工具Tの破損や加工精度の悪化を防止でき、また、非接触状態を回避できることによって空切削時間が生じるのを防止でき、加工を迅速かつ的確に行うことができる。
なお、LCDモニタ3227は、工具TとワークWとの接触状態(加工状態)に関する情報を表示する本発明の表示手段を構成している。ここで、接触状態に関する情報とは、前記デジタル信号の出力値を指している。
【0033】
なお、工具Tの送り速度、切り込み量、回転数、ワークWの送り速度、回転数、主軸11と主軸ハウジング12との間にコンプレッサによって供給される加圧空気の量、圧力、ワーク軸21とワーク軸ハウジング22との間にコンプレッサによって供給される加圧空気の量、圧力、主軸11と主軸ハウジング12との間隔、コンデンサCtの静電容量、ワーク軸21とワーク軸ハウジング22との間隔、などの種々の量を適当な検出手段によって検出した上でLCDモニタ3227に接触状態の監視を行うための補助情報として表示させることもできる。さらに、これらの各量に対する許容範囲を規定する閾値をLCDモニタ3227に併せて表示させれば、使用者は、各量について数値が適正であるか否かの判断を正確にかつ迅速に行うことができ、接触状態が重接触あるいは非接触となった場合には軽接触に復帰させるための措置を迅速に講じることができる。なお、これらの各許容範囲を規定する閾値は、図示しない入力手段によってRAM3226に入力、記憶されており、接触状態の監視を行うための補助条件として用いられる。
【0034】
デジタルオシロスコープ323は、アンプユニット321からの増幅信号をそのまま取り込んで波形表示するとともに、コントローラ322からのアラーム信号をUSB(Universal Serial Bus)信号として受信し、アラーム情報として表示する。
ここで、アラーム信号とは、RAM3226に記憶されている前記監視条件(アナログデジタル変換器3221からのデジタル信号の出力値に関する条件)および前記各補助条件の少なくともいずれかが充足されなくなると、USBインターフェイス(USB IF)3228を通じて、デジタルオシロスコープ323に向けて発信される警告信号のことである。
デジタルオシロスコープ323の表示画面には、アラーム情報を表示するためのアラームランプが、監視条件および各補助条件に対応して複数個設けられており、充足されていない条件に対応するアラームランプのみが点灯される。これによって、接触状態の異常(重接触または非接触)が使用者に知らされ、使用者の注意が喚起される。使用者は、点灯されたアラームランプを見て、どの条件が充足されていないのかを直ちに察知できるから、接触状態を正常(軽接触)に復帰させるための措置を迅速かつ的確に講じることができる。
以上のように、デジタルオシロスコープ323は、本発明の注意喚起手段を構成している。
【0035】
また、コントローラ322からのアラーム信号は、高速バスインターフェイス(COM)3229を通じて、NC装置4へ高速シリアル転送される。NC装置4は、受信したアラーム信号に基づいて、加工制御用の各種数値データを適宜自動修正し、RAM3226に記憶された全ての条件(監視条件および各補助条件)が充足されるような加工状態、すなわち、軽接触状態へと迅速に移行させる。
ここで、加工制御用の各種数値データとしては、工具Tの送り速度、切り込み量、回転数、ワークWの送り速度、回転数、主軸11と主軸ハウジング12との間にコンプレッサによって供給される加圧空気の量、圧力、ワーク軸21とワーク軸ハウジング22との間にコンプレッサによって供給される加圧空気の量、圧力、主軸11と主軸ハウジング12との間隔、コンデンサCtの静電容量、ワーク軸21とワーク軸ハウジング22との間隔、などの種々の量が例示できる。
【0036】
このように、工具TとワークWとの接触状態が異常(重接触または非接触)となることによってRAM3226に記憶される各種条件のうち少なくともいずれかが充足されなくなったとしても、NC装置4が直ちにこれを修正し、条件を全て充足させ、接触状態を正常(軽接触)に復帰させることができる。そのため、重接触状態を回避できることによって工具Tの破損や加工精度の悪化を防止でき、また、非接触状態を回避できることによって空切削時間が生じるのを防止でき、加工を迅速かつ的確に行える。
【0037】
なお、以上の構成において、監視制御システム32およびNC装置4は、検出手段としての検出コイル313において発生される誘導電流に基づく信号の出力値を監視条件によって監視し、工具TとワークWとの接触状態を制御する本発明の監視制御手段を構成している。
