説明

加硫ゴムが有する粘弾性特性を改善させるためのS−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩の使用

【課題】タイヤ製造に用いられる加硫ゴムの粘弾性特性を改善させること。
【解決手段】加硫ゴムが有する粘弾性特性を改善させるためのS−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩の使用。ここで、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸の金属塩における金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオンまたは亜鉛イオンが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴムが有する粘弾性特性を改善させるためのS−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の要請から、自動車の燃費向上(すなわち、低燃費化)が求められている。そして、自動車用タイヤの分野において、粘弾性特性を改善させることにより、自動車の燃費が向上することが知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本ゴム協会編「ゴム技術入門」丸善株式会社、124頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤの分野において、タイヤ製造に用いられる加硫ゴムの粘弾性特性を改善させる方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、このような状況下、鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
1.加硫ゴムが有する粘弾性特性を改善させるためのS−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩の使用;および
2.S−(2−アミノエチル)チオ硫酸の金属塩における金属イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオンまたは亜鉛イオンである前項1に記載される使用;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、タイヤの製造に用いられる加硫ゴムの粘弾性特性を改善させる方法が提供可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において「粘弾性特性を改善させる」としては、例えば、後述のような加硫ゴムの損失係数(tanδ)を改変させること等をあげることができる。
【0009】
本発明に用いるS−(2−アミノエチル)チオ硫酸の金属塩は、下記式
(HN−(CH−SSO・Mn+
(式中、Mn+は金属イオンを表し、nはその価数を表す。)
で示される化合物である。
【0010】
S−(2−アミノエチル)チオ硫酸の金属塩は、例えば、2−ハロエチルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法;フタルイミドカリウム塩と1,2−ジハロエタンとを反応させ、得られた化合物とチオ硫酸ナトリウムとを反応させ、次いで、得られた化合物を加水分解する方法;市販のS−(2−アミノエチル)チオ硫酸と金属水酸化物とを反応させる方法;等の任意の公知の方法により製造することができる。
【0011】
n+で示される金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオンおよび亜鉛イオンが好ましく、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンがより好ましい。nは金属イオンの価数を表し、当該金属において可能な範囲であれば、特に限定されない。例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオンのようなアルカリ金属イオンの場合、nは通常1であり、コバルトイオンの場合、nは通常2または3であり、銅イオンの場合、nは通常1〜3の整数であり、亜鉛イオンの場合、nは通常2である。上記の製法によれば、通常、ナトリウム塩が得られるが、必要に応じてカチオン交換すればよい。
【0012】
S−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩の平均粒径は、好ましくは0.05〜100μm、より好ましくは0.05〜50μm、さらに好ましくは0.05〜30μmの範囲である。かかる平均粒径は、レーザー回析法にて測定することができる。
【0013】
本発明は、該S−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩を加硫ゴムの製造時に配合することにより実施される。
【0014】
加硫ゴムは、通常、ゴム成分、充填剤、酸化亜鉛、硫黄成分および加硫促進剤を含む。
【0015】
ゴム成分としては、天然ゴムのほか、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン・ブタジエン共重合ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム(NBR)、イソプレン・イソブチレン共重合ゴム(IIR)、エチレン・プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)、ハロゲン化ブチルゴム(HR)等の各種の合成ゴムが例示されるが、天然ゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ポリブタジエンゴム等の高不飽和性ゴムが好ましく用いられる。特に好ましくは天然ゴムである。また、天然ゴムとスチレン・ブタジエン共重合ゴムの併用、天然ゴムとポリブタジエンゴムの併用等、数種のゴム成分を組み合わせることも有効である。
【0016】
