説明

加熱調理器

【課題】調理物を下方から加熱する加熱手段に油が落ちて発火する危険性や、調理物に油煙の臭いが吸着され、どうしても調理性能が悪くなってしまうこと。
【解決手段】本発明の加熱調理器は、調理物を下方から加熱する手段を調理室内左右から吹き出される加熱空気とすることで、調理物下部の加熱むらをほぼ無くすことができ、調理物の表面を焼きすぎることなく均一温度で加熱調理することで、調理性能に優れ、安全で使いやすい加熱調理器を提供できることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般家庭で魚、肉等の調理物を加熱調理する加熱調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の加熱調理器は、図7に示すように、51は本体50の前面左部に設けられたグリル加熱部で、魚等の調理物52を焼くグリル庫53を有している。56は調理物52を載置する焼き網で、前面端部より下ヒータ57を巻き込むようにL状の支持脚58を形成し、この支持脚58をグリル皿54の内底面に載置してグリル皿54と一体に前後にスライドするものである。59は上ヒータで、シーズヒータよりなり、グリル庫53の上部側面に固定されている。下ヒータ57は、同じくシーズヒータよりなり、焼き網56の下面に位置するようにグリル庫53の側面に固定されている。59は焼き油誘導用遮熱板で、グリル皿54の内底面と隙間を保持してグリル皿54を覆うとともに、調理物52から出る焼き油61をグリル皿54へ直接落下させないように波状に形成して傾斜面を有し、その傾斜面の上部と下部に複数個の穴を有している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
以上の構成において、グリル調理の際、調理物52は上、下ヒータ57、59により加熱され、この加熱中、焼き網56の上で焼かれた魚等の調理物52から出る油脂分、即ち焼き油61を焼き網56の間より落下させる。そして、この焼き油56は焼き油誘導遮熱板60に落下し、焼き油誘導遮熱板60の複数個の穴よりグリル皿54へ流れ落ちる。グリル皿54へ落ちた焼き油61は、グリル皿54全体に広がることにより、下ヒータ57から見て、焼き油誘導遮熱板60に覆われている状態となり、下ヒータ57の放射熱は、調理物52の下部でグリル皿54を覆う焼き油誘導遮熱板60によってさえぎられ、焼き油61は、温度上昇による加熱が防止される。
【特許文献1】特開2003−265328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の構成では、調理物から流れ出る焼き油などが直接下ヒータに滴下して発生する発火を防止することが目的であるが、前記構成では調理性能と安全性の両立を図ることは困難である。すなわち、遮熱板によって下ヒータからの放射熱が低減し上ヒータからの放射熱との熱量バランスが悪く、調理物を上下から均一に加熱することが困難である。また、下ヒータの温度が非常に高温になれば、グリル庫内の酸素濃度が比較的低くても下ヒータに焼き油が滴下した際に発火すると考えられ、焼き油誘導用遮熱板には複数個の孔が設けられていることから従来の加熱調理器と比較してグリル庫内の酸素濃度が発火しない濃度まで低下することはないと考えられる。そして、下ヒータに焼き油が滴下した際に発火し、それが油誘導用遮熱板に落ちて発火が継続する可能性がある。また、使用者は毎回、焼き網とグリル皿に加えて油誘導用遮熱板の掃除を強いられる。更に、調理物に油煙の臭いが吸着され、どうしても調理性能が悪くなってしまうという課題を有していた。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、調理性能に優れ、安全で使いやすい加熱調理器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、本発明の加熱調理器は、調理物を収納する調理室と、調理物を上方から加熱する第1の加熱手段と、空気を加熱する第2の加熱手段を有した加熱室と、前記加熱室の空気を前記調理室へ送り込む吹き出し口と、前記調理室の空気を