【0038】
図1において入出力インターフェイス(IOF)3230は、高周波発生装置314の電源のオン/オフを行うために設けられる。コントローラ322に設けられる図示しないオン/オフスイッチを切替えると、入出力インターフェイス3230を通じて高周波発生装置314に向けてオン/オフ切替え信号が発信され、高周波発生装置314の電源のオン/オフが切り替わる。高周波発生装置314の電源がオンのときは、高周波が発生されて接触状態(加工状態)の監視・制御が行われ、また、オフのときは、高周波が発生されず接触状態の監視・制御は行われない。
【0039】
<第二実施形態>
続いて、本発明の第二実施形態について説明する。前記第一実施形態において説明した構成要素と同一のまたは対応する構成要素については、前記第一実施形態における符号と同一の符号を付し、その説明を省略もしくは簡略にする(後述する第三、第四、第五、第六実施形態においても同様)。
【0040】
図3に示すように、本発明の第二実施形態にかかる加工装置では、前記第一実施形態においてワークWとワーク軸21との間に介装されていた絶縁材25が取り除かれ、ワークWとワーク軸21とが直接電気的に接続されている。導線311の他端は、ワーク軸ハウジング22に直接取り付けられる。ワーク軸21およびワーク軸ハウジング22は導電性を備えるものとされる。
【0041】
以上の構成において、加工の際に工具TとワークWとが接触されると、図3における反時計回り方向に沿って、工具T-ワークW-ワーク軸21-ワーク軸ハウジング22-導線311-主軸ハウジング12-主軸11-工具Tの順に閉回路Cが構成される。ここで、ワーク軸21-ワーク軸ハウジング22間は容量結合であり、コンデンサCwが構成されている。
工具TとワークWとの接触状態(加工状態)の変化に伴って生じる閉回路Cを流れる交流電流の変化を、検出コイル313における誘導電流として検出して、接触状態の監視・制御が行われるのは第一実施形態と同様である。
なお、コンデンサCwの静電容量の数値は、接触状態を監視するための補助情報としてLCDモニタ3227に表示させることもできるし、また、NC装置4における数値制御用の数値データとしても採用できる。また、適正な静電容量Cwの数値範囲を規定する補助条件を適宜設定してRAM3226に記憶させ、これが充足されないときはデジタルオシロスコープ323の表示画面上にアラーム情報が表示されるような構成としてもよい。
【0042】
<第三実施形態>
続いて、本発明の第三実施形態について説明する。
図4に示すように、本実施形態にかかる加工装置では、第一実施形態におけるLCDモニタ3227の代わりにパソコン(PC)5が設けられている。パソコン5は、コントローラ322との間でデータのやり取りをUSBの信号によって行う。パソコン5の表示画面(ディスプレイ)には、第一実施形態と同様に、アナログデジタル変換器3221からのデジタル信号の許容出力範囲における閾値S1およびS2と、実際のデジタル信号の出力値とが、並べて表示される。さらに、接触状態の監視を行うための前記各種補助情報および前記各種補助条件を表示させることもできる。
【0043】
<第四実施形態>
続いて、本発明の第四実施形態について説明する。
図5に示すように、本実施形態にかかる加工装置においては、第一実施形態におけるデジタルオシロスコープ323が設けられておらず、その代わりに、LCDモニタ3227に、アナログデジタル変換器3221においてAD(アナログデジタル)変換されたアンプユニット321からの増幅信号が波形表示される。なお、LCDモニタ3227には、前記各種の数値情報・条件等を、波形表示と併せて表示させてもよい。また、モニタ3227としてストレージ型のディスプレイを採用して、以上の波形表示、数値情報・条件を電子ビームによって画面に描画するようにしてもよい。
【0044】
<第五実施形態>
続いて、本発明の第五実施形態について説明する。
図6に示すように、本実施形態にかかる加工装置においては、第一実施形態におけるデジタルオシロスコープ323およびLCDモニタ3227が設けられておらず、その代わりにパソコン(PC)5が設けられる。
パソコン5は、コントローラ322との間で、データのやり取りを行い、その表示画面(ディスプレイ)には、アナログデジタル変換器3221においてAD変換されたアンプユニット321からの増幅信号が波形表示されるとともに、前記各種の数値情報・条件が表示される。ここで、パソコン5の表示画面はストレージ型のディスプレイとすることもできる。
