説明

加熱調理用油脂組成物

【課題】 トランス脂肪酸(TFA)含量が少なくても硬化油風味の強い加熱調理用油脂組成物を提供すること。
【解決手段】 加熱調理用油脂組成物全体中、水素添加していないパーム由来の油脂(A)の含有量が4.5〜77重量%、水素添加前後のヨウ素価の差が5以下になるように水素添加したパーム由来の油脂(B)の含有量が22.5〜95重量%であり、トランス脂肪酸含有量が5%以下である加熱調理用油脂組成物を用いて加熱調理すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ油などに用いられる加熱調理用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フライドポテト、フライドチキン、ドーナツ等の製造に用いられる加熱調理用の油脂には、様々な動植物油脂が用いられているが、耐熱性、酸化安定性を付与する目的で水素添加油脂が多用されている。水素添加油脂は水素添加臭と呼ばれる独特の風味を有しており、商品の個性を特徴付ける重要な風味の一部になっている。具体的には、フライドポテト、フライドチキンやドーナツ等の食品では、水素添加油脂由来の独特の風味が味の重要な要素となっている。
【0003】
一方、水素添加処理により油脂中のトランス脂肪酸含有量が増加することが知られている。トランス脂肪酸は、近年、その摂取により動脈硬化等の疾病を引き起こす可能性があることが報告されており、その含有量をできる限り低くしたいという市場の要請がある。しかし、トランス脂肪酸含量を低減させるべく水素添加時間を短くしたり、水素添加しない油脂を配合するなどして、水素添加度合いを下げると水素添加臭の独特な風味が失われるという問題があった。
【0004】
また、トランス脂肪酸含量をできる限り低減したこれまでの加熱調理用油脂は、パーム由来の油脂を多く含む場合が多く、パーム油由来の風味やリノール酸含量も多いため、リノール酸に起因する臭いによりスパイス感などの風味が低下したり、酸化安定性低下も問題になっている。
【0005】
特許文献1には、パーム油の分別硬質油を50質量%以上用いることにより、トランス脂肪酸含有量を低減しながら水素添加油脂由来の風味を出す方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、パーム油にラードあるいは硬化油を添加して用いることにより、トランス脂肪酸含有量を低減しながら水素添加油脂風味を出す方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、蒸留精製したパーム油を用いることにより、トランス脂肪酸含有量を低減しながら水素添加油脂風味を出す方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、パーム油分別硬質油を50%未満、パーム分別軟質油を65%以下用いることで、トランス脂肪酸含有量を低減しながら水素添加油脂由来の風味を出す方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、これら特許文献1〜4の提案は、何れもパーム由来の油脂を多く含むため、分別硬質部を多く配合しないと、リノール酸に起因する液体油臭が風味低下に繋がり、風味の質や強度といった点で不十分である。
【0010】
特許文献5には、バニリン及び/またはエチルバニリンを含有する硬化油風味付与剤が開示されているが、水素添加油脂を使用したときの風味と比べると、揮発性の高い不快な臭い成分を有し、風味の質や強度といった点で不十分である。
【0011】
特許文献6では、過酸化物価(POV)を特定の範囲とした部分水素添加油脂を用いることにより、低トランス脂肪酸油脂の水素添加油脂風味を強くできるとしているが、POVが高い油脂を得るには、過酸化物価を上昇させるための特別な処理が必要となり、手間がかかる。
【0012】
また、特許文献7には、脱臭した油脂を水素添加した油脂に、バタ−様の風味があると開示されているが、水素添加処理時の温度で油脂が劣化し、特許文献5の油脂同様、揮発性の高い不快な臭い成分も有し、風味の質の点で不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−271818号公報
【特許文献2】特開2009−5681号公報
【特許文献3】特開2009−240220号公報
【特許文献4】特開2010−99037号公報
【特許文献5】国際公開第2008/032852号
【特許文献6】特開2009−89684号公報
【特許文献7】特表2010−504753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のように、動植物油脂の部分水添硬化油の独特な風味である水素添加臭の風味及び酸化安定性を維持したまま、トランス脂肪酸(TFA)含量をできる限り低減した加熱調理用油脂の開発が望まれていた。本発明の目的は、トランス脂肪酸(TFA)含量が少なくても硬化油風味の強い加熱調理用油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水素添加していないパーム由来油と、部分的に水素添加したパーム油とを、それぞれ特定量含有する油脂組成物は、トランス酸含量が少なくても硬化油風味が強いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明の第一は、加熱調理用油脂組成物全体中、水素添加していないパーム由来の油脂(A)の含有量が4.5〜77重量%、水素添加前後のヨウ素価の差が5以下になるように水素添加したパーム由来の油脂(B)の含有量が22.5〜95重量%であり、トランス脂肪酸含有量が5%以下である加熱調理用油脂組成物に関する。好ましい実施態様は、大豆油及びコーン油を1:9〜9:1(重量比)で混合してから水素添加された、ヨウ素価が90〜60の油脂(C)を10重量%以下含有する上記記載の加熱調理用油脂組成物に関する。より好ましくは、パーム由来の油脂(A)が、ヨウ素価60以下のパーム油及び/又はパーム分別油混合油である上記記載の加熱調理用油脂組成物、更に好ましくは、パーム由来の油脂(B)が、ヨウ素価55以下のパーム分別油である上記記載の加熱調理用油脂組成物、特に好ましくは、加熱調理用油脂組成物全体中、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを0.01〜0.5ppm含有する上記記載の加熱調理用油脂組成物、に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、トランス脂肪酸(TFA)含量が少なくても硬化油風味の強い加熱調理用油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の加熱調理用油脂組成物は、水素添加していないパーム由来の油脂(A)の含有量が特定量であり、水素添加前後のヨウ素価の差が5以下になるように水素添加したパーム由来の油脂(B)の含有量が特定量であり、トランス脂肪酸含有量が特定量である。