前記加熱室へ送り込む吸い込み口と、前記吹き出し口および前記吸い込み口を介して前記調理室と前記加熱室の空気を入れ替える送風手段とを有し、前記吹き出し口は調理室の左右下方に設けられ吹き出された空気により調理物の下方を加熱する加熱調理器としたものである。
【0007】
上記発明のように、調理物を下方から加熱する手段を調理室内左右から吹き出される加熱空気とすることで、調理物を収容する空間を犠牲にすることなく発火・発煙を抑制しながら、調理物下部の加熱むらを低減することが可能となる。
【0008】
すなわち、下方にシーズヒータなどの加熱手段を設ける必要がないため、調理物下部の空間を必要以上に大きくすることなく、調理物を収容する高さ方向の空間を大きく確保することができる。また、加熱空気の流速、流量、温度、吹き出し角度などを調理物に応じて最適化することにより、従来は困難であった調理物下部の加熱むらをほぼ無くすことができ、調理物の表面を焼きすぎることなく均一温度で加熱調理することが可能となる。また、調理物下部に高温の発熱体が存在しないことで、調理物から滴下する油などが発火・発煙することがない。
【0009】
よって、調理性能に優れ、安全で使いやすく、高さの大きい調理物も容易に調理可能な加熱調理器を提供することができるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の加熱調理器は、調理物を下方から加熱する手段を調理室内左右から吹き出される加熱空気とすることで、調理物下部の加熱むらをほぼ無くすことができ、調理物の表面を焼きすぎることなく均一温度で加熱調理することで、調理性能に優れ、安全で使いやすいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1の発明は、調理物を収納する調理室と、調理物を上方から加熱する第1の加熱手段と、空気を加熱する第2の加熱手段を有した加熱室と、前記加熱室の空気を前記調理室へ送り込む吹き出し口と、前記調理室の空気を前記加熱室へ送り込む吸い込み口と、前記吹き出し口および前記吸い込み口を介して前記調理室と前記加熱室の空気を入れ替える送風手段とを有し、前記吹き出し口は調理室の左右下方に設けられ吹き出された空気により調理物の下方を加熱する加熱調理器とすることにより、調理物を下方から加熱する手段を調理室内左右から吹き出される加熱空気とすることで、調理物下部の加熱むらをほぼ無くすことができ、調理物の表面を焼きすぎることなく均一温度で加熱調理することで、調理性能に優れ、安全で使いやすいものである。
【0012】
すなわち、加熱空気の流速、流量、温度、吹き出し角度などを調理物に応じて最適化することにより、従来は困難であった調理物下部の加熱むらをほぼ無くすことができ、調理物の表面を焼きすぎることなく均一温度で加熱調理することが可能となる。また、下方にシーズヒータなどの第2の加熱手段を設ける必要がないため、調理物下部の空間を必要以上に大きくすることなく、調理物を収容する高さ方向の空間を大きく確保することができる。また、調理物下部に高温の発熱体が存在しないことで、調理物から滴下する油などが発火・発煙することがない。
【0013】
よって、調理性能に優れ、安全で使いやすく、高さの大きい調理物も容易に調理可能な加熱調理器を提供することができるものである。
【0014】
第2の発明は、特に第1の発明における送風手段の回転軸は、吸入方向と平行に配置され、前記加熱手段は前記送風手段の回転軸を中心とした前記送風手段の外周まわりに配置
し、前記送風手段と当該加熱手段との間に所定の距離を設け、かつ前記加熱室を形成する外郭壁と当該加熱手段との間に所定の距離を設け、吸入空気を吸入方向に対し遠心方向へ放射状に前記加熱手段へ向けて流れるように形成し、前記吸気口から吸入された気体は、前記送風手段を通過した後、前記加熱手段で加熱され、吹き出し口から排出される構成とした加熱調理器とすることにより、吸入空気を加熱手段にて効率よく加熱し高温に加熱された空気を吹き出し口から調理室に導くことができる。
【0015】