【0045】
<第六実施形態>
続いて、本発明の第六実施形態について説明する。
図7は本発明の加工装置としてのNC加工機械を示す斜視図である。同図に示すように、本実施形態に係るNC加工機械は、NC装置により制御される工作機械であって、ベース61と、このベース61上に設置された機械本体611と、この機械本体611の駆動を制御するNC装置4とを備える。
【0046】
前記機械本体611は、前記ベース61の上面にレベラなどを介して据え付けられたベッド612と、このベッド612の上面に前後方向(Y軸方向)へ移動可能に設けられたテーブル613と、前記ベッド612の両側に立設された一対のコラム614,615と、この両コラム614,615の上部間に掛け渡されたクロスレール616と、このクロスレール616に沿って左右方向(X軸方向)へ移動可能に設けられたスライダ617と、このスライダ617に上下方向(Z軸方向)へ昇降可能に設けられたスピンドルヘッド618と、前記コラム614,615間の前面部を覆うように設けられ内部が透視可能でかつ上端を支点として上下方向へ開閉可能なスプラッシュガード619とから構成されている。
本発明のワーク保持部材としてのテーブル613には、ワークWが載置される。ワークWおよびテーブル613は、共に導電性材料によって構成されており、両者は電気的に導通されている。
【0047】
前記ベッド612には、前記テーブル613を案内するガイド(図示省略)とともに、テーブル613をY軸方向へ移動させるY軸駆動機構621が設けられている。Y軸駆動機構621としては、モータと、そのモータによって回転する送りねじ軸とからなる送りねじ機構が用いられている。
前記各コラム614,615は、側面形状が、上部に対して下部が広くなった略三角形状に形成されている。これにより、下部が安定した構造であるから、スピンドルヘッド618が高速回転するものであっても、振動の発生を低減できる。
【0048】
前記クロスレール616には、前記スライダ617を移動可能に案内する2本のガイドレール623が設けられているとともに、スライダ617をX軸方向へ移動させるX軸駆動機構624が設けられている。
前記スライダ617には、前記スピンドルヘッド618をZ軸方向へ案内するガイド(図示省略)とともに、スピンドルヘッド618をZ軸方向へ昇降させるZ軸駆動機構625が設けられている。これらの駆動機構624,625についても、前記Y軸駆動機構621と同様に、モータと、そのモータによって回転する送りねじ軸とからなる送りねじ機構が用いられている。
【0049】
前記スピンドルヘッド618は、主軸11(図7においては図示せず)と、この外周面を覆って形成される主軸ハウジング12とを備えて構成され、主軸11の先端部には工具Tが着脱可能に装着される。
主軸11と主軸ハウジング12との間には空気軸受が構成されているため、両者は非接触であり、電気的にはコンデンサ(Ct)が構成されている。また、主軸ハウジング12とテーブル613とは図示しない導線311によって連結されている。
工具TによるワークWの加工に際して、両者が接触されると、工具T-ワークW-テーブル613-導線311-主軸ハウジング12-主軸11-工具Tの順に閉回路C(図示せず)が構成される。この閉回路Cには、図示しない高周波発生装置314および励磁コイル312によって交流電流が流される。工具TとワークWとの接触状態(加工状態)の変化に伴ってこの交流電流に変化が生じると図示しない検出コイル313には誘導電流が発生し、接触状態が変化されたことが感知される。図示しないコントローラ322は、この誘導電流に基づいて接触状態の監視・制御を行う。コントローラ322は、接触状態の異常(重接触または非接触)を感知すると、NC装置4にアラーム信号を発信し、NC装置4は、加工制御用の各種数値データを適宜自動修正し、正常(軽接触)な接触状態へと復帰させる。
【0050】
なお、ワークWの加工にあたっては、NC装置4からの指令によって、テーブル613とスピンドルヘッド618とをX,Y,Z軸方向へ相対移動させながら、主軸11に装着された回転工具TによってワークWを加工する。つまり、テーブル613をY軸駆動機構621を介してY方向へ、スピンドルヘッド618をX軸駆動機構624およびZ軸駆動機構625を介してXおよびZ軸方向へそれぞれ移動させながら、主軸11に装着された回転工具TによってワークWを加工する。