【0019】
本発明のパーム由来の油脂(A)は、パーム油やパーム油から得られる分別油であり、水素添加されていなければよく、例えば、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パームミッドフラクションなどが挙げられる。パーム由来の油脂(A)は、ヨウ素価60以下のパーム油及び/又はパーム分別油混合油であることが好ましい。また該パーム分別油混合油は、パームステアリン:パームオレイン=1.5:8.5〜6:4(重量比)の混合油であることが好ましい。
【0020】
本発明のパーム由来の油脂(B)は、パーム油及びパーム油から得られる分別油を水素添加した油脂であり、水素添加前後のヨウ素価の差が5以下になるように水素添加されていれば良い。パーム由来の油脂(B)は、ヨウ素価55以下のパーム分別油であることが好ましい。また、パーム由来の油脂(B)の水素添加前のパーム系原料は、ヨウ素価55以下のパーム分別油であることが好ましい。中でも、パームミッドフラクション(PMF)が好ましく、例えば、パームミッドフラクションヨウ素価45などが挙げられる。ここでヨウ素価の測定は、基準油脂分析法によるウイイス(ウィス)法により求めることができる。
【0021】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、トランス脂肪酸含有量が5%以下であることが好ましい。5%を越えると、トランス脂肪酸の生理作用により栄養機能面で好ましくない場合がある。
【0022】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、リノール酸含有量が9重量%以下であることが好ましく、5〜9重量%であることがより好ましい。9重量%を越えると、フライ後の風味が、液体油様の好ましくない風味を有する場合がある。
【0023】
また本発明の加熱調理用油脂組成物において、オレイン酸含量/リノール酸含量(重量比)が4以上であることが好ましく、4.5以上6未満であることがより好ましい。4.5未満であると、フライ後の風味が好ましくない場合がある。
【0024】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、さらに、大豆油及びコーン油を1:9〜9:1(重量比)で混合してから水素添加されたヨウ素価が90〜60の油脂(C)を含有することが好ましい。前記油脂(C)の含有量は、加熱調理用油脂組成物全体中10重量%以下であることが好ましく、0.5〜10重量%がより好ましい。10重量%を越えると、組成物中のトランス酸含有量が5%を越える場合がある。また該油脂(C)は、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを0.1ppm以上含有することが好ましく、0.1〜10ppmがより好ましい。0.1ppmより少ないと、硬化油風味が弱い場合がある。
【0025】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、油脂(A)及び油脂(B)を混合するか、油脂(A)、油脂(B)及び油脂(C)を混合して得られるが、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを加熱調理用油脂組成物全体中0.01〜0.5ppm含有することが好ましい。0.01ppmより少ないと、硬化油風味が不足する場合があり、0.5ppmより多いと、硬化油風味が強すぎて逆に油脂としての風味が悪く感じる場合がある。
【0026】
なお、トランス脂肪酸含量は、日本油化学会編「基準油脂試験分析法」に記載の「トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」(コード暫17―2007)により測定することができる。
【0027】
また、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンの含有量は、GCMSにより分析することができる。
分析条件:サンプル注入及びGCMS分析は、加熱脱着冷却インジェクションシステム(ゲステル社)及びガスクロマトグラフ6890N及び5973(アジレント社)を用い、各サンプル30mgを使用し、熱抽出分析により行う。カラムは、INNOWAX(60m×0.25mm×0.25μm)を用い、40℃で2分間保持した後、3℃/minで100℃まで昇温し、5℃/minで240℃まで昇温したら、そのまま30分間保持し、マススペクトロメトリーで、含まれている成分の検出及びヘキサデカンを内部標準として定量を行う。上記測定においては、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンはGCMS分析においてリテンションタイム40分近傍に検出される。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0029】
<フライドポテトのパーム油臭評価>
実施例・比較例で得られたフライドポテトを20人の熟練パネラーに食してもらい、パーム油臭を以下の基準で点数化して平均値を算出し、その値を評価値とした。
5点:パーム油臭を強く有する、
4点:パーム油臭をやや強く有する、
3点:パーム油臭を有する、
2点:パーム油臭をやや感じる、
1点:パーム油臭が無い。
【0030】
<フライドポテトの水素添加臭評価>
実施例・比較例で得られたフライドポテトを20人の熟練パネラーに食してもらい、水素添加臭を以下の基準で点数化して平均値を算出し、その値を評価値とした。
5点:参考例1とほぼ変わらない水素添加臭の風味を有する、
4点:参考例1より水素添加臭の風味がやや弱いが実際上問題なし、
3点:参考例1より水素添加臭の風味が少し弱い、
2点:参考例1より水素添加臭の風味が弱い、
1点:参考例1より水素添加臭の風味が明らかに弱い。
【0031】
<フライドポテトの総合評価>
前記パーム油臭評価及び水素添加臭評価に基づき、以下の基準で総合評価を行った。
◎:パーム油臭評価が2点以下且つ水素添加臭評価が5点、
○:パーム油臭評価が2点以下且つ水素添加臭評価が3〜4点、
△:パーム油臭評価が3点以上且つ水素添加臭評価が3点以上、
×:水素添加臭評価が2点以下。
【0032】
(製造例1〜4) パーム由来の油脂(A)の製造
表1の配合に従って、各原料油脂に活性白土を添加し、撹拌しながら減圧下(0.009MPa)、110℃まで加熱し、15分間保持後、80℃まで冷却した。これを濾紙にて活性白土を濾過して脱色油を得た。この脱色油を300Pa、250℃の条件で60分間水蒸気蒸留することにより、精製されたパーム由来油A1〜A4を得た。
【0033】
【表1】