すなわち、吸入空気は送風手段によりほぼ均一の流速で遠心方向に導かれ、送風手段の外周に配置された加熱手段に均一の流速で導かれるため、吸入空気はほぼ均一の温度に熱せられる。よって、熱ロスが少なく効率よく空気加熱することができる。
【0016】
第3の発明は、特に第1の発明における加熱室は前記調理室の左右下方に設けられ、前記第2の加熱手段は、前記加熱室内に長手方向に設けられた加熱調理器とすることにより、加熱室に導かれた空気を加熱手段にて効率よく加熱し、高温に加熱された空気を調理室左右から調理物下面に吹き出すことで調理物をより高温に加熱することができる。さらに、調理室の左右下面からの放射熱による調理物下面の加熱も期待できるものである。
【0017】
すなわち、吸入空気は送風手段により加熱手段に導かれ高温に加熱された直後に加熱室内に送風されるため、熱ロスが少なく効率よく調理物を加熱することができる。
【0018】
第4の発明は、特に第1〜3の発明における調理物を調理する工程の開始時は、前記加熱手段を動作させて前記加熱室内の空気を加熱し、前記加熱室内の加熱された空気が所定温度以上になると、前記送風手段を動作させる加熱調理器とすることにより、加熱室内の空気が所定温度になるまで、加熱室内の空気が加熱される一方で、加熱室内で加熱された空気は調理室内に動作しないので、調理物は加熱されないようにすることができる。
【0019】
このことは、焼き物調理において最も美味しいとされる炭火焼に近い焼き方を実現するものである。すなわち、炭火焼では予め炭を十分に加熱した上で魚などの調理物を焼き網に載せ、調理物の表面成分を短時間で変性させることで内部に美味しさを閉じ込める調理方法である。
【0020】
したがって、調理物から旨み成分が流出してしまう現象を抑制し、調理物の調理性能を向上させることができる。
【0021】
第5の発明は、特に第1〜4の発明における調理物を調理する工程の開始時から所定時間送風手段を動作させて停止させた後、前記加熱手段を動作させて加熱室内の空気を加熱するように制御する加熱調理器とすることにより、加熱手段により加熱されていなくて且つ調理物の表面周囲にある高湿度の空気よりも湿度が低い空気を、加熱室から調理物に供給することができるので、調理物の表面を加熱せずに、調理物の表面に付着している水分を蒸発させたり、受け皿に流し落としたりすることができる。
【0022】
よって、加熱手段により加熱された高温の空気を調理物に供給する前に、調理物の表面近傍を乾燥させることができ、調理物の表面に付着している水分の量が少ない状態にすることができるので、調理物の表面成分をより短時間で変性させ内部に美味しさを閉じ込めることができる。したがって、調理物の調理性能をさらに向上させることができる。
【0023】
第6の発明は、特に第1〜5の発明における吹き出し口から吹き出された空気は調理物下部に沿った層流(例えば調理物がサンマの場合、吹き出された加熱空気の流線が常にサンマの長手方向と平行であること)となるように送風手段を制御し所定の吹き出し流速にした加熱調理器とすることにより、加熱空気は調理物の下部に沿って流れながら調理物に
熱量を与えるため調理物下部を効率よく加熱することができる。これを実現するためには、吹き出し口から吹き出された空気を層流にすることで調理物に沿って流れようとする流体の性質を用いる必要がある。仮に、魚などの調理物を焼き網に敷き詰め、調理物の長手方向に片側から送風して加熱調理する場合、調理物の表面流れが層流になる条件は一般的にレイノルズ数に依存する。レイノズル数(Re)は、流速(V)と調理物の長手方向の長さ(L)とを乗じたものを加熱空気の動粘性係数(ν)で除したものであり、平板に沿った流れでは0<Re<100000の範囲で層流であり、円柱周りの流れでは0.1<Re<1000の範囲で層流である。しかしながら、実際の調理物では表面形状が異なるため調理物周りの流れを可視化するなど実験的に求めながら、吹き出し流速を所定以下に設定する必要がある。吹き出し流速が層流になる範囲で最適化することで、流体から調理物への熱移動をスムーズに行い焼きむらを抑えた調理が可能となり、調理性能をさらに向上させることができるものである。