【0051】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記各実施形態においては、本発明の第一非接触軸受として主軸空気軸受14が、本発明の第二非接触軸受としてワーク軸空気軸受24が、それぞれ設けられていたが、本発明では、第一および第二非接触軸受は空気軸受である必要はなく、例えば、磁気軸受、空気磁気複合式軸受であってもよい。
【0052】
また、前記第一実施形態においては、導線311の一端が主軸ハウジング12に取り付けられ、他端がブラシ315を介してワークWに取り付けられることによって閉回路Cが構成されていたが、本発明では、導線311の一端を導電性のブラシを介して工具Tに取り付け、他端を導電性のワーク軸ハウジング22に取り付けることによって閉回路Cを構成させてもよい。ここで、図1における絶縁材25は取り除かれるものとし、ワークWとワーク軸21とは直接電気的に導通されている。また、ワーク軸21およびワーク軸ハウジング22は、共に導電性を備えるものとされる。このとき、閉回路Cは、工具T-ワークW-ワーク軸21-ワーク軸ハウジング22-導線311-ブラシ-工具Tの順に構成されており、ここに交流電流が流されることによって工具TとワークWとの接触状態の監視が行われる。なお、ワーク軸21-ワーク軸ハウジング22間は、コンデンサCwによる容量結合となっている。この閉回路Cにおいては、主軸11および主軸ハウジング12には交流電流を流す必要がないので、工具Tと主軸11との間に絶縁材を介装することによって、両者が電気的に絶縁されるのが好ましい。
【0053】
また、前記第一実施形態においては、検出コイル313に発生される誘導電流の検出を通じて、閉回路Cを流れる交流電流の検出を行っていたが、本発明では、直接閉回路Cを流れる交流電流の検出を行ってもよい。また、閉回路Cに直列に抵抗器を接続し、この抵抗器にかかる電圧の検出を通じて交流電流の検出を行ってもよい。
【0054】
また、前記第一実施形態においては、高周波発生装置314と励磁コイル312とによって閉回路Cに交流電流を流していたが、本発明では、閉回路Cに交流電源を直列に接続して直接交流電流を流す構成としてもよい。このとき、当該交流電源から発生される交流電流は、一定周波数とされることが好ましい。
【実施例1】
【0055】
次に、本発明の実施例について説明する。
<第一実施例>
図8は、図1の構成の加工装置において、工具TのワークWへの切り込み量(横軸)を変化させたときの出力信号(縦軸)の値の変化を示したものである。ここで、出力信号とは、アナログデジタル変換器3221においてAD変換されたアンプユニット321からの増幅信号を指す。
【0056】
図8において、切り込み量がマイナスで表示される領域では、工具TとワークWとが非接触状態(図2(A)参照)にあり、閉回路Cが構成されていないので、出力信号は0mVである。この状態から工具TとワークWとを互いに近づけていき、両者が接触(切り込み量=0μm、のとき)すると、閉回路Cが構成され、直ちに6〜7mVの出力信号が発生する。したがって、出力信号の値を監視することによって、工具TとワークWとが接触された瞬間を正確に捉えることができる。ここで、非接触/軽接触判別閾値S2を、例えば3mV程度に設定すれば、この閾値S2によって非接触状態と軽接触状態(図2(B)参照)とを適切に判別できる。
【0057】
また、切り込み量を0μmから次第に増大させていくと、それに伴って出力信号の値も増大するから、切り込み量と出力信号値との間には正の相関関係がある。そのため、出力信号値を用いることで、切り込み量の増大に伴う軽接触状態から重接触状態(図2(C)、(D)参照)への変化を監視できることがわかる。軽接触状態と重接触状態との境界が必ずしも明確でないことは先に述べたとおりであるが、今かりに境界が出力信号値20mVのところにあるとすれば、軽接触/重接触判別閾値S1をこの値に設定することによって、軽接触状態と重接触状態とをこの閾値S1をもって適切に判別できる。
【0058】
加工の際には、信号出力値が、以上のように設定された二つの閾値S1(=20mV)およびS2(=3mV)の間(許容出力範囲内)の値になるように制御が行われるから、工具TとワークWとの接触状態を常に軽接触状態に維持できる。
【0059】
<第二実施例>
続いて、図9について説明する。