充填剤としては、ゴム分野で通常使用されているカーボンブラック、シリカ、タルク、クレイ等が例示されるが、カーボンブラックが特に好ましく使用される。カーボンブラックとしては、例えば、日本ゴム協会編「ゴム工業便覧<第四版>」の494頁に記載されるものが挙げられ、HAF(High Abrasion Furnace)、SAF(Super Abrasion Furnace)、ISAF(Intermediate SAF)、FEF(Fast Extrusion Furnace)等のカーボンブラックが好ましい。また、カーボンブラックとシリカの併用等、数種の充填剤を組み合わせることも有効である。かかる充填剤の使用量は特に限定されるものではないが、ゴム成分100重量部あたり10〜100重量部の範囲が好ましい。特に好ましくは30〜70重量部である。
【0017】
硫黄成分としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、及び高分散性硫黄等が挙げられる。粉末硫黄および不溶性硫黄が好ましい。加硫促進剤の例としては、ゴム工業便覧<第四版>(平成6年1月20日社団法人 日本ゴム協会発行)の412〜413ページに記載されているチアゾール系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が挙げられる。
【0018】
一般に、加硫ゴムを製造する場合、その製造は基本的に3つの工程で行われる。すなわち、ゴム成分、充填剤や酸化亜鉛等を比較的高温で配合する第1の工程、硫黄成分や加硫促進剤等を比較的低温で配合する第2の工程、最後に比較的高温で加硫処理を行う第3の工程により加硫ゴムを得る。
【0019】
S−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩を配合する工程は、特に限定されるものではないが、充填剤や酸化亜鉛とともに、第1の工程で配合することが好ましい。S−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩の使用量は特に限定されるものではない。例えば、ゴム成分100重量部あたり0.1〜10重量部の範囲が好ましい。より好ましくは0.5〜3重量部の範囲である。
【0020】
従来より用いられているプロセスオイルやステアリン酸等の脂肪酸類を配合することも可能である。これらを配合する工程は特に限定されるものではないが、第1の工程で配合することが好ましい。
【0021】
従来より用いられている老化防止剤やモルフォリンジスルフィド等の加硫剤を配合することも可能である。これらを配合する工程は特に限定されるものではないが、第2の工程で配合することが好ましい。
【0022】
第1の工程の配合温度は、200℃以下が好ましい。より好ましくは120〜180℃である。第2の工程の配合温度は、60〜120℃が好ましい。第3の工程の加硫処理温度は、120〜170℃が好ましい。
【0023】
また、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩と充填剤とを配合すると、トルクの上昇が見られるが、これを改良する目的で、しゃく解剤やリターダ−を併用してもよく、さらには、一般の各種ゴム薬品や軟化剤等を必要に応じて併用してもよい。
【0024】
かくして得られる加硫ゴムを用いて、通常の方法によって空気入りタイヤが製造される。すなわち、上記加硫処理前の段階のゴム組成物をトレッド用部材に押出し加工し、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形し、生タイヤが成形され、この生タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤが得られる。
【0025】
このようにして得られるタイヤが装着された自動車の燃費は向上し、低燃費化が達成できる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例、試験例及び製造例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
製造例1:S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩
反応容器を窒素置換し、そこに、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸(和光純薬工業製、製品名「S−(2−アミノエチル)チオスルホン酸」)5.0g(33mmol)および水20mlを仕込み、5℃まで冷却した。水2mlに水酸化ナトリウム1.27g(33mmol)を加えた溶液を、5℃まで冷却し、先に調整した溶液に室温で2時間かけて滴下、攪拌した。反応液のpHが9−10であることを確認し、溶液を減圧下、濃縮した。エタノールを用いて再結晶を行い、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩を得た。(収率96%)
H−NMR(270.05MHz,DO)δppm:2.9(2H,t,J=6.6Hz),2.6(2H,t,J=6.6Hz),1.9−2.0(2H,m)
【0028】
実施例1
<第1の工程>
バンバリーミキサー(東洋精機製600mlラボプラストミル)を用いて、天然ゴム(RSS#1)100重量部、HAF(旭カーボン社製、商品名「旭#70」)45重量部、ステアリン酸3重量部、酸化亜鉛5重量部および上記製造例1で得たS−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩1重量部を混練配合し、ゴム組成物を得た。該工程は、各種薬品及び充填剤投入後5分間、50rpmのミキサーの回転数で混練することにより実施し、その時のゴム温度は160〜175℃であった。
<第2の工程>
オープンロール機で60〜80℃の温度にて、第1の工程により得られたゴム組成物と、加硫促進剤(N−シクロへキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド)1重量部、硫黄2重量部および老化防止剤(N−フェニル−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン:商品名「アンチゲン(登録商標)6C」住友化学株式会社製)1重量部とを混練配合し、ゴム組成物を得た。
<第3の工程>
第2の工程で得たゴム組成物を145℃で加硫処理を行い、加硫ゴムを得た。
【0029】
参考例1