【0024】
第7の発明は、特に第1〜6の発明における吹き出し口には吹き出し空気を複数方向に振り分けるルーバーを設けた加熱調理器とすることにより、調理物に対しより均一に加熱空気を導くことができる。ルーバーが無い場合は、調理物において吹き出し口に近い部位は加熱初期に加熱流体からの伝熱量が多く、一方吹き出し口から遠い部位は伝熱量が少ないため吹き出し口から見て調理物の長手方向に加熱むらが生じやすい。従って、調理物の複数部位に加熱流体を導くために、吹き出し空気を複数方向に振り分けるルーバーを設けることでより均一に調理物を加熱でき、調理性能をさらに向上させることができるものである。
【0025】
第8の発明は、特に第1〜7の発明における加熱手段は、調理室内に突起せず平面形状とした加熱調理器とすることにより、調理室内に突起物が無いことで、調理の際に調理室内に飛散した飛沫や壁面に付着した油汚れを容易に拭き掃除することができ調理室内を清潔に保つことができる。また、調理物を収容する高さ方向の空間を大きく確保することができ、調理の幅を広げることができるものである。
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
図1は本発明の第1の実施の形態における加熱調理器の断面図を示すものである。図2は本発明の第1の実施の形態における加熱調理器のa−a拡大断面図である。図3は本発明の第1の実施の形態における加熱調理器のb−b拡大断面図である。図4は本発明の第1の実施の形態における加熱調理器のc−c拡大断面図である。
【0028】
図1において、1は加熱調理器の本体であり、魚等の調理物2を焼く調理室3を有する。4は調理室3内に収納された受け皿4で、前面下部にハンドル5を設けており、このハンドル5を操作することにより調理室3内を前後にスライドするものである。6は調理物2を載置する焼き網である。焼き網6は、前面端部よりL状の支持脚を形成し、この支持脚を受け皿4の内底面に載置して受け皿4と一体に前後にスライドするものである。7は調理物2を上部から加熱する第1の加熱手段で、マイカにフィルム状ヒータ線を螺旋状に巻きつけた平面ヒータよりなり、調理室3の上部面に圧接して固定されている。調理室3の上部面は放射率を高める表面処理(セラミック塗装)が施され、調理物2への放射による加熱効率を高めている。
【0029】
調理室3とは別に設けられる加熱室8は、加熱室8内の空気を加熱する第2の加熱手段9(本実施の形態では、空気を高温に加熱するのに効率が高いシーズヒータを円形状に加工したもので構成されているが、第2の加熱手段9は、加熱室8内の空気を所定温度(例
えば約300℃以上)に加熱できるものであればよい)と、加熱手段9が加熱した空気を調理室3内へ送り込む送風手段10を有しており、調理室3と加熱室8は吹き出し口11と吸い込み口12により連通接続されている。図3に示すように第2の加熱手段9は送風手段10の外周に配置され、送風手段10によって第2の加熱手段9に対しほぼ均一の流速で遠心方向に導かれるように構成されている。調理室3の左右には調理室3の長手方向に導風路13a、13bを有し、加熱室8と吹き出し口11と連通接続されている。吹き出し口11には調理物2の下部に均一に送風するために吹き出し空気の方向を可変するルーバー14を有し、所定の角度に設定されている。よって、送風手段10を動作させると、送風手段10は、吸い込み口12を介して調理室3内の空気を吸い込み、第2の加熱手段9と導風路13a、13bと吹き出し口11を介して加熱室8内の空気を調理室3内へ送り込むことができる。調理室3内の上部には調理室3内と連通する排気通路15が設けられ、外部と連通する排気口16が設けられている。また、加熱室8内には、加熱室8内の空気の温度を測定する温度検知手段17が設けられている。温度検知手段17は、Kタイプの熱伝対をセラミックスなどの絶縁材で電気的に絶縁されたものを、ステンレスなどの金属により被覆したものを用いた。
【0030】
制御手段(図示しない)は、第1の加熱手段7、第2の加熱手段9、送風手段10を調理工程プログラムに従って制御する。