この散布図における各データは、前記各実施形態における軽接触/重接触判別閾値S1を設定しないで加工を行った場合における、加工時の出力信号値と、加工後の加工表面の表面粗さ(PV値:単位μm)とをプロットものである。なお、加工表面の表面粗さは、加工後に三次元測定機によって測定したものである。
まず、プロットの様子から容易に理解できるように、出力信号値と加工後の表面粗さとの間には正の相関関係がある。そのため、出力信号値は加工後の表面粗さの指標として機能することがわかる。そのため、軽接触/重接触判別閾値S1を設定することによって出力信号値の許容範囲を規定すれば、表面粗さ(PV値)を所望の範囲内に抑えることができ、加工精度を一定にかつ高精度に維持できる。
【0060】
例として、PV値が0.03μm以下の加工精度を必要とする加工を行う場合の軽接触/重接触判別閾値S1を、図9のデータを利用して設定する方法について説明する。図9において、PV値が0.03μm以下の適データを白丸(○)で、PV値が0.03μm以上の不適データを黒丸(●)で、示す。これを出力信号値で見ると、白丸(○)と黒丸(●)との境界は11mV付近に存在することがわかるので、この位置に軽接触/重接触判別閾値S1を設定する。すると、加工の際の出力信号値はS1以下に常に維持されることとなり、加工後の表面粗さ(PV値)も所望の範囲内(PV値≦0.03μm)に抑えることができる。
なお、軽接触/重接触判別閾値S1の設定方法からわかるように、本実施例では、加工後のPV値が0.03μm以下になるような工具TとワークWとの接触状態を軽接触状態と定義し、PV値が0.03μm以上になるような接触状態を重接触状態として定義していることになる。これは軽接触/重接触の一つの定義に過ぎないが、このように定義された上で設定される軽接触/重接触判別閾値S1は加工精度の悪化防止に最適な閾値となっているのは、以上説明したとおりである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、種々の工作機械、例えば、旋盤、フライス盤、ボール盤、研削盤、中ぐり盤、に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる加工装置を示す図。
【図2】工具とワークとの接触状態についての説明図。
【図3】本発明の第二実施形態にかかる加工装置を示す図。
【図4】本発明の第三実施形態にかかる加工装置を示す図。
【図5】本発明の第四実施形態にかかる加工装置を示す図。
【図6】本発明の第五実施形態にかかる加工装置を示す図。
【図7】本発明の第六実施形態にかかるNC加工機械を示す斜視図。
【図8】工具のワークへの切り込み量と出力信号値との間の関係を示すグラフ。
【図9】加工時における出力信号値と、加工後の加工表面の表面粗さとの間の関係を示す散布図。
【図10】凸部を有するワーク面を工具によって研削する場合に起こりうる従来技術の問題点についての説明図。
【符号の説明】
【0063】
1…工具回転駆動機構
2…ワーク回転駆動機構
3…接触状態検出・監視・制御システム
4…NC装置
5…パソコン
11…主軸
12…主軸ハウジング
14…主軸空気軸受
21…ワーク軸
22…ワーク軸ハウジング
24…ワーク軸空気軸受
32…監視制御システム
311…導線
312…励磁コイル
313…検出コイル
314…高周波発生装置
322…コントローラ
323…デジタルオシロスコープ
613…テーブル
618…スピンドルヘッド
3226…RAM
3227…LCDモニタ
W…ワーク
T…工具
C…閉回路
S1…軽接触/重接触判別閾値
S2…非接触/軽接触判別閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有するワークを保持するワーク保持部材と、
前記ワークの加工を行う導電性を有する工具を保持し、回転可能とされ、導電性を有する工具保持部材と、
この工具保持部材の外周面の少なくとも一部分を覆って形成され導電性を有する第一外周部材と、
前記工具保持部材を前記第一外周部材の内周面から浮上させることによって構成される第一非接触軸受と、
前記第一外周部材と前記ワークとを電気的に接続する導線と、
加工の際に前記ワークと前記工具とが接触されると、前記ワーク、前記工具、前記工具保持部材、前記第一外周部材および前記導線の順に構成される閉回路と、
この閉回路に交流電流を供給する交流電流供給手段と、
前記閉回路を流れる交流電流を検出する検出手段と、