実施例1において、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩を用いない以外は、実施例1と同様にして加硫ゴムを得た。
【0030】
試験例1
以下のとおり、引張特性および粘弾性特性を測定した。
(1)引張特性
JIS−K6251に準拠し、測定を行った。
引張応力(M200)は、ダンベル3号形を用いて測定した。
レジリエンスは、リュプケタイプの試験機を用いて測定した。
(2)粘弾性特性
株式会社上島製作所製の粘弾性アナライザを用いて測定した。
条件:温度−5℃〜80℃(昇温速度:2℃/分)
初期歪10%、動的歪2.5%、周波数10Hz
【0031】
参考例1で得た加硫ゴムを対照とした場合、実施例1で得た加硫ゴムは、レジリエンスが6%向上し、引張応力(M200)が12%向上し、粘弾性特性(tanδ)が9%低下し、いずれの試験においても各種物性の改善が確認された。
【0032】
製造例2:S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のカリウム塩
反応容器を窒素置換し、そこに、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸(和光純薬工業製、製品名「S−(2−アミノエチル)チオスルホン酸」)6.0g(38mmol)および水20mlを仕込み、5℃まで冷却した。水2mlに水酸化カリウム2.14g(38mmol)を加えた溶液を、5℃まで冷却し、先に調整した溶液に室温で2時間かけて滴下、攪拌した。反応液のpHが9−10であることを確認し、溶液を減圧下、濃縮した。エタノールを用いて再結晶を行い、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のカリウム塩を得た。(収率99%)
H−NMR(270.05MHz,DO)δppm:3.1(2H,t,J=6.3Hz),2.9(2H,t,J=6.3Hz)
【0033】
実施例2
実施例1の第1の工程において、上記製造例1で得たS−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩に代えて、上記製造例2で得たS−(2−アミノエチル)チオ硫酸のカリウム塩を用いる以外は、実施例1と同様にして加硫ゴムを得た。
【0034】
試験例2
試験例1と同様に引張特性および粘弾性特性を測定したところ、参考例1で得た加硫ゴムを対照とした場合、実施例2で得た加硫ゴムは、レジリエンスが3%向上し、引張応力(M200)が9%向上し、粘弾性特性(tanδ)が5%低下し、いずれの試験においても各種物性の改善が確認された。
【0035】
製造例3:S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のリチウム塩
反応容器を窒素置換し、そこに、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸(和光純薬工業製、製品名「S−(2−アミノエチル)チオスルホン酸」)6.0g(38mmol)および水20mlを仕込み、5℃まで冷却した。水2mlに水酸化リチウム0.91g(38mmol)を加えた溶液を、5℃まで冷却し、先に調整した溶液に室温で2時間かけて滴下、攪拌した。反応液のpHが9−10であることを確認し、溶液を減圧下、濃縮した。エタノールを用いて再結晶を行い、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のリチウム塩を得た。(収率96%)
H−NMR(270.05MHz,DO)δppm:3.1(2H,t,J=6.6Hz),2.8(2H,t,J=6.6Hz)
【0036】
実施例3
実施例1の第1の工程において、上記製造例1で得たS−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩に代えて、上記製造例3で得たS−(2−アミノエチル)チオ硫酸のリチウム塩を用いる以外は、実施例1と同様にして加硫ゴムを得た。
【0037】
試験例3
試験例1と同様に引張特性および粘弾性特性を測定したところ、参考例1で得た加硫ゴムを対照とした場合、実施例3で得た加硫ゴムは、レジリエンスが5%向上し、引張応力(M200)が4%向上し、粘弾性特性(tanδ)が7%低下し、いずれの試験においても各種物性の改善が確認された。
【0038】
実施例4
実施例1の第1の工程において、上記製造例1で得たS−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩に代えて、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸(和光純薬工業製、製品名「S−(2−アミノエチル)チオスルホン酸」)を用いる以外は、実施例1と同様にして加硫ゴムを得た。
【0039】
試験例4
試験例1と同様に引張特性および粘弾性特性を測定したところ、参考例1で得た加硫ゴムを対照とした場合、実施例4で得た加硫ゴムは、レジリエンスが9%向上し、引張応力(M200)が12%向上し、粘弾性特性(tanδ)が19%低下し、いずれの試験においても各種物性の改善が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、タイヤの製造に用いられる加硫ゴムの粘弾性特性を改善させる方法が提供可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴムが有する粘弾性特性を改善させるためのS−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩の使用。
【請求項2】
S−(2−アミノエチル)チオ硫酸の金属塩における金属イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオンまたは亜鉛イオンである請求項1に記載される使用。

【公開番号】特開2011−46857(P2011−46857A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197862(P2009−197862)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】