【0031】
以上のように構成された加熱調理器について、以下その動作、作用を説明する。
【0032】
まず、グリル調理の際、使用者がハンドル5を引き出すと、それと連動して焼き網6、受け皿4が調理室3からスライドして引き出される。そこで焼き網6に魚等の調理物2を載せ、ハンドル5を押し、スライドさせて調理室3内に収納する。その後、図示しない操作部を操作することにより、調理物2を加熱する調理工程が開始する。調理工程が開始すると、制御手段は第2の加熱手段9のみに通電する予熱工程が行われる。この工程では、第2の加熱手段9のみが通電されるので、加熱室8内の空気が第2の加熱手段9により加熱され、加熱室8内の空気温度は加熱時間に応じて高くなる。
【0033】
そして、加熱室8内の空気温度が予熱所定温度Ta(例えば約300℃以上)になると、加熱工程が開始する。この工程では、制御手段は第1の加熱手段7および送風手段10にも通電する。第1の加熱手段7の温度上昇により、調理物2は放射加熱される。また、黒矢印に示すように送風手段10は調理室2内の空気を吸い込み口12を介して吸い込み、加熱室8の第2の加熱手段9へ送風するので、調理物2に対し加熱室8内で加熱された高温の空気が導風路13a、13bを介して吹き出し口11から吹き出される。吸入空気は送風手段10によりほぼ均一の流速で遠心方向に導かれ、送風手段10の外周に配置された第2の加熱手段9に均一の流速で導かれるため、吸入空気はほぼ均一の温度に熱せられる。よって、熱ロスが少なく効率よく空気加熱することができる。加熱空気は調理室3内の左右に設けられた吹き出し口11から調理物2下部に沿って送風されるため、加熱むらが少なく調理物2下部を均一に加熱調理することができる。すなわち、調理物の吹き出し口11に近い部分は加熱空気の温度が高いため調理物2に与える熱量は大きく、中央付近は左右からの加熱空気が混合し合うことで調理物2との接触機会を増やし、加熱空気の温度が低くなることに起因して与える熱量が低下することを防いでいる。
【0034】
吹き出し口11には吹き出し空気を複数方向に振り分けるルーバー14が設けられているため、調理物2に対しより均一に加熱空気を導くことができる。ルーバーが無い場合は、調理物2の吹き出し口11に近い部位は加熱初期に加熱流体からの伝熱量が多く、一方吹き出し口11から遠い部位は伝熱量が少ないため吹き出し口11から見て調理物2の長手方向に加熱むらが生じやすい。従って、調理物2の複数部位に加熱流体を導くために、吹き出し空気を複数方向に振り分けるルーバー14を設けることでより均一に調理物2を
加熱できる。
【0035】
よって、上部からの放射加熱と下方からの対流加熱により、調理物2の表面温度T1は、加熱工程が開始すると、たんぱく質成分が変性して凝固する凝固温度Tb(例えば62℃)近傍まで急激に上昇することになる。
【0036】
調理工程の時間が所定時間t1になるまで、または、調理室3または加熱室8内の空気温度T2が調理所定温度Tcになるまで、調理工程が行われると、制御手段は第1の加熱手段7、第2の加熱手段9、送風手段10への通電を終了し、調理工程を終了する。そして、使用者は、ハンドル5を調理室3から引き出すことにより、加熱調理された調理物2を取り出すことができる。
【0037】
なお、加熱室8内の空気温度T2は温度検知手段17で検知するものであり、予熱工程や加熱工程および調理工程の経過時間は制御手段に接続された図示しないタイマーでカウントするものである。
【0038】
このように本実施の形態によれば、予熱工程において、制御手段が第2の加熱手段9に通電することにより、加熱室8内の空気温度T2が予熱所定温度Taになるまで加熱室8内の空気が加熱される一方で、制御手段は、送風手段10や第1の加熱手段7に通電しないので、加熱室8内で加熱された空気は調理室3内に供給されない。そのため、予熱工程では、調理室3内にある調理物2は第2の加熱手段9や、第2の加熱手段9により加熱された加熱室8内の空気により加熱されないようにすることができる。
【0039】