この検出手段で検出される交流電流に基づく信号の出力値を所定の監視条件によって監視する監視制御手段と、
を備え、
前記監視条件は、前記ワークと前記工具との接触状態が軽接触/重接触のいずれであるかを判別するための軽接触/重接触判別閾値を含んで構成され、
前記監視制御手段は、前記信号の出力値が常に前記軽接触/重接触判別閾値に対して軽接触側の領域内に収まるように前記ワークと前記工具との接触状態を制御する、
ことを特徴とする加工装置。
【請求項2】
導電性を有するワークを保持し、回転可能とされ、導電性を有するワーク保持部材と、
前記ワークの加工を行う導電性を有する工具を保持する工具保持部材と、
前記ワーク保持部材の外周面の少なくとも一部分を覆って形成され導電性を有する第二外周部材と、
前記ワーク保持部材を前記第二外周部材の内周面から浮上させることによって構成される第二非接触軸受と、
前記第二外周部材と前記工具とを電気的に接続する導線と、
加工の際に前記ワークと前記工具とが接触されると、前記工具、前記ワーク、前記ワーク保持部材、前記第二外周部材および前記導線の順に構成される閉回路と、
この閉回路に交流電流を供給する交流電流供給手段と、
前記閉回路を流れる交流電流を検出する検出手段と、
この検出手段で検出される交流電流に基づく信号の出力値を所定の監視条件によって監視する監視制御手段と、
を備え、
前記監視条件は、前記ワークと前記工具との接触状態が軽接触/重接触のいずれであるかを判別するための軽接触/重接触判別閾値を含んで構成され、
前記監視制御手段は、前記信号の出力値が常に前記軽接触/重接触判別閾値に対して軽接触側の領域内に収まるように前記ワークと前記工具との接触状態を制御する、
ことを特徴とする加工装置。
【請求項3】
請求項1に記載の加工装置において、
前記ワーク保持部材は、回転可能とされるとともに、導電性を有するものとされ、
前記ワーク保持部材の外周面の少なくとも一部分を覆って形成され導電性を有する第二外周部材と、
前記ワーク保持部材を前記第二外周部材の内周面から浮上させることによって構成される第二非接触軸受とを備え、
前記導線は、前記第一外周部材と前記第二外周部材とを電気的に接続し、
前記閉回路は、前記ワーク、前記工具、前記工具保持部材、前記第一外周部材、前記導線、前記第二外周部材および前記ワーク保持部材の順に構成される、
ことを特徴とする加工装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の加工装置において、
前記監視制御手段は、前記信号の出力値が前記軽接触/重接触判別閾値を超えて重接触側領域内の値となると使用者の注意を喚起する注意喚起手段を備えることを特徴とする加工装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の加工装置において、
前記監視制御手段は、前記監視条件を記憶する記憶手段を備え、
この記憶手段に所望の監視条件を入力し記憶させる入力手段が設けられることを特徴とする加工装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の加工装置において、
前記監視制御手段は、前記ワークと前記工具との接触状態に関する情報を表示する表示手段を備えることを特徴とする加工装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の加工装置において、
前記検出手段は、前記閉回路から発生される磁束と鎖交される検出回路を備えて構成され、
前記監視制御手段は、前記検出回路において発生される誘導電流に基づく前記信号の出力値を前記監視条件によって監視することを特徴とする加工装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の加工装置において、
前記交流電流供給手段は、一定周波数の交流電流を発生する交流電流発生装置と、この交流電流が流される励磁回路とを備えて構成され、
前記閉回路は、前記励磁回路において発生される磁束と鎖交されることを特徴とする加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−26855(P2006−26855A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212132(P2004−212132)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】