【0034】
(製造例5〜6) パーム由来の油脂(B)の製造
表2の配合に従って、デッドエンド型オートクレーブ内でパームミッドフラクションにニッケル触媒0.1質量%(ニッケル含量20質量%)を添加し、開始温度:150℃、水素圧力:0.25MPaの条件で加熱しながら、ヨウ素価42となるまで水素添加反応を行い、部分水素添加油脂であるパーム由来油B1〜B2を得た。
【0035】
【表2】

【0036】
(製造例7〜8) 部分水素添加した油脂(C)の製造
表3の配合に従って、精製されたコーン油と大豆油を混合後、オートクレーブ内でニッケル触媒0.1質量%(ニッケル含量20質量%)を添加し、開始温度:150℃、水素圧力:0.5MPaの条件で加熱しながら、ヨウ素価75となるまで水素添加反応を行った。この部分水素添加油脂に、活性白土を添加し、撹拌しながら減圧下(0.009MPa)110℃まで加熱し、15分間保持後80℃まで冷却し、活性白土を濾過し、部分水素添加油脂を得た。さらに、表3に示す条件で脱臭することにより、精製された部分水添油C1〜C2を得た。
【0037】
【表3】

【0038】
(実施例1〜6) 加熱調理用油脂組成物の作製及び評価
表4の配合に従って、原料油脂を全て混合し、各加熱調理用油脂組成物を得た。得られた各加熱調理用油脂組成物を用いて、市販のプレフライ済み冷凍ポテトを、180℃で4分間フライ調理し、フライドポテトを得た。得られたフライドポテトの評価を行い、その結果を表4に示した。
【0039】
(参考例1) 風味基準品の評価
製造例8で得られた部分水添油C2のみを用いて、市販のプレフライ済み冷凍ポテトを、180℃で4分間フライ調理し、フライドポテトを得た。得られたフライドポテトの評価を行い、その結果を水素添加臭評価における基準とした(表4)。
【0040】
(比較例1〜7)
表4の配合に従って、原料油脂を全て混合し、各加熱調理用油脂組成物を得た。得られた各加熱調理用油脂組成物を用いて、市販のプレフライ済み冷凍ポテトを、180℃で4分間フライ調理し、フライドポテトを得た。得られたフライドポテトの評価を行い、その結果を表4に示した。
【0041】
【表4】

【0042】
表4に示す結果から明らかなように、本発明によれば、トランス脂肪酸(TFA)含量が少なくても硬化油風味の強い加熱調理用油脂組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱調理用油脂組成物全体中、水素添加していないパーム由来の油脂(A)の含有量が4.5〜77重量%、水素添加前後のヨウ素価の差が5以下になるように水素添加したパーム由来の油脂(B)の含有量が22.5〜95重量%であり、トランス脂肪酸含有量が5%以下である加熱調理用油脂組成物。
【請求項2】
大豆油及びコーン油を1:9〜9:1(重量比)で混合してから水素添加された、ヨウ素価が90〜60の油脂(C)を10重量%以下含有する請求項1に記載の加熱調理用油脂組成物。
【請求項3】
パーム由来油(A)が、ヨウ素価60以下のパーム油及び/又はパーム分別油混合油である請求項1又は2に記載の加熱調理用油脂組成物。
【請求項4】
パーム由来の油脂(B)が、ヨウ素価55以下のパーム分別油である請求項1〜3の何れか1項に記載の加熱調理用油脂組成物。
【請求項5】
加熱調理用油脂組成物全体中、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを0.01〜0.5ppm含有する請求項1〜4の何れか1項に記載の加熱調理用油脂組成物。

【公開番号】特開2012−95537(P2012−95537A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243172(P2010−243172)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(591040144)太陽油脂株式会社 (17)
【Fターム(参考)】