そして、予熱工程終了後に行われる加熱工程の開始とともに、制御手段が送風手段10および第1の加熱手段7にも通電することにより、送風手段10は調理室3内の空気を吸い込み口12を介して吸い込んで加熱室8の第2の加熱手段9へ送風するとともに、加熱室8内で加熱された空気を吹き出し口11を介して調理室2内へ送風するので、調理物2の表面は、加熱室8内で空気所定温度Taまで加熱された高温の空気と接触することで対流加熱される。同時に、第1の加熱手段7の温度上昇により、調理物2は放射加熱される。
【0040】
以上のように、本実施の形態による加熱調理器は、従来は困難であった調理物2下部の加熱むらをほぼ無くすことができ、調理物2の表面を焼きすぎることなく均一温度で加熱調理することが可能となる。さらに、調理物2の下部に高温の発熱体が存在しないことで、調理物2から滴下する油などが発火・発煙することがない。
【0041】
よって、調理性能に優れ、安全で使いやすく、高さの大きい調理物も容易に調理可能な加熱調理器を提供することができるものである。
【0042】
また、予熱工程開始時から送風手段動作時間までの間、制御手段は、第2の加熱手段9に通電せずに、送風手段10のみに通電することにより、調理物2の表面周囲にある高湿度の空気(調理物2の表面近傍に漂っている空気は、調理物2の表面にある水分と接触しているため)よりも湿度が低い空気を、加熱室8から調理物2に供給することができるので、調理物2の表面を加熱せずに、表面に付着している水分を蒸発させたり、受け皿4に流し落としたりすることができる。
【0043】
よって、予熱工程中に調理物2の表面近傍を乾燥させることができ、表面に付着している水分の量が少ない状態にすることができるので、加熱工程開始時に、表面の水分を蒸発させる為のエネルギーを与える必要がなく、より素早くたんぱく質成分を凝固温度に到達することができる。従って、調理物2の表面近傍のたんぱく質成分をさらに素早く凝固さ
せることができるので、調理物2からうまみ成分が流出するのをより低減することができ、調理物2の調理性能をさらに向上させることができる。
【0044】
また、吹き出し口11から吹き出された加熱空気は調理物2の下部に沿った層流(例えば調理物2がサンマの場合、吹き出された加熱空気の流線が常にサンマの長手方向と平行であること)となるように制御手段により送風手段10を制御し所定の吹き出し流速にすることにより、加熱空気は調理物2の下部に沿って流れながら調理物2に熱量を与えるため調理物2の下部を効率よく加熱することができる。これを実現するためには、吹き出し口から吹き出された加熱空気を層流にすることで調理物2に沿って流れようとする流体の性質(コアンダ効果)を用いる必要がある。仮に、調理物2であるサンマを焼き網に敷き詰め、調理物の長手方向に片側から送風して加熱調理する場合、調理物2の表面流れが層流になる条件は一般的にレイノルズ数に依存する。レイノズル数(Re)は、流速(V)と調理物2の長手方向の長さ(L)とを乗じたものを加熱空気の動粘性係数(ν)で除したものであり、平板に沿った流れでは0<Re<100000の範囲で層流であり、円柱周りの流れでは0.1<Re<1000の範囲で層流である。よって、流速が小さく、密度が小さく、粘度が大きいほど層流になりやすいと言える。しかしながら、実際の調理物2では表面形状が異なるため調理物2の周りの流れを可視化するなど実験的に求めながら、吹き出し流速を所定以下に設定する必要がある。吹き出し流速が層流になる範囲で最適化することで、加熱空気から調理物2への熱移動をスムーズに行い焼きむらを抑えた調理が可能となり、調理性能をさらに向上させることができるものである。
【0045】
(実施の形態2)
図5は本発明の第2の実施の形態における加熱調理器の断面図を示したものである。図6は本発明の実施の形態2における加熱調理器のd−d断面図である。
【0046】
図5〜図6において、実施の形態1と同等の作用および動作部分については同符号を用い説明を省略し、異なる部分のみを以下に述べる。
【0047】
調理室3の左右下方に調理室3とは別に設けられる加熱室20は、加熱室20内の空気を加熱する第2の加熱手段21(本実施の形態では、棒状のシーズヒータで構成されているが、第2の加熱手段21は、加熱室20内の空気を所定温度(例えば約300℃以上)に加熱できるものであればよい)を有している。加熱手段21が加熱した空気を調理室3内へ送り込むために送風手段22を有しており、調理室3と加熱室20は吹き出し口11と吸い込み口12により連通接続されている。送風手段22は、吸い込み口12から吹き出し口11に至る流路の内部に配設されている。吹き出し口11には調理物2の下部に均一に送風するために吹き出し空気の方向を可変するルーバー14を有し、所定の角度に設定されている。よって、送風手段22を動作させると、送風手段22は、吸い込み口12を介して調理室3内の空気を吸い込み、第2の加熱手段21により加熱された加熱室20内の空気を調理室3内へ送り込むことができる。また、加熱室20内には、加熱室20内の空気の温度を測定する温度検知手段23が設けられている。温度検知手段23は、Kタイプの熱伝対をセラミックスなどの絶縁材で電気的に絶縁されたものを、ステンレスなどの金属により被覆したものを用いた。
【0048】
以上のように構成された加熱調理器について、以下その動作、作用を説明する。
【0049】
まず、グリル調理の際、使用者がハンドル5を引き出すと、それと連動して焼き網6、受け皿4が調理室3からスライドして引き出される。そこで焼き網6に魚等の調理物2を載せ、ハンドル5を押し、スライドさせて調理室3内に収納する。その後、図示しない操作部を操作することにより、調理物2を加熱する調理工程が開始する。調理工程が開始すると、制御手段は第2の加熱手段21のみに通電する予熱工程が行われる。この工程では
、第2の加熱手段21のみが通電されるので、加熱室20内の空気が第2の加熱手段21により加熱され、加熱室20内の空気温度は加熱時間に応じて高くなる。
【0050】
そして、加熱室20内の空気温度が予熱所定温度Ta(例えば約300℃以上)になると、加熱工程が開始する。この工程では、制御手段は第1の加熱手段7および送風手段22にも通電する。第1の加熱手段7の温度上昇により、調理物2は放射加熱される。また、送風手段22は調理室2内の空気を吸い込み口12を介して吸い込み、加熱室20の第2の加熱手段21へ送風するので、調理物2に対し加熱室20内で加熱された高温の空気が吹き出し口11から吹き出される。吸入空気は送風手段22により第2の加熱手段21に導かれ高温空気となり、調理室左右から調理物下面に吹き出すことで調理物をより高温に加熱することができる。さらに、調理室の左右下面からの放射熱による調理物下面の加熱も期待できるものである。
【0051】
すなわち、吸入空気は送風手段により加熱手段に導かれ高温に加熱された直後に加熱室内に送風されるため、熱ロスが少なく効率よく調理物を加熱することができる。
【0052】
よって、上部からの放射加熱と下方からの対流と放射加熱により、調理物2の表面温度T1は、加熱工程が開始すると、たんぱく質成分が変性して凝固する凝固温度Tb(例えば62℃)近傍まで急激に上昇することになる。
【0053】
調理工程の時間が所定時間t1になるまで、または、調理室3または加熱室20内の空気温度T2が調理所定温度Tcになるまで、調理工程が行われると、制御手段は第1の加熱手段7、第2の加熱手段21、送風手段22への通電を終了し、調理工程を終了する。そして、使用者は、ハンドル5を調理室3から引き出すことにより、加熱調理された調理物2を取り出すことができる。
【0054】
なお、加熱室20内の空気温度T2は温度検知手段17で検知するものであり、予熱工程や加熱工程および調理工程の経過時間は制御手段に接続された図示しないタイマーでカウントするものである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明における加熱調理器は、調理物を下方から加熱する手段を調理室内左右から吹き出される加熱空気とすることで、調理物下部の加熱むらをほぼ無くすことができ、調理物の表面を焼きすぎることなく均一温度で加熱調理することで、調理性能に優れ、焼き油が滴下した際に発火の危険性がなく安全で使いやすいものである。よってロースタや電子レンジ、オーブンレンジ、オーブンあるいはグリラーなどの加熱調理機器として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1における加熱調理器の断面図
【図2】本発明の実施の形態1における加熱調理器のa−a拡大断面図
【図3】本発明の実施の形態1における加熱調理器のb−b拡大断面図
【図4】本発明の実施の形態1における加熱調理器のc−c拡大断面図
【図5】本発明の実施の形態2における加熱調理器の断面図
【図6】本発明の実施の形態2における加熱調理器のd−d拡大断面図
【図7】従来の加熱調理器の図
【符号の説明】
【0057】
1 加熱調理器
2 調理物
3 調理室
4 受け皿
5 ハンドル
6 焼き網
7 第1の加熱手段
8 加熱室
9 第2の加熱手段
10 送風手段
11 吹き出し口
12 吸い込み口
13a 導風路
13b 導風路
14 ルーバー
15 排気通路
16 排気口
17 温度検知手段
21 第2の加熱手段
22 送風手段
23 温度検知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理物を収納する調理室と、調理物を上方から加熱する第1の加熱手段と、空気を加熱する第2の加熱手段を有した加熱室と、前記加熱室の空気を前記調理室へ送り込む吹き出し口と、前記調理室の空気を前記加熱室へ送り込む吸い込み口と、前記吹き出し口および前記吸い込み口を介して前記調理室と前記加熱室の空気を入れ替える送風手段とを有し、前記吹き出し口は調理室の左右下方に設けられ吹き出された空気により調理物の下方を加熱する加熱調理器。
【請求項2】
前記送風手段の回転軸は、吸入方向と平行に配置され、前記加熱手段は前記送風手段の回転軸を中心とした前記送風手段の外周まわりに配置し、前記送風手段と当該加熱手段との間に所定の距離を設け、かつ前記加熱室を形成する外郭壁と当該加熱手段との間に所定の距離を設け、吸入空気を吸入方向に対し遠心方向へ放射状に前記加熱手段へ向けて流れるように形成し、前記吸気口から吸入された気体は、前記送風手段を通過した後、前記加熱手段で加熱され、吹き出し口から排出される構成とした請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項3】
前記加熱室は前記調理室の左右下方に設けられ、前記第2の加熱手段は、前記加熱室内に長手方向に設けられた請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項4】
前記調理物を調理する工程の開始時は、前記加熱手段を動作させて前記加熱室内の空気を加熱し、前記加熱室内の加熱された空気が所定温度以上になると、前記送風手段を動作させる請求項1〜3のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項5】
前記調理物を調理する工程の開始時から所定時間送風手段を動作させて停止させた後、前記加熱手段を動作させて加熱室内の空気を加熱するように制御する請求項1〜4のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項6】
前記吹き出し口から吹き出された空気は調理物下部に沿った層流となるように前記送風手段を制御し所定の吹き出し流速にした請求項1〜5のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項7】
前記吹き出し口には吹き出し空気を複数方向に振り分けるルーバーを設けた請求項1〜6のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項8】
前記第1の加熱手段は、調理室内に突起せず平面形状とした請求項1〜7のいずれか1項に記載の加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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